価格の歪みを狙うヘッジ・ファンドの基本戦略(1)
This is my site Written by admin on 2011年7月27日 – 09:00
おはようございます。8月の朝は、木々の葉陰からの、クマ蝉の鳴
唱です。10時ころになると、計ったように止みます。25度以上の気
温と、光へのセンサーをもつのでしょう。文学になった『ファーブ
ルの昆虫記』を読めば、きっと面白いに違いない。

【技術と芸術】
文章と文学はどう違うか。文学は言葉を使う芸術という。

技術(テクノロジー)なら、分かる。商品製造、商品構成、販売、
物流にも技術がある。(1)個人の高い技術の標準化によるテクノ
ロジーの機械化、(2)最近では機械の情報化(例えばFMS:Flexib
le Manufacturing System)が経済世界を発展させてきたのは言う
までもない。

芸術は、技術が高度になったものか。ミケランジェロの彫刻の技術
が、芸術とされるのはなぜか。

約15年会っていない大学時代の友人に、美学・芸術学の権威と言わ
れる輩(やから)がいます。技術と芸術に、どちらも術がつくが、
その違いは?と訊いても、よく、分からなかった。

鍵は、「美的な価値」にあるのでしょう。デザイン(設計)と製造
技術が、人に伝わる美的な価値にまで至ったとき、NYの近代美術館
(MOMA)やグッゲンハイムに展示され、評価される芸術になるのか
。

文章なら文章の美的価値。音楽なら音の美的価値、絵や写真の美的
価値、彫刻の美的価値になる。美的価値で優れた小説も、芸術の範
疇(カテゴリー)でしょう。

【伝わることができるという要素が価値】
美的価値は、それを作る人(表現者)から、われわれ受け手に伝わ
らねば「価値」にならない。価値は、人に伝わらねば価値にならな
い。

美的な価値を伝える芸術が分かりにくいのは、多くの受け手が価値
を受け取れるかどうかにかかっているからでしょう。そのため、各
分野の権威者が、芸術と認めるマーケティング(製造と販売の仕方
)の構造があります。

新人の小説で芥川賞を認定するのは、一般の読者ではない。本が売
れ、世に認められたため、権威者となった文章家です。権威者が価
値あると認めるから、自分には分からないが、価値があるとする人
が多数派でしょう。その価値観は、時代とともに移ろいます。集団
的な価値だからです。

芸術とされているバッハを聴いても、美的価値を感じない人も多い
。じゃ音楽に属する歌手、ケイト・ブッシュ(英)のCD『嵐が丘』
や、ブリジット・フォンテーヌ(仏)の『コム・ア・ラ・ラジオ』
は? 古典的な映画の『7人の侍(黒沢明)』や日本的演歌の都はる
みは?・・・と疑問が湧きます。技術と芸術的な価値との境界線は
、あいまいです。

「表現者→美的価値の創造→受け手による美的価値の感受」、この
構造があって、芸術でしょう。受け手が感受できる「美しさ」は何
かということでしょう。

読めば、物事や人間を根底から考える癖があったと思える夏目漱石
は、『文芸の哲学的基礎』の中で、芸術の価値について、以下の主
旨を述べています。(注)文芸は文章の芸術、哲学的は、成り立ち
の根底から考えるという形容詞でしょう。「文章の芸術を、根底か
ら考えれば」という意味に解します。

文章芸術が、理想(到達目標と言っても同じ)とすべき価値は、「
真・善・美・荘」であり、4つの価値要素の、良好なバランスであ
ろう・・・(同書要旨)

漱石の小説を読むと、4つの理想に注意しながら、人物、人の愛憎
、自然を描写する文章を作っていたことが分かります。善は、道徳
、倫理、人の道の理想とすることです。

4つ価値のうち荘厳の価値は、森鴎外で強いようです(阿部一族等
)。上記4つに、愛も含まれるかも知れません。きっと含まれます
。「真・善・美・莊・愛」の価値の作者による描写と、メディア(
伝達を媒介するもの:言葉、音、絵の具、石や金属等)による伝達
、その価値の受け取りが、芸術でしょう。

文章の技術が高度でも、価値(理想とする真・善・美・荘・愛)の
伝達を行わないものは、芸術にはならない。その際、人生(人の生
き方)の真実を表したと言えるモーパッサンを批判しながら、漱石
が言う「バランスの欠如」とは以下です。モーパッサンやゾラは、
真を重んじすぎ、美と善を壊して下品になっていると言う。

「真を重んずるの結果、真に到着すれば何を書いても構わないこと
となる。真を発揮するの結果、美を構わない、善を構わない、荘厳
を構わないまではよいが、一歩を超えて真のために美を傷つける、
善をそこなう、荘厳を踏み潰すとなっては、真派の人はそれで万歳
をあげる気かも知れぬが美党、善党、荘厳党は指をくわえて、ごも
っともと屏息している訳には行くまいと思います。」(同書)

芸術での、もうひとつの鍵は「理想(理念・観念も同じ)」です。
単なる真・善・美・荘・愛ではない。人々が理想、理念、観念とす
る真・善・美・荘・愛でなければならない。理想とはidea(アイデ
ア:考え)です。

理想は、実際に触れることができるものではない。人の考えの中に
だけ、存在します。「神」も、世界の始原に係わる究極として、人
の考えが生んだ理想に属します。神は、人の理想とする理念の中に
存在する。現実には、見ることも触ることもない。

企業経営の「ビジョン」も、実現していない到達目標ですから、「
考え」です。考えは、言葉と数字でのみ表せる。理念としての「直
線(2点間の最短距離)」は、人間の観念の中にはあっても、実際
に描くことはできない。定規で引いても、微細な歪みがあり、定規
も歪んでいます。点も直線も、観念です。

人間の観念の世界は、人に伝わる言葉を媒介にして、豊饒です。図
書館に行けば、言葉による観念の多さに、圧倒されます。この観念
が人の、動物と違う歴史を作ってきました。

バッハは音符を媒介に、理想と思える音楽の美を作った。優れた演
奏家が、演奏の高い技術を媒介に、美的な価値を伝えます。

企業も同じです。観念の中のビジョンが戦略(方法)によって到達
目標になって生まれています。企業が作って伝えようとするのは、
商品価値(マーケティング3.0)でしょう。

