特別号:結局 憑かれた資産バブルか?(2)
Written by admin on 2013年5月12日 – 09:00
こんにちは、吉田繁治です。1ドルが100円の大台を超えた円安(ド ル高)になり、一層の円安で輸出企業の売上(円換算)が増えて、 次期予想純益(2014年3月期)も増えるという予想から、株が買わ れ日経平均も1万4607円にあがっています(13年5月10日)。 金融経済に属する株価は、半年後の景気、言い換えれば実体経済で あるGDPを予想しているとも言われます。 (注)GDPとは商品生産であり、需要であり、所得です(3面等価)。 GDPの増加は、企業と世帯の合計の、所得の増加と同じです。250万 社の企業では所得は税前の利益です。5200万世帯では、合計税前所 得です。 株価が上がるときは、その後、企業利益が増えるということ予想し ている。ドルに対して円安になると、輸出企業の米ドルでの売上は 同じでも、円換算の売上は増えます。 人件費等の国内経費は、円で払うから円安になっても、金額は同じ です。円換算の売上が増え、国内経費は同じなので輸出企業の利益 が増える。この企業利益の増加を期待し、株価は上がる。これが、 実体経済面で、株価が上がる根拠です。(注)輸入の原材料価格は、 円安・ドル高の分、上がります。 【円の増発は円安】 2012年11月以降、日銀が、政府のインフレ・ターゲット2%の達成 (期限は2015年:消費税の増税は抜き)のために、円(マネタリー ベース)を2倍に増発するということから、まず、 円が外為市場で 売られ(ドルが買われて)の円の価値が下がりました。 日銀は、マネーの増発によって、商品や所得を生めるわけではない。 マネー増発は、通貨のモルト(原酒)を、水で割って薄めることで す。このため円の価値は下がる。価値が下がるなら、円で損をしな いために、〔円売り=ドル買い〕の動きが起こる。 実際にそうなって、2012年の$1=80円水準が、2013年5月には、$ 1=101.5円(5月10日)に下がっています。円安は、円が売られて ドルが買われ、円はドルが買われた分、海外流出することと了解し てください。 つまり日銀が、インフレ目標で円を増発するということから、外為 市場では円が売られ、ドルが買われたのです。このため、円は、昨 年来で25%くらい、ドルに対して下げる円安になっています。 物価のインフレも、外為と同じように。円の価値(商品購買力)が インフレの分、下がることです。 【インフレと、通貨、所得の価値】 政府の目標通り、2%のインフレなると、円の現金と預金の価値は、 10年間で〔1÷1.02の10乗=1÷1.22=82%〕に下がります。 1億円という金額(名目と言う)は同じでも、上がった物価のため 商品の購買力が8200万円に、1000万円なら820万円に、100万円は82 万円の商品購買力に下がる。所得が、年2%以上増えないと、世帯 は貧困になります。インフレでは、当然のことです。 【円安+インフレと株価】 株価はどうか。株価に話を戻せば、株価の評価では何が基準か? 実は、確固として変わらない株価の基準は、ありません。売られる 価格、買われる価格の一致点が株価であるということだけです。 しかし、近年は、次期予想純益(税後利益の予想)に対するPER (欧米ではP/Eレシオ)の倍率を基準として見ている人が多い。 ▼PER理論(株価について、基礎的なこ) ;株価の金融経済と、企業の純利益の実体経済を結ぶもの PER理論は、金融の学である『ファイナンス理論』における、株価 は将来の予想純益を、予想金利と純益のリスク率で割り引いた現在 価値(NPV)だということからきたものです。具体的には、以下で す。 期待純益を、予想金利と純益のリスク率で割り引くとは、(1+予 想金利+リスク率)で割ることです。2年目なら(1+予想金利+リ スク率)の2乗で、3年目なら(1+予想金利+リスク率)の3乗で、 割り引かねばなりません。遠い将来の利益評価は小さくなります。 (注)インターネットなどの赤字企業(かつてのアマゾン)や、成 長が予想される企業は、市場が予想純益を推量で大きく見ます。2 年目までは赤字でも3年目は黒字で、4年目はその黒字が大きくなる と見る。以上から、赤字企業も株価が高くなることがあります。 