緊急号2:郵政民営化解散(2)
This is my site Written by admin on 2005年8月9日 – 09:00

こんにちは、吉田繁治です。前号には、ご感想やご意見をいだだき
、ありがとうございました。たくさんあって、全部には返事や質問
への回答が出せていないことをお詫びします。(ご質問への回答は
本文で、まとめて示します。)

▼ふと目にしたのはカマキリだった

お盆が過ぎ、湿度が低くなって、急に初秋らしくなりました。近く
は木々が多く、午前10時までは大量の蝉(せみ)が鳴きますが、
その音量も小さくなりました。

ペットボトルの茶を買いに出掛けての帰り、普通とは違う鳴き方を
する蝉がいました。目を凝らすと油蝉が細い葉に絡まり羽を震わせ
ています。

助けようと枝に手を伸ばせば、葉に見えたのは、カマキリでした。
前足のギザギザの歯で蝉をカッと挟みつけ、頭をかじっています。

しばらく見ていると、蝉の動きに力がなくなっていった。麻痺させ
る薬液を注入しているのか。何か、ショックを受けました。

痩せたカマキリが、10倍は大きく見える紡錘形の蝉を食べる。至
る所で種族間の食い合い。溝では、落ちた蝉に蟻がたかって運ぶ。

解剖学者・養老孟司氏が、虫に興味をもつ理由が分かります。ファ
ーブルの昆虫記は名作だった。

▼本稿の目的

郵政民営化解散では、お伝えしておかねばならない国債市場(年5
000兆円の売買規模)についての解釈とメッセージがあります。

国債は、機関投資家(金融機関やファンド)によって平均手もち期
間36日で激しく売買されています。静かに持たれているのではな
い。それだけ不安定で、急に変わる。

わが国金融市場で突出しているのが、国債マーケットです。
株式市場は、年間売買額が400兆円〜500兆円に過ぎず小さい。
平均手持ち期間は300日で、高速売買の国債市場と異なって安
定しています。

高速で売買され、金利を変化させる国債市場を無視し、郵貯・簡保
の100%民営化は論じることも、実行することもできません。

与党の民営化論、民主の郵貯の上限制限は、国債市場の需給を無視
しています。郵貯・簡保は安定した持ち手であり、国債価格は、郵
貯簡保が支えたと言っていいのです。

郵貯・簡保が売ることを表明すれば? 国債価格のリスク恐怖症に
かかっている金融市場は、損失を恐れ、われ先に投売りするでしょ
う。

(注)前号と併せれば、理解が深まると思います。

いつまで経っても深まらない政治家、評論家、マスコミの論で欠け
ている重要点を補います。

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    <Vol.213 :緊急号2:郵政民営化解散(2)>

1.新しい選挙
2.世帯の貯蓄を使い、国自体も350兆円の債務超過
3.分水嶺は2000年だった
4.10年は遅すぎたマニュフェスト
5.増えなくなった世帯の金融資産
6.郵政民営化の中の焦点は、郵貯・簡保の民営化
7.遅すぎた郵貯・簡保の民営化
                   (次号に続く)
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■1.新しい選挙

郵政民営化解散では、60%が選挙に行かない20代・30代が関
心をもっています。これが新しい。選挙結果も動かすでしょう。

「いつも結果は同じ」から、「今度は変わるかもしれない」という
期待を抱かせます。しかし、何が変わるのか・・・

郵政改革は、金融市場と金利に大きな影響がある郵貯・簡保の民営
化を除けば、小さな問題です。

(次稿では、予想しにくい選挙結果の、無謀な予測も試みます。)

▼世代間所得移転が公的年金と社会福祉

20代・30代は自分たちの世代に「高齢社会」の負担が回ってく
ると感じています。50代以上は、世代が高いほど自分が納めた税
・医療保険・年金より、多くを受け取ります。

現行制度は高齢者に既得権益がある。年金・医療を含む社会福祉の
損得の分岐点は、およそ40歳です。

40歳未満は、今の、年金・福祉は「割りに合わない」30代以下
の人たちが納めた分を、40代、50代、特に60代で超過受け取
りする構造をもっています。

今後、制度として維持できないことが明白です。

【現行制度を続けたときの、各世代の生涯負担と受益額】

以下は、政府から説明されているでしょうか?

