こんにちは、吉田繁治です。早春の不順な天候が続いています。先
週の水曜日、数年ぶりに風邪をひき、熱のせいかボーッとしていま
した。よく眠った4日間、すっきりした恢復(かいふく)です。
量的緩和の解除について、考察を続けます。
普通の経済なら、この程度のことは問題になりません。
なぜ今回の政策転換が、重要な意味をもつかと言えば、1000兆円の
政府部門(国家、自治体、特殊法人)の負債があるからです。
そして日本を含む世界では、後述しますが、1京3800兆円(05年末)
もの金融負債が積みあがっているからです。
【すでに金利上昇】
日銀が3月9日に発表した「量的緩和の解除」は、アナウンスメント
の直後から、わずかではありますが、長期金利(10年もの国債の利
回り)を上昇させています。
資金吸い上げの、実際の発動の前に、市場金利は動きました。
(注)長期金利1.5%レベルから1.8%レベルへ上昇(3月末)
【25兆円の資金吸い上げ】
現在の日銀当座預金(銀行の、日銀への預け金)の30兆円レベルを、
06年7月ころまでに、法定準備金である6兆円に減らすこと、言い
換えれば、25兆円のマーケット資金の引き締めを行うというのが、
「量的緩和の解除」です。
06年4月は、日銀約10兆円相当の資金吸い上げを行うことが想定され
ています。これが5月、6月と続くでしょう。
【金利の上昇】
吸い上げの方法は、日銀が持つ手形(=金融機関への貸し出しに相
当:45兆円)と国債(国家への貸し出しに相当:93兆円)の、売り
です。
これを行えば、当然、金利は上昇します。
(注)日銀からの、手形による貸し出しも、その担保は金融機関が
差し出す国債です。従って日銀の実質的な国債の持ち分は、45兆円
+93兆円=138兆円と見ていいでしょう。この資産に見合っているの
が、現在の日銀の資金供給量です。
量的緩和の解除で、深刻な影響を受けるのは、
・民間部門より、
・1000兆円の負債を抱える政府部門です。
国債の引き手だった日銀が、一転し、国債の売り手に転じることに
なるからです。
【財務省】
財務省は、「日銀は一体何を考えているのか」と発言しています。
1000兆円の負債があれば、たった1%の金利上昇でも、年間10兆円の
金利払いの増加になるからです。
長期金利が2〜3%も上がれば、予算は組めなくなります。
まず、日銀の資金供給の方法を見ます。前稿で示した、日銀の貸借
対照表を使います。これでみれば、資金供給と吸い上げの仕組みが
分かるからです。
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<Vol.231 金融の潮流が変わった。
量的緩和解除の意味を解く(2)>
【目次】
1.日銀による資金調節の方法
2.日本の株価の上昇
3.世界の株価も大きく上昇
4.膨らみすぎた世界の金融資産と金融負債
5.意識の「茹(ゆ)で蛙」現象
6.債券バブルの時代
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■1.日銀による資金調節の方法
日銀は唯一通貨発行ができる金融機関です。「紙幣(1万円札等)
を印刷してばら撒く」と言われますが、単に、印刷しばら撒けるわ
けではありません。
日銀は銀行と政府から、
・債券(国債、手形)を購入し、
・その代金を日銀当座預金(=銀行の無利子の預託金)の口座に振
り込みます。これが通貨発行です。
その構造(仕組み)を、資産と負債の一覧表で示すのが「貸借対象
表」です。
以下に見るように、
・日銀の資産はほぼ国債であり、
・負債が通貨発行です。
通貨発行が、日銀にとって負債であるのは、例えば、クレジットカ
ード(与信)で債券を買えば、負債になるのと同じ原理です。
日銀は受け取った国債(債券)を担保に、皆が信用する通貨を発行
する機関です。これが、わが国日銀の、今の本質です。
日銀の機能も、単純なものですね。
【日銀の貸借対照表:06年3月:増加額は97年10月対比】
2006年3月 2006年3月
資産 (増加額) 負債・資本 (増加額)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
国債 93兆円(47兆円) 発行銀行券74兆円(30兆円)
買入れ手形 45兆円(41兆円) 当座預金 31兆円(27兆円)
外国為替 5兆円( 2兆円) 政府預金 10兆円( 9兆円)
その他 10兆円( 6兆円) その他 38兆円(35兆円)
資本勘定 5兆円 ( − )
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
