緊急号:郵政民有化解散
This is my site Written by admin on 2005年8月9日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。暑い日が続いています。お元気でお過
ごしでしょうか。

政治は、小泉首相の執念から予想外の展開を見せています。

郵政民営化の参院採決は、造反が多いとの予測から、予定の8月5
日(金曜日)から、8月8日(月曜日)にずれ込みました。

TVで採決を見ていましたが、結果は賛成108票、反対125票。
自民から22人が反対にまわり、欠席は8名でした。

小泉首相は否決の直後、解散に反対した島村農水大臣(法案には賛
成)を罷免(ひめん)し、衆院解散を表明しました。投票日はあの
「9.11」の予定です。

自民党執行部は、衆議院で否決した37名を公認をしないことも表
明しました。自民は2派に割れ、反対派には新党を作る動もあるよ
うです。郵政民営化の政府案を踏み絵にした自民の分裂選挙である
ことが、今回の選挙の本質です。

きっかけは郵政民営化でしたが、その後の動きは、政策争点から離
れ、自民内の反小泉でした。

衆参両院での投票は、「小泉首相への従属か、反小泉か」を問うも
のに変わっていました。

解散は、首相の専決です。しかし一般には、与党内の派閥の合意の
上で実行されてきました。

▼「国民投票」へ

ところが今回の解散は、小泉首相のほぼ独断です。

自民のほとんどは、野党に転落するかもしれない解散・総選挙に反
対しています。

小泉首相は「政府の民営化案について事実上の国民投票を行なう」
ことを解散の理由にしています。

首相だけは、少数派への転落は想定していません。
構造改革路線と郵政民営化への国民の支持は、厚いと見ているから
です。

▼私の立場

まず私の立場を明らかします。郵政の民営化には賛成です。

しかし、郵貯と簡保の民間金融機関化、つまり株発行で予想される
10兆円から15兆円の時価総額のうち過半を、外資系ファンドが
買収し、[郵貯+簡保]の330兆円のジャパンマネーの運用を支
配することには反対します。

郵貯・簡保資金を、目的である民間経済のために使うには、「政府
による株の買戻し特約」をつけ、売却することが必要です。

郵貯と簡保の資金が民営化の趣旨以外に運用されるようなら、買戻
しをする特約です。

(注)買戻し特約は、国有地の払い下げ等ではよく使われる方法で
   す。

▼本稿の目的

本稿では、
(1)意外に知る人が少ない郵政の民営化の内容(政府案、そして、
   与党内と民主党の反対理由等)を整理し、明らかにします。
(2)それによって「9.11国民投票」での政策的な争点を、は
   っきりさせようと思います。

理由は、郵政民営化の適否を判断するのは、われわれ国民になった
からです。その意味で、9.11は珍しい選挙です。

「従来と異なり、次の首相と与党を国民が選ぶ」点で、総選挙の性
格が変わります。

(注)本稿の内容は、有料版の、臨時増刊号と共通のものです。

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   <Vol.212 :緊急号:郵政民有化解散>

【目次】

 1.予想していたことと実際の展開のズレ
 2.政府案
 3.民主党の反対
 4.問題の焦点
 5.郵貯・簡保が国債を売却すれば
 6.資金を民間に回すという政策は可能か?
 7.郵貯・簡保資金は民間では使えない
 8.金利高騰の臨界点が近い

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■1.予想していたことと実際の展開のズレ

最初に、解散・総選挙という結果を見る前の予想を示します。
結論を言えば、私の予想は、はずれました。

8月5日以前は、以下のように予想していました。

(1)直前の05年7月都議選に現れたように、総選挙を行なえば、
自民が負ける可能性が高い。自民は、ますます公明党依存になる。

(2)03年の衆院選挙のときは、小泉人気が高く、結果は自民2
37人の当選(過半数は240名)、民主は177名だった。
今、小泉人気は03年より落ちている。

(3)首相の解散発言は、当落すれすれの、40%くらいの議員へ
のブラフ(はったり的な脅し)である。

(4)自民または民主が政権を構成するとき、キャスティング・ボ
ードを握り、800万の固定票を持つ公明党は、総選挙に反対して
いる。公明党の協力次第で、当落が決まる議員が多い。

