こんにちは、吉田繁治です。瞬く間に時間が過ぎます。前回、<仕
事における責任と権限を考察すればマネジメント(後編)>お送り
して1ヶ月が経ってしまい、申し訳なく思っています。
今回テーマとするのは、2000年代の世界的な低金利、ファンド、過
剰流動性がもたらした世界バブルとその行方(ゆくえ)です。
もちろん皆が「バブルと認識」しているわけではない。崩落がどう
起こるか、同時的か、地域分散的か、あるいは無いのか、それも当
然に不明です。
(注)重要なことは「世界金融」の視点から見なければならないと
いうことです。理由は、90年代の資本の自由化で、世界のマネーが
国境を越え瞬時に動くように変わっているからです。国際投機を短
期で激しく行うヘッジファンドも、運用元本で$1兆2000億(140兆
円)を超えています。
80年代後期のわが国経済に対しつけられた「バブル」と言われる現
象に、共通の定義があるわけではない。資産インフレの重症という
程度の合意しかない。経済学はバブルを定義していません。(注)
実はデフレの、正統学派による研究も少ない。金融現象と経済現象
が連結して見られることが少ないためです。
まず、バブルを定義します。
「実体経済のGDPと所得の増加率をはるかに上回る資産価格(不動産、
株等)の上昇が数年から10年継続し、過剰流動性による投機が次
の投機を生むバンドワゴン効果の結果として、価格が経済合理的な
レベルを超えて上がり、その後に急落する現象」
後で価格が急落しなければバブルではない。
問題になるのは「経済合理的な資産価格のレベル」です。その概念
はあります。しかし、数字で示せる合理性は実はない。そのため、
異なる認識が競って、その中間点に価格が形成されます。
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<Vol.241:歴史は繰り返す。舞台と登場人物を変えて(1)>
【目次】
1.16 年前の記憶
2.2000年以降、世界の住宅価格は高騰した
3.概観すれば
4.インフレに向かう兆候かどうか
(次号に続く)
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■1.16 年前の記憶
▼1990年
近年の集団的な記憶では、
(1)わが国の1990年からの株価下落、
(2)そして2年遅れの92年からの地価下落です。
地価下落のために、かつては優良企業と言われた親族の会社も100億
円の負債で倒産しました。土地投機に手を出したためでした。
バブルの原因は、
(1)過剰流動性(日銀による低金利マネーの供給)と、
(2)不動産担保の金融制度でした。
【2年で3倍の地価】
内需拡大を目的とした低金利マネーが不動産価格に火をつけ、上昇
する土地を担保に銀行融資が急増し、それでまた土地が買われ、大
都市部の商業地は2年で3倍になった。
【PER70倍の株価】
1989年12月の、ピークの株価(日経平均:39,815円)は、PER(株価
÷1株あたり純益)で計ると約70倍でした。
企業の70年分の純益(税引後利益)と評価されていました。年間純
益で100億円の企業が、100億円×PER70倍=7000億円の時価総額(=
会社価値)評価されていました。
(注1)06年10月現在は、次期純益の予想PERで20倍くらいの株価水
準です。PERは、株価水準を計る有力な指標のひとつです。有力とは、
多くの人が合意しているということ。PER15倍から25倍あたりに、
株価の合意点があると見ていいでしょう。
(注2)別の指標として、PBR(株価/純資産倍率)があります。PBR
=株価÷1株あたり純資産額です。PBRが1倍のときの株価は、企業の
資産・負債を清算したときの売却価格額に相当します。
1989年12月のPER70倍(70年分の純益が企業価値)はいかにも高すぎ
ました。そのため株価の根拠として言われたのは、土地を時価評価
した純資産倍率のQレシオでした。Qレシオ=株価÷(1株あたり時価
総資産-負債)です。地価が高い日本だけは特殊だとされていたので
す。
▼正当化される
「日本企業は、貸借対照表では取得価格である土地の含み益が、巨
額である。土地を時価で評価すれば、株価は高すぎない。地価を時
価評価したQレシオでは高くない。」
そうした理由づけで買い続けた人の多くが、破産しました。(注)
人は、いつの時代も、自分の判断に沿う意見しか受け入れないよう
です。
企業が生むことが得できる将来利益との見合いでは高すぎる株価
(PER70倍:70年分の純益)が、保有する土地の地価の含みで、正当化
されていました。含みは、時価と簿価の差を言います。1平米1万円
