こんにちは、吉田繁治です。前号でも書いた中田英寿が、現役引退
を表明しましたね。ブラジル戦のあと、ピッチに仰向けになり号泣
したことの意味を悟った瞬間でした。行動がコトバでした。ヒント
は随所にあったのに、完全引退までは、読みきれませんでした。
「子供のころもっていた、ボールに対する瑞々しい感情は、うしな
われた。」、「ピッチで、いろんなイメージが瞬間に浮かぶ。その
イメージを満たすようには、体が動かない。」 この2つは決定的
な意味をもつ認識です。
自己についての映像と実際の間にある亀裂の認識が、決断を促した
と考えます。イメージ(ビジョン)と現実の亀裂が、日々拡大する
意識があったのでしょう。
スポーツは、神経的反応です。経験から増える脳の知識では、瞬間
の反応を補えない。ビジネスとはそこが違います。
「完全」への接近でなければ満足しない人と、60点でも自分と折り
合える人がいます。自分は不満でも、周囲からの賞賛があれば、そ
の賞賛が誤っていても、自分と妥協できる人が多数派です。
完璧を知り、それ自己に求めることは過酷です。
利上げに関する時事問題について書きます。低金利時代からの転換
です。この意味を理解するには、膨らんだ乗数金融について若干の
予備知識が必要です。使うのは算数です。
本稿は金融工学の前提としての時事問題です。インフレと金利の原
理、金利と債券価格、国家財政、国債価格、金利上昇で生じる金融
機関の「新たな」不良債権問題にも触れます。
(注)まだ、金融工学には入っていません。
いわば<日常語と算数で解く金融>です
皮肉なことです。世界景気(投資と消費)が上昇し、わが国の景気
も回復に向かうと、期待インフレ率の高まりと、企業・個人の資金
需要の増加から金利が上昇し波乱を起こします。
金利の上昇は「債権−債務」が乗数化して巨額になり、相互連鎖し
たグローバル金融に打撃を与えます。
金融、債券、株、金利はテクカルタームが多い。一見では分かりに
くい。しかしその原理はわずかな算数を使えば解くことができます。
原理的な理解をすれば、後で応用ができます。
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<Vol.236:日常語と算数で解く金融工学:
その時事的な前提(2)>
【目次】
1.時事:金利上昇へ
2.乗数金融にとって金利上昇は大きな影響をもつ
3.乗数金融のメカニズム
4.いつか来た道
5.期待インフレ率と金利の関係
6.債券価格と金利の関係
7.インフレと経済成長が生むこと
8.インフレと経済成長が生む金利上昇
9.国債残高の推移と利払い
10.3月からの量的緩和の停止と、7、8月の利上げ
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■1.時事:金利上昇へ
日銀の利上げは、日本を含む世界の、膨らんだ金融とファンド、株
価にとって影響します。日本の問題は、国債です。
「世界の債権・債務」は、前々稿(6月5日号)で示したように1京
3000兆円です。10年前(1996年)の2.3倍に膨らんでいます。
借りている側にとってはわずか1%の調整的な金利の上昇でも、130
兆円の利払いが増加します。
今、世界の金利が等しく上昇しています。
これは、瞠目すべき新しい現象です。
借りている側の最大は、各国の政府部門です。
その中で、もっとも巨額に借りたのが日本政府。
世界の金融も株価も、同時に、同じ変動をするようになっています。
原因は、金融工学を使い金融商品の価格を平準化する「広義の裁定
取引」が働いているためです。
(注)金融工学の中心課題である、金融商品の価格の歪みを狙う「
裁定取引(アルビトラージュ)や鞘取りについても、その原理と方
法を本シリーズの別稿で明らかにします。
▼短観を利上げの材料に
日銀の6月短観(短期経済観測調査)は、「大企業の景況感、さらに
改善」としています。その根拠は、06年の設備投資の計画が、前年
比+11%を示していることです。
短観は、大企業を中心に約1万社の経営と環境認識へのアンケートを
