特別号:大きく変化した国債の売買市場(1)
This is my site Written by admin on 2012年4月9日 – 15:50
こんにちは、吉田繁治です。やっと桜も開花し、新年度らしい風景
が、あちこちに見えます。花見に出る人が、今年はいつもより多い
ように感じます。日本を含む世界での大きな自然災害の多さは、
2000年代は1990年代のほぼ2倍に高まっています。理由は分からな
い。花を愛(め)でる人の多さに、こうしたことが影響しているの
か。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/111226/dst11122608120000-n1.htm

(1)本稿は、特別号として、2012年3月21日の有料版を、20日遅れ
ですが、2回に分けて、送ります。

2011年秋冬と、2012年1月~3月にかけて、円の国債と日本株に対す
る、外人ヘッジファンドの「買い越し」が増えているのです。この
円国債の買い越しが、2011年秋冬の円高の原因でした。

そして、2012年1月中旬の日銀の「インフレターゲット1%」、つま
り、日銀による10兆円増枠された65兆円枠での「資産買い受け基
金」が、おなじく外人ヘッジファンドの日本株の、3月までの買い
越しを呼んでいました。日銀の、株価維持を目的とした覆面買いも
からんでいます。日本の株価の2月、3月相場がこれでした。

(2)3月9日の東京講演には行けなかったけれど、その時の講演の
録画やレジュメを見たいという方から、当方にメールを戴いていま
す。このためレジュメ(55ページ)と講演の動画像を、当方のホー
ムページで、無料公開する準備をしています。アップロードができ
たとき、またお知らせします。

***************(以下、本文)

おはようございます。さっきまで、1998年から2012年2月までの日
本国債(長短)を、月別に誰が買い、誰が売っているかの分析をし
ていました。

元データは、日本証券業協会がほぼ1ヶ月遅れで集計している「公
社債の投資主体別の売買動向」です。分かりにくい大きな表ですか
ら、意味を読み取るには、エクセルを使った再集計が必要です。

(注)公社債は、長短国債、地方債、財投債、政府短期証券、及び
東電や銀行の社債を言います。日本では、社債が大きな米国とは違
い、社債売買が占める割合は国債の1/100と低い。全体を国債市場
と見ていい。

ブルムバーグは、分かりにくいナマの表を、インターネットで報じ
ていますが、他の報道では、見かけません。国債が、どう売れるか
は、これからの日本の金融と経済にとって、肝心なことのはずなの
ですが・・・

国債市場は、金融市場の中で最大です。1ヶ月の売買が300兆円(月
間の売買回転率が0.3回)くらいあります。

株式市場は1ヶ月で30兆円(月間で0.1回転)の売買であり、国債
市場の売買額に比べれば1/10と小さい。

国債の保有が少ない個人や企業の参加は極めて小さく、国債をもつ
金融機関の間での売買であるため、巨大資金が動くこの市場も、一
般には、ほとんど知られていません。

わが国を含む世界の金利は、(金融を自由化していない中国を除い
て)、国債の売買状況で決まります。
・債券市場での売り越しが多いと金利が上がり、
・買い越しが多いと下がります。

この主体別売買のデータに注目した理由は、2010年から不気味な変
化が見られるからです。端的に言えば、以下です。

▼(1)国債の売り越しに転じた都銀

2009年まで、国債を大きく買い越してきていた都市銀行(中核が3
大メガバンク:三菱、みずほ、三井住友)が、2010年から売り越し
をする月が増えています。

そして2011年は14兆910億円の売り越しに転じているのです。

つまり、資金量が多い都市銀行(約300兆円)が、政府の赤字増加
で一層多く発行されるようになった日本国債を増加買いしなくなっ
ているのです。

1年の途中で満期償還がある短期債の売買が含まれるので、売り越
した14兆円の全部が、都銀から手放されたとは言えません。たぶん、
2011年で[14兆円÷4=3兆円]くらいの保有国債が減少しているで
しょう。