【企業の利益は株主のもの】 企業の純益は、配当されず企業に留保されても、株の保有割合で割 った分が、株主のものです。利益は、経営者や会社のものではない のです。これが資本主義です。 会社があげた純益は株主のものであり、将来の利益も株主に帰属し ます。将来の純益は、現在のものではないので、金利とリスク率で 割り引かねばならない。 以下のような計算で、予想される将来利益を、金利とリスク率で割 り引いた上で、合計したものが、株価(時価総額)です。 その企業の株価の時価総額= {1年目の予想純益÷(1+予想金利+リスク率) +2年目予想純益÷(1+予想金利+リスク率)の2乗 +3年目予想純益÷(1+予想金利+リスク率)の3乗 +4年目・・・5年目・・・同様の無限等比級数} =1×PER倍率(15倍など) =次期予想純益÷株式益回り(6.6%など) 年度先に行けば行くほど、純益予想額と金利予想は怪しくなって行 きます。3年後くらまでは、ある程度(±30%の枠で)に収まる予 想ができても、5年後や10年後の企業純益は、まるで分からない。 これは過去の、各企業の、利益の変動を見れば分かります。変動幅 (ボラティリティ)が小さく、利益が増加してきた企業のPER倍率 は20倍以上と高い。他方で、変動幅(ボラティリティ)が大きく、 利益が増えていない企業のPERは10倍以下と低い。 リスク率は1年に対し5%、1年目に対し10%、3年目に対し15%くら い見る。これが、上記の式の株式益回り6.6%、同じことですがPE R15倍の、意味です。 リスクを3%と小さく見るなら、株式益回りは〔3%+1.6%=4.6 %〕になります。この株式益回りは、PERの逆数ですから、〔1÷株 式益回り4.6%≒21.7倍〕・・・PERは21.7倍と高くなります。 (注)期待金利を1.6%とし、リスク率が5%が株式益回り6.6%、 PERでは15倍です。 ・期待金利は、長短金利のスワップ(等価交換)のときの、長期金 利です。 ・リスク率は、任意の、企業別の見積もりです。 以上のように、株価はその企業の期待純益、予想金利、想定リスク 率で決まるとするのが、現代ファイナンス理論です。 金利が下がると株価は上がるという人がいます。しかし、実際は、 金利の要素より、企業純益の将来リスクの要素がはるかに大きい。 これが、額面に対し確定利回りがあり価格変動が小さく、金利とい う要素だけでしか動かない債券との違いです。 ●株式では、その企業の将来利益がどの程度増加するか(あるいは 減るか)、その利益予想のリスクはどの程度かというリスク率のほ うが、金利という要素よりはるかに重く、株価(つまりPER)を左 右します。1年目の予想純益÷(1+予想金利1.6%+リスク率5 %)+2年目+3年目・・・・=株価時価総額 :この場合の株価はP ER15倍、株式益回り6.6%です。 ▼PER 15倍が基準 現在の、世界の金利水準で、世界の株価を見たとき、PERで15倍付 近(リスク率5%)が、ヘッジ・ファンドなどの、投資・売買の基 準になっていると見ています。金利を1.6%、リスクを5%と見て、 PER15倍ということです。 参考のために、主要国のPERを、Financial Times紙の、最新号から とって示します〔13年5月8日:P/Eレシオ〕。以上の予想金利と将 来純益のリスクで見ると、以下のP/Eレシオの数値も平板ではなく、 「意味をもって活字が立って」、見えるはずです。 (注)日本は予想PER、他の国は、ほぼ4半期決算の純益での実績PE Rです。 キプロス32倍:フィリッピン21倍:インドネシア20倍:スイス20倍 :台湾19倍:オーストラリア19倍:日本18倍:スペイン18倍:イン ド18倍:米国S&P500 17倍:ポルトガル17倍:カナダ17倍:フラン ス17倍:イタリア17倍:ギリシア16倍:タイ16倍:韓国16倍:マ レーシア16倍:ブラジル16倍:米国ダウ15倍:英国14倍、オランダ 13倍:トルコ13倍:ドイツ12倍:中国8倍:ロシア6倍・・・中心は、 ほぼP/Eで 15倍(=株式益回りで6.6%)・・・これらは赤字企業 を抜いた、純益実績でのP/Eレシオ(=PER)です。 以上のように、国単位のPERが15倍より高いときは、その国の企業 の予想純益において次の四半期や1年の増加期待が、大きくなって いるときです。