紙幣を発行する中央銀行の敵は、ゴールド価格だった(3)
This is my site Written by admin on 2011年12月21日 – 09:00

おはようございます。金融、経済、災害で危機が襲い、不感症にな
るくらいだった2011年も、あと10日間です。

暦の上で20世紀が終わったのは、11年前でした。漠然とした言い方
ですが、今は「多極化と分裂の21世紀の体制」へ向かい、既存のも
のが、自壊に向かう時期なのでしょう。国家(官僚体制が国家)も
同じです。

財政破産は、政府の崩壊を突きつけるものです。それは、目に見え
る現象では、支持を失った政党の自壊という形をとります。

国際的な面での20世紀体制は、米国による中央集権でした。つまり
ドル覇権の時代でした。マネーの面では、これをドル基軸通貨制と
言う。基軸通貨は、世界に使われることで覇権をもちます。

体制は、上部構造です。下部構造は経済です。経済を示すのがマネ
ーです。ユーロは、ドル覇権に対し堤防を作って地域通貨を作る試
みでした。

▼PIIGSの財政危機は、ドル危機でもある

今、ユーロの問題は、限定すればPIIGSの財政破産の問題であり、P
IIGS債をもつ欧州銀行(フランス、ドイツ、英国の順)の信用危機
とされています。しかしこれは、実は、米国銀行の対欧州貸付金の
不良化でもあります。

米国は対外純債務国である。言い換えれば海外(日本、中国、産油
国、新興国)からお金を借りて経済を回しているというイメージが
強い。確かに、$3兆(純債務240兆円:2010年米国経済白書)の、
対外借金の超過国です。

ところが一方ではGDP($14兆:1120兆円)を上回る$20兆(1600
兆円)の、対外貸付金(証券、株、デリバティブ保有)ももってい
ます(2008年)。対外負債が$23兆、対外債権$20兆です。

日本の対外負債は、312兆円(2010年末:同年の対外資産が563兆円
:日銀)です。ほとんどは、米欧系の銀行とファンドからの、対日
投資(株、国債、社債の買い)です。

米国の金融機関は、海外に売ったドル債で得たマネーを国内で使う
と同時に、海外に投資(国債、証券、株、社債、デリバティブ)ま
たは貸付をして、マネーを世界に還流させています。

(注)この国境を越える資金還流を、ドル基軸による「グローバル
経済」と言っています。マネー流通のグローバル化がグローバル経
済です。米国は、海外から借金を原資に、「グローバル経済化」を
果たしていたのです。基軸はキー・カレンシー。原義はもっとも価
値がある通貨の意味です。

米国の対外資産$20兆(1600兆円:08年)のうち、対日投資の割合
は18%程度($3.6兆:300兆円相当)でしょう。

ここから推計すれば、日本のGDP(経済規模)の3倍である対ユーロ
17ヵ国への投資(または貸付)は、対日の3倍の$11兆(880兆円)
くらいと想定できます。

●米銀は、ユーロへの証券投資(ユーロ国債、株式、デリバティブ
、または貸付金)として、$11兆(880兆円)付近を保有している
。こためPIIGS債に見られるようなユーロ債の下落は、直接に、米
銀の巨大損になる。PIIGSとユーロ債の危機、およびユーロの銀行
危機は、米国金融の損に直結しているということです。

(注)米欧の銀行は、相互持ち合いが大きい。フランスに行っても
、米ドルをユーロと区分することなく取り扱っています。この点で
、円は、その流通性、言い換えれば誰もが好んで受け取る点では、
元と同様に一段低く見られている通貨です。

加えて米銀は、PIIGS(南欧5ヵ国)に対し、$1.6兆(128兆円)
のCDS(国債の利払いと償還を保証するデリバティブ証券)を発行
し、売っています(BISの公的な統計)。

もちろんこれは、申告されたものだけです。CDSによる保証債務は
、銀行のバランス・シートには、載りません。このため、米銀がPI
IGS債の暴落と、事実上のデフォルトで保証すべき金額の全貌は、
誰にもわからない。おそらくすでに、米銀が受けたCDSによる損害
(時価評価)は、優に$1.6兆×30%≒0.5兆(40兆円)にはなっ
ているはずです。

