こんにちは、吉田繁治です。最近読んだ本の1冊に『Hidden Value』
(邦訳:隠れた人材価値:翔泳社)があります。
Certainly you have worked at, or at least seen, companies
that are filled with smart, motivated, hardworking,
decent people who nevertheless don’t perform very well
because the company doesn’t let them shine and doesn’t
really capitalize on their talent and motivation.(同書)
(頭がよくて動機付けも高くハードワークもいとわない素晴らしい社
員だらけなのに、十分な成果をあげる仕事ができていない会社がある
。社員の手腕を活かすことができず、真の動機付けに失敗し、輝かせ
ることができないことが理由である。そういった会社で働いたことが
ある人、あるいは見聞した人は、多いはずだ。)
送ってきた専門誌(『販売革新』)を見ていると、西友の社員削減(
6000名のうち1500名の人員整理計画)についての記事があり
ました。西友に以前勤めていたという高山邦輔氏は「西友社員の質は
実に優れているという私の信念は、いささかも緩んでいない」と書い
ています。
全部の論旨は、経営の失敗を社員に転嫁はできないということでした。
これは当然のことです。
考えるべきことは「優秀な社員」が多数いて、つぶれるくらい業績が
悪いということはどんなことか? 優秀さとは何か?です。
西武流通グループには、確かに「頭のいい人」は多かった感じを受け
ています。まず、こうした優秀さとは何かを、単純化を図りながら考
えます。
私自身が、優秀な社員でありえるかどうかの自問でもあります。
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<Vol.185 ビジョンと価値観という課題(1)>
【目次】
1.「優秀さ」
2.優秀さの中身
3.仕事での優秀さ
4.学業と仕事
5.80年代までという時代
6.90年代を乱暴にまとめれば
7.近代化以降は、それぞれのビジョンと価値観
8.連絡事項
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■1.「優秀さ」
多くの経営者は「社員が優秀である」ことを求めます。他方、社員は
「経営者が優秀」であることを求める。両方の隙間(すきま)に深遠が
ありそうですね。
数学論理的に単純に図式化すれば、
・「社員が優秀」×「経営者が優秀」=高い業績
・「社員が劣る」×「経営者が優秀」=低い業績
・「社員が優秀」×「経営者が劣る」=低い業績
・「社員が劣る」×「経営者が劣る」=低い業績、となるでしょうか。
足し算ではなく、かけ算でしょうね。
問題は「優秀さ」と、「劣ること」の内容が何かということです。
▼振り返れば
日本の経営は、極めて大ざっぱにまとめると、以下のような感じでし
た。感じとは、全体の映像的な印象です。
・60年代まで=戦後復興/2桁の高度成長期
・70年代まで=まず、製造業に格差がついた
・80年代まで=つぎに、流通・小売・サービス業に格差がついた
・90年代まで=民間:あらゆる業界で、業界内格差がついた
=銀行は不良債権
=官僚は不正の露見
・00年代 =利益格差が、更に進行
=合併・社員整理・資産処分
(注1)別の大テーマですが、今、資源や資材インフレの兆しが見え
ます。アラブでの長期戦と中国によって資源は高くなるという認識が
共有化されつつあります。投機マネーが、資源・穀物・食肉、商品相
場に向かえば、一瞬で高騰することを忘れてはなりません。
(注2)先進国で共通になったサプライチェーン化での在庫合理化は、
投機を含む仮需要に、極めて弱い。資源や資材が逼迫すれば、工場
はあっても生産はできないのです。
■2.優秀さの中身
ステレオタイプ(世間の類型)での、個人の「優秀さ」の評定基準に
は、世界共通に、まずは「学歴と学業」があります。
学歴は何をどう勉強したかでなく、「受験時のテストの順位」です。
わが国の学歴で言える唯一のことは、受験時の成績がよかったという
ことだけです。
「学歴」で言えば、わが国に限らず、多くの国の高学歴や一流大卒と
言われる人々は、「大企業」、「キャアリア官僚」、「医者・弁護士
を含む公的資格」を目指します。西欧は、特にこの傾向です。フラン
スは官僚の王国でもあります。
米国では、担保をとる金融ではなく資産家による資金市場の発達で、
一風変わっていて、教授を含め、大学やMBAの中で起業家を目指す
ことがあります。これは、西欧と日本にはまれなことです。
(試験で得られる公的資格だけは、犯罪や重大な職業倫理への違反が
ない限り、排他的に保護されます。優秀さの考察からは除外しましょ
う。また生涯、学歴と公務員試験の成績がついて回ることが多い官僚
も、予算枯渇での整理はあっても、自由参入と倒産はないので、除外
します。)
▼単純に考えた疑問
民間企業では「優秀」な人々が入社し、その優秀な人が集まった中で、
更に実務での過去成果による選抜を受けたはずの幹部や経営者がい
る大企業が、90年代以降、世界でポロポロと脱落しているのはなぜ
か?