(注)この期待は、株を売買する人の集合的な意識 でからくるものです。時期によって、変化します。 キプロス32倍:フィリッピン21倍:インドネシア20倍:スイス20倍 :台湾19倍:オーストラリア19倍:日本18倍:スペイン18倍:イン ド18倍:米国S&P500 17倍:ポルトガル17倍:カナダ17倍:フラン ス17倍:イタリア17倍:ギリシア16倍:タイ16倍:韓国16倍:マ レーシア16倍:ブラジル16倍等が、該当します。 PERが15倍を超えるところも多く、世界のほぼ半分の国で、企業純 益の増加予想(期待)が、大きくなっています。PER16倍以上が多 い理由です。(注)PER3倍分で、株価は、20%変わります。 ▼最近の日経225種の予想PER 最近の日本株の予想PERは、18.5倍(5月10似日)でした。 純資産に対する倍率(PBR)は1.45倍に上がっています。 PBRで1倍付近や1倍を下回っていた時期(2012年)からは様変わり です。 昨年度の利益実績に対する実績PERは、24.5倍です。これが、予想 PERで18.5倍とは、企業の期待純益増加が、〔24.5÷18.5=1.3 2〕・・・32%です。 日経225種平均1万4607円、TOPIX 1181円(一部上場2600社の平均株 価:一部時価総額÷株式数:5月10日)という株価指数は、ほぼ20 %の円安によって、次期の東証一部上場企業の純益が、32%は上が るという想定のものです。 http://www.nikkei.com/markets/kabu/japanidx.aspx 直近の2013年3月期の、東証一部企業の予想純益(14年3月期)は、 最近の情報では、昨年比で+20%付近とされています(日経新聞13 年5月11日:1720社合計)。確定は、6月ですから、この純益予想は、 ほぼ確定と見ていい(60%の会社が発表)。 http://www.nikkei.com/markets/kigyo/gyoseki.aspx?g=DGXNASGD1007H_10052013MM8000 そうすると、株式市場は、5月10日時点の株価(日経平均1万4607円 :TOPIXで1181円)をつけて、あと12ポイント(%)くらいの、企 業純益の増加を見ています。 大手輸出製造業が多い東証一部の企業純益は、前記のように、円安 で増えるため、「日々の円安→株価上昇;円高→株価下落」になっ ています。 現在の株価の直近の問題は、5月20日に多い、海外ヘッジ・ファン ドの決算による、「利益確定の売り抜け」です。 日本の、昨年来の株価上昇(日経平均では8500円→1万4000円:65 %上昇)は、マネーを刷るアベノミクスを見て、ヘッジ・ファンド が、日本の株をほぼ7兆円買い越してきたことが、主因です。これ が毎月1兆円、1週間で2000億円平均、1日で数百億円の買い超にな って、株が上がってきたのです。 (注)買い越し=「買い-売り」の差額。あらゆる株価は、買い越 しが多いとき上げ、売り越しが多いとき下げる。 国内の個人と投資信託は2兆円、金融機関と事業法人は5兆円も売り 越しています。 ●つまり株価上昇と上昇がもたらす気分的な、景気の回復感は、日 本人によるものではなく、海外のヘッジ・ファンドによる「円売 り・株買い」がもたらしたものです。日本の個人と金融機関と事業 法人は、過去、株では損を続けたので、今回の上げでは、損の回復 のためにもっぱら益出しの態度です。 このため、5月20日から6月にかけての株価が、問題になります。ヘ ッジ・ファンドは、日本の株を、会社支配のために長期で買いもち することはないからです。買ってあげて利益を得て、先物や空売り で売って下げ、そのときも株価の下げで利益を得るのが目的です。 本稿のために書き下ろしたプロローグが、6枚と長くなりました。 以下、有料版の1回分の2回目で、前回送ったものの続きです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <650号:結局、最後の、憑(つ)かれたバブルか(1)> 2013年5月12日号 【目次1:前号】 1.08年9月の、リーマン・ショッから始まっている 2.FRBによるドル増刷は$2.5兆(250兆円) 3.FRBが模索している出口政策で、米国債の買い手が日本 4.