集計したものです。金融政策を決める材料になるのが、短観です。
日本経済の全体から言えば、従業者の約70%は、アンケートから漏
れる中小企業への勤務です。中小企業の非製造業(卸・小売・サー
ビス)の景況感は、まだ、悪化しています。
店舗売上は、既存店ベースでマイナスを続けています。平均賃金は、
98年ころから昨年まで続いていた下落が、やっと止まったレベル
です。90年代半ば以降は、世界的に、雇用者賃金の上昇がない。
大企業の、輸出製造業を中心とする投資の回復は、世帯の所得増加
には及んでいません。円安による、輸出企業中心の景気回復だった
からです。
円安(ドル高)の理由は、世界の余剰資金が、相対的に高い金利の
米国を目指し、ドル買いをしてきたからです。
(注)中小企業は、製造業では資本金3億円以下または従業員300人
以下、卸売りでは資本金1億円以下または従業員100人以下、小売で
は資本金5000万円以下または従業員50人以下、サービス業では資本
金5000万円以下または従業員100人以下の会社とされています。(中
小企業庁)
▼7、8月に予想される利上げ
06年3月以降、20兆円分の銀行資金(日銀に預けた当座預金)を、債
券の売りで吸い上げてきた日銀の姿勢は「06年7、8月中に、現在の
短期金利ゼロ策を解消し、利上げをしたい。」ということです。
03年の量的緩和開始以降、金利という手段をうしなっていた「日銀
の願い」も混じっています。
福井総裁の村上ファンドに絡むスキャンダルも、日銀の、政府から
の独立性に固執する余計な態度を生んでいます。みっともない限り
ですね。この国の、絹のハンカチと言われてきた金融マンの品格も
この程度です。
国債を低利で売らねばならない政府は、日銀のゼロ金利解除(利上
げ)に反対しています。金利が上がれば、1年で120兆円規模にもな
った借り換え債の利払いが増えるからです。財政再建も、金利上昇
があれば、ムリです。
短期金利ゼロとは、銀行間の貸借(コールマネー)の金利のことで
す。(注)銀行から企業・個人への金利がゼロという意味ではない。
これが、短期(1年以内)の企業貸し出し(手形割引等)と、企業や
個人が借りる長期(1年超)の貸出金利のベースになります。金利が
上がれば、国債や社債の金利も上がります。
06年7月か8月に、0.25%への利上げが予想されます。
株価と国債価格は、瞬時調整し、下げへ向かうはずです。
(一本調子ではなく、当然に、騰落を繰り返します)
米国も6月には、米国は短期金利を0.25ポイント上げ、公定歩合を
6.25%(政府短期証券の金利は5.25%)にしています。(注)公定
歩合はFRB(米国の中央銀行)が銀行に短期の貸し出しをすると
きの金利です。
米国は04年6月から2年間、0.25%ずつ17回も連続する利上げです。
米国が金利を上げる理由は、海外からの、米国の赤字を補う資金
(年100兆円規模)が必要なためです。
(1)米国政府は50兆円(事実上はそれ以上)の軍事費のため、
(2)家計は70兆円の過剰消費のため、
常態的な赤字国になっている米国のドル債券(国債・社債)は、西
欧や日本より数ポイント金利が高くないと買われないのです。
世界から、1年に100兆円以上も資金を集めねばならない米国が、世
界の金利上昇を引っ張っています。自国内で、国債と社債を買う資
金をまかなえないのが米国です。1日で3000億円、1時間で125億円の
海外からのドル債券(国債・社債)買いが必要です。
【いずれ必ず直面すること】
機軸通貨国が1年で100兆円超の赤字で、純債務が増え続けるという、
いずれは清算されねばならない矛盾の中に、世界の通貨、金融体
制があります。この矛盾には、08年、09年ころには、世界が直面し
なければならない。
結果はいわずとも・・・米ドルの下落と基軸通貨の停止でしょう。
その後は「ドル−ユーロ−円−元」の通貨バスケット体制でしょう
か。貿易の額に正比例し各国中央銀行が、準備通貨をもつ制度です。
今のドル基軸は、もう、中東とロシアで破綻しつつあります。
