2013年5月からの国債市場の異変
This is my site Written by admin on 2013年6月20日 – 09:00
おはようございます。朝から雨で蒸し暑い、まさに梅雨です。二階
の仕事場の窓から、晴れていれば見える皿のような山が、霧状の雨
煙に閉鎖され、暗い。

雨が降らないので、普段は考えたことのない田植えは大丈夫かと案
じていました。天候はゆり戻すのですね。安心しました。さっきの
サッカー、イタリア戦は残念。でも力をつけています。

▼株価は、6月の限月をめぐる動きだった

3月、6月、9月、12月の第二金曜日が、日経平均先物〔日経225〕の、
反対売買での清算の期限になる限月(げんげつ)です。株価が、13
年5月23日の、暴落の後のように下げの傾向にあるときは、この先
物の限月が近づくと下げの波乱になることも多い。

理由は、5月に先物を高く売って、株価を下げたヘッジ・ファンド
などが、6月14日(第二金曜日)を期限日にして、先物の売りと逆
の、買いで清算取引をせねばならないからです。

(注)先物取引での売り(ショート)は、あらかじめ売っていた先
物を、限月までに買い戻す契約の売買です。ショート・ポジション
をとれば、価格が下がった分が利益になり、先物買い(ロング)で
は、価格が上がった分が利益になります。

先物では、下がる予想をしたとき、実際に下がれば利益が得られる
ことが、現物の売買にはない特徴です。ヘッジ・ファンドは、その
売買のほとんどが先物です。理由は、数十倍のレバレッジがかかか
り、少ない元金で大きな利益(または損)の可能性が高いからです。

13年6月限(ぎり)の先物で売っていた価格が例えば日経225で1万4
000円なら、6月14日までに買い戻して清算する価格(現物価格)が
1万3000円であると、差額の1000円(7%)が利益です。

1ヶ月で7%の利益は、差し入れ証拠金に対するレバレッジが30倍な
ら元金の210%の巨大利益なります。1000億円が2100億円になるの
です。

逆に、日経225の先物(シカゴ市場ならNikkei225 CME)で売ってい
たのに、6月14日の精算日に先物を売った価格より高ければ、未清
算の先物は、レバレッジの分、大きな損になります。

【6月14日の精算日(SQ)の前と後】
このため、6月13日までは下げの傾向で、6月14日を過ぎて、出来高
(売買額)も2兆円/日と、約半分に減って価格は落ち着いた動き
になっているのでしょう。

日本の株式市場では、ガイジンの売買が50~70%のシェアです。先
物でも同じシェアです。このため、先物の限月をめぐるこうした動
きが、典型的に出ます。

利益が出ない先物は、9月限月にロール・オーバーされているでし
ょう。それが10兆円の買い越しに対して、3兆円(30%)はあると
予想されます。

(注)ロール・オーバーは、先物取引やオプション取引などにおい
て、ポジションが限月の決済日(例えば6月)をもって消滅してし
まうことから、取引最終日までに、次の限月(9月)以降のポジシ
ョンに乗り換えること。損をしたときの、それを確定させず先送り
する方法でもあります。利益が出たときは、誰でも、利益確定の清
算(反対売買)をするからです。

日経平均で言えば、5月の日経平均1万5000円超のとき本マガジンで
言った、リスクを見た次期予想PER 15倍の1万2000円くらいが、現
在も、想定底値でしょう。今日の日経平均は、1万3245円です(終
値:前日比+237円)。

(注)利益リスクを見た次期予想PER・・・225社平均 企業の次期
予想純益×0.8×PER 15倍=予想純益×12倍=1万2000円。

1ドル90円付近の円高に戻ると、円安で利益が大きくなる輸出企業
の次期予想利益は、減少します。2014年3月期(次期)までを見た
とき、円高のリスクがあるので、企業の次期予想利益は、20%は割
り引かねばならないと考えています。従って、妥当な予想PERは、1
5×0.8=12倍です。ドイツがPER 13倍の水準です。米国はバブ的
な18倍、 日本が15倍(FT紙のP/Eレシオ比較:06月13日時点の株
価)です。

