こんにちは、吉田繁治です。まだ6月なのに盛夏に直行したような
暑さが続いています。最近は、「毎年が異常気候」ですね。
先週に続き、有料版で配信したバックナンバーの提供です。テーマ
は仕事における「貢献」です。(多少短くしています。)
お送りする理由は、自分の体験で、仕事の動機を自己利益とする考
えから、仕事は他人への貢献を目的に行なうものだと転じたころか
ら、すこしずつうまく行くようなった気がしているからです。
自分の仕事は、何に貢献しているか、何に貢献せねばならないか、
そういったことも、道学者のような「べき論」から言うのではなく、
論理で考えねばならないと思うからです。
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<Vol.210:ドラッカーとの対論(2)>
【目次】
1.貢献から
2.貢献とは対極にあるように思える「自己利益」
3.自己利益と貢献の矛盾をむすぶ通底器がある
4.再び貢献
5.内部市場の報酬と外部市場の商品価格
6.貢献をあらわす顧客満足
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■1.貢献から
<貢献に焦点を合わせることによって、自らの専門分野だけではな
く、組織全体の成果に注意を向けるようになる。成果が存在する唯
一の場所である外の世界(顧客)に注意を向けるようになる。
(『仕事の哲学』:ドラッカー)>
ドラッカーにおいて鍵になる言葉は「貢献」です。
他のところでは「責任」とも言い換えています。
組織内の権利や権限でなく、自己利益でもない。仕事では、自らが
果たすべき、外部顧客への責任を根底におくことを提唱する。
人々は、これを読み飛ばすかもしれません。単に言葉として言われ
たことだ。かっこうよく言えばそうなるだろう。しかし実際は違う
と思っているからです。
言葉では嘘を言えるのが人間だとする。そして、文章の別の行を追
う。損な方法です。
立ち止まってみます。本当にドラッカーが言う通りか、そうでない
のかと素朴に問えば、やっかいな提唱をドラッカーはしていること
になります。
【貢献】
すんなりと、仕事は「貢献」と考えることができるがどうか。
宣言し、貢献を目的にした判断と行動ができるか。
ここが関門です。貢献は倫理的なものです。
ドラッカーが言う貢献は、嘘っぽいと感じるのも自然です。「自分
は会社や顧客への貢献を目的にした仕事をやっている」とあからさ
まに言う自己欺瞞っぽい人ほど、そうではないことが多いからです。
貢献のもとの意味は、生産物を領主や神仏に貢ぐことです。相手の
役に立つものや、労務を提供する。いわば自己犠牲です。
仕事において貢献に焦点を合わせることで「成果」に注意向けるこ
とができるようになるとドラッカーは繰り返し言っています。
ドラッカーは、宗教的な価値観(=ものの見方、判断の仕方、行動
様式)が支配した中世ではなく、個人の利益が資本主義とともに浮
上した20世紀の人です。
ドラッカーは、貢献という偽善を言っているのか?
例えば就職面接を受けるとき、素直に「仕事は貢献と考える」と言
えるか疑問です。むしろ、職場を得て給料をもらい活動の場を得た
いと思うというのが素直な心情でしょう。
面接官も、学生が「仕事は、会社と顧客への貢献と考えます」と答
えれば、この人は虚言癖があるとマイナス点を付けるかも知れませ
ん。
あなたならどうでしょうか? このメールマガジンを、就職を探し
ている周囲の人にも転送して見て下さい。新たな考えになるかも知
れない。人事担当と原価計算部の方々にも送信しても、反応は面白
いでしょう。
自分以外の他への貢献よりも、自己利益が根底である。これも自然
な考えです。実感では、ドラッカーが言う貢献と、自然に理解でき
る自己利益の間に相当な距離があります。実感は、腹に落ちる理解
とも言うことができます。
■2.貢献とは対極にあるように思える「自己利益」
<実際(個々人は)一般的に言って、公共の利益を促進させようと
いう意図をもたないし、自分がどれくらいそれを促進しているかも
知らない。・・・彼は自分の利益のみを意図しながら、『見えざる
手』に導かれることによって、彼の意図とは関係のない(公共の)
目的の促進を図っていることになるのである。(『国富論』:アダ
ム・スミス[1723〜1790])>
経済学で、これ以上は有名なものはないくだりです。多くの人が読
まないクラシックである『国富論』の中で、アダム・スミスはたっ
た一回だけ「見えざる手」という言葉を使っています。