で買った土地の時価が100万円なら含みは99万円です。
わが国では、他国と違い、企業がもつ地価の高さが、株価の高さを
裏打ちするとされていました。
地価は1991年まで下がったことがなかったからです。戦後約45年間
、金利率よりも経済成長率(GDP)よりも高い率で上がってきたのが
地価だったのです。
株価の根拠としてもしっかりしたものがあるわけではない。「買わ
れれば上がる、売られれば、下がる」という根拠しかない。原理は
以下です。
▼原理
「発行される株式数の増加率より、株式市場に新たに投入される資
金の増加率が高ければ株価は上がる。逆なら下がる。」
上げを予測する人が多く、実際に買いが増えれば、株価は上がりま
す。それだけの根拠しかない。現在の株価は、外人買い、個人の買
い、投資信託の買いが3つの主役です。
常に注目すべきは、売買高の増減です。06年9月の1日平均売買高(
東証1部)は2兆3000億円。最近の売買のピークは、06年1月(ライブ
ドア事件)の3兆2726億円/1日でした。
(参考)1日平均売買高と日経平均株価
【1日平均売買高】 【日経225種】
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03年 1兆1439億円 9939円
04年 1兆3291億円 1万3291円
05年 2兆2597億円 1万3561円
06年4月 2兆8464億円 1万7232円
06年9月 2兆2697億円 1万5934円
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最初に、世界の住宅価格から見ます。
90年代半ば以降、約10年間も、強気一辺倒だった米国の住宅価格が、
最近、下がり始めています。
2000年ころに米国へ行くと、ロスの普通の広さ(250平米)の郊外住
宅が1億円を超えていました。
当時の価格でも30%くらいのバブルがあると思ったのですが、その
後も上げ続けます。今は2億円でしょう。やはりこの価格は、変です。
住宅価格は、広範囲な取引のバランス価格から形成されます。一部
の不動産の、特異な現象とは言えないのです。
■2.2000年以降、世界の住宅価格は高騰した
1昨年の秋、スペインに行ったとき、マドリッドの都心から30分の、
郊外の150平米のコンドミニアム(共同住宅)が8000万円になったと
60歳くらいの、現地に20年住むという(たぶんゲイの)ガイドから
聞きました。
「3000万円のときもあったんですよ。その前は1500万円と安かった
んだけど・・・買っておけば、ねぇ、今はお金持ち。」
寒冷地のドイツから買っても、今は統一通貨ユーロのため為替の変
動のリスクがない。西欧では、夏のレジャーは1ヶ月余も続きます。
西欧では、南欧の太陽の価値が高い。スペインは西欧のリゾート地
です。
見れば、広くはなく設備も豪華でない普通の家。西欧の田舎である
スペインやポルトガルの海岸の住宅は、ドイツやフランスからのリ
ゾート用として高騰していました。今も、価格は高いままです。
ドイツやフランスの自動車産業が、工場を建設していました。スペ
インの人件費が約半分と安いのがその理由です。
スペインに30年住む、家人の友人の事業家は「バブルでしょうか?」
と、食事のとき聞いてきました。その後もユーロは上がった。
ドルからの振り替えがあったためです。
「バブルに思えます。」と答えたことを記憶しています。しかし上
昇率は低下しても、まだ目だって下がってはいない。アラブの原油
マネーが南欧に流れ込んでいるためです。
不動産価格の変化は、いつも、株価に約2年遅れます。
最初に、世界の住宅価格の高騰を見ます。あらためて、2000年代の
過剰流動性(低金利マネーの増加)に驚きます。
▼西欧の住宅価格上昇(英エコノミスト誌より)
【西欧】
[地域][2000年-05年][2002年-05年の上昇率]
スペイン 118% 54%
英国 95% 37%((注)06年は下落)
フランス 77% 50%
アイルランド 64% 38%
イタリア 54% 30%
スウェーデン 48% 29%
オランダ 25% 12%
デンマーク - 36%
スイス - 22%
ドイツ -5% -4%
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西欧概略計 60% 35%
2000年から05年までの5年でおよそ1.6倍に上昇し、2002年から05年
での3年で1.35倍になっています。
これは平均価格です。平均は上のグループの最低値、下のグループ
の最高値です。
スペイン、英国、フランスの不動産の上昇地域では、ここ5年で2.5