石油支配を狙ったイラク戦争は、米英の敗戦です。
(注)アメリカが、住宅価格の崩落と景気への悪影響を恐れ次の8月
利上げを停止すれば、ドル安調整が起こります。
■2.乗数金融にとって金利上昇は大きな影響をもつ
▼「債権−債務」が増加してしまった世界
2000年代の世界は、債権と同額の債務が巨額になっています。
会社に例えれば、売上収益の増加を上回る速度で負債を増やしてき
たことと同じです。ファンドも、出資者からの預託(借入)です。
金利の(わずかな)上昇が、レバレッジ(=信用借り)を縦横に使
うヘッジファンド(世界で約140兆円の元本)の運用にとって、大き
な影響を及ぼします。
▼乗数金融が組み込まれている
レバレッジは、証拠金(元本)を置いて信用借りをし、元本の数倍、
10倍、20倍の投資をすることです。乗数金融の代表が、ヘッジ・
ファンドです。(注)仕組みは、個人が行っている株や、外国為替
の信用取引と同じです。
元本が100億円で、10倍のレバレッジをかけ1000億円を借りて投資す
れば、1%の金利の上昇も、元本に対しては10倍、つまり10%の金利
上昇に相当します。
個人も、1億円の元本(資本)を担保に、信用で5億円の株を売買し
ていれば、金利は借りた5億円に対してかかりますから、1億円の元
本に対しては、市場金利の5倍の金利です。
この信用供給のメカニズムは以下です。
(1)証券会社は、手持ちの債券や国債を日銀に売って、資金を得
る。
(2)その資金を借り、ファンド、企業、個人が、証拠金(買った
株)を置いて、株や債券の信用売買をする。
この資金の供給元が日銀です。この日銀が、金融機関の資金(日銀
当座)を20兆円も吸い上げたのです。これが、06年3月に始まった
「量的緩和の停止」です。
今のファンドとヘッジ・ファンドの金融、及び個人の株、債券、外
為取引には、次に示す等比級数で信用が膨らむ「乗数金融」が組み
込まれています。
ここ数年の低金利(マネーの緩和)は、世界の乗数金融を膨らませ
てきたのです。
■3.乗数金融のメカニズム
▼乗数金融
ファンドが1億円の預金をもつとします。これで、国債を買うとしま
す。ここまでは普通の取引です。
乗数金融が始まるのはここからです。
国債担保の掛け目が90%だったとします。買った1億円の国債を担保
にすれば9000万円を借りることができます。
その9000万円でまた国債を買う。買った国債を担保に8100万円を借
りる。その8100万円で国債を買う・・・と続ければどうなるか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1億円+9000万円+8100万円+7290万円+6561万円+5905万円+531
4万円+4783万円+4305万円・・・・と信用の膨張は無限等比級数に
なります。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数列の合計額は、1億円(元本)÷(1−0.9)=10億円(信用総額)
です。9億円分の信用が、乗数で膨らんだことになります。
元本1億円が、手もちの国債10億円になっています。
9億円分は負債です。金利が下落し、手持ちの10億円の国債価格が上
がれば、大きな利益を得ることができます。
しかし金利が上昇し10億円の国債が9億円に下落すればどうなるか。
元本の1億円は消えます。つまり、ファンドが破産します。
残るのは9億円の負債(金利上昇)、そして9億円に下落した国債で
す。
これが無限連鎖の乗数金融です。1億円の元本によって、国債の総運
用額(元本1億円+借入9億円)が10億円になります。
(注)一般に、信用が高い株の担保価値は時価の80%とされます。
株価が上昇すれば、その担保額も、価格に比例し増えます。
▼膨らんでしまった乗数金融
世界の低金利、とりわけ日銀の量的緩和と短期ゼロ金利はこうした
乗数金融を、世界に膨らませてきました。
低金利のときは、国債・社債・株が、利益を生む有利な金融商品に
なるからです。2000年代のように、世界の金利が下がって低かった