芸術が、伝達しようとして表す理想的な「真・善・美・荘・愛」は
、人がそうありたいと思う、真・善・美・荘・愛でなければならな
い。

以上、表現の目的とすべき真・善・美・荘・愛という価値、そして
理想と伝達が、芸術の3セットでしょうか。

文学(=文章芸術)になった『昆虫記』から思わず発展しました。
金融の「高度技術」とは何か?と考えていたとき、技術と芸術の違
いに思いが発展しました。

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<548号:価格の歪みを狙うヘッジ・ファンドの基本戦略(1)>
            G-ゼロになった世界の国債市場
               2011年7月27日号

【目次】
1.テーマは、ヘッジ・ファンドの戦略
2.売買するのはデリバティブ(原資産から派生した金融商品)
3.1980年代までの古典的な金融市場と、現代のデリバティブ金融
4.国単位では金融収奪も起こる
5.金融危機も、その回復もヘッジ・ファンドの運用額の増減を見
れば分かる(上表)
6.価格変動の確率に、賭ける
7.金融の自由化で、巨大化した先物市場(デリバティブ)の正体
8.デリバティブによる先物市場の巨大化が、21世紀の11年だった
9.デリバティブの代表でもあるCDSを事例に
10.デリバティブの売買を行うヘッジ・ファンド

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■1.テーマは、ヘッジ・ファンドの戦略

【ヘッジ・ファンド】
テーマは、2000年代にレバレッジ(要は借金)という方法で、6000
兆円(2011年 当方の想定)の運用規模に巨大化しているヘッジ・
ファンドの戦略です。

金融の高度技術。投機を生み、金融商品の対象を、数ヶ月~1年単
位で移動させているヘッジ・ファンドの戦略です。買ってバブル価
格を生み、売って崩壊させる。

投機は、買ったものを使うのではなく、キャピタル・ゲイン(価格
差)の利益を狙う売買です。金融商品では、先物・空売り・CDS・C
DOがあるため、下がっても上がっても、価格変動が大きければ大き
なキャピタル・ゲイン(資産利益)になります。

ヘッジ・ファンドの戦略は、
・投資家から預かった資金を元本に、
・レバレッジをかけた運用(先物、CDS、CDO等のデリバティブの売
買)によって、
・キャピタル・ゲインを獲得することが目的です。

運用者は、約2%の運用手数料と、利益が出たとき20%くらいの分
け前を得ます。24時間、市場を観察し必死に働く。損も利益も、巨
額です。

利益が出たときの報酬は、数十億円と巨大です。相場の下げでは、
数ヶ月で、ホームレスにもなる。自分のお金も、レバレッジ運用に
注ぎ込んでいるためです。

【基本的な方法】
端的に言えば、
(1)買い(コール):
共同幻想で価格をつける市場の評価が低いものや、価格が低いとき
に、現物、先物、CDS、CDO(後述)にせよ、買いを仕込みます。

(2)売り(プット):
市場が追随するピーク価格を判断し、売りの攻勢をかけ、価格を下
げる。

・金融商品相場の底値(価格の低い歪みという判断)の予想で買い
、
・上値(価格の高い歪みという判断)の判断で売ることを繰り返し
ます。

金融商品では、世界のあらゆる証券化商品での価格変動のパターン
をデータベースにし、構成比を決めたポートフォリオ投資(分散投
資)をします。その構成比で、プログラム化した売りと買いを、交
錯させる。このため、今、全相場で、上げは上げを加速し、下げは
下げを加速しています。

◎市場が下がる時は、損をしたレバレッジの資金決済(追い証)を
迫られるため、多くが売って資金繰りをする。このためヘッジ・フ
ァンドが主体になった2000年以降の相場は、必要以上に上げ、バブ
ルを生み、また大きく下がる。

性質の異なる金融商品(社債、株、住宅証券、コモデティ先物)が
、同じ動きをするときが、たびたびあります。この性質を知ってお
くことは、肝心です。ヘッジ・ファンドのコンピュータ売買のプロ
グラムが似ているためでしょう。

今、安全資産と言われるのは、日本国債、スイスフラン債、米国債
や金です。(注)米国債は演技的な、8月2日のデフォルトが迫って
います。

もちろんこれらは、常に安全資産ではない。売買額が膨らみ価格変
動(ボラティリティ)が大きくなると、国債や金もリスク資産にな
ります。

(1)安全資産と大方に認識されたとき買って、価格を上げ、その
ときに保険料率の低いCDSを仕込んでおき、
(2)ある時期になると先物を売って価格下げる戦略は、ヘッジ・
ファンドに基本的な方法です。CDSの市場価格も上がる。

●ヘッジ・ファンドが、利益を出す構造と、利益を出すための投機
の戦略を知らない限り、企業経営と経済を飲み込み、方向付けてい
る現代金融は、分からない。このためにも、本稿を書きます。

戦略の解明にまで行くのは、当方の力を超えますが、基本的なとこ
ろを解き明かすことを目標とします。

21世紀の金融経済は、われわれの多くが知らない間に、デリバティ
ブ(金融派生商品)を使う巨大金融が方向付けるものになっていま
す。

■2.売買するのはデリバティブ(原資産から派生した金融商品)

ヘッジ・ファンドが使う、
・レバレッジのかかったデリバティブ(先物、CDS、CDO、スワップ
)の増加を原因にして、
・金融商品(国債、債券、株、証券化した不動産、コモディティ先
物)の価格変動は、現物市場だけでの古典的取引の時代より、はる
かに大きくなっているのです。

もともとのヘッジ・ファンドの、ヘッジの機能は価格変動のリスク
を避けるための反対売買を含むものでした。守りだったのです。

・2000年代は、ヘッジ・ファンドの元本が$2兆水準に増えたこと
、
・同時に、ミリ秒単位(1秒に1000回)の超高速でプログラム売買
するシェアが、価格グラフを見て判断する人間の手による売買より
大きくなっているため、リスク資産の価格変動が大きくなっていま
す。

▼国単位での金融収奪という問題

問題は、金融商品は短期(3ヶ月内)では利益と損を合計すると、
全体でゼロ・サムであることです。ある人の金融利益は、別の人の
損です。

国単位で言えば、英米のヘッジ・ファンドが大きく買い上げて価格
をあげ、直後に売ることで「金融資産収奪」もできる。運用資金が
多い市場も、今のヘッジ・ファンドは資金量が多いため、動かすこ
とができます。