倍の価格になったと見ることができるでしょう。3000万円の物件が
7500万円です。これはわが国の80年代末の不動産バブルに匹敵する
規模の上昇です。
他方、個人所得はGDP並み(2%〜4%)しか増えません。5年で実質
津15%上昇くらいです。インフレを入れた名目額で25%上昇でしょ
う。
名目所得1.25倍・・・・住宅価格1.6倍〜2倍
釣り合いが取れません。これは普通の人が住宅ローンを組めなくな
っている価格に上がったことを示します。
▼【北米とオセアニア】
[地域] [2000年-05年][2002年-05年の上昇率]
米国 64% 37%
カナダ 33% 20%
オーストラリア 67% 22%
ニュージーランド - 64%
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概略計 60% 30%
米国は2000年以降、およそ年率10%の複利で価格が上昇してきまし
た。5年で64%です。90年代の半ば、全米平均の住宅価格は$15万(
1725万円)でした。今は$28万(3220万円)です。
米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドは人口密度が低
い国です。郊外に、土地はいくらでもある。広大な国土のカナダま
で、年率約10%で上昇しているのですから驚きます。
当然に米国も、平均所得の伸びははるかに小さい。住宅が買えない
価格に近づいています。
▼【中国】
[地域] [2000年-05年][2002年-05年の上昇率]
中国 - 22%
香港 - 36%
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中国概略計 30%
中国の沿岸部では、もっと高い上昇率ですが、全国平均では年率で
10%です。同じ期間の日本はどうだったか?
【日本】
[2000年-05年][2002年-05年の上昇率]
日本 -23% -16%
最近東京、大阪、名古屋の都心部では底打ち、REIT(リート:不動
産投資信託)の買いを原因に上昇がみられますが、全国平均では年
率で5%以上の下落が続いています。
■3.概観すれば
世界でこれほど広範囲な住宅価格の同時上昇を、世界の歴史は、経
験したことがありません。世界史上で初めてのことです。
概観し、どう思いますか? バブル崩壊の痛切な経験をもつのは、
日本人だけです。より的確に判断できます。
上がる渦中にいれば、モノは見えなくなります。
西欧、米国、中国の大都市は年10%の上昇が続いて来ています。(
注)英国、米国、中国の都市部の一部に下落が見えます。
▼住宅価格の結論
【米国】
・米国の今の平均価格には約30%の、
・高騰地域では50%のバブルが含まれていると判断しています。
平均的な住宅は、平均所得の人が住宅ローンを組んで返済できる価
格が妥当な価格だからです。
全米の平均価格3220万円は、その7割の2250万円が地価、建築費、所
得、金利からして妥当でしょう。
米国の住宅ローン金利はわが国の3%レベルと違い6%水準(30年固
定レート)だからです。3000万円借りれば年間180万円(月間15万円)
が金利です。年収800万円の世帯は、買うと生活が圧迫されます。
ところが、2006年の米国の中古住宅は、売りの在庫が286万戸(前年
比3.5%増:4.7か月分)と増えたにもかかわらず、中心価格はまだ
$22万(2530万円)であり、前年比で15.8%の高騰を続けています。
米国の住宅市場の中核は中古住宅です。年間で700万戸水準が売買さ
れます。住宅寿命が平均で60年であり、わが国30年の2倍だからです。
新築は約200万戸です。
【西欧】
西欧の住宅価格も米国とほぼ同じです。
平均的に30%、高騰地域では50%以上がバブル価格でしょう。
【中国】
地域が広大で一概には言えませんが、北京、上海、シンセン、広州
等の都市部の価格は、50%近いバブルを含んでいると見ます。
北京では08年のオリンピックの前から、上海では10年の万博の前か
ら、住宅価格、不動産価格の下落が起こることは確実です。
(注)投機の抑制のため政府は、住宅金融を引き締め、例えば上海
の住宅単価は、04年7月以降は上昇が止まって、下落傾向も見えます。
平均価格水準は1平米単価で6350元(約10万円:05年12月)であり、
100平米の狭い物件で1000万円です。
上海市の平均での1平米単価は以下です。
05年1月 8750元
05年6月 6500元
05年12月 6350元(約10万円)
■4.インフレに向かう兆候かどうか
以上のような、世界的な不動産価格の上昇と、ほぼ同時に起こって
いる原油や金属の資源価格高騰をどう見るべきか?
