アベノミクスのパラドックス(2)
Written by admin on 2013年6月6日 – 09:00
おはようございます。火曜日の夕刻からは、オーストラリアとのサ ッカーを興奮して見ていました。ロスタイムの3分の、PKでの引き 分けによるワールド・カップ出場決定という、すれすれの、それだ けに劇的な結果です。 物語に書けば、リアリティが薄い。と言えば、この二一世紀。他の ことでも、作家の想像力である小説や映画を、現実が超えることが 多いと感じます。 前号からお約束していた、有料版のプロローグ部を送ります。 (といっても、10ページあります) ▼「異常が普通になった金融」が5年 リーマン危機の後の5年間、米・欧・日の金融、経済で、非常時に だけに行うべき金融政策(マネーの大増発)が、常態化しています。 このため、通常の論理と違う「ねじれ」が生じます。 例えば米国経済(失業率や住宅価格)の好転の結果が、数字として 出る。そうすると、本来は上がるべきダウ工業株の株価が下がる。 景気が良くなるわけですから株価は上がるのが普通。 ところが、リーマンショック以後の米国経済は、 ・量的緩和第一弾(QE1:08年12月~10年3月)、 ・第二弾(QE2:10年11月~11年6月)、 ・第三弾(QE3:12年9月~)というように、 FRBが、国債と住宅証券(MBS)を$3兆(300兆円)も買い、経済・ 金融を支える「非常時」が続いています。 (注)MBS(Mortgage Backed Security)は住宅ローンを担保にし たデリバティブ証券。価格は額面の60%に下がっていましたが、FR Bは住宅資金供給の目的で、額面価格で$1.2兆(120兆円)も買い 入れています。この巨大な資金供給によって、米国の住宅価格は13 年3月には前年比で9.7%上がっています(ケース・シラー指数)。 http://www.federalreserve.gov/releases/h41/current/ 中央銀行がGDP(米国$14兆:1400兆円)の20%に相当する巨額マ ネーを、国債を買って増発することを、 ・「非伝統的政策」と柔らかい表現で言っていますが、 ・本当を言えば「異常な金融策(ラストリゾートとも言う)」です。 1929年から33年の米国発の大恐慌以降、大戦をはさみ80年間もなか った異常な金融政策を、FRB、ECB、日銀が同時にとっています。そ して米国と日本は、第二次世界大戦の時のようなGDP比の、国債の 残高になっています。こうした異常な状態だから、景気好転の数値 が、株価でも異常な反応になります。 【5月中旬の観測】 景気が好転すると米国FRBが、毎月$850億のドルを増発している量 的緩和のQE3(12年9月~)から、「出口政策」をとるかも知れない。 早ければ、13年6月から、順次、FRBがマネー増発を減らすのではな いか?と、ヘッジ・ファンド観測したようです。 「景気が良くなった指標→FRBがマネー増発を減らす→株価は下が る→株は売りとなって→実際に下がる」・・・ここに論理のねじれ があります。 【米国FRBによるQE3の、マネーの増発の速度】 QE3では、米国FRBは、2012年9月から、 ・毎月、国債を$450億(4.5兆円)、 ・住宅証券を$400億(4兆円)、 合計で、8.5兆円のマネー増発を続けています。 1年間で、+100兆円にもなる巨大なドル増発です。 ▼投機的なワールド・ダラーが、$4兆(400兆円)の増加になった 08年から5年間続いている、金融の超緩和(米ドルは+$3兆)によ って増えたのは、世界の債券、株式、金融市場、資源やコモディテ ィ相場をめぐる「ワールド・ダラー」です。 ・2008年は、$2兆(200兆円)でした。 これでも大きいと、当時は言われていました。 ・2013年では、3倍の$6兆(600兆円)です。 (日経新聞:13.06.04) 中央銀行が国債や住宅証券を買うことは、債券をもっていた金融機 関にとっては売りです。金融機関に、売った債券の代わりに、ドル の現金が入ってきます。 現金では金利がない。金融機関は、利益を出すよう運用せねばなら ない。こうして短期利潤を求め、世界を高速でめぐるホットマネー が、$6兆(600兆円)のワールド・ダラーです。 【注:1990年代以降、経済の構造変化がある】 増発された巨大マネーは(商品購買が増えていた1980年代のよう に)GDPの商品を買って、消費者物価を上げるようは、働きません。 フィシャーはお金の量と経済について、「M(マネー・サプライ) ×V(マネープライの回転率)=P(物価水準)×T(実質GDP)」い う、美しい等式を作りました。