ときは、信用を使った債券や株の購入で利益を得ることができたか
らです。
(注)03年から05年のファンドの合計利益は莫大でした。4000億円
の運用資金をもつ村上ファンドも、8000億円の時価総額だったライ
ブドアも一翼だったのです。ライブドアの事業の本質は、株式分割
と粉飾を使った詐欺的なファンドでした。
大きく膨らんでしまった信用の連鎖の中で、誰かが大きな損をし、
決済が不能になると、影響は、手形の不渡りと同じです。決済の不
能が次々に連鎖します。
金利の上昇は、乗数金融を組みこんでしまった金融の世界では、急
激な信用の縮小、言い換えれば債券の売却(一斉売り)を生むので
す。わずかな金利の上昇でも、乗数金融にとっては重いのです。1億
円で10億円を借り運用しているからです。
金利はその10億円に対し、かかります。0.25%の上昇が2.5%の利払
い増加になります。2%上がば20%の金利増加になる。こうなると、
もう、乗数金融(レバレッジ)を組んでいるファンドの多くは、破
産します。
その債券の売却は、さらに金利を上げるという信用縮小の負のスパ
イラルを生みます。
▼キャリー・トレードという乗数金融手法
レバレッジと信用での債券・株購入が増えたため、近未来の金利予
想(期待金利)の変化は、株と債券の相場を、一層大きく動かしま
す。
例えば、ファンドが行う「キャリー・トレード」という方法があり
ます。金利がほぼゼロの円資金を短期で借り、その借入金で、世界
の株や国債を買う取引です。
信用で買った株や国債を、また担保にして借り、国債や株を買う。
このキャリー・トレードも「信用が膨らんだ過剰流動性」です。
金融商品(株・社債・国債)は担保になります。低金利で、資産や
債券の価格が上がる時期は、価格が上がった分が、あらたな信用
(借入)の増加を生み、さらに投機マネーを増やす構造が作られます。
■4.いつか来た道
わが国の約20年前(80年代後期)、不動産の値上がり分が担保にな
って借入が増え、その増加借入でまた土地や株を買われ、その値上
がりが増加担保になって信用(借入可能額)が膨らみ、スパイラル
な資産価格高騰を作って行ったことと同じバブル構造があったので
す。
20年前の資産バブルは、日銀が過剰流動性を作った日本だけでした。
しかし今の資産(債券・株・不動産)のバブルは、原油を代表と
する一次資源の高騰も含んだ世界的なものです。
90年代に、深化したグローバル金融が、世界同時バブルを生んでい
ます。米国からは、景気絶好調と聞こえてきます。これは、末期現
象です・・・バブルは最末期に、狂乱化します。
(注)この7月に、全米からのホテル投資と住宅投資が集中したラス
ベガスに行き、バブルの最後を確かめて来ます。
不動産価格の上昇も(急速に高齢化している日本を除けば)、世界
的なものです。インドも中国もポルトガルもスペインもロシアも上
がった。米国の住宅もそのひとつです。
消費者物価が上がっていない理由は、賃金の上昇がないことと、労
働コストの低い中国が世界の家庭用消費財の、供給基地になってい
るためです。世界の消費者物価を上げないアンカー(錨)が中国で
す。
80年代後期の日本のバブルでも、消費財の値上がりは、ほとんどな
かったのです。今回も同じです。消費財には、世界で、過剰生産力
が作られているからです。
消費側の要因は高齢化です。55歳超〜60歳を超える人が増えた国で
は、例外なく、食を含む消費財の需要総額は増えない。
退職年齢が近づくと、平均所得は55歳という生涯所得のピークの約
60%から50%になるからです。(注)役員等になる1%以下の人は例
外的です。
■5.70年代までと異なる内容のインフレ
2000年代からの世界インフレは以下の内容です。
(1)先進国の高齢化と、世界の消費財の過剰生産力で、消費財物
価は上昇していない。
(2)BRICsの多資源消費型の近代化で、一次資源消費が増え、
ファンドによる投機買いも加わって、国際コモディティ(世界
統一価格)である一次資源価格は、高騰している。
(3)日本を除く世界の不動産は、高騰した。
