結語:日本政府の財政破産とその後の経済(3)
Written by admin on 2010年12月22日 – 09:00
おはようございます。12月21日に政府は2011年度の一般会計予算案を、 発表しました(日経新聞)。以下の内容です。 国家の税収(予算41兆円)は、51兆円が不足しています。不足分は国債 増発(44兆円)と埋蔵金の利用(7兆円)で充当する予定。(注)括弧 内は昨年度です。 【一般会計歳入予算案】 【同 歳出予算案】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 税収予算 41兆円(37兆円) 政策費 71兆円(71兆円) 赤字国債 44兆円(44兆円) 国債費 21兆円(21兆円) 埋蔵金利用 7兆円(11兆円) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 合計 92兆円(92兆円) 合計 92兆円(92兆円) (注)国債費は、長短の国債を60年で償還すると仮定し、財投債と国債 の残高(710兆円:10年6月)の1.67%を当年度償還費(約11兆円)とし 、それに利払い費(約10兆円)を加えたもの。実際の国債・財投債の借 り換え(約120兆円)と、利払い(約10兆円)は、国債整理基金(特別 会計)で行う二重構造になっています。なお、この特別会計との二重構 造は、年金、医療費も同じです。 財務省は11年度の税収予算を、昨年(37兆円)より4兆円多くしていま す。2011年決算では、企業利益の若干の回復があるので、税収予定を11 %増やしています。 一般会計での赤字国債の新規発行予算は、44兆円です。昨年度は一般会 計には含まない補正予算分の国債が9兆円で、合計で53兆円の国債発行 でした。GDPの9兆円(1.9%)は、この補正予算で底上げされたもので した。 埋蔵金から、昨年は11兆円(正確には10兆6002億円)を、国債購入に充 てていました。11年度は7兆円を充てる予定です。 内訳は、鉄道建設・運輸施設整備と支援機構から1.2兆円、財政投融資 から1兆円、外為特別会計(外貨準備の管理機構)から3兆円等です(日 経新聞:10.12.22)。 過年度の埋蔵金の利用は、終わった09年度で5兆円、10年度で11兆円( 上記)でした。11年度では、これに7兆円が加わります。3年間合計で、 23兆円です。いずれも、特別会計の次期繰越金(剰余金)です。一般会 計で支出に使えば、一回限りで無くなります。 残る「特別会計の埋蔵金の利用」は、あとどれくらい可能か? これが、政府の財政破産の時期と、おおいに関係があります。 一般会計(収入・支出規模が88.5兆円:09年度)と、特別会計(同 370 .9兆円)については、財務省が『特別会計のはなし(09年度)』で、国 家の収入と支出の全体を明らかにしています。(注)約80兆円の一般会 計の規模がある地方自治体は含みません。 http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/tokkai2106/tokkai2106_00.pdf 全体で193ページあり、複雑で金額は巨大です。本稿では可能な限り単 純化(明晰化)を図って、最初に、その内容を解き明かして行きます。 これを検討しなければ、国家財政の全体が分からないからです。 なお各データは最新で、2009年度に集計されたものです。 本稿で分析する理由は、国家財政を運用する政治と、官僚の財政論の観 点からは、国家の会計の全体像を検討しなければならないからです。 今後の、国家財政論の、定量的な基礎を提供するものでもあります。特 別会計の剰余金や公的年金、医療費、社会福祉の全体が含まれます。 * 本稿の後半部では、 ・日銀の国債買い入れの、国民経済にとっての有効性と、 ・40年も遅れた、重商主義国家からの離脱の必要を説きます。 猶予期間は、あと2年(最長でも3年)です。 その間に、政府が、対外資産と対外負債をバランスさせる方針と、実際 の方向へ転じていないと、 ・日本はドル安($1=60円)で対外資産の30%を失い、 ・貧乏国と財政破産の国に、堕ちてしまうでしょう。 今、国際金融(国を超えたファイナンス)の変化が、過去の数年を1年 に凝縮し、時間短縮され、ドッグ・イヤーくらいに激しいので、日本に 残された猶予期間も短い。 デリバティブと、巨額な資金を投機するレバレッジの発達のためです。 レバレッジ投機は、金額を巨大化することによって、時間を短縮します 。10倍のレバレッジなら、時間は10分の1に短くなります。 10億円の投機によって12ヶ月で得られる損得は、10倍の100億円では、1 .2ヶ月で実現するからです。 ●ドル高は、米国の住宅と商業用不動産価格が、上昇に転じないとあり 得ません。国債より多いのが30年の返済期間の住宅ローン(1000兆円) であり、10年の返済期間の商業用不動産ローン(推計300兆円)だから です。 住宅価格、不動産価格が下がる間は、損を避けるためのドル債売りの勢 いが勝つ。新興国のドル買いは、それ以上の金額の米系投資銀行からの ドル・キャリー・トレードに対抗するものに、過ぎません。 (注)ドル・キャリー・トレード: ゼロ金利のドルを借り(短期資金)、相手国通貨に変えて、金利の高い 新興国の株や証券を買い、利ザヤを抜くこと。これを受けた国の通貨は 上がる。引き揚げるとき、株価が暴落する。2006年までは、ゼロ金利の 円が、キャリー・トレードされていました。 今は、FRBのゼロ金利資金を使う米ドルのキャリー・トレードです。い ずれも、その担い手は、米英系投資銀行と、$2兆の元本をレバレッジ で増やして投機するヘッジ・ファンドです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <516号:結語:日本政府の財政破産とその後の経済(3)> 2010年12月22日号 【目次】 1.国家の貸借対象表から 2.特別会計の積立金総額の内容 3.年金基金の利用 4.「日本は世界最大の債権国である。債権国の政府財政が破産する わけがない」ということの検討 5.米国の対外純債務は、相殺すればほぼ全部が日本の対外純資産 6.数ヶ月前の、論考の趣旨の再掲 7.先進国の国債にも、信用リスクが付加された2010年 8.日銀が、毎年15兆円の国債を増加買いするとどうなるか? 