(5)参議院での民営化案の否決は、予想される。

(6)政府は政策的な妥協を図って、再審議に向かう。

予想がはずれた原因は、「総選挙に持ち込めば勝てる。原案通りに
民営化ができる。」と小泉首相が「心底から考えている」とは思っ
ていなかったからです。

「現政権の『構造改革路線』に対し、国民の支持は厚い。」という
小泉首相の「信念」を、見誤っていました。

▼派生的な問題

郵政民営化は「特定郵便局の維持」か、そうでないかという「派生
的こと」が主な問題として取り上げられるようになっています。

理由は、郵貯・簡保330兆円の資金運用は専門的になって、説明
が難しくなるからでしょう。

全国2万4千郵便局(2000世帯当たり1郵便局:比較コンビニ
4万店)のうち、三分の2の、1万8千局は赤字です。

赤字分は、郵貯・簡保の黒字で補填されています。

郵便を単独で行なえば、過疎地を含むネットワークの維持は、今の
ままの事業内容では難しくなります。インターネットとeメールで、
今の郵便は、衰退産業になっているからです。

郵便制度が発足(1871年)した明治以来の、世襲制に近い「特
定郵便局」で構成される特定郵便局会は、旧橋本派(田中角栄派を
継承)と自民党の強力な支持基盤でした。特定郵便局は、1万9千
局です。

民営化反対のリーダーである前衆議院議長、綿貫民輔氏(旧橋本派)
は、特定郵便局会の会長です。

本稿では、特定郵便局の維持ということからではなく、郵政民営化
の政府案全体を見ます。(注)中身が分かりにくいためか、内容が
知られていません。

民主党は政府案に反対です。しかし「郵政の正常化」を図るべきだ
と言いつつ、何を反対しているのか、はっきりしません。

この2つを、単純化しながら明らかにして行きます。

■2.政府案

郵政事業は、政府案では、(1)郵貯、(2)簡保(生命保険)、
(3)郵便、(4)窓口業務の機能に分けることができます。

▼4事業の株式会社化と、持ち株会社

政府案は、4機能を独立させ、株式会社にする案です。
(株式会社化を「民営化」と呼んでいます。)

4つの株式会社の上に、4事業の「持ち株会社」を作る。
国(政府)は、持ち株会社の三分の1以上の株をもつ。

(注)現在は、4事業を行なっている郵政公社です。

▼最終的な民営化イメージ

以下は、4つの会社の事業内容です。

(1)窓口業務会社

各地の郵便局は、多くが、窓口業務会社になります。

・郵便、郵貯、簡保の窓口業務を行なう。
・合わせて年金、恩給、公共料金の受払い業務も受託する。
・コンビニ風小売、旅行代理店、チケット販売、介護サービス等も
 行なう。

(2)郵便事業会社

・郵便について、窓口業務以外の、集配事業を行なう。
 郵便料金については、政府が関与を続ける。
・物流業(宅配等)を行なう。

(3)郵便貯金会社

・民間金融機関と同様の、預金・貸出・債券売買の業務を行なう。
 窓口業務は、窓口会社に委託する。
・郵貯の支払いについての政府保証は廃止し、預金保険機構に加入
 する。

預金量210兆円の「銀行」が誕生することになります。

(4)郵便保険(簡保)会社

・民間生命保険会社と同じ業務を行なう。
 窓口業務は、窓口会社に委託する。

保険基金120兆円の「生保」が生まれることになります。

以上が政府案の骨子です。

この案に強く反対しているのは、窓口業務会社に属することになる
郵便局(特定郵便局)です。

反対の理由は、
(1)身分保証のある国家公務員の地位を失うこと、
(2)過疎地の局は赤字になる可能性が高く閉鎖されるのではない
   かという恐れです。

今回の自民党の反乱は、郵政族議員が中核であり、それに与党内の
反小泉勢力が加わっています。首相の政治手法が、党および大臣人
事と政策において、「独裁的」であるということが理由です。

■3.民主党の反対

民主党の政府案への反対には、はっきりしない点があります。

内容が曖昧(あいまい)な「正常化」が必要だとし、政府案の民営
化はダメだと言っています。

▼反対理由

以下が反対理由です。

(1)官有を残した民営化のまま巨大な金融機関を誕生させるのは、
   民業の圧迫になる。

(2)4つへの分社化は、天下りポストの増加である。

(3)経営リスクが大きく、将来の国民負担になる。

(4)政府案では、民営化新会社が国債を購入し続ける。

(5)赤字の郵便局が閉鎖され、子供や高齢者がアクセスできる身
   近な窓口が失われる。

(6)郵政公社職員の人件費は、事業収入内でまかなわれている。
   民営化で、小さな政府になるのではない。

(7)利益を求める民営化とユニバーサル・サービス(過疎地・高
   齢者サービス等)は両立しない。

(8)民営化が成功すれば民業が圧迫され、失敗すれば公的資金で
   の処理コストが増える。

(9)郵貯会社・保険会社が外資に買収される恐れがある。

▼民主党の言う「正常化」とは?

