ギリシアとスペインの債務問題は、ユーロ崩壊への道程(3)
Written by admin on 2012年6月30日 – 08:00
おはようございます、吉田繁治です。シリーズの第3部(完結編) をお届けします。 有料版では1回で送ったのですが、その後の変化と、冗長性を恐れ ず、説明的な書き加えをしています。金融には、特有の用語が多い ため、説明的に書く必要があると思っています。 ●昨日(12年6月29日:金曜日)は、債務国のイタリアとスペイン が、債権国であるドイツのメルケル首相に、「ユーロが崩壊する」 と恫喝(どうかつ)しながら迫って、ECB本店(欧州中央銀行:フ ランクフルト)から、「ユーロの銀行への、直接の、追加資金貸 付」を認めさせています。 これによって、(当面の危機は避けられたとして、)ユーロは若干 上がり(99円80銭→101円(+1.2%))、日米欧の株価も、同時 に、上昇しました。 これは、預金が、ドイツ国債の買いとしても流出している南欧の銀 行の資金不足がいかに深刻かを、逆証明するものもあります。 ●居直った債務国が、自分たちは払えないから、ユーロ安で輸出の 利益も受けているドイツに対し、南欧債の下落で破産寸前を続けて いる南欧の銀行にお金を出せ、と迫ったのです。 ヤクザが使う牽強附会(けんきょうふかい)の錯乱した論理です。 弱みを強調し、強いところを脅迫する政治的なコトバです。困り果 てたメルケル首相の映像が報道されています。 前イタリアの首相、ベルルスコーニが、2011年当時に「返せないも のは、返せない」と言っていたことを記憶しています。この方法で す。ドイツは、いつまで、いくらの金額を続けることができるの か・・・ここを見通さねばなりません。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol. 279:ギリシアとスペインの債務問題は、 ユーロ崩壊への道程(3)> 2012年6月30日:無料版 【目次】・・・前回は1項から3項まで 1.回復が不可能なスペイン債務問題 2.ギリシアに続く、スペインの銀行預金の取り付け 3.スペインの債務は、ユーロにとって大きすぎる 【今回の目次】・・・今回は4~7項と、後記 4.外為売買が自由な時代の、通貨の増発の結果 5.スペインの債務問題の結論 6.ユーロ共同債の発行という方法はない 7.じゃ、どうなるか 【後記:ユーロ崩壊と中国と日本の輸出】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■4.外為売買が自由な時代の、通貨の増発の結果:重要 ▼ユーロからの資金の流出 ヘッジファンドや金融機関による株の売り、及びユーロ債の売りで、 ユーロから、ドル、スイス・フラン、円へ資金が流失しています。 (注)PIIGS債やユーロ建ての株と証券を売って、ドル債や円債に 変えることは、ユーロの金融機関から、資金が流出することです。 昨年12月以降、ECB(欧州中央銀行)が緊急に印刷して、資金が不 足するユーロの金融機関(主要91行)に注ぐとした1兆ユーロ枠の LTRO(長期資金供給オペレーション)は、過半がドルや円になって しまったのです。 理由は、PIIGS債とユーロ債の一層の下落への予感からです。 ユーロ建ての株・債券・国債をもっていれば、売られる債券金利の 上昇と、通貨ユーロの下落で、二重に損をするという予想からです。 以上が、各国の通貨が自由に売買できる、金融の開放経済体制での、 中央銀行のマネー増発がもたらす結果です。 中央銀行のマネー増発(及び低金利策)は、その国のマネーの価値 の下落であると金融市場から認識されるようになると、為替市場で 売られます。その結果、通貨安になります。 ●世界の為替市場の売買額は、たった1日でも$6兆(480兆円)と 巨大になっています。FXが一般にも普及した日本の円とドルの売買 は、その1/10の50兆円くらいです。 