金融収縮(金利の上昇)で、バブル価格として下落するのか、それ
とも、来年から始まる世界インフレの兆候と見るべきか、ここが焦
点です。
(1)バブル価格と見れば、今の不動産価格は、わが国を含め、危険
になります。
(2)長期のインフレを示すと見れば、低い住宅ローンの35年固定金
利(国内では約3.4%:06年10月)で借りて買ったほうが得になりま
す。
(3)インフレなら、賃金はどうなるのか?
(4)焦点である金利はどうなるのか?
以上の要素を含め、全体を予測するには、(1)赤字通貨の米ドル、
(2)政府部門が1000兆円の総負債を抱え、世帯の貯蓄率が減ってい
る日本の状況、(3)1.5倍に高くなったユーロ、(4)そして今起こ
っている資源戦争までを考慮し、5年〜10年を見通さねばなりません。
以下次号で、(本当は無謀な)長期予測を試みます。
(注)無謀であるという理由は、各要素の論理的な積み重ねで全体
を合成したとき、大きく誤ることもあるからです。
see you next time!
【後記1】
10月25日に予定されていた、内田洋行主催の『ソリューションフェ
ア』での講演は、新幹線の人身事故のため列車が長時間停止し、や
むを得ず中止になってしまいました。
300人もの聴衆の方が、参加されていたとのことです。深くお詫びし
ます。本来は、講演では、前日に現地に入らねばならないのですが、
それが果たせていません。交通の関係でこうしたことが起こった
のは3回目の経験です。
【後記2】
11月9日から半年振りにNYです。NYの、高すぎる不動産価格がバブル
かどうか。わが国にいて見ると、明らかにバブルですが・・・
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ネス書5冊を超える情報価値をe-Mailでお届けする」ことを趣旨に
、ビジネスの成功原則、関連事項、経済を原理からまとめ、明快に
解いてお届けしています。以下は最新号の目次です。
<290号:あらゆる変化の基底は人口構造(1)>
2006年9月20日号
【目次】
1.地価の変化と地域の年齢構成の例から
2.食品購入の世代別構成の変化
3.世帯の内容変化
4.人口の年齢構成変化
5.変化の意味
6.ドラッグ・ストア世代が増える
7.70歳代以上の倍増(1917万人)の意味
<291号:あらゆる変化の基底は人口構造(2)>
2006年9月27日号
【目次】
1.時事:経済についての要論
2.金融政策の成功の原因
3.懸念の米国景気
4.わが国の貯蓄率(重要)
5.借りるときと返すときは裏返る
6.米国にとって無駄になった60兆円相当のイラク戦費
7.ファンド資本主義の戦略が知られてしまった
8.しかし米ドルは順次すべりおちている
9.政府は国益:国民益を
<291号:わが国の流通問題:
ロビンソン・パットマン法と活動ベース原価(1)>
2006年10月4日号
【目次】
1.戦前の米国流通
2.ロビンソン・パンットマン法によるフェア・プライス
3.フル・サービス価格と言う概念
4.物流ドミナントの形成
5.わが国の戦後量販店は金額量販店だった
6.一転したのが1985のプラザ合意による円高から
7.単位面積当たりの売上高
<292号:わが国の流通問題:
ロビンソン・パットマン法と活動ベース原価(2)>
2006年10月11日号
【目次】
1.前号のポイントからの展開
2.DCシステムでの競争優位
3.わが国の店舗への流通
4.取引金額の大きさによる割引
5.ABC(Activity Based Costing:活動ベース原価計算)
6.チェーンストアの本義
<293号:緊急テーマ:時事問題への省察(1)>
2006年10月18日号
【目次】
1.体制の存続が、金正日総書記がとるすべての行動の目的
2.北朝鮮が先制攻撃を仕掛けることはあるのか
3.わが国自衛隊の機能
4.戦費
5.金正日総書記の戦略
6.「結果として」米国経済の緊急ニーズにも合っている
<294号:緊急テーマ:時事問題への省察(2)>
2006年10月25日号
【目次】
1.「抑止」から「先制攻撃」へ
2.北朝鮮への金融制裁の意味
3.国内の銀行間決済の仕組みから見れば
4.コルレス口座の仕組み
5.金融制裁
6.(補注)米ドルのコルレス口座の機能
7.ドル基軸ならドル需要は世界の経済成長で増える
8.通貨特権の争奪で対抗するユーロ
9.最大のドル保有国
10.広くは米国の狙いとは別の、副次的な効果
11.鍵となる中国の動き
12.日本はミサイル防衛網の輸入へ
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