(4)債券は低利で発行され、株価は上昇した。
(注)これはほぼ、06年4月までのことでした。06年5月はまず、世
界の株価が同時下落しています。
今のインフレの性格は、以下です。
・消費者物価は、さほど上げていない。世界的な、雇用者賃金の上
昇の低さと、先進国の高齢化のためです。先進国の工場は、軒並み
閉鎖、リストラされています。
原因は、単位時間あたりの労働コストで、先進国の10%〜20%と低
い中国が、元が2分の1に切り下げられた1994年以降、経済特区投資
を起点に年2桁成長で、家庭用品の供給基地になったためです。
物価インフレの実感はない。世界の合計では、過剰生産力(工場設
備の過多)があります。例えば電子製品は、生鮮商品のように急速
に価格が下落し、生産は寡占化しています。
・世界で上がったのは、国債を含む債券、株、そして不動産、及び
石油を代表とする一次資源です。
一次資源価格の上昇は、人口が多い新興国BRICs(ブラジル・
ロシア・インド・中国)の、多資源消費型成長(工場投資)と、資
源需要の増加を見越したヘッジ・ファンドによる投機の両方が原因
です。
過剰流動性での投機・投資が、グローバルになったためでもありま
す。低金利が、消費財以外の、資源価格、資産価格、金融商品を高
騰させたのです。
インフレは通貨価値(=モノの購買力)の低下ですが、消費財の高
騰が起こっていないので、一般にはインフレ認識がない。そのため
に、金利は低いままでした。
(注)今回のインフレは、2倍になったゴールドの価格がシンボライ
ズしています。資源に対し通貨価値が半分になったという意味です。
■6.期待インフレ率と金利の関係
期待インフレ率は、近い将来のインフレ予想です。インフレとは、
物価が上がり、反比例しマネーの購買力(マネーの価値)が下がる
ことです。
人々がインフレ予想を高めると金利はどうなるか? 物価が1年で
10%上がると予想されているとします。今なら100円で買えるものが、
来年は、110円の価格になるという予想が社会で共有されていると
いうことです。
お金を貸す人は、今1億円を貸したとき、返済される来年は価値が1
億円÷1.1=9090万に下がることを知っています。借りる人も知って
います。
この貸し借りが、経済合理的に成立するには、1億円×1.1=1億1000
万円の元利返済がなければならない。
社会で共有される、物価の将来上昇率が「期待物価上昇率」です。
貸す人はこの期待物価上昇率以上でないと貸すという誘因が働かな
い。
同時に、貸すことには、返ってこないかもしれないリスクと、物価
の上昇がもっと高くなるリスクもあります。以上をまとめると、必
要な金利は、以下の算式で表すことができます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
金利←(期待物価上昇率(10%)+リスクプレミアム(2%等))
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
市場の金利は、期待物価上昇率とリスクプレミアムを加えたものに
向かう性質があります。
(注)リスクプレミアムをどう計算するかが、まさに、金融工学で
の研究分野です。天気予報の確率計算のようなものです。
以下の一般式は、経済学者のアービン・フィシャーが作っています。
名目金利=実質利子率+期待インフレ率
≒実質経済成長率+期待インフレ率≒名目経済成長率
中央銀行が金利に関与しなくても、経済原理として金利はインフレ
率を上回る基本性質があります。
2000年代の日本の短期金利がゼロ(長期金利は1.5%程度)だったの
は、インフレ率を含む名目経済成長率が、ほぼゼロであったためで
もあります。
名目金利ゼロ=実質利子率1.5%+物価上昇(−1.5%)
(注)中央銀行は、債券(主は国債)の市場からの売買で、経済の
動向に好ましい影響を与えるようにこの金利とマネー量を調節する
機能です。
以上のことから導かれる原理は、(社会の、あるいいは世界の)期
待インフレ率が高まると、それにあわせ金利は上昇するというとい
