仕事への省察(2)(3)
This is my site Written by admin on 2004年12月31日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。大晦日です。今日は部屋とお風呂の掃除
をしなければならない。苦手でやっかいです。大仕事に辟易する感じ
になる。皆さんはどうですか?

日常生活を丁寧に送ることは大切ですね。

【メールありがとうございました】
前稿で書いた、酒井麻友子さんが遺した『愛するダリア』について、
中国の方からも含め、数十人の方からぜひ聴きたいというメールをい
ただきました。

女性読者からの問い合わせが多いことが印象深かった。同時代の同性
の生き方への、切実な関心からでしょうか。同時代という言葉は、想
像力を喚起します。

FMラジオにリクエスト出してくださるという支援もありました。
これは有効ですね。ありがとうございます。

いただいたメールの全部を印刷し、麻友子さんが出演していた店のオ
ーナー(叔父でもあります)に郵便で送りました。正月休みにどうし
たらいいか考えるとのことです。「こんなにたくさん来たんですか」
と言っていた。象徴的な歌詞なので、聴けば哀しくなます。

衝撃的な自死に、周囲はショックを受けています。親族の同意がとれ
ればCDに焼いて、郵送等の方法で頒布(はんぷ)できることになる
でしょう。そのときは改めて案内します。今はまだ、方法が決まって
いないので返事が出せていません。

年の終わりは、キーボードに向かっても思考が内省的になります。
16000字、2号分です。

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       <Vol.202:仕事への省察(2)(3)>

【目次】

(2)
 1.生きること
 2.方法を知ること、方法をもつことから
 3.貢献にまで至ること
 4.動機
 5.微差になる
 6.企業の生き残り
 7.価値と価格の関係:価値公式

(3)
 8.ある企業のトップへ
 9.高付加価値(value)と高付加価格(price)
 10.風潮
 11.恐れいること
 12.目標作り

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■1.生きること

インターネットで検索すると彼女の写真がありました。
http://www.rem.co.jp/work/sakai_bd.html

「Overcome(勝つこと)」と書いてあります。うつむき加減の表情も
象徴的です。

将来が確定してしまったとき、過去はすべてが必然に見えてしまう。
人生が宿命になる。彼女が選んだであろう写真と、書いた言葉をみれ
ば、改めてそうした感想を抱きます。

生きている限り将来は確定していない。不確定だからこそ生きる。し
かし、定まらない将来の中で確実なことは、皆、死を迎える日が来る
ことです。先々週の土曜日は、約10年前まで、仕事で深い関係をも
っていた方の通夜でした。

死は必然すぎて思考するには値しない。というより、普段は確定した
未来についての思考は避ける。考えても避ける手段や方法はない。種
(しゅ)の本能としてDNAを遺すことができるだけです。

われわれは手段のないことについては、考えない。手段をつくれば考
えることができるようになる。目的や目標の鍵は手段です。

▼目的

中学生のころだった。社会科の教師から「人生の目的は?」という問
いかけがあった。

目的とは、行為を方向づけ、そのために行動があるとするものでしょ
う。人生を「生きること」すれば、人生にそうした目的があるわけが
ない。13歳ころだった。小説の中に別の世界をみつけ、思考方法で
やくざな中学生だった私は、そう考えていました。

今も生命はただ生きることだけにその目的があると考えています。蟻
も人間も、その点では変わらない。

しかし生きることの重さが、死への恐怖を超えてしまう瞬間もある。
死への恐怖になじみすぎれば、苦痛の感覚も麻痺する。生きることに、
目的と意味があるべきだと考えてしまうからでしょう。

そして、意味が失われたように見えるとき、生きることが苦痛になる。
少数の人には(多数かもしれませんが)経験があるはずです。

私は、生きること自体には、世間的な成功のような、他に転嫁できる
意味はないと思っています。生きることそれ自体が意味をもつ。

例えば美味しいものを食べたときの味わいこそ、生きることそのもの
でしょう。あるいは心おきなく話すことができる人たちとの会合。こ
こに喜びがある。喜びは、経験すれば小さなとるにたりないもののよ
うです。

▼位相の区分

おそらく教師は、人生の目的という言葉で「人の生命の目的」を問っ
ていたのではない。「君たちが、今、目標としているものは何か?」
と問っていたに違いない。

生きるという生物的な位相と、目標をもってそれに向かうという人間
的・社会的な次元は、区分しなければならない。人は生物的な位相と、
社会的な位相を同時に生きている。だから<人+間>です。間が世間、
または洋風には社会。