金は、売り超になって下がった 5.日本の株価の高騰 【目次2:本号】 6.ユーロの危機は続く 7.通貨の売買(外為市場)が、もっとも巨額 8.奇妙なところがある、日銀の金融政策 9.「補完当座預金制度:当座預金に0.1%の金利」がある 10.日銀が言ってきたことの矛盾 [さらに2号分続く] ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■6.ユーロの危機は、続く ユーロも、米国のリーマン・ショックからの金融危機に、類似して います。米国の金融危機は、住宅証券の下落が原因でした。ユーロ では、アイルランド、ギリシアの国債価格の下落からでした。 (注)米国に類似する不動産価格の下落の要素もありましたが、よ り大きなものは、国債価格の下落でした。 PIIGS諸国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシア、ス ペイン)は、ユーロ統一通貨に属することによって、自国の通貨と なったユーロが高く買われていました。経済の実力を超えたユーロ の通貨高だったのです。 PIIGS諸国が、政府財政の赤字を大きくして、赤字のファイナンス のための国債を発行しても、ユーロであるため、高く売ることがで きていました。 国債価格が高いということは、金利が低いということであり、これ によって、PIIGS諸国に、低いコストでマネーが集まっていたので す。 最初はギリシアでした。GDP比で10~15%以上もあった大きな財政 赤字を隠していたことが暴露されると(2010年5月)、利益の粉飾 をしていた企業の株のように、ギリシア国債は一挙に売られて、暴 落します。 この損は、ギリシア国債をもつ金融機関の損です。そして、ギリシ アだけではなかった。ポルトガル、スペイン、イタリアと、南欧の 大国まで財政赤字の大きさが問題にされるようになって、南欧の国 債は暴落し、金利は上がったのです。 PIIGSの財政破産を防ぎ、暴落したPIISG債を保有する南欧、フラン ス、ドイツの金融機関を救済するためには、リーマン危機の後の、 米国のFRBが行ったようなマネーの増発しかない。 下がっていた南欧債を無制限にECBが買い上げ、PIIGS債の暴落を止 めるとともに、PIIGS諸国の財政破産を防ぐという宣言をしたので す。 ユーロのECBは、ほぼFRBと同じ倍率で、3.3兆ユーロ(425兆円:1 ユーロ=129円換算)のバランスシートに膨らんでいます。ほぼ350 兆円くらいのユーロを金融機関に、増加供給したのです。 もしECBがこのマネー増発を行い、ユーロの銀行に現金を供給しな かったと仮定すれば、これはもう、1929年の米国の信用恐慌でした。 (1)米国FRBは、08年9月以降、バランス・シート(B/S)を$3.3 兆(320兆円)に膨らませて、金融機関に信用供与をしています。 (2)ユーロのECBは、10年5月以降、B/Sを3.3兆ユーロ(425兆円) に膨らませた、資金供与です。 奇しくも、米国FRBが$3.3兆、欧州ECBが3.3兆ユーロです。 http://www.ecb.int/stats/money/aggregates/bsheets/html/outstanding_amounts_2013-02.en.html ユーロへの加盟は、17カ国です。意外に知らない人が多いので、今 後のために、示しておきます。オーストリア、ベルギー、キプロス、 エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシア、アイル ランド、イタリア、ルクセンブルグ、マルタ、オランダ、ポルトガ ル、スロバキア、スロベニア、スペインです。一見しただけで、経 済力が違いすぎ、ユーロは、今後の維持が無理な通貨と分かるでし ょう。統一政府は、ないからです。 日本と中国、東南アジアが同じ通貨を使い、日銀がその発行をする とイメージすればいい。うまくゆくはずもない。 【最近】PIIGSと、最近はキプロスが問題になり、スロベニア、そ してスペインも再び危なくなっています。 長期的には、ドイツの資金負担が大きなユーロは解体せざるを得な いと見ています。