迫る財政破産:国家財政の危機とその後
Written by admin on 2010年12月1日 – 09:00
おはようございます。月曜日は、代官山の仏蘭西料理店で、5年くらい 前のNYツアーに参加された方々と20名余、ささやかで、気の早い忘年会 でした。 創刊以来の本誌を読まれている人も多い。『金融・経済・経営・精神』 という標題で、90分の、圧縮した話をしました。 2000年代で、世界のGDP($60兆:5000兆円)の、約3倍($200兆:1.6 京円)にも膨らんだマネー経済が、不動産・株・証券化商品の価格を上 げ、今、崩壊させている途上でしょう。(2007年が、頂点でした) GDPの増加額を超える金融資産・金融負債の増加は、マネー価値の減価 を促します。しかし、インフレはCPI(消費者物価)の上昇を基準に見 るので、表面上、ペーパー・マネーの価値の減価が見えない。 ▼「本源的なマネー」から見ると 「本源的なマネー」は、ペーパー・マネーの減価を、先行して写します 。 本源的なマネーと見ることができるゴールドの価格は、2000年代の10年 で約5倍($ベース)に上がっています。 1トロイオンス(31.1グラム)の名目価格が、2000年は$271平均で、今 のスポット価格は$1450付近です。円では、2000年で1014円(1グラム )でした。今、3900円付近(消費税込み)ですから約4倍です。 2000年には1バーレル(159リットル)で$30付近だった原油も、$85付 近です。約3倍です。 2008年の最高値は、$140でした。4.6倍で、今の金価格の高騰に近かっ た。原油もオイル・マネーと見なすことができるものです。 世界のペーパー・マネーの基準と見なされているのは、基軸通貨の米ド ルです。ユーロの信用は、今、激しく低下しています。 基軸通貨は、国際法で決めたわけではない。人々がもっとも多く使うだ けのことです。今、人民銀行の周小川総裁、世銀のゼーリック総裁に続 き、FRBのバーナンキ議長も、講演では「通貨バスケット制やゴールド ・リンク」を言い始めています。(注)まだ、牽制球に思えますが。 ドルは、世界の金融資産額(=金融負債額)の、膨らみの倍率(インフ レーション)に合わせ、減価してきたと言っていい。 インフレは、物価の上昇とされますが、本当の意味は、マネーの購買力 の減価です。 1900年からのドルは、1年に3%、110年間で3.5%の価値に減っています 。つまり1900年時点の1ドルの購買力は、今は3.5セントに減っています 。1990年の1ドルは、今の$28.6の価値があったと言えば、わかりやす いでしょうか。 ▼店頭商品の価格が、ドルの減価ほどは、上がらなかった理由 2000年代にペーパー・マネーが世界のGDPの3倍にも増えたのに、先進国 では、店頭の商品物価が大きく上がる消費者物価のインフレは起こって いません。2000年代は、新興国の、低い賃金での工業化が、世界の消費 者物価を下げる機能を果たしたからです。 世界で最大のGDP($14兆:1160兆円)である米国の、工業生産額にお ける世界シェアは、1970年は30%でした。当時は、世界の商品で30%の 生産を、米国が行っていました。 2006年に米国は、世界シェアで20%を割り、2010年現在は16%付近です 。この40年間で、半分のシェアに低下しています。(FT紙) (注)米国のGDPと賃金が低下しなかった理由は、GDP(付加価値の生産 )における、金融業が生む付加価値のシェアが30%に高まったためです 。 他方、中国の工業生産額は、経済特区を作る前の1970年は、世界の4% の金額でした。1980年代に資本主義化し、1元を30円から15円と半分に 切り下げた1994年以降は、輸出が目的の商品生産額は、急上昇しました 。2010年には、米国の工業出荷額(世界シェア16%)を超えました。20 14年には、世界シェアで20%に達すると予測されています。(FT紙) 中国を筆頭にした新興国の低価格商品が、世界の商品物価を下げたため 、消費者物価は上がっていません。2000年代の世界は、急激な勢いでの グローバル生産化だったのです。 新興国の内部は、中国とほぼ同じインフレです。しかし、先進国では、 新興国から輸出される商品物価が安いため、消費者物価はさほど上がっ ていません。このため、マネーの減価が見えない。 (注)参考に言えば、かつては世界最高だった日本の工業出荷額は、総 額で336兆円(二重計算を除く付加価値分は約100兆円)で、世界シェア は減っています(日本統計年鑑2010年)。 ▼金融資産と金融負債 【金融資産】 預金は、持ち手にとっては金融資産です。国債、社債、株、保険の基金 、年金の基金、それに$16兆(1330兆円:2010年)のエキゾチック証券 も、持ち手にとっては金融資産です。 エキゾチック証券は、原資産が生むキャッシュ・フローを担保にしたデ リバティブ(金融派生商品)の呼称です。馴染みのない証券という意味 です。 MBS(不動産ローンを合成した証券)、CDO(債務を合成した証券)、CB O(公社債を合成した証券)、CLO(貸し付け債権を合成した証券)、CD S(債務回収の保証保険)・・・等を、エキゾチック証券と呼ぶことに します。(参照:前号のシャドー・バンキング) 「証券」と言ったときは、エキゾチック証券、国債、社債、株、保険の 基金、年金の基金を含む全体を示すこととします。 【金融資産と同額の負債】 しかし金融資産である預金も、それを預かって運用する銀行にとっては 、負債です。 (1)国債は国家の、(2)社債と株は企業の、(3)保険の基金は保険 会社の、(4)年金基金は国家(社会保険庁)の負債です。そのため金 融資産は、金融負債と同額です。全部の証券は、誰かの負債です。 ・金融資産が増えることの意味は、 ・誰かの金融負債が増えることです。 ・世界の、GDPの3倍(1.6京円)の金融資産は、 ・1.6京円(1兆円の1万6000倍)が貸し付けられていることです。金融 資産の利益や配当は、借りた人・企業・国の支払いです。 金融資産の価値は、借りた人(住宅ローン)、および企業(社債、借り 入れ金、株)、そして国家(国債)が、返済と利払いができるかどうか にかかっています。 (注)株は、企業にとって負債ではないという人がいますが、誤りです 。株は、株主が出資し(あるいは買って)、企業が借り受けた負債(破 産時の清算配当が担保になった「劣後債」の1種)です。社債と借金は 、もちろん企業の負債です。 世界のGDPの3倍に増えた総負債が、弁済され、利払いができるかどうか 。これが2010年以降の、もっとも大きな経済問題の根底になっています 。 なお、主要国の中央銀行が、短期金利をゼロ付近に下げたことは、全部 の金融資産に対する、利払いの金額を減らしたことと同じです。 金利の本質は、リスク率でもあります。