こんにちは。ヘッジ・ファンドが主になって取引するデリバティブ
の、対象となっている原資産は、$583兆(BIS統計:10.6)です。
$550兆から$700兆(4.5京円~5.7京円)を波動しています。
と言っても、投機の対象になった「5京円の意味と行く末」を、理
解できる人はいない。1兆円の具体イメージすら、想像できる人も
、少ない。ポールソンが、2007年のたった1年で、ほぼ1人で稼いだ
投機利益の$150億(1兆2300億円)を想像できますか?
1京は、1兆の1万倍。対象資産583京円の金額は、実体経済にどんな
意味を持つのか。[金融資産=金融負債]は2000年代でイマジネー
ションを超えるところまで来てしまった。21世紀の、金融・経済の
現実です。
ポールソン夫人は、1日で、ATMに増えた夫の預金額1000億円を見て
、2桁や3桁の振り込みミスでないかと思ったという。
当方、形容詞や副詞ではなく、数値による金額で経済を捉えること
を行うことに決めています。1京円は、現実が浮かびません。日本
政府の負債残はその10分の1の1000兆円という。国家機関+自治体
の1000兆円の負債の、実体経済でのボリュームを、身近な商品でイ
メージすれば3000万円の住宅で3333万軒分です。200万円の車なら5
億台です。デリバティブの対象資産$583(4.8京円)とは、一体、
何か?
シャドー・バンキング(影の信用創造システム)とも言う。現物証
券の上に(あるいは影に)組み上げるためです。ヘッジ・ファンド
、投資銀行、保険会社、そしてSIVが、取引の主体です。
(注)SIV: Structured Investment Vehicle:投資銀行が出資し
、貸し付ける子会社で、高金利のハイ・リスク証券の売買を行う。
その証券は、母体の投資銀行からオフ・バランスされる。今はまだ
、投資銀行との連結決算を行わなくてもOKとされています。損失/
利益の飛ばしがある。
中央銀行の信用創造(マネー創造:推計1000兆円)より大きくなっ
た。しかし、われわれは行く末を知らない。一例が最初は米国、次
に欧州の住宅価格の高騰および下落、更には、PIIGS国債の下落で
した。
デリバティブは、証券のポートフォリオ構造(分散投資)が錯綜し
、簿外取引が多い。経済と金融における位置づけが難しい。
本稿は、「ポールソン&カンパニー」が行った取引事例から、今後
の経済(=国民所得)と金融に、これらマネーがどう影響するのか
を、見極めたいと思います。
2000年代に頻発している、資産・国際コモディティ・通貨・国債・
株のバブルの発生と崩壊には、ヘッジ・ファンドの、ほぼ30倍のレ
バレッジ資金が関与しています。
(注)08年の金融危機で減ったヘッジ・ファンド資金は、米欧の政
府・中央銀行の資金貸し付けと、FRBのQE2($6000億の国債買い)
で、再び、元本資金$2兆(164兆円)に回復しています。日米欧の
、昨年秋以降の株価が、上昇基調になっている主因がこれです。
レバレッジ(借金)すら、実は難しい概念です。なぜ元金の30倍~
100倍もの借金での売買ができるのか? 起こった現実に従う人は
、不思議と思わない。当方、不思議に思います。
ポールソン1人が投機の方向を決めたヘッジ・ファンドが、なぜ、
元金の30倍、100倍の投機(マネー集め)ができるのか、まずそこ
に、疑問をもちます。
根底の原因は日米欧、中国、およびアラブの金融資産(=別の人の
負債)の、ムダな増加でしょう。金融資産は、所得格差どころでは
ない。極度の偏在があります。
金融資産の本質は、言い換えれば貯められた1万円の価値は、将来
の物価で、必要なものを購入できる購買力以外ではない。今、金融
資産間の取引で、マネーが膨らんでいます。これが、レバレッジを
かけて、実物資産の購入に向かえば、どうなるか。即日の、高いイ
ンフレでしょう。
1京円の1000分の1(10兆円)でも、金ETFの購入に向かえば、ゴー
ルド1グラムは今日にも1万円(現在は3800円程度)を、はるかに超
えます。原油は、先物買いで1バーレル300ドル(今の価格の3倍)
を超えるでしょう。穀物も、金属資源も同じです。
フィクションめいたロスチャイルド家とロックフェラー家(両家は
