アベノミクスのパラドックス(1)
Written by admin on 2013年5月30日 – 09:00
おはようございます。5月20日ころまでは1万6000円(日経225種) を超える勢いだった株価が、先週の木曜日(5.23)に、突然1000 円以上下げ、1万5000円の大台を割りました。 その後、1日に500円を越える乱高下。昨日(5.29)の日経平均の 終値は、1万4326円でした。 【プロローグ】 ▼「5.23」以降、乱高下を続ける株価 別画面に、刻々と動く、日経平均のリアルタイム・チャートを表示 しています。一瞬で100円、1時間で数百円も動く激しさです。 開始直後は1万14500円に上がったあと、14250円に下がったところ です(5月29日:午前10:36)。 5月28日のNYダウ先物が、$1万5395から$1万5350へと、若干(0. 3%)下げていますから、今日の日経平均も、少し下げるのか? (注)こういった時、NYダウが先行することが多い。 日経平均で1000円以上の暴落があった5.23以降の値動きは、1日50 0~1000円と極めて激しい。 連日、4.5兆円(昨年の3~4倍)を超える売りと買いが交錯してい ます。1日に3%以上(日経平均で500円)乱高下する市場からは、 普通は手を引き、静観するのが得策です。 http://sisannka.com/chart.html (注)世界から24時間売買が可能な、日経平均先物では、5月28日 午後10時が1万4295円でした。(日経225:売買単位は1000倍で、一 枚が1450万円です) 2013年になって、上がる株価を見て買い始めた個人も増えています。 年初からの買いなら、平均価格は、日経平均で〔(年初1万500円+ 5月1万5000円)÷2=1万2750円〕付近です。毎月一定額を買ったと きの仕入原価がこれです。 (注)チャートに表示される「移動平均」は、移動平均をとった期 間、上がっても下がっても一定額を買い続けて売らず、保有したと きの、原価を表します。 5月20日までの1万5000円超の頃、2500円(投資額の20%)くらい利 益が出たと思っていた。これが、あれよと思う間に1800円(+12 %)に減ったという感じが、参加者の平均です。 6月に1500円くらい下がって1万2750円くらいになると、利益がゼロ です。日経平均で1万2750円が、分岐点になります。 株価は、今後、どう向かうか? (1)6月、7月に、日経平均で1万2000円割れに下がるのか? (2)国内勢の買いや、政府の価格維持作戦(PKO)で反発し、再び、 1万5000円を超えるのか?、です。 本稿の、前半では、この判断の素材となるべきものを、検討します。 ▼4月からの「金融大緩和」の実施の後、なぜか上がった長期金利 株価と同時に、不思議なことが2013年5月の債券市場で起こってい ます。 債券市場は、国債を売買する市場です。多くの人に、債券市場のイ メージがないと思うので金額を示します。 http://www.jsda.or.jp/shiryo/toukei/toushika/ 1ヶ月間で、長期国債が200兆円、満期が1年以内の短期国債が100兆 円、合計で約300兆円売買されています。 売り150兆円;買い150兆円という意味。 1日当たりの売買(売り+買い)では、15兆円くらいです。 内外の金融機関がもつ約1000兆円の国債に対し、1年に3回転する速 度で売買がされています。これが国債をもつ金融機関の、国債を売 買する速度(4ヶ月間保有)です。 新規国債(50兆円)と借り換え債(120兆円)を含む、発行元の財 務省からの国債の売りは、1年間で170兆円(月間で15兆円)です。 【国債は、株式市場の4倍の売買額】 株式市場(東証等)の売買は、2013年は3~4倍に増えたと言っても、 1日に3兆円~4兆円です。その4倍という大きさが、債券市場での国 債の売買額です(日本 証券業協会)。金融機関の資金運用の主戦 場は、株式市場ではなく、この債券市場(国債市場)です。 日銀が金利を決めるのではない。国債の売買によって、金利が決ま ります。日銀は、国債の売買の、量の調節により、金利を誘導でき るだけです。 〔金利の上昇〕債券市場で国債の売り(現物+先物)が多ければ、 国債価格は下がって、金利は上がります。 〔金利の下落〕市場で、日銀を含む国債の買い手が多いときは、価 格は上がって、金利は下がります。この債券市場のプレーヤーは金 融機関、ヘッジ・ファンド、年金基金等です。個人はほとんどゼロ です。 【13年4月からは、バズーカ的な量的緩和】 日銀は、13年4月にリフレ派の黒田総裁、岩田副総裁が就任して、4 月は10兆円、5月も7兆円くらいの国債を純増するくらい巨額に買う ようになっています。 政府が発行する新規国債の、なんと70%くらいを、日銀が買い切る。 これが、「黒田バズーカの量的緩和」と言われるものです。これか ら2年、毎月、7兆円以上をドカンと打つ感じがバズーカです。 過去、日銀が最大の量的緩和と言ったとき、国債買い切り(純増) は、1ヶ月に2兆円、年間で20兆円レベルでした。黒田日銀では、1 年に70~80兆円に増えます。2013年、2014年と続けるという。 