結論を言えば、PIIGSの国債の下落とデフォルトの危機は、
・欧州の銀行だけではなく、
・米国銀行の危機にもなる、連鎖の構造があります。

今、「PIIGS債の下落→欧州銀行の危機→通貨ユーロの危機」とさ
れています。

2012年の1月からは、「ユーロ債の下落→CDSの高騰→米銀の危機→
通貨ドルの危機」でしょう。国債価格、株価、通貨の下落は、直接
に、それにかかったデリバティブでの巨大損になるからです。

サブプライム・ローンのデフォルト率(借り手の支払い不能率)の
上昇が、それを含む債務を合成した証券(RMSB、MSB、ABS)の価格
を暴落させ、同時にその回収を保証する証券(CDS)を高騰させて
、リーマンやAIGを倒産させたのと同じことです。

住宅ローン証券の下落と、PIIGS債の価値下落は、類似しています
。

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<569号:紙幣を発行する中央銀行の敵は、
                           ゴールド価格だった(3)>
                  2011年12月21日号

【目次】

1.金融危機の収束には、約5年かかる
2.中央銀行の紙幣が、マネー・ストックを増やす仕組み
3.銀行が抱えた不良債券は、
              銀行システムによる信用創造力を急落させる
4.欧州中央銀行(ECB)が4兆ユーロを刷れば・・・
5.「ある世界像」か?
6.世界の銀行への、新BIS規制の不思議さ
7.BISは、国債をリスク資産にする意図ももつ

【後記:新刊書】

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■1.金融危機の収束には、約5年かかる

欧州と米国の銀行は全部が、「自己資本は、最低でもリスク資産の
8%はあるので大丈夫」と言っています。じゃなぜ、政府資金や中
央銀行(欧州ECB、米国FRB)からの、緊急の資金貸与が必要なのか
? この3年、米欧の銀行が言うことは、まるで矛盾し聞くに値しま
せん。

表面上のバランス・シートは、以下の2つの理由で健全に見えます
。

(1)08年9月以降の3年間、銀行資産の時価評価は、米欧の政府に
よって、停止されたままである。このため、保有証券や通貨の下落
で大きな含み損が生じていても、決済日までは、現れない。

(2)オリンパスのように、タックス・ヘイブン(オフ・ショア)
の子会社やファンドに損失を飛ばし、8%以上の自己資本があるよ
うに調整されている。飛ばしは、「証券等を簿価(取得価格)で売
ること」です。簿価で売れば、売った銀行には損は生じません。損
失は子会社で眠ることになりますが、満期には債権をもつ相手先が
決済を要求するため、いずれ、表面化します。

金融機関は、「来週早々には、約定支払日が来る債務の決済資金が
足りなくなることが確実」になるまで、それを言いません。20世紀
の銀行制度ができたとき以来、これが、抜きがたい習性です。

金融機関の倒産(つまり今日の決済資金の不足)を防ぐために、中
央銀行が緊急の融資をしていても、「個別問題には答えられない」
として隠します。中央銀行が行うのは、資金が足りない銀行への「
追い貸し」です。中央銀行が、銀行の資金不足や債務超過を言わな
いのは、銀行の、連鎖して全面的な崩壊になる取り付けを避けるた
めです。

たとえば、PIIGS債で満期が来たものの借り換え債の発行は、金利
の高騰のため、市場では不可能になっています。これが、事実上の
デフォルトです。しかし、実際のデフォルトは起こせないとする。


このため、PIIGSの南欧5ヵ国で足りない分は、その都度、ECB等が
借り換え債を買っている(=緊急融資している)のですが、それは
言わない。(注)東電、政府、銀行の関係も同じです。

こうした、世界の金融ムラの体質(ムラの文化)があるため、「大
きな金融危機は、最短でも(最良でも)、5年は続く」のです。日
本の1997年からの金融危機が、危機の状態をほぼ脱したのは、2003
年頃でした。

PIIGS危機が言われはじめ2年です。危機だ、あるいは危機は脱した
と言う紆余曲折(うよきょくせつ)があって、あと3年は続きます
。

付記すれば、08年9月からの金融危機(証券とデリバティブの下落
)での損失は、米欧で$5兆(400兆円:IMF)とされました。政府
・中央銀行がその不足資金を貸し付けて、やりくりされているだけ
です。