米欧の大手銀行の大株主)は、5京円をどう見ているか、それを想
像します。(注)全世界の、1年の商品生産額(GDP)が5000兆円で
、5京円の1/10です。
以上はタブーなのか。ヘッジ・ファンドに、様々な媒介会社を経て
元金を与える数百人の人達を、想像してください。そこからしか、
今の経済・金融は解けません。
1992年9月15日、ゴールドマン・サックスの資金を借り、英中央銀
行と戦い、英ポンドの下落で利益を出す投機していたのが、ジョー
ジ・ソロスでした。彼は通貨と株の先物取引しか理解できなかった
。ジョン・ポールソンの方法は、新しい金融商品、つまり債務回収
保険のCDS(後述)です。(注)PIMCOも同じです。
2008年に、主要国の金融機関は、合計で500兆円(IMFの推計)の損
をした。それを埋めるため、世界の政府は、2009年と2010年で1000
兆円の国債を売り、資金を調達して(=その国債を買った金融機関
と中央銀行があって)、政府財政を拡張し、金融恐慌になったであ
ろう全体危機(システミックな危機)を封印した。その後の経済が
、2011年の今です。
【デリバティブが金融取引の主になった】
基本定義:デリバティブは、原資産(ローン債権、金利、株、外貨
)から得られるキャッシュ・フローの受取り権を証す契約であり、
金融機関の間で売買されるものと解釈すればいいでしょう。
株式や社債のような、公開市場はない。金融機関やヘッジ・ファン
ドの相対(あいたい)で取引され、そこで価格が決まります。(注
)伝統的バンカー、ポール・ボルカーは、デリバティブを監視する
ため公開市場を作ろうとしています。
事例:住宅ローン(原資産)では、組成の仕方で
・MBS(合成した住宅ローンの回収金を担保とする証券)、
・CDO(合成した各種債権の回収金を担保とする証券)等がありま
す。
相当の統計漏れもあると思えます。2010年6月時点では、以下の内
訳です。いずれも、デリバティブが対象とした原資産額です。
金利交換関連 $451.8兆( 3.7京円)
→金利スワップとオプション
外為関連 $ 53.1兆(4400兆円)
→先物と通貨スワップとオプション
株式関連 $ 6.2兆( 508兆円)
→先物と株式スワップとオプション
商品関連 $ 2.9兆( 240兆円)
→金と他の商品、先物とオプション
CDS関連 $ 30.3兆(2500兆円)→債務の回収保証
→シングル・ネームCDSと複合CDO
その他 $ 38.4兆(3100兆円)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
合計 $582.7兆(4.8京円:世界のGDPの約10倍)
http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf
対象資産の総額は上記の4.8京円で、世界のGDPの約10倍と大きい。
BISに拠れば、これらデリバティブ全体の市場価値は、$24.7兆(2
025兆円:10年6月)とされています。日本のマネー・サプライ(預
金)の約2倍の2025兆円が、デリバティブに投じられているという意
味です。
上記デリバティブ(金融派生商品)は「債権と債務の証券化」から
生まれ、売買され、肥大してきた。元金の10倍から100倍のレバレ
ッジがかかります。
本稿で対象にするのは、上記の広範なデリバティブのうち、CDS関
連と、複合CDS(CDO)の原資産2500兆円分です。いわば、デリバテ
ィブ中のデリバティブです。これを理解すればいい。
CDSは本稿で詳述しますが、ローン債権の回収を保証する保険です
。
CDSの買い手は、対象のローンがデフォルトしたとき、債権から生
まれるキャッシュフロー(返済金+金利)の全額を、回収保証をす
る金融機関(カウンター・パーティ)から受け取ることができます
。カウンター・パーティーは、保証のための保険料を受け取る。そ
の保険料がCDSの価格です。
先物取引もオプションも、デリバティブです。現物を売買する方法
と、ずいぶん異なります。(注)ジョージ・ソロスも2006年まで、
先物やオプション取引は行っていても、00年中期の新しいCDOやCDS
への理解はなかった。ポールソンから聞いて学んだ。普通の人が分
