『デフレの経済学』を解釈すると(2) – テーマの領域: 民主主義の代議制
Written by admin on 2013年2月11日 – 11:00
おはようございます。厳冬が続きますが、いかがお過ごしでしょう。 本稿は、有料版の増刊として、昨日送ったものです。ご無沙汰して いたお詫びとして、送ります。若干の書き加えをしています。アベ ノミクスについての、展開と、今後の帰結です。24ページと長文で す。経済の原理的なことを、論理的・包括的に書いています。 * 日銀の、次の総裁として有力視されている岩田規久男氏の『デフレ の経済学(2001)』の、骨子を解釈しながら、論述します。 この書の結論を言えば、日銀が「果敢に」、国債を買い増しして、 円を増刷することによって、マネー・サプライ(M2やM3)を、年率 で4%以上増やすことができれば、デフレは収束するというもので す。M2は、その国の全部の現金と預金、M3はM+CD(譲渡性預金) です。 マネタリズムを作ったフリードマンが言った「デフレもインフレも、 貨幣現象」であるというのがこれです。常に、経済事情が異なるあ らゆる国で、これが正解かどうか、実は分からない。一種の学術的 なドグマでしょう。正解の時期と国はある。正解でない国と時期も ある。 【マネタリズムの、基本式:簡単です】 数式では、「M(マネー・サプライの量)×Mの流通速度(V)=一 般物価水準(P)×実質GDP=名目GDP」、です。(注)名目は、物 価の下落率であるGDPデフレーターを、実質に加えたものです。 マネーの流通速度、言い換えれば、現金と預金が、商品の買い物と、 物的な設備投資に使われる速度(マネーの回転率=名目GDP÷マ ネー・サプライの量)は、若干の低下傾向はあっても、ほぼ一定と する(フリードマン)。 (注)預金で、他の金融商品やデリバティブを買っても、マネーの 流通速度は上がりません。収入や預金で、実物経済の商品を買い、 設備への投資をすることがマネーの流通速度です。 流通速度を、短期では一定とすると、マネー・サプライ量の増加 (例えば年率6%:日本では約70兆円)は、実質GDPを潜在GDPに近 づけて増やすか、それ以上なら、物価を上昇させる。潜在GDPは、 失業が自然失業率(日本では2%か)のときの、生産力です。日本 では、現在のGDP+2%くらいと、低い。 【4%以上の増加が必要】 ●岩田氏の見解では、日本経済は、過去、年率のマネー・サプライ の増加が4%(現在の金額では40~50兆円)以下の時期は、物価が 下がるデフレになっていた。物価を上げるには、年率で4%以上(7 0兆円以上)が必要としています。 2012年12月での、日本のM3の残高は1135兆円です。 企業・世帯・自治体の、現金と預金の総額だと理解していい。 年率の実際の増加は、1~3%の範囲でした。00年代の傾向は、ほぼ 2%増でしかない。4%増以上でないと、日本の物価は下がる傾向に なるとするのが岩田氏です。 http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1212.pdf 日銀は、一般には、銀行や保険会社としか、取引しません。銀行・ 保険がもつ国債・社債・債券・CP等を、債券市場で買い、「日銀当 座預金」に現金を振り込むことが、ベース・マネーの増発です。 ベース・マネーは、「現金(82兆円)+銀行が日銀に預けた当座預 金43兆円」です。 13年1月に125兆円になっているベース・マネーの増加だけでは、世 帯や企業が使えるマネー・サプライ(主は預金)は増えません。 (注)FRBは、住宅価格の下落を止めるため、住宅ローンのデリバ ティブ証券(MBS)も買っています。 【マネー供給の段階】 日銀によるベース・マネーの増減 (注)現金+日銀当座預金 これを、中央銀行による金融調節と言う ↓ 銀行の、利用可能な資金量の増減 ↓ 貸付金の増減 ↓ 企業・世帯の預金(マネーサプライ)の増減 ↓ 商品購買と投資の増減(GDPの変化) 銀行が、世帯には住宅ローン残が増加するように貸し、企業には設 備投資の資金を増加貸しして、そのマネーが、銀行システムの中の 預金となって回るようにならないと、使えるマネー・サプライは増 加しません。 【ゼロ金利下では、物価を上昇させねば、借入は増えない】 金利は、現在、短期がほぼゼロで、長期も0.7~0.8%と低い。銀 行の、長短の平均貸し出し金利は、1.3%と低い。これ以上は、低 くはできない。貸し金の1%くらいは、貸し倒れ引き当てを見込ま ねばならないからです。 現在のゼロ金利の中で、住宅ローンの借入が増えるには、ローンの 金利(固定)は2%以下には下がらないので、年率2%程度以上で、 住宅価格が、長期に上がるという期待が必要です。 2%は上がると予想されるように変わると、「ローンの名目金利2% -住宅価格の期待上昇2%」で、実質金利は、ゼロになります。金 利の負担が0やマイナスになれば、世帯は、住宅購入を増やすだろ うということです。 同様に、物価(企業の商品売上の価格)も、2%上がると期待され るように変わると、売上増の見込みが立ち、押さえてきた借入での 設備投資を、増やすだろう。そうなると、経済は、設備投資の乗数 原理で成長するという説でもあります。 ●岩田氏は、以上から、「日銀は、世帯と企業が使えるマネー・サ プライが4%以上(6%程度)増えるように、国債・債券を買い、円 を増加印刷すべきである。」と結論づけています。(『デフレの経 済学』) これは、米国のクルーグマンと、安倍内閣の顧問になった浜田宏一 氏の主張でもあります。他のリフレ派も同様です。 ●重要なことを言えば、マネー・サプライの4%を超える増加も、 半年以内の短期では、インフレ期待に転じる効果がない。最短でも、 向こう2年間、「日銀は、物価を2%上げる目的で、マネーの印刷を 増やす」と、国民に確信されるものでなければならない。 【テーマ】本稿は、以上をめぐって、論を展開します。専門的な概 念やデータには、(注)で短い注釈やコメントを書いています。 日本経済の構造変化があるので、実は、以上のマネー・サプライ増 加論と円安は、経済に対し、有効ではなくなっています。 経済と企業にとってとても重要なことであり、経済・金融の理論的 なことでもあるので、数値実証で、丁寧に論を進めます。24ページ です。 anyway、当方の予測シナリオ通りにならないことを希望しますが、 数値的・論理的に考えると、可能性が高く思えます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <284-2号:訂正版:『デフレの経済学』を解釈すると(2)> 2013年2月11日 【目次】 1.日銀が言う「物価の安定」は、ゼロ%だった。 2.名目金利は低いが期待実質金利は高い 3.日本の物価が下がっていたのは、マネー・サプライの要因から か? 4.構造派と、マネタリストはどちらが正しいか? 5.円安効果は、実は小さくなっていて、輸入増になる。 (↑この項の文を訂正) 6.過去の通説に依存した誤り 7.結果は、悪い金利上昇になる 【後記】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.日銀が言う「物価の安定」は、ゼロ%だった。 日銀は、使命を「物価の安定」としています。 安定とは何か。ここには「日銀文学」があります。 日銀が、明治14年の設立以来130年の歴史で、はじめてインフレ目 標1%を言ったのは、1年前の、2012年2月14日でした。 (注)普通、中央銀行がインフレ目標を言うのは、例えば4%上が っている物価を2%に下げるという抑制的なマネー供給です。この 点で、日本の、物価を上げるインフレ・ターゲットは異例です。 このため、年間の国債購入枠を、20兆円から10兆円増やして30兆円 とし、貸付金も35兆円に増やすとしました。この脱デフレ宣言で、 日経平均株価は8500円付近から、1万円超えに上がっています(12 年3月)。 その後、2012年4月からは、「日銀の量的緩和は、言うほどのもの ではない」と、次第に市場に認識されて、6月には、株価は8500円 に戻っています。「円安(円売り)→株の購入→株価上昇」は、今 回のパターンと同じです。 (注)昨年も、ヘッジ・ファンドが先行して買い、上げて売り逃げ ています。上げている最中は、1万2000円や1万3000円もあると言う 人が多かった。遅れて高値で買い、損をしたのが個人投資家でした。 日銀は、物価の安定が何%を言うのか、明らかにしません。しかし、 昨年の2.14にはじめてインフレ目標を1%と言ったことから、「物 価の安定は±0%」としていたことが分かります。 10年前の、2003年1月の日銀のバランス・シートは、124兆円でした。 このうち、長短の国債保有は、81兆円でした。 2013年1月のバランス・シートは、159兆円です。国債の保有は118 兆円です。「159兆円-124兆円=35兆円」。 日銀は、10年間、1年平均では、3.5兆円しかマネー供給の増加を 行っていません。(注)マネー供給増加=国債の増加買い+貸付金 増加 3.5兆円は、わが国のマネー・サプライ額(約1100兆円)に対して、 0.34%付近でしかない。 http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2013/ac130131.htm/ 口では何とでも言えます。しかし日銀の実際の行動では、「物価の 上昇は0%(またはそれ以下)を安定」としていたことが、以上の 金額で、分かります。国債を一時は増加買いしても、その後は減ら すという行動でした。 この行動パターンは「80年代後期の資産バブル経済」への反省から 来ています。 マネー・サプライを増やしても、日本経済の構造からは、資産(株 と地価)が高騰する。資産の非合理な水準への高騰の結果は、1990 年からのような暴落であり、名目GDPの継続的な成長には効果がな いという考えです。 事実、80年代後期から末の、バブルでも、 ・一般物価(消費者物価)の上昇は、2%程度でしかなかった。 ・地価は3倍に上がり、株価も3倍以上でした。 インフレ目標で、果敢な量的緩和をすれば、いずれ資産バブルが再 来するだけである。従って、日銀の、2012年までのマネー印刷 (ベース・マネー)の増加は、1年に3.5兆円でしかなかったので す。 米国のマネー・サプライ(M2)は、年率8~10%増の範囲で高い。 