$5兆(400兆円)の損(特別損失)を埋めるには、400兆円の、米
欧の金融機関の経常利益が必要です。これはとんでもない巨額です
。この利益回復は ない。

つまり、損失の穴は空いたままです。埋め切れない損失は飛ばし、
時価評価も飛ばして、利益が出たように操作されているだけのこと
です。

これに加わったのが、2010年からのユーロ債、PIIGS債の下落(金
利の高騰)による危機です。損失の総額は、一部の金融筋は$4兆
(320兆円)と見積もっていますが、今後の下落を見た実際は、そ
の2倍になるでしょう。

欧州の金融機関は、欧州平均で40~50%(スペイン等は1/3)に下
がった住宅の、住宅ローン(総額1000兆円)での不良債権も200兆
円くらいは抱えているはずです。

(注)2012年は、中国の不動産バブル崩壊による、100~200兆円規
模の不良債権も加わります。上海や北京の、普通の近郊住宅(100
平米)の価格3000万円は、いかにも、無理な価格です。大都市部世
帯の年収100万円の30年分だからです。世帯年収の5年分(妥当値:
500万円)~7年分(最高値700万円)に下がらねば、買えません。
人々が買えなければ、買える価格まで下がるのが道理です。なお、
ロシア(モスクワ)の不動産は、上海・北京以上に高く、この6年
間で6倍に上がっています。これも崩壊します。

この3年、世界で、1990年からの日本のバブル崩壊と同じことが起
こっています。

日本の場合は「対外純債務」はなかった。
中国とドイツも、対外純債務はない。

米国、英国、PIIGS(南欧5ヵ国)とフランスは、対外純債務国です
。このためドル債とユーロ債が売られ、バブル崩壊の危機は、その
通貨であるドルとユーロの危機にもなるのです。ユーロの危機は、
それに連鎖するドルの危機と認識されるのが、2012年の年初でしょ
う。

時事問題と短期予測は以上にして、金融とマネーの総本山である「
中央銀行」にテーマを転じます。

■2.中央銀行の紙幣が、マネー・ストックを増やす仕組み

【事例】
中央銀行の紙幣の印刷が経済にとって有効なら、たとえば北朝鮮は
、「北朝鮮中央銀行」がウォンを刷って、国有企業と世帯に与えれ
ば、飢餓に近い貧困から脱することができるのか? できるわけも
ないことは、誰でも分かります。

▼フィシャー等式

じゃFRB、ECB、日銀によるマネー印刷は有効なのか? 有効とすれ
ば、なぜ有効なのか?  ここで三度目ですが、フィシャー等式に戻
ります。一国のマネー量と経済を関係づけるのは、この等式だけで
す。

M(マネー・ストック量)×V(マネー・ストックの回転率)
                 =資産と商品の物価上昇率×実質GDPの増加率

(注)マネー・ストックの回転率(流通速度とも言う)は、ほぼ一
定値です。わが国では、今、1年に1/3回転付近です。高いインフ
レ率になると、マネーの流通速度が急上昇します。預金をしていて
も、価値が下がって損なので、人々は商品や住宅の購入を急ぐので
す(現在の中国)。

ハイパー・インフレになると、人々は、価値が1時間単位で5%、10
%と下がる預金や現金を、一日ももたない。すぐ、商品に変えます
。このため、マネーの回転率が無限大に向かい高まる。バブルは資
産インフレですが、80年代後期の日本でも、普通の住宅が一週間で
数百万円も上がっていました。

実質GDPの増加は、商品(および無形のサービス)生産量の増加で
す。サービスは無形の商品です。行政、住居費(持ち家の帰属家賃
を含む)、通信、交通、医療、情報、知識、電気、ガス、ホテル、
娯楽、スポーツ等です。先進国では、サービス需要が商品需要とほ
ぼ同じ金額になっています。商品50%、サービス50%です。

マネー・ストック量(企業と世帯の預金がほぼ50%)が増え、サー
ビスを含む商品生産が増えないときは、マネー印刷は物価の上昇に
なるだけです。

(注)日本が、世界でひとり、物価が下がるデフレなのは、
・貿易黒字で増えたマネーでドル債を買い(円が海外流出し)、国
内の円でのマネー・ストックが増えず、
・円の価値が高くなって、円ベースでの輸入価格が下がっているか
らです。

