特別号:ユーロ危機の第二幕は、スペインのデフォルト(2)
Written by admin on 2012年5月14日 – 08:00
前号は、ヘッジ・ファンドの買い超と日銀の買い支えが、価格を支 配してきた2012年のわが国株式市場ついて、書きました。 ●3月末からの下げは、 ・オフショアからの外人売り(ヘッジ・ファンド)と、 ・証券会社の自己売買の売りによるものです。 目的は、1月から買って上げてきた株を売って、利益確定すること です。 1日に1兆円から1兆5000億円という薄商いが続いているため、日々 の売買額の60~70%を占めている外人ファンドの意向によって、市 場全体が騰落します。 外人グループが売買を増やしたというより、日本の個人・金融機 関・事業法人が株の売買から離れています。 時価総額250~300兆円の市場(東証1部の時価総額は270兆円:次期 純益に対する予想PER 15.7倍:12.05.07)で、一部の人に操作さ れにくい価格がつくには、1日で3兆円の売買が必要に思えます。 国内からの売買額が少ない理由は、はっきりしています。08年9月 以降(リーマン・ショックの後)の下げで、損をしている人が多い からです。 07年の時価総額(=株主の株資産)は、550~600兆円付近でした。 09年1月には250兆円と、半分以下に下げています。12年5月は、 270兆円でしかない。 【5年で300兆円の損】 このため、株主(個人投資家700万人、官民の金融機関、年金基金、 事業法人)は、最近の5年で、合計300兆円も損をしています。日本 経済が、浮上できない理由でもあります。 株主の資産から、この5年で300兆円もが抜けています。1億円の株 資産があった人が、4500万円に減っていると言えば、分かるでしょ うか。1990年からのバブル崩壊に似ているのです。 この巨大損を見れば、証券会社と日経新聞が躍起になって、好材料 を探して強調し、買いを囃(はや)し立てても、買い進めるわけも ないことが、分かるでしょう。 株価で言えば、わが国の下落は「準恐慌」のレベルです。恐慌にな らず、よく留まっていると言えます。恐慌は、損の拡大を恐れて、 市場に心理的なパニックが起こり、株と債券が先を争って売られ、 金融資産が縮小することから発生します。 【PERで見る株価の水準は高い】 企業純益に対する株価を示すPER(株価÷1株当たり純益)において、 15倍という水準(東証1部)は、国際的に、低くはありません。む しろ、企業純益の低下の割にはよく買われていて、高いグループで す。 主要国を示すと、米国の税後PERは15.6倍、ドイツ12.5倍、英国 10.4倍、中国8.3倍です(12年4月末:FT紙)。 【上場企業の企業純益の合計が、半分に減っている】 以上が示すのは、日本企業の合計純益(税後利益)が、この5年、 半分くらいに落ち込んだままであるということです。 2284社の上場会社(1部・2部・ジャスダック)の合計で、17兆円程 度でしかない。政府部門の収入になる法人税もほぼ半分に減ってい ます。わが国の合計純益では、30兆円が必要でしょう。 上場企業の企業純益の合計が増える見込みにならないと、平均株価 は上がりません。株価は、ほぼ半年先の企業純益についての、「予 想の上下」に比例するからです。 この17兆円の純益は、黒字企業の合計です。4500億円の赤字のソ ニーや、7700億円の赤字のパナソニックは入っていません(12年3 月期)。PERが計算できない赤字企業は、除外されているからです。 (注)黒字の上場企業の合計純益は、日経新聞が毎日示す〔時価総 額÷PER〕で、計算できます。 * 本稿は、前号でお約束していた、第二部です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol 275:ユーロ危機の第二幕は、 スペインのデフォルト(2)> 【目次】 〔第一部〕 1.20%上げ、10%下げた日本の株価 2.3月3週のピークアウトから、10%下げの時期 3.株式市場と金融市場は、フェアな効率的市場ではない 〔第二部〕 4.ユーロ危機の第二幕とその展開 5.スペインは、金利6%の利払いを行うことができない 6.2012年3月のギリシアの例 7.負債327兆円のスペインのデフォルトの帰結は、ユーロ暴落 8.ECBによる、スペインへの貸付けは想定できるが、破産は同じ 9.