参考のため、他の国も挙げれば中国7倍、イタリア18倍、スペイン1
6倍、フランス17倍、スイス19倍です。

▼テーマ:デフレ予想から、インフレ予想へ

株価が上がれば、実体経済にプラスの影響が生じます。6月18日時
点で、東証の上場企業(一部1722社+二部408社+ジャスダック186
社+PRO 3社:2319社)の時価総額は、401兆円です。1株平均の株
価は1019円です。

これらは株主の資産であり、株価が上がることは株主資産の評価が
増えることです。昨年10月、上昇前の時価総額は260兆円(日経平
均8500円)くらいでした。

5月23日以降、13%くらい下がったとは言え、それでも時価総額は4
01兆円(日経平均では1万3000円)であり、141兆円の株主資産が増
えた勘定です。

もっともこれは「評価額」なので、現金預金が141兆円増えた感じ
とまるで違います。感覚的には、個人で持ち株の含みで1000万円儲
かったとき、20%の200万円は使えるかなと思うくらいでしょう。

下がる恐れもあるので、1000万円の評価額の上昇をそのまま個人資
産の増加とは思わない。500万円くらい増えたかと感じる程度です。
それでも、「使えるお金」の増加です。資産効果と言っています。
株では、仮に3000万円あるとき、預金との関係では、30%くらい割
り引いた2000万円が資産額という感じでしょう。

株価の実体経済への影響を100とすると、その10倍の1000くらいの
影響を及ぼすのが、金利であり国債価格です。今回のテーマは、ま
ともに国債価格とします。

あまり知られていない国債市場、国債の保有主体、国債をもつ目的、
利回り、期待金利と国債価格などです。株式は、個人(700万人)
の参加があるので知っている人が多い。

しかし、株式市場の5倍以上(1日15兆円)の売買がある債券市場は、
金融機関やファンドの専門的なファンドマネジャーの売買なので、
知っている人は、とても少ない。国債価格と期待金利の関係も、ほ
とんど知られていないのです。実は、日銀や財務省は、金利を決め
てはいません。

【金融緩和】
金利を決めるのは、債券市場(=国債市場)で、株の何倍もの金額
が日々売買され、株のように、売りと買いで価格が上下している国
債です。日銀は、国債の売買に介入して、短期金利を調節していま
す。

日銀が大きく国債を買うとき(買いオペ)では、国債価格は上がっ
て、国債の利回りは下がる。金利は、今日の国債の利回りです。マ
ネーの緩和がこれです。

国債を売った銀行には、その分、現金が増えます。つまり、マネー
が増加供給される。これによって、マネー量が増えて、貸し出しの
金利も下がるのです。不況のときは、日銀は、国債を買って金融を
緩和します。

【金融引き締め】
他方、日銀が手持ちの国債を大きく売るとき(売りオペ)は、普通
は、国債価格が下がって、金利は上がります。

・日銀が、手持ちの国債(証券)を売れば、
・国債を買った銀行が、現金を日銀に振り込みます。
(注)実際は、日銀当座預金の減少です。

この国債の売りオペでは、金融機関の現金が、日銀に吸収されます
から、「マネーの引き締め」になり、金利は上昇します。好況のと
き、および物価が上がっているとき、日銀は景気を引き締めるため、
国債を売ってマネーを吸収することで金利を上げるのです。

以上が、「普通の時期」です。・・・ところが、日銀がアベノミク
スの「インフレ目標2%〔2015年〕」という方針に沿い、2013年4月
から
●「異次元の金融緩和」、つまり、月間7~10兆円(昨年同月の3
倍)の国債買い切りを実行したとたん、
●金利と国債価格に「異常な動き」が起こっています。

その異常な動きの中で、なんといっていいか・・・金利が0.8%や
0.9%くらいに上昇しているのです。

金利が上がる理由は単純なものです。市場で、買いの金額より、売
りの金額が大きかったから、価格が下がって金利上がった。

●日銀が過去の3倍以上多い異次元の国債(月間7~10兆円)買いに
出動している4月、5月に、一瞬であっても金利が1%にあがるくら
い、金融機関からの国債売りがあったのか? 

