こんにちは、吉田繁治です。先月末思い立ち、トルコに行きました。
帰った後も、波動のような心の余韻が続いています。こうしたことは、
近年の海外で感じなかったことです。経済と文化のコンチェルト
(混成)です。ハーモニーを奏でることができるかどうか。
A4 で30枚ですので、3回に分け次々に送ります。
1ヶ月余、送信しなかったお詫びでもあります。
■プロローグ
アドリア海に通じるマルマラ海と、巨大な黒海を結ぶボスフォラス海
峡の、人口1200万人の都市イスタンブールを経て、バスで450Km走って
首都アンカラへ行き、更にバスに乗り、コンヤ市の『リクソスホテル』
で書いたものから、送ります。無線LANと、日本とも通話できる携帯
電話は、ほぼ、主要国で使えようになっています。
イスラム教徒(スンニ派)が、人口7150万人の98%を占めます。なじ
みのないイスラムも、考えようと、思います。イラクやイランもいい
のですが、リスクがあるので、隣国のトルコです。
トルコに来た理由に、
・70年代〜2000年代初期の、物価が10万倍に上がったハイパーインフ
レを経て、
・00年代初期には政府が金利を上げて金融を引き締め物価を沈静させ、
・2005年には100万分の1のデノミを行った国であることもあります。
そういった経済は、どうなっているのか。
インフレは一見では物価の高騰ですが、その本質はペーパーマネーの
刷りすぎによる通貨価値(トルコリラ)の価値下落、つまり通貨の商
品購買力の低下であることが、ドルや円との関係で分かります。ドル
や円で物価を見れば、上がっていません。
それと、インフレ下では、通貨価値の下落を補うため、市場金利は高
騰しますが、それもトルコでは、インフレと当時に起こっています。
こうした、普段は見えない経済と金融の関係が、原色で見えるのがト
ルコでした。
物価に中立的な、言い換えれば物価を安定させる長期金利の水準は、
[長期金利≒実質GDP成長率+物価上昇率](フィッシャーの原理)で
す。
(1)長期金利(例えば10%)>実質GDP成長率2%+物価上昇率3%な
ら、金融は引き締まり物価は下がって行きます。
(2)逆に長期金利(例えば2%)<実質GDP成長率2%+物価上昇率3%
なら、金融は緩み物価は上がって行きます。
後段では、この関係を実証します。
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<Vol.232:遙かな国トルコ:経済と文化のコンチェルト(1)>
2009年2月21日
【目次】
1. 経済についての概要
2.円以外に対し上げている最近の米ドル
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■1. 経済についての概要
北は黒海、西はエーゲ海、南は碧(あお)い地中海に囲まれ、湖が多
い。黒海から来る塩分が少ない淡水は、目に黒く見えることを、細い
ボスフォラス海峡を巡る遊覧船で知りました。
ヨーロッパ側はギリシア・ブルガリアに隣接し、ロシア側ではグルジ
ア・アルメニア・アゼルバイジャンに、中東側ではイラン・イラク・
シリアに接します。西欧・東欧・南欧・ロシア・アラブ・アジア文化
の接点に位置し、複雑な国際関係の中にある。イスラム教が民族の「
統覚」です。
近世ではオスマントルコ(15世紀〜19世紀)が権勢を誇り、ドイツに
連合し敗戦した第一次世界大戦後(1923年〜)は、議会制の共和国な
った。宗教法から[大統領―首相―議会制]と三権分立の、イスラム
