こんにちは、吉田繁治です。木曜日は午前3時半に起き、日本・ブラ
ジル戦を見ました。
帰化している三都主の見事なパスを受けた玉田が、高速ライナーの
シュートを決めたとき、深夜の仕事場で、独り思わず拍手しました。
神がかりのことが起こり、ブラジルが失策を重ね、2−0か3−1で勝
てるかもしれないと思えた一瞬でした。3月20日の野球の、WBCの
再現のように、起死回生のシュートになればいい・・・と祈願した
のです。
いい内容のゲームを期待したのではない。誤審があっても、なんで
も、あるいは、ずるく見えるスレスレの手段があっても、ジーコ・
ジャパンが勝つことを願いました。
ロナウドの、同点ヘディングのときは、まだ、希望をもっていまし
た。しかし、2点目のMFジュニーニョンペルナンカブノのミドルシュ
ートは、ジャパンをミサイルのように圧殺する威力をもっていまし
た。
スローモーションで見ると、外周70センチの球の回転が全くない。
これなら、フォークボールのように、ランダムに揺れます。
川口は「ボールが完全にぶれていた。自分の技術では、止められな
い。」と脱帽しています。
2点目のシュートで、ジャパンは命を貫かれたように思えました。残
ったのは、恐怖とあきらめでしょうか。後の試合運びはそう思えた
のです。
ジーコのマネジメントは、選手の自主と、局面での、瞬間の個々人
の創造を活かすことと聞いています。あらゆる局面は、正確に言え
ば、過去と似ていても、一回限りです。
その一瞬の判断を尊重する。
それだけができる技を、ジャパンはもっているという信頼です。
トルシエの4年は、180度違っていました。コマンド&コントロール
型で、強制していました。
オッズをすれば、ジーコ・ジャパンが決勝に行く可能性は1:100あ
るいはそれ以下だったかもしれません。
しかし万一、難敵ブラジルがゲームを流し、乗じることができて勝
てば、日本のマネジメントにも、「エンパワーメント」という新し
い一項が加わるとも思えたのです。エンパワーメントは、現場に利
益責任と、それに見合う範囲の決定の権限を降ろす方法での、成果
マネジメントです。
前半の終了間際の10分、そして後半の終了間際の10分に注目をして
いました。
双方が疲れるこの時間帯に、ジャパン・メンバーが限界を超えた動
きができれば、勝利が来るとも思えたのですが、結果を見れば、逆
でした。動いていたのはブラジルでした。
夕刻、多くの人とおなじように何か元気が消え、近くの居酒屋に行
くと、夫婦連れの隣の人が、やはり、今朝のサッカーを話題にして
いました。その内容は、TVの解説者が言う以上のものではないの
は当然です。
30分くらいすると、ガンバ大阪の西野監督が、ふらりと、独りで入
ってきました。「よこわ」の刺身を頼み、静かに、ビールを飲んで
いました。時折、ここで見かけます。
西野氏は「日本の1点で、ブラジルが本気になったように見えた。」
と言っていました。
確かに、そう思えました。
しかし、本気には誰でもなる。本気になったとき、狙う成果を上げ
られるかどうか、ここが、問題でしょうね。
ジーコもジャパンも、本気だったはずです。
ブラジルのように「本気になったことで成果を上げることができる」
とは、どんなことを意味しているのかと考えたのです。
【テーマ】
今回の送信は、このことをめぐってテーマに随想します。
本気になれば成果を出せる条件、そして、誰もが言う「実力」とは
どんな構造をもっているのかということです。実力とは何か?
【中田英寿】
他のゲームでも、最後まで走ったように見えたのは、中田英寿でし
た。
ブラジル戦のあとは、仰向けに寝て、天を仰ぎ、あたりをはばかる
ことなく号泣していました。ピッチに誰も残ってなかった。10分は
続いたでしょう。
練習でメンバーを叱咤し、叫んでいた中田の孤立と、チームの不和
も伝えられました。中田の意図を伝え、チームとの間を取り持った
のが、主将の宮本と言います。
天を仰いだ中田に、去来するものは何だったか。インタビューにあ
らわれた中田は左手に包帯をし、目は、洗われたあとのように見え
ました。
4年前のワールドカップでの決勝のトルコに敗れたあと、書いたこと
があります。彼は、シンプルに物事を考えます。
<中田英寿という希望(1)(2):2002年6月24日:Vol. 105・106>
http://blog.mag2.com/m/log/0000048497/60457605.html?page=7
スポーツに限らず、あらゆることは、結果がでないと、事前の期待
の大きさに正比例し、世評が裏返ります。
世評だけではない。選手自身の、自己評価も変わる。
自信が崩れる。そこから、建て直さねばならない。
どんな幸運や、相手のミスが働いたにせよ、選手とチームは勝つこ
とによって、一定の限界を超え、成長します。今回のジーコ・ジャ
パンの3試合には、その幸運がなかった。
マスコミや評論家は、ジーコのマネジメントを様々に非難するでし
ょう。今、チームは、ボンから成田に帰る機上です。
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<Vol.235:特別号 随想: 実力の構造>
【目次】
1.実力について
2.人並み以上の練習ができる背景にあるものは何か
3.自分は信用できないから「自信」が必要
4.古人の思考を借りれば
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■1.実力について
【実力とは】
ブラジルとの実力の違いが言われます。実力とは何か?