郵便は、国際条約で基本的な公共サービスとされている。従って、
民間業者と競争しながら、国も一定の役割を果たすべきである。

一方、金融事業については、民業を補完するという原点に立ち返り、
適正な規模にまで縮小する。

つまり、郵貯に集まる預金を減らし国債を買わないで、「民間に貸
す直接金融」にする。郵貯・簡保が国債を増加買いできないように、
郵貯・簡保を減らす策をとる。

以上を、民主党は「郵政事業の正常化」と言っています。

政府案に反対する理由をまとめれば、以下です。

(1)国が大株主の郵政株式会社では、政府の(国債発行による)
   無駄遣いは直らない。
(2)政府案の郵政の民営化は、民業を圧迫する。
(3)民営化で成り立つという計算根拠が弱い。

http://www.eda-jp.com/dpj/2005/050329.html

こうした趣旨の民主党の主張を「公正に」読もうとしましたが、論
拠がよく分かりません。

「民営化がうまく行けば、民業を圧迫する。失敗すれば、国の負担
が増える。政府案では国債買いも減らない。官業は民業を補完する
という原点に立ち戻るべきだ。現在の郵政公社のままで、正常化を
目指す。」ということでしょうか?

民主党は「正常化」の内容を、クリアに示さねばならならないよう
に思えます。

明らかにすべきは、民主党が言う郵政の「原点」とは何か、です。
私には、原点が何か分かりません。

ホームページに示された結論として「多様な改革案を、適時適切に
実行する」と書いてあります。その多様が何か、適時適切が何か分
かりません。

政治家がよく言う「キチンとやる」という不明な言葉と同じです。
キチンとやることの内容を具体的に言わねば、意味はない。

民主党案は、政府案の代替にはなっていないのです。

■4.問題の焦点

郵政問題の表面上の政治的な争点は、窓口事業としては現在赤字の
郵便局(1万8千局:損益数値は未公開)を、どうするかというこ
とです。

赤字分を郵貯と簡保の黒字で補填しながら、他の地域サービス事業
を行なって、順次、黒字化を図って行くという方策に落ち着くでし
ょう。

もっと大切な焦点は、
・過去は旧大蔵省の財投(公共投資)と公債購入(国債・地方債)、
・現在は、(同じことですが)財投債の購入と公債の購入に当てて
 きた郵貯・簡保の資金を、今後どう使うかという点です。

明らかにするために「郵政公社」の資産・負債内容を、整理しなが
ら見ます。貸借対照表という数値での把握が論をはっきりさせます。

内容を見れば、世界1巨大な金融機関と言うより、公債の購入と国
家への貸付機関が郵政公社です。

金融機関としての業務は、資金の運用では、無いに等しい。
運用では、国家への貸付しか行なっていないからです。

▼郵政公社の貸借対照表は、整理すれば単純な内容になる

   【郵政公社の貸借対照表(05年3月期:最新)】

右側の負債・資本が、資金の源泉です。どこから資金が来ているか
を示します。左側の資産は、資金が何に使われているかを示します。

【左側:資産の部】      【右側:負債・資本の部】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
現金・預金   9兆円   郵便貯金  211兆円(←国民)
金銭信託   12兆円   簡保準備金 119兆円(←国民)
有価証券  217兆円   借入金    38兆円
預託金   118兆円   その他負債  14兆円
貸付金    27兆円
不動産     3兆円    資本金    1兆円
その他     2兆円    その他資本  5兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
資産合計  388兆円    負債・資本合計388兆円

http://www.japanpost.jp/top/disclosure/pdf/financial16.pdf

【補注:国民1人あたりでの換算】
1兆円を、国民1人当たり約1万円に換えると分かりやすくなりま
す。1兆は1万円の1億倍です。

【左側:資産の部】      【右側:負債・資本の部】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
現金・預金   9万円   郵便貯金  211万円(←国民)
金銭信託   12万円   簡保準備金 119万円(←国民)
有価証券  217万円   借入金    38万円
預託金   118万円   その他負債  14万円
貸付金    27万円
不動産     3万円    資本金    1万円
その他     2万円    その他資本  5万円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
資産合計  388万円    負債・資本合計388万円

