ダブルテーマ:信用恐慌は繰り返す;マーケティング3.0(2)
This is my site Written by admin on 2011年7月20日 – 09:30
以下は、後編のマーケティング3.0です。どうか、ゆっくり読んで
下さい。

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<547号:ダブルテーマ:
               信用恐慌は繰り返す;マーケティング3.0>
                 2011年7月20日号

【前編:目次】
1.経済における「信用」とは何か
2.マネー・ストックの概念
3.米ドルの反通貨が金
4.金融危機が、政府財政危機になる:この項は8ページです。

【後編:目次】
5.M 1.0から2.0、そしてマーケティング3.0へ
6.小売業におけるマーケティング1.0
7.マーケティング2.0と3.0
8.以上を理解した上で、マーティング3.0

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■5.M 1.0から2.0、そして、マーケティング3.0へ

コトラーはほぼ1970年代までを、マーケティング1.0(M1.0)の時
代とし、1980年代から2010年をM2.0、2010年代以降をM3.0の時代に
向かうとしています。

マーケティングは、企業の製品の開発、販売、物流の活動を言いま
す。つまり企業が行うのが、マーケティングです。

マーティング(いわば市場化活動)は、わが国では一般的に、理解
がされているとは言えません。米欧企業による先行した市場化活動
の後を追い、製品も類似のものをコストダウンし、1970年代からは
品質を上げてきたからです。

マーケティング活動は製造業、卸売業、小売業で分かち持たれるこ
とが多い。サービス業は、製造と小売りを同時に行います。

一般的な定義は、以下です。

マーケティング:
企業が、市場(顧客の集合)から、期待した成果(売上と営業利益
)を上げるための活動を言います。最初は、マーケティング1.0で
す。

マーケティング1.0への理解がないと、2.0も3.0も分かりません
。マーケティング1.0を理解しておくと、2.0や3.0も分かる。

留意すべきは、マーケティング1.0が2.0に変わり、3.0にそっく
り変わるというのではない。米国では、M1.0をベースに、1990年
代ころから有効な戦略としてM2.0が加わり、2010年ころからM3.0
の要素が加わるだろうということです(コトラー)。

企業は、昨年より期待した成果を大きくして上げたいはずですから
、M2.0とM3.0の方法を、取り入れるべきです。

▼マーケティング1.0は、どんな内容のものだったか

製品の開発(Product)、価格(Price)、プロモーション 
(Promotion)、流通(place)の要素からなるため、4Pとも言われ
てきました。

企業活動は、市場から期待した成果を上げるために行うので、戦略
になります。期待を達成する方法、これが戦略です。戦略的と言っ
たときは、売上と営業利益を、期待を満たすよう上げるために行う
方法という意味です。Strategyの原義は、目的を達成するための方
法です。

以降では、マーケティング1.0と対照しながら、M2.0やM3.0を述
べます。M1.0を知らないと、M2.0とM3.0は理解不能と思えるか
らです。

▼(1)製品の開発(1P目:Product)における戦略の要素

M1.0では、主に、以下の8項が、言われてきました。

1.製品ミックス・・・企業が作る商品の、ラインナップです。商
品構成、あるいは品揃えと言っても同じです。1品だけの企業は少
ない。多くの製品を持ちます。

その多くの商品の集合(ミックス)、つまり小売業で言う「商品構
成」で、企業は市場に訴えています。レストランならメニューです
。

7月末に、あるところで行う講演で、2010年代の商品構成に、新し
い商品価値という要素(マーケティング3.0に属する)が必要なこ
とを訴えるつもりです。

商品価値も、わかりにくいものですが、消費者にとっての商品の効
用・便益・品質を、価格(負担するコスト)で割ったものです。商
品の効用・便益・品質は使用価値です。「使用価値÷価格」が商品
価値でしょう。

商品価値が高いとは、価格が高いことはなく、使用価値に比べ価格
が安いことです。例えば、ユニクロの1000円のシャツのようなもの
です。

もちろんユニクロのファッションや吉野屋の280円の牛丼に、商品
価値(使用価値)の高さを認めず、他のブランドに、それを認める
人もいます。

これによって、企業選択をしています。価格は同じでも、使用価値
の感じ方は、個人で異なります。多くの人が共通に、使用価値の高
さ、言い換えれば価格の安さを認めた企業のとき、商圏での売上が
大きくなります。