2012年の1月、2月も売り越しが続いています。最新データの2012年
2月は、1ヶ月で4兆1267億円もの売り越しです。(注)売り越し=
[売り-買い]の差額

「買い手だった都銀が、2010年から日本国債の売り越しに転じた」
という事実は重大です。2009年まで、最大の買い手として、月別を
単純後継すると、1年に30~89兆円の買い越しだったからです。

都銀の保有額の増加では、買越額の1/4だったでしょう。
つまり、1年に8~20兆円を増加保有していたのです。

都銀が売り越した国債を誰が買ったのか? 増やして買う主体がな
いと、国債が売れ残るため、国債金利はほぼ3ヶ月で暴騰します。

金利がたった2ポイント上がって、長期金利で3%になると、
(1)国債をもつ金融機関に100兆円の含み損が生じ、金融危機にな
り、
(2)政府は国債の売却が難しくなって、資金不足に陥ります。

一般会計と特別会計(二重計算を除く合計で220兆円/年:2011年
財務省)の、政府予算の支払いが、一挙に困難になって行きます。

(注)1年で220兆円の政府予算の中には、合計で80兆円の、国債償
還費(70兆円:長期債は60年償還と計算される)と国債の利払い
(約10兆円)が含まれています。

日本とは無縁とされているギリシア国債のように、
・償還ができない事態が(数ヶ月の短期で)起こって、
・1年に150兆円も満期が来る国債の支払い延期(これがデフォル
ト)にもなってしまいます。

ところが・・・都銀が売り越した国債を増加買いする買い手が、急
遽、現れたのです。

▼(2)都銀の穴を埋めたのが、外人の買い越し

2010年から、日本国債の買い越しを増やしたのは、外人ヘッジ・フ
ァンドでした。

・2010年は、月別累計で101兆9737億円、
・2011年は、141兆941億円も買い越しています。

買い越しは、2012年1月が12兆円、2月が14兆円と、続いています。
外人ファンドの売買は、ほぼ3ヶ月で現金の償還がある短期国債で
す。かねてから長期債は、ほんど買いません。長期保有することが
目的ではないからです。

オフショアにある外人ファンドの国債保有は、2011年9月末で47兆
4040億円(748兆円の国債の6.3%:財務省の集計)でした。

11年9月以降、買い越しを増やしているので、2月末現在の保有残は、
推計ですが、少なく見ても、[11年9月で47兆円-その後の満期償
還20兆円+その後の買い越し40兆円=67兆円]には達しているでし
ょう。

◎「国内の都銀が売り越した分を、海外ヘッジ・ファンドが、オフ
ショアから買う」という需給構造に変化しています。

ユーロ債、米国債を売った資金を円に交換して(円買い)、日本政
府の短期債を買い越したのです。このための円買いの増加が、
2011年冬と1月の中旬までの円高(ユーロ安97円:ドル安75円)の
主因でしょう。

12年3月現在、67兆円の短期債(満期3ヶ月)を保有するとすれば、
1ヶ月当たりで、政府が現金を振り込まねばならない分は、67兆円
÷3ヶ月=22兆円です。

(注)ヘッジ・ファンドが、円債を売らずとも、国債の満期償還を
待つようになれば、円安に向かいます。円のドルやユーロへの交換
が起こるからです。

◎ヘッジ・ファンドが、国債口座に振り込まれる1ヶ月に22兆円の
現金で、毎月発行される短期の借り換え債を22兆円分買い越さない
限り、売り越したことと同じなってしまいます。

都銀が2012年3月以降も売り続けるなら、もっと多く買い越さねば
ならなない。

企業で言えば、3ヶ月手形の満期日に、また同じ額の手形を発行し、
銀行に頼んで買ってもらう「コロガシ」です。手形コロガシに、突
如、銀行がノーと言えば、企業は、他の銀行から緊急に借りない限
り、支払い予定の決済資金にショート(不足)が起こり、早期に倒
産します。

以上のような状況が、2010年からの国債市場で起こっているのです。

政府と日本経済にとって重大な問題なので、正確に論を進めます。

以前示しましたが、財務省は「外人ファンドが日本の短期債を増加
買いする目的は何か?」と案じ、2012年1月に、内外の金融機関を
呼び、非公開の会議を開いています。