一方、消費者物価の上昇は、2~3%程度です。 http://www.federalreserve.gov/releases/h6/Current/ EUでは、M2の増加は、年率3~4.5%であり、消費者物価の上昇は2 ~2.5%です。 http://sdw.ecb.europa.eu/reports.do?node=100000141 日本のM3の増加は、年率2%程度でした。わが国で預金が使われる 構造では、消費者物価が上がる臨界点は、マネー・サプライでは、 4%増加です。 (注)これは、過去のデータで、実証されています。過去のデータ です。10年以上前の過去の経済が、世界で1.5京円にもなったデリ バティブ(新しいマネー)で変化した現在の経済に、当てはまるか どうか、ここが、常に、経済学説における焦点になることです。デ リバティブの急増は、2000年代だけのことです。90年代はなかった。 医学で例えれば、変容を繰り返す新しいウイルスで変化した病に、 過去のデータは無効です。 日銀は、2000年代も、マネーは十分に供給している。しかし、銀行 が国債を売って日銀に預けている当座預金が増えるだけだった。そ れが、企業と世帯への貸付金の増加になっていないと、一貫して説 明しています。 中央銀行は、マネー・サプライ(M3)を増やすことはできないとも 言う。 ■2.名目金利は低いが、期待実質金利は高い ここで、岩田氏を含むリフレ派は、以下のように主張します。 (1)日本の物価は、期待インフレ率が1~2%のマイナスである。 (2)名目金利は0%付近でも、マイナスの期待インフレ率を加えた 期待実質金利は、2%から3%と高い。 このため、借入が増えない。借入が増えないから、マネー・サプラ イは増えず、物価のマイナスが続く。 日銀が果敢な量的緩和を行うと宣言し、実際に行って、物価の期待 上昇をまず1%、次は2%付近にまで高めると、期待実質金利は物価 上昇分、下がる。これで借入は増える。 この借入は住宅投資と設備投資の増加を生むから、実質GDPと、物 価上昇を加えた名目GDPは増加に向かうという。 このためには、日本の、2000年代の物価の下落は、 ・円高での安価な輸入品や、人口高齢化による消費の減少という構 造的な要因からのものではなく、 ・マネー・サプライの増加の低さが原因だったと、証明せねばなら ない。 マネタリストが言うように、物価下落が貨幣要因なら、マネー・サ プライ(M3)の4%以上の増加、メドは+6%(金額で1年に+70兆 円)によって、期待物価の上昇は2%に近づいて行くからです。 日本の1998年からの消費者物価の下落は、輸入品の安さからのもの (代表してユニクロ現象と言う)ではなく、 ・マネー・サプライの増加が4%以下だったからであり、 ・このため、需要が減ったからだという証明を経済学的に行ったの が『デフレの経済学』です。 安倍首相は、このマネタリストの論を採用し、「日銀は、物価上昇 目標を2%として、マネー・サプライを果敢に増やす金融政策をと るべきである。」としました。 (注)マネタリストの主張が、現在の日本にとって、正しいかどう か、経済理論的には、明らかではありません。1929年から33年の大 恐慌のときは正しかった。しかし経済は、新しく変わります。同じ 政策が、現代の日本経済にとっても正しいかどうか。問題はここで す。 【期待で生じた円安と株高】 政権の交代ともに、「経済・金融政策が、マネー・サプライ量の増 加に変わる」という期待から、 (1)円はドルに対し、79円付近から93円にまで、17%下落し、 (2)円の下落が、減ってきた日本の輸出を増やすという期待にな り、 (3)輸出企業の採算の上昇と、 (4)物価の期待上昇率も上がるという予想から、企業の売上・利 益の、増加が期待されるため、株価は35%上がったのです。 これを実現させたのは、ヘッジ・ファンドによる、 (1)円売りの増加と同時の、 (2)株の買い超の増加の継続です。 期待で円が売られ、同じ期待で株が買われています。まだ、マネー 供給の増加はないのです。日銀が、無期限で国債を増加買いすると したのは、2013年ではなく2014年からです。 【円高の基底の原因は、貿易黒字だった】 経済指標のファンダメンタルズ(基礎データ)で言えば、日本の貿 易黒字は、2年前の2011年から、赤字に転落しています。 2011年は7.7兆円、2012年は10兆円の赤字です。1980年代から30年 間の、円高の基底の原因は、わが国の、恒常的な貿易黒字でした。 $1=80円台の円高になっても、貿易は、黒字を続けていました。 ところが貿易は、2011年から、はっきりと赤字に変わっています。 しかし、ユーロ危機とドル安予想から、円とスイスフランに、世界 の短期マネーが流れ、$1=75円を超える勢いの円高になっていた のです。 $1=80円以下は、明らかに過剰評価でした。 これが、「安倍政権はインフレ策を取る」ということから、円売り を呼びました。投機マネーが、円売り・ユーロ買い・ドル買いに戻 ったからです。 (注)今後、日本が、貿易黒字の、2010年までの体質に戻ることは、 ほとんどない。貿易赤字の恒常化は、長期的に見て円安の大きな要 素です。 