1983年以降の生まれ(22歳以下)  −3952万円
73〜82年生まれ  (20代)    −1401万円
63〜72年生まれ  (30代)     −743万円
53〜62年生まれ  (40代)     +788万円
43〜52年生まれ  (50代)    +2920万円
  〜42年生まれ  (60代以上)  +5647万円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
                    (内閣府試算)

(注)現行の年金が続いたとしての試算です。年金給付が下がり、
徴収額が増えれば、おそらく70代以上以外は、損になります。

自分の世代の損得に、関心が行きますね。50代以上にとって国家
はありがたい。30代以下にとっては、生活水準を低める迷惑な存
在です。

中堅上場企業での講演。前に40歳代以上の管理職が座っていまし
た。後ろは20代・30代と女性パートでした。

「後に座ってるいる人たちは、会社、国、政治を信用していないで
しょう?」と問うと、この講師、一体何を言い出すのかと皆が顔を
上げました。

多くの会社で30年後の退職金は当てにならない。会社があるかど
うかもわからない。30年後の厚生年金にどんな価値がある? 税
金は上がる。医療費負担も介護負担も上がる。30年後の生命保険
はおそらくインフレで無価値。

こうした問いかけに対し、まともに「そうではない」と論述できる
人は、いないでしょうね。20代にとっては40年後、30代にと
っては30年後の退職金・年金です。

30年後の契約は契約ではない。名目金額は守れても、実質額(医
万円の購買力)は守れないからです。文言だけが踊る無意味なもの
です。なぜそうなったか? 国債の大量発行のためです。

増え続ける国債は、将来世代の負担です。
増税と財政緊縮ができないと、いずれインフレです。

インフレでは金融資産の価値(購買力)が減り、金融資産を持つ人
(過半の金融資産は現在の60歳代以上)の負担です。

このいずれかです。

日本は、どの国よりも貯蓄率の高い国だった。
郵貯・簡保・銀行預金・生保は、高い率で増えていた。

個人所得=消費+税+社会福祉費+貯蓄です。

世帯の預金の約半分は、気軽で保証があり、定額預金の金利も高か
った郵貯に流れたのです。国が、財政資金の確保の目的で、有利な
金利をつけていたからです。

■2.世帯の貯蓄を使い、国自体も350兆円の債務超過

家計の貯蓄を80年代までは企業が借り、設備投資に使いました。

消費の伸び率の低下で、次第に設備投資の利益効果が薄れてきます。
そして最後は、金融緩和で無用な土地を買いバブルを起こしました。

90年代は、企業の設備投資が急減します。しかし貯蓄率は高かっ
た。世帯の貯蓄は政府が10年間で400兆円の公共投資で使い、
赤字予算で使い切りました。

世帯の貯蓄は、不況の90年代でも太り続けていたからです。
(短い寿命の蝉のように・・・)

公債(国債+地方債)残は、700兆円を超えた。これに郵貯・簡
保を使った財投の借金も加わります。

政府部門の借金残(負債)は約1067兆円です。
国家は、03年で252兆円の債務超過です。

債務超過を普通は倒産と言います。しかし国家には倒産がない。従
って、国民のマネーを食い続けます。

    【国家の貸借対照表(03年03月:財務省)】

【国の資産 815兆円】    【国の負債 1067兆円】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
現金・預金   49兆円     未払金     14兆円 
    
金銭信託    52兆円     借入金     47兆円 
有価証券   105兆円     政府短期証券  45兆円
未収金     20兆円     特殊法人債券  40兆円
貸付金    291兆円     民間保有公債 322兆円
貸倒引当金   −7兆円     郵便貯金   233兆円
建物・工作物 156兆円     年金預かり金 174兆円
土地      80兆円     簡保の準備金 125兆円
その他固定資産 37兆円     その他     67兆円
出資金      8兆円     (負債合計)1067兆円 
   
その他     24兆円    
 債務超過  −252兆円
(資産合計) 815兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/bs/bs1609c.pdf

国家の債務超過は、1年で40兆円は増えます。今、350兆円く
らいの債務超過でしょう。表を見て下さい。

左側が国有資産で、右側は、国民からの借金です。借金−資産の2
52兆円が債務超過です。

(注1)将来、支払うべき年金債務を含めば、財務超過は1000
兆円を超えるという試算もあります。(財務省)