人生の目的を問うのは中学生に対し酷です。その教師自身が、自分の
発していた問いに、まともには答えることができるとは思えない。

自分にとって長期の目的と短期の目標が、ありありと見えて来るには、
果たして何が必要か?まずこれを考えます。

■2.方法を知ること、方法をもつことから

前稿<目標についての随想>で、目標では、超えるべき「基準目標」
と、いつかは至りたいと夢に見る「到達目標」を明確に区分すべきこ
とを提案しました。

人は目標以上のものになることはできない。事業も仕事も同じです。
目標を低くすれば、人生はそれにきっちり収まるもののようです。

夢である「到達目標」を、方法をもって到達を目指す「基準目標」に
落とす(分解する)ことができるには「実行方法と手段」を見つけね
ばならない。

「実行」では、あれやこれやを一度に実行することはできない。選択
が必要です。この選択が難しい。

【実行】
実行における選択とは、可能性のある他を棄てることです。ひとつの
ことを選ぶことは、意図せずとも、他のことを棄てることです。まず
ここです。あれもこれもと考えてしまう。私がそうです。

目標を作ることができないという人は、夢想を「棄てること」ができ
ない。夢見る浮き草のような可能性の中で、逡巡(じゅんじゅん)し
戸惑う。決めることを恐れる。そして実行を忌避する。

棄てることからはじめれば、いいのかもしれませんね。
棄てて棄てきれない最後に残ったものを、目標にする。

自分のことを言っています。04年の目標は[目の前のことに集中す
ること]でした。かなりの程度(自己評価で70%くらい)できたよ
うに思えます。集中とは他を棄てることでもあります。

実行しているとき、これは自分がやりたいことではないと思える時が
あります。これは忌避です。卑怯と言ってもいい。[本当は、やりた
くなことなんだけど]と言いながらやっている人を見るのは、不快な
はずです。自分の卑劣な写し絵をそこに見るからです。

こうした忌避をやめることを集中と言う。その瞬間は、他の道を閉ざ
さねば集中はできない。結果として選択になる。集中した結果を選択
という。逆ではない。少数のことに集中するから、選択ができる。

遊びでも仕事でも同じでしょう。忌避は、自分にとって機会を失うこ
とであり、周囲の人に不快を与えます。楽しく集中すればいい。生き
ている限りは明日がある。将来は確定していない。

▼私

05年の目標は[流通業の生産性を、今の2倍にする方法を、単純化
し作ること、その初年度とすること]です。

かすかに方法が分かってきたので、目標にすることできるようになっ
た。3年くらいかかると思っています。その先は分からない。

3年という期間設定は直感です。何かをやるとき3年という期間を設
定する。一旦決めたら、3年はやる。継続によって次第に方法が分か
り、方法が分かれば、方法の中身と数に比例し興味が出てくる。

やり続ければ、あぁ、皆はここでやめたというのが分かります。他の
人がやめたところから、本当の方法が出てくる。分かるとは、他人の
経験を自分が追体験することです。そこから、ホンモノのことが始ま
る。

手にあまる目標ですが・・・チャレンジします。[・・・]の部分は
非論理で、直感です。直感を根拠づけるのはあとで考えた論理です。
なぜ、今、手にあまると感じているのか、それを、論理で追求しなけ
ればならない。直感では可能なはずですから。

悩みや失意があるとき、その悩みを可能な限り書く。最初は、自分自
身に裏切りがあると思える言葉が並びます。

人は、自分を自分自身にとっても隠したいのか。おそらく問題はここ
でしょう。フロイトがそれを言った。彼の精神的な病の治療の方法は
、患者に語らせることでした。語ることによって、その人の悩みが客
観化できるからです。問題を客観化することを、哲学では超越と言っ
ていました。

言葉は、自分だけのものではない。他者に通じるものになる。書き継
げば、次第に客観化されます。そうすると乗り越えることができる感
じがします。そして忘れる。これが方法でしょうか。試みてください。

私が言う「夢」は私のものです。しかし夢という言葉とその概念は、
世界の他者と共有できる。占有されるモノとは違う言葉の不思議さで
す。

■3.貢献にまで至ること

「和民」という居酒屋チェーンがあります。自らを居食屋と称する。
「飲むだけでなく、食べるだけでもなく、時間、空間を楽しむ」場面
が求められている点に着目し、そのマーケットを「居食屋」と名づけ
て「和民」業態を投入したと言う。(同社HP)
http://www.watami.co.jp/