からないのは、当然でしょう。
本稿では、デリバティブを作った金融の証券化の仕組み」から、見
て行きます。その過程でジョン・ポールソン等が行う、CDS(ロー
ンの回収を保証する保険)の取引とは何か、実体経済にとってどん
な意味をもたらすかを、明らかにしてゆきます。
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<526号:1年で$150億の利益を上げた
ジョン・ポールソンの方法(2)>
2011年2月23日号
【目次】
1.「証券化」という方法
2.CDSという回収保証保険
3.CDOが、住宅ローンへの資金供給手段になった
4.サブプライム・ローンを含むCDOが売れ、資金供給されていた
5.CDS(債務保証保険)の市場価格
6.2006年には、シンセティックCDOが主流になった
7.住宅市場の混乱(2007年)
8.2007年8月:トレンドが見えた・・・
9.2007年8月初旬:明白な下落
【後記】
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■1.「証券化」という方法
住宅ローンを例にします。(注)他の債権(企業への融資、消費者
ローン、車のローン、社債、株)でも方法は同じです。
住宅ローンは、債務者が、金融機関からお金を借りて住宅を買い、
その住宅を担保に供するものです。
伝統的な住宅ローンでは、金融機関の資金は、預金か、他行または
中央銀行からの借り入れでまかなわれます。ローン債権の価値は、
(1)債務者の返済と利払い能力、(2)および担保の、再販売価格
にかかっていることは言うまでもありません。
▼証券化(Securitization)
証券化は、ローン債権を現金化する方法です。金融機関からローン
債権を、別の主体SPVが買うことから始まります。(注)SPV:Spec
ial Purpose Vehicle:ローン債権を買い、その上に、別の証券を
合成して売る特定目的事業体。大手投資銀行の子会社。
この証券の売却が、中央銀行のマネー創造(紙幣印刷)を増幅する
結果をもたらし、米欧の住宅価格、不動産価格を上げ、今は国際コ
モディティの価格を上げています。そのマネー創造機能を「シャド
ー・バンキング」とも言う。金融機関には、じゃぶじゃぶのマネー
(=負債)が溢れていた。
・住宅ローンを借りて住宅を買う →現金が入る(現金増)
・そのローン債権を売却したA金融機関 →現金が入る(現金増)
・それを証券化して売ったB金融機関 →現金が入る(現金増)
・証券化商品のレバレッジをかけた売買 →金融機関の利益/損失
・証券のキャッシュ・フローとリスク →最終の買い手に移転
【事例】
大手投資銀行の子会社であるSPVは、住宅ローン会社から集めたロ
ーンを例えば1000億円分混ぜ、元のローンの上に、合成証券(MBS
:住宅ローン担保証券)を作る。MBSは、債務者が払うローンの償
還金と金利の受け取りができる証券になります。担保には、債務者
の住宅が供されます。
[資金供給機能]
MBSのような合成証券の組成が、米国に国債より大きな住宅ローン
資金($12兆:980兆円)を内外が与え、住宅価格をトレンドより4
0~50%上げる元になった。
MBSは証券として売却されるからです。金融機関はその手数料を利
益とする。(注)住宅ローンのほぼ半額の$6兆が、合成証券にな
っています(2006年)。
ローン会社には、ローン証券をSPVに売却した代金が入ります。MBS
(住宅ローン担保証券)が、内外の投資家(年金基金等)に売れる
限り、次のローンを貸す資金には、困りません。
ローンのデフォルト(債務者の支払い不能)のリスクを負うことも
ない。リスクは、MBSを買って最終的に持つ投資家に移転します。
[格付け]
MBSのほとんどは、格付け機関によって、国債並みの高い信用のAAA
と格付けされていました。格付け機関は、買い手には分かりにくい
合成証券のリスクを判定し、格付け(=価格)と金利を決める機能
を果たしています。(注)MBSには商業用不動産ローンも混じって
います。
不動産ローンを合成した証券のMBSが売れた理由は、
(1)米国の住宅は、1929年の大恐慌以来70年、一度も下がったこ