黒田総裁は、2015年から、消費者物価上昇率で〔+2%/年〕を実 現するため、日銀によるマネー供給額(マネタリー・ベース:5月2 0日で145兆円)を2倍にすると表明済です(13.04.07)。 http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2013/ac130520.htm/ 2%付近しか増えていなかったマネー・サプライ(M3で1152兆円:1 3年4月)が、 ・4%増えるとき(+45兆円)、消費者物価の上昇がゼロ、 ・6%以上(+70兆円)増えれば、その1年~2年後には物価が2%は 上がるように向かうと試算されているからです(副総裁の岩田規久 男氏)。 (注)マネー・サプライの増加と物価の間には、数年の遅れがある ときもあります。 http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1304.pdf http://ecodb.net/country/JP/imf_inflation.html 物価を2%上げるには、マネー・サプライ(≒企業の現金・預金+ 世帯の現金・預金)を、6%(預金額で70兆円)は増やすことが必 要です。 この目的で、日銀が、債券市場で国債を毎月7兆円以上、日銀の保 有が純増するように買い切って、円を、毎月7兆円も印刷し、マ ネーを増加供給すると表明したのです。 〔4月は、長期金利は0.3%と50%下がった〕 日銀が、債券市場で買う国債を増やせば、国債価格は上がって、金 利は下がります。事実、13年4月初旬は、長期金利が0.6%から0. 3%にまで、50%も下がっていました。これが、普通です。日銀も、 当然に、国債価格は上がって、金利は下がると見ていました。 〔5月には、2倍、3倍の1%に上がる日がある。〕 ・・・ところが、財務省と日銀の意図に反して、13年5月には長期 金利〔10年もの国債の利回り〕が、1%をつける日があったのです。 ▼政府と日銀にとって、想定外だった市場の国債売り 日銀の激しい買いを見て、市場では、日銀が買う予定額より、はる かに多くの国債(及び国債先物)が、国内金融機関と、海外ヘッジ ファンドから売られたのです。(注)ヘッジ・ファンドが売るのは、 株と同じように国債先物です。 このため国債価格が急落し金利が、上がった。これが、政府・日銀 にとって想定外だった10年もの国債の長期金利1%が示すことです。 その後の金利の動きを見ると、大量売りに慌てた日銀は、国債価格 を上げるため(=金利を下げるため)、急遽、買い増しています。 5月末現在は、0.8%~1%を波動しています。政府・日銀は、これ を1%以上には、絶対に上げることはできない。 〔仮想〕 市場で国債価格が下がり、実際に下がる予想ができると(下落期待 の形成)、金融機関からの国債の売りが、一層増えるからです。こ れは、短期間(数ヶ月)で、螺旋的な価格下落(金利上昇)も招く 危険があるのです。この国債リスクを未然に防ぐため、日銀が、買 い出動です。 〔具体例〕 0.6%だった10年債の金利が1%に上がると、残存期間10年の国債 は、以下のように下がります。〔国債価格=100×(1+0.6%×10 年)÷(1+1.0%×10年)=100×1.06÷1.10=96.4〕・・・4. 6%下落です。 この長期金利が2%に上がると12%下がり、3%に上がると18%も価 格が下がって、政府財政の破産と金融は同時パニックになります。 日本のように、国債残が1000兆円を越え、しかも、超低金利である ときは、「ごくわずかな金利上昇」が政府財政と金融機関、そして 実体経済にとっての大問題になります。 長期金利の上昇のため、新規の住宅ローン金利も、上がってしまっ た。ローンの金利が上がれば、世帯の住宅購入は、進みにくくなく なります。 日銀が国債を増加買いするという原因から、国債の価格が下がり、 金利が上がるというのは、「異常事態」です。一体、何が国債の売 買市場で起こっているのか? ▼国債の金利が上がったのは、一体、なぜか? 今まで、こうした異常なことはなかった。日銀が、国債の買いに出 動(買いオペ)なら、狙い通り国債価格は上がり、金利は0.6%や 0.3%と下がっていました。これが金融緩和でした。 逆の、日銀による売りオペレーションなら、国債価格は下がって、 金利は上がっていました。これが、マネー量を減らす金融引き締め でした。日銀は、国債の売りの量、買いの量で、金融を調節し、金 利と通貨量をコントロールしてきたのです。 〔懸念〕日銀は、債券市場のコントロール(制御)ができなくなっ たのか? 5月の債券市場では、 (1)「日銀が、国債を大量に買うから、国債は安心できない」と して、 (2)国内と海外の金融機関、およびヘッジ・ファンドが、日本国 債の現物と先物を売り攻勢に出るという、異常な動きが起こってい ます。 実勢に任せれば、国債価格が一層下がり、長期金利は、あれよあれ よと、1%を越えるかも知れません。これを防ぐためひとり日銀が、 国債の防衛買いをしています。 黒田日銀と政府は、今のところ、市場の金利上昇に対し、明確なコ メントを避けています。 総裁が言ったのは、「景気が回復に向かっているから、金利が上が った。」という、状況の説明としては、訳のわからないことです。 