資産 153兆円( 96兆円)負債・資本153兆円(96兆円)
(注1)括弧内の増加は、1997年10月に対するものです。97年10月
は、わが国の第一次金融危機が始まり、日銀が資金の大量供給を
始めた時期です。
増加額の97兆円は、金融危機以後の10年で、日銀が増加供給したマ
ネー、言いかえれば増加貸付したマネーの総額を示します。
(注2)資産の買い入れ手形(45兆円)は、国債を担保として銀行
が発行した手形を、日銀が買い取ったものです。つまりこれも、実
質的な中身は国債です。
1年平均で、10兆円程度のマネーを増加供給していたといえます。
この額は、日銀が続けている、毎月の、長期国債買い入れ額1兆200
0億円の、12か月分に近い額です。
まとめれば、日銀は、金融機関から国債を買い、毎月1兆円分くらい
を、増加供給してきたのがここ10年でした。
これで、ここ10年の日銀の通貨政策を単純化できます。
(1)発行銀行券
発行銀行券(74兆円)は、市中に出回っている紙幣の総額です。日
銀は、銀行から国債や手形を買い入れ(左側の資産)、代金として
の通貨を金融機関に渡します。預金を引き出した幾ばくかが、あな
たの財布にある紙幣です。
この74兆円のうち、15〜20兆円くらいは、高齢者のタンス預金とな
っていて、市中に出回っていないといわれます。
(2)日銀当座預金
当座預金31兆は、日銀の、銀行からの預かり金です。このうち銀行
が不時の出費に備えるための法定準備金は、現在6兆円です。
01年3月以降、日銀は、この当座預金を上記のように25〜29兆円余分
になるように維持してきました。これが量的緩和でした。
銀行にとって、日銀当座への預け金の余剰25兆円が、自行の余裕資
金でした。自分の預金ですから、必要なときに使うことができまし
た。
この25兆円が、
(1)銀行にとっての国債購入資金と、
(2)資金繰り用の資金になっていました。
日銀当座預金は金利ゼロです。そのためわずかでも利がつく国債が
買われていました。
「量的緩和の解除」は、日銀当座の25兆円を、06年7月か8月ころま
でに、日銀が手形と国債を銀行に売って、吸い上げることを意味し
ます。
これは、全国銀行の、融資や国債買いに利用できる資金量が25兆円
減少することを意味します。
急激な引き締め策です。
月10兆円規模の引き締めは、わが国の日銀の歴史で初めてです。
当然、マーケットの資金逼迫から金利は上昇します。
日銀は、前稿で述べた「ロンバート型貸し出し」、つまり銀行が国
債を担保とする手形を発行すれば、公定歩合(現在0.1%)で銀行に
貸し出すと表明しています。
これによって、現在の短期ゼロ金利を「06年の秋までは」維持する
ということです。
今回の政策転換をまとめれば、
(1)日銀は、手形と国債を売って25兆円の資金を銀行から吸い
上げる、
(2)それによって金利が上がるなら、ロンバート型貸し出しを行
い、金利の上昇を一定程度にとめる、ということです。
なぜ、こうした政策転換が行われたか、3つの理由があります。
(1)卸売物価だけでなく、消費者物価が上昇に転じ始めた。
(2)資産価格(土地、株)が、バブル部分を含み始めた。
(3)日銀の手持ち国債が100兆円を超え、金利が上がって国債価
格が5%下がれば、日銀の5兆円の自己資本はゼロになる。
5%以上下がれば債務超過になる。
この3番目の理由は、日銀が決して言わない、最も重要なことです。
現在の世界金融が90年代半ばまでと根本的に違う点は、資本の自由
化(海外送金と投資の自由化)によって、世界の金融は密接につな
がっているということです。
05年は、先進国の低金利によって世界的な株価上昇があった年でし
た。
これほどの規模の、世界の横ならびでの株価上昇は、歴史上初めて
です。(注)05年の株価上昇では、米国が例外です。
■2.日本の株価の上昇
日本の株価は、05年に、46%上がりました。
・最初は外人買いで、
・次は個人買いの追随で上昇します。
シンボリックに言えば、主婦や大学生が、インターネットで株を買
うようになっています。
東証の時価総額は、563兆円(一部+二部)と、89年末のバブル期
(600兆円)に匹敵する額に増えています。
時価総額563兆円=平均株価1700円×発行株式数3300億株
↑
[1年で46%の上昇]
景況に、強気の見方をする人と企業が増えた原因は、この時価総額
の増加です。
こうした大規模な株価の上昇は、
・企業には資金供給をし、
・個人には資産効果での買い物を促すようになります。
資産効果は、資産増に起因する、消費や投資の増加を言います。