空売りを仕掛けるために、国債を仕込んだのかと恐れたからです。

(注1)空売り:借りた証券を、現在の価格で債券市場で売って、
期限日の価格で買い戻して返却する取引。相場が現在の1000円から、
近い将来の買い戻す日に100円下落すると、買い戻す価格が売った
価格(1000円)より100円下がって900円になるため、100円が利益
になる。空売りの目論見とは逆に相場が動き、上がれば損が生じる。

大口の空売りが多くなると、債券市場で売りが増えるため、国債価
格が下がる傾向に向かいます。このため、欧州では、EUがPIIGS債
の空売りを禁じています。

ところが禁じても、空売りと同じ効果をもつ「先物売り」や「売り
オプション」はできるので、空売りだけの規制では、まるで意味が
ない。

(注2)また空売りでは、ヘッジ・ファンドなら証券を借りなくて
売る「裸の空売り」も無限にできます。ただし「裸の空売り」では、
買い戻しの期限日までに、売った証券分を探さねばならない。

その後の2月には、日銀が、資産買い受け基金(65兆円)を使い、
1年に40兆円(1ヶ月3.3兆円)の国債を、増加買いをするという、
過去はなかった金額の「量的緩和」の発表がありました。

量的緩和は、国債を買って、その代金のマネーを日銀が刷るという
ことです。

「あぁ、これは増加買いしてきたヘッジ・ファンドによる、日本国
債売り(空売りや先物売り、または売りオプション)が大規模に起
こったときの備えだな」と思ったのです。

この対策がないと、国債売りが増えたとき、損失の恐怖に駆られた
金融機関からの狼狽(ろうばい)売りも呼ぶため、金利が高騰する
からです。こうなると、2011年1月中旬までのPIIGS債のように、市
場は売り一方になります。

郵貯・簡保や年金基金を含み、金融機関の預金(預かり資産)はさ
ほど増えなくなっています。1枚22円のコストで1万円札を刷ること
ができる日銀以外には、国債を大きく増加買いする財源が、年々、
なくなってきているからです。

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    <有料版 583号:大きく変化した日本国債の売買市場>
               有料版:2012年3月21日号

【目次】
1.最初に、日本国債の投資主体別保有高
2.満期償還額が、毎年、大きくなってきた
3.わが国の、中長期の国債残の想定:
    11年後の2023年には1366兆円と、2011年より508兆円増える
(本稿は↑ここまで)
(以降は↓、次号で)

4.投資家別の国債の売買
5.ヘッジ・ファンドは、日本国債売りの準備をしているのか
6.日本国債の売りの機会はいつか?
7.2012年は、インフレで世界の金利上昇の兆しがある
【後記】

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■1.最初に、日本国債の投資主体別保有高
          (748兆1918億円:財務省:2011年9月)

国債の保有を、主体別に見ます。日本国債は、国内でファイナンス
(=買い受け)されているというのがこれです。

▼国債の主体別保有

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
+
銀行等        326.6兆円(43.7%)・・・郵貯銀行を含む
生損保等      155.2兆円(20.8%)・・・生命保険、損害保険
公的年金基金  70.3兆円(9.4%)・・・政府が管理
日銀          63.6兆円(8.5%)・・・日銀が管理
民間年金基金  29.0兆円(3.9%)・・・企業が管理
海外          47.4兆円(6.3%)・・・ヘッジ・ファンドの投機
家計          29.4兆円(3.9%)・・・個人分は少ない
その他        26.4兆円(3.5%)・・・政府系
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
合計         748.2兆円(100%) (注)政府負債は1024兆円

銀行(都銀、地銀、信託、第二地銀、信用金庫、農林系、投資信託、
郵貯等)の持ち分がもっとも多く、326.6兆円です。

このうちの都銀が2010年から売り越しに転じたので、影響が大きい。

公的年金、民間の企業年金基金、郵貯・簡保は、預かり金が減って
いるので、すでに、国債の売り手です。今後も、預かり資金量が増
えないので、国債を、現在の保有以上に増加買いすることはできま
せん。