2.品質のグレード・・・この意味は、上記の商品ミックスの商品
か価値に含みました。

3.デザイン・・・デザインとは、商品の機能ではない外形とカラ
ーの美しさです。これにも、個人の趣向があります。ファッション
では、デザインも機能です。

4.製品の特徴・・・機能・品質・価格・デザインでの、他の製品
との違う点です。

5.ブランド名・・・ブランドとは、商品を他と区別するための象
徴的な、商品価値を区分する概念です。牛肉、乳製品、ワイン等に
押された烙印(焼き印)がブランドの原義です。

多くが、商品名、または企業名で表されます。例えばプリウスやi-
POD、あるいはWindowsです。消費者が抱く、商品イメージと言って
もいい。

食品では今、生産地がブランド化しています。神戸牛や関アジです
。ファッションではこのブランド名(ルイ・ヴィトン等)が、多用
されます。

ユニクロやニトリもプラスのブランド名になっています。吉野屋も
同じです。ブランド価値は、今、企業の「のれん価値」として、M&
Aのときの会計価値になっています。顧客が寄せる「企業信用」と
言い換えてもいい。

ブランドになった商標や企業名は、顧客が信用して買うという経済
価値をもつからです。企業の会計価値の中で、のれん代は大きくな
っています。株価ものれん代を含んでいます。

6.パッケージ・・・商品を包む外装です。中味が見えず外装で買
う商品も多い。かつて、三越のショッピングバックは、高級品とい
うイメージを与えていました。このため贈答に用いられることが多
かった。今はどうでしょうか? 業績が悪化し、企業イメージが落
ちると、パッケージの価値も下がります。

7.品質保証・・・これは今、当然のことです。
8.アフターサービス・・・品質保証に同じです。

以上8項が、マーケティング1.0における、製品の要素です。今も
肝心なことが分かるでしょう。以上の要素を満たしていなければ、
2.0や3.0に進むことはできない。

マーケティング1.0の4Pのうち、以下の価格、プロモーション、流
通は、誰でも常識的に分かります。1.0では、上記の製品の項が一
番難しい。

▼(2)価格戦略(2P:Price)

定価、割引、リベート、支払い条件、与える信用枠の5要素からな
ります。メーカーと卸間、卸と小売間では、この価格戦略は肝心な
要素になっています。上記5要素には、販促費(=割引やリベート
)も含みます。

小売業にとっては、店頭価格をいくらにするか、このプライシング
は、商品構成と並ぶ、重要な戦略要素です。

▼(3)プロモーション戦略(3P目:Promotion)

市場(顧客集合)とのコミュニケーションがプロモーションです。

 要素は2つです。

1.広告・・・Public Relation(大衆との関係作り)が原義です。

大衆をひとまとめにした広告の価値は、年々、低下しています。19
90年代から、情報技術(インターネット)、CRM(個客との良好な
関係作り)という、マーケティング2.0の新しい要素が加わったか
らです。個人へのDMは、広告の個人化で、これもマーケティング2
.0です。DMの期待効果も、あらゆる企業で多用されすぎて、落ち
ています。

2003年以降のインターネットでは、パソコンを使っている最中に、
頻繁に(余計なことも多い)アプリケーションの自動更新が行われ
ます。

これは買った個客が使っている最中の「経験の中に入り込むこと」
です。マイクロソフトが、「経験価値」というマーケティング概念
を発見したことに始まります(コトラーはマーケティング2.0に属
すると言う)。

2.営業・・・言うまでもなくメーカーや卸の営業、及び店舗の販
売員です。これらの営業は、顧客とのコミュニケーションが仕事で
す。接客トークとも言う。

メーカーや卸の営業は、今はトーク業ではなく「顧客との商取引に
おける問題解決業(マーティング2.0)」に変わっています。

かつて米国では、対企業の営業、対顧客の営業の両方をセールズマ
ンと言っていました。

小売業で、顧客がレジまで商品をもって行く販売形態を、セルフ販
売と言いますが、わが国でこれが一般化したのは、1970年代後期か
らです。今は、セルフが主流になっています。