05年3月の時価総額371兆円→06年3月の時価総額563兆円
↓
[増加した192兆円による資産効果]
予想PER(Price Earning Ratio=株価÷1株あたり予想純益)は、す
でに24倍です。
24年分の将来純益(予想純益23.5兆円×24年分=563兆円)が株価に
なっていて、PERは先進国で最も高くなっています。
(注)米国のS&P500社のPERは、実績値で18倍(06年3月)です。
日本の株価は米国株よりPERで6ポイント高く評価されています。
高い株価が、バブルを含むかどうかの判断は、06年9月期以降の企業
の純益(税引き後利益)が、今より相当程度上がるかどうかにかか
っています。
企業純益の低下や停滞があると、バブル株価です。
株価を会社価値と見る向きがありますが、そうではなく、上場企業
の株価は、
・期待される将来の予想純益の、
・マーケットによる評価額です。
株価は企業の現在価値ではなく、将来の予想価値を示すものです。
【基本原理】
一般には、金利が上昇すれば、株価、地価、債券価格は下落します。
いずれもその理論価は、予想収益を期待金利(予想金利)で割っ
て、割り引くからです。
株価、地価、債券の理論価値
={(将来の期待利益)÷(1+期待金利+リスク率)}の総和
▼700兆円の、ほぼゼロ金利マネーがある
わが国では、金利がほぼゼロに張りついている個人預金が700兆円(
銀行預金+郵貯)あります。
これが、世界の他の国と違う点です。
預金のうち幾分かが株買いに動けば、株が上がる構造があります。
最初は、年10兆円のガイジンの買い越しが株価を上げ、その後にゼ
ロ金利預金をもつ個人が、株の買いに追随しています。現在、個人
の売買比率は、50%になっています。
05年秋からは、個人の株買いが「ブーム化」し、それによる株価上
昇です。ブームとは、上げが、次の買いを呼ぶ状況を言います。従
って、多くが下がると見るようになると、逆に急速な下げになりま
す。
株価や地価の上昇は、売買されるごくわずかな株や土地の価格の上
昇で、全体評価も上がります。
【ゼロ金利によるキャリートレード】
05年〜06年3月の株価上昇(46%)は、「外人買い」と「個人買い」
によるものです。
外人買いは、キャリートレード、つまり短期のほぼゼロ金利資金を
借り、株を買う方法です。
【ゼロ金利による信用買い】
個人が、証券会社から資金を借りる「信用買い」も、証券会社が調
達する「ゼロ金利マネー」が元になっています。
信用買いは、個人の買いの50%を占めています。
いずれも、ゼロ金利が生んだ結果です。
現時点では、06年3月9日に発表された量的緩和解除の影響は、金利
の大きな動きはまだないので、株価には及んでいません。
■3.世界の株価も大きく上昇
05年の日本の株価上昇率より高かった国は、ロシア、インド、サウ
ジアラビアです。以下に、04年と05年の株価上昇率を示します。中
東ではすでに、下がっていますが・・・
05年上昇率 04年上昇率
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ロシア 107.9% −11.1%
インド 72.2% 16.1%
サウジ 62.5% 102.6%
日経平均 46.1% −0.4%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
以下は、日本より上昇率が低かった国のリストです。
05年上昇率 04年上昇率
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ブラジル 40.9% 20.2%
韓国 38.0% 9.7%
ドイツ 36.0% 12.8%
フランス 27.3% 12.2%
英国 21.8% 11.6%
イタリア 18.2% 21.1%
米ナスダック 16.9% 0.3%
香港 16.5% 6.6%
上海B株 14.6% −34.1%
台湾 8.2% −7.9%
マレーシア 7.1% −3.4%
米ダウ平均 6.8% 1.4%
タイ 6.4% 5.3%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(日経060331)
2005年には、世界的な株価上昇があったと見ることができます。
理由は、投機資金の増加です。
ヘッジファンドも、その規模を170兆円に膨らませています。
株価だけではなく、世界で、不動産価格の高騰が起こっています。
(1)原油と資源が上がり、(2)株が急に上がって、(3)不動
産も上がったとなると、これは一体なんでしょうか?