マクロ経済で言えば、「貯蓄-投資=経常収支の黒字」です。貯蓄 額の増加が、高齢化で構造的に減っていますから、経常収支の黒字 も減少します。 経常収支は「貿易・サービス収支+海外からの配当・受取金利」で す。海外から受け取る配当・金利は、1年に15兆円くらいです。 【日経平均の株価】 日経平均で、予想PERが10~12倍、株価で8500円付近は、国際的な 株価水準のPER15倍から見て、過小評価と言われていました。 PER15倍とは、向こう15年分の、企業の純益予想の合計が株価にな っているという意味です。(注)株価は、予想純益を、金利とリス ク率で割って、現在価値にしたものです。 マネーを刷ると宣言した安倍政権を機会とみて、ヘッジ・ファンド は、円を売って、株を買っています ヘッジ・ファンドは、 ・2012年10月の、8500円付近(予想PER12倍)で、PBR(純資産÷時 価総額)が1を割っていた日経平均を過小評価と見て、 ・同時に、$1=80円未満の円を、10円は過大評価と見ていました。 これを、安倍政権の実現予想とともに、市場に先駆けて見直したの です。 (注)日経平均の予想PER (株価時価総額÷予想純益)は、2011年 10月は、12.2倍と低かった。国際的に妥当な水準は、ほぼ15倍で す。2012年2月には、すでに、20倍くらいに上がっています。 予想PERの20倍は、今後新たな、企業純益を増やす材料が出ないと、 危険な高値の水準です。株価は、安くなるときも高くなるときも、 行き過ぎます。 http://www.opticast.co.jp/cgi-bin/tm/chart.cgi?code=0168 2012年2月の、日銀のインフレ・ターゲット1%は、その後の日銀の 行動、つまり抑制的な金融政策の継続のため、信用されなかった。 ●今回は、政権が交替し、本当に、マネー供給を増やすことを日銀 が実行するのではないかという予想からです。 これが、短期で、株価が20%上昇を超え、35%も上がっている理由 です。 【期待で動くのがマネー】 金融的なマネー動きは、実体経済の成長とマネー量の増加に、約半 年から1年先駆けた動きをします。 まだ、日銀の、マネー・サプライ量4%以上の増加に向かう量的緩 和も、インフレもない。 ・円は、量的緩和とインフレの期待で下げ、 ・株も、この期待で上がっています。 当方が金融に関心をもち続けるのは、実体経済に、数歩は先駆けた 動きをするからです。 ■3.日本の物価が下がっていたのは、マネー・サプライの要因か らか? 経済の指標には、(1)並行現象と、(2)原因現象があります。並 行現象は、それとともに起こるもので、原因現象は、AがBの原因に なるものです。これの見極めは、実は、難しい。 経済では、AとBが、 ・原因と結果の関係ではなく、 ・並行現象であることも多いからです。 【リフレ派】 岩田氏とリフレ派は、マネタリズム学派の説を根拠に、マネー・サ プライの増減が、物価の原因現象であると言います。 そして、日本ではマネー・サプライの増加が4%未満のとき、物価 が下がっていたという。これは事実です。 簡単には、預金が4%増えたときは物価上昇がゼロで、4%未満(現 在は2%増加)のときは、デフレになっていた。しかしこれは、原 因現象なのか、並行現象なのか? 経済学では、まだ決着はついていません。 デフレの研究をしたのは、1929年から33年の米国大恐慌の『大収縮 1929-33』(フリードマン)です。1920年代の、バブル的な好況の あと、29年の株価暴落を起点にした銀行の不良債権の増加と、貸出 の減少を主因に、米国のマネー・サプライが35%減った。同時に、 GDPは37%縮小し、卸売り物価は40%も下がっています。 【構造派】 構造派(野口悠紀夫氏等)は、日本の物価が下落した原因は、海外 物価よりはるかに日本の物価が高かったこととします。 ユニクロやニトリのようなところが、中国からの開発輸入を行った から下がったという判断です。それと、家電のような技術革新です。 マネー・サプライの増加率の低さ(2%)と、物価の下落(1%から 2%)は、並行して生じた現象であり、マネー量は物価の原因現象 ではなかったとします。 【民間の銀行システムでのマネー量の増加】 中央銀行がマネーを増発しなくても、「銀行借入→投資」が活発な 時期は、借入が他の預金になって行く銀行システムの中で、マ ネー・サプライは増えます。 バブル期は、土地担保の評価増が原因で、借入が増え、不動産投資 が増え、マネー・サプライは、10%以上増えていました。 1992年からは、金融引締めと地価下のため、マネー・サプライの増 加は0~2%に下がりました。1998年以降は、日銀がベース・マネー を15%から20%増やしても、マネー・サプライの増加は、年1%~3 %台でした。 同じ条件での実験ができない経済を扱う経済学が、科学でない理由 は、原因と結果の関係を、明らかにできていないからです。そのた め、学派がある。(注)サミュエルソンの教科書、『経済学』は、 多くの学派の本質をとらえつつ網羅しています。 医学に例えれば、同じ症状で、原因の診断と治療法が異なっている ようなものです。(注)多くの感染症は、原因が明らかになってい ます。