うことです。
03年からのゼロ金利策と量的緩和は、物価の下落をとめ、インフレ
に導き、経済(特に設備投資)を浮揚させる目的でした。
日銀は、
(1)消費者物価が0.5〜0.6%とは言え上昇するように変わったこ
と、
(2)前述のように短観の調査で設備投資も増えるように変わった
ことを理由に、
(3)「量的緩和の停止(06年3月〜)」を決定し「7,8月の短期ゼ
ロ金利解除」をほのめかしています。
しかし、金利の上昇から生じる問題は、「乗数金融への打撃」です
。
それを理解するために、債券価格と金利の関係を見ます。
金利上昇の打撃をもっとも強く受けるのは国債に財政を依存してい
る政府部門と、その国債をもっている金融機関です。
■7.債券価格と金利の関係
▼債券価格が決まる原理
額面100円、金利2.0%の長期国債があったとします。市場の長期金
利が1.5%なら、この国債は額面(満期の償還金額)の104.3円で取
引されます。
【債券価格を決める公式】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
債券(国債)価格=(1+表面利率×残存期間)×100
÷(1+期待金利×残存期間)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(注)金利は、本来は複利計算ですが、ここでは単利で計算します。
低い金利のときは、単利と複利に大きな違いはありません。
例えば、表面利率2%、残存期間10年(長期国債)の国債価格は以下
です。シンジケート団(今は債券市場)が想定している期待金利を
仮に1.5%とします。
【債券価格の算式】
額面100円の国債時価=(1+0.02×10年)×100
÷(1+0.015×10年)=120÷1.15=104.3円
マーケットが期待金利を1.5%とするなら、[額面100円:利率2%]
の国債が、市場では104.3円で、額面より3.4円高く落札されます。
これが、およそ06年5月まででした。低利の国債が高く売れて流通し、
担保(信用)になっていたのです。
これが、金利が決まるメカニズムです。
【原理】
国債(債券)の価格は、
・発行時より、市場の金利が上がれば価格が下落する。
・発行時より、市場の金利が下がれば価格が上昇する。
【重要】
発行元の国が金利を決めるのではなく、国債が買われる価格で、金
利が決まることに注意してください。これが、90年代以降の「自由
金利」の意味です。
▼期待インインフレ率が高まれば金利は上がる
市場の、期待インフレ率の高まりから想定金利(経済学では「期待
金利」)が上がれば、上記の式で、分母の金利が大きくなるので、
低い金利の国債価格は、下落します。
金利←(期待物価上昇率+リスクプレミアム)
▼皮肉にも経済成長率が高まっても金利は上がる
名目金利=実質利子率+期待インフレ率
≒実質経済成長率+期待インフレ率≒名目経済成長率
経済成長率の高まり(景気回復)とは、企業の設備投資が増え、個
人消費が盛り上がることです。企業の設備投資は資金を必要としま
す。個人消費の増加も資金を必要とします。
つまり、資金需要が増える。そうすると金利は上昇します。
これは日本経済の好転です。歓迎すべきことです。しかし債権・債
務が膨らんだ現代経済には、別の面から打撃を与えます。
低金利で、存分に借りてきた側が、利払いができなくなるのです。
端的なことが、低利で発行され市場にある国債価格の下落です。国
債価格の下落は、国だけではなく、その国債をもつ金融機関、年金、
郵貯、簡保、ファンドを破綻させます。
100兆円の国債をもつ日銀も、約2%の金利上昇で、5兆円の自己資本
をなくしてしまうのです。
もっとも多額の借金をしている国が、経済の回復で、もっとも大き
な打撃を受けます。理由は、借金額が巨額すぎるからです。以下で
それを見ます。
■8.インフレと経済成長が生む金利上昇
仮に、市場の期待金利が(米国並の)6%に上昇すると、表面利率2
%で発行され、104.3円で売れていた過去の国債の時価はどうなるか?