企業名を出せば、反発を感じる人も共感を感じる人も相半ばします。
いい点を見ましょう。

HP(ホーム・ページ)には、以下のような、まともに読めば奇妙に
感じる記述があります。

<人が生まれてきた目的は、人として持って生まれた美しい資質=人
間性を高めることだと信じています。そのために人は夢を持ち、夢を
追い続けるのです。

その夢が叶うか叶わぬかは実は重要なことではなくてそのプロセスの
中、周りの人の幸せに関わることで人として成長することが大切だと
思います。

そのプロセスの中で、いかに感動し、いかに自分自身の幸せを感じら
れるかが大切だと思います。(同社HP)>

「回りの人の幸せにかかわることで人として成長すること」、つまり
は仕事を通じた、他人や世間への「貢献」を言っている。仕事はこれ
です。貢献を目的にした、方法の発見と実行。

仕事では、皆お金をもらう。お金は自分以外の外部からくる。外部へ
の貢献がなければ、仕事をしたことにはならない。外部または他人に
コスト(犠牲)を負担させただけになる。

権利や権限からではなく、自分が外部または他人、あるいは組織、ま
たは顧客にできる貢献から考えること。そして貢献する責任から考え
ること。

▼夢が目標になるプロセス

社長の渡辺美樹氏は、面接試験で「君の目標は何か? 夢はなにか?」
と全員に問うと言う。ホンモノの夢を答えられる人は少ない。

20代前半の和民の店長が言った。「最初は、自分の夢が何か分から
なかった。今は夢を持っている。自分の店を持つことです。」

【方法の発見から】
なぜ彼にとって、夢が具体的な形(またはモデル)をもつ目標になっ
たか? 店長という仕事での、学習と経験を通じ、居酒屋やレストラ
ンの経営方法が分かったと思えているからでしょう。

【目標化へのプロセス】
実現の方法が分からねば、夢は目標にならない。そして経験から学習
した方法に、何かを小さく付け加えれば、自分にも実行できると思え
なければ、店を持つという夢は形をもって活き活きした目標にはなら
ない。

■4.動機

仕事の鍵である「動機」は、方法を知ることによって、または方法を
発見することによって生じるという性質をもっている。方法が可能性
を見せてくれるからです。

目標をもてば、方法が作れるのではない。目標へ至る方法を、経験か
ら学習し実行することによって、目標が具体的なものになる。

設定した目標は、到達すればもう過去です。また新たな目標を、実現
した小さなことを土台に作って行く。多くの事業家は、達成したこと
の上に、更に大きな目標を描き、方法を試行錯誤した。

野球少年にとって、メジャーな選手になることは夢かもしれない。夢
はだれでももつことができる。しかし「夢を実現する可能性がある方
法」を持つことができる人は少ない。

実現の可能性と方法を見せるのが広義の教育でしょう。教育が個人対
象に個別化すれば、コーチングです。コーチつまりマネジャー方法を
見せることによって動機付けをし、目標をその人に内化させる。

目標が、その人にとっての自己目標になって、学習した他人の方法を
追体験する中から、次第に独自の方法が生まれる。他人がやめたとこ
ろの先に、自分の方法がある。

そして、その夢が実現した後は、次の、新しくもっと高い目標を自分
で設定しなければならない。夢は、実現によって一層大きくなる。
自分を自己評価する基準を高くすることです。

実は「目標の達成」は恐怖でもあります。次のより高い目標を探すこ
とが、恐怖をもたらす。最多安打を達成する直前、イチローはそれら
しきことを言っていた。

前人未踏のあとは、恐怖でしょう。鈴木イチローの恐怖は、彼が、次
に必要な努力の質と量を知っているからです。

彼は、プロフェッショナルは普通でないことを見せ、観客を喜ばせる
ことだという考えを持っています。すばらしい技を見せることという
顧客への貢献に至っている。そのために方法を作り、実行する。

■5.微差になる

何かを達成するたびに、棒高跳びのように目標のハードルを高くする
ことができるかどうか。言い換えれば「目標を高くするための方法」
を持てるかどうか。

目標が低い段階では、皆がバーを高くできる。高くなるに比例し、脱
落が増え、次の高さは小さくなって行く。最後は数センチの微差にな
る。この数センチを超えることが、結果あるいは成果では天地の差を
もたらす。

そのとき、さぁ、本当の仕事は、ここからだと自己励起する。

水準を超えた微差をクリアする方法に、人の個性が表れます。その部
分が方法の創造でしょう。

目標を作ることは、その目標を達成する方法を探す、あるいは作るこ
とと同義に思えます。描いた目標を実現するための手段を戦略とも言
う。経営戦略と言ったときは、その戦略に沿う実現目標があるはずで
す。戦略は手段です。