世界で、資産バブルが起こっています。資産バブルと対照しなけれ
ばならないのが、金融資産バブル、言い換えれば債券バブルです。
ここ10年の世界の低金利は、今、資産価格と金融資産において、日
本だけだった80年代後期のバブルの規模をはるかに超える、資産、
株、そして債券債務のバブルを生み出しています。
■4.膨らみすぎた世界の金融資産と金融負債
長く続いた低金利は、怖い結果をもたらします。
普通なら長期金利が5%〜7%だということを、計算に入れないから
です。低金利を前提に借りて投資する。
▼1京3800兆円の金融資産と金融負債
世界の金融資産の総額は、1995年の$53兆(6095兆円)から05年末
はその2.3倍の$120兆(1京3800兆円)にもなっています。
この倍率は、どこからどう解釈しても膨らみすぎです。
1995年 2005年 年率
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
世界の金融資産 6095兆円 1京3800兆円 (+9%)
世界のGDP 3000兆円 4000兆円 (+3%)
金融資産/GDP 2倍 3.45倍
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(注)金融資産の内訳は後述
まず、GDP(生産力)に対し、金融資産が3.5倍にもなっていま
す。金融資産とは金融負債でもあります。
これを、分かりやすく例えれば以下です。
(注)GDPは所得の合計です。
以前(1995年)は、所得が1000万円で金融資産はその2倍の2000万円
だった人が、05年には、所得が1333万円で金融資産がその3.45倍の
4600万円になっています。
すごいことです。年収の3.5年分の金融資産になっています。世界は
豊かです。これが世界の全平均です。
しかし、Aさんの金融資産は、Bさんの負債でなければなりません。
これが金融資産の性格です。Aさんが預金を1000万円もつというこ
とは、預金を借りて使うBさんが1000万円の借金を抱えるというこ
とです。以下のことが言えます。
以前(1995年)は、所得が1000万円で借金はその2倍の2000万円だっ
た人が、05年には、所得が1333万円で借金がその3.5倍の4600万円
になっています。
これは、大変なことですね。
年収の3.45年分の金融負債になっています。
世界の全平均です。世界は、今、負債リスクに満ちています。
普通の金利を払うなら、無理になる金融負債です。
金融資産、金融負債は、年間で約9%の増加です。世界の経済規模(
GDP)の増加が3%〜4%ですから、その増加分の2倍から3倍の量
の増え方でした。原因は低金利です。
【本質=金融資産は金融負債】
金融資産は、別の誰かの負債です。
じゃぶじゃぶの金融資産を借り、投資や消費している人、企業、フ
ァンド、政府があるということを示します。
膨らみすぎた負債で、金利が上がればどうなるか。言うまでもあり
ますまい。金融資産そのものは、単に数字です。
金融資産の価値をきめるのは、借り手の利払い能力だからです。
わが国では、100兆円の不良債権処理で経験済みでしょう。
▼急激に膨らんだ世界の金融資産=金融負債:この項重要
以下は、05年末の、大きく膨らんだ世界の金融資産です。
(金融資産) (借りている側)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・銀行預金 3860兆円 =銀行の負債3860兆円→債券や企業融資
・株式 3770兆円 =企業の資本勘定 →株主からの負債
・社債 4000兆円 =企業の負債 →金融機関、個人
からの負債
・国債 2070兆円 =各国政府の負債 →国民、金融機関
からの負債
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
合計 1京3800兆円・・・誰かの負債が、1京3800兆円
(マッキンゼー)
【例えれば】
世界のGDPは約4000兆円です。金融資産(=負債)はその3.45年
分です。
平均的に見れば、
・1000万の所得の人が、3450万円の低金利の金融資産を持ち、
・別の、1000万円の所得の人が、同じく低金利の3450万円の負債を