とはない、
(2)所得の低い債務者が、金利の高い住宅ローンを払えなくても
、昨年より10%は価格が上がった担保の住宅を再販売すれば、ロー
ンは100%回収できるとされていたからです。
SPV(特定目的事業体)は合成したMBSを、内外の投資家や金融機関
に売却します。多くの住宅ローンを合成したMBSの利回りは5%程度
以上と、国債よりはるかに高かったので、人気があった。後述する
合成証券のCDOは、7%や10%の利回りをつけることもあった。
[伝統的ローンとサブプライム・ローン]→[SPVや住宅金融会社
(GSE)が買い取って集め、高い利回りの合成証券を作成]→[MBS
やCDOを売却]→[内外の金融機関・投資家・SIVが、MBSやCDOを購
入し売買]・・・以上が、無審査でも貸した住宅ローンがふんだん
に供給された仕組みです。
[依存した原理]
ローンの回収には、個別リスクがあります。それを100件、1000件
、1万件と集めれば「大数の法則」で、全体の回収リスクはローン
総額の1%程度にしかならないとされていました。ここが「合成の
妙」でした。住宅価格が上がる限り、リスクは低く、高金利が得ら
れます。
[バブルとバブル崩壊]
ローンの証券化によって、最初は米国、次に欧州で住宅ローンが多
額に供給され、40%~50%の価格バブルを生んだ主因になっていま
す。(注)全米20都市の住宅価格指数は、206(06年6月)が142(1
0年12月)へと31%下がっています。(ケース・シラー指数)
1%の料率でCDS(債務回収の保険)をかければ、MBSの買い手には
リスクがゼロで、高い利回りが得られるとされたからです。
高い利回りの証券は、回収リスクが高くなければならない。しかし
[合成]することでリスクは減るとされた。ここに誤りがありまし
た。
2008年9月の金融危機は、合成証券の誤った信用創造を、縮小させ
るものでした。結果は、IMFによる09年の集計のように、金融機関
の500兆円の含み損でした。価値があると見られていた米欧の合成
証券の多くに、価値がないことが明らかになってしまった。
20年後の金融史は、米欧の2000年代を、金融工学に優れたヘッジ・
ファンドや金融機関が生んだ、マネー増発の時代と結論づけるでし
ょう。シャドー・バンクがマネー供給をしたのです。
■2.CDSという回収保証保険
ローンの回収を保証するのがCDS(回収を保証する保険)です。
回収のリスク率の算定で、CDSの料率(価格)が決まります。
▼回収保険CDSの価格
金利の上昇および回収リスクが高まるとCDSの価格は上がり、下が
るとCDSの価格も下がる。MBSの価格と逆の動きをするのがCDSです
。
リスク率は、過去の個別デフォルト・データの統計でしかない。そ
のため、未来のデフォルト率の算定で、誤りを犯した。これが、金
融危機が起こった理由です。
【ジョン・ポールソン】
ポールソンは、安易なサブプライム・ローンを多く含む米国住宅ロ
ーンの、過去のデフォルト率を元に決まるCDSの料率(価格)が、
当時は1%と低すぎることに目をつけたのです。
【ローンの回収を保証】
CDSは、例えば破産したAIG(保険会社)やベア・スターンズ、リー
マンなどの大手投資銀行、ファニー・メイ、フレディ・マック等の
住宅金融会社が、CDSの買い手(例えばポールソン)から保険料を
受け取って、住宅ローンの100%回収を保証するものです。
住宅価格が下がると、デフォルト率が増える。ローンの回収を保証
した側(CDSを売って、保証を引き受けた側)は巨額損を被ります
。
2006年当時、部分的に、住宅価格は下がっていました。しかし住宅
ローンにかかったCDSの料率は、まだ1%と低かった。CDSの料率(
価格)は、過去の価格上昇期のデフォルト率を使って計算するから
です。(注)未来の破産を計算する方法はない。これは不可能なこ
とです。
破産したベア・スターンズやAIG等は、(例えば)額面100兆円の住
宅ローンの回収を保証するのに、1年1%(10億円)の保険料を、CD
Sの買い手(ポールソン等)から受け取ることができるCDSを発行し
ています。
AIGやリーマンを典型とする投資銀行は、100兆円のローン金額の1