臓器毎に種類があるガンには、原因への定説がまだないよう です。 ▼「相対物価」と「一般物価」 輸入財の安い物価(相対物価)が、日本の物価(一般物価)を下げ た主因という構造派に対し、マネタリストは、以下のように反論し ます。根拠となる学説はフリードマンです。 「相対価格の変化と一般価格(物価)の区別をすることが重要であ る。石油や食料が上がれば、それらに対する支出額は増えるが、企 業や世帯は他の商品に対する支出を減らすため、需要が減ってその 物価が下がるだろう。平均的な価格である物価が、相対価格の変化 によって影響を受ける理由はない。」『デフレの経済学(P123): フリードマンの要旨1975』 ここから、岩田氏は以下のように、 ・相対物価が下がれば、 ・一般物価が上がる論を展開します。 「輸入財の価格(相対物価)が下がれば、企業や消費者は、輸入財 への支出が減った分を、輸入財とは競合しない他のものの支出に向 けるから、それらの価格は輸入財価格の低下を相殺するように上が るだろう。その結果、(一般)物価は下がらない。」(同書:P124 :岩田氏) 同書と、岩田氏の考えで、肝心なところは、ここです。 どうでしょう? 岩田氏は正しいでしょうか? 具体的に言えば・・・ ユニクロやニトリの商品(相対価格で低い)を買うようになって、 衣料や家具への支出は減った。そのため、他の商品を余計に買うよ うになり、他の物価は、需要が増えて上がるはずだ。 ・・・ところが、日本では、他の物価も上がってはいない(ほぼ± 0%です)・・・だから・・・(ここからが肝心です)、日本の一 般物価の下落は、輸入物価と、生産および流通の技術革新(構造改 革)が原因ではない。 一般物価が下がった原因は、1100兆円のマネー・サプライが2%台 (20~25兆円)しか増えなかったからである。 物価の原因は、マネー・サプライの量である。このため、日銀がマ ネーを刷って、銀行がそれを貸しつけ、企業と世帯がその増加マ ネーを使う需要と投資が増えれば、物価の下落は止まる。その後も、 更に量的緩和を継続すれば、一般物価は、1%、2%と上がるように 変わる。 (注)経済学では、世帯が消費財を買うのも、企業が機械を買い、 設備投資を行うのも、同じ「需要」の範疇(はんちゅう)です。 このための、日銀によるベース・マネーの必要増加額は、1年に70 兆円(マネーサプライの6%)くらいです。半年ではなく、2年(中 長期)は続けねば、マネーの要因からの物価は、2%は上がりませ ん。 日銀の円の印刷による、140兆のベース・マネーの増加が必要でし ょう。これが、物価を2%上げる、「果敢な量的緩和」の意味です。 ■4.構造派と、マネタリストはどちらが正しいか? 確かに、輸入品と耐久財(家具、家電、IT、衣料)は、2000年代の 1年に4.5%のペースで下がっています。 ところが、「世帯は減った耐久財の分、他の消費財(食料、サービ ス、医療、電気、交通、通信、教育)の合計購入を増やした」とは 言えません。耐久財以外の合計物価は、ほぼ±0%付近です。 原因は、マネー量よりも、1994年にはじまり、金融危機の98年から はっきりした世帯所得の減少です。この要因が、大きいと当方は考 えます。 (注)この間、消費税の3%から5%への上昇もありました(1997年 4月以降)。これは物価を2%上げる要素でした。 ▼名目所得の減少という特殊な現象が起こった日本 1994年の世帯所得は、664万円でした。2010年は538万円(19%減 少)です。生活が苦しいと答える世帯は、62%(3世帯に2世帯)に 増えています(厚労省)。 ●輸入品や耐久財の価格が下がっても、ほぼ80%の世帯で収入が減 ったため、それで浮いた所得は、なかった。 このため、輸入品以外の、他の商品の需要が増えることはなかった。 マネタリストは、マネー・サプライが4%以上増えなかったから、 物価が下がったと言います。それもある。 しかしもっと大きな原因は、世帯の名目所得の減少です。 名目所得の、長期の減少(19%)は、世界にない現象です。 (注)スイスも0.6%消費者物価が下がるデフレですが、世帯所得 の減少はない。このため、実質GDPは、増えています。 日本の世帯所得の減少を指摘する人がほとんどいないのは、不思議 です。理由は、経済学では、不況期は世帯所得が減るより、失業率 が増えるとしているからでしょう(フィリップス曲線)。名目所得 には、なかなか下がらない下方硬直性があるとするのが、ケインズ 以来の近代経済学だからです。ところが1994年以降の日本では、失 業を増やすより、平均の名目賃金が19%も下がったのです。 ▼日本の雇用構造の変化 ●日本では、名目賃金が同じで、失業が増えるのではなく(現在の 失業は4.2%です)、雇用されている人の、平均の名目所得の減少 になった。こらは、2000年代の非正規雇用の増加が、最大の要因で す。 (注)2010年で、正規雇用は3355万人、非正規雇用は1755万人(構 成比34.3%)です。3人のうち1名は非正規雇用です。うちパート が847万人、アルバイトが345万人、契約社員や嘱託330万人、派遣9 6万人、その他が137万人です(厚労省)。 わが国では、米欧のような「名目賃金の下方硬直性」は薄かった。 