イタリアもスペインに類似し、スペインを追う ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■4.ユーロ危機の第二幕とその展開 PIIGS債の危機の先頭に立っていたギリシア債は、現在でも長期金 利は25%という高さです。 ただしPIIGS債の3月危機は、 (1)ECBのマネー供給(昨年12月と12年2月の合計で100兆円規模) と、 (2)ギリシア債の債務カット(ヘアカット:約70%)によって、 回避されたと見られていました(12年3月)。 その後に、浮上したのがスペイン債とイタリア債の危機です(金利 の、再びの高騰)。つまり、スペイン債とイタリア債の売りです。 (注)下落リスクが大きいため、もともと市場での買い手が減って いるPIIGS国債(総計は400兆円くらい)は、少しでも売り超になる と国債価格が下がり(金利は上がって)、ユーロ危機になります。 ▼スペインを例に言います。(イタリアも似ていますが・・・) スペインの国債残(公的債務とも言う)は、GDP($1.4兆:112兆 円)に対し68.5%の77兆円です。 GDP($3400億:27兆円)の150%の国債(40兆円:11年末)を抱え るギリシアより少ない。 (補注)ギリシア国債の問題のひとつは、その77%の持ち手が、国 外の金融機関だったことです。 ユーロと米国の金融機関は、ユーロであるため為替リスクがないの に金利が高いギリシア債を、好んで買っていたのです。しかも、ギ リシア国債の残高は40兆円しかなく売買市場も小さいので、少数の プレヤーが、少ない資金で相場を動かすことができたのです。 ユーロ高のため、ギリシアは、財政赤字を続け、高い公務員報酬と、 現役時代の90%の所得になる年金を払うことができていました。統 一通貨のユーロに属しているということが、ギリシアに財政赤字を 続けさせたと言っていいのです。 ギリシアが固有通貨のドラクマなら通貨が下がって、ユーロ建ての ようにはギリシア債は売れず、政府の財政赤字にもブレーキがかか っていたでしょう。ギリシアはユーロに属したため、財政破産した と言っていいのです。 ギリシアをユーロに入れたことは、EU(欧州経済連合)の誤りだっ たのです。しかし、この誤りは、PIIGS 5ヵ国に共通したことです。 各国の税制と経済を統一しないままのユーロという仕組みそのもの が、歴史上の誤謬でした。 EUは、これを認めたくない。このため、外部に向かっては、いつも、 南欧債の損失見積もりでは「粉飾(ドレッシング)の発表」をして います。 ▼スペインの問題は、国債より民間債務(GDP比220%) ●スペインの問題は、民間法人と世帯の債務が、GDP(112兆円)の 2.2倍(250兆円)もあることです。 大半は、国外の金融機関からの借金です。国債と合わせれば、GDP 比で2.9倍(327兆円)の負債です。(注)1ユーロ=105円換算 スペインも、高い通貨ユーロに属したことで、ドイツ債より金利は 高くても、金融機関がユーロを信用し、買っていました。 このため政府・事業法人・世帯の合計で、国民所得の2.9倍もの負 債を抱える結果を生みました。住宅も、1990後期のユーロ前に比べ、 ユーロが高くなったこともあって、3倍には上がっていました。 (注)08年9月のリーマン・ショク前は、財政赤字と貿易赤字のド ルと対照されたユーロの幻想的な黄金期であり、1ユーロは円では 170円付近でした(現在の1.6倍)。通貨高は、その国の通貨と国 債が、買い超になることです。買い超になった国には、マネーが集 まるのです。 借金は増やせる間は、仕合わせです(信用の拡大)。 企業も世帯も、働いて儲ける以上のお金が使えます。 ところが返済と利払いが上回る時期になると、突然、苦しくなる。 所得から、利払いと償還金を、支出せねばならないからです。金利 の高騰は、新規の借金が、困難になっていることを示します。 所得の10%を、毎年借り増しができる時期と、10%を返済せねばな らない時期には、20%も差が生じます。しかもPIIGS債のように、 返済を迫られる時期は、例外なく、信用不安で金利が上がっていま す。 信用不安とは、大きくなった財政赤字のために必要な、新規債が売 れなくなることです。このため、「利払いも返済もできなくなる」。 (注)昨年来、PIIGS5ヵ国は、市場からの十分な借金ができないた め、ECB(欧州中央銀行)は、スペインの銀行に対し2280億ユーロ (24兆円)の貸し付けをしています。イタリアの銀行に対しては、 2700億ユーロ(28兆円)です。スペインは、市場で社債が売れず、 銀行も貸さない東電のようになっているのです。 以上のため、スペイン債、イタリア債、ポルトガル債が、市場で売 れる(金利が下がる)と「ニュース」になるのです。 ■5.スペインは、金利6%の利払いを行うことができない スペイン国債の長期金利は、ほぼ6%です。国債の金利は、その国 でもっとも低いものです。民間(企業と世帯)の長期債務(250兆 円)の金利は、おそらく8%以上でしょう。 (1)政府による国債の金利払い=77兆円×6%=4.6兆円/年です。 (2)民間債務の金利払い=250兆円×8%=20兆円です。 合計では、25兆円もの利払いになります。 GDPが112兆円ですから、[利払い25兆円÷112兆円=22%]です。 国内総生産(GDP)の22%が、利払いに消えます。(注)長期の財 政を言っています。 国内総生産は、所得面では企業所得と世帯所得(国民所得)です。 この所得の22%も、利払いができるでしょうか。 世帯で言えば500万円の年収の人が、110万円の金利払いをせねばな らない。サラ金で借りたようなものです。これが、スペインの、平 均的な家庭の家計です。民間負債がGDPの2.2倍ということの、金 利面での意味がこれです。 借り手が、金利を払えない借金は、貸し手の金融機関(ユーロで主 要19銀行)にとって不良債権になります。このため、スペインとと もにドイツ・フランスの金融機関が破産するのです。 ▼不良債権は公称の2~3倍はある スペインを含むPIIGSの不良債権は、EU当局や南欧諸国が公表する 金額の、2~3倍はあると見ておいて間違いありません。現在は、 ECB(欧州中央銀行)が利払いのために、「必要な金額の追い貸 し」をしていますから、事実上の不良債券も、公称では不良ではな いとされています。不良債権の確定は、債券がデフォルト(支払い 不能)になるまで、不明なのです。 スペインは、ユーロに属するため、自国通貨(ペセタ)は発行でき ません。フランクフルトにあるECB(内実はドイツ中央銀行)から、 ユーロを借りるしかない。フランスの銀行は貸す余力がないからで す。 ▼ユーロの銀行の自己資本比率の低さ ユーロ地域の全銀行の自己資本は、リスク資産の、わずか4%しか ありません(Finacial Times紙:12.04.25)。 不良債権の発生に対し、脆弱(ぜいじゃく)なのがドイツ、フラン スを含むユーロの銀行です。このため、スペイン債のデフォルトだ けでも、支えることができない。 参考のために言えば、英国の銀行の自己資本は5%、米国の銀行は 6.6%で、国債を除いたリスク資産のレバレッジ倍率が15倍です。 米欧の全部を合わせても、自己資本は200兆円しかない。 (注)日本の銀行の自己資本が、約100円です。 (注)スペインの内情が明らかになるにつれて、ユーロは売られ、 円とドルは、ユーロに対し上がるでしょう。その前に、ECBが資金 を供給し、必死に、粉飾しますが、さすがにあと100兆円ものユー ロは印刷できません。 ▼結論 以上の意味は、ギリシアについでスペインも政府、民間が同時に、 破産しているということです。もし名目GDPが469兆円の日本が、そ の22%(103兆円)の利払いが必要となると、払えずに破産です。 スペインにとって、これと同じ重みです。 日本は、長期金利が0.88%と1%以下であるため、政府負債が 1000兆円でも助かっています。 市場で、新規債50兆円、借換え債150兆円の国債が売れにくくなっ て、3%の長期金利に上がると、日本政府も、即刻、財政破産しま す。イタリアを追うと見ていいのが、日本の国債と見ています。 (注)金融市場の(共同幻想による)認識は、まだ、「スペイン破 産」ではありません。 ■6.2012年3月のギリシアの例 利払いができないと、デフォルトです。 EU(欧州経済連合)は、負債額が小さなギリシア(経済的には九州 の半分)に対しては、ほぼ70%の債務カット(ヘアカット)を行う ことができました。 40兆円の国債残のうち、70%(28兆円)がカットされたのです (2012年3月~4月)。この28兆円は、ギリシア債をもっていた欧州 金融機関や政府の損失です。