かかえる構造になっていることを意味します。
(注)株を企業の負債というのは変だと思われるかもしれません。
これは返済の要らない負債です。その義務は、配当という資本の利
子の払い(=金利払い)です。つまり資本という負債です。
▼たった3%の金利上昇で、世界の金融の破綻が起こる
個人でも、企業でも国家でも、所得に対し負債が大きすぎれば、金
利の2%の上昇でも、打撃を受けます。
3%も上がれば「国際金融破綻」が必然です。
低金利が10年以上続いたため、金利が3%も上がれば、利払いの金額
は3倍〜4倍になります。
低金利の10年は、いたるところに、金融リスクをバラまいてしまっ
ているのです。
例えばソフトバンクなど、今もっとも大きな負債リスクの会社にな
っています。私は、すでに、ジャンク債(ボロ債券)の水準と判断
しています。世界における大規模な買収は、いずれも、買収に使う
資金の低金利を前提にしたものです。株式交換も株高を背景にした
ものです。
(注)ノンリコース・ローン(本体の資産を担保にしない負債)です
が、企業信用の面からは同じことです。
金利を払えない人が増えると、貸した金融機関は破綻します。
金融資産は、借りた人が利益を上げ、金利を払うことのできるから
価値があります。それがなければ、1兆円の金融資産も、紙の数字に
すぎません。
個人でも企業でも、所得の増加以上にお金を借り続ければ、待つの
は破綻です。1京38000兆円の総負債で、今、世界がそうなっている
のです。
金融資産が多いことは、一見ではいいことです。裏には、同額の金
融負債の多さがあります。
低金利とマネー増刷で膨らんだ金融の貸し借りによって、金融リス
クをかかえてしまったのが、日本と世界経済です。
90年代半ば以降の世界は、金融資産と金融負債の双方がじゃぶじゃ
ぶになった、金融バブルの経済であることを意味します。
世界の不動産も、です。
世界の低金利のアンカーが日銀でした。
■5.意識の「茹(ゆ)で蛙」現象
わが国は、バブル崩壊以降、日銀が、金融市場のプールに入れるマ
ネーの蛇口を全開にしました。借りたのは政府です。
今度は、蛇口を止めるどころか、プールの栓を抜き25兆円分の水を
減らすと言っています。その宣言で、金利は、わずかですが上昇し
ています。
ここまで言っても、ファンドマネジャーは、「金利が上がる気配が
あれば、日銀がまた、ロンバート型貸し出し(国債担保による公定
歩合(今0.1%)で貸すだろう」と安心しています。
怖いのは意識の「茹で蛙」現象です。
皆が認識を変えると、一斉に同じ国債売りの行動をとり、必要以上
の金利上昇が起こるからです。
これが市場の性格です。株価でも、DCF(ディスカウント・キャ
ッシュフロー:将来純益の割引現在価値)での理論値を越え、行き
過ぎるのが市場です。
金利が3%上昇すれば、1000兆円の負債を抱える政府部門の利払いは、
借り換えが進んだとき30兆円/年増えます。4%上がれば、今の40兆
円の国税は全部が、借金の利払いになります。
400万人公務員の給料(直接人件費で30兆円)が税収では払えず、給
料と、高齢者年金は財務省証券、退職金は国債になることを意味し
ます。
(注)わが国の個人金融資産は、総額で1500兆円、そのうち400兆円
は負債(住宅ローン等)です。純金融資産は1100兆円ですが、この
分は、ほぼ全額が政府部門の借り入れ1000兆円に化けています。
▼認識は2年も遅れる
思えば、92年に日本の地価が下がり始めたとき、「まだまだ上がる」
と考えた人たちが過半数でした。目の前で起こっている現象を解
釈できなかったからです。
そして最も高い価格で買い、あるいは保有し、実に多くの個人、世
帯、企業が破綻します。
そのあと、日本経済がなんとかやってきた理由は、
(1)政府が国債を発行し公共事業で景気を浮揚し、
(2)日銀がそれを買って、
(3)銀行の不良債権をカットし、埋めたからです。
当時はまだ、国債発行の余裕(国債が売れる余裕)がありました。
世帯が年40兆円も、貯蓄を増やしていたからです。
94年ころになってやっと「この地価の下落は、今までと違う。何か
大変なことが起こっている」と皆が思い始めます。
世界の風景、建物、土地、人々、服装は変わらない。しかし、同じ
風景を見る人間の認識は、ある時点で急転します。これが金融や株