実力があると言うとき意味されているのは、必要な場面で、必要な
成果をあげることができるということでしょう。ギリギリの場面で、
真贋を問われるこの実力は、どこから生まれるか?
【ジャック・ニクラウス】
<人が考えないような何倍もの努力です。並外れた練習を通じ、ど
んな場面でも、自信のようなものが生まれてきます。自信が芽生え
たあと、集中心がやってきます。努力を通じた自信から出る集中で
す。>
ゴルフの帝王ニクラウスが、パターについて言ったことです。最後
のパットに優勝がかかっている場面で、誰よりも多く決めてきたの
が二クラウスです。パットは、心の動きを映します。
【集中は、自信から】
なるほどと思いました。ニクラウスはその体験から、努力(練習)、
自信、集中、そして実力の関係を示しています。
この努力は、一般に言われる、苦労ではないようです。
周囲は苦労物語を作りたがる。マスコミは物語が好きです。
しかしおそらくこの努力は苦労ではない。本人にとっては、むしろ
喜びのプロセスです。目指すことへの接近があるからです。
それを感じ、練習の方法をもっていなければ、周囲からは努力と言
われるものを続けることは、できない。
ニクラウスが、実力の発揮として言うことの要諦は『集中できるこ
と』です。
集中ができるには、量の累積である練習で生まれた『自信』という
裏付けがなければならない。これが分かっただけでも、収穫です。
シュートの一瞬、あるいはパターの一瞬も、裏付けの『自信』がな
いと迷いが生じ、余計な動作が入って外します。(私も)実によく、
繰り返し、飽きずに、外します。
原因は、「これではダメなのか。何か他にある。ちょっと変えよう。
いや、これでいいか。ままよ・・・」という疑念が、瞬間に混じ
ってしまうからです。集中が欠けた状態は、これを言うのでしょう。
これでいいと思う自分と、ダメかも知れないと思う別の自分の間に、
意識の分裂(非集中)が起こり、練習では普通にできたことがで
きなくなる。人間には、自分を見る意識(対自的な意識:pour soi)
があると解いたのは、現象学だったでしょうか。
練習でできることを、ギリギリの瞬間に(30%〜40%以上?の確率
で)できること。これが、実力がついた状態と言えるかもしれませ
ん。もちろん、練習でできないことを本番できると思うのは論外で
す。
AかBか決まる場面で、分裂しがちな自己を、一致(集中)させる
ことができる『自信』は、何倍もの練習を通じ、自分に植えつける
しか方法がないとニクラウスは言っています。
流れが来たと言われる状態も、何かがうまく行ったことをきっかけ
に、チームの多くが『自信』をもつことができ、その『自信』を裏
付けに『集中』が生じ、訓練した技を、幾分か発揮できるところに
入った時間を言うのでしょう。
【構造】
『1.何倍もの練習から』
→『2.自然に生まれる自信』
→『3.いざというとき自己分裂がなく集中ができる』
→『4.必要な場面での成果が上がる』
→『5.成果を、周囲から讃えられる(評価を得る)』
→『6.自信が深まる』→『6.練習での進歩が、喜びになる』
→『7.更に練習する』というプロセスでしょう。
■2.人並み以上の練習ができる背景にあるものは何か
【臨界点を待つ】
次に課題になるのは、この何倍も練習です。
練習や努力とは普通の結論ですが、おそらく、誰よりも続ける努力
の過程には、『臨界点』とでもいうべき、質的な転換点があるはず
です。「はずです」という理由は、証明ができていないからです。
臨界点(変曲点)は、例えば0度までは連続的な(量的)変化しかし
なかった液体の水が、突然、固体の氷になるような質的変化です。
自然現象では広く知られています。核融合も、臨界点での物質変化
です。臨界点で、量的な変化が質的な変化に突然変わる。おそらく
このアナロジー(類推)でしょうね。
ある時点から、急に進歩が速くなる。DVDや液晶TVのような家電の新
種も、普及率は、5%くらいの臨界点を超えたときから、急に高くな
ってゆきます。S字カーブと言われる、進歩の地点です。
「あぁこれか!」と思える瞬間も、小さな臨界点でしょう。後にな
ってみると、分かってないことも多いのですが、それをガイドする
のがコーチングでしょう。
練習を続け、ダメな自分にもきっと来る『臨界点』を待つ。
誰にもめぐってくる偶然が、幸運への機会になるのも、練習し、待
ち構えているからだと感じます。
【構造】
『練習の、一定値を超える累積時間』→『進歩のS字カーブ』→『
