こんにちは、吉田繁治です。2ヶ月くらい無料版の送信が空いてしま
い、お詫びします。その代りというわけでもないのですが、有料版
の2010年4月号のシリーズで好評を得た<ユニチャーム・ペットケア
を、短期間で日本1にしたSAPS営業(1)>を、若干書き換えて、送
ります。
ほぼあらゆる会社の、経営計画と戦略の実行に役立つはずです。戦
略は、現場で実行されねば意味はない。戦略は描かれる。しかし、
実際は多くが実行されていない。この問題もあるのです。目標を達
成する方法が戦略です。
20世紀初頭から、経営と仕事では、PDC(計画→実行→チェック)の
方法で行うことが普通のことになっています。
どの会社も、売上計画や財務計画がある。いくら売上を上げ、経費
はいくら、利益は*億円等とする。これを「経営計画」とも言って
います。実はここに、微妙な、しかし大きな誤りがあります。
計画(PLAN)は、「明日、来週、翌月***を実行する」ということ
です。人間は、未来に行う行動を計画化できます。
ところが売上は、顧客が商品を買った結果です。この顧客の行動を、
会社が計画化できるわけがない。会社は、自社の商品提案と、営業
行動を計画化できるだけです。
経営計画では売上を「計画化」することはできない。
売上や利益は「達成目標」にはなっても、計画できるものではない。
ところがその結果を計画化した表を作って、それを経営計画とする。
このため「マネジメント」も分けが分からないものになってしまう。
マネジメント(経営)は、目標(未来の結果)とする売上と利益を
上げるための管理活動です。売上と利益の達成目標と実績の差を出
し、その差の原因を確定して、原因対策を打つ。
単純化していえば、未来の結果を目標に、今日の活動を行うものが
マネジメント(経営)です。
未来の結果である売上や利益が計画化できるなら、マネジメントは
要らない。
本来、わが国で経営計画とされている財務目標は、その達成を目指
して行う経営目標と位置づけねばならない。経費の使い方や投資は
計画化できても、売上と利益は計画化はできない。それは、財務面
の目標です。
【成果目標をもつ営業行動は、計画化できる】
ユニチャーム・ペットケアが、創業後10年目から導入した「SAPS経
営」は、[行動の計画(Schedule)]→[行動計画の実行(Action)]
→[効果測定(Performance)]→[反省し次の行動計画(Schedu
le)]というPDCのプロセスです。
目新しいことではない。当然のことを行った。しかし、他がSAPSの
ような当然のことを行わず、売上計画の達成を営業マンに課す方法
をとっていたから、ユニチャーム・ペットケアの売上と利益が、他
よりはるかに速い速度で伸びたのでしょう。
営業では、営業マンに売上目標を課すことをなくし、代わりに、自
分が計画した営業行動を100%実行する義務を課した。
試行錯誤を経ながらも、この方法が1年くらいの導入期 混乱を経て、
その後、10年で赤字事業だったペットケア事業を、売上と利益で日本
1にしています。
【当然とされることの誤り】
顧客が決める売上と、売上と経費で決まる利益が計画化できないの
は、社会主義の計画経済でもない限り、当然のことです。ところが、
この当然の誤りが、修正されることもなく、今日も続いています。
上場企業では、ほぼ2年単位で作って公開する「3年タームの中期経
営計画(中経)」があります。中小・個人企業でも同じです。
その中身を見れば、売上や利益の財務目標です。目標を計画にする
から、おかしなことになる。上場会社の管理をするはずの東証も、
これに気がついていません。
「経営計画」ということの誤りから、反省をしなければならない。
反省(チェックとも言う)とは、原因を確定し、対策を立てるマネ
ジメントです。
わが国で、ドラッカーが提唱した「目標による管理(成果目標によ
る経営)」が、社員に売上計画を課すという誤った方法になってし
まっている理由も、売上や利益を「経営計画」としたことに、根底
の理由があるのでしょう。
なぜドラッカーの「成果目標による経営」が理解されていないかと
いつも思っていましたが、根底は、目標を計画にした誤りからでし
ょう。経営企画部でも「経営計画と称する財務目標を作って、それ
で仕事は終わり」となっているのです。本来はその後から、実行の
マネジメントが始まらねばならない。
わが国には営業という、曖昧さのある、しかし、重要な仕事があり
ます。Sales(販売)かOperation(操業)
▼営業
操業は該当しないので、販売でしょう。なぜ、わが国では販売係と
言わないのか。ここに鍵がありそうです。
販売なら、商品を、相手に売るための仕事をする。わが国には営業
マン(あるいはレディ)は多い。営業は、思うようには行かない失
意の仕事でもあります。
数年前、医療用医薬品卸で業績がトップの、カーディナル・ヘルス
を訪ねたとき、調剤薬局や病院を回るわが国の営業マンに該当する
人はいなかった。
調剤薬局(ウォルグリーン等の5000店規模のチェーンストア)や病
院(米国の病院は日本の数倍~10倍、規模が大きい)との、取引に
絡む問題の解決を、提案する係はあった。
カーディナルの営業は、売上の原因になる仕組みを、顧客に提案す
る係でした。「流通の問題解決を行う仕事」と言っていい。医薬は
販売しますが、まず、中間流通に絡む問題の解決を、相手先と一緒
になって行う。
医薬の販売は、仕組みを作ったあと、在庫管理における補充発注で
自動的に行われます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<478号:ユニ・チャームのSAPS営業(1)>
2010年5月25日
【目次】
1.宮里藍の復活は、結果と実行できることを分離したことから
2.SAPS営業
3.この会議、おかしくないか?