では珍しい世俗法の国です。
【世帯所得とGDP】
世帯の平均所得は、今、月8万円くらいです。商品経済の量を計るGD
Pでは、$6600億(約60兆円:07年:日本の約8分の1)で、関西圏の
経済スケール(産出商品金額)ですが、イスラム国は、商品化経済の
内容が異なるので、金額での規模比較は目安にしかならない。
【インフレ率】
2009年のインフレ率は、10.1%と高い。経済(GDP)の成長率は2.5%、
直近の鉱工業生産は、世界金融危機の余波を受け、−13.9%と落
ち込みが激しく、失業率は10.3%と、西欧並みに高い。
【対外債務】
対外債務が$2470億(07年:外貨準備の3.4倍)と、手工業品と農産物
が主である輸出力に比べ、多い。このため、07年からの金融危機後の
外資引き揚げが、直撃しています。
株価は、昨年比−67.4%で中国並み(−67.2%)の落ち方です。ドイ
ツ経済との関係が深い。日本にとっての米国が、トルコにとってのド
イツです。(データは英エコノミスト誌:09.01.17号巻末統計) ト
ルコや東欧の中進国は、西欧からの投資対象地だった。
西欧の銀行は今、対東欧と旧ソ連圏への投資で、数10兆円規模の巨額
損をしています。通貨下落、株価・証券下落での二重損です。
英語ですが、ここを参照すれば、トルコの概要がわかります。参考の
ため掲載します。
http://en.wikipedia.org/wiki/Turkey
【参考】
日本の鉱工業生産も、輸出の急減(−30%)のため前年比−20.8%(
08年12月)と、落ち込みが急激です。米国の金融危機と信用収縮は、
月を追って深まっています。
回復は、住宅価格が、普通の世帯がローンを組んで買える時期、つま
り価格底打ちして、米国のローンが回復する時期(2011年か)を俟(
ま)たねばならない。
通常の景気循環とは違い、金融機関、世帯、企業の負債の過剰を原因
とする今回のような劇症の不況は、そのバランスシート(資産と負債
の関係)が好転に向かう時期まで、回復しません。
金融機関が、自力で利益を出すようになり、企業と世帯の過剰負債が
所得に対し見合うまで、減らねばならない。政府の金融対策と言って
もそれは、新たな、政府や中央銀行からの貸し付け(負債)です。貸
し付けや資本供給だけでは、一時の延命しかできない。
例えばトルコ政府が国債を増発し、損失で破産した自国の金融機関に
政府資金を緊急に貸しても延命はしても、再生するわけではない。
米国の3大自動車会社も同じです。40%も販売台数が減った車が、再び
売れるようにならねば、自動車会社も再生しません。自動車が売れる
には、家計の負債が減って(所得が上がり)、再び、ローンが組める
時期が来ることが必要です。
【外貨が信用される】
通貨はリラですが、米ドル、ユーロ、円が店舗ではそのまま通用しま
す。人々はインフレを起こした自国通貨より、先進国の外貨を信用す
る。
【インフレの原因は、国の財政赤字】
1970年代から2000年代初頭まで、巨額の財政赤字(公共事業費と不正)
をまかなうため、政府が(ジョン・ローのフランス王立銀行のよう
に)ペーパー・マネーを大量に刷ったことから、物価が10万倍にもな
ったハイパーインフレを起こしています。
1年平均で58.5%上げれば、25年で10万倍。一個100円のパンが1000万
円になったのと等しい。。
90年代後期からの消費者物価上昇は、95年2.2倍;96年1.8倍;97年1.