▼増える国債発行額

政府は、2012年度に、
・新規債44.2兆円、
・東日本復興債2.7兆円、
・政府系金融機関の資金源になる財投債15.0兆円、
・満期が来る国債の償還をするための借り換え債112.3兆円、
合計で174.2兆円の国債を発行する予定です。

(注)2012年度に、原発や災害等のため追加の補正予算があると、
もっと増えます。1%金利が上がると、当年度発行の174.2兆円に
対し1.7兆円の利払い分が増えます。

財務省理財局が、174兆円も、市場でどう消化する目標かと言えば、
以下です。

▼政府の消化目標(財務省の予定)

・市中金融機関の消化分    154.5兆円(海外を含む)
・個人向け                  3.0兆円
・日銀購入                 16.7兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
合計                       174.2兆円
http://www.mof.go.jp/jgbs/topics/press_release/jgbpress24.pdf

【日銀の買いについての説明】
日銀の増加購入を16.7兆円と明記したのが、2012年の特徴です。
これは、金額が上下するアバウトな数字です。

理由は、金融機関が、新規債と借り換え債の174兆円を引きうけき
れないからです。

(注)日銀による、政府から直接の国債引けは、金融の規律を壊す
として日銀法は禁じています。しかし、国債を債券市場からは買え
るので、これは有名無実な規定です。

普通、新規の発行(上記の44.2兆円)のみが国債発行と思う人が
多いのですが、そうではない。

■2.満期償還額が、毎年、大きくなってきた

国債は社債と同じように、過去の分の満期が、毎月来ます。12年度
は、748兆円の国債のうち112.3兆円であり、平均償還期は6.6年
です。約10兆円の国債償還(=返済)が、毎月、途切れずに来ると
いう意味です。

政府の一般会計では、44.2兆円の赤字財政(44.2兆円の資金不
足)です。これとは別に、年金会計の赤字が2.2兆円あって、これ
は債券市場には出ない「政府紙幣のような交付国債」です。

赤字は、満期が来る国債の償還資金がないということです。
赤字企業が、満期が来た借金の返済ができないのと同じです。

このため112.3兆円の借り換え債を、債券市場で売らねばならない。
国債を持っている金融機関からすれば、満期が来た国債112.3兆円
から受け取るべき現金の代わりに、期限が延期された112.3兆円の
新規国債が渡される感じです。(注)国債の発行市場には、金融機
関が、入札で参加しています。

【都銀とヘッジ・ファンドが交替した】
前記で述べた都銀は、この借り換え債を、2010年からは、保有国債
の満期が来ても、満期の額より、少ししか買わなくなったというこ
とです。代わりに買ったのが、オフショアからのヘッジ・ファンド
です。

【日銀の、国債の売買方法】
上記では日銀による購入目標が16.7兆円とされ、買い受け枠の40
兆円とは異なりますが、その理由は以下です。

日銀は、国債を市場で買い、売っています(これが金融の調節で
す)。日銀の国債の売買は、買い現先(売り戻すことを約束した買
い)や、その逆の売り現先(買い戻すことを約束した売り)が多い。

2012年度に、最終的に、日銀が現在の保有を増加させる目処が16.
7兆円ということです。

都銀やヘッジ・ファンドの売りが増えれば、年間ベースで40兆円の
国債買いに向かう用意を、日銀が行ったというのが(12年2月)、
1年で40兆円の、国債の買い枠の意味です。

それにしても、174.2兆円の国債発行は大きいですね。今後も毎年、
新規国債が40~50兆円増えるので、この借り換え債を含む国債発行
は増加し続けます。この買い手が十分でないと、国債金利が高騰し
て、PIIGSのように国家の財政破産が起こるから重大です。

