こんにちは、吉田繁治です。<Vol.218特別号:追悼ドラッカー
:仕事ができる人の習慣(2)>をお届けします。
2日間の北海道、そして東京での仕事を終え帰りました。千歳に降
りると寒く、べた雪の、冷たい霙(みぞれ)でした。小商圏型の新
しい、実験的な店舗業態のオープン前点検を行いました。
「コンビニエンス&ディスカウント」という店舗概念になるでしょ
うか。商品構成では、品種の細分化という従来の軸ではなく、「需
要カテゴリー」での再編成を行っています。小売業は商品の分類業
でもあります。実験をし、成果の計量をして変更しながら、6ヶ月
くらいをかけ整備します。
マネジメントでは、従来のチェーンのコマンド&コントロール型で
なく、拙著『利益経営の技術と精神』(商業界)で展開した「部門
経営」の手法を導入しています。
翌日は、海外研究ツアーの参加者から有志が集まり、札幌のタンピ
ンバラ受注型の生産性の高い物流センターと、食品スーパーとスー
パーセンターを中心に店舗の視察を行いました。ほぼ4年前に出会
った人たちです。毎週のメールマガジンでつながっています。
4年間は、生活も仕事も変化するのに十分な時間です。独身だった
人は結婚し、別の人は子供が生まれ、様々に業種が異なる会社では
中核的な仕事をされています。
有名チェーンの、戦略部門であるインナーウエアの領域でPB商品
の設計開発を行うように仕事を変えた女性経営者もいます。雪の定
山渓温泉、深夜までの談論でした。
異なる地域で講演や仕事がある週は、時間不足を感じることが多く
なります。移動する時間やホテルでの空きを、次の仕事に向かって
有効に活用することができていません。時間は不足し、他では補い
がきかないものですが、流れに任せていれば利用ができない。
【時間の計画】
計画を立てるという方法があります。しかし空き時間を、計画的に
活用することは、私にとってどうにも難しい。あとに延ばせる余裕
があると、延ばすほうを選んでしまうからです。
【期限という方法】
それゆえ方法は、「期限の約束で自分の時間を縛る」ということに
なります。いわば納期の契約です。手形の期限を設定することと似
ています。動かせない絶対的な納期に迫られ、時間を使う。振り返
れば、今までの私の方法はこれでした。
ドラッカーは『経営者の条件』冒頭で<本書は成果(effectivenes
s)を上げるために、自らをマネジメントする方法について書いた>
と言っています。
自己をマネジメントすることとは、「成果または生産物に向かって、
時間の使い方」を有効にすることです。有効や無効は、目的との
対照で言えることです。従って、まず、成果とは何かを定義しなけ
ればならない。
これは経営者だけに限定されることではない。指示をする立場にあ
る人すべてに共通することです。指示することは、成果ではない。
指示によって、成果が上がることが必要です。
【個人ワークなら】
自分だけで行う仕事なら、成果や生産物が何であるか、はっきりし
ています。
成果物を相手に渡す期限を決めれば、時間の使い方も決まります。
知識と方法を書いた原稿を渡す約束日が、時間の使い方を規定しま
す。
私にとっては、例えば、前稿の後半で書いた「プレゼンテーション
欠品の概念」を整理し、文字や数字そして図表にして具体的に伝え、
理解を助けることが仕事の成果と見ることができます。組織のマネ
ジャーではないからです。内容で言えばマネジメント・サポートで
す。
【しかし組織では】
しかし組織の経営者、幹部、マネジャーでは「成果」は異なります。
成果を上げるとは、知識や方法を知ること、そして与えることだ
けではなく、「組織の業績を上げること」でなければならないから
です。
例えば、プレゼンテーション欠品を防ぐことが有効だと判断(=意
思決定)するなら、組織内で実行する方法と手順を決め、実行をマ
ネジメント(Plan Do Check)し、具体的な利益成果を上げねばなら
ない。
【意思決定を通じて成果を上げる】
多くの人は、組織で働いています。組織の成果を上げねばならない。
経営者を含む上級管理職は、AかBかの意思決定や、aかbかの方法
の決定によって、成果を上げます。経営者の個人成果は、個人に還
元できるものではなく、組織を通じてあげた成果です。
例えばサッカーの監督は、選手のポジション配置、ゲームの指揮、
および起用と交代の決定を通じて、今日のゲームの成果を上げます。
まとめれば、すべては意思決定です。自分がフィールドでパスをす