「見えざる手」は、自由競争のマーケットを意味しています。
後世の人々は、あらゆる場面で、数限りなくこの「見えざる手(市
場)」を引用し、毎回、異なる角度から議論しています。
(古典の常として、原文を読んだことのない人が多いので、あえて
示しました。)
貢献ではなく自己利益なら、誰にとっても実に自然に理解できます。
<われわれが自分の食事を取ることができるのは,肉屋や酒屋やパ
ン屋の『博愛心』によるのではなく,彼等自身の利害関心に対する
関心(自己利益)によるのである。(同書)>
肉屋やパン屋は、社会への貢献(いわば博愛心や公共心)からでは
なく、自分の利益のために肉を売り、パンを作って売る。
すべての元は「自己利益」である。パン屋がパンを焼くのは顧客の
ためではない。自己利益を図るためである。仕事も、貢献のためで
はない。自己利益のためである。確かにそう思えます。
(推奨)クラシックには、徹底した思考があります。「なぜ?」を
無限回問い、答えをもとめる徹底です。途中で思考をとめた浅薄な
ものは古典としては残っていない。時折、お読みになることを奨め
ます。
鍵になるのが、自由な市場(マーケット)です。
■3.自己利益と貢献の矛盾をむすぶ通底器がある
事例のパン屋のようであるなら、顧客への貢献を元にするのではな
く、自己利益をもとめればいい。商品は、マーケットで、自由な選
択権をもつ顧客に売らねば、売る側に利益をもたらさないからです。
ところが、自己利益をもとめてパンを作り売ろうとしても、マーケ
ットの顧客だれも買わねば、パン屋の自己利益は実現できない。
鍵になるのはここです。
以下がその構造です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
[自己利益を動機にし、仕事で商品を作る]
↓
[自由市場での売買]
[顧客は自己利益を動機に商品を選んで買う]
↓
[結果は、社会や顧客への貢献になる]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
▼市場
マーケットの「顧客」を一言で定義すれば、商品に対しノーと言え
る選択権をもった人です。
顧客は、買う自由と買わない自由をもつ。
顧客も、自己利益から商品を買う人です。
この自己利益のぶつかり具合をグラフにして、マーケット(市場)
の価格論にしたのが、ミクロ経済学です。
売る側のパン屋も、多数あって、競争する。買う側は、いいと思う
(自分に得がある)パンを選んで買う。これがマーケットです。
互いの自己利益を価格で示し、ぶつける場が経済学では「マーケッ
ト」と言われる。
このマーケットの見えざる手に導かれて、
・肉屋やパン屋が自己利益を徹底してもとめれば、
・マーケットを通じた結果として、
顧客や社会への貢献に至ることになる。
これが、資本主義の『自己利益』に対し、追求に情熱を与えた考え
です。
ではドラッカーはなぜ、皆が自然に理解できるアダム・スミス的な
『自己利益』と言わず『貢献』と言ったのか? 貢献は、原文では
contributionです。
ドラッカーが書いたものを、アダム・スミス風に言い換えれば以下
のようになるでしょう。
<(周囲や顧客への貢献ではなく)自己利益に焦点を合わせること
によって自らの専門分野だけではなく、組織全体の成果に注意を向
けるようになる。成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意
を向けるようになる。>
同様に、個人の集合体である企業も、徹底して自社利益をもとめれ
ばいい。
「自由競争の市場を通じるという条件の中」では、自己利益をもと
めた結果が、社会や公共の利益を高めることになると言えます。
自由主義の経済、あるいは市場経済を作った根本の思想がこれです。
労働者ではなく資本家、つまり株主はどうか?
株主も、株式市場を通て、自分に利益をもたらすと思える会社の株
を買うだけでいい。その結果、資本市場全体では(言い換えれば社
会では)、資本の最適な配分が図られることになる。
自由な選択権をもつ顧客を前提にすれば、根底は、自己利益をもと
めることだと言えそうです。
一見では対極的な「自己利益」と「貢献」を、深いところで通底さ
せるものが、顧客が自由に選択できる市場という「見えざる手」で
す。
企業がミッションにすら掲げるようになった顧客満足、いわば顧客
貢献は要らない。
企業はあくまで自己利益を追求すればいい。自由な選択権をもつの
は顧客だからという市場主義になる。
果たして、これでいいのか?