4.営業現場の疲弊
5.出荷すれば売れるという思い込み
6.売上目標を捨てる:行動目標をノルマにする
7.1Pローリング表とSAPS週報をツールにした
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■1.宮里藍の復活は、結果と実行できることを分離したことから
米国ツアーで、今年2連勝した宮里藍、すばらしいプレヤーです。
神経のタフな強豪が集まる米国に渡り、最初の年(2006年)は、賞
金ランクで6位と成績がよかった。二年目は更に上と期待されたに拘
わらず、連続5回も予選落ちするどん底だった。
月曜早朝の衛星放送で見ても、心にダメージがあると感じ取れるく
らい、痛々しかった。インタビューを逃げロッカーで号泣すること
もあった。あの歯切れのいい声での、論理的で配慮のある応答は消
えていた。キラキラ輝く目が、おびえる光をおびていました。
3年は長い。ドライバーが怖くて、振れなくなっていたという。
それが、何があったか・・・2009年7月に、エビアンマスターズ(フ
ランス)でLPGAツアーの初優勝。日本人選手と、外見が無愛想に見
える上田桃子が、顔をくしゃくしゃにして祝福していた。この心理
は、海外で戦う同僚なら手にとるようにわかります。
▼変化
そのころ、宮里藍は明らかに変っていた。どんな転機があったのか
・・・トッププロに技術差は、ほとんどない。
全盛期、無敵と思えるくらい強かったアニカ・ソレンスタムのコー
チだったピア・ニールソンに、すがるように依頼していた。
彼女は、「目の前の一打に集中するだけだ」と普通のことを教えた。
●要所は「優勝できる可能性があるゲームで、本当に、結果を求め
ず、目の前の一打だけに集中できるかどうか、ここが、唯一の分か
れ目です」と言う。
そのために「自分と約束する」
何を約束するのか?
「結果を求めない」こと。
そんなことが、果たしてできるのか? 誰だって、結果を目標に、
ショットしているのではないか。
2年半前、宮里のドライバーは曲がっていた。その渦中で、「もう、
ゴルフはやめないといけないのか。ティーグラウンドに立つのが怖
い」と思いつめていたという。
優勝という目標の基準は高かった。大切なところで大きなミスが出
て崩れる。崩れたまま、回復できない。
【原因】繊細な性格の宮里藍は、「まだ起きていない未来、つまり
結果」を求めていた。
ホテルに財布を忘れたとする。そのとき、宮里藍はゴルフ場で、「
誰かに盗まれたらどうしよう」と、居ても立ってもいられなくなっ
ていた。正直すぎた。
しかし、いくら不安になっても、これは意味がない。不安になって
も、ホテルに戻らない限り、部屋に忘れた財布を盗まれることを防
止はできない。しかも、盗まれる確率はとても低いでしょう。つま
り、宮里藍は解決することができないことに対し不安を感じていた
。
●未来にしか結果が出ないことを、あれやこれや思い悩むのは、人
の性です。それを意図して断ち切って、今、ここにいる自分ができ
ることをする。「自分は今、ここにいる。結果は未来だ・・・未来
は、誰も確定できない」
バンカーに入ったとき、人は、(まだ起っていない未来の)悪い結
果を想像し思い悩んでしまう・・・トップしてホームランでOBにな
ったらどうしよう、ピンを10メートルもはずし、3パットしたらどう
しよう(未来の結果への恐れ)・・・これが普通の心理です。私は、
いつもこれです。
【現象】まだ起っていない未来を悩めば、目の前の一打が、難行に
思えてくる。余計な力が入り、タイミングが乱れ、練習では平気に
できる簡単なスイングもできなくなる。
【練習との違い】練習では「やり直しが効く」という未来があるか
ら、ミスしても平気です。このことが、いいショットを生む。つま
り、練習では1打を打つとき、結果を考えていない。いいスイングの
イメージだけがある。練習でうまく行くから、病は深くなる。どう
していいか分からなくなって、潰れたプロは何千人もいるはずです。
本番では、全ショットが、一回の機会しかない。
一回限りで、毎回、あらゆる条件が、微妙に変っている。
時間は、二度と繰返すことがない。全部違う。
これは凄いことです。
結果を求め、スイングの前に思い悩んでも、意味は全くない。
それは分かっている。しかし、いい結果をもとめ、人は悩む。
宮里藍の、泥沼のような2年半がそうだった。900日は長い。
練習を人並みはずれて行うのは、子供の頃からの習慣だった。プロ
ゴルファーなら、激しい練習は普通です。技術に問題があったので
はない。