■3.わが国の、中長期の国債残の想定:
   11年後の2023年には1366兆円と、2011年より508兆円増える

財務省の試算(経済財政の中期試算)では、現在はマイナスのGDP
の名目成長率を、2012年度+2.6%、2013年+1.1%、2014年+2.
4%、2015年+2.3%、2016年+1.9%・・・2020年+1.9%、
2023年+1.3%と見たとき、2023年の公債残は1366兆円となって、
2011年(財務省短期証券を含む公債残858兆円)より508兆円も増え
ます。
  
1年で約50兆円(消費税の25%分)も増え続けます↓。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h23chuuchouki8.pdf

▼物価と金利とGDP

上記の名目GDPは、現在はマイナスかゼロの物価の上昇を、1.1%
~2.3%と仮定したものです。

【物価と金利の、経済原理的な関係】
ただし、物価が1~2%上がることが恒常的と認識されるように変わ
ると、今度は、現在1%付近の長期金利が2~3%に上がりますから、
政府財政は破産に向かうでしょう。

◎物価の2%上昇は、1年後のお金が2%(2万円分)価値低下するこ
とです。現在の100万円が1年後には98万円の価値に下がります。こ
のためマネーを1年間貸す人は、金利3%にならないと、貸さない。
債券の金利も3%ならないと買わないのです。このため金利が上が
ります。

1年後に3%の金利を加えて、(回収リスク率をゼロとして)103万
円になって戻ってきても、2万円上がった物価から見れば、実質価
値は101万円でしかないからです。

物価が上がるように変わると、金融市場の期待金利が上がるのです。
市場で売買されている国債や債券の金利も同じです。

物価が2%上がると金融市場で認識されると、社債や国債の価格を
決める期待金利は、その約6ヶ月から1年遅れで2ポイントは上昇に
向かいます。

物価が上がる中で、日銀が国債の下落を防ぐために、金利の上昇を
抑えようとして、更に金融を緩めると(=日銀が国債を買ってマ
ネーを増発すると)、物価は一層上がるようになります。

物価に数ヶ月から1年遅れて、期待金利が、それ以前より上がるの
です。

▼2012年以降のGDPは、労働年齢人口が1年に60人も減るため増えに
くい

内閣府が2011年8月に作った、上記の「経済財政の中長期試算」で
は、今後、物価の上昇や下落を含む名目GDPと、物価の上昇を引き、
下落を足した実質GDPも増えることを仮定しています。

◎GDPが増えると仮定しないと、「経済財政の中長期試算」が作れ
ないからです。官僚は、こうしたつじつま合わせをやる習性をもっ
ています。このため、政府の金融・経済政策と、国債を発行する財
政は、架空の上のものです。

【厚労省は、架空の利回りを想定している】
他の例で言えば、政府が預かっている年金基金(約100兆円:GPI
F)の運用利回りは、想定率において、4.1%という高さです。

日本国債の長期金利が1%という低さの中で、毎年、4.1%という
高い利回りを続けることができるわけもない。

しかし、100兆円の基金の運用利回りを、4.1%(利息収入4.1兆
円/年)としないと、年金財政が破産します。このため、無理やり
4.1%の利回りにするという逆転した計算をしています。

年金基金でほぼ70%(70兆円)の運用が、長期金利1%の日本国債
です。なぜ4.1%の利回りという馬鹿げた想定が、政府と国会では
通用するのか? 呆れます。他でも、民主党政府では、実に馬鹿げ
た、官僚の経済計算が多いのです。

こうした架空のことを、政府が公然と言うから、企業年金を2000億
円も預かって、ほぼゼロになるまですっかり飛ばしたAIJ(投資顧
問業)が、「毎年5%の利回り、相場が下がっても利益は出る」と
言っても、その嘘を見抜けなかったのです。

年金基金の運用担当も、「70%を運用する国債金利が1%なのに、
政府が言う4.1%の利回りという馬鹿なことが、どんな運用方法で
可能か?」と見抜けなかったのです。

架空の物語の上に、今日も官僚は、中長期の財政と増税見通しを描
いています。それとも、年金基金は、国債の空売りや先物売り、ま
たはオプション売りをする予定だったのでしょうか?

