BRICS通貨が立ち上がる(中編)
Written by admin on 2023年7月17日 – 09:00
欠かさず感想をくださる医師の方から、「一般の人には、まだないも のを想像することは難しいでしょうね」というメールをいただきまし た。確かにそうです。見えないものの想像は、難しい。コトバで、人 物の概念や風景、ストーリーを作る小説家の領域でしょうか。村上春 樹を読んでいてそう思います。 自然科学は、過去に起こったことの再現ですが、人間の判断が関与す る経済は、再現ではない。日々新しくなって、未来に展開していきま す。経済の科学的法則は、まだ人間にはわかってない。複雑系の地震 や気象の未来を予想できないこと同じです。確率しかない。 【金ペッグのBRICS通貨】 前回の有料版正刊で「金ペッグのBRICS通貨」が構想されていること (8月22日-24日)、実現すると何がどう変化するのかを書きました。 いずれも、「まだない近い未来」のものです。 BRICS通貨の登場は、まだ世界金融が織り込むイベントにはなってい ません。どうせロシアと中国だと軽視している投資家が多い。 BRICS通貨は、世界銀行のIMFが各国の中央銀行に貸し付けているSDR (特別引き出し権)と同じ国際通貨として、構想されています。ルー ブル、人民元、レアルなどは残り、SDRに似たBRICS通貨との変換レー トを変動させる。世界の2/3が参加予定という。 世界では、ドルに痛めつけられてきたという戦後の記憶は普通の、で す。1980年代から、経常収支が黒字で円高になった日本は、ドルへの 被害者意識はもたない。 その代わり、40年間の経常収支の黒字で、米国経済とドルの価値を信 用し、1100兆円規模のドル債を買って、ドルの下落で損をしてきまし た。 BRICK通貨は、ユーロのように、加盟国の通貨をなくす(ECBのユーロ に統一する)ものではない。中央銀行と通貨は、残ります。 ビットコインを、BRICSの協約でお互いが貿易決済に使う国際通貨に することと同じような、「金ペッグのBRICSコイン」と考えると理解 できるでしょう。 ビットコインは発行者に経済的な根拠がない通貨です。人々が買うと いう一点で価値がついています。価値の根拠を金ペッグにする予定の BRICS通貨が、ビットコインよりよほどマシです。 1ビットコインの価格は現在421万円と高い。最高価格は2021年11月の 733万円でした。119万円から約7倍への高騰が始まったのは、コロナ 後のドル増刷(3兆ドル:420兆円)の2020年10月からです。 コメンテーターのほとんどは、「BRICS通貨はドルに対して大きな力 はもたない、ドルには影響がない」としていますが、それは「見当」 違いに見えます IMFのSDRは現在、3000億ドル分(42兆円)のSDRが発行されています。 民間銀行マンであっても見た人はいないでしょう。各国の中央銀行だ けが使っているからです。 SDRはドル、ユーロ、人民元、円、英国ポンドの通貨バスケットです。 貿易と所得収支の赤字(まとめて経常収支の赤字)から貿易や債務返 済の外貨準備が足りなくなった通貨危機の国にIMFが貸し付けている ものです。G7の中央銀行が中心になって出資されたIMFの信用で作ら れた通貨です。 1SDRは169円ですから、その分のドルやユーロと交換できます。日銀 も、もっています。 前回、無料版はお休みをいただきました。本稿は、有料版・無料版共 通の増刊です。正刊の有料版(後編)は、水曜日に送ります。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.1356号:増刊:BRICS通貨が立ち上がる(中編)> 2023年7月16日:有料版・無料版共通 【目次】 ■1.ペトロダラー:産油国が石油をドルで売る密約 (ここまで) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.ペトロダラー:産油国が石油をドルで売る密約 ペトロダラーが、基軸通貨(=国際通貨)の役割を果たしていること すらおぼろげなのが、われわれ一般です。基軸通貨とは何か、どんな 機能を果たす通貨かと聞かれて、正確に答えることのできる人は、エ コノミストにも少ない。その前に、マネー(通貨)そのものにも、謎 が多い。 基軸通貨とは、海外との貿易のとき、代金の決済に使われる通貨です。 通貨は、法域内(国家や連邦内)で有効なものです。まだ世界通貨は ない。ドルが、その代替として使われています(ユーロ圏19カ国内で はユーロ)。 ポンドとドル以前の19世紀の国際通貨は、金でした(重商主義とい う)。海外貿易の代金は金(金の代替が銀)で払っていたのです。ポ ンドとドルは金為替通貨にすることで、金の代替になったのです (1971年まで)。 金為替通貨は、中央銀行に紙幣を持ち込むと、一定量の金と交換でき る紙幣です。金証券と言ってもいい。金とドルの交換がされた1971年 以降(ニクソンショックのあと)、世界銀行は、信用通貨の米ドルを 基軸通貨にしました。 