(注)分かりやすくするため、6%と高い金利を想定します。
インフレを見込んで、市場の期待金利が6%に上昇すると、1.5%の
利息では買う側にとって市場の利回りに不足します。そのため、額
面100円の国債の市場価格(時価)が下落します。
国から100円が償還されるまでの残存期間が8年あると仮定します。
以下の計算です。
額面100円の国債時価=(1+0.02×残存期間8年)×100
÷(1+0.06×残存期間8年)=116÷1.48=78.4円
市場の期待金利が1.5%のとき104.3円と高い評価だった長期国債は、
期待金利が6%に上がると78.4円に25%も下落します。(注)社債
も同じ原理で、価格が下落します。合計で見た株価も同様です。
【重要】
概略で言えば、1%の期待金利の上昇があると、長期国債の時価は5
%くらい下落します。(注)逆に、1%(ポイント)の市場の期待金
利の低下があると、長期国債の時価は、5%上昇します。
【期待金利が急に上がれば、国債は投げ売られる】
こうした金利の上昇があると、国債をもつ金融機関、年金ファンド、
ファンドは競って売りに出します。そうすると、結果は、金利の
更なる上昇と、国債の下落を招きます。
6%は高い金利ではない。「平常時」なら普通の金利です。
今は、平常時ではないのです。
▼国家財政はどうなるか
発行する政府も、市場の「期待金利」をにらみながら、つける金利
を決める必要があります。そのため、市場の期待金利が上がれば政
府の利払いは、1年120兆円分の借り換え債分から、どんどん増えて
行きます。
消費税の大幅増税や5%の公務員カット、5%の予算カットでは、追
いつかないのです。(注)消費税は1%で約2.5兆円に相当します。
わが国の(長期)期待金利が4%〜5%になると、政府財政が破綻す
ると判断しています。
政府の予算執行が困難になり、80年代のニューヨーク市のように、
公務員や警察官の給与、年金、医療費、公共事業の未払いが出ると
いう意味です。
資金繰り倒産状態の会社に似た状況です。
国家財政が破綻するとますます金利は上昇します。
ロシアやアルゼンチンのような状況です。
日銀が、国債の引き受け(直接購入の)ためにマネー供給を全開さ
せれば、インフレもスパイラルに加速して行きます。
ハイパーインフレとは言いませんが、可能性は明確にあるのです。
2006年は、インフレ予測から世界の金利が上昇基調に転じました。
■9.国債残高の推移と利払い
今後の参考のため、債券の代表である国債残高の長期趨勢を示しま
す。
金利の上昇で最も大きな打撃を受けるのは、企業より国家財政です。
これは、積年の無責任予算を組んできたつけです。返済と利払いを
考えていなかった。
▼90年代以降の急増:一目瞭然でしょう
【年度】 【残高】 【増加額】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1975年 5兆円
1980年 71兆円 ( 61兆円=年10兆円)
1985年 134兆円 ( 63兆円=年10兆円)
1990年 166兆円 ( 32兆円=年 6兆円)
1995年 225兆円 ( 59兆円=年10兆円)
2000年 368兆円 (143兆円=年29兆円)
2005年 538兆円 (170兆円=年34兆円)
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▼超低金利のままとしても・・・
現在の傾向を延長すれば以下のようになります。金利は低金利のま
までも、国債残が増えるので政府会計からの利払いが増え、それが
あらたな国債になります。2020年で、残高は1168兆円になります。
【年度】 【残高】 【増加額】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2005年 538兆円 (5年で170兆円=年34兆円)
2010年 718兆円 (5年で180兆円=年36兆円)
2015年 918兆円 (5年で200兆円=年40兆円)
2020年 1168兆円 (5年で250兆円=年50兆円)
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▼金利の上昇を加味すれば
今年から始まった金利の上昇を加味すれば、国債残はさらに増えま
す。
現在の長短国債を合計した平均残存期間は5年です。1年で国債残の
20%が、その年の、新しい金利で借り換えになります。仮に5年単位
で2%の金利上昇があれば、以下のようになります。
【年度】 【残高】 【増加額】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2005年 538兆円 (5年で170兆円=年34兆円)
2010年 768兆円 (5年で230兆円=年46兆円)
2015年 1068兆円 (5年で300兆円=年60兆円)
2020年 1418兆円 (5年で350兆円=年70兆円)
(それ以降の計算はしなくてもいいでしょう。維持不可能)