【ヘッジのポートフォリオ】
Aグループの金融資産や証券が上がる時は、Bグループの金融資産が
下がるというパターンが発見できれば、大もうけができます。今は
、データ・マイニング(価格変動の鉱脈の発見)という方法もある
ので、ポートフォリオに利用されています。

売買を決定するデータベースやプログラムの内容は、明らかにしま
せん。世界で千人か、多分それ以下のクォンツ達が作る、「何を、
いつ売って、いつ、いくら買うかを示すプログラム」を公開すれば
、それを知った別のファンドに、裏をかかれることになるからです
。

ところが実際は、自動売買のプログラムの内容は、各ファンドで、
大方、似ています。(注)後述するプログラム売買(CTA取引)

◎このため、上がる時は、原油のように需給での価格から離れた(
+50%~+100%以上)の価格をつける時期がある。

2008年6月は1バーレル(159リットル)が、$139でした。その後ヘ
ッジ・ファンドから売られて、$39へと$100も下がった(09年2月
)。11年7月27日は、$99.5とまた高い。

大きくは変わらない原油の現物の需給では、説明ができない価格変
動の幅(ボラティリティの大きさ)です。

■3.1980年代までの古典的な金融市場と、現代のデリバティブ金
融

▼古典的な金融市場の、相対的縮小

現物を売買していた1980年代までの古典的な金融市場は、1990年以
降、幾重にもかかったデリバティブの対象になる金融商品の巨大化
($601兆:4京8080兆円)のため、存在が薄くなっています。

◎金融商品ではヘッジ・ファンドのデリバティブ(先物、CDS、CDO
)が先に動き、その価格に合わせ現物価格が、即刻に先物に合わせ
て調整されます。

このためヘッジ・ファンドの基本戦略を知らないと、現物の売買で
損をすることが多い。株の売買を含み、金融投資をする人は、ヘッ
ジ・ファンドの基本戦略を知っておくべきです。

世界のGDP(5000兆円)の3倍くらい(3年分)が金融資産(マネー
ストック)の限度と思えますが、デリバティブで対象になる金融商
品(原資産)の信用総額は、$601兆(4京8080兆円:2010年12月)
と天文学的であり、人の想像力(個々人の観念)を超えています。
(注)この項は後述。

デリバティブも、信用(クレジット=マネー)です。デリバティブ
は、金融商品として売買されます。

ファンドマネーは店舗の商品の購買には、向かわない。このため、
金融市場(信用)が巨大化しても、生活用商品の現物消費である消
費者物価は、さほど上がっていません。

(注)米欧は2~3%、中国では5.5%/年のインフレ傾向ではありま
す。不動産のバブル崩壊が近いと思われる中国の消費者物価は、19
90年を100とすると2011年で300です。20年で3倍、1年で平均5.6%
もの上昇です。原因は、人民元を、輸出のため、人為的に安くなる
ドルにペッグ(準固定)しているからです。

中国のような恒常的な貿易黒字国のドルペッグは、政府がドル債を
買って、人民元を売ることです。このため、その国のマネー・スト
ック(元の預金:現在は860兆円)が増え、それが使われるため、
不動産や物価のインフレを起こす。

●ヘッジ・ファンドが売買するレバレッジのかかったデリバティブ
(先物、CDS、CDO、スワップ)の増加で、金融商品(国債、債券、
株、証券化した不動産、コモディティ先物)の価格変動は、現物市
場だけでの古典的取引の時代より、はるかに大きくなっているので
す。

■4.国単位で、金融収奪も起こる

前述したように、問題は、金融商品は短期(3ヶ月内)では、利益
と損を合計すると、全体でゼロ・サムであることです。ある人が売
買で上げた利益は、別の人の売買での損になる。(注)3か月以上
の相場の上昇期では、多くの人が同時に利益を得ます。相場の下落
では逆です。

国単位で言えば、ヘッジ・ファンドが大きく買い上げ、ピークで売
ることによって、「金融資産の収奪」もできます。

運用資金が、再び6000兆円規模(30倍のレバレッジ後)と大きくな
っているため、国家や中央銀行を相手にした国債や通貨市場でも、
相場を動かすことができる。市場価格の先導をする機能をもってい
ます。

日本のバブル崩壊(1990年~)では、ヘッジ・ファンドによる日本
株の空売りが、英米系のファンドに、巨大利益を与えています。

現物を借りて売り、契約日に、売った株と同じ株数を買い戻して返
却する契約です。空売りでは、売った時より、買い戻すときの価格
が下がると、その差額が利益になります。

例えば1000円で売って、900円で買い戻せば、1株当たりで100円(1
0%)の運用益です。これも、損をカバーするための証拠金を差し
入れた取引で、信用借りのレバレッジがかかっています。

現物を貸すのは、証券の現物をもつ金融機関です。株貸しの手数料
が入るからです。ヘッジ・ファンドでは、親会社である大手投資銀
行(ゴールドマンやバンカメ等)がもつ国債や株の証券を借りて、
売買しています。

(注)ヘッジ・ファンドの利益に見合う損をしたのは、1990年以降
に下がった相場で、「また上がる」とナンピン買いをし、手持ち株
の平均価格を下げようとした日本人、企業、金融機関でした。

1989年末のピーク株価は、日経225平均で4万円(11年7月27日では1
/4の1万0047円)、時価総額は600兆円(現在は1/2の300兆円付近
)でした。株価のバブル崩壊が先になって、次は土地の価格下落が
、日本経済の20年のゼロ成長を生んだのです。

今後、株価時価の3倍超はある日本国債(金融機関の保有額900兆円
付近)で、
・英米系ヘッジ・ファンドによる国債の先物売り(現物保有と無関
係に行える)、
・額面に対するプレミアム(1年の期間の料率)が0.5~1%で仕込
んだCDSがかっていれば、
先物売りの反対売買とCDS価格の上昇で、二重の利益が得られます
。

◎それが1990年からのバブル崩壊に匹敵する、再びの巨大損になる
可能性があります。(国単位では、金融敗戦とも言えます)。

世界的に言えば、08年9月の金融危機以上の、信用恐慌になる。
金融危機の後の3年、世界の中央銀行と政府は信用を拡大していて
、今以上の信用拡大の枠が、少ないためです。

G5(先進国5ヵ国:米・英・日・独・仏)から拡大したG20は、先進
国20ヵ国の蔵相会議です。1990年代~2010年頃まで、各国政府が協
調して、市場介入(主は通貨と金利)をしていました。その効果は
、大きかった。