しかも2000年代は1年で20%くらいずつ、世界中で外為売買額は増 えているのです。 21世紀のデジタル化したマネーの動きの、新しい現実です。1日 500兆円の規模に膨らんだ各国通貨の売買によって、通貨相場が、 毎日大きく変動しているという事実を知る人は少ないでしょう。わ が国でも株式市場の売買(平均で1.2~1.5兆円/日)の約40倍が、 外為の売買です。 経済の、ファンダメンタルズ(貿易、経常収支、海外投資等の、通 貨の実需)によるものは、ごく少ない。売買の99%の部分は、世界 の金融機関、ファンド、個人の通貨への投機です。 しかもこの中の約40%(各機関の推計)は、株や債券と同様、1秒 間に1000回もの高速売買をするCTA(商品投資顧問業:Commodity Trading Advisor )などによるロボット・トレーディングです。 個人のパソコンで、経済・金融指標から、売買タイミングのプログ ラムを作って、実行している人も増えています。試みに、グーグル 等で、ロボット・トレーディングと入れ、検索してください。日本 語でも多く見つかるでしょう。日本語は、インターネットでは世界 の1/30程度に過ぎません。 (注)21世紀は、CTAのようなマネー運用業の急成長期です。有価 証券(国債、株、社債)、商品コモディティ(資源、穀物、金)、 金融派生商品、通貨、金利への投機の時代になっています。毎日の、 「些細な理由付けや、根拠が薄弱な見通しをし」、信用借りのレバ レッジを元金に対し10~30倍はかけて、売買されています。 (1)通貨安とは、中央銀行のマネー増発分、あるいはそれ以上が、 海外の通貨買い(=自国通貨の売り)になって流出することです。 大規模になるとマネー・エクソダス(通貨脱出)とも言います。 (2)他方、通貨が上がる国には、買われた債券と通貨の対価とし て、マネーが流入します。ドル、円、スイスフランがこれです。 仮に、1兆ユーロの売り、100兆円の円債買いがあると、100兆円分 の現金が日本の金融機関に入ります。この売買の結果として円は上 がり、ユーロは下がります。 通貨の変動は、こうした意味をもちます。(注)中央銀行の介入額 は、ぜいぜい数兆円/日ですから、とても小さいことがわかるでし ょう。 買われる通貨(=上がる通貨)にマネーが集まり、売られる通貨か らはマネーが逃げるのです。この、国際的に移動するマネーの金額 が商品の売買ではなく、1日に500兆円もあるということです。 ●米欧では、金融革命とマネーのデジタル化の1980年代末から、日 本では金融ビッグバン(規制の撤廃)の1995年から、通貨の売買が 大きくなりました。マネーの国際移動が巨大化した2000年代には、 毎年、20%ずつも増えたのです。15年間、1年に20%ずつ増えれば、 15倍になります。 金融は、激しくグローバル化し、為替差益を求めて、投機化してい ます。デジタル通信で売買されるマネーに起こった、インターネッ ト革命とも言えます。具体的な商品には、コンテナ物流が必要です が、マネーは、クリックした瞬間に、通貨売買として移動します。 ▼外為売買に規制があった時代 外為売買に規制があり、自由ではない時代、言い換えれば固定相場 の時代(1971年まで)は、中央銀行が増加印刷したマネーが海外に 流出することはなかった。 (注)現代で言えば、元の売買を制限している中国がこれです。日 本は1995年代まで、これでした。資本移動(=為替売買)が自由化 されたのは、金融ビッグバンと言われた1995年(橋本内閣)からで す。 日米欧の為替売買の自由化は、比較的に、新しい現象です。経済学 でも常識として了解されているとは言えません。なお、日本への金 融ビッグバン(1995~)は、米国が日本のマネーを利用できるよう するために、要請したことが起点になったものです。 