【後記:40年遅れてきた重商主義国家の迷妄から醒めよ】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.国家の貸借対象表から 政府は、国家の貸借対照表で、官僚が管理する資産と国民に借りた負債 の全体を示しています。統計の最新の年度は、2008年です。 一般会計及び特別会計として管理されている政府の資産・負債の、重複 分を除き、純計したものです。日銀は政府機関とされず、特別会計から は除かれています。 全体集計は、2年の遅れが発生しています。以下のデータは特に断らな い限り、『特別会計のはなし』から抽出しています。 まず、これを単純化して検討します(09年3月期)。 【国家が管理運用する資産】 【国民への負債】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 現金預金 37.5兆円 政府短期証券 65.5兆円 有価証券 91.2兆円 国債 651.5兆円 未収金 15.3兆円 借入金 23.1兆円 運用預託金 96.6兆円 預託金預かり 58.3兆円 貸付金 217.2兆円 公的年金預かり 144.8兆円 出資金 65.6兆円 公務員退職金引当金 14.9兆円 有形固定資産 178.2兆円 その他負債 23.1兆円 無形固定資産 0.3兆円 ----------------------------- その他資産 4.0兆円 負債合計 981.2兆円 貸倒引当金 -1.9兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~管理 資産合計 703.9兆円 債務超過 -277.3兆円 ●全体で言えば、国家が、国民(世帯・民間金融機関・企業)から借り ている負債は981.2兆円です。負債に対応する資産は703.9兆円です。資 産はすでに277.3兆円足りません。 企業なら277.3兆円の債務超過で信用を失い倒産していますが。国家は 「将来の増税と社会福祉費の切り下げ、日銀による国債買い」を促すこ とができるので、債務超過でも倒産していないとされています。 つまり「将来の増税と、公務員報酬の削減を含む緊縮財政」が担保され ています。これができないといずれ国家財政は破産します。政府と国家 は、本稿では同義として使います。 政府(国家)が管理する資産内容は以下です。 ・現金預金37.5兆円・・・日銀当座と金融機関への預金 ・有価証券91.2兆円・・・政府が保有する株、地方債、独立行政法 人、金融債、社債等の証券 ・未収金15.3兆円・・・・1年以内に政府収入になるもの ・運用預託金96.6兆円・・主は、公的年金基金の運用の預け金 ・貸付金217.2兆円・・・地方自治体や政府系金融機関、年金基金、 住宅金融公庫等への貸付金 ・出資金65.6兆円・・・・政府系金融機関(郵貯簡保等)への出 資金:上記貸付金との合計で282.8兆 円 ・有形固定資産178.2兆円・・国有の建物・土地・林野等の不動産 以上の政府が管理している国家管理資産(合計703.9兆円)の中に、特 別会計の埋蔵金(剰余金)が含まれています。財務省は、利用可能な埋 蔵金を、2007年度で42.6兆円としています。 【42.6兆円の埋蔵金の主な内訳:2007年度:政府推計】 ・国債整理基金特別会計の次期繰越金 28.3兆円 ・外為会計の次期繰越金 3.9兆円 ・年金特別会計 2.1兆円 ・道路整備特別会計 0.8兆円 ・その他 7.5兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 埋蔵金合計 42.6兆円 埋蔵金のうち、2009年度に5兆円、10年度には10兆円が、政府支出に使 われています。11年度は7兆円を使う予定。合計で22兆円です。 ●利用可能な埋蔵金の残高は、今[42.6兆円-22兆円=20.6兆円]と見 積もることができます。毎年7兆円使うと仮定して3年分です。 ●ただし、上記の外為会計の外貨準備($1.1兆:10年11月末)は、20 %の円高・ドル安で、時価が2007年より約20%(18兆円)減っているは ずです。政府は外為会計は時価評価していません。 米ドル債と、独立行政法人への政府出資証券を時価評価すれば、政府の 利用可能な埋蔵金も、2010年度でほぼ枯渇に向かったと判断できます。 ■2.特別会計の積立金総額の内容 政府が管理する総資産は、上表のように純額で703.9兆円(2007年度) でした。資産を、積立金が大きな年金、労働保険、財投、外為、国債整 理基金等の特別会計がもつ「積立金の総額」という観点で見ると、以下 になります。 各々の特別会計の資産から、資産に対応する負債を引いたものです。 【特別会計の積立金:合計183.3兆円:09年度 政府計算】 ・年金基金(厚生年金・国民年金)・・・・・128.1兆円 ・労働保険(失業保険)・・・・・・・・・・ 14.4兆円 ・地震再保険・・・・・・・・・・・・・・ 1.1兆円 ・財政投融資特別会計の積立金・・・・・・ 6.3兆円 ・外為特別会計の積立金・・・・・・・・・ 20.3兆円 ・国債整理基金の積立金・・・・・・・・・ 11.9兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 特別会計の積立金総額 183.3兆円 もっとも大きな年金基金(128.1兆円:特別会計の剰余金の70%)の政 府預かりは、国民による年金掛け金です。労働保険(14.4兆円)と地震 の再保険(1.1兆円)も同じです。 政府が管理していますが資産の帰属は国民です。年金基金は、郵貯と同 じように、国家所有の金融資産ということはできない。国民の金融資産 です。 財投の特別会計の積立金(6.3兆円)はわずかですが、国債の金利上昇 に備えたものです。国債整理基金の積立金(11.9兆円)も、国債処理の 勘定における次期繰越金です。 いずれもゼロに減らすことは無理です。外為特別会計は前記のように、 ドル安で20兆円くらいの損失を蒙っていますから、09年度の積立金20.3 兆円は、今は、ほぼ消えているでしょう。 ●前項1.の埋蔵金(42.6兆円:07年度 政府推計)と、本項2.の主な特 別会計の積立金(総計183.3兆円:09年度 政府集計)の両方から検討し ても、 ・将来の国債買いに引き当てるか、 ・政府予算として使うことができるものは、 2011年度で、ほぼ残っていないと見ることができます。 以上のように概括した政府財政の内容を、財務省が『特別会計のはなし 』として公表する目的は、以下です。 (1)2008年度から、政府支出の補助として使ってきた特別会計の利用 可能な埋蔵金も、ほぼ枯渇しつつある。 (2)年金支払いや医療費給付の安定財源になる消費税の増税が、最低 で+10%(25兆円)必要である。 消費税を、一挙に5%(12.5兆円)や10%(25兆円)増税すれば、国民 経済(GDP)はどうなるか? ●大きな増税の後には、激しい消費不況と、企業の設備投資の減少が襲 い、国民所得(世帯所得+企業所得)の減収に比例して税収も減少しま す。2010年の、車や家電の購入を増やしたエコポイントの逆効果になっ て、物価が5%、10%一挙に上がるからです。 加えて増税は、国民が信頼し、支持の厚い政権でないと、実行できませ ん。 (注)消費税(5%で12.5兆円)では、毎年1%(税収で2.5兆円)ずつ 上げる「漸進的増税」しか方法はない。この方法も消費不況を招くこと は、否めません。 世帯収入(約250兆円)と法人所得(37兆円:09年度)が減っている時 期の増税策が、消費縮小を生むことは、自明の理です。 【結論】 (1)2011年度で、特別会計の埋蔵金のうち、政府が支出に利用可能な 分は、ほぼ無くなっている。 (2)2012年度以降に利用可能な分は、全部をかき集めても、10兆円も ないだろう。後は、消費税の増税と及び日銀による国債の増加引き受け しかない。 政府財政の破綻はないとする論者は、2つの根拠からです。 (1)特別会計で最大の資金をもつ年金基金(上記の積立金128.1兆円: 09年度)を使えばよい。 (2)日銀が、国債を増加買いすればいい。 以降では、まず年金基金の利用を検討し、次は、日銀による国債の増加 買いの検討です。 ■3.年金基金の利用 年金基金は、「年金積立金運用独立行政法人(GPIF)」に預託され、各 種の証券として運用されています。内容は以下です。(2010年9月期) http://www.gpif.go.jp/kanri/pdf/kanri03_h22_p02.pdf 国内債券(国債・財投債) 82兆円(財投債も、国債と同じ) 国内株式 13兆円(09年の株価を上げた資金) 外国債券(主は米国債) 10兆円 外国株式(主は米国株) 11兆円 短期貸し付け金 1.6兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 運用額合計 117.6兆円 財投債(財務省の借り入れ金)は国債と同じものです。年金基金の運用 (117.6兆円)のうち82兆円(70%)は、国債です。 (注)国債は、財務省証券とも言います。 ●明らかなことは、年金基金が国債の増加買いのために、国内株(13兆 円)を売れば、日本の株式市場は暴落することです。 ●世界金融危機の後(2009年)、日本の株価の上昇(日経平均で8100円 から10200円:1年で26%上昇)を促たのは、年金基金の、月1兆円規模 のPKO(株価維持作戦)でした。 年金基金がPKOで買った国内株を売り、国債を買う姿勢を明らかにすれ ば、「過去の3分の1の薄商いしかない株式市場」は、暴落の恐れがあり ます。売ることはできないでしょう。 株価が20%下がると、時価総額(現在300兆円付近)は60兆も減って、 言い換えれば企業の利用可能な資本が60兆円分も減って、設備投資の一 層の減少になり不況が深刻化するからです。 ▼金融市場では、1日の売買のわずかな増加、減少で、国債、株、社債 を含む証券価格が決まる 日本の株式市場は、今、1日に1兆5000億円付近(10年12月:総時価の20 0分の1)しか売買がない、高度なレバレッジ市場です。 ●ある日、例えば1000億円(≒1.5億株)の買い超の時は上がり、別の 日の、1.5億株の売り超の時は、全体の時価が下がります。売買される 、1日に1株の価格で、株主に保有され売りに出てはいない 残り199株 の時価が決まる乗数市場です。 乗数市場であることは、世界の国債、証券、株を含む金融市場と不動産 市場の、基本的な性格です。不動産価格も、1日に売買されるわずかな 量の価格で、世帯や企業で保有されている不動産価格が決まります。 1日売買高の10%増や10%減が、全体の価格を決めます。上期の年金基 金による1年に11兆円の買いが、わが国株式市場の価格を26%上げたと 言えるのはこのためです。 株や不動産の、全体から見ればごくわずかな1日の売買高の増加、ある いは減少で、全体の価格が決まります。世界の金融市場では、買いの増 加、売りの増加が、極めて重要です。 【年金基金と外貨準備がもつ米国債】 あとは、米国債(10兆円)と米国株(11兆円)です。年金基金と別の政 府外貨準備($1.1兆:時価91兆円)も米国債と米国住宅証券です。 米国住宅証券(MBSやCDO)は、AAA格でも価格が60%水準に下落しまし たが、世界で、時価評価はされていません。 米国住宅証券(総額で1000兆円)のほぼ50%は、米政府機関になったフ ァニーメイやフレディマック(GSE)が、保証(500兆円)しているとさ れるため、米国債と同等と見なされてはいます。 住宅証券は、1年に、(30年ローンとして)額面30分の1の金額と金利の 償還があります。(注)米国の政府保証は曖昧です。前FRB議長グリー ンスパンは、講演で、米政府やFRBは住宅証券を保証しないと言ってい ます。 ●年金基金の外債(21兆円)の分を含むと、政府部門は、今、合計で11 2兆円の外債(米国債と住宅証券)を保有しています。 これを売って日本国債買いに充てることはできます。(注)ただし、直 接に売ればドル下落が起こり、売られ得る資金より大きな「評価損」が 発生します。 財務省は最近、民主党からの指摘に対し「日本政府がもつ外債を売るこ とは、現実的ではない(公式見解)」と答えています。 日本政府が米国債を売る姿勢に転じれば、米国の長期金利が上がって国 債価格が下がり、米ドルは暴落の怖れがあるからです。 ●世界の外為市場の関係者は「外債をもっとも多額にもつ日本(官民で 554兆円:09年12月)の、日本政府が保有する米国債を売らないこと」 を前提にしているからです。 (注)官民の外債保有は、2009年で前年比35.6兆円も増えています。他 方、海外からの日本の証券買い(主は株式)は、5兆円減っています。 日本の株価が、米国S&P500(10年の年初からは10.8%の上昇)のよう には上がってない理由がこれです。日本の株価は、円では、年初から2. 