FRBの、出口政策への展開がもたらすもの(1)
Written by admin on 2013年8月24日 – 09:00
おはようございます。さっきまで、BIS(国際決済銀行)のアニュ アル・リポート(年次報告書:2012/2013年)を、苦労しながら読 んでいました。正直に言えば、字面(じずら)がとても退屈です。 しかし、その表現の奥は深い。 【米国の量的緩和の行方(ゆくえ)】 読んだ目的は、米国FRBの量的緩和第三弾(QE3)が、9月17、18日 に予定されている次回のFOMC(連邦公開市場委員会)で、どうなる かを予測するためです。 FOMCは、金融政策を決めるFRBの会議体で す。 日本を含む、世界の株価は、 ・米国の量的緩和第三弾が、早く終わるという観測が出ると下がり、 ・来年までは続くと見ると、上がっています。 昨年の9月に始まった量的緩和第三弾(QE3)は、米国の金融危機に 対して、中央銀行であるFRBが、毎月、米国債を$450億(4.5兆 円)、住宅証券のMBSを$400億(4兆円)買いとって、金融機関に ドルを供給するプログラムです。 確認すれば、金融危機だから、普通は行わないQE3のようなマネー 増発を行っているのです。振り返れば08年以降、5年間も、中央銀 行によるマネー増発が、世界で普通のことになっています。 この5年、われわれの経済は、中央銀行のマネー増発(5年間で1000 兆円増加)の上にあります。といっても、これが、何を意味するか わかりにくいでしょう。 簡単に言えば、世界の金融機関の資産である貸付金、国債や株を含 む証券、そしてデリバティブの価値下落で開いた穴(不良債権)に、 この1000兆円の中央銀行による増発マネーが覆いをしていて、その 上で、金融・経済が正常に見えているということです。中央銀行に よる、普通はないマネー増発で覆いをされた上に、われわれの経済 があるのです。 最も多額のマネー増発をしたのが米国FRB、次が欧州ECB、3番目が 日銀です。この5年間で、先進国の合計では500兆円のマネーが増発 されています。中国を筆頭にした新興国の合計でも、500兆円のマ ネー増発です。 以上が、世界の中央銀行のマネー政策を監視(モニター)している BISの年次報告書で分かります。世界の中央銀行の政策は、このリ ポートでしかわかりません。 英語で読みずらい文書ですが、掲載しておきます。2013年6月23日 に公開された最新版です。普通はわからないことが書いてあります。 本シリーズは、このリポートにも示唆を受けています。 http://www.bis.org/publ/arpdf/ar2013e.htm 中央銀行が国債や債券を買い取ってマネーを増発するのは、「金融 危機という異常な時期のもの」であることがすっかり忘れられてい るようです。 この逆の量的緩和の停止(出口政策)は、マネー政策の正常化なの ですが、それを行うと、世界の株価の下落と金利上昇という危機を 生んでしまう。 ここに、FRBのマネー政策において、08年のリーマン危機のあと5年 も続いているディレンマ(二律背反)があります。 米国FRBは、毎月$850億のマネーを増やすQE3(Quantitative Easi ng3:量的緩和第三弾)で、年間ベースでは$1兆(100兆円)とい う大きな額のドル増発を行っています。 これが投機資金になって、米国、日本、そして世界の株価が上がっ ています。そしてこのQE3で、米国の経済は支えられています。米 国と日本の株価は、このQE3の上での価格です。 (注)日銀も、2013年4月から、毎月8兆円くらいの国債を買い切っ て円を増発する「異次元緩和」を開始しました。経済の規模は、日 本は、GDPで1450兆円の米国の、約1/3です(479兆円:13年6月)。 日銀が計画している「異次元緩和」の金額は、米国のQE3とほぼ同 じ、月間8兆円なので、日本は、これから米国の3倍の金融緩和をす ることになります。 米国ダウの平均株価(大手30社平均)は、$1万5000付近と、「史 上最高」の水準の価格です。米国株は、現在が、史上最高の高さで す。経済の好調が最高株価を作っているのではない。原因は、米ド ルの超緩和です。 (注)米国ダウの1株$1万5000(150万円)は高いと思われるでし ょうが、それは、1896年(明治28年)から、株式分割されたものも、 一貫して1株として換算したときの株価です。米国では、個人が買 いやすいように、株価が高くなると2倍などに分割を続けています。 株数が2倍に分割された株式は、時価総額は同じでも、1株の株価の 価値は1/2に下がります。ダウでは、米国株価のほぼ120年間の継続 性を確保するために、分割がないとしたときの株価を計算していま す。日経平均(225社の単純平均)の1万3660円(8月23日)やナス ダックも、このダウと同じ計算方法です。 