■6.企業の生き残り

企業が「生き残ること」を言うトップが多い。いろんなところのセミ
ナーで、最初の挨拶の演壇に立つ企業のトップから聞くことが多い。

私に個性があるとすれば、言葉の意味を、まともに論理で考えること
です。企業の生き残りという言葉を聞いた途端、頭が激しく働く。そ
の前提を考える。

そのために発言が「浮く」ことが多かった。今もいろんな場面で浮い
ています。浮くことを続けます。

企業は、自然人とは異なる、存在意義がなければ消えるべき人工的な
組織体です。

人は、生きること自体に意味を見つけることができます。生きること
に意味がないから生きることをやめるというようなことは、行っては
ならない。人は、何かのための機能ではないからです。機能になって
しまうことを、難しく[疎外]と言った哲人がいました。

しかし企業は果たして生き残ることを目標にできるのか。

以下のことを考えれば、問題がはっきりするはずです。

この国のGDPの半分近く(財政赤字部分を含めば47%)を占める
ようになった、人工組織体である公共経済の部門で、「公共事業が生
き残ることに意味がある」と官僚のトップが言えば、そのコストを要
は税として負担することになる国民や企業はどう反応するか。

その考えは違うと大部分の人が思うでしょう。企業も同じです。

国民の生活への意味ある貢献がなければ、公共事業体も存続、組織拡
大の意味はない。機能組織(企業・公共事業体)は、法人であって自
然人とは性質が異なるからです。

機能組織は、外部顧客にとって有効な機能を発揮することによって存
在意義をもつ。

公共事業体や企業の生き残りは、国民や地域の人々の、生活の向上ま
たは豊かさへ向かう改善にどう貢献するかという地平から考えねばな
らない。

企業には、ほぼ同種の有形の商品または無形のサービスを提供する自
由競争があります。ここで「他の会社とは異なる、意味がある顧客へ
の貢献をどう果たすか」を問わねばならない。

生き残りから、「顧客に評価される、他社と意味のある違いは何か」
を追求しなければならない。価値の差異化という戦略です。

近代化のプロセスはモノマネだった。今後は、価値の差異化です。

■7.価値と価格の関係:価値公式

価値(Value)という、やっかいな言葉を使いました。バリューは、理
解しにくいもののひとつです。安易に使う人が多い。

他にも応用できる原理で言えば、[商品価値=(その商品やサービス
がもらたす便益・効用・機能・品質)÷価格]です。価値公式はいろ
んなところで使うことができます。

問題は、分子の便益・効用・機能・品質を客観的な数値にすることが
難しいことです。そこで、他の競争企業、あるいはモデル企業の商品
の便益・効用・機能・品質と比較する方法をとります。企画書などの
書類も、成果を目的にする商品です。

価格は、顧客が負担するコストです。顧客は常に企業や部署の外部に
います。顧客は、他の価値と比較し、自由な選択を行う。
自分にとって、他より意味があると思うものを買う。

(注)直接に顧客と接しない分業の仕事をする人にとっては、顧客は
、次の工程の仕事をする人や部署です。例えば、物流部の顧客は店鋪
です。こうした分業をバリューチェーンとも言います。各部署は、次
工程に、より高い価値をもたらさねばならないからです。

企業は(あるいは企業内の部署は)、同じ価格で、あるいは他より低
い価格(コスト)で、自分の外部にいる顧客にとってより高い効用・
便益・機能・品質をもたらす商品・サービスを提供しなければならな
い。これが使命です。世間への義理と言ってもいい。

公共事業体でも何ら変わらない。結局は公共の支援を受けることにな
ったダイエーの企業再生も、この地平から考えなおさねばならない。
それが結果としての「生き残り」です。

第一次、第二次と総額で1兆円を超える債務カットは、2万人の社員
にとって、1人あたり5000万円の所得供与に相当します。平均賃
金が500万円なら10年分です。国民1人あたりに1万円の返すべ
き負債を負っています。人々が節約し、貯めてきた預金の価値をその
分減らしたことになっているからです。

ダイエーやミサワ、そして関係銀行の社員に負債を社会に負っている
、これからの仕事で、外部の顧客に還元しなければならないという意
識があるかどうか。多分ないでしょうね。

これが資本主義を毀損する倫理の堕落です。なければ顧客から起こる
のは反発でしょう。中小企業では、債務カットがなく潰れた会社が多
い。これは公正(fair)な政策ではない。

生き残りは、顧客から、異なる価値を評価された結果です。政府が、
恣意で選択的に関与すべきことではない。借金は返すべきものだと言
った経団連の奥田氏の発言こそが公正です。

われわれ(企業)は、昨日より、そして他の会社より一層価値の高い
商品またはサービスを、より低い価格でどう提供するかを考えねばな
らない。比較価値で、昨日より、そして地域の同業より、あるいは世
界の同業より上回らねばならない。