▼中央銀行のマネー印刷+銀行システムでの信用創造

中央銀行は、直接にマネー・ストック(世帯と企業がもつ金融資産
)を増やすことはできません。ここを説明します。

中央銀行が印刷したマネーは、
・国債や社債を担保にとって、
・金融機関に貸し与えられるだけです。

(注)紙幣と、中央銀行が金融機関から預かった当座預金(べース
・マネーと言う)を増やすことはできます。

中央銀行による印刷で増えたベース・マネーが、世帯と企業の金融
資産(≒マネー・ストック:50%が預金)として増えるためには、
銀行が仲介する「信用創造の機能、つまりマネー量の増加」が働か
ねばなりません。

銀行が、国債等を中央銀行に売ることによって増えた「中央銀行当
座預金」が、世帯や企業に貸し付けられる。世帯や企業はその借り
たお金で、投資(住宅や設備投資)や商品購入をする。それらを売
った会社は代金を受け取って、それがまた、銀行預金になって貸し
付けられる・・・という信用創造の連鎖です。こうした、お金が回
る状態が起こると、経済は成長します。

経済取引では、AさんがBさんに支払った1000万円のマネーは、Aさ
ん預金から、Bさん預金に行きます。支払ったAさんの預金からは消
えます。しかし、これはBさんの1000万円の預金になります。

銀行システム全体では、Aさんの口座からBさんの口座に、振り替わ
っただけです。このため銀行は、その1000万円の預金を、預金の引
き出しに備える預金準備率(約5%:50万円)を残し、別のCさんに
950万円を貸し付けることができます。

そして、950万円を借りたCさんは、その950万円で設備投資や商品
購入をするという信用増加のサイクルになる。最初の1000万円の預
金(マネー・ストックの増加)が、銀行システムの中で、[1000万
円÷5%(無限等比級数)=2億円]もの、『信用創造』になります
。

(1)無から紙幣を印刷する中央銀行と、
(2)世帯と企業から預金を預かって貸す銀行システムが一体にな
って信用創造が行わます。これが、上記フィシャー等式の「マネー
・ストック」を増やすのです。

【結論】
マネー・ストックの増加は、
・「経済(実質GDP)に成長余力があるときは」、経済成長と物価
の上昇になります。
・成長の余力がないときは、インフレ(資産または物価の上昇)に
なるだけです。

経済成長は、売れる商品が作られ、それを買う個人の実質所得も増
えて販売数が増えることです。他方、インフレや資産価格の上昇と
は、増えたマネー・ストックの価値(=商品購買力)の下落です。


(注)冒頭で申し上げたように、北朝鮮中央銀行がマネーを刷れば
どうなるか? ウォンのマネー・ストック量が増えても、工場と農
地に商品の増加生産力がなく、商品生産量は増えないため、物価が
上がるだけです。このため北朝鮮がマネー印刷をしても、ウォンの
価値を下げるだけのことで、経済にとっては無意味です。

理由は、実質GDPの成長力(商品生産力)がないためです。中央銀
行がマネーを印刷するだけでは、消費にとって有効な商品の供給量
は増えず、実質所得も増えないので、生産された商品の量で計る実
質経済は成長しません。

▼参考)日本の14年間のデフレは、
              マネー・ストックが増えていないから

日本のマネー・ストック(1454兆円:11年11月)は、1997年以降、
年間で1~2%程度しか増えていません。わが国のマネー・ストック
が増えないことが、デフレ(資産価格と物価の下落)の主因です。


流通するマネー量(マネース・トック)が増えない理由は、銀行の
、民間への貸付金増加の機能がなくなっているからです。銀行は、
増加した日銀当座預金で、国債を買う機関になっています。

銀行が、預金で買っている政府短期証券と国債は、370兆円に増え
ていますが、企業と世帯への融資は、銀行の国債保有が増えた分、
減っているのです。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1111.pdf