9倍;98年1.9倍;99年1.7倍;00年1.4倍;01年1.7倍;02年1.3倍;03
年1.2倍です。
【リラの価値の下落】
有料のトイレもかつては50万リラ(25円)だったという。今は、100万
分の1のデノミで、0.5リラ(25円)に下がった。円で見れば物価は変
わっていません。リラの通貨価値(購買力)が変わっただけだからで
す。これが、インフレです。
04年以降、政府がマネー量を絞ったため、若干の落ち着きを見せてい
ます。
中国では「マネー膨張」と言うインフレは、マネーの刷り過ぎによる
通貨価値の下落です。米ドルへの交換率も、10万倍のインフレに反比
例し、下げています。以下の交換率の変化は、リラの価値を示します。
この価値下落に正比例し、リラで計る物価は上がっています。
[データ:米ドルとリラの、歴史的な交換レート]
1966年 $1= 9リラ
1980年 $1= 90リラ
1995年 $1= 4万5000リラ
2001年 $1=165万リラ:対ドルで1966年の18万分の1
2008年 $1= 1.55リラ(デノミ後)
(注)05年に、$1=155万リラを1.55リラへ呼称変更:100万分の1
のデノミだった。
【2000年代初期】
その後、トルコ政府は、通貨発行量の増加を抑えて金利を上げ、それ
によってインフレを2桁の前半に抑え、02年からは5%〜7%の実質経
済成長率に変わった。しかし、インフレ率は2桁台に向かうも、まだ
10%に近く高い。(この項、後で詳述)
【若年者が多い、農業と手工業の国】
トルコは、インドやアラブのように、若い世代と子供が多く、日本を
含む先進国と対極の人口構造は、ピラミッド型です。GDP=労働人
口×1人あたり生産性です。就労人口が増え、生産性(1人当たりの商
品生産と流通数量)が上がるとき、高い経済成長になる。
今後の労働人口の増加は、中国のような技術導入と結びつけば、生産
性も上げ、高度成長になる。どの国でも50%台、40%台の農業人口が、
鉱工業に向かう時期が、高度成長です。くびきは、商品経済化を否定
することもあるイスラム思想でしょうか。(注)トルコの農業のGDP
構成比は15%で、労働力の構成比は40%です。
【風景短章】
高原の高速道を走れば、樹木のない奇怪な形の山の裾(すそ)に、地
平線まで小麦畑が広がり、尖った鉛筆に見える塔を立てたモスク(イ
スラムの集会場)がある100戸ほどの集落が、ところどころに点在しま
す。
このモスクは、トルコに約8万カ所もあるという。寺院より集会場や公
民館に近い。コーランを解釈する聖職者が2名いて、政府が月5万円く
らいの給料を払う公務員という。村人は、礼拝の時刻になると集まり、
お祈りを捧げる。連帯の確認にも見えます。
前記のように、政府は2005年に、通貨の呼称を新リラとし100万リラを
新1リラに換える「デノミ」を行っています。賃金も預金も物価も、
すべてを1日で100万分の1にした。今、新1リラは53円付近です。
http://finance.google.com/finance?q=JPYTRY
ドル・ユーロ・円からリラへの交換は、容易です。しかしリラから円
への逆交換は、闇レートでしかできない。
トルコ国民も世界も、まだ新リラを信用していません。ペーパーマネ
ーの信用は、発行権を独占するトルコ政府の信用に他なりません。
【インフレの国の通貨と預金】
世界金融危機の後も、国際通貨として米ドルの信用が(ある程度のレ
ベルで)強いのは、世界では、自国通貨の長期的な価値を信用してい
ない国民が多いからです。トルコのように、ドルが自国の通貨よりま
しだ・・・とされている。
またいつか、ペーパーマネーを、経済規模(GDP)に対し過剰に増発す
るのではないか、政府官僚と富裕者に、経済を破壊する腐敗が起こる
のではないかとも思っている。
ロシア人は、預金するのが、今も怖いと言う。90年代に、国が管理す
る年金も預金も、物価の高騰(ルーブルの価値下落)で、同時に無価
値になったから・・・それが政府信用です。
【生産とマネー】
商品は、生産でしか増やせません。他方、ペーパーマネーは、金融の
規律を無視するなら、財政赤字に困る政府が、際限なく増やせます。
インフレは国内の通貨で計れば物価高騰に見えます。
しかし本質はその国の通貨の価値下落です。トルコリラを、円やドル
の関係で見ればこれが分かる。円で買えば、トルコも物価は10万倍に
上がっていません。リラが10万分の1に下がった。このインフレの本質
も、トルコでは実によく分かったのです。
■2. 円以外に対し上げている最近の米ドル
【円以外に対するドル高の要因】
米ドルが、世界最大の債権国の通貨である円以外に対し、価値を保ち、
逆に新興国の通貨やユーロに対し上げているのは、米国の金融機関