1980年代までの正社員部分が、非正規雇用化して、全体の平均賃金 が下落しています。 【雇用の構造の違いがある】 米欧では、現場労働は、ほぼ100%が、時間給の社員です。フルタ イム労働とパートタイムはありますが、同じ仕事(作業)なら、時 間あたり賃金に、格差はない。 日本では1980年代までは、ほぼ正社員でした。ここが、90年代から 次第に非正規化して、その結果、平均賃金が下方シフトしたのです。 以上は、米欧にはない、雇用構造の要因です。 日本は、現場の正社員の時間給換算は2000円くらいですが、パート は同じ仕事でも700円から1000円です。 ●賃金の下方硬直性とは、給与計算書の名目金額は、なかなか下が らないことを言います。このため、不況期の雇用調整は、失業の増 加になる(米欧)。 米欧では、確かにこれがある。このため、失業率は米国で7.8% (2012年12月)、ユーロ17ヵ国では11.8%(12年11月)と高い。 日本の2000年代は、米欧よりGDPが増えていないのに、失業は4.2 %と低い。 1998年以降の日本では、こうした労働事情から、賃金が低い非正規 率が34%にまで増えて、平均賃金が19%も下がっています。 ●岩田氏は、賃金の下方硬直性(米欧の事情)を、前提にしていま す。このため、マネー・サプライの2%増では十分ではなく、物価 が下がったという。しかし、これは100%の要因ではない。 当方、日本のデフレは、 (1)賃金の構造要因が50%から60%、 (2)マネー・サプライ要因が50から40%だったと見ています。 日銀がマネー供給を増やし、マネー・サプライが6~7%増えれば、 物価は2%上がるというのは、40~50%の正解です。 50%以上は、日本の特殊な、2000年代の賃金要因だからです。 経済では、多くが、複合的な原因です。 日本は、複合デフレでした。 以上から、マネー・サプライが6~7%増になるように、日銀が量的 緩和分を増やしただけでは、一般消費者物価(マーケット・バスケ ットの価格)を2%上がるには至らない。平均の名目賃金が、年2% くらいは上昇しなければならないのです。 ●経済理論は、残念ですが、ほぼ全部が、米国から来ています。岩 田氏の論もこれです。このため、失業を増やすより、名目賃金を約 10年で19%も下落させた日本の、固有の事情が、見えなかったので しょう。 原因が何かを決定するのは重要です。 対策は、原因によって決まるからです。 世帯所得が減少傾向のままでは、物価が上がった商品への支出は増 えず、物価が下がる商品への支出も増えません。マネー・サプライ を増やし、企業の設備投資価格は上がっても、消費者物価は、それ だけでは上がりにくくなります。 所得が下がる中では、価格が上がると、消費量が減るからです。わ が国GDPの60%は個人消費です。これは、80%の世帯の実感にあっ ているはずです。 2012年12月の、需要面の名目GDP 473兆円は、 個人消費288兆円(構成比61%) +民間住宅購入13.7兆円(同2.9%) +企業の設備投資63兆円(同13%) +政府消費98兆円(同21%) +公共投資24兆円(同5%) +純輸出マイナス10兆円(同-2%)、です。 (注)輸出は68兆円、輸入が78兆円です。 2013年は公共投資の10兆円増加(補正+一般会計)で、2%は増え る要素になります。 しかし所得が増えて個人消費が増えないと、供給の超過のため、消 費者物価は上がることはない。15%の円安で、輸入物価が15%上が る貧困化の要素になります。 http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2012/qe123_2/pdf/jikei_1.pdf ■5.円安効果は、実は小さくなっていて、輸入増になる。 2000年代は、輸出入の構造が、90年代とは変わっています。 ◎以降の1.5ページ分が、訂正後のもの~~~~~~~~~~~ ▼15%の円安で輸出が増える分は、10.2兆円 恒常的な円高に懲りていた輸出企業は、輸出契約のうち、50%を、 円建て契約に変えています。 円建て輸出では、円安になっても、円の輸出価格は、価格を上げな い限りはそのままです。しかし、ドルから見た円での価格が下がる ため、価格競争力は強化され、輸出が増える要素になります。 同時に、円安では、ドル建ての34兆円分の輸出(輸出の約50%)が、 15%ドルでの価格が下がって、増えるでしょう。 円建て・ドル建ての両方で、中期では15%くらいの輸出増が見込め ます。金額で言えば、68兆円×15%=10.2兆円の輸出増加に向か うでしょう。 この10兆円増で、貿易赤字になった分(10兆円)が解消し、貿易黒 字になるかと言うと、そうではない。2011年から輸入の金額が大き くなっているからです。 ▼15%の円安で輸入が増える分は、11.7兆円 輸入は78兆円です。輸入では、円建て契約は少ない。 円高(ドル安)が、輸入には有利だったからです。 ・現在のように、昨年比で15%の円安なら、計算上、ほぼ11.7兆 円、資源・エネルギー・商品の輸入額が増えます。 ・一方で、円安での輸出増は、15%(10.2兆円)です。 