キプロスのように、資金を出すドイツが、救済の ための条件をつけるからです。もうしばらくすると負担を強いられ るドイツから「ユーロ離脱論」も出るからです。 実は、このユーロも、日銀がマネーを刷ることによって、金利が0. 6%と低い円債を売り、1.31%の金利のユーロ債を買ってくれるこ とを切望しています。米国からの、日本に対する米国債の購入の期 待と同時に、もっと強く、日本がユーロ債を買ってくれることを願 っています。いやもう、約束があるのかも知れません。 (注)ECBの金融の高官は、ユーロ債の危機の時、下がったユーロ 債を、いずれ中国と日本に買ってもらう発言しています(2011年)。 そしてもっと露骨に、PIIGSのボロ債を中国と日本に売るというこ とでした。 【生保】例えば、資金量330兆円の、日本の生命保険(巨大機関投 資家です)が、「国内の株は買わない。外債を買う。」と、なぜ言 っているのか? ドル債買いの約束があると見られても、「それも ありなん」でしょう。 ■7.通貨の売買(外為市場)が、もっとも巨額 金融市場では、外為市場で国を超えて動く通貨の金額がもっとも多 額です。2010年で、1日に$5兆(500兆円)もあります。 円の売買の取引は、ほとんどがドル・円間ですが、1日に$3000億 (30兆円)です。月間で600兆円、年間で7000兆円。外貨の実需に なるわが国の貿易額の100倍です。すごい量の金額の通貨が、利益 を求めた投機の目的で、日々、売買されています。 このため、日本から見ると円安では、 ・円が巨大に売り超になり(ドルが買い超)、 ・円高では、買い超です(ドルが売り超)。 その中の、ごく一部が、 ・各国の金利を動かす国債の売買や、 ・株価を変化させる株の売買に向かうマネーです。 【重要:売買額と、金融市場の操作性】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 外為での円の売買・・・1日30兆円 →通貨は、1兆円以上でないと動かない (このため、政府が介入) 国債の売買・・・・・・1日 4兆円 →国債の金利は、1千億円の売買で動く 株の売買・・・・・・1日 2~3兆円 →株式は2321種(東証上場)のため、大型株も、数億円で動く ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ヘッジ・ファンドにとって、市場のスケールから (1)もっとも動かしやすいのは、売買額が少ない株式市場です。 (2)次が、国債の金利市場です。 (3)通貨は、売買市場が大きすぎ、単独では動かせない。政府の みが介入できるでしょう。 昨年11月からの円のように通貨が、ある方向に大きく動いたときは、 必ず、政府の介入があります。政府の介入の額は数兆円であっても、 政府の、円安や円高を誘う目的の介入に追随した機関投資家やファ ンドの売買が、必ず増えるため、介入は効果を生みます。 安倍政権は、円を下げるため、2003年の小泉政権(30兆円のドル買 い)のように、米国FRBと相談し「果敢なドル債買い・円売り」を 行ったのです。これは、米国政府の米国債を買ってほしいという要 請と一致するものです。(公式発表はなく、推計) 2012年は、米国債の最大の買い手である中国による買いが、中国の、 貿易黒字の減少のため減っていて、日本が買わないと、米国は金利 上昇(=ドル国債下落)のリスクを抱えていました。なお、自分が 大変なユーロや英国には、米国債を買う資金の余裕はありません。 (これは事実)。 (↓債券市場:ほとんどの売買は、長短の国債) http://www.jsda.or.jp/shiryo/toukei/toushika/ (↓東証の売買) http://www.tse.or.jp/market/data/sector/b7gje6000000jkrj-att/J_stk2_130402.pdf ■8.奇妙なところがある、日銀の金融政策 アベノミクスは、インフレ・ターゲットを2%(2014年の消費者物 価上昇)として、その実現のために、日銀が国債を1ヶ月に7兆円、 1年に80兆円増加買いすることを決定しています。 2%の消費者物価(CPI)のインフレの達成には、マネー・サプライ の増加が、最低でも6%必要です。 ▼マネー・サプライの増加率と、インフレ率の関係 マネー・サプライ(M3:約1500兆円)は、世帯、非金融法人、自治 体の所有の現金、預金(当座・普通・定期・譲渡性・外貨)の総額 です。金融機関、日銀、中央政府の預金は、除外します。感覚的に は、会社と自分の現金と預金と思ってもいいでしょう(ゆうちょを 含む)。この現金・預金の、国の総額が このマネー・サプライ(M3)と、物価、及びGDPには以下の関係が あると見るのが、シカゴ大学のフリードマンが総帥だったマネタリ スト学派です。 【学説】 ●マネタリストは、「M3の増加率×M3の回転率=物価上昇率×GDP の実質成長率」、とします。日本経済では、このM3の年間増加が4 %以下のとき、物価が下がるデフレ傾向を示している。 日本では、 ・M3の増加が4%(+44兆円)の時、物価は±0%付近だが、 ・M3が6%増加(+70兆円)すれば、消費者物価は、数年内に2%上 昇するようになると言う。(『デフレの経済学』:黒田総裁ととも に日銀副総裁に任命された岩田紀久男氏)) ところが、2011年、12年の傾向は、年率で2%台(約25兆円)のマ ネー・サプライ(M3:1143兆円)の増加でしかありません。これで は、0.5%~1%程度の消費者物価の下落が続きます。 日本経済では、マネー・サプライ(M3)が4%(金額では45兆円) 増えたとき、インフレが0%です。6%増えたあと、2%のインフレ でしょう。 http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1303.pdf ▼1ヶ月7兆円、年間80兆円の国債の購入 白川総裁から、黒田総裁+岩田副総裁に代わって、日銀が4月上旬 に出した方針は、マネー・サプライを6%(70兆円/年)増やすこ とを目的にした、国債の1ヶ月で7兆円(年間80兆円)の買い切りオ ペです。 日銀による、国債の増加購入額は、従来、多くても25兆円/年(月 間+2兆円)でした。2013年4月からの日銀の新しい方針は、年間80 兆円(月間+7兆円)ですから、過去の3.2倍と大きい。 ●1ヶ月の国債の、政府からの新規発行額は、借換債を含んで10兆 円くらいです。日銀は、国債の新規発行の70%を買って、毎月7兆 円の円を増刷します。異常に多い金額です。 ▼政府・日銀の態度 政府・日銀は、「2013年はインフレ率1%、14年は2%になるように、 闇雲にマネーを刷る。株も買う。不動産のREITも社債も買う。」と しています。 これには、2013年秋(9月)、冬(12月)のGDPが好調でないと、20 14年4月からの消費税の上げ(+3%)が実施できないという財務省 の事情もからんでいます。消費税の実行条件として、景気条項(物 価上昇を含む名目GDPで約3%上昇)があるからです。 実際は2012年11月以降行ってきたのに、「ドル、ドル国債を買って 円安にする。」と言わないのは、政府は円安介入をしないというこ とになっているからです。嘘ですが、政府や日銀の嘘は、金融では、 普通のことです。 ■9.「補完当座預金制度:当座預金に0.1%の金利」がある ●ところが・・・日銀には、マスコミも言わず、日銀も積極的には 言わない「補完当座預金制度:当座預金に0.1%の金利」が、08年9 月以降、5年も続いています。 2008年9月、リーマン・ショックの後、日銀も円の増刷を迫られた 時、導入されたのが、0%だった日銀の当座預金に0.1%の金利を付 けるこの制度でした。 日銀が、金融機関がもつ国債を買い、マネーを増加供給したとき、 過去はずっと金利がゼロだった日銀当座預金(金融機関からの日銀 への預金)に0.1%の金利をつけるようにしたのです。 この補完当座預金制度の、分かりにくい目的は、 ・金融機関には、マネーを供給しながら、日銀当座預金に滞留させ、 ・増加供給したマネーが、出回らないようにするためのものです。 金融機関に、現金は供給する。しかし、それが、市中に出回りにく いように、(日銀当座預金にとどまるように)0.1%の金利を特別 につける。特例だったこの制度を、日銀は、08年9月以降、黙って 約5年も続けています。 補完当座預金制度の目的は、銀行のマネーを、市中に出まわらせな いためとしか思えない。