2011年以降、ヘッジ・ファンドは、これがG-0になったと言う。
巨額の協調介入が今のG20ではできないため、G-0です。米国もユ
ーロも、08年9月以降の金融危機対策で使ったため、今はマネーの
増発が大きくはできない。

2011年のPIIGS国債の下落で、G-0に近いことは証明されました。

今、中央銀行の国債買い(マネー増発)は、その通貨の売りとされ
ています。08年9月からの世界の金融危機以降、金融機関の不良債
券が政府と中央銀行に移転したためです。

▼単一情報の国の懸念

2000年代のインターネットのため減ったとは言え、メジャーな日刊
新聞の購読数で、読売993万部、朝日795万部、毎日359万部、日経3
01万部、産経175万部(各社の自社発表)というのは、情報統制の
中国の人民日報を除けば、日本しかない。

各紙はほぼ同質の情報を、日々流します。TVも同じです。単一情報
は日本の特徴で、良くも悪くもなる。悪い点では、その国での市場
認識の裏をかくヘッジ・ファンドの標的になりやすいことです。

人口が日本の1.7倍の米国では、USAトゥデイが211万部、経済紙の
ウォールストリート・ジャーナルは208万部です。英フィナンシャ
ル・タイムズ紙は、140ヵ国で45万部に過ぎません。(注)インタ
ーネット購読を増やしているようです。

横並び売買は、高値に向かった後に買い、安値に向かった後に売る
ことになる。このため、損をします。金融や経済誌が騒いだときは
、すでに遅いことが多い。(注)常に遅いとは言いません。

売りも買いも、横ならびで行う習性が強い日本人は、英米のファン
ドのカモになることが多い。日本は伝統的にマスメディアで、金融
に関して、ほぼ単一の表面的な情報が流れています。

ヘッジ・ファンドの元本と、レバレッジ後の運用金額(平均30倍で
想定)を示しておきます。

【ヘッジ・ファンドの元本の推移と運用総額:$1=80円換算】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2001年  $0.5兆・・・運用$15兆(1200兆円)
2003年  $0.8兆・・・運用$24兆(1920億円)
2005年  $1.4兆・・・運用$42兆(3360兆円)
2007年  $2.2兆(6年で2.4倍)・・・同$66兆(5280兆円)
2008年  $1.3兆(金融危機で急減)・・同$39兆(3120兆円)
2009年  $1.5兆
          (FRBのマネー注入で増加)・・同$45兆(3600兆円)
2010年  $1.7兆
           (米国FRBのQE2で増加)・・同$51兆(4080兆円)
2011年  $2.2兆
           (米国FRBのQE2で増加)・・同$66兆(5280兆円)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(Barclay Hedgeから)
http://www.barclayhedge.com/products/

■5.金融危機も、その回復もヘッジ・ファンドの運用額の増減を
見れば分かる(上表)

2008年は、2007年からの住宅ローン担保証券(MBS等のデリバティ
ブ)の下落が、世界の株価の暴落も生んだ金融危機で、大きな損を
出し、元本は$1.3兆へと59%に減りました。

08年は、ヘッジ・ファンドが、平均で23.5%の損を出したためです
。運用で損をすれば、ヘッジ・ファンドにマネーを預ける投資家は
引き揚げます。

▼2009年以降の、ヘッジ・ファンドの元本回復の元は、政府とFRB
のマネー

【2008年9月~2009年】
金融危機の後の2009年からの、ヘッジ・ファンドの元本の増加は、
FRB、ECB(ユーロの中央銀行)によるマネー注入によります。

FRBが、米国金融機関の不良債券(住宅ローン担保証券のMBS等:デ
リバティブ)を、$1兆も買ったためです。

金融機関には、市場で売れば一層暴落する不良デリバティブ(住宅
ローン担保証券のMBS)の代わりに、金利ゼロの現金が$1兆(80兆
円)もはいった。これが、利益を出す運用のため、子会社や関連の
ヘッジ・ファンドに流れています。

FRBは金融機関の救済のために資産(信用供与)を2倍にし、$1兆
(80兆円)過剰流動性を金融機関に注入したのです。(注)今もこ
れは続いています。

【金融危機後の、相場回復】
上記統計で見れば、2009年、2010年で、ヘッジ・ファンドの元本が
$4000億(32兆円)増えています。

FRBの、大手金融機関に対する救済資金の40%もが、ヘッジ・ファ
ンドの運用になった。32兆円は、運用の際の、30倍のレバレッジで
、960兆円の巨額になり得ます。

この信用増が買いの原資になって、08年9月の、世界の全面的だっ
た金融危機(米欧の総損失は$5兆:400兆円:IMF推計)あと、
・世界恐慌並みだった金融商品の価格暴落を防ぎ、
・株価も回復させ、
・国債買い(低い金利)にもなったのです。

一旦は下げた資源価格や、金の高騰もこの一環です。
原油では09年2月の$39の底値が、今は3倍の$100付近です。

本来は、プライマリー・バンク(ゴールドマン等の投資銀行や金融
機関大手)の損失補填のため注がれた公的マネーが、運用では傘下
のヘッジ・ファンドに流れる。

【2010年11月以降は、QE2のFRBマネー】
2010年11月からの、FRBのQE2(量的緩和第二弾:$6000億:48兆円
:11年6月に終了)は、$5000億(83%)もが、国債をFRBに売った
金融機関を経てヘッジ・ファンドに流れたと見ることができます。
(上表)

■6.価格変動の確率に、賭ける

債券・通貨・コモディティの価格の変動における「確率論」なので
すが、1990年代までとは、運用額の巨大さから、様変わりしていま
す。

▼事例:日本株でも増えたガイジン売買の正体は、租税回避地から
のヘッジ・ファンド

1日で、1~1.5兆円の薄商いに減ってしまった日本株(時価総額293
兆円:11.5月)の、1日の売買額で、60%~70%をガイジン売買が
占め、それが株価を(先導的に)決めています。

少なくとも、1日3兆円くらいの売買がなければならないと思えます
。薄商いの市場は、ヘッジ・ファンドの100億円の資金にも動かさ
ます。売買額の少なさは、大きく売られた時、買う人の少なさを意
味し、価格が暴落に向かうからです。

原因は、金融機関・個人・企業が、2000年代の株価下落で損をし続
け、株の売買から退避したためです。一時的な僥倖の利益はあって
も、問題は、数年間を通した利益です。