つまりは外部顧客に向かってのより価値のある「貢献」です。

私の経験からくる感想では、こうした当たり前のことをもとにして考
えている企業や部署は、意外に少ないように思えます。以下、多少極
端な具体例で言います。

■8.ある企業のトップへ

人口が3万の、商圏が閉ざされた地方都市でのことです。そこには地
域寡占の大型店があります。

1店での年商は約60億円と言う。人口1人あたり20万円、世帯あ
たり年60万円もの販売額です。生活必需品の多くを提供しています。
企業にとっては理想的な環境です。存分の価格で売れる。

地域の平均所得は低い。生活が豊かな街ではない。平均では貧困でし
ょう。めぼしい店舗がない。地域の人々は、そこを使う。

ナショナルブランド(NB)商品の価格を調べれば、他の競争が激し
い地域より10%〜20%近くは高い。店鋪は高収益です。

ある会社から、その地区への出店はどうかと訊かれた。
状況を聴き、即座に「実行すべきです」と答えた。

その会社が現在実行している値入基準と価値観では、3万人の地域住
民の生活コストを、10%〜20%は低くできる。つまり生活貢献が
できる。店鋪の運営コストが、他より数10%は安いからです。

価値=(その商品やサービスが顧客にもらたす便益・効用・機能)
    ÷(価格:0.9〜0.8)=1.1〜1.2倍

顧客にとっての商品価値を1割から2割高めることができます。

その寡占店の反応は、予想通り、あらゆる手段を使った出店妨害です。
行政機関や土地を提供している関係者もからんでいます。あらゆる
理由が総動員されます。

自由競争をした上で、価格を高くつけ、敗れるのならいい。競争を排
除し、地域住民に高い商品コストでの選択肢しか与えないなら、それ
は不当です。トップの精神に深い毀損(きそん)がある。

出店は阻止され、できないかも知れません。日本全国に、こうした義
憤を引き起こす世界が残っています。勧善懲悪の劇画のような、今の
時代に嘘ではないかと思える閉鎖的な小世界です。競争がないためで
す。

本稿にあえて書く理由は、その寡占店のトップ(あるいは他の類似企
業)にまともな反省を促すためですが、受け入れることはないでしょ
うね。

こうしたとき、その店鋪の従業員に罪はない。給与の対価として要求
される[義務作業]を行っているにすぎないからです。しかし、その
会社の従業員にも、顧客貢献という企業の義務を考えていただきたい。

企業には、自然人と違って生き残る「権利」はない。
自由競争の中で顧客の評価のみが決めることです。

こうした地域では自治体の行政責任は重い。大都市におけるよりずっ
と深く地域住民の日常生活に係わっているからです。

■9.高付加価値(value)と高付加価格(price)

以下、他でも応用できるよう論理的に言います。

地域寡占のこの大型店をY店と言うことにします。Y店は、他の店鋪
より高いマージンつまり値入率(値入額÷(仕入れ原価+値入額))
で商売ができている。高い「付加価値」を得ている優良店ということ
になります。地域の銀行はそう評価しているはずです。

しかしこれはちょっと変です。「価値」は、消費者にとっての商品価
値を言うものです。これが問題への入り口です。何か変だという最初
の感覚が問題発見につながる。

▼方法:価値公式で考える

価値公式:[商品価値=(その商品やサービスが顧客にもらたす便益
・効用・機能・品質)÷価格]です。

価値公式の分母の価格が、他地域より10%〜20%高いのですから、
「3万人の消費者にとっての商品価値」は、価格が高い分、低いこ
とになります。商品価値は、ここから考えねばならない。

Y店は、めぼしい競争相手がいないので店舗自体は「高付加価値(高
粗利益)」の企業と言われる。高利益でもある。しかし「地域の消費
者にとってみれば低付加価値の商品を販売」している迷惑な店舗とい
うことになります。

▼方法:高付加価値と高付加価格の区分

仕入れ原価に加えたマージン(値入額)のことを付加価値と言う。
問題は、経済・経営用語として使われる「高付加価値(high added va
lue)」という用語にあります。

今回「高付加価格(high added price)」と言葉を作りました。これ
ではっきりします。価格(price)に、買う人の負担や犠牲という意味
が含まれているからです。

同じ効用の商品なら、価値と価格は反比例します。価格が高ければ、
消費者にとってのその商品価値は下落する。価値公式はこれを示す。

【原理】
  価格は、商品価値の対価として消費者が負担するものである。

価格=仕入れ原価+総コスト+利益、です。つまり会社のコストは顧
客が負担する。従って、企業の努力はコストダウンです。

コストダウンは、経費削減や人減らしではない。今のコストを、より
生産性が高くなるように有効化することです。人的作業を、設備・機
械・情報システムを使い作業手順を変更し、有効なワークフローに変
えることです。企業の戦略は、つきつめれば人の作業の有効化です。