例えば、1億円のお金を貸すと きは、安全証券とされる国債の金利に、借り手が返済できないリスク率 (例えば2%や3%)を加えます。 このリスク率は、CDS(債務回収の保証をする保険)として払う利率で もあります。アイルランドの、5年物国債にかけるCDSは、今、6.14%( 614ベーシス・ポイント/年)と上がっています。ポルトガル国債のCDS が5.51%、スペイン国債は3.61%で高騰しています。 アイルランド危機に先行したギリシア国債のCDSは、9.79%でもっとも 高い。 国債にかけるCDSの料率は、国家の財政破産つまり国債のデフォルトを 、金融市場が想定した確率です。(注)低くも高くも、認識間違いがあ ります。 CDSを引き受けた金融機関は、その国家がデフォルト(支払い不能)を 起こしたとき、代わりに、償還・利払いする義務があります。 (注)日本国債の金利は、長期(10年債)で1.12%付近に上がっていま すが、世界では、もっとも低い。米国10年債2.87%(30年債は4.4%) 、ドイツ10年債2.66%、フランス3.09%、英国3.44%、中国3.02%です 。日本の国債は、CDSをかけられないくらい金利が低い。 金利が低い理由は、 ・日本国債の買い手である政府系金融機関(郵貯・簡保・年金基金・日 銀)と、 ・民間の金融機関(銀行・保険会社)が、「日本国債はまだ安全」とし て、買っているからです。 政府の負債は、973兆円(10年3月)です。来年度は、44兆円の国債を、 新しく発行する予定です。政府債務は1017兆円となり、1000兆円を超え ます。毎年、40兆円くらい、増えています。 10年3月の、973兆円の政府負債のうち、短期の借り入れと政府短期証券 (202兆円)を除く国債は、771兆円です。 (注)国債の保有割合は、郵貯が22.8%、簡保が10.2%、公的年金が11 .7%、日銀が8.2%(以上の公的機関で52.9%)です。 民間銀行が13.4%、民間保険・年金が13.5%、個人が5.3%の保有(以 上で32.2%)です。海外ファンドは、6.4%です。その他が8.5%です。 日本国債の金利が、 ・長期で1%付近と、ごく低く保たれてきた理由は、 ・政府系金融機関が、上記のように国債の52.9%を買う余力があったか らです。これが、日本国債の流通の特殊性であり、15年間も低い金利が 続いた原因です。 【政府系の買いが、771兆円の国債の、超低金利の原因だった】 しかし今は、 ・郵貯は預金額が減り、 ・簡保も保険額が減って、 ・公的年金も運用損で基金額が減っているため、 政府系金融は、国債を増加買いすることができません。 なお民主党が期待していた特別会計の埋蔵金では、昨年、10兆円の国債 を買っています。(注)09年度の国債発行は53.5兆円でした。 政府系金融が、「国債の売り手」に回る時期が、年々、近くなっていま す。政府系で大きく増加買いできるのは、ペーパー・マネーを作る日銀 だけです。 民間金融機関は、郵貯・簡保・年金基金が国債を買うということから、 低利の国債を買ってきたという事情があります。 郵貯・簡保・年金基金が、資金の枯渇から国債の増加買いができなくな り、 ・日銀だけが増加買いする事態が見えると、 ・民間金融機関は、金利の上昇(国債価格の下落)を怖れ、国債を増加 買いしなくなるでしょう。 その時が、「突然に起こる日本国債の危機」です。 国債危機の発生が、財政破産です。 長期国債が2%台の低い金利で売れないと、40~50兆円が1年の赤字(資 金不足)の国家財政は、破産に向かいます。 海外のヘッジ・ファンドは、「日本国債の空売りによる利益」を狙って います。ヘッジ・ファンドは、日本の金融機関と個人の資金も預かって 、投機運用しています。 わが国の金融機関と政府は、国債危機(金利上昇)に対し、感度が鈍い 。「敗戦でもないのに、国家財政が破産するわけはない。国債が売れな くなれば、日銀がマネーを増発して買えばいい。日銀は、いくらでも国 債を買えるのだから。」 金利上昇も、日銀が防止できると考えているからでしょう。 果たしてこれは本当か? この検討を、本稿で行います。 エコノミスト達は発言をしません。「神国日本は、戦争に勝つ」と信じ ていた(一部の)軍人のように。この国では、危機になると、古来の「 言霊信仰」が姿を現します。「言えばそうなるので、言えない。」 当 方は、危機の認識が重要と考えます。認識があれば、財政が破産する前 の対策も打てるからです。 2010年の年初、<ソブリン・リスク元年(1月13日号)>として、日本 を含む世界が、国債危機へ向かうだろう姿を描きました。 この1年で、事態は改善ではなく、悪化の方向に向かっています。 経済が成長しないと、負債の増加が危機になります。企業に売上成長が なく、赤字での資金不足から借り入れが増えれば、早晩、存亡の危機に なるのと同じです。 各国政府は、 ・不動産と株のバブル崩壊による、金融機関の不良証券を買い受け、 ・GDPの、5%~10%の赤字財政を組んで、 国家の借金を増やしています。 本稿では、前号でも触れたPIIGSの状況から述べます。近い将来、日本 の国債をめぐって起こることが、近未来の写像のように見えるからです 。 その後に、日本の国債と、政府財政の検討です。 圧縮して書いたつもりですが、30ページ余になりました。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <513号:迫る財政破産:国家財政の危機とその後の検討> 2010年12月1日号 【目次】 1.PIIGSの債務危機は、ギリシアの債務偽装から始まった 2.ユーロの分裂という方法 3.PIIGSの負債 4.債務危機が露呈した、アイルランドの事例 5.CDSという保険金殺人 6.金融のモラル・ハザードを生むCDS 7.日本に財政破産はあるのか? 8.問題は、郵貯・簡保の「国債売り」の時期の到来 9.日銀の国債買いの有効性 10.対外債権を売って、超低金利の日本国債を買う方法 11.2012年以降 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.PIIGSの債務危機は、ギリシアの債務偽装から始まった PIIGSは、ユーロの統一通貨圏です。各国の通貨は、2000年以降、ない 。国債もユーロ建てです。 加盟条件は、財政赤字で各国GDPの3%以内ということでした。PIIGS諸 国の多くは、00年代の中期からは、財政赤字を偽装しながら、加盟を続 けていました。 偽装は、オフ・バランスという方法です。 政府が、債務をゴールドマン等の提案を受けて売却する。 ゴールドマンは、 ・政府から高い手数料をとって、 ・債務を証券化し(CBO:公社債担保証券を組成)、 ・保有するか売却していました。 ギリシアで、この債務偽装が明らかになって、10年5月のギリシア危機 が起こったことは周知でしょう。PIIGSに、どれくらいの政府や対外債 務偽装があるのか、まだ正確なところは不明です。 ■2.ユーロの分裂という方法 ▼PIIGS ユーロ加盟ではなく、自国通貨を発行していれば、 ・その国の中央銀行が、ギリシアならドラクマ、アイルランドならアイ ルランド・ポンドのペーパー・マネーを発行して、 ・国債を買い取るという方法はありました。 ところが、仮にそうだとすれば、 1.ユーロ建ての対外負債が多く、 2.財政赤字が、GDP比で12%から32%と大きくて、 3.経常収支の赤字が大きな、ドラクマやアイルランド・ポンドは、 為替相場で投げ売りされ、数分の1に下落していたでしょう。 今、ユーロを離脱し、国家財政の信用がないドラクマやアイルランド・ ポンドが売られて30%に暴落すれば、ユーロ建ての負債が3.3倍に膨ら むことになります。こうなると対外負債が多いPIIGSは、即刻、破産し ます。 つまり、PIIGSにとって、ユーロ離脱という手段はない。 ユーロ内に債務を吸収するブラック・ホールができてしまった。 ユーロから離れ、自国通貨に戻せばいいという論者がいますが、それは 、PIIGS通貨安から、ユーロ建ての対外負債を何倍にもするので不可能 です。ユーロから離脱すれば、PIIGSは多分一夜で、デフォルトに陥り ます。 ▼ドイツ 経常収支の黒字国($1830億:15兆円/年)ドイツがユーロを離脱すれ ばどうなるか? フランスが残っても今111円のユーロ相場は、奈落の 底に落ちます。 復活したドイツ・マルクに対し、ユーロが大きく(50%以上)切り下が ります。そうすると対外債権をユーロ建てでもつドイツは、巨大な為替 差損を蒙ります。この手段もドイツにとって難しい。 対策としては、ドイツがPIIGSに、当座に必要なマネーを注ぎ込むしか 、方法がなくなっているのです。 ところが債務国は借入金の増加で、危機を乗り越えることはできません 。負債が更に膨らみ、高い金利払いも増えるからです。 一番多く貸しているドイツの金融機関は、本当の自己資本比率が、3% 程度と小さい。ドイツの金融機関も、今、危機でしょう。 次は英国です。英国の銀行は、海外から借り、それをPIIGSに貸してい るので、ドイツより危機が深い。 ■3.PIIGSの負債 FT紙が、PIIGSの銀行資産・負債の、GDP比を集計しています(10.11.30 付け)。PIIGSの銀行負債は、対外負債の大きさを示すものでもありま す。 異常に膨らんでいます。PIIGSの銀行に貸し付けたのは、英国、ドイツ 、フランス、スイス、米国、北欧です。表は、各種統計から、当方で集 計したものです。 PIIGS銀行の 財政赤字 長期国債 資産・負債 GDP 対外負債 GDP比 の金利 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ アイルランド 220兆円 20兆円 80兆円 32% 9% ポルトガル 51兆円 17兆円 20兆円 10% 7% ギリシア 60兆円 30兆円 18兆円 12% 12% スペイン 260兆円 86兆円 77兆円 10% 5% イタリア 425兆円 170兆円 95兆円 5% 4.3% ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ PIIGS合計 1016兆円 323兆円 290兆円 13% 7.4% (単純平均) 表には書けませんでしたが、政府負債のGDP比は、アイルランド70%、 ポルトガル90%、ギリシア110%、スペイン70%、イタリア120%です。 日本の政府債務のGDP比200%に比べると低い。 (注)日本が、政府の累積赤字のGDP比が200%と破格に大きくとも、財 政破産になっていないのは、豊富な個人預金を背景に、それを預かった 郵貯・簡保・年金基金(いずれも政府系)、およびマネー発行機関の日 銀が、合計で52.9%の国債を買って保有してきたからです(前述)。 日本の国債は、PPIGSと同列に比較すると、わが国のGDP比では、約100 %と見ることもできます。 ただし郵貯・簡保・年金基金の所有者は、政府ではない。 国民が政府に預けた金融資産です。 政府部門は、郵貯・簡保・年金基金の残高の分、国民から借りているこ とになります。 郵貯・簡保・年金基金の所有は政府だという識者もいますが、誤りです 。郵貯・簡保・年金基金の所有者は国民です。5000万件の世帯です。政 府は、年金基金のように、管理・運用を委任されているだけです。 ▼誤った認識 民間所有の国債がGDP比で100%と言っても、日本国債が半分に減ったわ けではないので、念のために申し添えます。 敢えて、これを言うのは、日本の国債は、本当はGDP比で100%である。 200%ではないという学者がおられるからです。(菊池英博氏『消費税 は0%にできる(2009年7月)』) 菊池氏は、 (1)特別会計に属する、社会保証基金222兆円(07年:年金基金と労働 保険基金等)、 (2)同じく特別会計の、内外投融資211兆円(07年:主は政府系金融機 関の、貸し付け) (3)外貨準備(07年116兆円)の合計549兆円は、政府が所有する金融 資産と言われています。(前掲書P99) 年金基金は、管理・運用を政府が行っているだけです。厚生年金の掛け 金は、個人の所得の中から16.5%(個人と企業の折半)を納めたもので す。 銀行の預金が、銀行のものではなく、預金者のものであるのと同じで、 年金基金は国民の所有です。政府は、基金から年金を支払わねばならな い。従って政府の負債です。年金は支給しないと言えば、政府のものに なりますが・・・・ 内外投融資(旧財投)の資金源は、郵貯と簡保です。郵貯も簡保も、政 府部門が国民から借りた負債です。郵貯・簡保のお金は、政府の所有と 言えば、国民は反乱を起こすでしょう。 政府の外貨準備は、財務省が、日銀や金融機関に「政府短期証券」を発 行し(売って)、資金を得て、ドル債を買ったものです。 この外貨準備も、財務省は、管理・運用を任せられているだけです。外 貨準備の所有者は、政府ではない。「政府短期証券」を買った、日銀と 金融機関です。更に言えば、金融機関の預金は国民のものですから、外 貨準備も、元は国民の貯蓄です。政府のものではない。 住宅を借りている人が、この家は、自分が住んでいるから自分のものと 言うと、誰でも、誤りと分かります。占有権と所有権は異なるのです。 ところが上記の3つの特別会計は、[資産-負債]の構造において、国 民から借りたもの(=政府の負債)であることが、わかりにくいため、 菊池氏に代表される「誤った認識」が起こります。 民主党(特に小沢氏)も、菊池氏のような認識をし、特別会計から埋蔵 金を発掘して政府予算に当てると公約していました。これが、[事業仕 分けの、当初の目的]でした。小沢氏は「特別会計には、いくらでもお 金がある」と言っていました。 事業仕分の結果は、わずかな埋蔵金(7000億円)しか発掘できなかった 。誤りが分かるでしょう。