わが国では、およそ1997年(第一次金融危機)までは、業界内の
利益格差はあっても、金融機関を含む大企業や上場企業が倒産するこ
とは、極めてまれだったのです。大企業、ほぼイコール、いい会社で
した。
花王の買収と公的支援で迷走している「カネボウ」も優秀な人が多い
会社です。衰退した紡績から、異分野の化粧品への転身は見事だった。
▼「何か」が根本で変わった
数学論理的に単純化すれば、90年代で、
(1)社員も経営者も、「優秀」と言われることの中身に変容が起
ったのか、
(2「優秀」ということの内容はほぼ変わっていなくても、企業の
業績を決める大切な要因が、根本的に変わったのか?
こうしたところは、まともには「解かれていない」と感じます。
▼問題と正解
唯一、常識になっていることは、ペーパー・テストでの優秀さは、
・与えられた問題を、予め想定されている「正解」として出す能力
であり、仕事で必要な問題そのものを考える発想力ではない。
・仕事や経営では「問題が何か」を案出する力が必要だ、という
ことでしょう。
この常識を、論理的に展開させれば以下になります。
・仕事で優秀とされる能力は与えられた問題を解く能力だけではな
い。
・市場を認識し、問題を発想する能力が必要である。
・あるいは、同じ問題について、「正解とされること」ではなく、
意味あるユニークな解答ができる能力が必要である。
いわば、事業や商品・サービスのアイデアと方法の発明です。アイデ
アは学業の優秀さとは無関係です。
■3.仕事での優秀さ
仕事はペーパー・テストではなく、顧客にとって従来より価値ある「
モノやコト」を商品として実現し提供する「実行力」で決まる。
テストは書いて答えれば済みますが、仕事では、計画(ペーパーに書
かれたもの)を実行することが必要です。経営は、教授とは違い、計
画・企画したことの実証経済での実践です。
ここまでで「優秀さ」と言われることの内容が、いくぶんか明らかに
なりました。箇条書きにすれば・・・
(1)解答力:与えられた問題を解く能力
(2)発想力:与えられていない問題や課題を生む能力
(3)差異力:与えられた問題に対し、従来とは違う意味あるユ
ニークな解答を出す能力
(4)戦略力:目的に向かった、整合的な実行計画を立てる能力
(5)実践力:重点化した目標を達成する能力
これに加えていないのは、個人が分業をする会社組織で必要なチーム
ワークの能力です。
(6)親和力:チームワークの能力、チームへの貢献
更に重要なのは、真摯(しんし)さでしょう。真摯とは、目標達成へ
のひたむきさ、一貫性のことです。真摯さ(integrity)が、一言でま
とめたリーダシップの正体。
(7)真摯さ:目標達成へのひたむきさ
目標へ向かった自己犠牲
組織内部の他者とチームへの貢献
組織の外部の顧客への貢献
7つの能力をまとめて見れば、7番目がもっとも重要で、(6)(5)
・・・と重要性の順が続くように思えてきます。
■4.学業と仕事
▼学業
「学業」は、学歴の内容、つまり学力を言うことにします。
一般に学校で成績となる学業は、ほぼ(1)の解答力だけです。
これは測りやすい。共通の問題を作ればいいからです。
学業優秀だった高級官僚には、解答力に優れた人が多い。
これは否定できません。そして、世間を皮肉に見て、人を巧く蹴落と
す能力も付随しています。(この候補者が、東大に多数(笑))
▼大昔は「ソフィスト」と言われたが・・・
国会答弁での、一見では論理整合に見える「理屈」を案出する詭弁
(きべん)で、官僚の(本当は)皮相な能力が分かります。
倫理(ギリシア時代では真・善・美)を根底においていたソクラテス
やプラトンが戦った、ソフィスト(詭弁)の才です。福田官房長官に
は古典的ソフィスト的資質が、小泉首相には現実を隠すプロパガンダ
の能力があるように思えます。
とりわけ今の官房長官には(とても古風な言葉ですが)真・善・美、
そして倫理が見えない。見えるのは恫喝と皮肉さです。
子供達は、一瞬で仮面を見破る能力をもっているのですが、「大人」
になると「権力や現実」という言葉とともに見えなくなって、消えま
す。年齢とともに失うものも、得るものと同様にありますね。
子供たちが好きなのは、例えれば本田宗一郎のような、目標が高くそ
れゆえに人を本気で叱ることができ、笑顔が美しい人です。笑顔は人
格をあらわします。格とは人の本当の価値でしょう。学業には無関係
です。
問題は、仕事で重要な(2)発想力、(3)差異力、(4)戦略力、
(5)実践力、(6)親和力、(7)真摯さを測る方法が確立してい
ないことです。(多くの経営書が、手を変え品を変え、溢れる理由で
もあります。)
測る方法がないため「優秀さ」の内容が皮相なものになる。
マーケットでの実証しかない。
従って偶然や幸運に、サイコロを投げた結果のような事業の成功も、
決断力からとされますから、原因としての優秀さの内容はわかりにく
なります。
長期での成功と短期の、または一度限りの僥倖(ぎょうこう)は、仕
分けしなければなりません。
■5.80年代までという時代
80年代までは、現場参加のTQCで世界をリードした輸出型の製造
業(日本の総生産つまりGDPの20%)を除けばどういう時代だっ
たか?