【デジタルマネーや、デジタル化した証券】
ガイジン買いは、海外やタックス・ヘイブン(租税回避地)からの
ヘッジ・ファンドによるものです。

ヘッジ・ファンドの本拠地は、利益への課税を避けるため「タック
ス・ヘイブン」、つまりオフ・ショアにあって、そこから投機の売
買をしています。このため、国内の金融統計だけでは見えない。コ
ンピュータが、ネットワークでつながっています。

現金で移動するわけではない。世界の株や国債は、今は紙の券がな
く預金のようなコンピュータ数字です。証券取引所のでの売買も、
コンピュータ画面です。銀行の預金数字も、同じです。

(注)オフ・ショアは、株式、債券、商品市場をもつ世界の国々に
とって、海外という意味です。米国では青い海のカリブ海の島々で
す。有名なところだけを挙げてもバハマ、バーレーン、バーミュー
ダー、英国領バージン諸島、ケイマン島などです。ベルギー、スイ
ス、ルクセンブルグには国内に、タックス・ヘイブンがあります。
ここからの売買は、どの国にとっても、ガイジンになります。

日本の平均株価(日経225等:円基準)が米国ダウの価格変動($
基準)を、翌日、あたかもミラー相場のように後追いすることが多
いのは、グローバルな投機を行うヘッジ・ファンドが売買額の多さ
で、株式相場の価格を先導しているからです。

ただしどこが買い、どこが売っているのか分からない。どこかのヘ
ッジ・ファンドが、巨額な資金で大きく買う、あるいは売るという
情報をファンドから個人が得て、売買に追随すれば、違法なインサ
イダー取引です。

ファンドが買いの予定を漏らすこともインサイダーです(村上ファ
ンドの例)。人々が求めれば広く知ることができる公開情報はイン
サイダー情報ではありません。

ヘッジ・ファンド間で「談合めいた情報交換」はあると見るのが常
識でしょう。その談合があからさまなもので、発覚すれば金融犯罪
ですが・・・。意図して相場を作る市場操作(違法)もできるでし
ょう。

ヘッジ・ファンドが大きく先物を買ったときは(需給の関係から売
りが不足して)上がり、売った時は下がる。

先物は、現物の国債や株の保有と無関係に売買ができます。先物も
デリバティブです。

▼デリバティブである円の国債先物は、東証が作った架空の国債で
、標準物と言う(世界の国債の先物市場でも同じです)

日本国債では、満期10年、額面に対する金利(クーポン・レート)
6%で、100円が「標準物」と決められています。長期金利が6%の
ころ作られたからです。(注)満期5年の中期国債はクーポンが3%
です。

6%で額面100円の標準物(先物はデリバティブ)は、現物国債の金
利と無関係に、東証が作ったものです。クーポンは、何%でもいい
。価格は、市場の期待金利で決まります。

市場の長期金利(=期待金利)が1.15%(ほぼ現在)なら、その
先物は、国債価格=(1+額面に対する表面利率6.0%×残存期間
10年)×100÷(1+現在の期待長期金利1.15%×残存期間10
年)=160÷1.115=143.5円で取引されます。(注)実際は、単利で
はなく複利計算です。金融電卓やエクセルで、簡単に計算できます
。

というより逆に6%のクーポンレートの、100円の標準物が、143.5
円で売買されるから、市場の期待金利が1.15%になっていると言
っていい。この先物が、市場金利と現物の国債価格を決めています
。

【先物と現物の価格調整が、アービトラージ】
先物価格が高く、期待金利を引いても、現物価格が安ければどうな
るか? 

一瞬では価格差が発生します。その際は、先物が売られて下がり(
同時に、現物が買われて上がり)、現物価格と同じになります。逆
も同じです。先物の受け渡しの期間での、期待金利による価格の違
いはある。これは、毎日、「*月もの**円」と新聞でも報じます
。

あらゆる先物市場で、価格差を利用する「裁定取引(アービトラー
ジ)」が、瞬時に起こります。これを効率的市場と言います。この
ため、先物と現物価格の相違は、金利を媒介にし、ごく短時間で調
整されます。

【SQ:特別清算指数】
先物の満期である限月(3か月毎:3月、6月、9月、12月の各20日)
にわずかな価格差があると、東証によって、SQ(特別清算指数)が
計算され、銭単位まで一致するように強制的に反対売買がされ、調
整されます。

株式先物(日経225種等)では、限月の第3金曜日の、現物価格の始
値(はじめね:または気配値)が元になって、SQ値が示されます。
その結果は、先物価格と現物価格は、限月に一致するということで
す。

株の先物である、225社の大企業の株価で組成された日経225も、デ
リバティブです。

あらゆる相場で、デリバティブの取引額のほうが、金融機関、企業
、投資信託、個人が行うことが多い現物の売買市場より大きくなっ
たのが、21世紀の特徴です。

これを示すのが、BISによるデリバティブの統計です。店頭デリバ
ティブ(Over The Counter)と言っています。
http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf

デリバティブのほうが、国内のリアル・マネー(預金、年金、保険
)のストック(過去はマネー・サプライと言っていた)より、はる
かに大きくなったため、世界最大の金融市場をもつ米国は、マネー
・ストックの公表を止めてしまいました。

デリバティブ・マネーの本拠地は、タックス・ヘイブンです。
このため、国内の金融統計からは漏れます。

■7.金融の自由化で、巨大化した先物市場(デリバティブ)の正
体

国債先物の最小売買単位は、日本では1億円です。100円ではなく1
枚が1億円の額面の国債と見ていい。金額の大きさのため、個人で
の参加は難しい。投資信託を通じる他はない。

債券の中で、一番大きな金額が動く世界の国債の先物市場は、ヘッ
ジ・ファンド、投資信託、金融機関のためのものです。

1990年代以降に、「米国が世界に求めた金融の自由化(=国際資本
移動の自由化)」は、タックス・ヘイブンのヘッジ・ファンドと投
資銀行のためだったと言ってもいい。

(注)ロスチャイルド家も、今、英国を離れ、スイスのタックス・
ヘイブンを本拠地にしています。このため、内容が分からない。課
税を逃れる超巨大プライベート・バンクと言っていい。