家業型の専門店や百貨店は接客型ですが、コスト(原価)が販売の
人件費分、高い。このため、商品構成でプロモーションするセルフ
店に比べ商品価格が高くなって、(世界的に)1980年代以降、業績
が上がっていません。

接客には、コンサルティング・セールスとサジェスチョン・セール
スの2種があります。コンサルティング・セールスは、商品や使用
法の説明をして、顧客に売ることです。サジェスチョン・セールス
は、顧客から聞かれたことに対し、他の作業を止めて答えることで
、商品の推奨はしません。セルフ型は、接客面はサジェスチョン・
セールス
です。

面白いことですが、米国と欧州の中級以上のレストランは、コスト
の高いコンサルティング・セールス型です。メニューやワインの推
奨もする。代金の支払いも、顧客がレジには行かず、テーブルでチ
ェックします。

日本のレストランは、ごく高級店を除き、サジェスチョン・セール
ス型です。代金も、自分でレジに行って払う。理由は、米欧では、
チップ(ほぼ15%)があってそれが、レストランの販売員の主要な
収入だからです。時間給は、500円くらいで低い。自分の顧客であ
るから、テーブル・チェックもする。実に、きびきびとよく働いて
います。自分のチップ収入を増やすためです。

付記すれば、米国と欧州の専門店や高級店に多い接客型の販売員は
、ほぼすべてが、自分の売上額の5%くらいを収入とする歩合給社
員です。古来のチップの習慣からと言えるでしょう。

更に付記すれば、米国型のワーカーの賃金は、企業にとって変動費
と見なすことが多い。売上が多いときは多く雇用し、売上が減ると
レイオフやリストラです。高給の金融業でも同じです。

IBMでも40歳を超えた営業マンは、ほぼ100%歩合給に変わります。
金融を含む、外資の多くが同じです。日本人の「社員」には馴染ま
ないことが多い。直属の上司が「ファイア(首)」と言えば、その
日に、解雇です。平均は高給ですが、売上が少ない年の年収が100
万円以下という営業マンも多いのです。

▼(4)マーケティング1.0の流通戦略(4P目:Place)

マーケティング1.0の流通戦略は、メーカーから見てのものです。


(1)流通チャンネルの選択(=店舗選択)、(2)商圏の地域戦略
、(3)選択店舗の立地、(4)選択店舗での商品ミックス(何を売
ってもらうか)、(5)物流倉庫での在庫管理、(6)物流の選択、
言い換えばメーカー直販か、卸に委ねるかの戦略という6項からな
ります。

メーカーの流通戦略は、営業の戦略と重なります。営業マンが、流
通戦略に乗った販売をするからです。

以上の4Pがマーケティング1.0における戦略でした。コトラーは、

こうした要素からなるマーケティング1.0を、「製品中心のマーケ
ティング戦略」としています。

なお卸売業を言えば、メーカーとは1Pの製品戦略の中味に違いがあ
るだけで、後の2P(価格戦略)、3P(プロモーション戦略)、4P(
流通戦略)は同じです。メーカーが価格戦略、プロモーション戦略
、流通戦略を、5%~15%程度のマージンを卸に払って委託すると
言っていい。

卸売り業の製品戦略は、以下の小売業で述べる製品戦略と同じです
。

■6.小売業におけるマーケティング1.0

小売業では、マーケティング1.0の4Pを、固有にマーチャンダイジ
ング(商品化活動)と呼んでいます。短く、その戦略要素を述べれ
ば以下です。

▼(1)1P:製品戦略(流通なので、一般には商品戦略と言います
)

製造する製品はプロダクト、流通する商品はマーチャンダイズです
。物的な形態は同じですが、流通過程にあるときは、マーチャンダ
イズです。

1.調達仕入の戦略・・・どういった製品を仕入れるかの戦略です
。

2.商品開発・・・PB(プラベート・ブランド)とSB(ストア・ブ
ランド)の開発です。両方は混同されPBと言われますが、本来は異
なります。

PBは小売業がメーカーが作ってない製品を、仕様書(設計書)で指
定し、開発することです。コンビニのお弁当は、小売業が創造した
PBです。SBは、メーカーが作っている製品とほぼ同じものを店舗の
オリジナルとして指定することです。