(注)2011年の、ヘッジ・ファンドの平均利回りは、マイナス6%
でした。ヘッジ・ファンドは、空売り、先物、オプション、通貨ス
ワップ、金利スワップ、及び複雑な証券が多い仕組み債での資金運
用です。世界のヘッジ・ファンドは8000本、預かり元本$2兆、レ
バレッジ運用で想定$20兆(1600兆円)です。

仕組債(Structured Bonds)は、オプション、スワップを多種組み
込むことで、通常の債券のキャッシュ・フロー(回収金)とは異な
るキャッシュ・フローを持つようにしたものです。

しかしこの仕組み債でも、下落のリスク確率を引いた期待利回りで
は、世界の国債の期待金利付近でしかないのです。金融は、どんな
方法をとっても、期待金利に収斂します。

【人口問題】
2012年からは、団塊の世代が65歳を超えることが原因で、1年毎に
60万人も労働年齢人口(15歳から65歳:働く人7000万人-60万人)
が減ります。

7000万人の、1人当たりの生産性が大きく上がらないと、GDP(名目
が467兆円:2011年12月)の増加予想ができない。

これから5年は続く、1年60万人の労働年齢人口の減少を計算すると、
経済では、100万人の中核都市(福岡や仙台)の全産業が、1年に1
都市ずつ消えることに等しい。

不遜な例えであること承知で言いますが、東日本大震災での産業の
破壊にも相当する、日本経済へのダメージです。

このため280万社の全企業の合計売上は、増えない(個別には、増
えるところと減るところがあります)。

従って、280万社合計では民間企業は、借金での設備投資は増やし
ません。工場、店舗、オフィス、ホテル、レストラン等の新規設備
投資は、自社売上が増える見込みがないとできないからです。

[名目GDP=1人当たりの生産性(付加価値生産額)×労働人口]で
す。GDPは、生産された商品の総額から仕入(原材料費)を引いた
ものです。もちろん、商品には、例えば通信や交通、電気、教育、
医療のような無形のサービス商品もあります。有形の商品が50%、
無形の商品(サービスと言う)が50%と考えればいいでしょう。

GDPの増加とは、有形商品とサービスの商品生産額が増えることで
す。名目は店頭価格で計算し、実質は物価上昇率(たとえば2%)
を引いたものです。

物価が1%下がると、名目GDPより実質GDPが大きくなります。2011
年12月期の、年率換算の名目GDPは467兆円であり、前年比で3.1%
も減っています。これは、企業の所得と世帯の所得も3.1%減った
ことと同じです。

他方、実質GDPは508兆円(前年比-2.3%)です。これは、現在よ
り8%高かった2005年の商品価格に換算したものです。

少ない名目GDP467兆円と、多い実質GDP508兆円の差である41兆円が、
2011年までの6年間で下がった価格です。6年間で41÷508=8%下が
っています。1年平均で言えば、1.2%の物価の下落でした。

労働人口が毎年減ることは、確定しています。このため労働生産性
が、労働人口の減少をカバーして伸びない限り、GDPは増えません。
政府の、経済財政の中長期試算は、誤った前提のものです。あるい
は、こうなればいいという願望でしょう。

以上について、とても無責任に思える、作文風の中長期の財政見通
しを作った内閣府からの、反論を期待します。

この中長期の財政見通しをベースに、政府の財政と、年金や医療の
福祉の政策、及び、増税案の政策が作られているからです。民主党
の政治家の責任でもあります。エコノミスト達は、一体、何をして
いのか。

ここまでを記憶として抑えた上で、次は、投資主体別の、債券市場
での国債売買を見ます。これ以降は、すぐに送る次号に書きます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
■4.投資家別の国債の売買
■5.ヘッジ・ファンドは、日本国債売りの準備をしているのか
■6.日本国債の売りの機会はいつか?
■7.2012年は、インフレで世界の金利上昇の兆しがある
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

See you soon!