ここで検討すべきは『マーケット(市場)』という概念です。
市場は価格を決める機能をもちます。企業がつけた価格が、商品価
値(商品の効用)に比べ高すぎれば売れない。売れる価格にまで下
がる。買われる価格が本当の価格です。企業は仮に価格をつけてい
るに過ぎない。
■4.再び貢献
<顔を上に向けることによって、ほとんど無意識に、他の人が何を
必要とし、何を見、何を理解しているかを知る。更には組織内の人
たち、つまり上司、部下、他の分野の同僚に対し、「あなたが組織
に貢献するには、私はあなたにどのような貢献をしなければならな
いか」、「いつ、どのような形で貢献しなければならないか」を聞
けるようになる(『仕事の哲学』:ドラッカー)>
組織内での仕事は、外部の顧客に売るように、一回一回「マーケッ
ト」で取引されるものではありません。
▼組織の中の上司は一種の顧客
上司や同僚は、自分にとっていわば「固定的なユーザー」です。
組織内で仕事をする人は、
・内部には、仕事を評価する上司という顧客、
・外部には、商品価格を商品価値と比較する顧客をもつ。
あなたの仕事を[直接に]評価し、価値を認め買ってくれるのは、
上司であると言っていい。仕事の価値が低いと思えるときは、上司
がやり直しを指摘します。
仕事の価値(=成果)が高ければ満足する。
上司は、部下の仕事にイエスかノーと評価する権限をもっています。
上司は、自分にとって企業内顧客です。上司の上にも、別の上司が
いて、部署としてのチームの仕事は、その上の上司が、評価して買
う。あるいは拒否する。
しかし、組織は、一個一個の自分の仕事が、「価格」をもってその
都度取引される市場ではない。
組織を経済学では、労働の準固定的な中間市場とも言っているよう
です。
組織と市場を分かつのが、雇用の「準固定性」です。
1日の仕事が終われば解散するなら、組織ではない。
組織では仕事をノーと言われてもすぐには辞めない。明日も明後日
も勤務します。組織は、商品が売買されるマーケットとは異なりま
す。
▼組織内市場の固定的な性格
企業は、長期で見れば、個々人の仕事を買う市場でもあるように思
えます。
しかし、組織内の人は、一回一回、労働市場で異なる価格をつけて
仕事を企業に売るのではない。
企業は(端的に言えば上司は)、社員の仕事を固定価格(固定給)
で、継続して買う。
自由競争があって、顧客が絶対的な拒否権、言い換えれば選択権を
もつ市場でなら、自己利益をもとめて商品を、つまりは仕事の結果
を売ってもいい。
(補注)正確に評価されたな成果給では、自己利益と貢献が一致し
ます。成果給は、企業内を、労働市場にする仕組みです。しかし企
業内では、個々人の成果の正当な評価は困難です。そのため、青色
レーザーを開発した中村氏と日亜化学のような裁判が起こります。
以下、自分の今の仕事を考えながら読んでください。
■5.内部市場の報酬と外部市場の商品価格
▼検討すべきこと
アダム・スミスが言うように自己利益同士が「市場という通底器」
を通じ、貢献に至らせる。しかし会社という組織の中ではそうでは
ない。個人の仕事は、以下のような二重の構造を持ちます。
個人の仕事の価格
=(組織という内部市場では)短期では固定給
=(市場という外部市場では)商品売価の構成要素
個人が仕事の対価としてもらう給料の合計は、企業が売る商品の価
格を形成する主な要素です。
会社では、毎日、同じ上司、自分の部署あるいは他の部署で分業を
する同僚がいる。
その会社の中で、個々人が、あるいは部署が、自己利益の主張によ
って仕事をすればどうなるか?
おそらく組織の外部である市場では、顧客獲得の競争に負けます。
実を言えば、私には、このことがなかなか分からなかった。
組織の内部の仕事は、外部の顧客から見れば、すべてがコストです。
人は、組織の内部で自分が有益な仕事をしていると主張します。
自分の給料が、外部の顧客にとってのコスト、つまり商品価格の構
成要素であると、普通は考えません。
しかし数式で言えば以下です。
顧客が買う商品価格
=企業の内部で費やされる総コスト+見込み利益
企業は自由市場の中で、[企業の内部で費やされる総コスト]を、
顧客にとってより有効なコストしなければ、消滅します。仕事は、
顧客の立場から見ればコストです。
▼商品価格と商品価値の関係
商品価格は、顧客にとってのコストです。
コストとは、顧客が払う犠牲です。
価格をprice(対価)と言えば了解できます。priceは犠牲でもある
。だれの犠牲か。顧客が商品を買うために支払う犠牲です。これが
「価格」です。
顧客は、
・商品を買うために支払う「価格(対価、あるいは犠牲)」と、
・商品から得られる便益・効用、つまり「商品価値」と比較する。
<商品価値=商品の顧客にとっての便益・効用÷価格>です。
これを『商品価値公式』と言ってもいい。
(注)同様に、仕事の価値=仕事の成果÷価格
このときの価格は、給料と経費というコストです。