るわけではない。
チームをもつ管理職ではなく、専門の知識を使い仕事をしている多
くの人々(スペシャリスト)も権限の幅は限られているかもしれま
せんが、AかBかの意思決定や、aかbかの方法の決定によって成果
を上げなければならない。その点で、管理職と変わりません。
ドラッカーは、経営者や管理職を含む広い意味の「知識労働者」が
成果を上げるには、5つのことを「自分の習慣にする能力」が必要
であると言っています。
「知識労働者(ナレッジ・ワーカー)」はドラッカーの造語です。
決められた時間の、定型作業に従事するワーカーではなく、マネジ
メントを仕事とする人、及び専門的な知識と技術で仕事をする人を
さしています。
ビル・ゲーツは、こうした労働の内容を「情報作業」と呼んでいま
す。会社の中では、まずます多くの人が、この情報作業に従事する
ように変わってきているはずです。文字、数字、言葉がその道具で
す。モノの加工、運搬とは違う内容と成果を持っています。
(注)この知識労働は、生産性を計る方法が、まだないのです。
例えば作成された企画書はコストです。成果は、その企画書の実行
によって獲得される業績です。
習慣にすることを能力であるというのは、妙な言い方です。
習慣は、前稿でも述べたように、後天的に習得し、固定していて、
少ない努力で反復できる行動様式です。
『経営者の条件』の中でドラッカーが書いていることは、彼自身が
自分の習慣にしようと自己励起していたことです。
つまり、彼自身が守ろうと決め、守ったことです。
ドラッカー自身の自己マネジメントの方法です。ドラッカーの多く
の著作の基調低音は、こうした私小説風のものでしょう。
▼5つの習慣
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習慣1:自分が何に多くの時間をとられているかを知ること。
習慣2:自分以外の外部に役に立つことに焦点を当てること。
習慣3:自分ができること、すわなち強みの上に、仕事を組み上げ
ること。
習慣4:自分の能力のうち、すぐれたものが何かを知り、その領域
で成果を上げることに集中すること。
習慣5:成果に焦点を当てて意思決定をすること。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(注)『経営者の条件』の翻訳ではなく、重要なところは原著(『
Effective Executive』)にあたって確かめ、再解釈し書いています。
上田淳生氏の訳と相当に異なるところがあります。引用部は<*
**>で示しています。
以上の5つの習慣に「常に」という副詞を冠することができたとき、
自分の習慣になったと言うことができるでしょう。
1:常に自分が何に多くの時間をとられているかを知ること。
2:常に自分以外の外部に役に立つことに、焦点を当てること。
3:常に自分ができること、すわなち強みの上に、仕事を組み上げ
ること。
4:常に自分の能力のうち、すぐれたものが何かを知り、その領域
で成果を上げることに集中すること。
5:常に成果に焦点を当てて意思決定をすること。
5つの習慣の、内容に入って行きます。
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<Vol.218特別号:追悼ドラッカー
:仕事ができる人の習慣(2)>
【目次】
1.(習慣1)何に多くの時間をとられているかを知ること。
2.(習慣1に関連して)成果に焦点を当てることの素描
3.(習慣1に関連して)部下やチームの行動を変えねば成果は出
ない
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■1.(習慣1)何に多くの時間をとられているか知ること。
エグゼクティブ(または知識労働者)へは、「時間を有効に使うよ
うに、使い方をあらかじめ計画せよ」という忠告が多い。
しかし時間割のように計画する方法は、実際にはほとんど有効では
ないとドラッカーは言います。
確かに、自分の経験に照らしても、システム手帳や紙に書いた「計
画」を守ることはできませんでした。明日を計画するとき、実際か
ら離れた理想的なものを描くからでしょう。
計画するという方法だけでは、いい意図を書いても、それによって
成果を上げることはできないようです。
手帳は、スケジュールとアポイントを記録することにしか役に立た
なかったのです。多くの人に、共通することしょうか?