ギリシア国債の77%は、海外の金融機 関がもっていたのです。 (注)報道では、民間金融機関がもつギリシア国債は1770億ユーロ (18.6兆円)です。このうち、70%がカットされたので、民間分 で13兆円のヘアカットになります。当然に、政府部門(中央銀行+ 政府)がもつギリシア債も、事実上のカットです。総額では、28兆 円がカットされたと見ていいでしょう。 ●このヘアカットで、13兆円の損を被ったユーロの民間金融機関 (主要19行)に対しては、決済に不足する資金があれば、ECB(欧 州中央銀行)が、いくらでも無制限に、3年間の期限で、ほぼゼロ 金利で貸し付けると宣言しています。このマネーで、銀行の破産が 救われています。 70%をヘアカットしても、ギリシアの債務は30%の12兆円が残って います。市場はギリシア債を買わず、金利は25%に高騰しています。 財政赤字はGDPの9.1%(2兆円)と大きい。 ▼金利25%の利払いも不能 ギリシア政府の利払いは、70%の債務カットで12兆円の国債残に減 っても、金利が25%ですから(サラ金以上の高金利)、必要利払い 額は、3兆円もあります。GDPが27兆円ですから、利払い率は、国民 所得に対し、10%を超えます。 付加価値税(VAT)の10%分が、海外金融機関への利払いになると 言えば、ギリシアは、また破産状態であることが分かるでしょう。 日本で言えば、消費税10%分(25兆円)が、海外への利払いに消え る、国債金利3%と同じです。 ■7.負債327兆円のスペインのデフォルトの帰結は、ユーロ暴落 ギリシアと同様、今後は、スペインに対しても、負債(327兆円) の70%水準のヘアカットが必要になるでしょう。(注)例によって、 毎月「小出し」にされます。 ただし、今度は、カット想定の金額が229兆円(327兆円の70%)と 巨大です。スペイン政府・企業・世帯に債権をもっているユーロの 銀行はドイツ、フランスを含み、全部が、同時破産します。 そのときは、またECBが229兆円のユーロ札を刷るのか? とてもム リです。 ▼リーマンッショクの2倍か 机上論ではユーロ札を刷ることは可能ですが、これを行えば、ユー ロは暴落し、1ユーロ=60円以下でしょう。 ◎このユーロ暴落は、ユーロ債(ドイツ債以下、ユーロ17ヵ国の国 債・証券・株)をもつ、世界の金融の破産も意味します。その損の 規模は、08年9月の、米国発金融危機の2倍でしょうか。 ユーロ17ヵ国の経済規模は、米国(GDPで$14兆:日本の2.4倍) と同じくらいですが、ユーロが暴落すれば、世界がたぶん500兆円 規模の損害を受けるからです。 ギリシア債に次いで、スペイン債のヘアカット(債務カット)を行 わないとどうなるか。 上記の計算のように利払いと元本償還が不能ですから、必然的にデ フォルトになります。デフォルトの結果は、スペインに対する債権 の価値の暴落(30%付近に下がること)ですから、70%のヘアカッ トと同じような結果が生じます。 ●いずれにせよ、最長でも2012年内の、スペインのデフォルトは確 実と見ます。これによってユーロは、壊滅するでしょう。 大胆な近未来予測であることは承知していますが、金額で分析すれ ば、必然です。いくつかの仮定を置けば、報道されている数字だけ で、簡単に想定計算できることなのに、世界でこれを行っていない のが驚きです。 ■8.ECBによる、スペインへの貸付けは想定できるが、破産は同じ ▼借金の償還金、65兆円/年 ECB(欧州中央銀行)は、スペインに対し、利払い資金(1年25兆 円)を貸し付けることになります。密かに、元本償還も猶予(モラ トリアムと言う)するかも知れません。 負債は、327兆円です。平均の満期を5年とすれば、1年の償還必要 金は[327÷5年=65兆円]です。スペインの政府・民間法人・世帯 は、いずれもこの償還もできないからです。 ECBが、償還金も貸し付けなければならない。金利と合計で、[25 兆円+65兆円=90兆円/年]です。こうすれば、スペインのデフォ ルトは避けることができます。 ▼貸付金の増加=スペインの負債の増加 ところがこの90兆円は、スペインへの貸付けの増加です。償還で減 るのが65兆円ですから、利払いの分25兆円が増えます。 加えて新らしい財政赤字(GDPの8.5%:9.5兆円)分の、国債新 発が必要です。 【1年に34.5兆円の、スペインの負債が増える】 合計で、1年の負債増加は25兆円+9.5兆円=34.5兆円です。 