金額は巨大であっても、郵政公社の負債(資金の源泉)と、持って
いる資産の中身は単純です。以下の3行でまとまります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
郵貯と簡保として、330兆円の国民からの借り入れがあり、
・有価証券217兆円(国債170兆円、地方債16兆円、社債2
 6兆円、海外証券5兆円)の購入と、
・財務省への預託金118兆円で、運用しています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

資産の有価証券のうち、[国債170兆円+地方債16兆円]であ
り、公債の合計は186兆円です。

財務省への預託金(預けたお金)118兆円も、実質的には国債(
=国家への貸付)と同じです。郵政公社が預託金を引き出せば、財
務省は、国債発行で補うしか方法がないからです。

両者を合計すれば、304兆円が「国債」の保有であると見ること
ができます。

以上をまとめれば、
・「国民から預かった郵貯・簡保の330兆円」は、
・そのほぼ全部が「304兆円の国債」になっているということが
 できます。

単純化すれば以下です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
[国民の金融資産 330兆円]
    ↓
[郵貯・簡保の資金 330兆円]
    ↓
[国家への貸付 304兆円(国債+公債+預託金)]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

330兆円の国民の金融資産を、ほぼそっくり、国家に貸付してい
るのが郵政公社です。

▼郵貯・簡保の機能は「国債買い」だった

「安定的に国債・地方債を買う郵貯・簡保」があったからこそ、国
や地方は800兆円余の公債を発行する(=借金をする)ことがで
きたと言うことができます。

公共投資や特殊法人への貸付に回った「財投(約350兆円)」も
同じです。郵貯・簡保資金は、財投の原資でした。

小泉首相の持論である「郵貯・簡保の民営化によって、公債買いや
特殊法人への財投を減らす」という政策は、郵貯・簡保が増えてい
る時期、つまり90年代までは、まだ、意味がありました。

郵貯・簡保が減少に入り、しかも十分すぎる304兆円も国家が使
ってしまった後(2000年以降)は、意味が薄くなっています。

郵貯・簡保の資金を利用するには、国家から回収しなければならな
いからです。

ところが国家は、一般会計で40兆円規模の赤字予算です。過去は
黒字だった厚生年金(特別会計に属します)も、年5兆円の赤字で
す。

郵貯・簡保が資金を回収すれば、国家は返済原資を得るために、ま
すます国債を増やして発行しなければならない。

【民営化案】
政府案の「民営化」は、国が使っている郵貯・簡保の304兆円の
資金を、幾ばくか「民間」に回すということです。

民主党案の郵貯・簡保の縮小案もこの点で類似しています。

郵貯・簡保資金を、民間に回すことは、両党に共通の政策目的にな
っていると言っていいのです。

小泉首相も竹中郵政担当大臣も「郵貯・簡保の資金を民間に回すの
が、民営化の目的である」と明言しています。

実際に、これが可能かを検討します。可能なことを検討することが
なければ、政策に意味はないからです。

■5.郵貯・簡保が国債を売却すれば

▼郵貯・簡保はすでに減少傾向

郵貯・簡保はピークからは減少しています。高齢化にともなって、
必然的に世帯の貯蓄率が減るので、今後も、一層減少します。

家計の貯蓄余力は、50歳を超えた高齢者の賃金の下落と60歳を
超えた人の退職のため、2000年以降、年を追って小さくなって
いるからです。

他方、40歳代は、住宅価格下落と減らない住宅ローンで債務超過
になっている世帯が多く、貯蓄増加の余力が小さい。

生命保険である簡保の、死亡保険金の支払いと満期支払いも今後、
増加します。

郵貯・簡保マネーの「入り口」は、すでに小さくなっています。

大きいのは330兆円の残高だけです。ところが330兆円は、3
04兆円の「実質的な国債」になっています。

今と将来の郵貯・簡保に、資金の増加余力はないのです。330兆
円の郵貯・簡保資金とは言っても、現金・預金はたった9兆円に過
ぎないのです。

民主党が言う「民業を圧迫する巨大金融機関」にもなりようがない。
304兆円の資金が、すでに国家への貸付として固定されている
からです。

資金力とは、利用できる資金の大きさです。304兆円も国家への
貸付に固定していて、どこに資金力があるのか?