ここから、民主党政権の迷走が起こっていま す。政府予算の財源の調達が、困難になっているからです。 ■4.債務危機が露呈した、アイルランドの事例 GDPで20兆円(人口451万人)しかなく、 ・福岡県の経済力の国で、 ・銀行の資産・負債は220兆円(170兆円の郵貯より多い)もあるのが、 アイルランドです。 このうち対外負債は、80兆円です。 【GDPは、高いユーロで水ぶくれ成長】 アイルランドは、経済成長のため法人税を12.5%(日本は約40%)と低 く抑え、海外ファンドからの投資・貸し付けを呼んでいました。 ユーロ内では為替差損がない。特にドイツが貸し付けをしたのです。ポ ンドが低くなった英国の金融機関も、レートが高いユーロ建ての投資を 好んで行っっていました。 アイルランドの対外負債は、GDPの4倍の80兆円に増えていました。1人 当たりのGDPは4.2万ドル(08年)もあって、日本より高かった。生活レ ベルは、日本並みかそれ以上でした。借金は、増やすことができる間、 生活のレべルを高めます。逆の貯蓄は、今月使うお金を減らします。 【住宅価格は4倍に高騰していた】 過剰マネーの投入で、住宅価格は2007年までの10年間で、4倍に高騰し ていました(高騰率は米国の2倍)。平均価格が、ピークでは30万ユー ロ(3400万円)ですから、大阪並みでした。 今は50~60%下がって16万ユーロ(1800万円)付近です。これが不良債 権を生んでいます。住宅価格は、もっと下げると見られています。PIIG Sにほぼ共通します。 アイルランドと並び、南欧のリゾートの住宅価格も、異常な高さでした 。08年以来起こったのは、典型的な不動産バブルの崩壊です。 【不良債権額の推計】 アイルランドの主要銀行(国有化された)の不良債権は、多分、100兆 円(総資産の45%)はあるでしょう。 加えて対外負債が、GDPの4倍の80兆円です。貸しているのは、国外の金 融機関です。50%は不良債権化しているでしょう。住宅価格の下落率に 比例して、不良債権になるからです。 【貸し手】 貸している金融機関で、判明したところでは、 ・英国 $1490億(12.4兆円)、 ・ドイツ $1390億(11.5兆円)、 ・米国 $690億( 5.7兆円)、 ・ベルギー $540億( 4.5兆円)、 ・フランス $500億( 4.2兆円)、 ・日本 $270億( 2.2兆円)、 ・その他 $2290億( 19兆円)です(FT紙)。 以上の負債数値は、債務危機の時は、日々刻々増えます。最初は、小さ く集計されるからです。上記の「その他」には、オフショア金融(租税 回避地のヘッジファンド)からのものが多いでしょう。 アイルランドは、アイスランドのような金融立国を目指したこともあっ て、「デリバティブのエキゾチック金融」が発達しています。 【毎年、緊急貸し付けができるのか?】 アイルランドには、EUの救済資金枠から、850ユーロ(9.4兆円)が緊急 供給される予定と公表されています。 使途は、各種証券の、満期償還と利払い用です。しかし、一時的に資金 繰りはできても、証券の満期が5年なら、ほぼ毎年10兆円(GDPの50%) 近い資金支援が必要になります。 【金利の高騰は負債を増やす】 金利の高騰(現在アイルンドで9%、ギリシアで12%)は、新発国債の 利払いの急増になります。 アイルランドはギリシアに続き、事実上の、デフォルト国になるでしょ う。 両国に、数ヶ月遅れで続くのが、ポルトガル(国債金利7%)、そして 大国のスペイン(国債金利5%)です。イタリア(国債金利4.3%)はど うか・・・大国イタリアが、不動産価格の下落から国債債務の返済と利 払いができなると、ユーロの金融とユーロは全面崩壊です。実に、今、 ユーロ危機です。 【2011年】 来る2011年は、PIIGSを抱えるユーロとポンドの、為替相場での崩落の 危機があるでしょう。 まだ大きくは取り上げられてはいませんが、ユーロには、対外債務200 兆円の中東欧という爆弾があります。ユーロの金融機関と米国が貸した ものです。 債務国がデフォルトに近くなり、金利が上がって実際にデフォルトを起 こすと、同時に危機になるのが、貸した国の金融機関です。それが英国 、ドイツ、フランス、北欧、米国です。 【不良証券500兆円と・・・】 IMFは2009年5月に、リーマン・ショック以降の、世界の不良証券を、50 0兆円と推計していました。このため主要国(中国を含む)の中央・銀 行と政府は、500兆円の緊急資金供与をしています。 (注)前号で述べた、シャドー・バンキング・システムは、$20兆(16 60兆円:08年)から$16兆(1330兆円:10年)に減っています。この意 味は、シャドー・バンキング・システムの中で330兆円の不良債権が生 まれ、今、含み損になっていることを意味します。 以上の、 ・未処理の500兆円の不良証券に加え、 ・PIIGSの対外負債(290兆円)と、 ・総銀行負債(1016兆円)の合計1306兆円の中に、 恐らく30%~40%の不良証券分(390兆円~520兆円)が加わるでしょう 。 PIIGSの不動産価格の、ピークからの下落率(40%~50%)で、これが 推計できます。ローンが、不良化するからです。 一体誰が、これを、追加負担できるのか? 2010年5月以降、 ・月を追って大きくなり、表面化したPIIGSの債務危機と、 ・次に控えるであろう、東欧の債務危機から、 2011年にはドイツ、英国、スイス、北欧の金融機関は危機に陥るでしょ う。 対策は、PIIGSの破産を避けるための、ECB(欧州中央銀行)のペーパー ・マネー増発しかない。そして、経済の成長です。 問題は、第一次世界大戦での敗戦と賠償金から(1920~1930年)、物価 が数兆倍に上がるハイパー・インフレ(マルクが数兆分の1)を経験し た大国ドイツは、中央銀行によるマネー増発に反対することです。 ドイツの世論と国会は、PIIGSへの支援にドイツ国民のマネーを使うこ とに、反対しています。 ■5.CDSという保険金殺人 【CDS(Credit Default Swap):債務回収を保証する保険】 ギリシア国債で9.79%、アイルランド国債で6.14%に高騰したCDSは、 デフォルトのときの、国債の回収を保証する保険です。 ドイツ債を含むユーロ債全体のCDSも、2%に上がっています。2%のCDS をかければ、ドイツの10年債の利回りは今2.66%ですから、0.66%の金 利しか残らないことになります。 CDS(Credit Default Swap)は、債権・債務に無関係な、第3者が、か けることができます。ある人への生命保険を、家族以外の第三者がかけ るのと、同じです。 【架空の事例】 例えばゴールドマンが、1000億円のギリシア国債に、9.79%の保証料( 97.9億円)を払って、CDSをかける。 保険料をAIGが97.9億円を受け取って、引き受けたとします。