価、地価です。
下がり始めてから2年もの長い、認識のタイムラグ(時差)があった
のです。今回も、認識の時差で似ているでしょう。
2年後、3年後に困らないように今から対策を打っておくべきです。
地価は、これ以上下がらないと最後まで(96年ころまで)言ってい
たのが旧大蔵省でした。記憶しておくべきことです。組織は認識が
遅れます。大蔵省の認識は、当時も4年遅れていました。
本稿は、皆の認識が変わる前に、それを予見しようとする論です。
【意識の古色蒼然】
そして今回、[金利は上がらない、上げない、上げさせない]と最
後まで言い続けるのが財務省でしょう。これは、確定的です。
理由は、2%の利上げに耐えられない財政構造だからです。そして経
済とマーケットを、法律や政令で統御できるという意識があるから
です。
日銀と金融機関に圧力をかけ、国債を買わせればいいと未だに思っ
ている、意識に古色蒼然たるカビが生えた集団が財務省でしょう。
過去の、米国と世界情勢を読めなかった陸軍に似ています。
■6.債券バブルの時代
今は、債券バブル、国債バブルです。
いずれ、破綻するところまで、行き着きます。
債券を減らすには返済が必要です、国債も同じです。返済できなけ
れば、減りません。むしろ増え続けます。
金利が払える間はいいのですが、金利が上昇すれば、当然に払えな
くなる。そして、債券と国債価格の下落(=金利高騰)で決着しま
す。
世界の低金利が10年も続いて、負債が増えたため、普通の金利にな
れば返せない負債であり、それが、今日も増え続けています。金融
論も何も要らない、単純なことです。
問題は、年々煮詰まってきています。負債は返さない限り減らない
からです。金利は時間です。サラ金の例を言うまでもないでしょう。
金融資産の価値は、借りている側が「普通の金利(3%〜7%)を払
える」から価値があるという当たり前のことを、記憶しておいてく
ださい。
ところが、低金利に皆が慣れれば、この意識すらなくなるのです。
世界の金融資産(=金融負債)の1京3800兆円を見て、そう思います。
本当に、みんな、よく借りたものだと感心します。
【奨められること】
今、短期負債を長期の固定金利に変えることができる企業は、力の
ある企業でしょう。今はまだ、長期金利は十分に低いのです。リス
クヘッジです。長短の金利差が、保険料です。
【低金利が続くならどうなるか】
今の低金利が、今後も2年続くなら、債券バブルはもっと大きくなり
ます。
結果は、破綻のリスクが、今よりも大きく高まるということです。
膨らみすぎた負債は、破綻の直前まで、外見だけは平静に膨らみ続
けます。地価がそうだったでしょう?
債券の低金利は、ゼロ金利に近い低い利回りのものが、高く売れて
いるということであり、その価値は、普通の金利にもどればバブル
になります。
▼注目点
米国の今後の金利が、注目点です。現在、長期のベース金利4.5%
(=長期国債の利回り)、短期金利4.5%(政府短期証券の利回り)で
す。
今、米国から資金が逃げ始めています。1兆円を超える赤字で破綻寸
前のGMが、米国経済を象徴しています。
米国政府と、企業、そして住宅金融での世帯の資金繰りが問題にな
っています。個人破産は急増しています。
【利上げする米国】
米国は、企業、国、世帯の資金繰りに必要な資金を呼び込むには、
利上げをせざるを得ないでしょう。利上げをしなければ、大規模な
ドル安が起こるでしょう。
住宅は、NYやロスの高い物件は下げ始め、売れない在庫が溜まっ
ています。危険な状態にあるのが、今の米国経済です。
そして同じ危険度をもつのが、日本の民間経済ではなく、政府財政
です。いずれも、負債で、経済をまかなってきたからです。
米国FRB(バーナンキ新議長)が0.25%の利上げを決定とのこと
です。理由として、景気がよく物価上昇圧力が強いことが挙げられ
ていますが、これはまるで違います。
逆に資金の海外からの流入を促し、消費を増やし物価の上げを継続
するためです。マスコミ向けの理由付けって妙なものですね。逆の
ことを言っています。金融当局は、理由付けに嘘を言っても許され
ます。
世界の金融資産と負債額が1京3800兆円にまで増えています。
たった2%の金利上昇で、利払いが276兆円も増えます。
これを借りている国や企業が払えるわけがないでしょう?