その会社の商品価値だけではない。
顧客は、他の会社の商品価値と比較する。
他の商品の商品価値に比較し、対価(価格)が高いと思えば買わな
い。
企業がもとめる「付加価値(=収益)」は、顧客にとっては、その
商品の効用を買うための価格、つまり支払う犠牲です。
商品の付加価値が顧客に評価されず売れなければ、企業の内部で費
やされた総コストはムダなって、損失を生みます。
損失が重なり、過去の利益の残りである資本を食ってしまえば、企
業は、組織もろともに消えます。
▼内部費用
企業の内部で費やされているのは、すべて、顧客にとってのコスト
になると考えれば、自分の仕事に、自己利益とは違った地平が開か
れるように思います。
仕事は貢献と思えるようになったのは、私もほとんど最近です。
(それとともに、何か、うまく行くようになった感じもします)
メンターはサム・ウォルトンでした。「われわれが(自己利益のた
めに)1セントをムダに使えば、それは顧客が負担するコストにな
る。」
言われれば当然のことです。
どこからどう考えようが、反論の余地はない。
しかし言葉は、理解するまでには熟すための期間が必要な感じがし
ます。
自分がもらう報酬や給料を、外部の顧客が負担することになる対価
(=犠牲)だと考えることは、なかなかできなかった。
人は身勝手です。「公務員が、国民が積み立てた年金をムダに使え
ば、それは国民の負担を増やすことになる」という見解には、公務
員以外ならすぐ同意できます。
国民は、公務員の自己利益のための事業や無駄遣いを非難します。
その無駄遣いが、結局は、国民の負担(税)になるからです。
しかし、会社で自分がもらっている給料が、外部の顧客の負担にな
るとは考えない。(ここが、身勝手な点です)
理由は、会社内の分業、つまり部署の仕事では、組織が壁になって
外部の顧客を隠すからです。
給料は会社が払う。顧客ではないからです。
しかし会社の収入はすべてが顧客からしか来ない。
【資本も同じ】
資本も同じです。株主という、会社にとっての外部から来る。資本
は、複式簿記の貸借対照表上では、負債の側に記載されます。
会社から見れば、資本は、株主に負う負債です。
負債ですから、配当を払い、株価を上げる義務がある。
(注)資本は負債であると思っている人は意外に少ない。銀行員も
預金が、顧客からの負債とは思っていないフシがあります。だか
ら政府に言われれば、平気で債権カットの恩典(=預金者と株主の
損失)を与えます。
(注)官の組織も、自分達の給料や、手厚い福利厚生費が、国民の
コスト(犠牲)であるという明白な事実から[貢献]を考え直せば、
それがリストラになります。[普通の考え]でいいのです。
■6.貢献をあらわす顧客満足
仕事で行うべきは、自分以外の外部への貢献です。
しかも、他より優れた貢献です。
会社員は、一回一回、商品が顧客によって評価される市場ではなく、
固定的な職場である組織で仕事をする。
そうであれば、自己利益ではなく、貢献が前面に出なければならな
い。
ここまで考えると「顧客満足」や「顧客への貢献」ということが異
なる地平で見えてきます。
今回は、ドラッカーが問いかけた「貢献」について考えました。
組織の内部での、細かい分業の中で、企業が果たすべき外部の顧客
への貢献が、見えなくなってしまっています。大きな会社ほど、仕
事と顧客が遠い。
本稿のような、(若干面倒な)論を経れば、仕事は「貢献である」
ことも見えてくるはずです。そのことは、自分の仕事を、明日から、
うまくやる方法にもなります。
経験上、それが言えます。
多くの人が、自己利益で、考えが固まってるいるからです。
▼3つの問い
1.あなたの仕事は、どういう点で、外部の顧客への貢献につなが
っているか? それを明らかにしなさい。
2.あなたの仕事は、どういう点で、会社に貢献しているか?
貢献の内容を述べなさい。
3.あなたの仕事は、どういい点で、チームに貢献しているか?
貢献していると思われる点を3項目、重要なものから書きなさ
い。
この3つの問いに、まともに答えられないとすれば、その仕事は無
効です。今は職場があっても、いずれ消えます。
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▼ 有料版の最近号の、テーマと目次です。
<217号:仕事ができる人の習慣(2)>
【目次】
1.(習慣1)何に多くの時間をとられているかを知ること
2.(習慣1に関連して)成果に焦点を当てることの素描
3.(習慣1に関連して)部下やチームの行動を変えねば成果は出
ない
4.何も行わねば何が生じるかを考える
5.本来行うべきことを考える
6.非生産的な仕事と、生産的な仕事を分かつ分岐点
7.時間をとられる会議はなぜ必要になるか
8.情報の不全
6.本来の組織
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