3.発注の方法・・・店舗が個品をバラ発注するか、まとめて数量
発注するか、ケース単位か、コンテナ単位かの違いです。

わが国でサププライチェーンという時は、個品のバラ発注で、返品
も含むフルサービスが多い。そのため価格は高くなります。米国の
大手チェーンでは、DC(小売りの補充型物流センター)でまとめた
数量発注をします。まとめた発注をバイイングとも言います。

日本のバイヤーに、「発注方法は?」と問うと、不思議な顔が返っ
てきます。本来、バイイング仕入を行うのがバイヤーですが、店舗
数が少ないため仕入方法が個品バラだからです。中国やアジアに行
くと、個品バラはできない。コンテナ単位での発注になる。ここで
、仕入の差別化が起こります。

4.購買の方法・・・上記の発注方法に含みました。ただし購買に
は仕入決済のサイト条件も含みます。1週間の締め日、2週間、1ヶ
月、2ヶ月、3ヶ月等です。金利が高い米国では決済サイト1ヶ月に
つき1%くらいの金利がかかります。手形という習慣は、米国には
ありません。1929年の大恐慌で連鎖倒産を生んだため禁止したので
す。

▼(2)2P:価格戦略

1.展示商品の価格帯です。店舗の性格を決めるくらい肝心です。
一般にはベスト、ベター、ミドル、ポピュラー、ロワー・ポピュラ
ーの5つの価格帯に分けます。

わが国の店頭商品価格の、1990年代以降の他国にない特徴は、1990
年の店頭価格を100としたとき、1年平均で3%価格が低下し。20年
で54に下がったことです。(注)0.97の20乗=0.54

これは、1985年のプラザ合意(国際通貨であるドルの1/2への切り
下げ)に起点します。$1=200円以上が、数年で$1=120円に下が
った。このため、日本の商品は、米国や海外に比べ、1990年のまま
なら、$ベース(国際価格)では2倍の価格に上がったことになっ
たのです。

このため商品輸入が増えた。同時にメーカーは、$120円に対応す
るため、生産性を上げ商品価格を下げます。これが、1990年~2008
年頃までに起こったのです。

付記すれば、人民元も1994年に、それ以前の1元=30円が、15円に
切り下がっています。この時期から、怒濤のような中国製品の輸入
が起こった。円の価値が上がり、中国製品が1/2に下がったからで
す。

開発輸入で先行していたユニクロ、ニトリは、店頭価格を1/2下げ
ても、粗利益率は50%になって、大発展をするのは1994年以降です
。100円ショップが、店舗数を増やし、ファミレスの価格が下がっ
たのもこの時期です。コンビニ弁当も多くが食材輸入になります。
衣料はほぼ100%が中国あるいはアジアからの輸入に変わります。

90年代から2000年の、小売業、製造業の攻防は、価値が2倍に上が
った円で、中国・アジアを内製化するかどうかにかかっていたと言
っていい。量販店と百貨店が凋落したのは、中国製品を内製化する
ことができなかったからです。ディスカウント型の店舗がそれを行
います。

2.プライスライン戦略・・・価格帯の中の、商品価格を言います
。198円、228円、248円、268円、298円等です。末尾が7円や9円も
ある。このプライスラインを絞るほうが、小売業の戦略としては優
れます。100円ショップは今は200円以上のものもありますが、当初
は100円のワンプライスラインでした。

▼(3)3P:プロモーション戦略

(1)店舗では、まず立地です。立地で、売上の基本規模が異なり
ます。土地が高い地域は、人口密度が高く、売上規模は大きくなり
、地価が低い地域はその逆です。判断点は、地価のコストに見合う
売上があるかどうかです。

(2)商圏人口・・・商圏人口は、商品の購買頻度と価格帯で異な
ります。購買頻度が高い商品(食品)では、1000平米以上の大型店
でも5000人から1.5万人と商圏人口が少ない。他方、ホームセンタ
ーのような耐久財では約5万人です。もっとも商圏人口が狭い(200
0人)のがコンビニです。