練習ではうまく行く。しかし「練習でいい結果が出るからこそ、悩
みは深くなる。」技術に問題があるのなら、それを直せばいい。む
しろ、技術的な欠陥なら救いです。アマとはレベルが違う。
技術でのプロが、練習でできることが、本番でできない。
何が違うのか。
●試合では「まだ起っていない結果を、求めてしまう」という人間
に不可能なことを行ってしまうからでしょう。
本番で結果を思い悩まず、目の前の一打に集中すると言っても、そ
れは、どうやればできるのか?
ピア・ニールソンは、以下を教えた。
▼方法
【練習】
まず、練習のとき、この1打だけしかないと自分に自分で、本番と同
じプレッシャーをかける自己訓練をする。
それを何万回も、筋肉と心に定着させるまで、繰り返す。まずこれ
が重要。一日500打なら100日かかります。1年かかるかも知れない。
筋肉と脳に、無限に思えるくらい繰り返して、過剰記憶させる。
過剰記憶させれば、条件反射に似た第二の本能にもなるだろう。膝
の皿の下を叩くと、脚がピンと伸びるあれ、です。脳と神経のシナ
プスに、神経の新しい回路が定着します。ピアノを弾く演奏家も同
じでしょう。
練習では、以下のルーティーン(決まり切った動作と考え)を、自
分の心に定着させる。この定着のことを、会社では標準化とも言う。
動作を1万回も繰り返す。動作からです。心からではない。つまり、
意識からではない。行動からです。行動が心を決めるから。
まず、球の1メートル後方の右に「Think Box」の場所を決め、実
際に球を打つPlay Boxの場所を決める。これも、行動です。
(1)Think Time:情報を集め、考える時間をとる。
球の右後ろに立って、ライ(下の芝や地面の状態)、風向き・強さ、
狙う落下地点の状態、つまりショット(=宮里藍の仕事)に関する
「情報を集め、ショットを考える時間」を作る。打つショットを、
ありありと、心にイメージする時間です。
(注)営業では、顧客のニーズ、相手が困っていること、求めてい
ることについての、事実に基づく情報を集め、分析して、対応策を
考える時間です。【重要】事実にもとづかない、自分の思い込みで
はダメです。
(2)Decision Making Time:決断する時間
Think Box(考える場所)で、そのスイングに最適なクラブを決め、
スタンスを決めて、スイングの方法と、球筋、高さを決める。ショッ
ト・イメージが決まっていれば、これは容易です。
(注)営業では、顧客にどんな商品をどう提案をするかを決めるこ
とに相当します。
(3)Do Time:実行する時間
実際にスイングをする実行の時間では、スイングのメカニックなこ
とは、一切、考えないようにする。スイングのイメージができてい
れば、プロなら、ほぼ誰でも自動実行できます。
実際に構えたとき、何か、またはどこかに、しっくり来ないときが
あれば、もう一度、スタンスをはずす勇気をもってThink Boxの場
所に戻り、同じThink Timeをもう一回行う。
(注)営業では、情報を集め、考えて決めた、顧客への提案がどう
もしっくり来ないという感じがあるときは、もう一度、事実からく
るニーズ分析に戻ることに相当します。
重要なことを言えば、この3つのプロセスです。
(1)Think Time(情報集め、自分が何をすべきかを考える時間)、
(2)Decision Making(実行すべきことを決める時間)、
(3)Do Time(そのスイングイメージを実行す時間)の、いずれに
も「結果(未来)を思い悩む時間」の入り込む余地がないことです。
これが「今、実行することに集中せよ」ということの内容です。
実際に行ってみれば分かりますが、この過程は、実に忙しい。
そのため(ショットの後の未来の)結果を思い悩む時間はない。
私が原稿を書くときも、まるで同じです。書く内容と結果(仕上が
り)や、相手の理解を、書く前に、いくら思い悩んでも無意味です。
情報集めと、書くという行動から始めなければならない。
仕上がりのイメージを描き、書く過程で集中すればいい。
そうすると、脳が活性化し、記憶が溢れる気がします。
書いた後の結果を思い悩み、書くことを実行しないと、どんな原稿
も仕上がりません。言葉につきあたって、ひとつひとつ考える。こ
の方法しかない。毎回、ともかく(anyway)書き始めるのです。
▼結果が出たあと
そして、ミスショットのときの、ポスト・ルーティーンです。ショ
ットを打ち終わった後です。結果は出た。思いどおりは行かないこ
とが多いでしょう。
「ミスは、すぐ、忘れねばならない」
どうやって忘れるのか?