2%下げています(日経225種)。 09年は、評価替えの為替利益(17.3兆円)があったとは言え、2009年に は日本から、40.6兆円もが米国に資金供与(外債買い)されたことを意 味します。凄い金額のドル債買いです・。 ●その前の、金融危機の後の、08年の外貨資産は、103兆円(約20%) の評価損を蒙っています。このため、08年9月以降の金融危機以降の2年 で見れば85.7兆円の為替差損が生じています。 http://www.mof.go.jp/houkoku/21_g.htm ●日本経済の景気が浮揚しない最大の原因は、せっかくの資金(09年は 40.6兆円)が、表面金利が2%高い米国債・社債・株に向かい、流出し ているからです。資金が投入されないと経済は成長しません。 米国債を直接には売らず、「間接に売る」方法はあります。 【ドル債担保の円債の発行】 ●日本政府がもつ米国債(簿価総計112兆円:時価推計は90兆円)を担 保に、「90兆円基金(『国家ファンド』)」を作り、ファンドが発行す る円債(新たな国債)を経常黒字が大きい新興国に売ることです。 ドル国債を担保にした円債(デリバティブになる)です。この方法が、 手段として残っています。 これは新興国に、日本政府がドル債で保証する円債を売ることと同じで す。ただし、中国とロシアを含む新興国がこれを買うかどうか、不明で す。 日本国債(長期債の利回りで今1.2%付近)と同じと見なされ、金利を 、米国10年債並みの3.52%(10年12月)に高くしないと売れない可能性 が高い。1.2%の金利では、下落リスクをカバーできないからです。 【国有不動産の売却】 国有不動産(官庁の土地建物、国立学校、国立病院、林野、公園、橋、 高速道路:簿価178兆円)を売る方法もありますが、「利益が出る」と して買う人や企業があるでしょうか? 将来利益を元に計算する価格を、収益還元法価格と言いますが、2009年 にオリックス(宮内義彦会長・代表)に売られようとして、低い価格が 政治問題もなった『簡保の宿』のように、簿価より数十分の1の低い価 格になるでしょう。 簡保の宿は、70施設で落札価格が109億円でした。 全国の1施設平均価格は1.6億円にしかならない。 国有資産のほとんどは、利益が出るどころか運営の赤字を抱える資産だ からです。土日が無料化されている高速道を買う企業も、ない。 ■4.「日本は世界最大の債権国である。債権国の政府財政が破産するわ けがない」ということの検討 エコミストの中には「日本は世界最大の債権国である。債権国の政府財 政が、破産するわけがない」と言う人が多くいます。これを、定量的に 検討します。 ▼日本の対外資産と対外負債(2009年12月) 最新データは、2009年12月末の、財務省による「本邦対外資産・負債」 です。 (1)対外資産: 日本政府、金融機関、民間企業、個人投資家がもつ外債です。ほんどは ドル建ての資産です。 (2)対外負債: 米英系の投資銀行やファンドが、日本に円建てでもつ資産です。括弧内 は、前年比での増減です。 【対外資産】 【対外負債】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 直接投資 68兆円(+ 6兆円) 直接投資 18兆円(±0) 証券投資261兆円(+46兆円) 証券投資 142兆円(+2兆円) 外貨準備 97兆円(+4兆円) その他投資128兆円(-7兆円) その他 128兆円(-21兆円) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 対外資産 555兆円(+36兆円) 対外負債 289兆円(- 5兆円) 対外純資産 266兆円(+41兆円) http://www.mof.go.jp/houkoku/21_g.htm 【対外純資産の性格:わずかな為替変動で大きく変化する】 日本(官民)は対外資産で555兆円をもち、対外負債は289兆円ですから 、266兆円の対外純資産(超過貸付金)をもちます。 これを売れば日本国債を買えるので、当面は大丈夫とするのが、上記の エコノミスト各氏です。この見解では、以下を検討する必要があります 。 ●対外資産はほぼドル建てです。2008年のような20%のドル安があると 、せっかくの対外投資も、円換算では20%(約100兆円)も目減りしま す。これは、対外純資産が100兆円減るのと同じです。 他方、海外の投資銀行やファンドがもつ対日資産は、円建てです。最も 多いのは日本株(約100兆円)で、後は国債(約50兆円)、そして社債 や他の証券です。 この対外負債は、円建てなので、ドル安・円高になっても、同じ円価格 を維持します。 (注)米国から見れば、例えば20%のドル安・円高があると、ドルでは 20%、対日資産が増えたことになります。2010年の日本の株価は、円で は年初から2.2%下げていますが、下がったドルで見れば、8.3%上げて います。 ●わが国の対外資産を、1年に20兆円の、円での回収として活かすには 、ドル安・円高にならないように、売らねばならない。 5%のドル安・円高($1=79円)だけで、555兆円×5%=28兆円も対外 資産が目減りするからです。20兆円のドル債売りでの回収金額を8兆円 も上回ります。 大きなドル安・円高を起こさないような、ドル債の売りは、至難の業で す。 【その理由】 「日本の官民が、日本国債を買うために、ドル債売りに転じた」と世界 の金融市場が認識すれば、中国を初めとする世界で「ドル債の投げ売り (ドル暴落)」と、ドルの逆に高騰するはずの「円買い」が起こるから です。 【$1=60円で、日本の対外純資産が消える】 仮に、世界がドル債を売って円債を買い、いずれの日か30%のドル下落 ($1=60円)になると、わが国の対外資産は388兆円に減ります。 222兆円もの為替差損が生じ、対外純資産の266兆円は、42兆円(現在の 6分の1)に減ってしまいます。 日本国債買いのためのドル債の直接の売りは、大きな為替リスクを孕( はら)みます。為替相場では1ヶ月で5%や10%の変動は、茶飯事だから です。 「日本は世界最大の債権国である。債権国の政府財政が破産するわけが ない」という人は、以上のような、実際の、日本人によるドル債売りが 引き起こす、国際金融の変化(基軸通貨の崩壊)を想定していないので しょう。 【苦肉の対外純資産】 わが国にとってドル建ての対外資産は、「回収すれば下落する苦肉の資 産」になっています。