▼米国と欧州はマネー・ストックが、07年までは、急増していた

世界金融危機の前の2007年まで、米欧のマネー・ストックは、年率
6~10%の速度で増えていました。

これが、ほぼ2007年まで資産価格(住宅や株)のバブル的な高騰(
2~3倍)と、年率3~4%の商品のインフレを生んでいた原因です。


1990年代半ばから、2007年までの米欧は、日本の1980年代と全く同
じ「マネー・ストック膨張」の経済でした。それがはじけたのが08
年からです。

このため、サブプライム・ローンの資金も供給され、サブプライム
・ローン並みに危険なPIIGS債と欧州の住宅(特に南欧)が、高く
買われていたのです。

■3.銀行が抱えた不良債券は、
              銀行システムによる信用創造力を急落させる

以上のような、銀行システムがもつ信用創造のメカニズムの中で、
金融機関に不良債券が増えるとどうなるか。

信用創造の、拡大の鎖(チェーン)が切断されます。信用減少にな
ると、資産と商品の購買量が減ります。

中央銀行がマネーを刷って金融機関に貸しても、それが民間経済(
企業・世帯)には回らず、金融機関の損失埋めと、資金繰りに使わ
れるだけになります。

結果は、マネー・ストック量が増えず、経済は「デフレ型の恐慌」
、
・最初に、資産価格の下落(不動産、株、証券)、
・つぎに、賃金と物価の下落になります。
・売上減少で企業に損失が増え、雇用が維持できなくなります。
  
失業が約25%レベルに達すれば恐慌です。いま、スペインが22.8
%(11月)、ギリシア17.5%(9月)、ユーロは10.3%(11月)
です。米国は8.6%、英国も8.3%です。

経済恐慌は、賃金の10~15%の下落と、25%の失業を言います。公
的な失業率は、どの国も、失業の本当を示しません。公的な失業率
×1.5倍くらいが、実態でしょう。

(注)最近、日米欧の政府は、金融・経済を含み、いろんなことで
本当のことを言わなくなっています。政権の経済運営の責任とされ
るからです。原発事故の、冷温停止の偽装発表のように・・・

【銀行の損失による、マネーストックの減少】
100兆円のリスク資産(貸し付金50兆円+証券保有50兆円)をもつ
銀行とします。普通は8兆円(8%)の自己資本を持ち、この8%が
準備率にもなっています。この銀行が、貸し付金の10%で不良化が
ほぼ確定し、保有証券(PIIGS国債等+株+社債)が20%下がった
とします。

現在の、欧州の銀行の平均がこれでしょう。米銀も類似しています
。日本の銀行も、ドル債の為替差損と株価下落で類似しているので
す。

未確定を含む、含み損失の合計は、50兆円×10%+50兆円×20%=
15兆円です。含み損を入れれば、7兆円の債務超過です。一般には
、これが公表されることは、絶対にない。自己資本が8%あるよう
に、「飛ばし調整」され、デリバティブでの損は未確定のままにさ
れます。

ところが、銀行間のオーバー・ナイト(2日)のコール・ローン(
短期資金の貸し借り)は、「相手の危険」を感じ、停止されます。


コール・ローンは銀行の資金繰りの命です。これがなくなると、翌
日の決済に難渋します。このとき、中央銀行が貸し与えているので
す。

銀行は資金不足になるため、増加貸付はできない。むしろ、貸し金
の回収にかかります。新たに貸さねば、過去の貸付金が約定弁済さ
れます。そして、手持ちの証券のうち、損が出ていないものを売る
。このため、優良な証券も下落するようになって行きます。

銀行は、お互いに貸し借りし、特にデリバティブを持ち合っている
ので、一行の危機は、全体に連鎖します。

▼米欧の金融機関の総損失は、1120兆円

BISが集計しているデリティブの価値(時価)の下落から、当方推
計した損失の総額(特に米欧)は、$14兆(1120兆円:2010年12月
時点)です。

合計で$14兆(1120兆円)の損失が、
・米・欧・英の大手金融機関、
・子会社であるSIV(Structured investment vehicle)やSPC(Spec
ial Purpose Company)、
・ヘッジ・ファンドの、時価評価されていない貸借対照表のどこか
の項目に、眠っています。

米国の金融機関で中核的な自己資本は100兆円、欧州でも100兆円、
合計200兆円が推計されます。米欧の金融機関の含み損は、自己資
本200兆円-含み損1120兆円=920兆円でしょう。

このうち08年9月からの金融対策として、米欧の政府・中央銀行が
信用拡大をし、金融機関に貸しているのが約$5兆(400兆円)です
。2011年現在、920-400兆円=520兆円の損失が、未確定の含み損
になっているでしょう。

まだ準備されていない「欧州金融安定化基金」で、1兆ユーロ(102
兆円)のユーロ債(政府保証債)を発行して売り、世界(米国、中
国、日本)から集めることができたと仮定し、それをフルに使って
も400兆円くらいが不足します。