AIGは、ギ リシアが債務不履行(デフォルト)になったとき、1000億円を、ゴール ドマンに支払う義務を負います。 その対価(保険料)が97.9億円で、AIGの当年度利益です。今、シャド ー・バンクの中の利益では、CDSの保険料が相当部分を占めています。 ギリシア国債のCDSの料率が9.79%という意味は、CDS取引が、金融機関 の間で行われていることを示すのです。 その取引は、当時者の相対(あいたい)です。公開市場がない。 監督当局(政府や中央銀行)にも分からない。 金融機関の、バランスシートの保証債務としても、デリバティブの多く は、オフ・バランスですから出てきません。 (注)監督すべき立場のFRB自体も、簿外での証券価格の保証を、500兆 円も行っています。内容は不明です。 AIGは、その保証義務を、時価(CDSの料率)で、他の金融機関に転売す ることもできます。一般にCDSの契約期間は、5年です。CDSの料率は、 変動します。 さて・・・ここからです。97.9億円を経費としてAIGに支払ったゴール ドマンは、何を期待するか?(注)ゴールドマンはあくまで、仮の仮定 です。念のために言います。他のどこであっても同じです。 言うまでもなく、ギリシア国債のデフォルト、つまりギリシアの財政破 産でしょう。 そのために、ギリシア国債を債券市場で「空売り」して、国債価格を下 げ、ギリシアの国債金利を高騰させことがあるかも知れません。 目的は「利益」です。日本国債や他の国の国債も、株と同じように、借 りて空売りができます。「国債の先物売り」でも、同じ効果です。 【効果】 PIIGSの国債が、大手金融機関から、大規模な空売りや先物売りに逢え ば、価格は暴落し、その国の金利は、暴騰します。 国債金利が10%に近づくと、新発債の発行は更に金利を上げ、既発国債 の価格を下げるので、「国債発行が不能」になります。国債で、財政赤 字をまかなうことが、できなくなる。 同時に、過去に発行した国債の満期(償還日)も、次々に到来します。 【事例】 もともと政府には資金がなかった。これが財政赤字です。 アイルランド政府は、GDP20兆円に対し、今、32%(6.4兆円)のマネー が不足しています。使途は公務員給料、年金、医療費、福祉費用、政府 事業費です。これで6.4兆円が不足です。 ところが、金利が高くなっていて今は国債発行ができない。買い手は10 %を超える高い金利でしか、買わない。無理に発行すれば、アイルラン ド債の金利は20%を超えるでしょう。 しかも過去の国債(GDP20兆円の70%=14兆円)の満期支払いが、平均 で5年とすれば、[14兆円÷5年=2.8兆円/年]来ます。 単純に計算しても、[6.4兆円+2.8兆円=9.2兆円]が不足します。( 注)EUとIMFからの緊急支援金枠850億ユーロ(9.4兆円)がこれです。 実際、国債にかけられた高い料率のCDSは、国債空売りや先物売りをし て、その国の財政破産を期待するものでもあります。 ▼痛恨の回想 ゴールドマンの元社員だった神谷秀樹氏は、『ゴールドマン・サックス 研究』(文春文庫:2010年10月10日刊)の中で、以下のように述べてい ます。 「リーンマン・ショックの引き金になった住宅金融担保証券(MBS)に 、大規模な空売りをかけて、本人は大儲けをし、市場を壊したのは、ゴ ールドマン・サックスだった(P119)」 ゴールドマンは、住宅ローンのデフォルトが増えMBSが値下がりすると 儲かる仕組みの、CDSを売買していたからです。かつての当事者が、恥 を忍び、誰もが読める本に書くくらいですから、真実でしょう。 ■6.金融のモラル・ハザードを生むCDS モラル・ハサード(倫理的障害)は、火災保険がかかった建物は、保険 がかかっていないものより、火災の発生率が高かったことから、言われ るようになった金融の犯罪です。 【違法か,違法すれすれ】 ギリシア政府の金融アドバイザーを務め、政府の債務偽装に荷担してい たのは、ゴールドマンでした。ギリシアの政府債務を、高い配当をつけ 、中国に売ることをしていました。ゴールドマンは、中国政府の、金融 のコンサルタントでもあったのです。 同時に、ギリシア政府の、債務偽装をどこよりも早く知り、 ・裏では、ギリシア国債を大きく空売りして、価格を下げ、 ・国債価格が下がり、金利が高騰すると利益が出るCDSを売買していた のです。 神谷氏は、ゴールドマンに勤めていた7年の経歴は、痛恨であると述べ ています。CDSを保険金殺人と同じものと言っています。CDSは、無規制 です。1990年代からの、金融自由化の潮流の中で、大きくなっています 。 債権者が、債権の回収のためにかけているCDSは、20%しかないと言わ れます。残り80%は、債務者が支払い不能や、証券が下落すると利益が 出る仕組みで、第三者の金融機関やヘッジ・ファンドがかけたものです 。これが、次々に、転売されていることは、述べました。 (注)世界の証券に対するCDSの保証元本は、$54兆(4480兆円:08年6 月)です。このうち、3580兆円は第三者がかけたものです。1年に2%の 料率としても、3580×2%=72兆円の保証保険料です。 問題は、CDSをかけた金融機関が、どういった行動をとるかです。 投機家ジョージ・ソロスと、米政府の金融顧問ボルカーは、「金融の犯 罪も生むCDSの全面禁止」を訴えています。 しかし、今、CDSを禁止すれば、保証元本4480兆円の証券価格は、暴落 します。政府が禁止するにせよ、CDSの契約期間である5年後を待たねば ならない。 ゴールドマンは、怪しい金融取引を含む米国金融市場での大規模なイン サイダー疑惑で、政府からの調査を受けています。インサイダー取引は 、金融でのもっとも重大な犯罪です。(ウォールストリート・ジャーナ ル:10.11.20) 非公開の情報を得て、有利な売買を行うゴールドマンのインサイダー取 引が「大事件として」に明るみに出れば、それを解かねばならず、世界 の株価と証券価格の、大きな圧迫要因になるでしょう。 1980年代に、 ・才あるクオンツを擁して、デリバティブを開発・販売し、 ・ウォール街の帝王とまで言われていたソロモン・ブラザース(1910年 設立)も、 米国債の大量な不正入札が発覚し、投資家の信用を失い解体され(1991 年)、現在はシティバンク・グループの傘下です。 2000年代金融の帝王ゴールドマンも、同じ宿命をたどる気がします。20 09年から噴出した、怪しい取引とスキャンダルが多すぎます。 金融業はヘッジ・ファンドと同じで、投資家からお金を預託され、レバ レッジをかけて運用します。ファンドが信用を失うと、投資家のマネー が逃げ、利益があってもつぶれます。 トレーダーは、自分は1000億円を運用していると言う。そのマネーは、 他人のものです。 債務回収を保証するCDSがあったため、安易な証券購入、投資、投機が 増えたと言えます。CDSがなければ、サブプライム・ローンも生まれな かった。