GDP(112兆円)に対し、31%もの負債が1年に増えて行きます。こ れも、不可能なことです。 ▼結論 結論を言います。 ◎最長でも2012年中に、327兆円の負債の、スペインのデフォルト が、ほぼ完全と言える確率で起こるでしょう。 ユーロから切り離しても、スペインの通貨(統一前はペセタ)に戻 れば、そのペセタが、まともな価格がつかないくらい暴落します。 結果は同じことになります。 スペインのデフォルトに、自己資本が少ないユーロの金融機関と ECBは、堪えられません。 ▼CDSによる、保険金詐欺風のこと CDS(保証保険)で言えば、PIIGS国債(約400兆円)のうち100兆円 分の債務を、保険料をもらって、回収保証しているのは米国の銀行 です。このためスペインのデフォルトは、米銀にも一蓮托生の結果 をもたらします。 CDS(保証保険)は、デフォルトがなければ、保険料が丸取りでき、 銀行の利益になる「おいしいもの」です。自行に損が出る見込みの ときも、どんどんCDSを引きうければ、利益は作ることができます。 100兆円のCDSを、保険料率2%で引き受けると、受け取る年間保険 料は2兆円(純益)です。 破産確率が上がってCDSの料率が5%に上がると、CDSの流通価格は 2%のときの2.5倍(5兆円)になります。他方では、対象となった 証券(スペインやイタリア債等)が破産したときは100兆円を払う 義務が生じます。 ただし、銀行にデフォルト可能性があるなら、ギリシア債のように、 中央銀行が面倒をみてくれる。このため、デフォルトは、なきもの になる。 そうなると「やり放題」です。3ヶ月決算で見かけ上の利益が上が るから、幹部報酬は10億円を超えるものにすることができる・・・ これが米国の銀行の10年だったのです。 つまりモラル・ハザード(金融倫理の障害)の極だった。CDSを安 いとき買った銀行は、裏で、その国債に空売りや先物売りを仕掛け て、金利を上げる。金利上昇に比例して、CDSの料率が上がります。 保証された国債がデフォルトしたとき、債券額面の満額を受け取れ るCDSの市場価値が上がり、利益が出るのです。 保証料2%のときのCDSが、スペインやイタリア債のように保証料5 %に上がれば、債券額面の2.5%の利益が出ます。2兆円だった CDSの流通価格が5兆円に上がります。(注)第三者に生命保険をか け、死に至る毒を盛るようなことです。 ウォール街で、デモが起こった理由がこれです。金融機関に破産が 起これば、08年9月以降、結局は国民の負担でその損失を埋めてき たからです(総額は500兆円規模)。東電の原発事故が、補償金や 電気料の上げとして国民負担になっていることと同じです。 ギリシア、スペインは、財政の緊縮(政府支出を減らすこと+増 税)によって、債務危機から脱出できるとされていました。 これが12年3月のEU当局の見解でした。ところが、本稿で計算した ように、ギリシア、スペインは、2011年で、すでに、財政の緊縮に よる回復では追いつかないくらいのものだったのです。 デフォルトの可能性が高くなると、国債と債券の価格は下がって、 金利は上がります。この金利高騰が、ギリシア、スペインをデフォ ルトに誘います。 「返せない借金は、どうやっても、返済はできない。銀行は、勝手 に、市場で債券を買ったのだから。」というのが、ギリシアやスペ インのホンネでの言い分かも知れません。 明治政府は、「国内はどんなに苦しくとも、対外債務は100%返済 し、利払いする」ことを守ったのです。これが、現在まで続く日本 人の誇りだったのでしょう。ロシアなどは、二回もデフォルトして います。 ■9.イタリアもスペインに類似し、スペインを追う (1)政府債務: イタリアの政府債務は、GDP(1.5兆ユーロ:157兆円)の119%で す。金額では[157兆円×1.19倍=186兆円]です。 長期金利は、スペインと同じ水準の6%付近です。利払いは、186兆 円×6%=11兆円の大きさになります。GDPに対しては、7%です。 付加価値税の7%分が全部、利払いになります。(注)金利の高騰 は、2010年以降ですから、あと1年も経つと、11兆円に近くなりま す。 (2)民間債務: 民間(企業・世帯)の債務は、GDPの120%(188兆円)です。この 利払いも[188兆円×8%=15兆円]はあるでしょう。