普通、日銀から大量の買いがあれば金利は下がり、国債価格は上が
ります。ところが・・・金融機関は、日銀が異次元緩和として国債
を買う金額以上に売りを浴びせています。「売り>買い」だから、
金利が上がり、国債価格が下がるのです。

これはなぜなのか? そして、今度、どうなるのか?
株価の暴落は、金利の高騰に比べれば、はるかに・・・はるかに、
たいしたことではない。

新聞、経済マスコミ、エコノミストは、いずれも、13年4月、5月の
国債市場の、この異常な動きが、
(1)なぜ、起こったのか?
(2)金利と国債価格の、何の兆候なのか?
(3)悪い金利の上昇だったら、日銀はどう方針を転換すべきか?
について、根拠ある解釈と論述ができていません。

本マガジンで、(不遜にも)解釈と論述を行おうと思います。

この動きが続けば、とても危険な悪い影響が日本経済、つまりわれ
われの仕事と、生活に及ぶからです。

2年先になって、この傾向が行き着くと、
・物価は上がるが所得が上がらないスタグフレーションと、
・政府が社会福祉費(年金・医療費・介護などの福祉費で109兆円
/年)を払えなくなる財政破産です。

こうなるとすれば、安倍政権と日銀は、今年の9月には(もっとも
遅くても11月)には、方向を変えねばならない。アベノミクスの方
向を、どう変えるべきか、提案までも考えます。

現在、市場で起こっている金利と国債価格の異常な動きが、なぜ起
こったのか。理由を突き止めるには、準備的なマクロデータの整理
と解釈が必要です。そこから始めます。

名目GDPの2倍に相当する950兆円(2012年)という残高になるまで、
超低金利のまま国債が買われて保有され続けている理由は何か?

10年債の金利は、わずか0.8%水準です。1兆円の10年債を保有し
ても1年に80億円の受取金利でしかない。10年債の、国債市場での
期待金利が、わずか1ポイント(%)上がるとどうなるか。

残存期間が10年の場合、(1+表面金利0.8%×10年)÷(1+期待
金利1.8%×10年)=1.08÷1.18=91.5%・・・8.5%も価格
が下がるのです。 0.8%の金利をもらっていても、キャピタル・
ロスがその約10倍の8.5%も生じてしまいます。

記憶していただきたいのは以下です。

(1)低金利の国債ほど、金利上昇での、価格下落が大きい。
     世界で金利がもっとも低い日本国債は、金利上昇があったと
     きのキャピタル・ロス(保有資産の損)のリスクは大きい。

(2)残存期間(デュレーション)の長い国債ほど、金利が上昇し 
     たとき、価格下落リスクの金額が大きい。

こうした価格リスクが高いのに、金融機関は、10年債で金利0.8%、
3ヶ月債では0.08%というミクロな金利の国債を、なぜ大量に買っ
て、保有を続けてきたのか?

例えば生命保険は、総資産の60%が、長期国債での運用です。
これを考えねばならない。

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        <659号 :2013年5月からの国債市場の異変>
                    2013年6月19日号

【目次】

1.保有特性グループ別の、国債の保有の分析
2.長期国債の保有グループA :生命保険・公的年金:252兆円
3.中期国債の保有グループB:農林系・共済・ゆうちょ:236兆円
4.短期的保有グループC:都銀、地銀、第二地銀:156兆円
5.日銀の異次元緩和で、
            国債のイールドカーブが重要になってきた
6.イールド(金利)カーブをフラット化させる、
                                日銀の異次元緩和の危険
7.物価の期待上昇と金利、及び長期債の価格下落

【後記】

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株価が高騰していた時期の4月24日に、バブル価格を指摘したもの
です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    <650号:結局、最後の、憑(つ)かれたバブルか(1)>
           2013年4月24日号

【目次】

1.08年9月の、リーマン・ショッから始まっている
2.FRBによるドル増刷は$2.5兆(250兆円)
3.FRBが模索している出口政策で、米国債の買い手が日本
4.金は、売り超になって下がった
5.日本の株価の高騰
6.ユーロの危機は続く
7.通貨の売買(外為市場)が、もっとも巨額
8.奇妙なところがある、日銀の金融政策
9.「補完当座預金制度:当座預金に0.1%の金利」がある
10.日銀が言ってきたことの矛盾
[次号に続く]

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