PIIGSの問題になるような、異常で過剰な貸し付けも起こらな かった。 世界のバブル発生と、バブルの必然的な崩壊は、CDSが引き起こしたと 言えます。 【情報の非対称】 CDSは情報の非対称を、価値の根源とします。CDSを組成する側は、リス ク率を知っている。ところが買い手は、それを知らない。そのために、 利益が生じます。 いや、CDSを組成するクオンツも、本当のリスク率を知らないのかも知 れません。 命を担保にしたデリバティブ証券である生命保険を考えてみましょう。 生命保険は、死亡が、個々に独立しているということで成立します。そ のため、一度に多くの人が亡くなる戦争では、保険金の支払いは免責に なっています。 CDS(債務回収を担保とする保険)も、例えば、住宅価格の下落と、住 宅ローンのデフォルト・リスクが、個々に独立であるということで成立 します。 ところが、住宅価格が大きく下落するときは、ごく一部の地域を除き、 その国の全部の住宅価格が30%や50%も下がります。米欧の住宅がこれ です。住宅ローンの支払い不能額も30%や50%になる。 住宅ローンを多く集めて混合し、リスク分散しているように見えるMBS (不動産ローンを担保とする証券)も、 ・シニア債で60%(AAA格)、 ・エクイティ債で30%以下(BBB格)に下落しています。 こうした原資産価格(住宅ローン)の同時崩壊を「システミック・リス ク」と言っています。 CDSやMBSと同じ仕組みをもつのが、CBO(公社債を担保する合成証券) 、CLO(ローンを担保とする合成証券)、およびCDS・MBS・CBO・CLOを かき混ぜて合成したCDO(債務を担保とする合成証券)です。 今年のPIIGS国債のような同時下落、つまり「システミック・リスク」 には無力です。 これらのデリバティブの元本総額は、通貨や金利のスワップ(交換取引 )を含むと$539兆(4京4700兆円:08年:世界のGDPの9年分)と、あら ゆる金融の先物取引にかかっていると見ていい。 08年9月の、リーマン・ショック以来続いている「金融商品が同時下落 するシステミックなリスク」には無力です。 ■7.日本に財政破産はあるのか? 月曜日に、本誌の読者でもある編集者と、恵比寿のウェスティンで出版 の打ち合わせをしている中で、以下のように訊ねられました。 「今、日本は財政破産するという人と、政府財政は破産しないという論 者に分かれています。一体、どちらが予測として正しいのでしょうか。 そして、国が財政破産すれば、どうなるのでしょうか?」 多くの方も、同じ疑問を、もたれていることでしょう。 これからの経営、仕事、生活にも関わる、重要な問題です。 ▼政府財政破産とは何か? まず、「政府の財政破産とは何か?」です。 財政破産は、「政府が発行をもくろむ国債(借り換え債を含むと1年に1 73兆円という巨額)が、債券市場で引き受けられなくなったとき」に起 こります。 わが国の、93兆円の政府一般会計の財源は、税収と特別会計の勘定振り 替えでは、49兆円しか見込めず、44兆円不足しています。そのため、44 兆円の国債を新規に発行する予定です。 (注)昨年度は53兆円を発行し、埋蔵金を10兆円使っています。市場引 き受けは、今年度の予定とほぼおなじ、43兆円です。 来年度の国債発行予定は、新規が44兆円です。しかし過去の国債の満期 が来るので、借り換えのために[771兆円÷長短国債の平均残存期間6年 =129兆円]の借り換え債も発行します。 合計発行額は、新規国債44兆円+借り換え債129兆円=173兆円です。ど ちらもおなじ国債ですから区分はありません。1ヶ月平均で14.4兆円と いう巨額です。 173兆円の低金利国債(短期0.17%:長期1.12%)を、 ・政府系金融機関(郵貯・簡保・公的年金基金)と、 ・民間金融機関(銀行・保険会社・個人・海外)が順調に買い、引き受 けている間は、財政破産はありません。 (注)ペーパー・マネーの発行権をもつ日銀は、[量的緩和第二弾(米 国FRBに倣ったQE2)]として、基金を作り、来年度末までに、5.5兆円 の長期債を新規に買うと言っています。 【借り換え債】 129兆円の借り換え債では、金融機関がもつ国債の満期が来て、国(特 別会計の国債整理基金)から、額面金額の現金が振り込まれます。 金融機関は、振り込まれた現金で、129兆円分の借り換え債の「買い受 けに応じる」とされています。この借り換え債が捌(さば)けないと、 金利は高騰し、政府の国債発行は困難になります。 【新規債】 あとは、44兆円の新発債です。日銀が5.5兆円を引き受けると言います から、残り38.5兆円です。これを、政府系の郵貯・簡保・年金基金と、 民間金融機関・保険会社が買い受けねばならない。 【最大の引き受け機関が郵貯・簡保だった】 郵貯は176兆円、簡保は79兆円、年金基金は90兆円の国債を、すでに、 保有しています。増加買いするには、郵貯の預金が増え、簡保が増えて 、年金基金の残高が、増えていなければならない。 前々号(11月20日:511号)で示したように、郵貯は2000年に260兆円の 残高がありました。2009年は、170兆円に減っています。1年に、10兆円 も減る傾向が続いています。 簡保(簡易生命保険)も、2005年の121兆円が最高残高でした。2009年 には106兆円に15兆円が減っています。1年4兆円が減る傾向です。郵貯 と簡保の合計では、14兆円(年間)の減少です。 理由は、郵貯・簡保の担い手だった団塊の世代1000万人(1947年生まれ から5歳の幅)が、 ・2008年から60歳を超えて、30%の人は退職し、 ・70%の人が再雇用されても、 ・賃金は現役時代の50%に減るからです。 2年後の2012年になって65歳に達すれば、厚生年金で200万円、国民年金 で60万円くらいの年金受給の年代になって、更に預金を取り崩すように 変わります。 このため、郵貯・簡保は、増えることが期待できない。 1年に14兆円も減る傾向が、加速されます。 【民間銀行の預金増】 次は、民間銀行の預金です。2000年の282兆円が、2009年には363兆円に 増えています。1年に9兆円増える傾向です。 預金増には、後述する、08年9月以降の、リーマン・ショックの後の、 日本の金融機関が持っていた米国証券の売りも混じっています。これは 、2009年、2010年の円高・ドル安の主因でもあります。 国内企業への銀行貸し出しは、増えていない(逆に減っている)ため、 預金増によって、民間銀行は、20兆円くらいの余剰資金を抱えています 。 銀行の20兆円が、国債の増加買いの資金になっています。民間銀行の国 債保有は、10年3月で103兆円ですが、大きく増える傾向を示しています 。郵貯・簡保・年金基金が、増加買いができなくなったのですが、銀行 が、今、その代わりを果たしているのです。 【生命保険】 生命保険の基金は、2000年の190兆円が205兆円(09年)に増えています 。