2012年は、年初から、
・欧州の全銀行、
・PIIGS 5ヵ国、
・フランス政府の資金繰りが危険です。

(1)欧州の銀行が過去に発行していた証券(社債等)の満期償還
で、1兆ユーロが必要。
(2)欧州の各国政府が発行してきた国債の満期償還で1兆ユーロが
必要。

上記の含み損以外に、黙っていても、合計で2兆ユーロ(205兆円)
の満期償還があります。この借り換え債を発行して世界に売り、同
時に、当年度財政赤字のファイナンスのための新規債の発行がある
からです。

(注)欧州の銀行は、社債と国債を新規に買う資金力を、損失のた
め、失っています。自分自身が資金不足に陥っているからです。

通貨ユーロの、全面崩壊の危機が、迫っているように感じます。

欧州中央銀行ECBによる、4兆ユーロ(410兆円)のマネー印刷が必
要になるでしょう。その結果、どうなるか?

■4.欧州中央銀行(ECB)が4兆ユーロを刷れば・・・

遅くとも2012年の3月までに、金融がいよいよ煮詰まると、欧州金
融の全面崩壊を避けるため、米国FRBより腰が重いように見える欧
州中央銀行(ECB)が、「後は野となれ山となれ」と、4兆ユーロを
刷ったとします。金融市場は、これを期待しています。(注)月間
で3500億ユーロ(36兆円)レベル。

ECBを支配しているドイツという国の性格は、事態が煮詰まると「
とことん」まで行くことです。第一次世界大戦での敗戦後の、ワイ
マール共和国の、馬車でマルクの、レンガのようなブロックを運ん
でパンを買っていた、ハイパー・インフレがその証拠です。

M(マネー・ストック量)×V(マネー・ストックの回転率)
                 =資産と商品の物価上昇率×実質GDPの増加率、

の原理で、欧州がインフレになるのか? 
(注)2012年の欧州の実質GDPは、数%減ります。

金融機関に、含み損が巨大なため、
・銀行のECB預けの当座預金は増えても、
・民間のマネー・ストックは増えません。
 このため、インフレにはならないでしょう。

(注1)米国FRBが、08年9月(リーマン・ショック)の後、FRB信用
を2倍に拡大し、$1兆を急遽、金融機関に貸し与えたとき、金融機
関のFRB預けの当座預金が増えただけで、民間のマネー・ストック
は増えなかったこと同じになります。

(注2)日本の金融危機(2007年以降)の時も、日銀がほぼ50兆円
の信用拡大をし金融機関に貸しても、民間のマネー・ストックが増
えないことは同じでした。金融機関に不良債権があるときは、銀行
システムでの、連鎖的な信用創造が起こらず、このため、マネー・
ストックは増えない。

どうなるのか? ユーロ債が、ユーロ域内の銀行、および海外から
売られ、激しいユーロ安に向かうでしょう。今日、ユーロは102円
に下がっていますが、1ユーロが90円、80円と落ちる可能性が高い
。遠い先のことではない。2012年3月ころまでに、です。

ユーロ債が売られるということは、ユーロ域内から、国債等の債券
が買われた海外に、マネーが逃げることです。このため、ユーロ域
内では、ECBがマネー印刷を全開にした途端(公表せざるを得ない
)、逆に、マネーが抜けるという事態になります。

前稿でも申し上げたように、世界の為替マーケットでは、1日に500
兆円の通貨の売買(FX)があります。ユーロ売り、ドル買い、円買
い、元買い、スイスフラン買いが容易に起こるでしょう。(注)20
12年のドルは、米系銀行のユーロ債での損が露呈して、弱含みにな
るでしょう。

ユーロ経済は、どうなるか? PIIGS債のデフォルトは、ECBの資金
注入で避けることはできても、ユーロ債が売られ(つまりユーロが
他の通貨を買ってキャピタルフライトして)、ユーロ域内のマネー
・ストックは増えないため(逆に減る可能性が高い)、「デフレ型
恐慌」に向かうでしょう。

M(マネー・ストック量↓)×V(マネー・ストックの回転率→)
    =資産と商品の物価上昇率↓×実質GDPの増加率↓、になる。

1929年の、米国発の世界恐慌(株価と地価の下落)のときと同じで
す。この時も、すでに紙幣を発行するFRB(1913年設立、稼働)は
あったのです。

●つまり、中央銀行のマネー創造機能は、資産価格下落による金融
機関の不良債券の増加を原因とする信用収縮(マネーストック量の
減少)に対し、有効ではない。

じゃ中央銀行は、一体何のためにあるのか? 経済にとって、必要
ない。マネーは民間銀行が資本を準備金にして、発行すればいい。
その資本には、ゴールドが含まれるかも知れません。

■5.「ある世界像」か?