Y店は、競争相手がいないので高付加価格で商売ができている。
しかし、消費者にとっては、低付加価値の商品を売る店舗である。

企業が、永続的に行うべきことは、商品価値を高めることです。

つまり同じ効用・便益の商品なら、コスト合理化を図って価格(=消
費者負担)を下げることです。同じ消費者負担なら、機能を高め、商
品の効用・便益を他より高めることです。日本経済も、ここへ回帰し
ない限り、貧困になって行きます。

【国民所得も同じ】
経済学的に言えば、
・同じ商品を生産・販売する総コストを低下させること、
・あるいはより機能や効用の高い商品を同じ価格か、
・より低い価格(=消費者負担)で提供することを、GDPを増やす
という。GDPは、国民所得とほぼ同じです。

1人あたりGDPの低い国は、常識とは異なって、同じ効用と品質(
商品価値)をもつ商品の、製造・販売コスト、つまり価格が高い。

先進国のすぐれた技術と方法をもつ企業が、生産性を高める方法を持
ち込んで、効用の高い商品の価格を、以前より安く提供する。これが
今の中国で起こっていることです。

他方、わが国がGDP(ほぼ国民所得)を増やすことができなくなっ
たということ意味は、コスト合理化の方法を見つけることができなく
なっていることです。

合理化とは、コストに比例し価値を高めることです。人的作業で言え
ば作業の有効化です。人を減らすだけが方法ではない。作業方法を変
えなければならない。

高付加価値化は、消費者に向かったものでなければならない。高付加
価値が高付加価格、言い換えれば消費者にとっての高い負担であって
はならない。

■10.世間の風潮

専門雑誌の編集者から「今、日本の、大手を含んだ多くの企業が、経
営が苦しくなって、価格を上げたがっている、高付加価値の商品を求
めている。これに対する見解を・・・」という依頼がありました。確
かに、最近そうした声をしばしば聞きます。

そこで高付加価値とは、意味が異なる「高付加価格」という新しい言
葉を作るれば、問題がはっきりすると思いました。

消費者にとって高付加価値の商品提供でなく、高付加価格をつけると
ころが多くなれば、消費者の負担が増えます。

消費者は、高付加価値は求めるが高付加価格は求めない。
そこにビジネスのチャンスが生じます。

つまり、生産、流通、そして店舗運営の総コストを低くすれば容易に、
他が参入できる余地が生じます。一般風潮と逆の方向に、ビジネス
の機会があるというのは、いつも本当です。

先日、イトーヨーカ堂の鈴木敏文氏が、新店のオープンでTVに出て
いた。ジーンズ売場でマネジャーが1万5000円を値頃とする売場
を示した。

鈴木氏は一見し[あと1万円くらい高いものを置け]という指示を出
しました。ジーンズで2万5000円・・・

売場は、即座に修正された。担当は服従し、有無を言わずメモをとっ
て即刻修正ですから、この会社の仕事の方法に恐れいります。

マネジャーは、自分の仕事(売場作り)の根拠を主張すべきです。鈴
木氏の権威に服従すべきではない。ジーンズで1万5000円を値頃
とした数値的な根拠があるはずだからです。決定の根拠がなければ、
仕事ではない。

その根拠を鈴木氏に向かって言わねばならない。しかし彼は、一瞬で、
そうですねと答え簡単に服従した。中世的な封建世界です。売場の、
今後の数字に責任をもつサラリーマンとしての、気概がない。考え
て売場を作ったのは自分でしょう?

彼は服従することで、マネジャー(部門責任者)として取引先と一緒
に検討した新しい売場作りの責任を、鈴木氏に転嫁したことになりま
す。自分責任を忌避した。これが仕事でしょうか?