・ファンド・企業が持つ対外資産(1650兆円:07年末)を、本社の資
金繰りのため、売っているからです。(注)対外負債は2000兆円で、
対外純負債が350兆円(08年推計)
米国がもつ対外証券の売りは、現地通貨売りとドル買いになります。
米国経済とドルが強いための、円以外へのドル高ではない。逆に、ド
ルが弱く、米国金融と企業の資金不足から、手持ちの海外債券を売り、
それが本国への送金のためのドル交換(現地通貨売りとドル買い)
になり、米ドルが価値を維持しているのです。これを認識しておいて
ください。
【新興国の株価と通貨】
2008年後半期の、米国・英国・欧州からの売り(投資の引き揚げ)の
ため、トルコを含む新興国の株価は、全部、07年10月比で60%〜70%
も暴落しました。現地の通貨も、ドル交換(=現地通貨売却)が増え、
下がった。
【重要】
米ドルが大きく下がる時期は、米国の金融機関・ファンド・企業によ
る対外資産(=対外債権)の売りの勢いが、止まったとき、および、
金融・経済対策のため増発されるドル国債が、海外に売れにくくなっ
たときです。これが、半年以内に来る感じがしています。
【金融機関の不良債券買い取りで、FRBの資産が劣化している】
今、米国中央銀行のFRBは、金融機関の不良債権と、買い手がなく
なって流通性を失った証券を200兆円も買い受けて、その対価であるマ
ネーを与え金融崩壊を支えています。
今は、FRBの資産が、金融機関からの不良債券の引き受けで、空洞化し
ています。
【円は、ドルの付属的な位置を、麻生政権が選んでいる】
今、世界では円が最も強い通貨ですが、難点は「国際流通性」です。
理由は、政府・日銀が、対外総債務2000兆円の米ドルに対し、政府が
「ドル基軸を守る」と公に言い、ドル債を、米政府の要請に応じて買
い支えることから、円がドルの付属通貨の位置にあるからです。
政府の無定見な対米追随が円を弱くし、本来は下がるべき米ドルを支
える第一の要素です。
最近では、米国が支配するIMFに、9兆円の資本を拠出する調印を、中
川前大臣が行っています。泥酔会見は、米国から感謝された、調印式
の翌日でした。
【トルコ】
日本人の意識からは、遠いトルコですが、政府が、GDP(≒産出さ
れる商品量)に対し、ペーパーマネー(≒国債)を刷り過ぎれば、高
いインフレ率になって通貨価値が下がる。この単純明快なことが、ト
ルコでは、見えるのです。
【今後数年は、スタグフレーション】
世界の同時金融危機の後は、スタグフレーションを含むデフレ(数年
間)でしょう。スタグフレーションは、企業利益が下がり、賃金も下
がって、物価も上がらない数年間です。その間、長期金利は、政府の
利下げにかかわらず上がる。
【その後は、インフレになる】
各国政府は、金融・経済対策のため国債を増発し、買い手が少ないの
で、結局は中央銀行に買わせます。中央銀行はペーパーマネーを刷っ
て政府に与え、それを政府が使う。
それが数年続けば、先進国でもトルコのような通貨価値の下落が認識
され、あとは、物価が上がるインフレでしょう。
こまでで、第一稿を送ります。直後に、第2稿を追って送ります週末の
随想に使ってください。
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■創刊以来、全部門で1位を続け、読者投票で、3万部の中から『まぐ
まぐ大賞2008』を獲得している有料版(週刊:1ヶ月で630円)の購
読案内です。
■バックナンバー:有料版の約7年分超のバックナンバー380号余は公
開していませんが、月単位で購入できます。以下に、全タイトルがあ
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http://rd2.mag2.com/r?aid=22334&rid=1
■『ビジネス知識源プレミアム』は、「1ヶ月ビジネス書5冊を超え
る情報価値をe-Mailでお届けする」ことを趣旨に、ビジネスの成功原
則、関連事項、経済、金融等のテーマを原理からまとめ、明快に解き、
8年継続して、週1回お届けしています。最近号の、一部の、目次は
以下です。
<418号:政府紙幣と無利子国債を検討すれば>
2009年2月11日分
【目次】
1.日本政府の国債発行に、ドン詰まりが生じた
2.政府紙幣の検討
3.国債発行による、需要創造の流れ
4.各国政府の経済対策で、金融危機・経済危機は救えるか?
5.2000年代のトルコのインフレと金利
6.どんな形のインフレの可能性があるか
【最初の1ヵ月分は、無料お試しセット】
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