1年で1.7兆円の増加です。これも、国債の増加買いの資金になり得る でしょう。(以上のデータは、郵政事業の財務状況、営業状況:2010年2 月:総務省) 【民間の増加引き受け余力額21.7兆円】 (1)民間銀行の、約20兆円(最大)、 (2)生命保険の、1.7兆円(最大)、 合計で21.7兆円が、国債を増加買いする民間の資金源(最大)でしょう 。 個人(国債保有41兆円)、海外(主に短期国債の保有49兆円)は、増加 買いしても、わずかです。国債の増加引き受けの、予定財源にはできま せん。予想誤差のように小さい。 民間の財源21.7兆円と、日銀の、長期国債買い受け枠5.5兆円を合計す ると、27.2兆円です。来年度の44兆円の発行予定に、16.8兆円も不足し ます。 (注)2000年代から日本の、国債引き受け可能額は1年30兆円が上限と 言われていましたが、奇しくも、その数値と一致します。ただしこの数 年で、大きく変わったのが、郵貯・簡保・年金基金が減り初め、政府部 門の買い余力が、日銀以外にはなくなったことです。このため、国債の 引き受け可能額は、20兆円かも知れません。 財務省は、不足分を、 ・特別会計からの勘定付け替えと、 ・日銀の短期保有で乗り切るつもりでしょう。 ■8.問題は、郵貯・簡保の「国債売り」の到来 ・176兆円の国債をもつ郵貯、 ・79兆円の国債をもつ簡保(いずれも10年3月)が、 ・預金と基金の減少傾向(1年で14兆円減)から余剰資金が枯渇し、 保有国債(両方で255兆円)を、売りに出す時期が問題です。 高齢化の進展のため、郵貯と簡保の保険基金が増えることはない。5000 万世帯の平均的な所得増がなく、逆に減っているので、郵貯・簡保を増 やす余力がないのです。今、1年に、14兆円も減る傾向です。このため 、郵貯・簡保が、255兆円の保有国債を売りに出す時期は、必ず来ます 。 年度を別にすれば、100%の確率と言っていい。この時、日銀が債券市 場で売られる国債を、買い受けるしか方法がなくなります。 【予算縮減とその結果は?】 政府が予算の縮減で、44兆円(来年度)の国債発行を、翌2012年以降、 30兆、25兆円、20兆円に減らせば、何とかなるかも知れません。 政府の一般会計の予算を、今の水準(93兆円)から14兆円減らして79兆 円にし、国債発行を30兆円にすると、どうなるか。 政府予算が、93兆円分の構成要素である名目GDPも、14兆円(3%)確実 に減ります。 名目GDPが3%減るのは、国民の総所得(世帯所得+企業利益)が3%以 上減ることです。所得の低下で今36.9兆円ある税収が、更に減れば、そ の分国債を増加発行しなければならない。 急激な政府予算の縮減は、国民経済を縮小させてしまうのです。 【増税の結果は?】 消費税の増税は、どうか。消費税は1%で2.5兆円分です。10%に上げる と直前の月は、駆け込み需要で売上が増えます。その後は、12.5兆円分 の買い物が減ってGDPが減ります。 (注)3%の消費税の創設(1989年:竹下内閣の時期)と、5%に上げた (1997年:橋本内閣)のとき起こったことです。 増税は、世帯所得が増え企業所得が増える時期、つまりGDPが増える時 しかできない。 名目GDPが減っているとき増税案を政府が出しても、国会では否決され ます。増税を強行するなら、国民の反乱が起こると同時に、GDPは急減 するでしょう。ギリシアやアイルランドに似た状況になるのです。 (注1)残された方法は、消費税を年1%ずつ上げることでしょうか? 1%ずつ物価が上がったように感じられるので、エコポイントに似た、 買い物の前倒しも起こるでしょう。 (注2)政策立案の能力のないことが知られた民主党や、総選挙の後の 連立政権には無理かも知れません。新しい国家像を作るリーダシップで 、国民からの預託・信頼を受けるとは考えにくいからです。 ■9.日銀の国債買いの有効性 国債が金融市場で捌(さば)けなくなった時の手段は、日銀の国債引き 受けです。これはどこまで可能か? PIIGSでは、前述したゴールドマンのような、国外の金融機関による国 債の空売りが、財政危機の発火点になっています。空売りで、国債価格 が下がり、1ヶ月で金利が高騰しています。 ▼国債空売りの起点 ヘッジ・ファンドによる国債の空売りは、 ・中央銀行しか国債を増加引き受けができないと認識された時点で、 ・空売りで利益を出すチャンスとして起こります。 (注)空売り:国債を証券会社から借り、大量に売って価格を下げ、期 限日に安くなった国債を買い戻して返済し、売りと買いの差額の利益を 上げる取引。 ここで見るべき証拠は、 ・ECB(欧州中央銀行)、EU、およびIMFが買い受ける(ギリシアとアル ランドへの緊急資金援助)と言うのに、 ・PIIGSの国債の空売りと金利高騰(価格下落)が、起こっていること です。 つまり中央銀行が、引き受け手のない国債の買いを発動すれば、その国 債は、空売りされ、市場で売られます。 「日本の国債は、米国債のような海外保有(50%)や、対外債務が290 兆円のPIIGS国債と、保有の事情が違う。日本では国内の金融機関が、 豊富な個人金融資産を背景に、国債を買っているから、PIIGSや米国の ような、国家財政の破産はない。」とする論者も多い。 国内金融機関は、財務省(金融庁)の強い管理下にあり、「よもや、国 債の空売りはしない」とされています。 幸い日本の国債は、海外ファンドがもつ分は、49兆円(総国債の6.4% )と少ない。空売りをしても多額ではないだろうというのは、間違いで す。 (1)一方では、CDSをかけて売り、 (2)日本国債の、金利高騰(国債価格下落)に賭け、 (3)空売りと先物売りをするヘッジ・ファンドが必ず出ます。 実際にこれが起こると、国債保有による損を怖れる国内金融機関も、売 りに回らざるを得なくなります。ユーロ建て国債の、PIIGSで起こった ことです。(前述) タイミングは、郵貯(国債保有176兆円)・簡保(同79兆円)・年金基 金(同90兆円)が、 ・預金、保険基金、年金基金の減少から、 ・資金繰りのために保有国債売りを迫られ、 日銀が買い受けると認識された時でしょう。 時期はいつか? ヘッジ・ファンドが日本国債の空売りを狙うのは2012 年か、2013年に思えます。 2012年は、戦後ベビーブーマー1000万人の先頭世代が、65歳を超え、ご く少数の会社役員以外の人は完全退職して、年金受給が始まる年度です 。年金基金が減り、65歳以上の人の医療費が急に増え始める時期になり ます。 加えて、70%が政府保険の医療費は、 ・60歳以下は1人当たり15万円ですが、 ・60歳を超えると、1人平均で55万円に増えます。 夫婦2人の世帯で、1年間に110万円の医療費(個人負担33万円:政府保 険77万円)になります。年度が経つ毎に、増えて行きます。80歳以上で は、1人平均100万円です。 