(注2)年金の現行制度は維持できないことは明白です。そうする
と、前記【現行制度を続けたときの、各世代の生涯負担と受益額】
は、高齢者を含む全世代にとって、もっと不利になります。

■3.分水嶺は2000年だった

2000年から、世帯の高齢化と平均賃金の低下のため貯蓄率が低
下した。家計の合計資金収支はマイナスになり始めます。1400
兆円をピークに、個人金融資産が増えなくなってきた。

2000年6月は、家計の資金収支が赤字になるという日本の金融
史の分水嶺でした。記憶しておくべきことです。

世帯の貯蓄が増え余るなら時期なら、企業か政府がその貯蓄をつか
わねば、有効需要(ケインズ用語)が不足し、経済は縮小します。

しかし今はもう、そんな時期ではない。世帯の資金収支は赤字がゼ
ロです。政府が赤字国債で使う余裕はないのです。

(注)「住宅ローン」の返済が貯蓄とされているので、家計貯蓄率
は低下していてもマイナスではありません。しかし資金収支はマイ
ナスかほぼゼロです。

(1)4900万の家計部門の資金収支が、マイナスかゼロ。
   家計の金融資産は増えない。
(2)政府部門は、年間で資金が60兆円足りない。
(3)250万社の民間企業部門は、今は、借金返済で資金収支が
黒字ですが、いずれまた借りるようになります。

一体誰が、政府部門の1年60兆円の赤字資金を貸すのか? 
これが、わが国経済が抱えるマクロ経済の最大の問題です。

60兆円は1億円の60万倍。100万円の6億倍です。

■4.10年は遅すぎたマニュフェスト

▼両党の共通目標

郵貯(残高211兆円)と簡保(基金119兆円)を、政府部門が
使う公共投資から、民間に回すというのが、与党の民営化の主張で
す。

民主党の「郵貯の上限制限論」、現状の預け額上限1000万円を、
まず700万円にし、08年には500万円にするという、急作
りのマニュフェストも、郵貯・簡保の資金を民間に回すという点で、
与党案と変わりません。

これは「官から民へ」、「小さな政府」の総論と結びついて、多く
の国民にも正義のように思われています。

いずれも、今の郵貯・簡保の、現在の資金固定と資金繰りを無視し
た「10年遅すぎた主張」です。10年前なら意味があった。今は
もう意味がない。

郵貯・簡保には、売却で国債市場に波乱を起こさないとすれば、使
えるお金が残っていないからです。

前号で示したように、郵貯・簡保の合計330兆円は、すでに30
4兆円(92%)が、政府部門によって使われてしまっています。

▼郵政公社の貸借対照表(05年3月期:再掲)

【左側:資産の部】      【右側:負債・資本の部】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
現金・預金   9兆円   郵便貯金  211兆円(←国民)
金銭信託   12兆円   簡保準備金 119兆円(←国民)
有価証券  217兆円   借入金    38兆円
預託金   118兆円   その他負債  14兆円
貸付金    27兆円
不動産     3兆円    資本金    1兆円
その他     2兆円    その他資本  5兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
資産合計  388兆円    負債・資本合計388兆円

郵貯・簡保の資産のうち、有価証券に含む国債が170兆円、地方
債が16兆円で公債合計が186兆円。

118兆円の預託金は財務省預けであり、財投での政府債務と見る
ことができます。合計で304兆円がすでに「使われてる」ことは
前号で示しました。

郵貯・簡保の330兆円を、「民間に回す」という両党の主張は、
何が「回せる豊富な資金」の根拠か、理解ができません。

郵政公社の金庫に、現預金はわずかです。
政府部門の「借用証(公債+預り証)」があるだけです。
これを売らない限り、郵貯・簡保に資金はない。

■5.増えなくなった世帯の金融資産

郵貯・簡保も、世帯の高齢化のため、2000年以降、減少期には
いっています。

増える預金を民間に回すということに意味があったのは、世帯の金
融資産が増えてた時期(80年代まで)です。今は、郵貯・簡保は
国債や財投債を売らない限り、「民間に回す資金」はない。