要は、西欧や米国の、先行していた企業や産業を調べ(ベンチマーク
をし)て、方法を取り入れマネることでした。
共通に合意を得ることができる「お手本」があった。お手本(目標と
なるモデル)があって、それを調べ、いち早く応用するのが方法とす
れば、学業での優秀さも活きます。
問題と解答が予めあるからです。古来、日本人が得意とする方法。古
くは中国、明治以降は「欧米」をモデルにする手法と言えます。
これが明治以降の産業と社会の最大のイデオロギー、つまり「近代化」
でした。近代化は、欧米をモデルにすることでした。
今でも、新聞を含むマスコミ、単行本、官僚の作文で、頻繁に繰り替
えされる「欧米では・・・」という、人を説得するに有効とされてい
た枕詞(まくらことば)に名残が見えます。
結論は「日本は、進んだ欧米に学ばなければならない」です。
明治や戦後は終わっています。「欧米では」という形容が安易に使わ
れているものは信用しないほうがいいでしょうね。今後は「その欧米
で意味していることは、一体何ですか?」と聞き返して下さい。相手
がどう答えるか、そこで判定ができます。
■6.90年代を乱暴にまとめれば
日本では「近代化=仮想の欧米モデル」が有効だった時代が終わった。
これは、昨年から思っている私の「作業仮説」です。
証明されたのが、90年代だったと考えています。それ以降、まだ、
合意ができる大きな方向を、見いだしてはいないように思えます。
▼公共投資500兆円
代表的な一例を挙げれば、80年代まで経済にとって有効だった公共
投資です。90年代の500兆円余の公共投資を正当化したものも、
80年代の延長であった「欧米に比べ、道路を含め社会資本が劣る」
ということでした。
500兆円は、2000万円の住宅で2500万戸分です。日本の全
住宅の半分にも匹敵します。実に壮大な、世界のだれもが想像もでき
ないようなマネーを使った。
残ったのは、個人の空洞化してしまった1400兆円の金融資産と、
まともな方法では、どう転んでも返せない、合計で約1000兆円の
政府部門の純負債です。
これらは「数字を書いた証文」にすぎず、実体は、今、紙に等しいも
のになっています。円という数字を書いた紙ですから、日銀がいくら
でも刷ることができる。裏付けは国家信用しかない「不換紙幣」の本
質躍如です。
80年代末に部分的に世界ナンバーワンと見なされ、欧米を例に挙げ
ることが説得力を失うと、次は「東京に比べ劣る」でした。もっとも
「近代化」しているとされたのが「(真実の姿ではなく)理想イメー
ジ化された東京」だったからです。
地方自治体はバベルの塔のような都庁を真似て、お城にも見える県庁
や市庁舎、そして第三セクターの方法で、滅びた古代ローマにも見え
るような大きな建造物を造った。形を変えた有効性のない「ローマの
遺跡」に見えます。
東京を例にすることができなくなると、次は「地域の振興」でした。
実に単純な近代化イデオロギー(観念)に官も民も支配されていたよ
うに思えるのです。「ビジョン」とは、政府や自治体が都合良く例に
し、業界は政府予算の獲得に使う「近代化」のことでした。
もうこの方法では、合意を得ることはできないのです。
▼90年代半ばから
90年代から新たに登場したイデオロギーは「グローバル・スタンダ
ードと国際化」です。内容では、(1)米国の株主本位の資本主義、
(2)国際基準会計、(3)金融の自由化を含むビッグバン、(4)
コンピュータ・通信にからむプロトコルや共通規格を意味していまし
た。
「グローバル・スタンダード」も、米国発の「近代化イデオロギー」
の延長に位置するものです。人材では、ラベルとしてのMBAです。
■7.近代化以降は、それぞれのビジョンと価値観
以上の前置きを経て、本稿のテーマとする差異化の「ビジョン」と「
価値観」にまで来ました。
近代化のプロセスでは、目指すビジョンも、大切にする価値観も、ほ
ぼ共通のもので有効でした。到達モデルは共通のもので大きなズレは
なかった。
そのために、<あなたの会社の「実現したいビジョン」と「他と違う
価値観」は何ですか?>と訊いても、はかばかしい答えが返ってこな
いのです。
なぜだろう?と思っていましたが、「目標が同質で共通だった近代化
と規模化のプロセスの、経済的な有効さの終焉(終焉)」という仮説