以上をまとめれば、 円安による輸出増・・・・・・・・68兆円→78.2兆円 円安による輸入財支出の増加・・・78兆円→89.7兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 貿易赤字 10兆円→11.5兆円 昨年比15%の円安で、貿易赤字が解消するかと思うとそうではない。 逆に11.5兆円に増加します。円安は、わが国の変化した輸出入の 構造では、貿易赤字を増やしてしまうのです。 そして輸入の資源・エネルギー・商品が上がることによって、輸入 支出が増えた11.7兆円(GDPの2.5%)の、物価の上昇が生じます。 コストの15%増という金額は、輸入企業がコストダウンできる分を はるかに超えていますから、販売価格に転嫁せざるを得ません。 輸入されているのは、主に資源・エネルギー・食料の必需財です。 価格が上がれば購買を減らせる選択財ではない。つまり、円安で価 格が上がれば、輸入が減るという性格のものではない。 ◎訂正・変更はここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 経済は、この10年で、以上のように、動いています。 輸出入にも、以上のように、大きな変化があります。 ■6.「過去の通説」に依存した、マネタリスト派の誤り ▼「円安は日本企業に有利」というのは、過去のことです 上記のように、現在では、円安では、輸出の増加より輸入物価を上 げて輸入増になることが大きく、合計では、日本のGDPではマイナ スの要素です。 金融市場とマスコミは、過去の通説を固定観念にし、変化した現在 を誤認しています。このため「円安は株の買い」になっているので す。 【予測】人々は、2013年の7月ころになって、円安で輸出が増える 以上に輸入が増えて物価も上がると、「何としたことだ、これ は?」と変わるでしょう。 ▼悪い円安の部分が大きくなっている 繰り返せば、輸入資源と商品(78兆円)が、円安で、15%も支払い 価格が上がると、輸入物価の要素だけで、日本の物価を11.7兆円 (GDP比2.5%)も上げます。つまり、15%の円安で、物価は2.5 %も上がります。 具体的には、60%を輸入している食料、そしてほぼ100%を輸入し ている資源とエネルギーが、上がります。経済成長どころではなく なるのです。(例)豆腐や納豆は国産ですが、材料の大豆は輸入で す。資源や原油も同じです。 不況下での物価上昇(スタグフレーション)です。輸入は、必需的 な品目です。円安で15%高くなっても食料、原油、資源の輸入は減 らない。 米国のように、車・家電・IT部品の輸入なら、15%も価格が上がれ ば輸入が減ります。しかし日本の輸入品目は、円安で価格が上がっ ても、原油のように減らないものが多い。 円安が、相変わらず、日本経済のためになると考えている安倍首相 と内閣、政府系エコノミスト、そして財務省と経産省は、国民経済 の運営を誤る事実誤認を犯しています。2000年後期の、輸出入の構 造変化を見ていないからです。 繰り返せば、この誤認は、輸出入と経済の、最近の傾向を見ず、20 00年代初期までの古い固定観念(通説)で見ているためです。 エコノミスト達、しっかりしなさい。常に、新しいデータを見なけ ればならない。円の増発、インフレ、円安を奨めるクルーグマンも、 です。今年も、量的緩和は円安を招き、円安は日本経済のためにな ると言い続けています。 経済の理論書を読むだけで、変化した新しいデータを見ていない。 最近の輸出と輸入の構造変化を見れば、以上は、誰にでも分かるこ とです。 円安は、ドル建ての(古い)輸出企業だけにとってはプラスでも、 ドル建ての輸入が大きくなった日本経済の全体にとっては、すでに、 マイナスの要素になっています。それくらい大きな変化を、このほ ぼ5年でしていたのです。 自民党は、現在のアベノミクス(円安と通貨増発)を修正しないと いけません。2013年7月の参院選ころには、以上の、輸入物価だけ が上がる予測データも出ます。 世論も「一体どうしたことだ? 生活を苦しくするアベノミクスは 変だった。」となって、選挙に負けるでしょう。安倍首相は、また も、退任間近ということになってしまいます。 以上は、まだ誰も言っていないことです。 ■7.結果は、悪い金利上昇になる ●円安が、日本のGDPにとって、実はマイナスの要素に変化してい たと市場が認識したとき起こるのは、国債の売りによる悪い金利の 上昇です。 名目長期金利= 実質GDPの上昇率+物価の期待上昇率+国債の信用リスク率です。 すぐにこうなるというのではない。GDPや物価の、データの変化を 見て、債券市場での売買に変化が起こって、次第に、この式の金利 に、近きます。 15%の円安での、輸入物価(78兆円)の15%上昇は、日本の物価を 確実に、11.7兆円は上げます。GDPに対し2.5%にもなる価格上昇 です。(注)現在の円安($1=93円付近)のままなら、1年後には、 確実です。 【重要】実質GDPの成長を1%、物価上昇を2.5%とすると、それだ けで、長期の期待金利は3.5%に向かって、上がるでしょう。 その時期の端緒はたぶん2013年秋です。15%の円安での輸入物価の 上昇だけが目立ち、物価の上昇がデータとしてはっきりするからで す。 