わすかな金利の上昇が大きな意味をもつ理由は、世界の負債額が1京
3800兆円もあるからです。
金融資産の価値では、その使い途である負債を見なければなりませ
ん。これが本稿のメッセージです。
世界の金利が今、同時上昇を始めています。
金利は、物価を後追いします。
簡単な原理です。5%の物価上昇が見込まれれば、資金を貸す人は、
5%以上の金利でないと貸さないでしょう。それを示すのが以下の、
名目金利の理論式(フィッシャー)です。
名目金利=実質金利+期待物価上昇率
これと同じ意味ですが、
名目金利=実質経済成長率+期待物価上昇率
世界の金余り(1京3800兆円)で、まず資産価格(不動産、株)が
上がり、次に、資源をコアに、物価が上がり始めています。
消費者物価が、資産価格の上昇に遅れるように変わった理由は、世
界の賃金の低い国が、消費財生産力を増加させたためです。
そのため、金利の上昇が遅れ、借り入れて投資する人と企業が増え
たのです。金利シグナルが働きにくくなったため、負債が増え続け
ています。その金利シグナルを働くなせたのが、日銀の[量的緩和]
でした。
企業がお金を借りても、衣食住の消費財は買いません。そのため、
消費者物価の上昇はあまり大きくならず、資金は資産に向かって殺
到します。従って、金利上昇で下がるのも、まずは資産です。
それを示すのが、1京3800兆円の[金融資産=金融負債]です。
ここで、世界の金利が、同時に上れば、2年後はどうなるか。もう、
予測はつくでしょう。
金利の1ポイントの上昇なら、まだいい。2ポイントで危険になりま
す。3〜4ポイントの上昇なら、明確に破綻です。
see you next week!
【後記】
前号の「東京三菱UFJ」は誤った表記でした。
「三菱東京UFJ(ホールディング)」です。
お詫びし訂正します。
なじみのないことが多い金融とその仕組みを、本稿も、可能な限り
日常語で説明しながら、解くことを試みました。世界のマクロでみ
れば、意外に分かりやすいと思います。
水曜日から5日間、米国(シカゴ)です。店舗を見るのと企業訪問で
す。もう、米国も、やっと暖かくなったようですね。
日本の株価は、予想PERが25倍を超えれば危険でしょう。
現在24倍です。
PERが25倍を超えて上がるなら、その後の下げも大きくなります。
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最近5号分の、有料版の目次を紹介します。
<260号:緊急時事問題(2)
:量的緩和解除の先を予見する>
06年3月15日号
【目次】
1.国債の売買市場で決まる金利
2.世界でもっとも信用が高い日本の国債の仕組み:逆説
3.3つの理由
4.過去、現在、未来は条件が違う
5.世帯の金融資産:資金の出し手の変化
6.家計の総金融資産の変化
7.今後、政府の赤字を誰がどう埋めるか
8.いよいよ日銀も量的緩和の解除
9.マーケットの共同的な期待
10.日銀政策委員会の5つのメッセージ
11.潮流の変化
12.国債を約100兆円持つ日銀は、金利上昇でどうなるか?
13.従って政府・日銀は、懸命に金利上昇は避けるが、結果は?
14.とても短い結論
<261号:バリュー・イノベーションの方法(3)>
06年3月22日号
【目次】
1.量的緩和の解除を振り返れば
2.新しい変化
3.バリュー・イノベーションの方法を振り返る
4.6つの関門
5.医薬品卸での事例
6.2つの戦略
7.カーディナル・ヘルスが提供したソリューション
<262号:事業改革の方法とプロセス(1)>
06年3月29日号
【目次】
1.膨らみすぎた世界の金融資産と金融負債
2.事業改革のプロセスと方法
3.危機意識とはなにか?
4.失敗の原因その1:
「多くの人が現状に満足したままなのに、改革に突入する」
5.失敗の原因その2:
「改革のための共感をもったチームの編成を怠る」
6.失敗の原因その3:
「ビジョンの重要性を過小評価する」
7.失敗の原因その4:
「社員にビジョンを周知徹底しない」
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