(3)業態・・・商圏人口が狭い順に言えばコンビニ、食品スーパ
ー、ドラッグストア、ファッション、ホームセンター、各種の専門
店、百貨店、高級品店です。この業態は、部門の構成、部門内の商
品構成(カテゴリー構成と言う)、カテゴリー内品目で決まります
。

商品構成で「商品価値の高さ」が必要になったのが、コトラーはマ
ーケティング3.0からと言っていますが、わが国では1990年代のマ
ーケティング2.0からです。(注)ドルが安くなった米国では、店
頭物価が下がった時期はないのです。今も1年に3%くらい上がって
います。

理由は、前述のように、円が、対外価値で2倍に上がり、店頭価格
を1/2に向かって切り下げる(商品価値を上げる)必要が出たから
です。店舗のコストが高く、これができなかった店舗は、ほぼ2005
年までに潰れました。

小売業の単位面積当たりの売上では、残った店舗も、1990年のほぼ
1/2です。価格が半分に下がり、同じ数量を売っても、売上が1/2
だからです。

代表的な具体例で言えば、イオンの1989年度の3.3平米当たり年間
売上は、353万円でした。とてもよく売れていました。今は170万円
です。IY堂は402万円でした。とんでもなく売れていたと言えます
。今は224万円です。1990年から価格をめぐって、わが国小売業と
レストランは、熾烈な競争にありました。

参考のために言えば、開発輸入を行って2倍の円高を活かしたユニ
クロの、1990年の3.3平米当たりの売上は、247万円でした。今は3
22万円ですから、イオンやIY堂とは対極に、1.3倍に上がっていま
す。同じく開発輸入のニトリも1990年が117万円で、今は92万円で
、78%です。当時はロワー・ポピュラーだった価格帯の店舗が業績
を増やしています。

この20年で、店舗の土地と建物コストは1/2に下がったので、1990
年の単位面積当たりの売上を維持していれば、資本回転率(売上÷
固定資産)は2倍になっています。ユニクロやニトリで、高い利益
率が出る理由です。

(4)広告・・・説明の必要がないでしょう。ただし店舗のチラシ(
Public Relationsに属する)による販促効果は、特に2000年代に、
大きく低下しました。大衆を相手にしたマス・メディアだった新聞
や雑誌の購読とTVの視聴時間が減り、インターネットと携帯電話が
増えたからです。

マーケティング2.0ではCRMが加わり、3.0ではソシアル・ネット
ワークが加わると、コトラーは整理しています。

▼(4)4P:流通戦略

小売業の流通戦略は、(1)店頭在庫の管理方法、(2)店舗の商品
補充で上流になる通過型のT/C(移送センター)、(3)補充在庫
をもつDC(常備在庫型物流センター)、(4)食品スーパーやコン
ビニでは、食品の加工処理行うプロセスセンタ(PC)です。

小売業の流通戦略は、前記の発注方法、購買方法と大きく関係して
います。米国の大手チェーンでは、1980年代にDC化が完了したこと
です。チェーン店数の規模が、発達したコンビニを除けば、今も米
国の店舗数の1/10のわが国では、流通戦略は2000年代からです。

小売業は、みずからを流通業と呼んでいますが、個品バラ発注なら
小売業です。米国では、小売業の流通戦略はマーケティング1.0で
したが、わが国では3.0でしょう。ほぼ30年の遅れがあります。

■7.マーケティング2.0と3.0

製品の4Pだったマーケティング1.0と対照し、2.0、3.0も部分的
に述べてきました。その中で述べたように、米国と比較し、日本が
進んでいる点と、大きく遅れている点があります。 チェーンスト
アの発達の、程度の違いによります。

既述したようにコトラーは、マーケティング2.0を消費者中心とし
、3.0を価値主導のマーケティングとしています。

▼マーケティング2.0は、顧客満足を提供し、顧客の生涯価値を上
げることだった。典型では、ウォルマートやWindowsがこれを行っ
た。

2.0の消費者中心とは、ほぼ1990年以降の、「顧客満足」を提供す
る企業活動を言います。消費者志向とも言う。消費者を満足させ、
いかにつなぎ止めるかが企業活動の主題になってきた。