なお、金の裏付けの要らない世界通貨を作ることは、1913年に、米国 FRBを設立した銀行家であるロスチャイルド家、ロックフェラー家、 モルガン商会の野望でした。 【ペトロダラーの基盤は原油】 ◎産油国(OPEC23カ国)が、原油をドルで売ることが、世界の銀行が、 信用通貨のドルを基軸通貨として認めている理由です。 基軸通貨は、世界の国際銀行間の合意による、慣習的なものです。 ドルは世界の銀行での、外貨交換のとき、「円でのドル買い→ドルで の人民元買い→人民元」という媒介通貨になっています。 外為銀行では、ドルの所有は多くても、人民元の手持ちは少ないから です。 ドル基軸通貨は法や条約に基づくものではない。金・ドル交換停止の あと、1971年からサウジと米国の密約で、「原油はドルで売る」とい うペトロダラー制が敷かれて52年経っています。 円や元では、世界の国と貿易ができない。ドルより信用しない銀行と 会社が多いからです。このため中国や日本は、輸出してドルを貯め、 外貨準備にして輸入代金はドルで支払う。これがドル基軸通貨の仕組 みです。 (注)輸出入では、お互いの会社が納得すれば、円で貿易もできます。 事実、輸出額99.2兆円の、約40%は円建てです。60%がドル建てです。 【経常収支の黒字】 日本の2022年の輸入は120.9兆円でした。資源価格の高騰のため、 2022年の貿易は20.7兆円の赤字でした。しかし、約1100兆円を投資し てきたドル債券の所得収支(金利収入)で30兆円くらいの黒字がある ので、両方を加えた経常収支では、17兆円の黒字でした。日本にはド ル保有が2022年に17兆円増えた。ドルを日本がもつことは、発行国の 米国に貸し付けていることです。 経常収支の黒字の17兆円(2022年)は、日本からのドル買いになるの です。これが国際収支の仕組みです。経常収支の黒字=金融収支での ドル買い(対外資産の増加)になります。赤字は逆です。 【米国は、経常収支の赤字を40年続けている】 米国は、経常収支が黒字の中国、ロシア、ノルウェー、日本とは逆に 1兆ドルくらいの経常収支の赤字です。ほぼ毎年、約5000億ドル~1兆 ドル、米国の対外債務は増えています。 経常収支の赤字の、約40年の累積である対外債務は、約30兆ドル (4200兆円)と巨大です。米国は、海外に4200兆円(GDPの1.3年分) を借りて、経済を回してきました。 【しかし、もっとも信用の高い基軸通貨はドルという矛盾】 G7の銀行システムでは、各国通貨の信用は低いとされ、多くの銀行が 信用するドルが、国際通貨の代わりとして使われてきました(戦後の 1944-2023:79年間)。対外負債(借金)がもっとも多い米国のドル が、世界でもっとも信用される通貨という逆説のなかに現代の世界経 済があります。 ドル基軸通貨は、米欧の国際銀行が、文書契約がない暗黙の協定で決 めたものです。 赤字国が発行するドルがもっとも信用される通貨だというは、もとも と変なことですが、世界は、1971年から52年、疑問を抱かず是認して きたのです。 「軍事力が1位の、米国のドルの価値幻想」といっていい。 (注)基軸通貨は、価値が下がらないものでなければならないのです が、対外負債が大きなドルは、1971年の1ドル360円から138円(23. 07.15)ですから、円に対して52年で約1/3に下がっています。 【産油国が参加するBRICS通貨で、ペトロダラー制は終わる】 これがペトロダラーですが、このペトロダラー制は、BRICS通貨に産 油国が加盟することで、終わります。 1971年の金・ドル交換停止のあと、産油国のリーダーのサウジが「原 油はドルで売る、代わりに米国は王家の体制の維持を米軍が守る」と するキッシンジャー・ヤマニ密約で、信用通貨になったドルが、基軸 通貨であることを続けたのです。 世界は、産油国から原油を買わねばならない。その決済通貨はドルで ある。従って、世界はドル準備(外貨準備=ドル預金またはドル国 債)をもたねばならない。これが世界に、赤字通貨のドル買いとドル 貯蓄(外貨準備)を促してきた、ペトロダラー制です。 【後記】 有料版・無料版共通の増刊(中編)は、ここまでとします。後編は、 以下の項目で、水曜日に有料版正刊として送ります。2023年後半から は戦後80年の、ドル基軸体制の転換期です。一挙にではなく、数年か ら5年をかけてゆっくりと進行するでしょう。 世界の銀行には、ドルを基軸通貨として扱ってきた80年の習慣がある からです。基軸通貨は経済のなかの制度です。パラダイムと言っても いい。制度は、人間の意識にしばらくは残存するからです。意識は、 変化を受け入れる時間を要します。英国ポンド基軸体制がドル基軸に 代わっていくときも、5年から10年はかかっています。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【プレミアム読者アンケート&感想の、項目のメド】 1.内容は、興味がもてますか? 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