(注)この等式が、2000年代の世界 経済でどう成立しているか、問題になることです。 マネタリストは、この等式を使い、M(マネー・サプライ)を4%以 上増やして6%増(=70兆円増)にすれば、日本の下がってきた物 価も、2%上がるインフレに向かうと言います(日銀の副総裁 岩田 規久男氏)。 2013年4月現在の、日本のマネー・サプライ(M3:1152兆円)の増 加は、前年比2.6%程度です(+30兆円)。 4%増(+50兆円)で物価がゼロ、6%増(+70兆円)で物価が2% 上がるという。(↓日本のマネー・サプライ:M3を見てください) http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1304.pdf ところが・・・米国のマネー・サプライ(M2:$10兆5250億)は、 1年に7.2%も増えています。 http://www.federalreserve.gov/releases/H6/Current/ しかし、米国の消費者物価の上昇は1.1~1.7%と低い。マネー・ サプライとの関係では3~4%のインフレになるはずです。ところが 米国は、FRBのふんだんなマネー増発〔$3兆:300兆円〕にかかわ らず、デフレの傾向に向かいつつあるのです。 ◎理由はFRBによるドル増発(1年に$1兆)が、GDPの商品購買や設 備投資に向かわず、金融資産の売買だけに向かっているからです。 事実を見れば、大きな量的緩和をFRBが行っていても、米国の消費 者物価は、 ・過去の2.5%台の上昇から、 ・13年4月には、1.1%の上昇に低下しています (英エコミスト巻末統計:13.06.01)。 政府・中央銀行による、マネーの増発によってGDPを増やすという 目標とは異なり、リーマン危機の後の、金融機関を救うための量的 緩和のマネーは、ヘッジ・ファンドや投資銀行の運用を増やすだけ でした。 (注)13年5月までの、先進国中央銀行のマネー増発の合計では、 (1)ドルが+$3兆、(2)ユーロが+3兆ユーロ、(3)円が+69 兆円です。 日銀の貸借対照表が、資金供給量を示しますが、08年3月20日は115 兆円でした。これが13年5月31日は184兆円です。+69兆円です。 http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2008/ac080320.htm/ 総計では、米・欧・日で、700兆円という巨額です。 この巨大な、マネー増発の上に、現在の経済があるのです。 ●FRBのドル増発を根底の原因にして、5年で$4兆(400兆円)も増 えたワールド・ダラーが、ヘッジ・ファンドと投資銀行にとっての 預託資金になって、買いで相場を上げ売りで下げるように、世界中 の獲物を求め、のたうち回っているイメージです。 先物売りなら、相場の価格下落でも、利益が上がります。 【巨大な、シャドー・バンキング】 来年は任期が来ますが、再任は拒んでいるFRBの議長バーナンキが、 QE3を停止する必要があると最近気にしているのは、「シャドー・ バンキング(影の銀行)」による、先物・スワップ・オプションの 形をとった、いずれもデリバティブの投機マネーの増加です。 シャドー・バンキングは、ヘッジ・ファンドや、銀行の子会社によ るデリバティブ金融です。デリバティブの製造の70%は、租税回避 地のオフ・ショアです。 ほとんどは、規制と税を避けるための「世界で60ヵ所のオフ・ショ ア」であり、政府も監視ができず公的統計もない。金額規模は、市 場価値で$24兆(2400兆円:2012年12月:BIS)です。 BIS(国際決済銀行=世界の中央銀行の中央銀行)のみが、デリバ ティブの総額(対象となるもの)と、その市場価値を示しています。 http://www.bis.org/statistics/dt1920a.pdf 【2012年11月から円を売って、日本株を買ったガイジン】 日本での事実を言えば、2012年11月から、 ・アベノミクスの円安誘導に協調した、日本の円売り(円売り・ド ル買い)で、1ドル80円の水準から100円の円安にし、 ・株価(日経平均:12年10月8500円)を、1万5600円(13年5月20 日)にまで上げたのは、「ガイジンの買い超(ちょう)」でした。 アベノミクには、ワールド・ダラーを使うガイジンの協調があった のです。 ・円を下げ(ドル買い・円売り)、 ・株を上げた(株買い)資金源は、 $6兆(600兆円)のワールド・ダラーを運用するヘッジ・ファンド と投資銀行の買いです。 これが、逆方向になるとき、円高、株安です。 