郵貯・簡保の民営化論、官が使う資金を民間に回すというのは、
「郵貯・簡保が増えていた時代には有効だった遅れて来た主張」です。

郵政公社は、公債を売らねば、資金繰りが困難になる状態にありま
す。

▼問題の金融市場

国債・財投債の、最大の安定した引き受け手だった郵貯・簡保が、
これらを売りに出せば、国債価格が下がり、国債市場で決まる「金
利」は急上昇します。

金利の上昇は、国債の引き受け難を生むと同時に、民間金融機関(
総資金量500兆円)が持つ200兆円の国債を下落させ、90年
代末のように、再び「債務超過」に陥れます。

郵政公社も国債下落で「自己資本」の6兆円を飛ばします。
これらは、新たな国民負担になるでしょう。

日本の国債の特徴は、

・世帯や海外はわずかしか持たず、
・郵貯・簡保・銀行・生保の金融機関が持つという構造です。

財務省は、金融の支配力によって、低利の国債を買わせてきました。

金融機関が、低利国債にリスクを感じる感性があれば、野放図に国
が借金をすることはできなかった。

半ば割り当てのように、郵貯・簡保は言うまでもなく、民間金融機
関も、「ノンリスク資産」として国債を引き受けてきました。

▼しかし、金融機関にとって、今後最大のリスク資産になる国債

金利上昇による国債価格の下落は、再び、信用危機を生みます。
90年代の信用危機は、民間企業の不良債権によるものでした。

金利上昇があれば、今度は「国債」がリスクを生んで、ゼロ金利時
代の債券として、価格が下落します。

▼常識であるが

与党と民主党に、「国債の持ち手と市場を考慮した、まともな論と
政策」を望みます。

申し上げていることは、金融市場の「常識」です。
何ら、特別なことではない。
使っているのは、以下の公表資料です。

(1)財務省『国家財政を考える』(05年3月公表)
(2)郵政公社『貸借対照表』(05年3月期)

両方(約70ページ)の数字を読めば、誰でも分かるくらい簡単な
ことです。

■6.郵政民営化の中の焦点は、郵貯・簡保の民営化

小泉首相が郵政改革をライフワークにする理由は、政府が自由に使
ってきた郵貯・簡保が、政府部門を肥大させてきたからです。郵便
局の維持は、ネットワークが維持されるので、問題ではない。

▼与党案の郵政民営化(詳細は前号)

政府案の郵政民営化は、前号で述べたように、
(1)窓口会社の民営化(郵便局の民営化)
(2)郵便の民営化(集配業務、宅配業務の民営化)
(3)郵貯の民営化(銀行化)
(4)簡保の民営化(保険会社化)という4社分割民営化です。

(1)の窓口会社の民営化、(2)の郵便の民営化は、サービスの
向上のために、行なったほうがいいでしょう。

(注)郵便局の窓口は丁寧な応対です。商店のように、向こうから
声を掛けてきます。

▼郵貯・簡保の民営化目的

問題は、郵貯・簡保の民営化です。民営化して何を行なうのか?

もっている資産は、要は国債・財投債です。
国民の預け資金は、これからも減ります。

そうすると論理的には、国債・財投債の売却し、民間に回すしか途
(みち)はない。

【族議員の解体が政治的な主張だった】
小泉首相(旧福田派)は「昔から、郵貯・簡保の民営化論者」です。

宿敵だった旧田中派・旧竹下派・旧橋本派は郵政族でした。
郵政を権力基盤にしたのは、田中角栄の発明です。

いくらでも集まっていた郵貯・簡保の資金を、財投という特別会計
で公共投資と特殊法人に使うことが、派閥の政治的権力の背景にな
っていました。

小泉首相が言う「自民党をぶっ壊す」ことの意味は、
・橋本派の権力基盤となっていた郵貯・簡保、
・集票マシンである特定郵便局を圧力団体でなくすことを意味して
 います。