また、ここで思い悩むのが普通でしょう。
「打ち終わった後、何事もなかったように振る舞う」
振る舞うとは、動作する、行動するということです。
「あれれ、誰がミスしたのかしら?」と笑い飛ばすのがいい。
あるいは、無理をし、すばらしい笑顔を意図して作る。実際に無理
をし、笑顔を作ってみてください。心が変化するのが分かります。
演歌の鼻歌を歌ってもいい。青木功は「しゃんめぇ(我孫子弁)」
とつぶやいていたそうです。しゃんめぇでもいい。
つぶやいて、すばらしく笑えば、思い悩む時間がなくなります。周
囲の、すばらしい緑や花の景色を見つめてもいいかも知れない。ま
ずい結果からは、気をそらす。
営業から帰って、「あらら、また、ミスをしたよ。この人」と皆の
前で、失敗談を話してもいい。笑いです。
私も、何かが思うように行かないとき「あらら、君には悩みはない
はずでしょう? ・・・思案するムダな時間がないから。 課題は、
次の行動をどうするか。さて、行動。」と言い聞かせます。
長年の習慣になると、悩みがなくなる気がします。
生きているかぎり、やり直しが効くからです。
楽観すぎますか?
ポスト・ルーティーン(ショットの結果が出た後の短い時間)では、
どうするのか?
「客観的な事実を、自分に向かい、つぶやくこと」だという。
信じられない、悔しい、もうダメだ、切れたと思う(感情の)前に、
客観的な事実をだけをつぶやく。あきらめないということでもある。
「逆目のラフでグリーンの傾斜が思ったより、きつかったから、奥
まで転がった」、「風がフォローから、アゲイニストに変ったため
ショートした」、「思わず、ショット・イメージを外れ、フックボ
ールを打とうと右手の力を入れ、手首を返しすぎた。」・・・
ミスの原因を、有害な感情を殺し、客観的に分析し、事実を確定す
ることをポスト・ルーティーンという。
客観的な事実による「反省」を毎回行い、次のショットやパターに
向かう。練習でも、同じことを、何度も繰り返す。
(注)営業で言えば、帰社しての、あるいは帰る途中での、「なぜ、
狙い通りの結果が出なかったのか。事実の、客観的な分析」です。
以上を繰り返せば、しばらくすると、最高の営業マンになるでしょ
う。それ以上に、すばらしいことは営業の仕事が面白くなることで
す。
失敗も、なぜ失敗したか、振り返りたくない思いを殺し、客観的に
事実分析で考えれば、自分で自分のヘマさが面白くなります。
以上のプロセスを振り返れば、
(1)Think Box:考える場所を、球の1メートル後方の右に決める。
(2)Think Time:そこに行って、情報を集め、考える時間をとる。
(3)Decision Making Time:ショットをイメージし決断する時間
(4)Do Time:イメージを実行する時間
(5)Post Routine:結果を見て、客観的な事実による反省をつぶやく.