貿易と経常収支の実需に通貨交換を制限していた「金融の閉鎖経 済」では、中央銀行が増加印刷したマネーは、国内でのマネー量の 増加になって、物価や資産のインフレ(言い換えればマネー価値の 下落)をもたらしていました。主流派の経済理論は、これに基づい ています。 物価が10%上がることは、お金の価値が10%下がることです。同じ 1万円で、物価が10%上がる前の9090円分の商品しか買えなくなる ことだからです。以上は、金融が一国経済だった時代です。 ▼金融の開放経済の体制 為替売買が自由である開放経済では、どんなことが起こるか? 繰り返し述べれば、1日での、世界の為替売買は、前号(有料版 598号)で示したように、$5兆0564億(400兆円:2010年)もあり ます。1年に20%増える傾向を続けていますから、2012年では、 480兆円~500兆円/日という巨大さでしょう。 これは、100兆円のユーロ売り(=ドル、スイス・フラン、円買 い)も、1日で起こりえるということです。このため、各国の通貨 の交換レートは、株価のように激しく変動します。 【事例】 ECBが、ユーロの銀行の危機対策(LTRO枠)として、1兆ユーロを資 金が不足する南欧の政府と、ユーロの銀行に貸し付けたとします。 政府は財政赤字の支払いに充てますが、ユーロの銀行は、その資金 を運用して、借入金の金利以上の利益を生まねばならない。 ●危機が続くPIIGS債(ユーロ建て)ののままもてば、銀行が損を します。このため、保有する通貨ユーロやPIIGS債を売り、まだ危 機ではない円国債やドル国債を買うはずです。 日本の長期債は0.8%、米国債は1.6%と金利は低くても、為替差 益(ユーロに対する円高、ドル高)が期待できるからです。併せて 言えば、スイス・フランも、南欧の資金が流入しているため、再び 「強い通貨」になっています。 外国から流入した資金を、運用・投資する金融がもっとも大きな産 業であるスイス(人口760万人:GDP45兆円とギリシア並みの小国) は、相変わらず、世界の、富裕者の金融のラストリゾートでしょう。 (注)リーマンッショク時は、スイスの運用債券の下落があって、 1スイス・フランが80円と底値でした。12年6月は84円です。現在の 通貨の強さの順は、1.日本円、2.米国ドル、3.スイス・フラン でしょう。 ●ECBは、ユーロ債やPIIGS債を、金融機関が買い支えてくれるとい う目的で1兆ユーロのLTRO枠(ECBによる長期資金供給オペレーショ ン)を作った。しかし、ユーロの金融機関に、その資金を貸し付け た結果は、「通貨ユーロの売りとPIIGS債の売り」だったというこ とです。 結果は、1兆ユーロのLTRO枠での危機回避にもかかわらず、ユーロ 安でした。通貨ユーロと、ユーロ建てのPIIGS債は売られ続けて、 PIIGS 5ヵ国の国債金利は、下がるのとは逆に、上がったのです。 【その理由】 ECBが増加印刷したマネーは、通貨価値の下落を恐れてユーロから 抜け、円やドルになったのです。このため、PIIGSの債務危機は、 12年4月から、昨年と2月、3月よりはるかに深刻になっています。 皮肉なことですが、ECBがユーロを増加印刷したことが理由で、危 機が認識されて、その結果、ユーロが売られて下がり、PIIGS 5ヵ 国のマネー不足は、より一層深まっています(12年4月以降)。 以上が、外為の売買が1日に500兆円くらいもある金融の開放経済で す。世界から、価値が下がると見られた通貨は売られ、売られた通 貨からはマネーが抜けるのです。 (注)別の事例を言えば、1998年以降、日銀がゼロ金利策を敷いた 円は、金融機関によって、毎年ほぼ25兆円がドル債券(主は米国 債)の購入になりました。日銀は、1998年以降、100兆円の円を増 加供給していますが、それが国内のマネーストックの増加ではなく、 円・ドルの比較金利が高いドルに逃げたということです。 