■6.資金を民間に回すという政策は可能か?

この資金を民間に回すということは、どんな意味をもつか?

国債を売却して現金(流動性)を手にし、それを民間に融資し、社
債を買うということしか方法はない。

(注)郵貯・簡保が持つ304兆円を、金融市場でさばくことの意
味について、政府と民主党の双方で、検討がされていないように思
えます。

▼郵貯・簡保が国家への貸付を減らせばどうなるか?

もし郵政公社(あるいは民営化会社)が、これからも年40兆円の
規模で増発される国債、10〜20兆円規模で増える地方債を、市
場で売却すれば、金融市場はどうなるか?

「売却の方針」がマーケットで感じられた途端に、国債価格が下落
し金利が上昇します。(しかし売却しない限り、郵貯・簡保も資金
はない。)

郵貯・簡保も、国債価格と債券の下落で、巨額の損失を蒙ります。
そうなると、民営化での資金運用どころではなくなります。

民営化で政府保証を失った郵貯に、取り付けのような「大量引き出
し」が起こるかもしれません。

郵貯・簡保が資金を出している政府財投(約350兆円:特殊法人
貸付)のうち100兆円は、不良債権と見られているからです。

民間金融機関(銀行・生保)も、国債を最も多額に持つ郵貯・簡保
が手放すなら、やっとの思いで確保した自己資本(8%または4%)
が、手持ち国債の下落による損失で壊れるのを恐れ、投げ売りす
るでしょう。

国債の安定した買い手であり、増加して保有してきた郵貯・簡保が、
国債を買わない、または売却するとなれば、横を見ながら、国債
下落の損失を恐れている金融市場の反応は、激しいものになります。

「すでに使われてしまった」郵貯・簡保資金を、赤字で金庫が枯渇
している国家から回収することは、事実上不可能です。(このこと
が大切な点です。)

郵貯・簡保は低利の国債を買う機関でした。
日銀と並んで超低金利策を助けてきたのです。

郵政公社が国債を売却すれば、
・国債の暴落、
・金利の急上昇という市場の波乱が、即日に起こります。

金融市場は「割引によって未来を現在化する方法」を使う市場です。

マーケットは条件の変化(例えば、郵政公社が国債・財投債を買わ
なくなること)に敏感です。

郵政公社が増加して買わないという方針になったようだというだけ
でもマーケットの波乱が起こります。

国債が、金融機関に買われている理由は、
・郵貯・簡保が、安定した買い手であること、
・日銀が月1.2兆円を買っているという背景があるためです。

郵貯・簡保が国債を買わねば、あとは日銀しかない。

■7.郵貯・簡保資金は民間では使えない

小泉首相と竹中大臣が言う「郵貯・簡保の巨額資金を、国には使わ
せない、民間に回す」というのは、ここまで考えれば、架空に近い
政策目標になります。

唯一の方法は、郵貯・簡保が売った国債を、横流しで日銀が引き受
けることですが、
(1)この策は、円の通貨信用を下落させ、
(2)円安と同時に、金利高騰を招くことになります。
   結果は同じことになります。

郵貯・簡保の資金は、国民が貯めた預金という信用の裏づけをもっ
ています。

「日銀信用」には、資金の根拠はない。
「マネー政策での自己規律」だけが日銀信用です。

以上のような、ギリギリにまで来ている国債需給と金融市場を考慮
に入れたとき「郵政民営化」はどんな意味をもつことになるのか?