<観察してみると、成果を上げる人は、自分の仕事の(計画)から
物事を始めてはいなかった。自分が使える時間から出発していた。
計画することから始めてもいなかった。自分が、何に多くの時間を
使っているかを知ることから始めていた。>
重要なことは、「何に多くの時間を使っているか」の実際を知るこ
だと言います。
自分の今の習慣は、何に多くの時間を使っているかで分かるからで
す。習慣とは、最も多く時間を使っていることです。
自分に照らせば、目的地への移動と、仕事場にいてもぼんやり過ご
すことに多くの時間を使っています。例えば,講演時間の正味が1
30分として、東京で行えば日帰りでも合計10時間は要します。
1泊なら20時間くらいになります。
こうした時間を含め、私にとって、眠ること以外の時間で、1日で
8時間くらい、1週間で56時間は有効ではないと思える時間があ
ります。集めれば、年間で約3000時間にもなる。(!?)
何に時間をとられているかを明らかにすることは、自分の仕事を腑
分(ふわけ)し、解剖するような痛みが伴います。将来、有効なこ
とをしようと想像することは喜びですが、今の習慣を知ることは、
避けたくなります。
他でもない自分のことを言っています。
▼有効な時間を作るための3ステップ
自分の時間の解剖のために、ドラッカーは以下の3ステップを提唱
しています。
1.まず、何に時間使っているかを記録する。(record time)
2.次に、時間をやりくりする。(manage time)
3.そして、時間をまとめて集める。(consolidate time)
時間を有効に使おうとする「よき意図(=計画)」から出発するの
ではなく、現状の時間の、客観的な記録から始めるということです。
方法は簡単です。誰でも実行できます。1時間単位に分け、実際に
何を行っていたか、当日中に記録すればいい。障害は、事実を知り
たくないという心理です。それを乗り越える必要がある。
成果に向かって有効ではないと思える時間を集めれば、思いもかけ
ないように、時間がたっぷりあることに気が付きます。試みに1週
間だけ時間の記録をすれば分かります。
かかったすべての時間が、自分のコストです。
実際に行えば、前稿で書いたセネカの言葉が身にこたえます。
<われわれは短い時間をもっているのではなく、実はその多くを浪
費している。人生は十分に長く、その全体が有効に費やされるなら
ば、誰でも偉大なことを完成できるほど、豊富に与えられている。
(セネカ)>
1年で3000時間は、すごい量の時間です。今の仕事の時間より
もずっと長い。
時間がないというのは、言い訳に過ぎませんでした。確かに、自分
が使ってる時間を記録すれば、「人生は十分に長い」ことが分かる
のです。
記録せず、記憶で時間をたどれば、「時間を割くべきだ」と考えて
いる、あるいは意図している活動に使っているように思えてしまい
ます。錯覚に陥ってしまうのです。
ドラッカーの指摘は、時間を割くべきだと考えている活動のために
使っている時間は、記録して点検すれば少ないことに、誰でも驚く
はずだということです。
過去1週間を、思い出して記録してみればすぐ分かります。
実際、ドラッカーが言っている通りです。
掛けた時間のほぼ三分の2は、成果に向かって有効ではないことに
気が付くでしょう。時間がコストです。有効な時間が三分の1なら
3倍のコストを掛けていることになります。
時間に対応した固定給の制度が、自己認識を誤らせるのです。
■2.(習慣1に関連して)成果に焦点を当てることの素描
(靴を作るような)作業に対しては、「今の賃金に対応する作業標
準(work standard)では1時間1足であるのに、0.8足しかでき
ていない」と言えます。生産物がはっきりしたものなら、数値で計
ることは容易です。ワーカー的な仕事がこれです。
しかし、経営者、幹部、そして知識労働者の場合、「成果」が明確
ではない。したがって、逆に、有効ではない時間から自己管理をし
、カットする。何が有効な時間であるかは、自己判定できるはずで
す。
捨てなければならないのは、「勤務する時間は報酬に対応している、
したがって勤務時間は成果に向かって有効な時間である」とする
考えです。経営者や知識労働者は、セルフマネジメントが必要です。
知識労働者やマネジャーの仕事は、まずは時間を集め、全号の後半
部で具体例として挙げた「プレゼンテーション欠品」のような、新
たな知識を作ることです。
しかし知識の導入や生産だけでは、成果は生めません。
次に行うべきは「マネジメントのプロセス」です。
仕事では、
1.何を行うことが成果に向かって正しいかを決めること
2.どう行うことが正しいかを決めること
3.実行の課程を管理すること
4.実行のプロセスで生じる障害を解決することが必要です。
この4者が連動して初めて、組織の行動が変わり、行動が変化した