中央銀行のマネー増発は通貨の価値を下げますが、閉鎖経済の時代 と違い、金融の開放経済では、その国からマネーが抜けて、インフ レ(債務の価値の下落)を起こすにことにはならない。 逆に、マネーが、大きく流入した国(米国等)にインフレと、株と 不動産の資産価格の高騰、そしてコモディティ相場(資源、穀物、 金)の上昇を起こすのです。 ●1910年以後のユーロのように、中央銀行が通貨の大増発をした国 では、むしろその通貨が売られ、それ以前より深刻なマネー不足 (デフレ)すら起こします。これが、現在ユーロで実証されつつあ ることです (注)ギリシアやスペインの銀行から流出した富裕者の預金は、ド イツへの預金か、スイス・フラン、あるいは英ポンドや米銀への預 金になっているでしょう。どの国でも、金融資産で上位2~4%の富 裕者が預金総額の50%以上を持ちます。少額の庶民は、タンス預金 です。南欧の銀行から、マネーが抜けているのです。 ユーロ17ヵ国は、極東の日本より、はるかに国際的です。ユーロ内 のドイツ国債も買われ、このためドイツ債の金利は、10年債で1. 6%に下がっています(ドイツの国債価格は上昇)。 しかし、ユーロ全体では、通貨ユーロが売られ、これがユーロ安と いう結果を生んでいます。2000年代央には、1ユーロ160円だったも のが、100円付近に、37%も下がったのですから、凄いことです。 ドイツの中央銀行から、ユーロ内の銀行に出たユーロが、「PIIGS 債の売り、ドイツ債の買い」にもなっているということです。 この結果がPIIGSとドイツの金利差(スプレッド)の拡大です。 PIIGSは国債が売られて上がり、ドイツ国債は買われて下がってい ます。 PIIGSを含むユーロの銀行は、コンピュータ画面で瞬時に、世界の 通貨の売買をしています。ECBは、こうしたマネーの国際的な動き (1日500兆円)を意識しながら、ユーロの増刷決定をしたのでしょ うか? そうとは思えません。そのため、対策が後手になる。 ●12年6月13日には、ECBが1000億ユーロ(10兆円)を、スペインの 問題銀行に貸すことが決定しました。 →ところが市場は逆に、スペイン債を売り浴びせてスペインの国債 価格を下げ、長期金利を6.8%上げています(FT紙)。 これも、ECBがマネーを印刷して注いでも市場はスペイン債を売っ て、スペインからマネーを抜くことを示すものです。 ■5.スペインの債務問題の結論 ▼ギリシアのユーロ離脱は必然 金融市場では、ギリシアがユーロ離脱を迫られる可能性は、2012年 内に30%程度としか見られていません。ギリシア国債の回収を保証 しているCDSの回収保証保険の料率が、現在、30%くらいだからで す。 CDSは、対象債券がデフォルト(利払いと返済の不能)になったと き、その回収を保証する金融保険です。CDSは金融機関の相互で掛 け合うものです。公開市場はない相対(あいたい:OTC)の取引で す。 ギリシアの長期国債の金利は、30%付近です(12年6月)。デフォ ルトのリスク確率であるCDSの保険料率と、長期国債の金利は、ほ ぼイコールになります。 12年6月17日の、ギリシアの再選挙次第と見られていますが、その 結果がどうであれ、債務問題では、変わるものではない。(注)こ の原稿は6月17日以前に書いたものです。 「ギリシアの債務は、返済しないのではなく、どの政党が政権につ いても返済と利払いができない。」からです。 ●債務問題は、政府の意思には、かかわりません。返済できる資金 がないことが問題です。どの政党でも返済と利払いはしなければな らない。しかし返せないものはどうやっても返せない。これが真実 です。(注)ユーロでは、真実を塗り固める先延ばしの策が多い。 社債が発行できず、銀行融資も受けられず、倒産する企業を想定す ればわかるでしょう。 売上が上がれば返済できると言う。しかし仕入と賃金の支払いにも 不足するようになると、売上は上がりません。