このマネーが、世界の株価、債券価格、金利、資源や金価格におい て、 ・投機対象にしたものは(バブル的に)上がり、 ・利益を確定し、別の対象に逃げたとき、短期で暴落する相場を作 っています。 【QE3の順次縮小の観測】 米国のQE3(量的緩和第三段:月間$8500億のドルの増発)が縮小 に向かうとどうなるか? 直接に、 ・8000本のヘッジ・ファンド(預かり元本$2兆:200兆円)と、 ・ゴールドマン・サックス等の投資銀行の、投機的なマネーが減少 します。 買いが減った株価は、下がる。マネーが締まるとドルの金利は、上 がる。金利が上がると、外為市場でドルも上がる。このため、「米 国景気好転の数字→株式市場の下落」という反応になったのです。 ●5月23日以降、米国で「FRBが13年6月から、QE3(月間$850億) の縮小を開始するのではないか」という観測が、強くなりました。 QE3の停止の実行に向かえば、世界に投機してきたワードダラーの 増加が減ります。 日本株の買い超(7ヶ月の累積で+10兆円)を続けてきたガイジン が、5月23日以降、週間で売り超にはならないまでも、売買が均衡 するまで、買いを減らしています。 他方、日本人の合計は、一貫して売り超です。ガイジンの買い超が なくなると、増加買い手が消えた日本の株価は、予想PERで15倍の1 万2000円付近にまで下げてしまいます。 以上が、5月23日の株価暴落が起こり、その後、1万3000円付近にま で2500円(17%)も下がってきた主因です。 (注)世界の相場を見ると、日本の日々の株価は、米国ダウの変動 幅を大きくしてコピーしています。理由は、日本株の売買の50%~ 70%を占めるのが英米系のヘッジ・ファンドと投資銀行だからです。 付記すれば、5.23の株価暴落は、日本人が眠っている深夜、シカ ゴでの日経平均先物(日経225 CME:6月が限月)の、1日40万枚(6 兆円:1枚1500万円)の売りから、起こっています。 普通、10万枚(1.5兆円)の売買です。売りが普段の4倍も多かった。 先物でも現物でも、売りは、別の誰かの買いにならねばならない (売買の成立)。 売りが多いときは、価格が下がらねば、買いも増えない。このため、 あらゆる相場で、売りが買いより多ければ、価格が売れるまで下が るのです。 先物価格が下げると、それより高い、現物が売られる「価格裁定の 売買」が、瞬時に大量に、起こります。 差額はわずでも、確実に、利益が上がるからです。この裁定売買 (アービトラージ)のため、先物価格は、現物価格×(1+限月ま での期待金利+リスクプレミアム)に、一致します。 普通、先物価格が現物より、若干は高い。先物が上がると、現物も 上がり、先物が下がれば現物も下がるのは、このメカニズムにより ます。逆に、現物の値動きが先のときも考えることはできますが、 実際は少ない。先物は、レバレッジがかかった大きな金額の売買が、 短時間で起こることができるからです。 その後も、シカゴ市場(CME)で日経225の先物売りが主導した、株 価の下げの動きです。日経225の先物の売買でも、国債の先物とお なじように、ガイジンが50%以上を占めています。 http://nikkei225jp.com/cme/ ▼一貫して売り超の日本人(合計) 驚くべきことを言えば、12年11月以降、日本の株価が日経平均で、 8500円(2012年11月)から1万5000円超え(2013年5月20日)まで約 8000円(94%)も一貫して上げる中で、日本人は累積で10兆円を、 売り越しています。 株式投資での日本人とは、銀行、保険、機関投資家、事業法人、個 人の合計です。日本の株式市場では、バブル崩壊後の2000年代は、 ガイジンの短期売買が60~70%と日本人合計よりはるかに多い。 ◎アベノミクスの株価は、日本人の合計にとっては、買いではなく、 「過去最大額の売り相場」でした。 株価の上昇にともない、売買額は約2倍には増やしました。 しかし合計での「売り超(ちょう)」は、不変です。 ・7ヶ月で10兆円買い越して、株価を上げたのが、「ヘッジ・ファ ンド+投資銀行」です。売り超と買い超の金額は、一致します。 ・10兆円売り越して、過去の損を幾分か取り戻したのが、日本人で す。 理由を推計すれば、 (1)日本人で、実際に株式投資する人(700万人)は、マネー量の 異次元緩和のアベノミクス効果を、本当は信じていないのか、 (2)08年のリーマン危機以降、下落相場で買ってきた保有株の損 をまずは埋め、回復するのが必要だった。 このため、買い超には出ることができなかった。このどちらかです。 本稿では株価の動きを、ガイジンの買い超と、日本人の売り超の面 から分析し、今後の株価予想に、結論をつけるための検討を行いま す。 