政府の総負債(中央政府、地方、独立行政法人)は現在、1133兆円 です。長短の債務の、平均償還期間は7年です。長期金利は0.76% と低い。 輸入物価の15%上昇から、期待金利が3.5%に向かうと国債価格は どう向かうか? いつもの、債券価格の計算式です。 国債価格=(1+0.76%×7年)÷(1+期待金利3.5%×7年) =1.0532÷1.245≒84%・・・16%下落 1133兆円×16%=181兆円の国債価格(債券価格)の下落です。 こうした金利上昇の予想が出ると、国債をもつ金融機関は、どうす るか? まず、90兆円の短期債をもつヘッジ・ファンドは、激しい 売りでしょう。 このように、輸入物価が上昇したとき起こるのは、一層の円安と金 利の上昇です。金利の上昇は、国債の売りの結果です。 ▼南欧債とドイツの買い 南欧の国債の金利上昇(7%台)は、ECBが、南欧債を無制限に買う、 ユーロは絶対に破産させないという宣言によって、収まっています。 ECBの背後には、経常収支の黒字が$2185億のドイツ経済の信用が あります。中国の黒字、$2085億を超えて世界最大です。1年だけ ではない。ずっと続いています。 この富裕なドイツが、南欧債を買うと宣言したことに等しい。これ で、南欧の財政危機とユーロは、小康を得ています(2013年の年 初)。 ▼日本国債と日銀の買い 日本国債では、ヘッジ・ファンドと金融機関が売ったときは、金利 の上昇(国債価格の下落)を、止めるのは、売られる国債を買い受 ける日銀しかない。 【重要:国債の需給】実は、日本の都銀は、2010年から、はっきり と国債の売りです。2011年からの、日本国債(特に短期債)の最大 の買い手は、海外ヘッジ・ファンドです。毎月10~15兆円を買い越 し、円の国債価格を支えたのは、すでに国内の金融機関ではなく海 外です。ユーロ危機とドル安から逃げたマネーが、安全資産として 円の短期債を、買い越し続け、保有高は、12年9月に90兆円を超え たのです。ここにも、通説の「変化」があります。 http://www.jsda.or.jp/shiryo/toukei/toushika/index.html 日銀はドイツではない。日銀は、日本の政府部門です。政府の信用 をバックにした機関です。 日銀には、ゴールドのような固有の資産は少ない(4412億円)。資 産としては、政府信用の国債(118兆円)だけしかないからです。 http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2013/ac130131.htm/ 従って、円国債の信用が、リスクで下落したとき、日銀がそれを買 っても、それは政府部門が、買い受けるのと同じと見なされます。 (注)市場の国債金利の上昇は、政府信用の下落です。 つまり「政府の信用リスクの高まりからの、悪い金利の上昇」のと きは、日銀が国債を買っても、それが、国債の信用を高めて、金利 を下げることにはならない。 (注)実質GDPの増加から金利の上昇は、よい金利の上昇です。物 価の上昇とリスク率の上昇からの金利の上昇は、悪い金利の上昇で す。 ある家庭が、借金の満期返済と利払いができない財政危機にあると します。奥さん(日銀)が小切手を切ってご主人(政府)に貸して も、その家(国家)の財政信用は高まらない。これと同じです。 ユーロのように、富裕な隣の家(ドイツ)が貸せば、話は別です が・・・。 例えば、財政信用のないイタリア政府が、イタリア国債を買い支え ても、イタリアの金利は下がりません。ドイツが、経常収支の黒字 が大きなドイツ経済の信用で買うから、下がるのです。 (注)米ドルの信用は、経常収支は大きな赤字でも、「代わる通貨 がない唯一の基軸通貨である」と世界が認めていることから来てい ます。貿易に使う基軸通貨は、世界の貿易が増えると、それに対す る需要が増えるからです。つまり米ドルは、赤字の米国だけではな く、世界経済の信用をバックにしている通貨です。ここが基軸通貨 の特権です。 円安による貿易赤字の増加は、以上のような結果を招きます。そう ならないように、現在の円安政策は止め、85円くらいには、戻さね ばならない。 95円(18%円安)や100円に向かうと、輸出入の構造がすでに変わ っているので、半年後からの結果は、日本経済にとって、悲劇です。 いや、好んでそうしたのですから、経済と金融が分からない安倍首 相がもたらす喜劇です。これは、国民を、ギリシアのように苦しめ ます。 長期国債の金利が3.5%に向かって上がると、2014年は、大きな緊 縮財政に転じなければならなくなるからです。 【後記:アドバイス】 次期総裁が有力な、岩田規久男氏に申し上げます。13年4月の就任 直後は、「量的緩和期待」から、まだ、円安・株高でしょう。 問題は、輸入物価の高騰が明らかになる、13年7月ころからです。 その前に、円高と、円発行の抑制に戻さねばならない。 円安のままなら、2013年の秋は、悲劇的な、喜劇です。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 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