債務カットしか、方 法はなくなります。 【ギリシアのユーロ離脱】 ユーロ離脱は、その後のドラクマの下落によって、ギリシアの商品 価格、観光価格、賃金が、おそらく1/3(推計)に向かい切り下が ることです。 これによってユーロ・米国・日本から見れば1/3に安くなった観光 価格によって、暴動の恐れのため激減しているギリシア観光は、増 えるでしょう。 例えが悪いと叱られますが、沖縄が別の通貨で観光が今の10万円付 近ではなく、3万円に下がれば、沖縄に行く人が急に増えるでしょ う。沖縄製品も1/3の価格に下がると、本土にもってくれば飛ぶよ うに売れます。 沖縄の住宅も1/3に下がるので、3000万円のものが1000万円に下が り、本土からの投資が増えます。パナソニックやソニーも、工場投 資をします。 ドラクマに回帰し通貨価値が1/3になると、ギリシア商品、不動産、 労働に、このような「競争力」の回復が起こります。 【債務はデフォルトする】 ただし、現在のギリシアのユーロ建ての債務(約80兆円とGDPの2 倍)は、1/3に安くなったドラクマにとって3倍の重みになるので、 返済と利払いはますます無理になります。 以上から、ギリシアのユーロ離脱とは、欧州の銀行が、対ギリシア への債権をカットせねばならないことを意味するのです。ドイツ国 民は、金融資産のうち、40兆円(50%)くらいは「実質的に」失う ことになるでしょう。 実質的にということの意味は、ECBのユーロ増刷分を、損失を蒙っ たドイツの金融機関に、低い金利で与えねばならないからです。 (注)日本のバブル崩壊の後、政府・日銀は、ゼロ金利策をとりま した。これは預金者がもつ800兆円の預金の金利が、ほぼゼロに下 がったということです。損失を蒙っていた銀行は、預金金利の支払 いがないという特典を受けています。 2%が普通の預金金利とすれば、1998年のゼロ金利以降の14年間で、 [800兆円×2%×14年=224兆円]の所得移転分が、預金者から銀 行に与えられたことになります。日本の銀行は14年間のゼロ金利、 つまり世帯が受け取るべき金利所得の移転の特典で、回復したので す。 ゼロ金利で損をしたのは、預金者(特に純預金をもつ50歳以上の世 帯)であり、国民です。銀行が、不良債権の特別損失を引いた申告 所得(税務上の利益)で、プラスを出して納税するようになったの は、やっと2012年からです。 ドイツ国民が、ギリシアのユーロ離脱で蒙る金融資産の損は、以上 のような構造からのものです。 ▼スペインのユーロ離脱 GREXIT(グレクジット:ギリシアのユーロ離脱)は、将来の可能性 ではない。近々の、現実になりつつあります。 もちろん、EU(欧州経済連合)は、ギリシアの統一通貨からの離脱 は、債務超過国のスペインやイタリアにまで波及するので、ギリシ アの離脱は、なんとしても避けたいという姿勢を続け、マネーを貸 し続けます。 EU(欧州経済連合)も、ギリシアだけだったら、「ユーロ離脱」と いう結論を出したはずです。40兆円程度の債務カットなら、EUにと って、堪えられる金額だからです。 【問題】 ●問題は、ギリシアに続くスペインです。本稿で数値分析したよう に、スペインが、対外債務188兆円に対し、自力で利払いし返済で きる可能性はない。その188兆円を含む、国内の総債務400兆円も同 じです。 結果は、いずれデフォルトするということです。というより、現在 はすでに、ECB(欧州中央銀行)から、マドリッドの中央銀行への 追い貸しがないと、金利も払えない。 「事実上、デフォルト」しています。ECBの仕組みは、加盟17ヵ国 の中央銀行支店に、本店(フランクフルト)からマネーを振り込む ものです。各国の支店は、ユーロの印刷はできません。 スペインの年間GDPは、債務の1/4の100兆円くらいしかありません。 しかも今後、当面、毎年数%ずつ減少する見込みです。 