2012年までに名目GDPを減らさず、増税を済ましておくことは、今の政 府や次期政権にできるはずもないでしょう。 やむなく増税になるのは、ギリシアやアイルランドのように、国債が売 られて金利が上がり、国家財政の破産が明白になった後でしょう。 そのときは、増税、公務員削減、政府予算の縮減しか、方法がなくなり ます。 ■10.対外債権を売って、超低金利の日本国債を買う方法 日本は、対外債権を、世界で最大の554兆円(09年末)も持っています 。対外負債は288兆円で、対外純資産が266兆円ある。 財務省が管理する外貨準備は、$1兆(83兆円相当)です。外貨準備は 、09年からの円高・ドル安で、30兆円の累積損です。政府はドルベース でしか発表していません。 対外債権を使えば、国債買いができるという論者もいます。 http://www.mof.go.jp/houkoku/21_g.htm 確かに、日本は、世界最大の純債権国(お金もち国家)です。 対外負債が合計で290兆円もあるPIIGSとは、異なります。 日本の対外債権は、ほとんどが米国債と米国GSE(住宅証券会社:フェ ニーメイ:フレディマック)が発行した住宅証券です。後はユーロ債で す。ドル債・ユーロ債は、円高・ドル安・ユーロ安のため、約20%は減 価しているはずです。(注)政府は内容を示してはいません。 これら外債の含み損は、[554兆円×20%=110兆円]でしょう。つまり 、554兆円の対外債権は、今、554兆円-110兆円=444兆円に減っている でしょう。(注)円安・ドル高のとき、売っておけば良かったのですが ・・・ 対外負債の288兆円は、オフショア(租税回避地)を含む海外からの、 日本の株と証券への投資です。対外負債は円ベースであるため、ドル安 でも減ってはいません。 日本の対外純資産は、2009年の266兆円から、110兆円減って、156兆円 (59%)に急減しているでしょう。 円高・ドル安・ユーロ安で110兆円減ったとは言え、 444兆円の対外債権は巨大です。 これを利用できるか? ▼ドル債を売ると 利用のためには、日本の政府・金融機関がもつドルベースの米国債(及 び住宅証券)を、売らねばならない。 (注)直接に売らずとも、ゴールドマンに頼んで、米国債と住宅証券を 合成したCBO(公社債を担保とする合成証券)を売ることもできます。 米政府が、日本にこれを許すかどうか・・・米国が資金不足で、ドル金 利上昇になるからです。 強行する方法もありますが、ドルの下落とドル金利高騰、そして、円高 を招きます。このため、対外債権の円で見た価値が、どこまで減るか。 同時に、輸出企業は、円高・ドル安ショックを受け、GDPは減ります。 (注)日本の輸出額は、年間57兆円(10年6月時点)です。 統計を調べると2007年末の、対外債権は610兆円でした。2009年は、上 記のように554兆円です。2年で、56兆円減っています。1年で28兆円の 、ドル債売りと評価替えの損です。 日本の銀行の、ドル債からの引き揚げが、2008年以降の円高・ドル安の 主因でしょう。(注)売られたドル債を増加買いしたのが、自国の通貨 高騰を冷まそうとする新興国です。 08年9月のリーマン・ショックの後、日本の金融機関が、米国の資産を 引き揚げたことからです。国内銀行の預金増(1年に9兆円)には、こう したドル債からの、資金引き揚げが混じっています。 http://www.mof.go.jp/houkoku/19_g.htm 【1年に10兆円のドル債売りは、可能だろう】 1年に10兆円分くらいなら、以上のような対外債権の引き揚げで、銀行 の日本国債買いの余力は、出るかもしれません。それにしても、限界が あります。 2012年の国債危機のときから、わが国のドル証券の売りが始まり、それ で、数年はもつかも知れません。 (注)本当は、これで、金を買っておくほうがいいと考えています。10 年単位で見たとき、一度は暴落しても、資源価格に合わせて、それ以上 に上昇する可能性が高いからです。 ■11.2012年以降 2012年以降は、団塊シニアが退職し、年金生活にはいるとともに、一家 族で2人の子供である団塊ジュニアが、30台の後半に向かって、住宅取 得が増え、耐久財の購入と買い物が増える時期になります。 30歳代の半ばから40歳代は、所得が増える年代です。名目GDPの面では 、2012年を国家財政の破産がなく乗り切れば、わが国GDPも、緩やかな1 0年の上昇過程に入るでしょう。 しかし、2012年までの政府の経済と外交運営が、 ・今の民主党のように稚拙で、 ・世界の金融市場へ考えがないために、国家財政の破産があると、話は 別です。 国債問題は政治問題でもあります。1980年代に、英国病から救った鉄血 宰相サッチャーのようなリーダシップが必要です。 【懸念:このままなら・・・】 (1)2012年頃の、ヘッジ・ファンドからの日本国債の空売りを起点に 、 (2)わが国の金利が上昇し、 (3)2012年には850兆円超えに向かう国債が下落するからです。 (注)短期証券を含む政府債務は、2012年には1100兆円です。 国債金利が1%上がる毎に、平均満期6年の850兆円の国債は、6%(51兆 円分)価格が下がります。2%で、100兆円の下落です。 金利が上昇すると、その後に発行する新規国債と、借り換え債(2012年 には200兆円くらい)で、国が払うべき金利が上がります。1%の上昇で 2兆円、2%上昇なら4兆円、3%上昇なら6兆円の利払いが、年々、増え ます。 一旦こうなると、対策を打っても、国家財政の破産です。2%の金利上 昇(長期債3%)で危なくなります。政府の財政破産は、今のギリシア やアイルランドのように、失業を増やし、所得は増えないのに税負担が 増え、国民の生活を苦しめます。 2011年・2012年の、政治・外交の政治責任は、重大です。認識があるか どうか。首相の国会答弁を聞くと悲哀を感じます。器量がない。民主党 政権の経済・金融への知識の薄さと、政策立案能力の低さが、財政破産 を近づけます。 ▼低金利国債のリスク 短期国債0.17%、10年債で1.12%という超低金利の国債は、2%の期待 金利の上昇で売りが増え、一層の金利高騰に向かうからです。 低金利は、国債価格をインフレートさせています。わが国の国債の超低 金利は、国家財政の、信用の高さとも言えますが、あまりに低すぎる金 利の国債が、金利上昇の危機を孕(はら)んでいるというリスクがあり ます。 本稿は、ここまでです。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源プレミアム・アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です。】 1.内容は、興味がもてますか? 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