1990年代以降、製造業が空洞化した米英が、国策として金融立国(
金融利益の大きさ)を目指した。

米国にとっての金融利益は、海外からのドル買いでもある。赤字通
貨の米ドルが、海外(中国・日本・産油国)からのドル買いで高く
維持されます。

金融利益が原因のドル高によってコストが高くなった製造業は、ま
すます海外移転し、貿易赤字は大きくなって続くという構造を続け
ているのが米国です。

米国チェーンストアのバイヤーは、多くの日本企業と違い、世界か
ら、一番安い商品を探して購買します。(グローバル・ソーシング
:ソースは商品の源流を意味します)。

NY市の隣、ニュー・ワーク空港の近くにある輸入港(ニュー・ジャ
ージー)に行くと、広大な港湾の敷地に、果てしなく積まれた中国
のコンテナが並んでいます。

米ドルが、米国の製造業の実力(価格の国際競争力)より高いと、
製造業は空洞化を続けます。

ドルの巨大な国際不均衡が、ドル債売りで是正されるのはいつでし
ょうか。ユーロの下落の後に思えます。英米系ヘッジ・ファンドは
国策で、金融自由化の恩恵を受けていますが、政府の政策には忠実
ではないのです。

下落は、いずれも国債売りから、ユーロ>ドル>円の順序でしょう
か。11年8月または9月からが、見ものです。

▼日本の債券市場は国債市場(社債は少なく、住宅証券はない)

日本の金融機関は、監督機関である財務省(実際は金融庁)に忠実
です。政府からの日本国債の売りでは、財務省理財局が、毎月、金
融機関に打診し、買いの枠を聞きながら、買いの額を指示していま
す。(元理財局の、異能の高橋洋一氏)

金融機関は、「国債を売る」とは言いにくい。
圧力(金融庁の検査等)が入るからです。

リスク資産である融資を減らし、代わりに、政府が安全資産と認定
する円国債を買えば、金融機関の自己資本比率は、高まるのです。


これが金融庁の規制です。検査されれば、地価の下落で担保割れし
、中小企業では赤字会社が70%のため、不良債券を多く抱える金融
機関です。このため、毎月の約定弁済を受け、企業融資を減らして
います。

1年間での銀行や保険会社の融資(リスク債権)の減少は、20兆円
にはなるでしょう。そのマネーで金融機関が国債を買うと、喉から
手が出るくらい欲しい自己資本比率が上がるのです。

(注)BISも、世界に、金融機関の自己資本比率の上昇を求めてい
ます。金融商品のリスクが上がったためです。

【談合相場】
日本では、国債は売り手の政府主導による、談合相場になっていま
す。財務省は、政府が保証する国債価格と金利が、自由な市場の売
買で決まるとは考えたくない。

(注)付記すれば、国債発行の危機を財務省(及び大臣)が進んで
言う理由は「増税」が目的です。他方、FRBの米国債買い(QE2)の
目的は、ドルの暴落と米国の金利上昇を避けるためのものです。

これらは、金融の自由化には反した国家的なインサイダー取引とも
言えます。国家が行えば、法の規制にならない。このため、金利1
%と低い円の長期国債が、下落リスクにも拘わらず売れていると考
えていいでしょう。

◎債券市場の談合構造ゆえに、日本国債は、海外のヘッジ・ファン
ドからの国債先物売りに、脆弱に思えます。国債価格が下がると、
横並びで驚愕売りが出そうな債券市場が日本です。

日本の国債は、海外の保有が5%と少ない。海外債務が多いPIIGSと
は異なって安全というのは、嘘です。利益の機会と見れば、先物の
売買で、いつでも、いくらでも海外のヘッジ・ファンドが参入でき
ます。

既述したように、短期で言えば金融商品の売買での利益は、損と利
益がゼロ。サムです。金融の売買利益と損失額は、一致します。

■8.デリバティブによる先物市場の巨大化が、21世紀の11年だっ
た

なぜデリバティブ(現物から派生した金融商品)に属する先物取引
が大きくなったのか? 

(1)理由1:
大口取引で、高速の回転売買のときにかかる手数料が、現物より桁
が違って低いためです。高速の回転売買では、手数料が問題になり
ます。

証券や商品取引所は、手数料の高い現物売買が減って、手数料が低
い先物取引が増えると、取引金額は大きくなっても手数料の総額は
減ります。

これが、世界の証券取引所が経営難になり、合併する理由です。こ
れも、コトラーのマーケティング3.0でしょう。中味は、コンピュ
ータによる先物の、回転売買の増加です。

(2)理由2:
もうひとつの大きな理由は、先物取引(デリバティブに属する)は
、元本(自己資金)の10倍から30倍、時に100倍のレバレッジがか
かるからです。

誰かが貸すというわけではない。敢えて言えば、取引所の全体の参
加者が貸す。こうして創造された信用での、売買です。

【古典的な金融の、マネー・サプライはさほど増えていない】
リアル・マネーである各国のマネー・ストック(預金が主)は、せ
いぜい年数%です。

GDPの増加をはるかに超えて、世界で最も増えていて、(近々崩壊
する)不動産バブルを起こしている中国でも、1年に19%のマネー
・ストックの増加に過ぎません。

物価が下がっている日本での,マネー・ストックの増加(日銀統計
)は、月によって-2%~+3%程度に過ぎません。

日銀がマネーを刷っても、銀行の日銀当座預金と金融機関の国債買
いが増えるだけで、民間企業や世帯には廻らない。マネー・ストッ
クは2%くらいしか増えていないのです。

今の中国のように、(1)実質GDPが成長する、(2)資産が上がる
、(3)物価が上がる、(4)賃金や利益も増えるという期待(予測
)がないと、日銀がマネーを増発しても、企業や世帯は借金を増や
しません。

金融機関がもつ日銀当座預金に、溜まるだけです。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1106.pdf

【マネー循環によるマネー・ストックの増加】
企業や世帯が、不動産の購入のため銀行から増加借金をすれば、ま
ず借りた人の預金に貯まって、それが次は、支払った先の預金にな
ります。その支払先も、別のところに代金を払うため銀行システム
全体でのマネー・ストックは増えてゆきます。

今の中国と、1980年代までの日本がこれでした。

2000年代は、ヘッジ・ファンドの元本増加と、先物市場の巨大化に
よって、金融商品の取引における信用額は、破天荒に増えています
。

リアル・マネー(預金、保険、年金基金を中心とするマネー・スト
ック)に対し、リアル・マネーを背景にしたシャドー・マネー(陰
のマネー:金融派生商品)と言っていいかもしれません。