【後記】

本稿で書いたような、1998年の過去から幾度も繰り返してきた相場
の動きも(PKO=価格維持相場と言っていた)、その原理的なこと
から書いています。金融のPKOは、平和維持ではなく、政府と日銀
の介入買いです。

【書籍】
アマゾン(紙)            : http://www.amazon.co.jp/
紀伊国屋Web(紙+電子)  : http://bookweb.kinokuniya.co.jp/
楽天書店(紙)            :http://books.rakuten.co.jp/
廣済堂bookgate(紙+PDF版): http://www.bookgate.info/
セブンアイネット(紙)    :http://www.7netshopping.jp/books/

【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】
yoshida@cool-knowledge.com

●インターネットの書評サイトでの評価のひとつです。当方の意図
をよく理解していただいていると感じたので、掲載します(掲載の
承諾は、頂戴しています)

**は今、世界を覆う財政危機や金融不安の本質がどうなのか気に
なっているのですが、
本書はこれ一冊読めば、
・国債の信用リスク
・デリバティブの恐怖
・米ドル安と円高の行方が及ぼす影響
・不動産価格の見通し
・国家破産の可能性
・資産防衛のためにすべきこと
など、すべてが関連付けて理解できます。

とはいえ、ひとつひとつ理解しながら読んだので、読み終えるのに
たっぷり1週間かかってしまいました。この本のすごいところは、
徹底的に数値をもとにした論理展開を行なっていること。

読者をいたずらに怖がらせたり脅したりするような表現は、一切使
っていません。類書では、著者が金融ビジネスに携わっていたりす
ると、自分の商品の販売に結びつけたり、自分の権威を高めようと
したりするポジショントークが含まれていたりするものですが、そ
んなポジショントークも一切なし。

著者の吉田繁治さんは、【ビジネス知識源】というメールマガジン
の発行人で、ビジネスメールマガジンではNo.1の人気を誇ります。

書いてあることは難しそうに見えるのですが、変に楽観論や悲観論
に偏っておらず、データを丁寧に紐解きながら、重要な部分は繰り
返し解説してくれるので実にわかりやすい。

読了した後、もう一度ななめ読みしただけで、理解がさらに深まり
ました。ここに書かれている事実を自分はどうとらえるか、そして
どう行動すべきか。腑に落ちるまで、何度も読み返すべき本だと思
います。

現在、そして今後の世界経済を語る本の決定版ではないでしょうか。
http://blogs.yahoo.co.jp/kit_45104/29108188.html

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【有料版の最近号の目次】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<584号:中央銀行がマネーを増刷する仕組みと、
                     その信用の元になるものは何か?(2)>
                     2012年3月28日号

【目次】

1.最初に、ユーロの中央銀行の仕組みから
2.中央銀行のマネーはどこから来るか:その発祥
3.ジョン・ローが作ったフランス王立銀行(1716年~)
4.『貨幣論』のケインズが言うこと
5.中央銀行のバランスシート
6.国債が通貨(紙幣)の根拠であることは何を意味するか
7.通貨の増発の意味
8.日銀のインフレ・ターゲット1%が実現すると・・・

■2.解約していないのに、月初めから、有料版メールマガジンが
来なくなったとき(このメールが当方によく来ます)。
主な原因は2つです。

(1)クレジットカードの有効期限:
登録しているクレジットカードの有効期限(期間は数年)が切れて
ないか調べてください。
ほとんどの原因は、登録していたクレジットカードの期限切れで
す。お手間をかけますが、「新しいカード番号と有効期限」を再登
録してください。月初めからの分の再送を含み、再び届きます。
https://mypage.mag2.com/Welcome.do
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この「マイページ・ログイン」から、メールアドレスとパスワード
でログインし、出てきた画面で、新しい期限と番号を再登録します。

(2)迷惑メールに入っているどうかを確認する:
メールソフトは、頻繁に自動更新されているため、時折、メールマ
ガジンが不特定多数への「迷惑メール」になってしまうことがあり
ます。
該当のメールに、カーソルをあてて右クリックし、出てきた迷惑
メールの項で、「送信者を、差し出し人セーフリストに追加」すれ
ば、元に戻ります。
(以上)


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