修正後の、高い商品を置いた売場の売上げ数字を見て「これは鈴木会
長からの指示だった。自分の考えではない。従って自分には責任がな
い」と後で言えるからです。こうした仕事のやりかたこそを、無責任
と言います。

変更された商品と、服従したマネジャーに満足げな伊藤氏の表情を見
て、あぁ、鈴木氏もこれで終わったと思いました。

彼は、まず15000円を値頃にした根拠を問って、その根拠に対す
る自分の見解を、自分が考える根拠とともに述べるべきでした。

強調する価格は、売場作りの根幹にかかわる最重要事項です。激論と
見識がなければならない。

最近の彼には勘違いがありますね。セブンイレブンの成功で周囲のだ
れも異見を言わないので、裸の王様になってしまったのでしょうか。

1990年ころの、土地バブルで経団連副会長になったダイエーの、
衆議独裁と称し役員会を黙らせた中内氏に似ています。後は企業崩壊
の一途でした。この世の春を謳歌している米国副大統領のチェイニー
とも似ています。今のままならIY堂も、もうすぐ変になることを予
言します。すでにそうなっているでしょうか。

TVを見て、この国ではディスカウントこそがますます大きなビジネ
スの機会をもたらすと思ったのです。世間の風潮とは逆の方法です。

<インフレに向かうから、ディスカウンティングの時代>と書いたの
は、04年8月の有料版でした。企業を見ていると、多くは、成功の
極で自己崩壊するようです。常に、消費者にとっての商品価値、サー
ビス価値に焦点を定めることが必要です。

■11.恐れいること

【再生機構の結論】
ダイエーの再生で、(官僚機構である)再生機構が出した結論のひと
つは「低価格路線への過度の依存」が問題だったとすることだった。

これを聞いて本当に驚いた。そこで消費者にとっての[高付加価値]
とは違う[高付加価格]という言葉を作って、世間に普及させようと
も思ったのです。

▼本当の問題

ダイエーは、他と比較した時、売っている「商品価値の低さ」、言い
換えれば、[高付加価格]が本当の問題だった。ダイエーへの多くの
納入業者なら、それを知っているはずです。

仕入れ価格と商品価値に比較したとき価格が高くつけられていたこと
を意味します。だから消費者が離れた。消費者をとりもどすことが企
業再生です。現状のコストからの延長で考えることではない。

ダイエーは平均値入率で[27%以上+事後リベート数%]が必要な
経営構造になっていた。今の値入率の、地方都市での先端での競争水
準は、日用品販売ではせいぜい20%、あるいはそれ以下でしょう。
(注)[値入率=値入額÷(仕入れ原価+値入額)]

今、各地の地方都市で始まっている競争は、平均値入率を5ポイント
から10ポイント下げるディスカウントです。各地の都市中心部は、
これに遅れています。

従って、この国でのディスカウント市場は、30兆円(今の店鋪で買
う商品の消費額135兆円の22%)の規模があると試算しています。
3万人の所得が平均的な町(店鋪の総販売額338億円)なら87
億円分です。

わが国では、本格的なディスカウントの店鋪は、まだない。
本当のポピュラープライスとその品質が確立していないのです。

ダイエーは、商品価値では高付加価格の店舗だった。独占店ではあり
ませんが、値入率とコストの構造で、さきほどの3万人の地方都市の
事例に似ています。

これから、まずは地方から、彗星のようにディスカウンティング企業
が現れます。その種があらゆるところに見えるのです。確定した未来
です。

▼売価

企業再生機構が正当な方法をとるのなら、高い値入が必要なコスト体
質、つまり商品価値にとって有効でない作業と有効でない店鋪、物流、
本部コストを問題にしなければならない。

かかったコストを肯定し、そのまま値入額にするのは、悪名高い官僚
的な、公共事業の見積もり方法です。(注)[価格=仕入れ原価+か
かる総コスト+見込み利益=仕入れ原価+値入額]

ダイエーのコストが高いので、高い商品を売るという方法は、まるで
逆転しています。このダイエーに、再生機構は1000平米の食品ス
ーパーを新しく100店も出させると言う。これを企業再生の条件に
しています。驚くべきことです。

他の企業にとって、競争のチャンスを与えてくれたことになります。
どうか、他の会社の人たち、がんばって下さい。専制化しつつあるよ
うに見えるIY堂も、皆にチャンスを与えてくれていますね。

再生機構が、皮肉にも他企業にチャンスを与えることを考えているの
なら、粋(いき)な再生方法をとったことになりますね。官僚的方法
は、まったくもって面白い。

企業は、同じ価値の商品なら、方法を使って値入額を低くする努力を
行うから、消費者にとっての存在価値がある。それを行わない経済を、
悪しき社会主義経済(官僚経済)と言います。ソ連と同じです。

再生機構のトップは(あるいはスタッフは)、企業再生の方法で勘違
いをしているのではないか? 自分たちの方法を、社会の善と考えて
いるふしがありますので恐れ入ります。問題は、いつも[最初の前提]
にある。

以上のことについて、関係者からのまともな反論を期待します。
(みなさんが知っている人に、メールを転送してみて下さい。)

■12.目標作り

【消費者側から見る】
業界に問題がある、顧客が不便や不満を感じているとすれば、それが
ビジネスにとって問題解決を図る機会になります。

ビジネスのミッション(使命)は、顧客にとって次々に生じる問題解
決を行うことです。

必要なことは、今のビジネスの延長ではなく「顧客が感じている不満
、顧客にとっての問題、不便さ、商品効用の低さ、商品効用に比べた
価格の高さ、商品価値の低さ」に焦点を当てることです。

自分を消費者や顧客の立場におけば、問題ははっきりします。だれで
もモノを買って使えば、満足することは少なく、商品やサービスにい
つも不満だらけでしょう。あなたは満足していますか?