▼郵政民営化の意味

現在の郵政公社の職員を、国家公務員から民間社員にし、郵政事業
を利益をベースに経営を行なう会社にするということだけです。

乗用車の普及で赤字を拡大した国鉄の民営化(27兆円の借金を国
鉄清算事業団に渡し、現JRとして企業再生)に似ています。国鉄
にとっての自動車に当たるのが、現在の郵便にとってのインターネ
ットです。

財務省は、郵貯・簡保という政府機関の安定した国債の引き受け手
を失います。従って国債の発行額について、慎重な姿勢を要求され
ます。

これが政府予算の、いくらかの抑制につながるとすれば、郵貯・簡
保の民営化の効果と言えるでしょう。

国債や地方債を売って郵貯・簡保の資金を民間に回す(融資する)
のは、お茶を濁すくらいしかできない。民主党が言う銀行業の圧迫
にはなりません。

以上のような事情を考慮に入れた上で、郵政の民営化政策について
判断をすべきでしょう。

政権選択は、国民の手にゆだねられました。

反対派が、大きな新党を作る可能性はないと見ます。
自民公認を受けない人は、多くが無所属で戦います。
理由は「皆が選挙後の自民復帰」を願っているからです。

「小泉構造改革」はもう有効なキャッチフレーズにはならないでし
ょう。しかし国政の歴史上ほぼ初めて、首相と与党の選択を、国民
が総選挙で行なうという意味はあります。

小泉首相の功績は、族議員と敵対し、族議員が構成していた自民の
派閥を無力にしたことです。構造改革とは、政界の構造改革の意味
でした。

■8.金利高騰の臨界点が近い

借金は、返済せねばどんどん増えます。
累積赤字の先延ばしは、負債をもっと大きくします。

政策論では、
政府の赤字と「1週間で1兆円以上の速度(年50兆円〜60兆円)」
で累増する公債を、今後、どうするかでなければならない。

多額の国債増発を、郵政公社や日銀で引き受けて、こそこそやるよ
うでは、一層危険が増します。

巷(ちまた)の「国家財政破綻論」に対し、そうではないという論
拠と数字を全部挙げ、まともに答える政府でなければならない。
次期政権は、この問題に、直面を迫られるからです。

日銀だけが国債をもっと大量に買うしか方法がない時期が、近づい
ています。

政府への貸付に304兆円が固定された郵貯・簡保の資金は、枯渇
しつつあるからです。1400兆円の個人金融資産は、今、その8
0%が、国家への貸付になりつつあります。

個人金融資産の90%(1260兆円)が、国家・地方への貸付に
なったときを臨界点に、金利が暴走する可能性が高いと思えます。

個人金融資産が1400兆円あるから、日本の政府赤字は大丈夫と
は、もう言えないのです。

猶予(ゆうよ)分はあと100兆円〜150兆円、期間にすれば2
年から3年でしょう。遅くとも4年(200兆円)

次期政権は、このことに、まともに取り組まねばならない。

see you soon!

【後記】
TVで、議員討論を聞いているとむなしくなります。議員失業を恐
れる人、そして個人的な怨念や自分の面子(めんつ)を主張する人
にしか見えませんね。

一般会計と特別会計を含む国家財政の総体について、具体数字を全
部挙げ、論理的に政策論を深める人が出ないものなのでしょうか?

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▼ 有料版の最近号の、テーマと4号分の目次です。

<219号増刊:仕事ができる人の習慣(4)>

【目次】

1.貢献
2.貢献とは具体的には?
3.成果への貢献
4.事例の研究
5.成果へのコミットメントが必要
6.重要:責任について
7.成果の3つの領域
8.個々人の強みを活かして生産的な組織を作る
9.強みと弱みは同居する
10.しかし品性と誠実さは例外
<220号:仕事ができる人の習慣(5)>

1.驚くべき原理:比較生産費から
2.英国とポルトガルの得意分野の仮定(=モデル化)
3.比較生産費という概念を使いリカードゥが下した結論
4.分業での合計の有利性を論証したリカードゥ
5.両国が生産を特化し、貿易したとき
6.強みを組み合わせること、強みで分業すること意味
7.人員配置と仕事の選択における原則

<221号:仕事ができる人の習慣(6)>

1.人に機会を見る習慣
2.リーダーの役割は基準を上げること
3.成果をあげるための秘訣は集中である
4.生産的でなくなった過去のものを捨てること
5.優先事項を本当に優先にするには、劣後順位を決める

<222号:仕事ができる人の習慣(7):完結編>

意思決定の方法

1.一般的な問題か、個別の対処で済むことか?
2.個別問題は一般問題である
3.ハインリッヒの法則:再掲
4.意思決定が有効である前提条件を明確にすること
5.成果をあげる意思決定
6.決定の場面では意見の不一致が必要である3つの理由
7.葛藤を乗り越える

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