恐らく何かの意図があって『金戦争(Gold War)』を2002年に書い
たフェルナンド・リップスは、以下のように述べています。

(1)FRBを筆頭に、1971年~1999年までの約30年間、<紙幣の敵は
金>として、価格を下落させる目的で売り続けた、世界の中央銀行
の金(約3万1000トン)を、
(2)ほぼ2000年頃までに、1オンス(31.1グラム)で$250~$40
0の安値で、主体を分散し、買い占めていた一派があった。

1年に500トンの現物が放出されたとして30年で1万5000トンです。
売ったのは500トンという少量ではない。当方の仮説は1年に1000ト
ンの売りです。30年間で3万トンになります。

その総価格は、当時の時価では30兆円くらいにしかならない。大手
金融機関の、利用可能な資金量からすれば、ごくわずかです。PIIG
S債を400兆円も買うくらいですから・・・

公的統計では、未だに、主要国の中央銀行が保有する金は3万1000
トンとされています。30年も売り越してきたのに、残っているはず
もない。あるとすれば、「保護預かり」でしょう。

1999年には、主要国の中央銀行の金売却(売り越し)を、1年400ト
ンに制限するワシントン条約(期限5年)が結ばれ、2004年と2009
年の2回、更新されています。現在のワシントン条約は2014年まで
続きます。

金の売却制限の理由は、「中央銀行が売れる金が枯渇した」ことで
しか、あり得ないでしょう。

その後2002年から、金価格は、1オンス$350付近から2011年には$
1900まで、5倍以上に上がっています。買いが増え続け、他方で供
給が減らねば、こうした、継続的な高騰はない。

金価格が上がったのは、9.11後の米ドルに不安を抱いた新興国、
産油国、資源国の中央銀行・政府が金を買い続けたからです。なお
金の買いも、オフショアのエージェント(代理人)からなので、ど
こが買ったか、不明です。
http://nykinn.web.fc2.com/

ヘッジ・ファンドの売買が金価格を上げたという人が多いのですが
、それは誤りです。ヘッジ・ファンドは、先物の売買やオプション
の売買です。先物を買えば、ほぼ3ヶ月後の限月(げんげつ)まで
に、同量の反対売りをします。

オプションの売買も同じです。ヘッジ・ファンドは、短期の利益が
目的です。長期保有はしない。買って長期保有するところがないと
、価格が、ほぼ10年も続けて上がることは、起こらない。

ヘッジ・ファンドは、買いによって価格上昇に先鞭をつけることは
あっても、上がった時点で売っています。

(注1)金を含む国際コモディティ価格は、2011年7月をピーク(34
4ポイント)にして、下落し、12月現在で306ポイント(-11%)で
す。この理由は、ヘッジ・ファンドが2008年8月からの株価・証券
価格の下落のため損を抱え、保有している資産のうち、利益が出て
いるものを、2011年12月の年度決算に向け、先物で売り越している
からです。

(注2)先物の売りは、限月(3ヶ月後が多い)までに、反対売買、
つまり(強制的な)買いになります。このため、2012年3月に向か
い、ふたたび国際コモディティ価格は、上げ基調になるはずです。


■6.世界の銀行への、新BIS規制の不思議さ

3万トンの金現物を「ある機関(オフショアであるベネチアのデル
バンコ一族)」が買い占めているとすれば、デルバンコが、事実上
支配しているBIS(国際決済銀行:世界の中央銀行の上の、中央銀行
)が、自己資本規制を、米国銀行で5%から8%へ、欧州銀行に対し
ては9%、あるいは11%を要請していることも頷(うなづ)けるの
です。