建設族・道路族・郵政族議員の政治基盤を無意味化することは、政
治家・小泉純一郎のライフワークだったと言っていいでしょう。

これは、評価できることです。

■7.遅すぎた郵貯・簡保の民営化

しかし郵貯・簡保について言えば、遅すぎます。
国債・財投債を売らない限り、金庫は空っぽだからです。

▼竹中大臣

国会答弁を聞けば、小泉首相は金融市場について基本知識がないよ
うに思えます。ブレーンは、竹中経済・財政担当大臣・郵政改革担
当大臣です。

1人の学者がこれほど広範囲に、しかも長期に、重要な大臣を継続
したケースはありません。金融を含め経済面ではすべてが竹中案で
した。

▼聞けば驚くべき発言

竹中大臣は最新号の日経ビジネス(05.8.22)で以下のよう
に発言しています。事の性格上、引用部をちじめずそのまま<>内
で示します。意味をとればものすごいことを言っているのです。

<(郵政改革で)6本の法律を出したのですが、実は、(郵貯)銀
行と簡保(保険会社)については、法律は出ていません。ここに大
きな意味があるわけです。>(P9)

郵貯・簡保の民営化は示しても、「その内容」を示す法案はないの
です。

<なぜなら、(郵貯)銀行と(簡保)保険会社は、NTTのような
特殊法人ではなく、純粋な商法上の一般法人になるからです。だか
らこそ、(郵貯と簡保の)株は、100%売却しなければ、意味は
ないんですよ。国が関与しないんだから。そこに改革の本質が貫か
れています。>(P9)

「だからこそ」というところに株の100%売却の理由は示してい
ない。この文脈では、「だからこそ」は意味が不明です。

<こういったことを指摘した専門家は一人もいなかったですね。こ
れは仕方がない。郵政って難しいんですよ。>(P9)

大臣が言うのは、国民的な政治課題になった「郵貯・簡保の100
%民営化の本当の意味」を、専門家も誰一人として指摘しなかった
ということです。

なるほど、TV・新聞・経済誌の論評を見ても、これの意味に触れ
ていない。刺客と刺客を送られた側の嘆きを取り上げるだけです。

郵貯・簡保の民営化では、金融と、国債に頼る国家財政に波乱を起
こす可能性がある「国債市場を論じなければならない」のです。

▼竹中発言と違い、単純極まる内容の郵貯・簡保

郵政の本丸である郵貯・簡保は、その資産内容と業務を見れば、難
しいところはありません。

国民から330兆円借り、公債・財投債を304兆円分買っている。
対財務省にも財投のための預託金がある。自己資本は6兆円。

たった2行の文章で言えるように単純な、「資産−負債」の構造で
す。それだけしかない。

郵貯・簡保を市場で公開したときの時価総額は、10兆円〜15兆
円くらいになると見積もられているようです。

意外に低いのではない。国への貸付しかしていず、金利が上がれば
リスク資産になる国債しかもたない郵貯・簡保の財務の実力は、そ
れだけしかない。

資産である国債や財務省への預託金に大きな含みの利益はない。
むしろ下落リスクが大きい。

再掲した郵政公社の貸借対照表を見てください。
自己資本は6兆円。これが2倍に評価されて、12兆円です。

利益は? 金利が上がれば債務超過です。

今の金利のままででなんとか赤字を避けることができるくらいです。
昨年度の年間利益は1.2兆円。

民営化で40%の税がかかれば、昨年の税後利益は7200億円。
国債下落(金利上昇)があれば、ひとたまりもない「泡末利益」で
す。

PER(株価/収益率)が、上場企業並みの17倍とすれば、時価
総額は7200億円×17倍=12兆円くらいです。

6兆円で、世界最大の金融機関(郵貯+簡保=資金量330兆円)
の支配株主になることができます。

▼政策目的に必要なこと

与党・民主党が言うように「郵貯・簡保資金330兆円」を、幾ば
くかでも民間に流すには、何が必要か?

郵貯・簡保は、預かり金が、年々、減っています。

民間に回すお金を捻出するには、国債・財投債を売却しなければな
りません。

【国債価格の下落恐怖症の金融市場】
世界最大の額の日本国債の、最も大きな引き受け手が、その国債を
売りに出せば、資金市場はどうなるか? 