合計で26兆円 の利払いであり、イタリアGDP(157兆円)の16.5%に相当します。 この金利も払えないことが確実です。スペインと同じ結果です。 政府予算を減らし、増税をする緊縮財政と言っても、どれくらいの 政府赤字を減らせるのか? 赤字を減らす額より、上がった金利払 いの増加の速度が速いからです。 本稿の、簡単な計算からも、スペインとイタリアの金利が下がる (=市場でスペイン債とイタリア債が今より高く買われる)可能性 がないことがわかるでしょう。ECBは、一時的に誤魔化(ごまか) すため貸付けはするでしょうが・・・ イタリアとスペインが同時破産すれば、対策はない。ユーロを離脱 し、その中央銀行がリラ、ペセタを増刷して暴落し、ユーロ建ての 債務は払えず、デフォルトにするしか方法はない。このとき、フラ ンス、ドイツの銀行も同時破産します。 デフォルトも、個人の、法的な自己破産と同じく、次の時代に向か う方法です。ロシアは2回、デフォルトしています。これでロシア が消えたわけではない。 ■10.EUとスペイン、イタリアは、以上のことを小出しにする 本稿で示したことは、ギリシアに続くPIIGSで、今後不良化する南 欧国債(政府債務)と、民間債務(企業と世帯の債務)の根拠計算 です。 今後のニュースを見て解釈するために、以下のことを申し添えてお きます。 (1)不良債権は線引きが難しい。例えば、ECB(欧州中央銀行)が、 実際は不良化した国債や債券に対し、利払いや返済のための「追い 貸し」をすれば、「不良債権ではない」とされます。企業でも、追 い貸しを受けるなら、返済と利払いはできるからです。 ◎EU当局は、当然に、ユーロの崩壊を避けたい。このため、本稿で 試算した不良債権の金額は、毎月(または4半期毎に)小出しにさ れます。 その都度、「ECBが、金融機関に対し***億ユーロの資金供給」 というニュースになるはずです。当然に、IMFの資金も借りて使い ます。日銀と米国FRBも、ドル資金を貸し付けるでしょう。 ◎ギリシア国債のヘアカット(不良率70%とされた)の事例に見る ように、PIIGS債の不良の確定額は、ECB(欧州中央銀行)が、金融機 関に対して供給することが可能な資金が決定した後に示されます。 【事例】 日本のバブル崩壊(不動産と株価の下落)は1992年にはじまりまし た。最初、住専の6000億円が不良債権として騒がれただけでした。 その後、大蔵省の調査で、1995年8月に、住専の貸付金のうち50% (6.4兆円)が不良化しているとされました。 ここまでに、まず3年かかっています。そして、100兆円(公称)の 不良債権で、金融危機に至ったのが1998年です。1992年から6年か かっています。(注)実際の日本の不良債権は、当方の試算では 200兆円でした。 不良債権は、住宅価格の下落と株価の下落のときに発生しているの ですが、それが、公けに明らかになるには、数年から(最長で)6 年の年数がかかると見ておいていいでしょう。 最初は、不良であっても不良債債権とはされない。金融機関が、不 良債権の認定を、必ず先送りするためでもあります。 【日本のバブル崩壊期と違い、CDSがかった債務】 加えて、CDS(国債や債権の回収保険)がかかったものは、不良債 権とはされないという事情もあります。PIIGS債のどれにCDSがかか っているかは、不明です。(注)ギリシア債のヘアカット(債務カ ット)のときEUが「秩序あるデフォルト」という妙な言葉を使った 理由は、CDSの発動が、どの銀行の破産になるか、不明だったから です。 CDSは、債権・債務の保有に無関係な金融機関もかけて、金融機関 の間だけの密室で、売買されています。公開市場がないので、OTC (店頭売買)と言いますが、世界で$32兆(2560兆円)の債権・債 務に対し、CDSがかかっています(2011年6月:BIS)。 http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf PIIGS債の関連のCDSで分かっていることは、米国の銀行がPIIGS債 のうち、100兆円の債権の回収を保証していることです(報道)。 CDSは、連帯保証と同じです。米銀が、100兆円分の不良債権を抱え ていると言っていいのです。 PIIGS債は、発行元(南欧の政府)が利払いと元本償還ができない 可能性が高い。