2012年には、スペインが自国の国債を発行しても、買い手がない。 国債が発行できないということは、政府にもお金がないということ です。これが、国債金利の上昇が意味することです。 こうした状況であってもスペイン債の金利上昇が7%程度で止まっ ているのは、スペイン政府の新規国債の発行がないからです。その 分、ECBが貸付をし、スペイン債を買っています。 (注)欧州では、これどころか、銀行間の短期資金の融通が、スト ップしています。ECB本店(フランクフルト)が一手に引き受け、 不足資金を供給しています。 【時間とともに増えるのが負債】 ●こうした債務問題は、時間が経てば、借金が軽くなって解決する ものではありません。時間とともに、支払うべき金利が増えます。 払えない金利分は、新たに借りることしかない。債務は、毎月膨ら んで行きます。つまり返済ができない債務危機は、毎月、深まるの です。 高い金利のサラ金に利払と返済をしないと、金利が金利を生んで、 負債額が、毎月、転がる雪だるまのように増えるのと、国家の債務 も同じです。時間が経てば経つほど、利払いと返済が、一層不可能 になってゆくのが借金です。 結論を言えば、ギリシアのユーロ離脱があると、その直後には、ス ペインもユーロを離脱せざるを得なくなります。その結果は、欧州 の銀行にとっては、おそらく200兆円規模(スペインのGDPの2倍) の債務カット、つまり損失です。イタリアの債務(総額400兆円) のデフォルトが加われば、ユーロの全面崩壊になります。 ■6.ユーロ共同債の発行という方法はない EU(欧州経済連合)では、「ユーロ共同債」の発行も俎上に上がっ ては、ドイツの反対で、消えています。ユーロ共同債の目的は、そ れを作って、政府が資金をもつ中国と、500兆円を超える対外資産 が巨大な日本に売ることです。つまり、中国と日本のマネーをユー ロに集めることです。 共同債は、資金難の企業と、財務が健全な企業が合併し、共同で社 債を発行し、それを売り、倒産寸前の企業に必要な資金を与えるこ とです。(注)債務の返済と利払いができないことが倒産です。 共同債ではPIIGS債に連帯保証を負うことになるドイツが、ギリシ ア、スペイン、そしてイタリアの債務を肩代わりすることと同じで す。 ドイツは、ここまで行うでしょうか。メルケル首相が合意を迫られ ても、国民の世論の意をうけて動くドイツ議会は、拒否するでしょ う。つまり、共同債の発行はできない。 共同債の発行で、ドイツがギリシア、スペイン、そしてイタリアの 債務(総額では400兆円)を肩代わりすれば、ユーロは守れるでし ょう。 しかしその代償で、ドイツは、国民の金融資産400兆円を失います。 これに対し、国民が黙っていることは、絶対にない。政府に不信任 を突きつけるでしょう。ということは、この政策は採れないという ことです。 ■7.じゃ、どうなるか 共同債の発行がドイツの反対でできないとなると、 残される方法は、 (1)ギリシアとスペインのユーロ離脱と、 (2)続くイタリアに対しては、ECBによるユーロの増刷です。 ギリシアとスペインのユーロ離脱は、両国の対外債務200兆円規模 が、デフォルトし、英国を含む欧州の銀行の損失、米銀の損失にな ることです。欧州の全銀行の自己資本は、100兆円程度しかありま せん。 ここに200兆円の損失が生じると、欧州と米国の銀行は債務超過に なり、資産・負債の清算をしなければならなくなります。これは、 ユーロと世界に、リーマン・ショックの2倍の信用恐慌を生みます。 これを避けるためは、ECBが、不足する200兆円の資本を、印刷マ ネーで拠出すること、つまり国有化になるでしょう。ちょうど東電 のようなものです。ユーロは、60円水準に暴落することになる。 ▼最後の貸し手BIS 実態では、BIS(国際決済銀行)がその資本を出すこと、つまり、 欧州のほぼ全銀行の、BISによる買収になるかも知れません。 