販売商品や顧客のデータベースとともに、米国ではCRMがこの時期
に誕生します。顧客の繰り返し購買歴の合計を「顧客価値(ライフ
タイムバリュー:LTV)」とも言った。1990年代以降の、米国企業
は、このLTV(顧客価値)の優劣を競うようになった。

一回の金額は$60(ほぼ20品目)である。高頻度なA級顧客は、週2
回来店している。1年で$6240(50万円)の顧客単価になる。

他方、A級顧客の来店は1ヶ月1回である。その購買金額は$100(ほ
ぼ2品目)と高い。1年で$1200(9万6000円)の顧客単価である。

どちらが企業として優れるか? $6240の企業である。なぜなら、
顧客単価が高いから・・・というのが、消費者志向の中味でした。


前者が、ロワー・ポピュラー帯のウォルマートです。ウォルマート
のA級顧客は、全買い物のほぼ40%を、衣食住の総合品種品揃えの
ウォルマートで買います。

後者は同じく総合品種の、ベター価格帯の、米国の百貨店のA級顧
客です。年間の顧客単価が低い店舗は、大衆が相手のシアーズすら
凋落して行ったのです。わが国でも、ほぼ同じでしょう。

このため、製品をどう売るかから(M1.0)、1人の顧客に顧客満足
をどう提供するかに競争の重点が移って来た。実際は、1990年に急
に変わったのではない。前後10年くらいをかけた、変化でした。

顧客満足は、満たされていないニーズを、企業が満たすことです。
コンピュータでは、1980年代のMS-DOS時代までは、おもちゃのよ
うだったパソコンに、新しい巨大なニーズがあった。

企業に高いコンピュータを売り、ソフト技術では先行していたIBM
は、パソコンのニーズに1980年代から気が付きつつも、少数の顧客
を対象にした業務用(パソコンでは5550)という商品概念から離脱
ができなった。消費者志向で弱かったとも言えます。少数の顧客で
売上を成立させていたからです。1億人に売るとは、よもや思わな
かった。

マイクロソフトとIBMの、同じ商圏内で1名当たりの客の顧客単価は
、どちらが高いか? 言うまでもなく、OS(Windows:基本ソフト)
を数万円で、統合ソフトのオフィスをやはり数万円で売ったマイク
ロソフトです。IBMのデータベースソフト(A/S400)は、1990年代
は500万円はしていました。

■8.以上を理解した上で、マーティング3.0

マーケティング3.0では、以上の2.0(消費者志向または顧客満足
)に、新しい「商品価値」が加わるという。それは何か?

閉鎖的なWindowsと、オープンソースのLinux(リナックス)の違い
を考えれば、違いの要所が分かります。

オープンソースは、ソースコードを公開し、他の企業や消費者も参
加して作り、再頒布ができるソフトウエアのことです。

2014年には、サーバーの分野でリナックがWindowsを逆転すると予
測されています。2010年、世界ではWindows:Linuxは、2:1です。
日本では3:1です。年率10%で増え、2010年にUnixを抜き、2014年
にWindowsサーバーも超える予測です。

マイクロソフトは消費者に対し1対1で提供する。Linuxは製造者は
協働した多数であり、この多数が多数に低供する。つまり使用者と
の「協働」で成り立っている。

ブリタニカの百科事典をはるかに超えた無料のウィキペディアも同
じ構造をもっています。製造者は自主的な多数の人であり、消費者
は、数億人を超えるでしょう。多数対多数です。このため広告費で
運用が成り立つ。使用者にとって無料は無限の商品価値です。(注
)商品の機能・品質÷価格=商品価値

ソーシャル・メデイア(SNS)も同じです。ミクシーやツウィッタ
ー(つぶやき)、日本ではまだ少ない実名を公開するフェースブッ
クです。次第にマス・メディアに変わっています。

アマゾンや価格comの使用者のレビュー記事も、同じです。自分が
買って、使った体験を公開する。日本の2チャンネルも同様です。
実にマニアックな記事まで、Googleで検索すれば読み切れないくら
い多数出て来ます。

「もっともよく落ちる洗剤」と入れて下さい。0.18秒で87万9000
件の記事が検索されます。読み切れない体験記です。マス広告(マ
ーケティング1.0)が効果を失う理由でもある。読めば、洗剤の専
門家並みの知識がつきます。小売業は、これを見ているでしょうか
?