▼企業側から見れば

他方、企業側の立場だけに身をおいて商品を眺めてばかりいれば、企
業は、商品の利点、比較メリットを説明し、営業的に売る立場ですか
ら、消費者の不満はマスクされ見えなくなる傾向が生じます。そして
売れると満足してしまう。

これが多くの企業が堕ちる見えない落とし穴です。

【問題の発見から】
ビジネスにおける人間の能力は、まずは、業界や自社を肯定する視点
では普通に見えるところに、新たな問題を発見する能力でなければな
らない。

組織内の現在の枠組み、つまり固定観念の色眼鏡(過去のパラダイム)
だけで、今の業界と商品を見てはならない。前号で述べた問題発見
の能力こそが必要です。

▼鉄則

ビジネスでは、
(1)顧客にとっての問題を、他の企業に先駆けて発見し、
(2)問題の解決法を、より低いコスト、つまりより低い消費者負担
でつくらなければならない。短くまとめた永遠の鉄則です。

こうした観点からみれば、自社と自分はやるべきことだらけになるは
ずです。自社の問題がどこにあるか、分かっているでしょう?

わが国では250万の会社が、顧客にとっての不満や問題を今日も振
りまいています。顧客にとって問題は尽きない。企業が成功したと思
えるときこそ、顧客の不満や問題が生じはじめた時期です。心すべき
ことです。成果としての利益は、過去がもたらすものだからです。

問題を発見できないとすれば、
(1)自分の業界で、世界最高のモデルとなる企業を知らないか、
(2)あるいは消費者の視線で自社を見ていないからです。

乗り越えるべき基準目標、長期で到達すべき到達目標を作ってみて下
さい。それをモデルにする。モデルにして、自社や自分と比較すれば、
目標がわかります。明日からちょうど新年。とてもいい機会です。

モデル化(模型化)は方法を見せます。あらゆる学問の方法もモデル
化です。

■後記

無料版の発行が少なくなっていて申し訳ありません。来年はもっと努
力します。何かを削ります。今年もタイムマネジメントに拙さがあり
ました。

本稿に関連する論考を、2つの雑誌の新年号に書いています。
・販売革新新年号 
  『旧来型(小売り)業態論とマネジメント論の終焉』
・商業界2月号 
   『値頃の壁』(これは私がつけた題ではないのですが)

どうか、いいお年をお迎え下さい。

来年は2冊か3冊の本を出す予定です。

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■以下は、有料版(週刊:一ヶ月で630円)の購読案内です。

▼(1)有料版の、04年12月のものの目次です。

 <190号:コモディティ化と付加価値工程(1)>

【目次】

 1.IBMと聯想
 2.コモディティ化の時代
 3.小さなタイムドメイン社
 4.タイムドメインのビジネスモデル
 5.付加価値を生む「資本」の変質
 6.工場
 7.情報市場
 9.生産の中の、組み立て工程の変質

<191号:コモディティ化と付加価値工程(2)>

【目次】
 1.過去の教育
 2.経験
 3.高級官僚に見るリーダシップの質
 4.問題を作る学力が必要
 5.製品イノベーションの限界
 6.コモディティ・ディスカウント
 7.ユニクロモデルを考える
 8.共通コモディティの利益の性質
 9.価格と顧客数の原理

 <192号:コモディティ化と付加価値工程(3)>

【目次】
 1.製造工程と最終販売工程
 2.最終販売工程
 3.中間でまとめれば
 4.カーディナルス社の事例
 5.方法:フォロー・ザ・ピル:薬の使用過程を追跡せよ
 6.障害の発見
 7.カーディナルス・モデル
 8.カーディナルス社の次の展開

 <193号:コモディティ化と付加価値工程(4):完結>

 1.デマンド・イノベーションを加える
 2.異なる方法
 3.わが国でのデマンド・イノベーションの2社
 4.高成長と安定した高収益をもたらすデマンド・イノベーショ
   ンの発見のために
5.真義のカテゴリー・マネジメント
6.売れ筋/死に筋モデルからの転換

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