臨界点』→『自信』への質的変化
■3.自分は信用できないから「自信」が必要
『自信』ということも奇妙なものです。自分を信用できる心の状態。
じゃ、自分に不信を抱くのが普通のことなのか。おそらくそうでし
ょう。反省すれば、「やり遂げる」と決め、途中でやめる。
そうした経験は、私には山のようにあります。
決めても守らない信用できない自分を、信用できるようにもって行
けるかどうか。
自分に向かい自信をもてと言って、もてるものではない。
自信は、練習によって「生まれるもの」。ここまでやった、人より
継続したということが、おそらくは臨界点をこえたとき自信になる。
自己信用のために、『目標(あるべき状態)』を描き、接近するた
めの練習を続ける。
きっと来るはずの臨界点を待ち続けることへの情念が、それを支え
ます。
自分を信用できるようになれるかどうか。鍵はここにありそうです。
心の奥で偽りなくYes, I can.と自分に向かって言え、それを守れ
るかどうか。
行う前にこう言うのは、自分自身へ向かっての、虚栄でもいい。
自己への虚栄を守るには、やはり努力を続ける情念が必要です。
■4.古人の思考を借りれば
もう一歩すすんで考えるため、賢人の言葉を借ります。
<われわれは、意志より、大きい力をもつ。だから、事を不可能だ
と想うのは、しばしば、自分への言い訳である。(ラ・ロシュフコ
ー『箴言集』:初版は没年の1678年:その30:原文より)>
ラ・ロシュフコーが、意志より大きな力といったものは『情熱、自
己愛、虚栄』のことです。
目標として目指すことと達成した映像が、情熱を喚起する動機付け
になる。
理性的な意志や計画より、こうした感情的な情熱、情念、希望が人
を強く動かしていると見抜いたのがラ・ロシュフコーです。
彼が見抜いたもうひとつの人を動かす大きな力は、虚栄と自己愛で
す。
<・・・英雄も、その大きな虚栄心を別にすれば、他の人間と同じ
ようにできている(同その24)>
努力(練習)を続けられることの起点は、自分自身に対し、できな
いことの言い訳をしない虚栄をもつことからでしょうか。
こうしたプラスの虚栄を大切にしましょう。未来は、当然に分から
ない。しかし今日行うことだけは、決めることができます。
もう一項、確かにそうだというものを見つけました。
(「古典」には、古く見える入り口を我慢すれば、考えつくした徹
底があります。)
<われわれは希望にしたがって約束し、恐れにしたがって約束を果
たす(同その38)>
自分が自分に課す目標への約束を破り、自分を信用できなくなる「
恐れ」を恐れること。
see you next wwek!
【後記】
<日常語と算数で解く金融工学(2)>は、次回に送ります。
世界の株価も、期待金利の上昇で、変曲点を迎えています。
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以下は最近4号分の目次です。
<271号:時事緊急号:村上ファンドが残したもの>
2006年6月7日号
【目次】
1.【時事問題】キャピタル・ゲインの構造と性格
2.空売りは、他人の損につけこむ典型
3.株価が下落しなければ、誰にも損はないという反論
4.巨額資金で株を上げるのは容易、どう売り抜けるかが問題
5.振り返れば
6.そして06年3月〜5月
7.現在と今後の株価において認識しておくべきこと
8.日経平均2万円以上説は、誤りに思える。
<273号:レバレッジが組み込まれた乗数金融>
2006年6月14日号
【目次】
1.日経平均が200日移動平均を割ったことの意味
2.上げも下げも自己強化される構造がある
3.全面下げが起こるのは・・・
4.起点は、量的緩和の停止だった
5.レバレッジ金融で増幅される金利や価格変動(重要)
6.世界の、過剰流動性相場の終わり
<274号:増刊:
会社・経営・仕事の仕組みはどんなものか(2)>
2006年6月19日号
【目次】
1.振り返れば
2.戦略の階層
3.価値戦略としてのバリュー・プライシング
4.価値戦略としてのソリューション戦略
<275号 会社・経営・仕事の仕組みはどんなものか(3)>
2006年6月21日号
【目次】
1.品質志向と価格志向についての、消費者変化
2.価値志向:どこよりもいいものを、どこよりも安く
3.競争戦略
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