次のショットでも、同じことを繰り返す。
このプロセスを記憶するにはTTDDPでしょうか。この5つを行えば、
とても忙しい。まだ起っていない未来の結果を、思い悩む時間がな
くなります。忙しいは、りっしんべんに、亡くす、つまり感情を抑
えること。
そう言えば、businessも、忙しいことでしたね。
(1)情報を集め、方法・提案を考えて、行動をする。
(2)実行では、未来の結果(売上)を思い悩まない。
(3)行動の結果の事実情報で、反省する。
本題のユニ・チャームのSAPS営業です。
驚くことに、宮里藍が学んだTTDDPと瓜二つで、同じです。
方法の普遍は、全部、同じなのかも知れません。
2年余も、まだ起っていない結果を思い悩む感情の泥沼に嵌(はま)
っていた宮里藍が、ピア・ニールソンから教えられて身につけたTT
DDPのルーティーン(習慣化した動作)思い出せば、本題として述べ
る、ユニ・チャームのSAPS営業でもあるでしょう。
売上結果を求めない。取るべき行動だけを計画化し、その行動のプ
ロセスはピア・ニールソンが教えたTTDDPと同じ方法で行う。それが
SAPS営業でしょう。
■2.SAPS営業
SAPSは、[行動の計画(Schedule)]→[行動計画の実行(Action)]
→[効果測定(Performance)]→[反省し次の行動計画(Schedule)]
という、4段階の営業行動の略です。
優れた方法と思い、書きます。私の中にも、営業の方法として漠然
とですが、その考えがあった。
つい先週、ある人から、会議でSAPSと聞いてひらめくものがあった
のです。ドラッカーの目標による管理から、類似のことを考えてい
ました。要は営業の管理方法。
その内容は、成果目標(売上と利益)の達成は、結果である、結果
は計画化できない。計画にできるのは、明日はこうするという行動
であるというものです。
赤字だったユニ・チャームのペット・ケア事業を立て直し、成長さ
せるため、社長になった二神軍平氏が、営業におけるSAPSのプロセ
ス管理を考え、営業部門に実行させたことです。(『ユニ・チャー
ム SAPS営業の原点』:同氏)
ユニ・チャームは、高橋慶一朗会長が1961年に創業し、当時の日本
になかった生理用品を作った、年商3478億円、営業利益10%のエク
セレント・カンパニーです。日経新聞の「私の履歴書」の最近の連
載で、読まれた方も多いと思います。
ペット事業部の創設は、1988年だったという。二神軍平氏が、ユニ
・チャームの新事業として提案し、本人が事業本部長を務めていた。
1998年から子会社になり独立した。初代の社長に任命されたのが二
神氏だった。2000年には、売上は200億円あったが6億円の赤字に陥
っていた。
2009年3月期には売上447億円、営業利益65億円(利益率は14.5%)
と、V字の利益回復と、2.2倍への売上増を果たした。
ユニ・チャームのペット・ケアは、9年で日本のペット・ケア商品の
首位になっています。二神社長は、何を変えたのか?
■3.この会議、おかしくないか?
社長になって最初の会議で、まず、売上結果の月次報告があった。
売上と利益の結果は、当然に、思わしくない。
支店長達は、そのため、自分が倉庫会社を変え20%の倉庫料を下げ
た。運送会社も変え15%安くしたという類の報告を、手柄としてい
たという。
赤字の会社に共通することですが、営業と売上の話題からは報告を
短くし、転じたい。結果が悪いことを、分析したくない。
そのため倉庫を変え、運送会社を変えたと、別の要素を話す。実は、
トップ自身も、こうした心理に陥ります。肯定的なことを探して話
したい。
内心では皆分かっている。売上が少なすぎる、販促費(種々のリベ
ートや割引)が多すぎる・・・営業が機能していない。そのため、
全体にはわずかにしか貢献しないことであっても、細かな経費削減
のことを会議では話す。
これでは、永久に浮上できない。ところが営業をうまく機能させ、
売上を上げる方法が、分からない。そのため、営業のことは、話さ
ない。
二神軍平社長は、以上のことを「この会議、おかしくはないか」と
言った。常務や支店長は、その日、おびえたような目で、二神社長
を見つめたという。
■4.営業現場の疲弊
宮里藍の700日と同じです。営業の現場は、神経が疲弊しきっていた。
どうやっても、売上と利益(未来の結果)が伸びないからです。
現場には黒字になるための「高い(達成が不可能に思える)売上目
標」が課され、売上目標の達成に、ムダと分かっても無理な営業を
していた。
毎月の結果が悪いと、マネジャーと社員の心は荒廃します。予選落
ちを続けた宮里藍は、表情の、こぼれるように輝いていた美しさを
失っていました。
営業現場は、月次目標に、少しでも近づくため、卸売業に対し、販
促費(リベート)を使った「押こみ営業」を続けていた。
この販促費がふくれあがっていたため、支店長は、会議では他の経
費削減の話をしていた。誰も達成感はない。気休めです。