いま金融機関は、巨大な含み損失を抱え、信用創造の能力を失って
、もっぱら国債を買う機関でしかない。

含み損も、ほぼ1年内に、実現損になります。金融機関に、消えた
自己資本比率を増やす規制をすることは、金融収縮(信用収縮)を
今より一層強めることです。

これはデフレ型の恐慌になる。日本の資産バブルの崩壊を、促した
主因として、「BISによる自己資本規制の8%基準」がありました。
このため金融機関は、リスク資産(貸付金と証券購入)を増やせず
、逆に回収して、安全資産とされる国債買いに向かったのです。

国債を買うと、(今は)自己資本比率が上がったように計算されて
いるからです(政府の銀行会計基準)。このために、日本では、バ
ブル崩壊が加速して、資産価格が下がったままです。

物価が下がる、デフレ経済にすらなった。デフレ型恐慌にまではな
らなかったのは、日本は対外純資産があるため、海外が、円債を売
ることがなかったからです。このため、円高が続いています。

仮に、1ドル200円の円安になっていたら、それはキャピタルフライ
トで、国内の資金不足から金利が高騰し(=国債は暴落し)ますか
ら、デフレ型恐慌に陥っていたはずです。

(注)欧州は2012年から、ユーロ安が加わったデフレ型恐慌に向か
い、これを避けるためにECBがマネーを4兆ユーロ刷れば、今度は、
インフレ型の恐慌に転じます。

デフレを避ける金融対策(量的緩和)が、インフレの原因になるか
らです。その前に、ドイツがPIIGSを切り離し、ユーロが解体され
る可能性も高い。そのとき、欧州の銀行は、政府出資によって、(
東電のように)国有化されるはずです。

▼BISの意図の想定

さて問題のBISです。

(おそらくは)3万トンのゴールドを買い占めたデルバンコは、欧
州と米国の金融崩壊の後、あるいはそれと並行して、ユーロとドル
以後の「ある世界像」を作るかも知れません。金を背景にすれば、
強制が可能になるのです。各国が信用しますから。

新国際通貨のワールド・ダラー(WD:仮称)のようなものでしょう
か。金と主要国の通貨から構成される通貨バスケット、「ワールド
・ダラー」です。名前は、フェニックス(不死鳥)でもいい。

当初、たとえば、1フェニックス=1ドル=1ユーロ=70円とする。1
フェニックスは。ブレトン・ウッズ体制(1944~1971年)の米ドル
のように、1定量の金と交換可能とする・・・ドルは貿易で使われ
る基軸通貨を終えます。

貿易赤字国の通貨は、フェニックスに対し下がって、たとえば1フ
ェニックスが2ドルになる。こうなると、米国の車も世界で売れる
ようになって、貿易が均衡します。日本も、貿易が均衡する。輸出
が増えれば、円がそれに応じて上がるからです。

日本経済は、「米ドル」の罠から抜けることができ、繁栄に向かう
でしょう。日本は、貿易黒字でドル債を買い(累積で563兆円の巨
額の対外資産)、ドル安で損をし続けているのです。

■7.BISは、国債をリスク資産にする意図ももつ

現在、BISは、「金融機関がもつ、AAA格を落ちた国債も、リスク資
産と見なす」という新たな規制を準備しつつあります。この規制が
発動されれば、日米欧の国家財政は、同時に破産します。

無国籍金融のBISが、これを発動するのは、日米欧の国家財政を同
時に破産させ、デルバンコ等が、今度は、暴落した国債を安値で買
うのが目的になります。これが、今後、金融危機を経た数年内に実
現する「ある世界像」かも知れません。

【後記】
新刊が、全国の主要書店、アマゾン、紀伊国屋WEB等で、先週から
発売になりました。アマゾンでは、予告の時点で約2000部の予約が
あったとかで、発売の直後に欠品していました。

在庫が補充されたようですので、案内をします。書名は『国家破産
』:これから世界で起こること、ただちに日本がすべきこと。です
。価格は1995円、400ページです。

世界金融とデリバティブへの予備知識がなくても、理解が進むよう
、意を用いました。1個人の立場から、巨大化した金融商品の取引
の森を見ています。数値と論理です。財務省とエコノミストに対し
、論争をいどんでいます。

今日、熊本から三時間をかけ新幹線で新大阪に帰ったとき、覗(の
ぞ)いた一階の書店では、平積みになっていました。昨夜、ANAの
最終便が整備不良で欠航し、熊本泊まりでした。

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