マネーの緩和で金利が上がるなら、経済の回復には、日銀による国 債の大量購入は、不適な政策になるからです。 経済新聞やエコノミストも、「中央銀行が国債を大量に買うから、 国債価格が下がる」という普通の時期と、普通の経済では起こらな い奇妙なことが、なぜ、債券市場で起こっているのか、納得できる 論評ができていません。 株価の下落、国債価格の下落、金利上昇で、アベノミクスが早くも 座礁に乗りあげたのか? 本稿では、「アベノミクスのパラドック ス〔矛盾〕」として、ここを明らかにしようと思います。 本号から、無料版だけを購読されている方々にも、この「プロロー グ(前文)」の部分を、送ろうと考えています。プロローグでは、 (1)問題の提起、(2)内容の要旨、(3)本文とは別のテーマを 書いています。号ですこし異なりますが、「論の足を地につけるた めもの」がプロローグです。本稿では(1)の問題の提起です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <656号 :アベノミクス・パラドックスが生じてきた(1)> 有料版:2013年5月29日号 【目次】 1.昨年11月以降、株価はなぜ上がったか? 2.2012年からの海外投資家の買い超の金額と株価の関係 3.13年5月23日までの6ヶ月の株価上昇:毎月平均+1000円 4.2011年10月以降の円安が、株価上昇の原因となった 5.13年5月23日の、株価暴落 6.米国の住宅価格が2013年3月には+10.9%上がった 7.向こう3ヶ月の株価(6月、7月、8月)の断言 8.懸念していたアベノミクスのパラドックスが生じ始めた 9.0.6%国債は、インフレ予想が2%に上がるとどうなるか? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ここまでが、A4換算で7ページのプロローグです。 目次に示した本文は15ページくらいです。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述の際、より的確に書くための参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは、記事に反映させるよう努め ています。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ■1.有料版は、新規に登録すると、『無料で読めるお試しセッ ト』が1ヶ月分送信されます。以下は、最近のものの、テーマと目 次の項目です。興味のある方は、登録し、購読してください。 <646号:日銀のインフレ・ターゲットは本気か?> 2013年4月3日号 【目次】 1.昨年2月からの、日銀のインフレ・ターゲット1%とは、 何だったか? 2.1%のインフレ・ターゲットの宣言のあと、 物価は、逆に下がっている 3.ベース・マネーと、マネー・サプライの違い 4.日銀の虚言と、お茶濁し 5.1%のインフレ目標が達成に向かっていないのに、2%の目標 6.わが国の公社債市場 7.2013年は、再びの、米国債の大量買い:原資は日銀マネー 【後記】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 有料版では、新規に月中のいつ申し込んでも、その月の既発行分は、 全部を読むことができます。最初の1ヶ月間分は、無料お試しセッ トです。その後の解除は自由です。継続した場合に、2ヶ月目の分 から、課金されます。 (1)『会員登録』で支払い方法とパスワードをきめた後、 (2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、 (3)その後、『購読マガジンの登録』という3段階の手順です。 【↓会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■「有料版を解約していないのに月初から届かなくなった。」との 問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんどの原因は、クレジ ットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報の変更は、以下に示す、まぐまぐの『マイぺージ ログイン』の画面を開き、登録していた旧アドレスと、パスワード でログインして出てきたマイページで、メールアドレス、パスワー ド、クレジットカードを新しいものに変更できる仕組みです。クレ ジットカードの変更、送信メールアドレスの変更、パスワードの変 更などに使ってください (マイページ・ログイン↓) https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカードと有効期限を登録すると、その月の届かなかった分を 含んで、再送されます。 なお、有料版と無料版メルマガの、購読方法の電話での問い合わせ は、以下です。075-253-1244 (平日午前10時~午後5時まで) ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 のバックナンバー・配信停止はこちら ⇒ http://archive.mag2.com/0000048497/index.html |