月末に卸売業に無理に押し込めば、翌月の受注が、当然に減ります。
日々の売上を累積させた月次グラフは、右がへこんだ弓形になって
いた。
月初の売上は、前月末の押し込み営業による、卸(ユニチャームの
顧客)の倉庫での、在庫積み上げのため減るからです。
月末に押し込むためにリベートを使っている。月初の卸売業者の倉
庫には、ユニチャーム・ペットケアの在庫が溢れている。このため
月初は、受注は来ない。押し込めば、翌月の返品も増えます。
いろんなメーカーでは、こうした販促費が売上の20%に達し、「泥
沼化」している会社も多いという。
破産したGM(ゼネラル・モーターズ)も、月末押し込み営業を行い、
倒産前の数年間、大きな値引きと合わせ、膨大な販促費を使ってい
ました。
普通、車の製造の粗利益は、15%はある。これが全米の販売業者
(ディーラー)への、販促費をつけた押し込み営業で5%に減っていた。
倒産は当然です。幹部は、損益計算書を見れば、皆分かっていた。
しかし変えなかった。売上目標を課すのは当然としていたからで
す。
これは、当月売上のつじつま合わせ(=後のコスト)だけの意味し
かない。そのため、三ヶ月の売上目標は達成しない。利益は激減す
る。
ユニチャーム・ペットケアでも、営業が使う、リベートを含む販促
費は事実上ブラックボックスで、何を何の目的でどう使ったのか、
中身がわからなくなっていた。これが赤字の主因だった。
支店長は、慣習化していた販促費を使う月末押し込みをやめれば、
売上が激減し、もっと大きな赤字になると考えている。必要悪だと
考えていた。
日次売上の累積線グラフが、へこんだ弓形の会社は、要注意です。
売上グラフは、月末に向かい、45度の直線に近接していなかればな
らない。これだけでも、宿痾(しゅくあ)の悪弊が分かります。
小売業の、悪習になった特売も似ています。特売のため、常備展示
とは別の商品を仕入れる。チラシを撒く。価格は割り引く。売れ残
りが出る。商品作業量も30%以上は増えている。陳列の商品構成も
乱れる。しかし特売をやめれば、売上が更に減ることが怖い。
根治が必要ですが、方法が分からない。
そのため、今週も、今月も、続ける。
■5.出荷すれば売れるという思い込み
仕入れたくない相手(卸と小売)に、一時的に余分に売る、これが
営業だとされていた。支店長は毎月、月初に売上目標100%達成と叫
ぶ。
どんな販売方法であれ、当月目標の達成者が、現場の英雄になって
いた。営業は、売上目標を達成する以外にないから・・・として。
在庫を押し込めば相手は売ってくれると考えていた。小売の店頭で
は、卸から流れてきた10%の販促費(リベート)を使い、100円の商
品が、特定のものは80円や60円の特価になって、山積みされていた。
営業が販促費を使い、無理をして卸に押し込んだ結果です。利益結
果の悪さは自己原因だった。
売上目標は、営業マンの必達のノルマになっていた。
結果は、6億円の赤字だった。
困難なとき、二神社長は、ユニチャーム・ペットケア:日本ナンバ
ーワンという長期目標を立てる。そして、今はそれを達成した。
■6.売上目標を捨てる:行動目標をノルマにする
売上は、未来の結果です。結果を必達目標にするからおかしなこと
になる。宮里藍が、このショットでバーディーをとる。このバンカ
ーショットで1メートル以内に寄せると決め、打つようなものです。
稀にうまく行っても、多くは、落胆する結果しか出ない。目前の一
打に集中とは、結果(売上)を気にすることではなかった。ところ
が、営業はそれを行っている。ここに、根本的な誤りがあるのでは
ないか。
●そうだ・・・どの会社でも当然としている売上目標制度を、完全
にやめてみよう。押し込みの悪弊を生んでいる営業ノルマ制をやめ
よう。1位になるには、他と同じ方法ではダメだ。他が行わないこと
をしなければ、1位にはなれないだろう。
売上や利益は、計画化はできない。相手が買った結果が、売上だか
ら。相手が買ってくれた結果としての売上から、商品原価と経費を
引けば利益です。
利益も売上の結果です。売上と利益は、計画にはできない。
宮里藍がバーディーを計画化するようなもので、無意味です。
700日も、その方法で失敗してきた。方法が誤っていた。
営業マンが計画化できるのは、明日はこうしよう。次はこうしよう
という行動だけだ。
営業の行動を計画化し、計画した行動の実行をノルマにする。宮里
藍が、TTDDPのルーティーンで、毎ショット毎に行っているように。
(1)Think Box:考える場所を、球の1メートル後方の右に決める。
(2)Think Time:そこに行って、情報を集め、考える時間をとる。
(3)Decision Making Time:ショットを決断する時間
(4)Do Time:実行する時間
(5)Post Routine:結果を見て、客観的な事実による反省をつぶや
く。(1)に戻る。
言い換えれば、
(1)情報を集め方法・提案を考えて、行動をする。
(2)実行では、未来の結果(売上)を思い悩まない。