苦肉とは、引くもならず押すもならずということ です。対外資産は、そのままでは売れません。 ■5.米国の対外純債務は、相殺すればほぼ全部が日本の対外純資産 ▼米国の対外純債務は282兆円 ●他方で米国は、08年度末の対外負債が$23.3兆(1934兆円)です。対 外資産(米国からの海外投資)は、$19.9兆(1652兆円)で、対外純負 債が$3.4兆(282兆円)です。(2010年 米国経済白書) わが国の官民の対外純資産が266兆円ですから、ひとり日本が、米国の 対外純債務(282兆円)を引き受けていることになります。 驚愕すべきことです。もちろん相互に入り組んだ、世界の対外資産・負 債を相殺したあとの純計で、世界を俯瞰して見たときです。 ▼結論 ●以上から、日本の対外資産の売りがあると、他国は売られたドル債を 引き受けず、結果は、米ドル崩落が起こることが理解できるでしょう。 日本の対外純資産と米国の対外純負債はほぼ同じ金額だからです。 上記が証明するのは、日本以外の世界各国は、合計ではドル建て資産と 負債を、均衡させていることです。 ドル債に極度に偏った、わが国の対外資産・負債の運用(ポートフォリ オ)は、世界でもっとも稚拙です。 原因は、わが国財務省が、米国への属国意識から脱することができてい ないからです。あたかも、アリ(日本)とキリギリス(米国)のイソッ プ童話です。これを示すのが、日本の対外純資産(266兆円)と、米国 の対外純債務(282兆円)です。 ▼国民が支持した小泉構造改革の誤り ●日本は、1997年から2000年代の13年間、 ・平均賃金を下げ、 ・非正規雇用を増やしてコストを減らし、 ・円高に抵抗して品質を高めた輸出で稼いだドルを、 ・ひたすら、下がるドル債に投資してきています。 米国は、ドル証券の売却で、金融益を得ています。 輸出商品のコストダウンのため、派遣社員が合法化され、平均時給1000 円の非正規雇用(フルタイムでも年収200万円)は、全雇用(5000万人 )の三分の1(1500万人)にも達しています。 このため、世帯の平均収入は1998年から17%も下がっています。これで GDPが増えるわけもない。 世帯所得が減れば、消費需要が減ります。店頭商品が売れ残るから、物 価も下がる。このためGDPギャップも生じます。これは小泉構造改革、 (人生色々、雇用も色々)の遺産です。 ●米国に流れた資金が国内に還流していれば、雇用が維持され、賃金を 1年3%上げることができ、商品価格も2%は上がり、デフレに陥ること はなかった。 他方で、輸出製品の価格競争力は衰え円安に向かったでしょう。 輸出企業は、売上が減ったでしょう。 そのほうが、全世帯所得と日本経済のためには、はるかによかった。円 安は中国製品の価格も上げ、ニトリやユニクロがひとり勝ちになるよう な、円高・元安の歪みが生じることもなかった。 物価を下げている主因は、1985年から見ると2倍になった円高と、半分 になったドル安です。このため円では価格が同じでも、ドルでは2倍の 価格に上がったように見えた。輸入品価格が半分に下がって、それに競 争対応しなければならないので、国内の商品価格も下がった。 ●小売店の店頭価格は、この20年間1年平均で3%は下がっています。3 %の価格下落が20年続くと[0.97の20乗=0.54]、つまり物価は1990年 の54%です。 あらゆる有形商品の価格は、調べて驚くほど、ブラザ合意(1985年)以 降の、2倍の円高(1/2のドル安)に照応しています。 店頭価格の半分への下落は、1985年に比較した円の2倍への高騰に対応 したものです。(注)東南アジアや中国との貿易通貨も米ドルでした。 ●輸出の超過が資源を輸入するこの国には必要だという、「1970年代の 、原油高騰の時のイデオロギー」が、国策を誤らせています。 【今は、ドル債を貯める意味がない】 その国策で、価値が定期的に下がる米ドル債をため込んでも生じる為替 差損は、100兆円規模(08年)と巨大で、一瞬で国益が失われ、まるで 意味がない。 ●ドル安・円高で、266兆円の純債権国の日本が損をする分と同じ額を 、282兆円の純債務国(米国)が利益として得ています。 米国の長期戦略は、海外から借りることができる極限での、ドル切り下 げです。 日本は対外純資産が266兆円(09年末)です。それは米国が全部使った ことになる。これが対外純資産の、国対国での意味です。 ■6.数ヶ月前の、論考の趣旨の再掲 ●わが国の虎の子の貯蓄である266兆円の対外純資産を活かすには、 (1)ドル債(対外資産)を担保に差し出して、 (2)米系銀行から、日本政府がドルを借り(負債の増加)、 (3)そのドルでゴールドと資源を買うことです。 ドル安・円高で、対外純資産の大きな目減りがあるのは、資産がドル債 に偏っていて、しかも対外資産(555兆円)と対外負債(289兆円)が26 6兆円分、均衡していないからです。 ●修正の方法は、ドル債を売るのはなく、ドル建ての対外負債を増やし 、順次、均衡に向かわせればいい。保有するドル債を担保に、ドル建て で借りるのです。 毎年10兆円(10年で100兆円くらい)行えば、日本の将来財政と年金、 医療費は安泰でしょう。これが今の対外資産を活かす、ほぼ唯一の方法 です。 ●ドル債を担保にしたドル建て借入金での、日本政府のゴールド買いは 、金価格の高騰と円高を促しますが、円高による差損以上に、ゴールド と資源の値上がり益が期待できます。ゴールドは、ロンドンや米国で、 ドルのままで買うことができます。 今後10年間、100兆円で買い占めることができるゴールドは、平均価格 を5000円(今の28%高)とすれば、累計で2万トン(世界の中央銀行が もつ金3万トンの67%)です。 ●日本の円は、金準備を2万トンもつことになります。金も、買ったも のを売れば下がるので、売る必要はない。市場で、粛々と買い続ければ いい。政府資金の調達は、金を担保にしたドルの借入れで可能です。 (注)今の財務省には、国益のための、果敢なことができるかどうか、 できない可能性のほうが高いでしょうね。覚醒すればどうでしょうか? ●今一度、方法を、申し上げます。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (1)ドル債を担保に、米英系銀行から、政府がドル建てで借りる。 FRBから借りても同じです。ドル債をFRBに売る方法もあり ます。