エキゾチック金融という言葉も、当てられています。陰のマネー、
つまりデリバティブ(金融派生商品)が対照する元本が$601兆(4
京8080億円)に増えているのです。

(注)融資産にバブルが起こって、たびたび崩壊する理由です。

すべてレバレッジがかかる信用取引のデリバティブ(総額の対象資
産は$601兆:4京8080兆円:11年末:再掲)によって、これが巨額
になったのです。(BIS統計)
http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf

損失を埋めるために差し出す証拠金(自己資金)が100億円なら、
その取引所で1000億円から1兆円の金額の、信用売買ができるから
です。このレバレッジ倍率は、ヘッジ・ファンドの信用で変わりま
す。

現物を現金で買う個人に比べ、利益も損も30倍から100倍に大きく
なります。日本の株価では1日に10円、金利では0.05%~0.2%、外
為では$1で1円の変動があれば、株の先物で30倍のレバレッジなら
300円の損か利益、金利では1.5%~6.0%、ドルでは30円の損得に
拡大します。

時間単位、秒単位でのわずかな価格変動を人間が常時監視し、売買
はできません。

このため1980年代末から、とりわけ2000年代に、大きく発達したの
が、ロボット(コンピュータ・プログラム)で自動売買を行うCTA
(Commodity trading advisor:投資顧問業)です。

1ミリ秒(1000分の1秒)単位で、あらかじめ組んだプログラムによ
って売買をします。世界の24時間、先物市場の価格のわずかなトレ
ンドの変化に対応し、ほぼ同じ方向での売買をします。

多くの商品で複雑に組まれたプログラムの中味を、全部理解できる
人は、ほとんどいないでしょう。

■9.デリバティブの代表でもあるCDS(回収保証保険)を事例に

デフォルトの時、回収を保証する保険であるCDSやCDOは、債券と逆
の値動きをします。債券のリスクが低くなりデフォルトの確率が低
くなったと見られれば、価格が下がる(金利も下がる)。 

逆に売りが多いときは、今のPIIGS国債のように国債のデフォルト
確率が上がったと判断され、CDSやCDOの市場価格が上がる(金利が
上がる)。

このためCDSやCDOを、危機が発覚する前の、安いときに仕込んでお
いたヘッジ・ファンドは、大きな利益を得ます。債券(国債・社債
)の金利が低い時に買っておいたCDSやCDOで、利益が出ます。1%
の料率のCDSが2%に上がれば、利益は2倍です。

1%の保険料率のCDS(100億円)は、源資産になる国債の1兆円(10
0億円÷1%=1兆円)のデフォルトを保証しています。

デフォルト:
社債や国債で、財政状態の改善が望めず、期待金利が上がって借り
換え債の発行が困難になり、満期が来た証券の元本償還(額面金額
)ができなくなる事態。今のPIIGSがこのデフォルトの危機に直面
しています。株には満期での償還がない(劣後債と言う)ので、デ
フォルトはありません。その代わりに、企業が破産すれば価格がゼ
ロになる。(注)優先債は、元本償還が、劣後債より優先される証
券です。

CDS証券(保証期間は1年)が世界のヘッジ・ファンド、投資銀行、
銀行、保険会社の間では巨額に売買されています。

◎元本証券の保有には無関係で、全くの第三者の金融機関やヘッジ
・ファンドが、破産の確率を計算してCDSを組成し、売買できます
。

CDSを作ったヘッジ・ファンド(クォンツ)には手数料も、0.*%
は入る。

08年9月の金融危機前に比べ、巨大損失のため08年比で70%に減っ
たとは言え、CDS(Credit default swaps)がかかった証券(国債
・公社債・社債)の総額は、2010年12月で$29兆(2330兆円)です
。

CDSの市場価格(=市場価値)は、$1兆3510億(108兆円)という
巨額です(BISのデリバティブ統計より)。

2330兆円という原資産の金額から見て、世界のほとんどの国債、公
社債、社債、住宅証券に、発行元が知らずともCDSがかかっている
と見ていいでしょう。
http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf

▼CDSの価格は、金利にほぼ正比例して高くなる

円の長期国債の金利が、今より1%上がると、
・1兆円の額面の国債を原資産として、100億円(料率1%)で買っ
ていたCDS(保証保険)が、
・200億円の市場価値になります。100億が利益です。

1兆円の国債額面(原資産)に対し1%は100億円ですが、リアル・
マネーでは無視される1bp(1ベーシス・ポイント:0.01%)のCDS
の料率変動でも1億円です。

CDSの店頭市場では、毎日の金利での100分の1%(ベーシス・ポイ
ント:bp)の変動が問題になります。

虫眼鏡で、リアル・マネーの金利を100倍に拡大して見たものがCDS
(デフォルトを保証する保険証券)の価格変動です。このCDSを満
期まで持つことはほとんどない。途中で、売買されています。

日本国債のCDSでの保証料は、
・2011年の1月の0.5%水準から、
・3月11日の大震災の直後に1.25%まで急騰し、
・その後0.8%付近に下がって、
・今、0.8~0.9%を波動中です。

ブルムバーグの統計では、株価をはるかに下に見る、激しいCDSの
価格変動が見て取れます。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=CJGB1U5%3AIND

料率が0.5%の時50億円の価値のCDSは、料率が1.25%になると12
5億円に上がります。3.11の震災直後には、1.25%に高騰していま
す。

CDSが大きく買われ、今より料率が2ポイント%も上がれば、日本の
政府財政は破綻です。こうした金利変動が、CDSをかけて保有する
ヘッジ・ファンドには、大きな利益になる。

【債券と逆の値動き】
CDSの売りは、保証保険の売り渡しです。CDSの価格は、CDSの店頭
市場で買い超になると下がり、売り超になると上がる。保証保険で
すから、債券価格とは逆の値動きをし、金利の上昇に比例します。


2010年12月現在、CDSがかかった原資産は、日本の国債(950兆円)
と米国債(1144兆円)を足した金額を超える、$29兆(2320兆円)
です。前述したように、世界の国債の過半にCDSがかかっていると
見ていい。CDSの価格合計は、$1.5兆(120兆円)です。

このCDSだけを見ても、一般には知られていない$1.5兆の巨大な
売買市場です。
http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf

2007~08年に米国の住宅価格の下落からローン破産(デフォルト)
が増えて、AAA格のMBS(住宅ローン担保証券)の価格が暴落したと
き(40%下落)、保有していたCDSの価格高騰と、MBSの空売りで巨
大利益を出したのが、ポールソンでした。2010年の報酬は$50億で
した。個人で4000億円です。(『$150億のボロ儲け』:別の号で
既述)