ほぼ一夜で金利が上がり、低利の国債が下落します。

手持ちの数兆円の超低利の国債を、1日20兆円の売買規模の国債
市場で運用するマネジャーの側に立てば、このことはすぐ了解でき
るはずです。

次稿では、この問題に踏み込みます。

ここを見なければ、郵貯・簡保の民営化論は、意味がないからです。
金融論の視野で見なければならない。

小泉さんの「郵貯・簡保の民営化」という持論は、10年前くらい
までなら「民間金融機関に資金をまわす」という第二の日銀のよう
な機能を持つことができ、意味もあったのです。

郵貯・簡保の330兆円のうち304兆円を国への貸付(公債+預
け金+貸付金)に固定してしまい、国が使ってしまったあと、民営
化には、与党・民主党のマニュフェストに見える意味はない。

日銀が、債券の買いオペを使い、ゼロ金利を続ける金融市場の、か
く乱の意味しかない。

郵貯・簡保は金融のプールの中の、国民からの預かり金で330兆
円にまで大きくなったクジラです。クジラの中身は国債です。金融
機関は、普通魚のような感じです。

日銀は、プールに水を入れる水道でしょうか。水を入れても魚は増
えません。酸素補給にはなります。

see you next week!

【後記】
議員になりたいと思っている人が多いことに、驚いています。
選挙に興味を持たせるのは、いいことでしょうね。
派閥に資金源がなくなって、無意味になったこともいいことです。

重要なことを、次々に決めなければならない。
生活や経済に直結することばかりです。

政策通と言われ、理性的に見える自民政調会長の与謝野馨氏も、先
日(8月21日)の午前10時からのNHK日曜討論で、一般会計
(80兆円)と、年金会計、健保、道路等の31の特別会計(総額
387兆円:二重計算を引いた純額207兆円)の区分を知らない
ことが、分かりました。

1年で207兆円の純予算をもつ特別会計を無視し、国家財政がわ
かるはずもないのですが・・・財務省がレクチャーしていないので
しょうか?

次号は、以下について述べようと思っています。

8.金利が上がる結果は?
9.100%民営化された郵貯・簡保の、株価下落の後の展開
10.郵貯・簡保の100%民営化の政策目的を実行する
11.竹中大臣の言葉が、真面目な発言なら
12.国債の年間発行額(借り換え+新規)
13.無知の罪
14.選挙結果の予測

【無料講演会の案内】
内田ソリューションフェアで、講演をします。
会費は無料で、どなたでも参加ができます。

東京会場(明治記念館        05年9月 8日)
大阪会場(ホテルニューオータニ大阪 05年9月15日)

当日は、全部で25コマくらいのいろんな講演があります。申し込
みと案内は以下です。インターネットで申し込めます。
http://www.uchida.co.jp/2005s/index.cfm?ML=232

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■以下は、有料版(週刊:1ヶ月で630円)の購読案内です。

▼ 有料版の最近号の、テーマと3号分の目次です。

<227号:国家破産論の検討(1)>

【目次】

1.公表されている国家の貸借対照表から
2.国の貸借対照表発表後の、債務超過額の増加
3.国の負債にはいっていない「年金債務」
4.年金債務を国の負債にしていない理由
5.債務超過が許容される理由
6.国家財政にとっては・・・
7.金利はどこで決まるか?
8.金利上昇、国債価格の下落が起これば
       (参院での採決を見た直後の増刊に続く)

<229号:国家破産論の検討(2)>

【第一部:郵貯・簡保を振り返って】
1.多少長いプロローグ
2.90年代は、政府にとって2つの膨らむ財布があった

【第二部】実物資産と金融資産

3.Fisher Formula(フィッシャーの定理)
4.消費財のインフレは起こっていない
5.金融経済は肥大している
6.わが国の国民資産の推移
7.実物資産と金融資産の関係
8.金融資産の推移
9.実物資産と金融資産の関係の推移:重要:金融資産倍率
10.実証されること
<230号:国家破産論の検討(3)完結編>

1.振り返れば
2.90年代までは、政府部門は「借金でバラ色」の時代だった
3.2000年以降、政府部門の「借金でばら色」の時代は終わっ

4.日銀というマジック
5.郵貯・簡保・年金の減少が始まった
6.事情を知っている一部高級官僚の心理は?
7.郵貯を急に減らすという無責任なマニュフェストもあって
8.民間金融機関の資金
9.正常性バイアス
10.金利が決まるメカニズム
11.日銀当座預金
12.国債の発行額
13.インフレ調整の検討
14.強いインフレのシナリオ
15.金利の原理
16.増税シナリオ

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