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マーケットの、大きな金利上昇は、民間が国債を買う国債市場の「
国債の引き受け難」から起こります。資金がなければ、民間も発行
される国債を買えない。
2010年(4年後)には、国債768兆円、政府の合計債務1400兆円が想
定されます。このとき国民の金融資産を、政府部門が使い切ってし
まいます。
例えば銀行(資金量500兆円)も、企業への融資(現在300兆円:総
資産の%)がなくなって、すべてが国債に振り変わる。
こうしたことは、想定ができません。従ってその前に、金利が上昇
し「国債引き受け困難」であるというシグナルを出します。
【結論】
今の国債の増加傾向のままなら、2007年か2008年ころ、金利が急上
昇にはいります。国債残が、650兆円に近づいたときです。
2007年(来年)、2008年が、市場の期待金利の上昇で、経済の分岐
点になると判断できます。
700兆円の国債残のとき4%(4ポイント:約6%)金利が上がると、
平均残存期間5年の国債は、今より20%価格が下落します。
想定損失は140兆円。国債をもつ銀行、生保、年金基金、郵貯、簡保、
日銀の負担になります。90年代の貸し出しの不良債権問題が、今
度は、国債の不良債権化になってしまうのです。
貸し出しの不良債権との違いは、国債は転売が可能なことです。大
量に国債が売られれば価格がさらに下落し、市場金利は、その下落
幅に比例し上昇します。国債の利回りがマーケット金利のベースに
なるものだからです。
国債残が700兆円(2008年)に近づいたとき、長短金利が5%なら利
払いは35兆円です。これは現在より20兆円くらいの利払いの増加で
す。(消費税で言えば8%分に相当します。)
国債は、金融の中核にあります。
■10.3月からの量的緩和の停止と、7、8月の利上げ
乗数金融のスパイラルな連鎖で膨らんだ世界の過剰流動性を減らす
要因のうち、もっとも大きな影響をもつのが、
(1)06年3月に始まった日銀の「量的緩和の停止(=約20兆円以上
の市場資金の吸い上げ)」と、
(2)06年7月または8月からの「利上げ」でしょう。
今後の、金利上昇への転換点と判断します。
(重要な注)
もし世界の中央銀行が、金利上昇リスクを恐れ、マネーを緩和し低
金利にすれば、どうなるか。不動産、株、債券、資源価格のバブル
はさらに大きくなります。
そしていずれ、期待インフレ率の高まりから期待金利が上昇し、債
券バブルは破裂します。これは必然的なことです。
量的緩和の停止は、連鎖している信用額を縮小させます。金利の上
昇は、債券価格(国債・社債)と株価を下落させるのが原理です。
今年は、世界の株価、不動産を含む資産価格、そして原油を含む一
次資源価格の高騰のうち、相当部分を演じてきた「過剰流動性」が
縮小に転じる時期になるでしょう。
中央銀行のマネー政策(マネー量と金利の調節)がマネー量と金利
のすべてを決めるわけではありません。
しかし機関投資家やヘッジ・ファンドは、金融政策を判断し投資の
姿勢を変えます。そのため、今は、わずかな金利変動の影響が大き
いのです。
see you next week!
【後記】
金融工学の前提となる事項を、金利の上昇という時事問題と絡め、
示しました。それにしても、大きな転換点です。
景気回復(=金利上昇)は、債権・債務が巨額化した現代では、別
の大きな問題を生むことを理解しておいてください。経済は、総体
的に見なければならない。
金融経済という観点から、フォーカスを当てる必要があります。理
由は、債権・債務が大きな要素になっているからです。わが国が10
年余苦しんだバブル崩壊も、原因は債権・債務の巨額化だったでし
ょう?
債権・債務は、個人の観点からは金融資産です。世界の戦後ベビー
ブーマーの貯蓄と年金基金の増加が加わって膨らんだものです。こ
れが、政府と企業が利用する資金の元になっています。
(再掲:世界の金融資産)
・預金 34兆ドル(3740兆円:うち日本約700兆円:19%)
・株 33兆ドル(3630兆円:うち日本約500兆円:14%)
・社債 35兆ドル(3850兆円:うち日本約 50兆円:1.3%)
・国債 18兆ドル(1980兆円:うち日本約750兆円:38%)
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合計 120兆ドル(1京3000兆円:日本2000兆円:15%)
(注1)これらの金融資産の運用に絡んだデリバティブ(金融派生
商品)の総額は、150兆ドル(1京6500兆円)と言われます。この数
字は、以上の金融資産には含まれていません。
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<277号 増刊:完結編:
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【目次】
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