(3)事実情報で反省する
「明日は**に行って、**と合い、**の提案をする」というこ
と計画化だ。これを週間計画にする。社員には、計画した行動の実
行をノルマ(義務)にする。この際、売上目標(結果)は課さない。
行動の義務だけを課す。
●野球で三割打つこと(結果の達成)は難しい。それを目標にして
も、達成できない。誰にもできるのは、300回の素振りを毎日するこ
とだ。素振り(行動)を計画化し、計画化した素振り回数の達成を
ノルマにしよう。
試験で95点以上を取ること(結果の実現)を目標にしても、達成は
難しい。しかし1日2時間、欠かさず集中してその学科を、勉強する
ならできる。1日2時間の勉強を計画化し達成ノルマにしよう。これ
と同じです。普通のことでしょう。
しかし、会社のこととなると、普通のことが、分からなくなる。商
品の種類の多さ、組織の機能の多さで考えてしまうからです。
あの商品は売れる。60%の商品は売れない。製品企画が悪い。商品
が悪い。価格が高い、商品価値が低い、営業のせいではない・・・
人は、会社の業績の悪さを、自分が原因とは考えない。あいつがダ
メだ。商品がダメだ。マネジメントがダメだと他人に転嫁します。
あるいは、取引先がダメだともいう。全部が、他人への転嫁です。
ユニチャームでは、社是として、あらゆる結果は、自己原因と考え
る価値観を強いています。
▼営業のプロセス管理へ
営業は、成果による管理か。あるいは、営業行動のプロセス管理か
という、古来、繰り返されているテーマがある。
売上目標を課すのは、結果を目標にする悪しき成果主義ではないか
? 成果主義がうまく機能するのは、社員が歩合給のときであろう。
米国の販売係(=日本では営業)は、そのほとんどは[売上×*%]
の歩合給です。コミッション制ともいう。売上を上げることが本人
の給料になる。
IMBの営業も、SAP(ソフトベンダー)の営業も、金融のデリバティ
ブを売る人も、米国のデパートでファッションや化粧品を売る人も
同じです。これなら、売上目標による管理でいい。これが、業績変
動給のSalesです。
しかしわが国の固定給制の営業社員に、売上目標を課すのは、うま
く行くのだろうか?
売上という、相手が買った結果を、どうやって計画にできるか?
▼発想
固定給の営業は、プロセスの管理、つまりは、行動のノルマを課す。
売上結果は問わない。マネジャーと一緒になって計画した行動計画
を、どう実行したかだけを問う。行動計画の100%達成を評価する。
二神氏は、支店長に対し、「部下の営業に対して売上の数字目標は
与えるな、行動計画の100%達成を問え。」と言うことに決めた。
顧客を、計画した回数分訪問し、意思決定者に面談し、相手を知り、
相手の役に立つ提案をし、電話連絡をして役に立つ(相手に貢献で
きる)情報を提供すれば、数字は必ずついて来る。売上はついてく
るはずだ、この信念でした。
支店で作ったのは、週次の、営業マン別の行動目標(行動計画表)
です。売上目標は消した。
有害(赤字)を生んでいた売上ノルマが、1週間の行動計画表に変っ
た。
これは、店舗販売でも同じでしょう。売るための行動計画表ですが、
顧客が買ってくれた結果である売上は目標にしない。
社員・パートの1週間単位で、今日、**時から**時までは、何を
(what)、どう(how)行うかを計画にする。買ってくれるような売場
と商品構成と在庫状態を作る行動を、社員の目標にする。
これは、営業に革命的な変化をもたらすはずだ。
■7.1Pローリング表と、SAPS週報をツールにした
●1Pローリング表は、ファースト・プライオリティ(1st Priority
:最優先すべき行動表)です。
個々の支店で、何を最重点に、行動し実行するかを、月次、週次で
決める。全社の営業が共通に、第一に、優先すべき行動と、その方
法を示す。
IPローリング表は、二神社長が自分で作るという。1Pローリング表
で、営業の課題の最優先事項を定める。トップが示す「最優先行動
表」と言ってもいい。
●SAPS週報は、個々の営業の[行動の計画(Schedule)]→[行動計
画の実行(Action)]→[効果測定(Performance)]→[反省し次の
行動計画(Schedule)]を、書き込むものです。
この中には、1Pローリング表が示す行動目標が、最優先で計画化さ
れる。これが、営業のマネジメント(管理)でしょう。
結果(売上と利益)を見るのが管理ではない。
トップが示す今週の最優先事項を含んで、全営業マン(営業レディ)
の、週間行動を計画化する。こが管理だという考えがあります。
そして行動報告だけだった営業日報(**を行った)は廃止する。
代わりに、[今日計画した行動で**が実行できなかった。その原
因は***]と、事実の報告書を書く。
次週の行動計画には、できなかったことを、再度、方法を変えて(
あるいは方法は同じで繰り返し)書き込む。
これも宮里藍の、ポスト・ルーティーンの、客観的な事実による反