ステレオスピーカーのエッジ(コーン紙の外周)が破損しているの
で、(よせばいいのに)自分で修理しよう思い立ち探しました。0
.06秒で39万9000件が検索され、先頭に出たのがこれです。
http://tanoshiib.web.fc2.com/eji.htm

マニアが自分で修理した体験記が、詳細に出ています。読むまで、
どうするのがいいか方法を知らなかった。10個くらいの記事を読み
、方法と手順を了解し、指定の材料もネットで買って、挑戦中です
。

作業時間がかかり難しいのですが、うまく行きそうです。小売店で
は入手できない部品とスピーカー専用の接着剤が、数日で届きます
。マーケティングが、明らかに、変わっています。

エッジとセンターキャップが壊れたもの(20年前のもの)と同じ品
番の、新品のスピーカー・ユニット(音を出す本体:F220A)を買
えば、49,500円×2=9.9万円ですから行う価値はあるでしょう。


箱とともに、手を入れて仕上げれば、20万円の価値になる(期待)
。作業が面倒になって補修に失敗し、音がダメなら価値ゼロですが
・・・

金額以上に、改修の手を加えて出る音を想像しながら自分で作る喜
びがある。押し入れに、20年は眠っていた価値ゼロ円の、あと2本
のユニットも蘇らせるつもりです。いずれも、今は高価になったレ
ア・メタルの、磁力が強いアルニコ・マグネットを使ったものです
。

コトラーは、以上のようなことを、消費者が参加して作る「共創の
マーケティング(3.0)」と呼んでいます。2名の超零細企業や家
業に、おおいに活路がある。当方の会社も、社員は2名です。

クリス・アンダーソンが言った「ロング・テール(長い尾」です。
インターネットでは、マニアックで商圏需要が極小の商品(1万人
に1名の需要/1年)でも、世界の1億人を相手にできれば、1万個の
巨大売上になり得ます。大型の店舗では、これが扱えないのです。


知人の物流技術者は、インターネットで、最新の物流機器を探して
います。適当なものがなければ、自分で設計して工場で試作する。
こうした人はごく少数派ですが、2010年代は増えるでしょう。使う
側にとっては無料のグーグル以降のインターネットは、変わったの
です。

1985年ころでした。ある講演会で、未来の情報化社会はどうなるか
?と質問しました。講師は「いつでも、欲しい情報が、居ながらに
、即座に得られる社会が実現するだろう」と答えました。本当に実
現するのかと疑問でした。振り返れば25年。今は、それに近い。

原稿書きでも、数値データの収集がはるかに容易になっています。
以前は、スイスのバーセルある銀行の総本山BIS(国際決済銀行)
のデータは、決して入手できなかったのです。障害は英語ですが・
・・。

将棋ではプロの全棋譜のデータベースをパソコンで見ることができ
るように発達したため、10代・20代にとんでもなく強い人が出てい
ます。情報化がもたらした変化です。

マーケティング3.0に「マインド・シェア」という概念があります
。消費者の心のうちで企業が占めるシェアです。心の中で、その企
業を思い浮かべ比較する。買うべき商品、行くべき店舗や観光を決
める。インターネットでの消費者のレビュー(体験記)が大きな役
割を果たしています。

最近、熊本県の黒川温泉に泊まったとき、消費者の体験記を参考に
しました。低い評価のところには予約できないのです。(他の人の
評価が高くても、自分の好みではない失敗の選択もあります。前回
、温泉はよかったのですが、あと50%を占める料理の趣向が、微妙
に、合いませんでした。インターネットでは味までは見えません。
)

消費者が感知する企業のビジョン・価値観・ミッションが、店舗の
選択と商品購買の際、重要になっています。娯楽のパチンコ屋でも
同じです。後編を終わります。

いつもの後記は、省きます。

【感想は自由な内容で。以下は、項目の目処です】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点、ご意見はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ

と記述の際、より的確に書くための参考になります。

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yoshida@cool-knowledge.com

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