明確に、金額をつけた予測をします。日経平均で1万3000円~1万60 00円という、多くのエコノミストに見るような予測にならない予測 はしません。 書く意味がないと思うからです。リスクを負います。 根拠を書いている間に、自分にとっても、はっきりしてきたのです。 本文は、以下の内容です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <657号 :アベノミクス・パラドックスが生じてきた(2)> 2013年6月5日号 【目次】 1.ガイジンの買い超で上げ、売れば下がる日本の株価 2.個人投資家の、売買の傾向 3.7ヶ月上げて倍近くに上がっていた日本の株価が、 5.23から下がった原因 4.過去は、80%の週が、ガイジンによる買い超だった 5.今後の、日本の株価を、予測する材料 6.今後の株価のまとめ 【後記】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【お願い】 毎月のことですが、月初めに、「有料版は解約していないのに月初 から届かなくなった」というメールを、当方に、いただくことが多 い。 ↓ ほとんどの原因は、月末でのクレジットカードの期限切れです。 対策は、以下の■に書いています。 お読みいただければ幸甚に存じます。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述の際、より的確に書くための参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは、記事に反映させるよう努め ています。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ■1.有料版は、新規に登録すると『無料で読めるお試しセット』 が1ヶ月分送信されます。以下は、最近のものの、テーマと目次の 項目です。興味のある方は、登録し、購読してください。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <647号:日銀は、2年間で140兆円のマネーを増発> 2013年4月10日分 【目次】 1.1万3000円を超えた株価(日経平均) 2.同時に、$1=99円の円安へ 3.通貨の相対価値を決める、通貨増発率の比較 4.日銀の、インフレ・ターゲットを歓迎する米国と欧州 5.国際通貨マフィアとの合意 【後記:円が先で、つぎに株】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 有料版では、新規に月中のいつ申し込んでも、その月の既発行分は、 全部を読むことができます。最初の1ヶ月間分は、無料お試しセッ トです。その後の解除は自由です。継続した場合に、2ヶ月目の分 から、課金されます。 (1)『会員登録』で支払い方法とパスワードをきめた後、 (2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、 (3)その後、『購読マガジンの登録』という3段階の手順です。 【↓会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■「有料版を解約していないのに月初から届かなくなった。」との 問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんどの原因は、クレジ ットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報の変更は、以下に示す、まぐまぐの『マイぺージ ログイン』の画面を開き、登録していた旧アドレスと、パスワード でログインして出てきたマイページで、メールアドレス、パスワー ド、クレジットカードを新しいものに変更できる仕組みです。クレ ジットカードの変更、送信メールアドレスの変更、パスワードの変 更などに使ってください (マイページ・ログイン↓) https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカードと有効期限を登録すると、その月の届かなかった分を 含んで、再送されます。 なお、有料版と無料版メルマガの、購読方法の電話での問い合わせ は、以下です。075-253-1244 (平日午前10時~午後5時まで) ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 のバックナンバー・配信停止はこちら ⇒ http://archive.mag2.com/0000048497/index.html |