【13年5月23日の、世界の株価暴落も、QE3の縮小観測からだった】 2013年5月の講演で、FRB議長のバーナンキが、昨年9月から実行し ていた「量的緩和第三弾」を、13年9月頃から縮小するととれる発 言をしたことから、日本を含む世界の株式相場には激震が走って、 暴落しました。 FRBの増発マネーを受け取った金融機関からマネーを受託し、それ を運用しているヘッジファンドが、一斉に、先物を売ったからです。 FRBによる量的緩和の縮小は、月間に8.5兆円増えてきた投機資金が なくなることを意味するからです。 13年5月に発生したのは、「FRBの量的緩和の縮小観測→ドル増発の 縮小予想→株式投機資金の減少→世界の株価下落」を材料とする先 物売りでした。先物売りは、その後に株価や国債価格の下落すると き利益が出る取り引きです。 昨年来、日米のみならず、世界の株価は、同じ動きをしています。 理由は、FRBの量的緩和のマネーが、英米の投資銀行とヘッジファ ンドによって世界の株の購入資金になっているからです。 例えば日本の株式市場は、外国人投資家(主は英国と米国のヘッジ ファンド)による、オフショアからの売買が1日2~3兆円の売買額 の60%~70%を占めるために、完全に「ガイジンが動かす相場」で す。 2012年11月から13年5月までの日本の株価の上昇(日経平均で8000 円→1万5000円)は、ガイジンによる約10兆円(毎月1.5~2兆円) の買い超によるものでした。 時価総額では、140兆円くらい増えているので(13年8月時点)、10 兆円の買い超によって、株式の全体資産が増えるレバレッジ率は、 14倍でした。1兆円の買い超で、時価総額で14兆円(約4%)が増え たということです。 現在の株価で、ヘッジファンドが投機するときの世界的な基準に思 えるのは、PER(株価/次期予想純益)では15倍付近に思えます。13 年8月22日の日経平均、1万3500円(225種の単純平均株価の指数) で言えば、PERは14.88倍です。東証一部の時価総額は396兆円で、 企業の純資産に対する株価の倍率は1.29倍です。 ・日本の株が上がった週では、ガイジンが3000億円~5000億円の買 い超であり、 ・下がる週は、ガイジンの売買が均衡するか、売り超です。 以上は、法則と言えるくらい、決まり切った動きでした。 国債や債券と同じように株価も、買い注文が売り注文より多ければ、 売買を均衡させる価格にまで、上がります。売り注文が多ければ、 この逆です。 本稿では、 ・最初に、08年以降、5年も続いている世界の同時マネー増発を振 り返って、 ・次に、9月ではなくても、2013年の年内には確実に思える、米国F RBの量的緩和(QE3)の、縮小から停止がもたらすものをテーマに します。 FRBは、2013年の年内には、QE3の毎月8.5兆円のマネー増発の縮小 を開始し、2014年の央には、QE3を完全停止すると言っています。 なぜ、これを行うのか。なぜ、これを言うのか。 そして実際に、QE3を縮小し始めると、株価、国債、金利、外為は どう向かうのかです。QE3がこれらの価格を決めているもっとも大 きな要素だからです。 2013年の5月以降、新興国からの米国マネーの引き揚げが大きくな った結果として、新興国の株価は下がり、通貨も下がっています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <670号:FRBの、出口政策への展開がもたらすもの(1)> 有料版:2013年8月21日 【目次】 1. 1000兆円だった世界の中央銀行によるマネー発行は、2000兆円 に膨らんでいる 2.世界の金融機関がかかえている不良債権は1000兆円と推計できる 3.米国住宅金融のファニーメイとフレディマックの、利益回復の構 造 4.FRBからの資金拠出 5.海外に、新規国債の50%を売らねばならない米国 (このテーマ、次号にも続く) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【後記】 拙著の最新刊『マネーと経済:これからの5年』が、今週から発売 が開始されました。アマゾンには、すでに掲載されています。 全国の主要書店でも店頭に並んでいるでしょう。308ぺージで、178 5円です。もしよろしければ、アマゾンでは、ここをご覧になって ください。(↓) マネーと経済 これからの5年 ‐ データで読み解く / 吉田 繁治 毎週、有料版のプロローグ部をお届けしています。参考にしてくだ されば、幸甚に存じます。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 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