省の方法と同じです。
【再掲】
「逆目のラフで、グリーンの傾斜が思ったより、きつかったから、
奥まで転がった」、「風がフォローから、アゲイニストに変わった
ためショートした」、「思わず、ショット・イメージを外れ、フッ
クボールを打とうと右手の力を入れ、手首を返しすぎた。」・・・
ミスの原因を感情を殺して、客観的に分析し、事実を確定するのが
ポスト・ルーティーンという。この客観的な事実による「反省」を
毎回行い、次のショットやパターに向かう。練習でも、同じことを、
何度も繰り返す。
ユニ・チャームで面白いのは、「部下との、定期的なノミニケーシ
ョン」も、支店長やトップに対し計画化された行動ノルマの一環で、
マネジャーの義務になっていることです。費用は、会社から出す。
会議では言われないような、重要なホンネがしばしば語られる。日
本人は、アフター5でも仕事の話です。このため、昼間の会議はほと
んど必要がなくなったと言います。二神社長は、これこそがわが社
にとって重要という。威儀を正し、タテマエを話すのではない。本
当のことを語り合う。動機付けもする。安いものです。コミニュケ
ーションは、今、最も重要な方法でしょう。
ところが・・・SAPS営業を実行した結果は、最初、売上の激減だっ
た。皆が、売上目標に縛られなくなって、月末の押し込み営業を、
意味がないとやめたからです。卸先からは「今月はいいんですか。
倉庫を空けて待っていますよ」と言われたという。
リベートを払うか、または(同じことですが)割引をして押し込ま
なくても、相手が買ってくれるようにしなければ、利益は向上しま
せん。売上の激減で苦しいとき、二神社長はどう考え、どう判断し、
行動したか?
多くの会社に、参考になると思います。
次稿で続けます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【ビジネス知識源 読者アンケート 】
読者の方からの意見や感想を、書く内容に反映させることを目的と
するアンケートです。いただく感想は参考になります。
1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。
コピーしてメールにはりつけ、記入の上、気軽に送信してください
。
質問のひとつひとつに返信することはできないかも知れませんが、
共通すると思われるテーマはメールマガジンでとりあげます。いた
だいたメールは、全部を読んでいます。
↓あて先
yoshida@cool-knowledge.com
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■創刊以来1位を続け『まぐまぐ大賞』を獲得している有料版(週刊
:1ヶ月で630円)の購読案内です。
http://www.mag2.com/events/mag2year/2008/
■有料版バックナンバー:有料版の約8年分超のバックナンバー48
0号余は、有料の性格上、公開していませんが、月単位で購入できま
す。以下からのリンクでたどることができます。
http://www.mag2.com/archives/P0000018/
『ビジネス知識源プレミアム』は、「1ヶ月ビジネス書5冊を超え
る情報価値をe-Mailでお届けする」ことを趣旨に、ビジネスの成功
原則、経済、金融等のテーマを原理からまとめ、明快に解き、週1回
お届けしています。最近号の、一部の、目次は以下です。
<481号:2010年4月、
ついにソブリン・リスクへの認識が深まった>
2010年4月28日号
【目次】
1.巨額レバレッジを、今も続ける金融機関
2.ゴールドマンの金融詐欺疑惑
3.南欧(PIIGS)の国債危機が強く認識され始めた
4.ギリシア危機の事例
<482号:金融危機から国債危機;その来し方行く末(1)>
2010年5月5日分
【目次】
1.ギリシア国債の下落が続く
2.米欧日の、財政赤字の規模の大きさ
3.金融機関の利益や損失は何か?
4.2000年代金融のゼロサムゲーム
5.最終的には政府が代わりに保証して資金を出すから安心
有料版の新規の申し込み月の、最初の1ヶ月分は、無料お試しセッ
トです。
(注)お試し期間の1ヶ月後の解除も、自由です。以下は申し込み
のサイトです。
http://www.mag2.com/m/P0000018.html
(↓)お手間をかけますが、使い方と会員登録方法の説明です。
http://www.mag2.com/bgnr.html
http://www.mag2.com/howtouse.html#pay
【申し込み方法の概略】
(1)初めての『会員登録』で支払い方法とパスワードを決めると
、
(2)[まぐまぐプレミアム]から会員登録受付のメールが送って
きます。
(3)その後、購読誌の登録です。
(注)過去のバックナンバーの購読も月単位でできます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━