ポールソンも、中国の、木材会社(シノ社)の株の売買で、$5~7
億(400~560億円)の損をしたと報じられます(6月22日:Web日経
)。

ヘッジ・ファンドも、相場の見通しを誤れば、一瞬で巨額損を被り
ます。利益も損も早い。ポールソンは、金ETFの買いでは、利益を
上げています。

■10.デリバティブの売買を行うヘッジ・ファンド

CDSやCDOも、債券や証券そのものではなく、そこから派生した保証
保険のような金融商品なので、もちろん、先物と同じく代表的なデ
リバティブです。

10倍から25倍のレバレッジをかける個人のFX(外為取引)も、デリ
バティブです。21世紀の金融の11年は、拡大したデリバティブの時
代に変容しています。

◎(前述)CDSや、CDSの上に更に合成したCDO(Collateralized De
bt Obligation:債務を担保する保証証券)の特徴は、証券や国債
現物の保有に無関係な個人やファンドが売買できることです(店頭
デリバティブと言う)。ただし、誰でもは参加できません。

金融機関からの紹介等で、金融資産が多く、取引の損失をカバーで
きる信用があると認められた人のみの、閉鎖市場です。デリバティ
ブの利益と損は同額だからです。損失の決済ができなければ、参加
の資格がない。

【不公平市場】
CDSを多く売って保険料をもらい、巨額な保証義務を抱えていたAIG
のような大手金融機関の巨額損(08年9月)は、期限日の決済がで
きないと金融のシステミックな連鎖危機(世界危機)になるため、
政府や中央銀行が救済しています。

21世紀の金融市場は。個人から見れば、ますます不公平な市場にな
っています。

連鎖で相手も潰(つぶ)れるくらい大きく借りれば(レバレッジを
かけていれば)、国民経済の観点で、政府からの救済があるので、
潰れない。個人は、判断ミスで容易に潰れますが・・・

現物の債券・証券の売買市場より大きくなり、そのため現物市場を
先導して動かしている先物市場で売買される先物も、現物と関係し
ても現物ではなく、現物から派生した金融商品ですからデリバティ
ブです。

2000年代の、金融商品・相場商品は、ヘッジ・ファンドが巨額資金
を使うので、単純な構造になっています。

新聞で「投機筋が買って上がった(後付けの理由です)」とされる
主体は、どこかのヘッジ・ファンドであることがほとんどです。

▼価格の歪みを狙う(説明)

◎株価と、全部の相場商品には、お店の商品のような適正価格とい
うものはない。理論価格は、市場の期待金利(予測金利)をベース
に計算はできますが、実際には、いつも、理論価格(これは観念で
す)より高すぎるか、安すぎる。

その価格の歪みが、ヘッジ・ファンドが、利益の機会として狙うと
ころです。

▼証券化した金融のすべてを覆うデリバティブ

売買の市場がある債券(社債等)・株・国債・商品相場・通貨・金
利のすべてで、ヘッジ・ファンドによる先物の売買が、上げるにせ
よ下げるにせよ、価格を先導し、上げのピークや下げの底値と判断
された時点で、売りか買いを発動しています。

当然、常に利益を出せるわけではなく、市場を読み違えた大損もあ
ります(08年9月の金融危機)が、平均のパフォーマンス(利回り
)が高いものも多い。

(注)世界のヘッジ・ファンドの、運用結果の平均(HFRX指数)は
、2011年1月以降は-1.81%(7月25日時点)と若干の損です。

 HFRXは、グローバルな運用を行う世界のヘッジ・ファンドの価格
を指数にして統計したものです。2008年は-23.5%(08年9月が金融
危機の勃発)でした。09年は+13.4%、10年は+5.19%と、相場の
上昇で回復しています。

今はこうした統計も、インターネットで即時に得られます。
これも、コトラーが言うマーケティング3.0でしょう。
http://www.hedgefundresearch.com/hfrx_reg/index.php

1990年代のような個人投資家だけではなく、年金基金と投資銀行の
マネーを預かって大きくなったヘッジ・ファンドの基本となる戦略
は、
・短期(金融では3ヶ月内)または長期(3ヶ月以上)の、
・上げの頂点(の判断)で売る、下げの底値(の判断)売ることで
す。

この「判断」が鍵です。当然、間違いもある。

前述のように、運用元本が$2.2兆でも、平均で約30倍($66兆:
5280兆円)の投機的な運用が想定されます。(注)運用総額は変動
しますが、今は増えているので6000兆円規模と見ましょう。

対比すれば、日本の個人金融資産(預金・年金・保険・債券)でも
、1500兆円付近です。2000年代は、世帯所得の減少と退職年代が多
くなっため、ほとんど増えていません。(注)世界の世帯預金が増
えるのは、共通に賃金が上がる40代の世帯が多い10年です。その後
は増えなくなる。

郵貯は、世界で最大規模の預金を預かる機関です。運用では、国債
と他の有価証券の最大の引き受け手ですが(有価証券保有額175兆
円:うち国債が146兆円)、総資産は193兆円(11.3期)です。

ヘッジ・ファンドの元本(預かり資産の金額)は、とりわけ2000年
代で、米国の年金基金と投資銀行のマネーをとりこみ、めざましく
増えています。取り込めた理由は、過去の平均利回りの高さです。


問題のPIIGSの国債価格と金利、$国債の価格と金利、円国債の価
格と金利、変動が激しい資源、コモディティ、金の価格もヘッジ・
ファンドによる、先物(デリバティブの一種)への投機戦略が先導
して決めています。

【後記】
サブタイトルの「G-ゼロになった(世界の)国債市場」は、QE2で
元本を回復したヘッジ・ファンドが通貨、国債、金利の市場を動か
せるように変わったことを意味しています。次号で続けます。

参考になった本は、『リスクマネーの威力』(草野豊己氏)、及び
『シャドウ・マーケット』(エリック・J・ウィナー)です。

情報を公開しないため、一般にはよく知られていないヘッジ・ファ
ンドや、デリバティブの売買を行う巨大化したプライベート・バン
クについて、書かれています。

21世紀の金融には、ゴールドの売買と同様、公開されない秘密が多
い。問題は、このシャドー・マネーが先導して、相場を動かしてい
ることです。

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