を持ち込めば、一挙に原因が見えて来たのです。
近代化のプロセスを過ぎれば、「ビジョン」と「価値観」の差異化ま
たは独自化を行わないと、世界の共通部分は「コモディティ」として
の低価格化と、生産規模による寡占化に向かうことになります。
規模と寡占は相変わらず有効ではあります。
しかし、規模でのトップ以外は、一言で言えば、差異化経営の時代を
迎えています。ここが、大量の言葉が費やされる割に、理解されてい
ないように思えるのです。
同質の寡占か、異質での差異化か、方法は絞られています。その証拠
に、あらゆる業界で、2番手がもっとも激しく脱落しています。
「横並びはもうダメ」とは、だれでもいいます。これは否定形です。
否定は「論評」にはなっても、「仕事と経営の実践」にはならない。
横並びの対極は、差異化です。この差異化に、プラスの内容を与えな
ければならないと思っています。
差異化を図るビジョンと価値観とはどんなものか? 以下、次号で。
see you next week!
■8.連絡事項
ビジネス視察・研究ツアーは、5月27日(木)〜30日(日)に、
ニューヨークを背景に、従来と同じような、現地集合を含む開催要領
で行う予定です。詳細が決定次第、このメールマガジンでお知らせし
ます。今、旅行社との打ち合わせ中です。
「ライフスタイル・マーチャンダイジグの視察・研究」です。中国の
工業化と国際ロジスティクスで、低価格と寡占が方向になった共通財
コモディティからの脱出方法です。
(お詫びをふくめ・・・)
『利益経営の技術と精神』(商業界)は、2月23日から全国の主要
書店で発売されています。
アマゾンで注文することができますが、確認すると数日前から在庫切
れになっています。著者として申し訳ありません。すぐ補充されると
思います。
http://www.amazon.co.jp
書店には残部があるでしょうが、出版社には増刷の依頼をしておきま
した。
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【ビジネス知識源 読者アンケート 】
読者の方からの意見や感想を、書く内容に反映させることを目的とす
るアンケートです。いただく感想はとても参考になります。
1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。
コピーしてメールにはりつけ、記入の上、気軽に送信してください。
↓著者へのメールのあて先
yoshida@cool-knowledge.com
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■ご案内:有料版『ビジネス知識源プレミアム』
04年1月〜2月号の目次の一部です。
<137号:変革力のリーダシップ(1)>
【目次】
1.テーマの目的
2.テクスト(text)としてのロマンの方法
3.テクストとしての原則化の方法
4.リーダシップとマネジメント
5.(参考記述)テイラーの科学的管理法の5原則
<138号:増刊:変革力のリーダシップ(2)>
【目次】
1.前号の要点整理から論を深化させれば
2.リーダシップのもとになる価値観
3.マネジメントはテイラーから
4.近代から現代マネジメントを構成してきた4つの領域
<139号:変革力のリーダシップ(3)>
【目次】
1.リーダシップとマネジメントを問う
2.日本企業の利益(年30〜40兆円)と累積赤字(70兆円)
3.利益企業(24%)と赤字企業(76%)
4.企業変革の共通プロセス
5.実行の工程
6.重要:ビジョンに戻れば
7.景気回復があれば生き残りができるのではない
8.今起こっている見えない変化
9.マクルーハンの推論では
10.予測される経済バラダイム(枠組み)の変化
11.近代というパラダイムセットの変更
(続く)
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■04年2月末に<まぐまぐプレミアム>のページが、以前より使い
やすく更新されています。一度ご覧になってください。
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