銀行には資金供給をしながら、マネー・サ プライを増やしてインフレにすることはないという目的でしょう。 0.1%の金利は、とても低く、ゼロに近いので無視できるように思 えます。しかし、現在、1年もの定期預金は0.03%~0.1%と極度に 低い。国債金利は、1年ものは0.11%、2年もの0.12%、3もの0.146 %、5年ものでも0.226%です。 http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/jgbcm.htm 国債保有には下落リスクがあります。日銀当座に預けた預金は、リ スクゼロで金利が0.1%つきます。 このため、貸し出しをして最低でも1%はある回収リスクを負うよ り、あるいは国債を買って、金利の上昇による価格下落のリスクを 負うより、日銀当座預金に預けたあっまのほうがいいと考える銀行 もあるでしょう。 この制度の施行のあと、実際は、どうなったか? 銀行が日銀に預 ける必要がある準備預金としての、日銀当座預金は、総額で7兆円 です。この7兆円を念頭に置いてください。日銀当座預金の残高は、 以下のように、大きすぎるのです。 金融機関が日銀に預けた 1万円札の発行 日銀当座預金 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 08年11月 76.6兆円 9.7兆円 09年6月 81.4兆円 15.1兆円 10年1月 78.3兆円 14.9兆円 11年1月 80.1兆円 19.4兆円 12年1月 81.9兆円 35.6兆円 13年1月 83.9兆円 43.9兆円 13年4月 82.8兆円 67.6兆円 → 余剰が60兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 金融機関が日銀に預ける日銀当座預金は、準備預金としては、7兆 円しか要らない。ところが、これが08年11月で9.7兆円でした。 【ぶた積み額が60兆円】 日銀が、0.8年10月から「インフレ防止のため」とも言い、0.1%の 金利をつけたからです。 ●日銀が、 金融機関から国債を買い、 金融機関に現金を増加供給しても、 不必要な日銀当座預金が、60兆円も増えているだけです。 0.8年11月に、上記のように9.7兆円だったものが、2013年4月は、6 7.9兆円にも増えています。必要額は7兆円です。 60兆円も余分です。この60兆円を、意味がない「ぶた積み預金」と も言います。 ■10.日銀が言ってきたことの、矛盾 日銀は、従来から、「経済に対し、国債を100兆円以上買って、十 分な量のマネーを供給している」といい続けていました。そして、 銀行に対しては、国債を買って、現金をありあまりくらい供給して いるが、金融機関がそのマネーを、企業や世帯に貸そうとしない。 理由は、企業や世帯に資金需要がないからである。このため、マ ネー・サプライは、年率で2%台しか増えない。日銀は、マネタ リー・ベース(現金と当座預金)は増やせても、マネー・サプライ は増やせない、と言ってきたのです。 ところが実際は、補完当座預金制度を5年も続け、日銀当座預金に0. 1%の金利を付けています。このため、金融機関が日銀に売った国 債の代金は、無駄に、日銀当座預金に60兆円(13年4月時点)も、 滞留したまままです。 この当座預金67.6兆円のうち、約60兆円は、事実上、日銀がマネー 供給を絞ったものに相当します。上の表で、日銀当座預金の、増え 方を見てください。 これが増えた分、市中のマネーが、増えていないのです。(注)銀 行は、この0.1の金利で、60兆円×0.1%=600億円の金利を収益と して受け取っています。 ●黒田日銀は、この補完当座預金制度(日銀当預金に0.1%の金利 を付ける制度)を停止して、本来のように、日銀当座預金は金利ゼ ロとすべきです。これがあると、日銀が毎月7兆円の国債を買って も、現金が日銀当座預金にぶた積みされるだけで、市中には、出回 らないからです。 ところが、なぜか・・・日銀は、この補完当座預金制度を、撤廃す るのに積極的ではない。不思議に思います。 日銀当預金に0.1%の金利を付ける制度を続けると、増えたマネー はどうなるか? (1)日銀が供給した現金で、銀行は外債を買うようになり、増え たマネーが、国内のリスクある貸付金としては回らない。 (2)円安には向かうが、国内の実体経済の、需要増にはならない。 日銀は、即刻、ぶた積みの、日銀当座預金を増やすだけの補完当座 預金制度を撤廃すべきです。本稿のような意見に対し、日銀はどう 答えるでしょうか? 【後記】 日銀は、補完当座預金制度での、0.1%の付利を、たぶん廃して、 元の0%にも戻すとは思います。もし、これを廃止しないとすれば、 「安倍政権」に対し、誤魔化す意図です。注目してみておいて下さ い。 0.1%の金利を廃止すれば、そのときから、「インフレ傾向」がは っきりするはずです。貸付金が増えるので、それが投資され、景気 は、上昇に向かいます。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述の際、より的確に書くための参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは、記事に反映させるよう努め ています。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ■1.有料版は、新規に登録すると、『無料で読めるお試しセッ ト』が1ヶ月分送信されます。以下は、最近のものの、テーマと目 次の項目です。興味のある方は、登録し、購読してください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <646号:日銀のインフレ・ターゲットは本気か?> 2013年4月3日号 【目次】 1.昨年2月からの、日銀のインフレ・ターゲット1%とは、 何だったか? 2.1%のインフレ・ターゲットの宣言のあと、 物価は、逆に下がっている 3.ベース・マネーと、マネー・サプライの違い 4.日銀の虚言と、お茶濁し 5.1%のインフレ目標が達成に向かっていないのに、2%の目標 6.わが国の公社債市場 7.2013年は、再びの、米国債の大量買い:原資は日銀マネー 【後記】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <647号:日銀は、2年間で140兆円のマネーを増発> 2013年4月10日分 【目次】 1.1万3000円を超えた株価(日経平均) 2.同時に、$1=99円の円安へ 3.通貨の相対価値を決める、通貨増発率の比較 4.日銀の、インフレ・ターゲットを歓迎する米国と欧州 5.国際通貨マフィアとの合意 【後記:円が先で、つぎに株】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 有料版では、新規に月中のいつ申し込んでも、その月の既発行分は、 全部を読むことができます。最初の1ヶ月間分は、無料お試しセッ トです。その後の解除は自由です。継続した場合に、2ヶ月目の分 から、課金されます。 (1)『会員登録』で支払い方法とパスワードをきめた後、 (2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、 (3)その後、『購読マガジンの登録』という3段階の手順です。 【↓会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■「有料版を解約していないのに月初から届かなくなった。」との 問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんどの原因は、クレジ ットカードの「有効期限切れ」です。 以下のページを開き、新しい期限を登録すると、その月の届かなか った分を含んで、再送されます。 https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do なお、有料版と無料版メルマガの、購読方法の電話での問い合わせ は、以下です。075-253-1244 (平日午前10時~午後5時まで) ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 のバックナンバー・配信停止はこちら ⇒ http://archive.mag2.com/0000048497/index.html |