サラ金を借りた人の債務に対し、ゴールドマンや JPモルガンスタンレー等の米銀が2~4兆円くらいの保険料をもらい、 連帯保証をしていると推定すれば、この事情がわかるでしょうか。 【4年経った・・・】 欧州不動産価格の下落と、PIIGS債の不良化がはじまったのは、08 年からです。現在は2012年5月です。ほぼ4年経っていて、5年目に 入ります。このため2012年~2013年に、PIIGS債の不良化が、いよ いよ露呈すると見ます。 PIIGS債の不良債権部分が増えているからです。イタリアの次に、 フランスも危うい。大丈夫なのは、ドイツだけでしょう。金融機関 はユーロ債を売って、スイスフラン債に変えておくことをお奨めし ます。 Finacial Times紙や英エコノミスト誌では、「ギリシアのユーロリ 離脱は、どんな結果を生むか」との論説が、2012年4月から登場す るようになっています。 【後記:再録】 ホームページでは、3月9日の、金融・経済講演を、レジュメ全ペー ジと、音声(150分)とともに、公開しています。以下で、どなた でも、ご覧になることができます。金融・経済の基礎的なことから 分かると思います。 http://www.cool-knowledge.com/ 本稿の元は、5月9日の有料版の正刊として、送ったものです。米国 の投資銀行は、2008年9月以降、政府からの支援資金を受けるため、 銀行に改組しています。 米英の銀行とヘッジ・ファンドの企業文化と行動様式は、幹部の内 部告発にも見られたように、顧客の利益無視とモラル・ハザードを 引きおこしています。 自己売買を禁じる「ボルカー・ルール」の規制の延期ではなく、で きる限り早期の適用を、希望しています。個人が損をすることが多 い「談合相場」でなくするためです。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述の際、より的確に書くための参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは、記事に反映させるよう努め ています。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ■1.有料版は、新規に登録すると、『無料で読めるお試しセッ ト』が1ヶ月分送信されます。 有料版では、新規に月中のいつ申し込んでも、その月の既発行分は、 全部を読むことができます。最初の1ヶ月間分は、無料お試しセッ トです。その後の解除は自由です。継続した場合に、2ヶ月目の分 から、課金されます。 (1)『会員登録』で支払い方法とパスワードをきめた後、 (2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、 (3)その後、『購読マガジンの登録』という3段階の手順です。 【有料版の最近号の目次】 <592号:株価と債券価格と、実体経済> 2012年5月2日号 【目次】 1.ファイナンス理論から見た株価 2.実際の株価 3.通貨の要素 4.国債と社債の価格 5.マネタイゼーション 6.国債の「リスク資産化」があると・・・ 7.米ドルの特殊性 8.日本国債はまだ、リスク証券化したとは見なされてはいない 9.日銀の、資産買入れ枠(4月27日に70兆円に増枠)での国債 買いとはいうが、その実態は・・・ 10.転換点はいつ来るか? 【↓会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■「有料版を解約していないのに月初から届かなくなった。」との 問い合わせが、当方にも多いのですが、そのほとんどの原因は、登 録していたクレジットカードの「有効期限切れ」です。以下のペー ジを開き、新しい期限を登録すると、その月の届かなかった分を含 んで再送されます。 https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do なお、有料版と無料版メルマガの、購読方法の電話での問い合わせ は、以下です。 075-253-1244 (平日 午前10時~午後5時まで) ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 のバックナンバー・配信停止はこちら ⇒ http://archive.mag2.com/0000048497/index.html |