(日本の財務省が、これを行う) (2)そのドルで、毎年10兆円(現在の時価では2600トン)、ゴー ルド、金ETF、資源先物を買う。 (3)ゴールドは1グラム8000円に向かい高騰するでしょう (現在は3900円付近)。 (4)政府には、1年に約10兆円、10年で100兆円の新規の財源が 生じます。買った金を売らねば、金価格は下がらないからです。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (注)ドル債を貯めた中国にとっても、ドル安・ユーロ安での国益の損 を避けるのは、これと同じ方法です。 国益を求めるソブリン・ウェルス・ファンド(国家が運用するファンド )なら、それくらいのことは実行すべきです。 財務省・・・どうか、米ドルが最高の資産という幻想から、1日も早く 覚醒してください。猶予の期間は、(たぶん)2年しかない。 不況を招く消費税を上げる必要もない。政府が必要とするマネーは、買 った金を担保に、金融市場から借りればいい。(注)大きく売れば金価 格は下がりますから、損です。 ▼米ドル債を貯めるという呪縛から逃れるべき 1970年までのドルは、ゴールドにリンクしていました。1971年以降のド ルは、変動相場です。円に対しては300円から、29年間で$1=83.7円( 10年12月22日)へと28%に下がっています。 途中でのドル高や円安はあっても、恒常的な経常収支の赤字国(現在、 米国の経常収支の赤字は$4300億:36兆円/年)の通貨が下がるのは、 自明の理です。 そして毎年続く、経常収支の黒字国(日本は1年に$1900億の黒字:18 兆円)の円が、赤字国のドルに対し、5年スパン以上の長期では上がる のも自明の理です。 (注)中国の経常収支の最新の黒字は、$3163億円(26兆円)です。輸 出経済主導の中国も、米ドルの呪縛にかかっています。なお中国の輸出 は、半分が英国を含むEU(27ヵ国)向けです。ユーロの下落損も、ドル の下落損と等しい。ただし2000年代に急増した中国の対外資産は、ほぼ 人民銀行がもつ外貨準備のみの$2.5兆(200兆円)であり、日本の対外 資産(555兆円)の36%と少ない。 日本政府は、対外資産と対外負債を、上記のようにドル建ての負債を増 やす方法(円安に向かう)で、均衡に向かわせねばならない。 対外資産と負債が均衡させれば、為替相場の変動の影響は、相殺できま す。 (注)2011年を予測して言えば、米系投資銀行とファンドが、ゼロ金利 のドルを借りたキャリー・トレードである新興国投資から引き揚げると きが、ドル高です。 米ドル発行の本家であるFRBのバーナンキ議長すら、「恒常的な経常赤 字を原因に、国際不均衡を生んでいる米ドルが、機軸通貨のままである ことは世界経済にとって問題」だと発言するようになっています。 巨額な資金を、国民から預かる日本政府は、国民を富ませる方法を考え ねばならない。 ところが2008年の、100兆円の対外資産の損(金融機関、企業、個人) は、マスコミも言いません。$1兆の外貨準備で、もっとも損をした政 府が口をつぐんでいるからです。 (注)経済の国際関係については、マスコミは、政府発表を載せる機関 でしかない。取材能力がない。英国のファンド利益に荷担するFT紙並み の、論理力をもって欲しいと願うのですが・・・ ●今後も輸出を振興し、いずれ下がるドル債を増やすことは、国益の損 になります。ドル切り下げ(または市場の実勢に委せた切り下がり)が 想定されるからです。 【参考:一層のドル安の序曲としての、異常事態が起こった】 米国FRBの2010年11月のQE2として「FRBによる$6000億(50兆円)の米 国債買い(1ヶ月8.3兆円)」の発表のあと、10年債の金利は、2.4%か ら逆に3.5%に上がりました。 1.1%の金利の上昇は、10年債の10%下落を意味します。これはドル安 の序章でしょう。 ●普通の時期なら、中央銀行が国債を買えば、金利は下がります。「FR Bが、米国債を1ヶ月に8.3兆円買うから国債金利が上がる」というのは 、異常事態です。 実際の金融市場では、FRBがQE2(国債の買い支え)を発表した途端、米 国債の売りが超過になった。これが、米国10年債の金利の3.5%への上 昇です。 国債を買う金融機関とファンドは、一般に10倍~30倍以上のレバレッジ で買っています。1.1%金利上昇による10%の下落が、元金に対しては 、10%の10倍から30倍の損になる。これは、強烈な損(金融機関の含み 損)です。 ●加えて、国債の長期金利の上昇は、他の証券(社債や住宅証券)も、 同じ率で下げます。国債の金利が、その国のべース金利だからです。1 %の金利上昇がわずかだとは、2000年代の世界のレバレッジ金融では言 えません。元金が一瞬で吹っ飛び、追い証(追加の担保)が必要になる 下落だからです。 * 以上の提案が、約40年の「米ドルの呪縛」から逃れる方法です。借りた ドルでのゴールド買いなら、副次的に、国家財政も救います。この政策 が採れないなら、2012年には低利の国債が売れにくくなって、金利が上 がり財政破産が待つでしょう。 以上、政府財政と、政府が管理する資産の全部を検討したあとに残るの は、日銀が発行される国債を増加買いすることです。 以降で、<日銀が国債を増加引き受けることの、国民経済に対する有効 性はどうか?>を検討します。 その前段として、2010年には、先進国の中央銀行が国債買いをして金利 を下げようすると、逆に長期金利が上がるという異常事態が起こってい ることを述べます。 ■7.先進国の国債に、信用リスクが付加された2010年 ●2010年の金融で特記すべきことは、世界の国債に対し、程度の差はあ れ、「信用リスク」が認識されたということです。 原因は、2008年の金融危機以降、各国中央銀行が、ほぼ同時に、合計で $5兆(415兆円)の資金供給をし、信用拡大をしたためです。これが、 今回の金利の上昇を促した原因です。 ▼世界の国債に、国債の信用リスクが加わったという事実 米国FRBのQE2(総額$6000億)で示したように、世界の金融市場に、認 識の変化が見えます。普通の時期なら、[長期国債金利=期待物価上昇 率+実質GDPの期待増加率]が金利の均衡点です。 普通の時期とは、「国債の下落リスク(信用コスト)がない」と見られ る時期です。QE2発表後の、長期金利上昇で明らかになったのは、米国 債において信用リスクが高まったということです。FRBの国債買いも、 上がる長期金利のコントロールができないことが明らかになってしまっ た。 (注)ユーロ債の信用リスクの上昇も、PIIGSがあるため、ほぼ米国と 同じでした。信用の高いドイツ国債の長期金利も、米国債と同時に、2. 39%(8月)から3.03%に上がっています。円国債の長期金利は0.99% (8月)から1.23%に上げました。英国債は3.0%(8月)から3.57%に 上げています。 そのためドル、円、ユーロの国債の金利等式も、以下のように見なけれ ばならない。期待は、将来への予想の意味です。 ●長期国債金利 =期待物価上昇率+実質GDPの期待上昇率+国債の信用リスク 国債の信用リスクは、国債がデフォルト(債務の不履行)をする確率で す。金融市場で売買されるCDS(債務回収を保証する保険)の料率です 。 国債がデフォルトしたとき(または一定価格を下回ったとき)、CDSの 引き受け手は、それを保証する義務を負います。国債金利に付加するプ レミアム金利が、このCDSの料率です。 ギリシア債の信用リスクは10%、アイルランド債が6%、ポルトガル債 が6%、スペイン債は4%に高騰しています(FT紙:10.12.08)。2010年 の年初は、いずれも1%~2%水準でした。 ユーロの中央銀行であるECBとIMFが共同で、市場で売られるPIIGS国債 を買い支えているのに、逆に、PIIGSの信用リスクは上がっています。 ユーロでは、追加でECBが100兆円のPIIGS債を買うことが必要ともされ ています。以降では、日本です。 問い:「日銀が、金融市場が引き受けきれない国債を、1年に15兆円増 加買いすると仮定すると、どうなるか?」 例えば、米国FRBのQE2(量的緩和第二弾)は、半年間の規模が$6000億 (50兆円)です。年間の米国債の発行は、政府発表では$1.2兆ですが 、実際には、$2兆(166兆円)が想定できます。 半年では$1兆(83兆円)の発行です。国債増発のうち60%をFRBが買う (=$6000億の紙幣を増発)と表明したことになります。 ●米国債は、ほぼ50%を海外が買っていました。 FRBがQE2を行う理由は、 ・2009年まではあった、海外からの米国債の買いの超過が、 ・2010年夏ころから、売りの超過に転じているためでしょう。 これが、ドル安の原因でもある。 (注)2009年の、米政府の債務の増加は$2兆でした。なお米連邦政府 の累積債務は$16.35兆(1357兆円)と、日本政府の総債務(約1000兆 円)より上です。(日経新聞:10.12.22夕刊) ■8.日銀が、毎年15兆円の国債を増加買いするとどうなるか? 今後の、1年44兆円の国債発行のうち、民間金融市場で引き受けること のできる上限は、20~25兆円と推計できます。 ●理由は、前号にも述べたわが国マネー・サプライ(マネーストック: M3)の1年の増加は、月を平均すれば、ぼぼ2%の20兆円程度だからです 。1990年代の40兆円の増加から半減しています。 M3のマネー・サプライは77兆円の現金と、世帯預金、企業預金です。わ が国のマネー・サプライは2000年代にさほど増加しなくなったのです。 (注)2010年10月の、マネー・サプライの総額(現金と民間金融機関の 預金と郵貯預金、及び譲渡性預金のCD)は1082兆円で、前年比2.6%(2 8兆円)の増加でした。11月は、前年比+0.6%で1083兆円にしかなって いません。 特別会計の剰余金(埋蔵金)の利用は、2011年度予算で7兆円です。 44兆円の新発国債引き受けには、[増発国債44兆円―マネー・サプライ の増加20~25兆円での最大限の国債買い-埋蔵金の利用7兆円=12~17 兆円の不足]が発生します。その真ん中をとって、15兆円を日銀が引き 受けたと仮定します。 (注)今の日銀は、月1.8兆円程度の国債を買っても、保有残高が75兆 円を超える位になると、売っています。 http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac07/ac101220.htm 政府予算の超緊縮、公務員の雇用カット及び報酬の下げをしない限り、 44兆円付近の国債発行は、毎年続くはずです。埋蔵金は2012年ころに、 ほぼ完全に、枯渇するでしょう。 そうなると以下が想定できます。日本の長期金利は、1.2%程度を維持 し、3%や5%には上がらないと仮定しています。金利が上昇すると、国 債の利払い(現在10兆円程度と少ない)が急に増えるからです。 【日銀による国債増加保有】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 2011年度の日銀の国債買い 15兆円(埋蔵金7兆円も利用) 2012年度 15兆円(埋蔵金7兆円も利用) 2013年度 22兆円(埋蔵金の枯渇) 2014年度 ・・・・ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ●2012年から(遅くとも2013年に)、「日本国債の信用リスクの上昇」 が、国内のみならず、世界の金融市場から強く認識されるでしょう。日 銀が、毎年、新しく発行される国債(44兆円と仮定)の50%、引き受け ねばならないからです。 その時、長期金利が3%に上がると、発行済みの10年債の価格は、約15 %下ります。平均で残存期間6年の既発国債(2012年は900兆円以上の残 に膨らんでいます)は9%下がって、900兆円×9%=81兆円の含み損が 、金融機関に生じます。 ●確定的に言えば、わが国の金利高騰のきっかけを作るのは、ヘッジ・ ファンドによる国債の空売りです。これが起こると、信用リスクの高ま りから、長期金利は今のイタリア(4.5%の長期金利)を超え、5%に向 かうでしょう。10%をつけるかもしれません。 金利が5%に上がれば、日本の財政は、完全に破産します。政府予算の 執行、公務員給料、及び国債の利払いと償還ができなくなる。払うべき お金が払えないのが、財政破産です。 ●同時に、国債をもつ政府系と民間の全金融機関と基金が、債務超過に なって、激しい金融危機が起こります。そのとき起こるのは、「日銀の マネー印刷では効かなくなった恐慌」でしょう。 (注)これを防ぐために、30兆円~50兆円の資本で、日本版投資銀行の 設立を、提案しています。資本は、日銀が出せばいい。 その時、2008年9月のリーマン・ショック(直接には米国住宅証券の値 下がり)は、世界金融危機の序曲に過ぎなかった認識されるはずです。 