これは、BISがECBを通じて、一時国有化された長期信用銀行を買収 したリップルウッドと外銀のような「ハゲタカ・ファンド」になる ことです。 リップルウッドは、この長銀に、日本政府が不足していた7兆9000 億円の公的資金(資本)を投入したあと、7兆円のお土産(みや げ)をもらって、買収したのです(2000年)。長銀は、現在は新生 銀行になっています。リップルウッドは、株の再上場の利益を得て います。 長銀の買収に似たプロセスをとって、最後に笑うのは、世界の最後 の貸し手、つまり「各国中央銀行の上の中央銀行」であると自称す る私的な資本のBISでしょう。BISは、保有する金を、傘下の中央銀 行に貸し付けています。 最近、ユーロ17ヵ国を、米国より大きなお得意様とする中国の輸出 BISの資本は、前号(有料版598号)で述べたように、その資本では、 米国の民間3銀行が支配しています。(JPモルガン、ファースト・ ナショナル・バンク・オブNY、ファースト・ナショナル・バンク・ オブ・シカゴ・・・この三行の資本は・・・として首魁を遡れま す) 資本家の3行にとって、表面では損をし、最終的に儲ける一世一代 の勝負が、ユーロの債務問題だったようにも思えます。 本稿は、金融市場の認識を、時間軸では数歩進めて、書いています。 3年という、悠長な期間ではない。1年6ヶ月でしょう。金融市場の 認識が早ければ、2012年内でしょう。 銀行の決算に合わせ、四半期(3月、6月、9月、12月)に、事件が 起こりながら・・・ 【後記:ユーロ崩壊と日本の輸出】 日本にとっては、米国住宅ローンのデフォルトが原因だったリーマ ン・ショック(08年9月~)の、約2倍の規模の、金融・経済的なシ ョックが襲うということです。 が急減しています。その中国への輸出が、対米より多いのが日本で す。 2011年では、日本の対中輸出は13兆円、対米は10兆円です。対中輸 出品の主なものは、中国の内需用ではなく、中国で組み立て欧米に 輸出する三角貿易用です。 このため、中国の欧州への輸出の減少は、日本からの中国輸出の減 少を意味します。中国にある日本の工場から欧州に輸出しても、国 別になるGDP計算では、中国の輸出として勘定されています。 * 前FRB議長のグリーンスパンが書いた『ゴールドと経済的自由: GOLD and ECONOMIC FREEDOM』を翻訳し、解釈しようかと思ってい ます。欧州中央銀行やFRB、そして日銀が、マネーを大量印刷する ことの意味は、どういったものかを考えるためです。 私的な資本の中央銀行(BISと米国FRBは、政府ではなく私的資本で す)による紙幣印刷で、狙われることが分かるからです。本人がド ルを印刷する側に立ったとき、グリーンスパンは、自分が書いた過 去のマネーへの論考をどう考えていたのか? 金と交換できない紙幣を使うことは、経済的な自由でなく、政府・ 中央銀行に、その価値をコントロールされることだと述べているの です。 (注)ホームページには、無料版のバックナンバーを掲載しています。 http://www.cool-knowledge.com/ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述の際、より的確に書くための参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは、記事に反映させるよう努め ています。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ■1.有料版は、新規に登録すると、『無料で読めるお試しセッ ト』が1ヶ月分送信されます。 有料版では、新規に月中のいつ申し込んでも、その月の既発行分は、 全部を読むことができます。最初の1ヶ月間分は、無料お試しセッ 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