結果として成果の数値も変わります。
(1)売上と利益という成果に向かっての意味を担当者に伝えて理
解させ(Why)、
(2)方法を手順化し教育して、手順を制度にし、(How)
(3)実行課程を管理しなければならない。(Plan Do Check)
三番目の実行課程を、マネジメントと言います。ここまで到って初
めて、売上や利益数値の変化という成果が出ます。
<(エグゼクティブや)知識労働者が、成果や業績を上げるために
は、組織の成果や業績に焦点を当てなければならない。>
これが「知識によるマネジメント」の意味です。
美しい設計書やいいアイデアに満ちた計画書だけを作る企画部門は、
自分の仕事だけから出発し、仕事の成果を、設計書作りと考えて
いることになります。
しかし設計書は、商品やサービスに具体化され、販売されて売上や
利益という成果を生まない限り、会社にとって利益を減らすコスト
であるに過ぎません。
間接的な部門(スタッフ)の仕事の成果は、顧客に販売する直接部
門(ライン)で実行されなければ生まれません。
そうするとスタッフ(知識労働者)が行うべき仕事は、数字を生む
組織への貢献、つまりは直接部門の働きへの貢献ということになり
ます。
意思決定するエグゼクティブや管理職も同様です。
■3.(習慣1に関連して)部下やチームの行動を変えねば成果は
出ない
<(エグゼクティブや管理職が)成果を上げるには、自分の時間を、
大きなひとまりとして使わねばならない。>
注意を払うべきことは、以下です。
<計画、方向付け、そして仕事ぶりについて、部下と15分で話せ
ると思っている者は、自己欺瞞を犯している。重要なことについて
相手に分からせ行動を変えたいとすれば、最低で1時間、多くの場
合はそれ以上の(1対1の双方向コミュニケーション)の時間を必
要とする。>
マネジャーにとって部下が7名なら、1週間で7時間か10時間は
まとまったコミュニケーションの時間が必要になります。
指示や指揮を有効するために使うべき時間を軽視したために、せっ
かくのいいアイデア(知識)が、成果を生まないことが多すぎます。
(このことも自己反省です。)
チームの行動を変えるために必要な時間を生みだすには、エグゼク
ティブやマネジャーや自身が、まずは自分の時間の中で無駄な時間
をかき集め(consolidate)ねばなりません。
組織としての成果を上げるには、アイデアの生産の過程では思いも
よらないことに時間を費やす必要があります。
予想外に多くの時間は、「なぜ変えなければならないか?、成果を
生む方法はこれでいいのか?」というWhy(なぜ)とHow(ど
ういう方法で)を、チームに説明することに使わねばならない。
<人は常に、仕事についてはべストな人材ではなく、最高でも及第
点であるに過ぎない。> これは、ドラッカーの明察です。
確かに、ベストな人材はいない。
ところがマネジメントでは、短い時間でチームにアイデアを提供す
れば、部下やチームはそのアイデアを解釈し、実行できるという錯
覚に陥ってしまいます。
自分が指示を受ける部下だったとき、指示の理解に悩んだこと、あ
るいは理不尽に思ったことを、マネジャーの立場になるとすっかり
忘れます。これがマネジャーの自己欺瞞です。
人を取り換えれば、機械を新しくしたように、即日に働きが変わる
ということは決してない。
指示やアイデアは、その方法と手順が、十分すぎるくらい理解され
ねば、実行されることはな。コミュニケーション不足が原因で、実
行の不足が生まれるからです。
「習慣1:自分が何に多くの時間をとられているかを知ること」に
ついて述べました。
「習慣2:自分以外の外部に役に立つことに焦点を当てること。」
については(習慣1に関連して)という項で、マネジメントのプロ
セスを素描しました。
次稿では、「自分以外の外部に役に立つことに焦点を当てること」、
ドラッカーの言葉では「外部への貢献(contribute)」について、
その意味を解釈します。
see you next week!!
【後記】
95歳まで、たくさんの、有効な仕事をしたドラッカーの習慣を知
ることは有効に思えます。
能力があるからということではなく、成果を定義し、時間を有効に
使うことを自分の習慣にするのがドラッカーの方法です。
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<243号:株価上昇の可能性を検討する(3)>
【目次】
1.株価
2.資金の動き
3.日経平均3万円説の登場(5万円論もあります)
4.注意すべきこと
5.世界の金融資産は1京5000兆円にも膨らんでいる
6.金融資産の2面性
7.マネー(金融資産)の価値下落と貨幣錯覚
8.主要国の個人金融資産
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