4年後、5年後の危機が、はるかに深かったとされるでしょう。 ●2012年ころから始まる「世界の同時国債危機」が、金融危機の本番で す。円国債だけではなく、ユーロ債、米国債の同時下落です。これは、 世界同時の金利高騰です。 国債の価格下落は、国債を資産として75兆円もつ日銀も債務超過にして 、通貨信用を下落させます。 国債の市場で未達による金利上昇は、「国債信用の下落」でもあるから です。国債信用が下がれば、国債が資産である各国中央銀行の、信用は 低下し、中央銀行が発行するマネーの価値を下げます。 ●繰り返せば、そうなる前の2011年と2012年に、日本政府だけは、上記 の方法で、外貨準備を担保にしたドルでの借り入れによって、金購入を 果たしておくべきです。555兆円の対外資産を活かす方法は、金の購入 です。 ●加えて国内企業に資金を貸す、30~50兆円の巨大資本の、投資銀行の 設立です。この投資銀行が、中国を含む世界から資金を調達し、国内企 業に貸せばいい。 ゴールドマンの規模を数倍大きくし日本の国益のために、逆のことを行 うのです。設備投資が増えれば、80年代価格に下がった地価も上がりま す。 ●以上の二つの金融対策によって日本は、国債危機(=金融恐慌)をチ ャンスに転じて、世界最大の富裕国になり得ます。このいずれの対策も 、政府が行うことができるものです。 円は高騰し、輸出増は困難になりますが、高騰した円では、世界の、円 価格では下落する株を買っておけばいい。2013年頃には、日本が、世界 の優良企業と金融の主だったところを支配もできます。 ロスチャイルド家が、過去200年も行ってきたような、株価が、数分の1 に大きく下がる恐慌の時が、後の巨大利益のチャンスという方法を、日 本政府がとればいい。経済は10年単位で言えば、大きな好況と不況を繰 り返します。時に、恐慌がある。 金相場は、中央銀行(または政府)が巨額に買う姿勢を示すなら、1グ ラム8000円や1万円に向かって高騰し、大きな含み利益を生むからです 。これが国債価格の下落(=金利上昇)による、中央銀行の信用を守り ます。 ■後記:40年遅れてきた重商主義国家の迷妄から醒めよ わが国では、輸出が増えたと喜び、減ったと嘆くニュースは毎月、大き く取り上げられます。 理由は、貿易での黒字増加が、国富の増加であるとの誤った認識が、今 も続いているからです。そのため、ドル安・円高になると、政府・日銀 がドル債を買って、追加の損をしています。 ●日本の政府、日銀、そして企業、及び個人投資家も下がるドルを買い 、「40年も遅れた重商主義国家」になっています。 一刻も早く、国富を失うだけの重商主義の迷妄から醒めることです。55 5兆円も外債をもっていて、日本の企業と世帯が豊かになりましたか? 世界から買い支えられることによって維持されてきたドルの価値が、今 後下がることは、今回のFRBによるQE2($6000億の国債買い)で実証さ れています。本来は下がるべき金利が、上がったからです。同じことで すが、米国債の価格が下がったからです。 変動相場になって40年間、外債を貯めるだけの、「遅れた重商主義」を 主導してきたのは、経産省(旧通産省)でしょう。貿易黒字による国富 の増加は、減価するペーパー・マネーであるドル債の保有増加(言い換 えれば米国への貸付金の増加)に過ぎません。 【重商主義が有効だった時代は、40年も前に終わったが・・・】 貿易に使う基軸通貨が、金本位の時代なら(1970年まで)、貿易黒字が 国家の金保有の増加でしたから、「重商主義」による国富の増加は,確 かにありました。 ●重商主義は、「貿易黒字を重んじる国民経済の運営」を言います。19 世紀の国家は、重商主義でした。明治以来、植え付けられた貿易黒字の 重視(固定観念)から、この国はまだ、脱していません。 現在の機軸通貨の米ドルは、米国の、積年の赤字のため、「必ず減価す るペーパー・マネー」に過ぎません。巨額に貯めても意味はない。ドル の減価で、増えた対外純資産が、全部、帳消しになるからです。 ●対外資産の555兆円は、日本のGDP(国民所得)の1.15倍です。世帯当 たりに換算すれば、1世帯が1000万円も米国に貸しています。そしてそ の1000万円が、ドル安で800万円や600万円に減って、ついには、1世帯 当たり500万円の対外負債と均衡してしまうのです。 いずれ必ず減価される貸付金(=資産)が増えたことを喜んでいた、バ ブル期の日本の銀行のような、お目出度さでしょう。返せない相手(米 国)に、貸し付けた巨額な金融資産の増加を喜んでいるのが日本です。 対外資産を555兆円も積み上げたのは、日本経済が塗炭の苦しみを舐め た1990年代からです。「自宅では所得を減らしてかゆをすすり、利益部 分を隣家に貸してきて資産を減らす」・・・実に変な経済運営です。 例えば、国益に敏感な中国が、自国のGDPが下がるときドル債を増加買 いするような非常識なことを、行いますか? そんなことを行う国は、 世界の貿易の、2000年の歴史でこの日本だけです。 今後の歴史でも、日本のような国が現れることは、決してない。これは 、90年代からの自民党の無策にも遡るでしょう。民主党はもっとひどい ・・・財務省官僚の覚醒が必要です。 ●対外資産を毎年30兆円~40兆円増やしても、その金融資産は約5年サ イクルのドル安で減価し、国内は一向に豊かになってはいません。この 経済運営の積年の誤りに、一刻も早く気がつくべきです。遅れた重商主 義国家が、今の日本でしょう。 本来は、5100万世帯の所得と資産、及び国家の資産の増加を、喜ばねば ならない。世帯の名目所得(収入)を増やさない限り、経済の成長はな いからです。国家資産の増加がないと、赤字財政が破産するからです。 今後は、ドル債の保有を増やすことから転じ、逆にドルで借りて、有効 な資産(事例が金)に運用を転じるべきです。猶予期間は、ほぼ2年し か残っていません。 1ドルが60円に暴落した後は、わが国は、対外資産を失った貧困国と財 政破産の国に堕ちます。断言できます。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源プレミアム・アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です。】 1.内容は、興味がもてますか? 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