%(1000億円の利益)を受け取って、100兆円のローンの全額回収
を保証する義務を負っていた。(注)100兆円の金額は、わかりや
すくする例えです。実際は、数100兆のローンの、回収保証でした
。
住宅価格が上がっていて、デフォルトがゼロに近いと、保険料の10
00億円は、全額AIG等の当年度利益になる。CDSの売却と、債務保証
は、保証する金融機関の巨額利益を生んでいました。
(注)今、世界の国債にもCDSがかかっています。PIIGS国債のCDS
は、金利上昇に比例して、額面の3%~10%と高い。日本国債のCDS
も0.8%と上がっています。
【保険料の支払い】
不動産ローンの100%回収を保証するCDSを買ったポールソン&カン
パニーは、例えば、1兆円の住宅ローンに関し、1年に100億円(1%
)の保険料を、AIGや住宅金融会社等に支払う義務があります。
1%の保険料を受け取ってCDSを引き受けたAIG等は、住宅ローンに
デフォルトが出たとき、ローンの償還金と金利の全額をポールソン
&カンパニーに支払う義務を負います。
わが国の「連帯保証」と同じです。CDSは、ローンの債務者Aの連帯
保証をする証券を、市場で売買すると考えれば分かるでしょうか。
住宅ローンの回収が順調に進む限り、ポールソン&カンパニーは、
何の収入もなく、1兆円のローンに対し支払う保険料である100億円
の損をします。他方で、AIG等はその保険料を受け取る。
▼CDSは売買ができ、価格は変動する
CDSは、独立した保険商品として、売買ができます。ローンのデフ
ォルトが増えて回収率が下がると、市場では、100億円(1%)で買
ったCDSが、200億円(2%)、300億円(3%)という価値に上がり
ます。
例えば今、財政破産のリスクが高いギリシア国債にかかったCDSは
国債額面の7%~8%と高い。国債金利の上昇は、同じ率でのCDSの
保険料の高騰でもあります。
ギリシア国債にかかっていたCDSを、(仮に)3%で買っていたヘッ
ジ・ファンドやゴールドマン・サックス等には、CDSの価格高騰で
、国債額面の4%~5%の、巨額利益が生じます。国債も、政府のロ
ーンです。国債の金利も、リスク率を含みます。
またCDSは、債権・債務の保有に無関係な第三者が発行して売却、
購入ができます。赤の他人に、生命保険をかける行為と同じです。
CDSの買い手が利益を出すのは、ローン(債権)の期待回収率が低
下し、CDSの料率が2%、3%等に上がるときです。国債では、金利
が上がって、財政のデフォルト確率が上がったときです。
財政のデフォルトは、
・政府が高騰した金利での新規国債が発行できず、
・過去の国債の償還と利払いに資金不足を来すことです。
(例えば)100億円(1%)の保険料支払いでポールソン等が買った
CDSは、2倍の200億円に上がります。差額の100億円が利益です。そ
の利益は、ローンを保証する金融機関の損と見合います。
(注)PIIGSの財政破綻リスクの上昇(10年5月)以前は、先進国(
特に日米)の国債のリスクは、市場で無視されていました。
中央銀行のゼロ金利策に反する、その後の長期金利(10年債)の上
昇は、マネー増発を原因とするインフレ期待と財政リスクの高まり
からのものです(2011年)。国債金利は、それを売買する民間の債
券市場で決まることを忘れてはなりません。
原理的には、市場の長期国債金利≒実質経済成長率+期待インフレ
率+信用リスク率と見ておいていいでしょう。
長期金利は、(1)実質GDPの増加期待(企業利益)の要素、(2)
物価のインフレ期待という要素、(3)政府の財政破産リスクとい
う要素の合計で決まります。PIIGS金利の7%~10%への上昇は、財
政リスクの要素からです。
世界の国債に対し、信用リスクが認められるようになったのが、と
りわけPIIGS危機以降の、2010年初頭からです。
■3.CDOが、住宅ローンへの資金供給手段になった
▼合成証券のCDO(債務担保証券)
MBSは、住宅や商業用不動産のローンを買い集めて合成した証券で
す。他方CDO(債務担保証券)は、原資産として国債、社債、商業
用不動産ローン、住宅ローン、消費者ローン、車のローン等の異な
る債権を多く組み合わせ、合成したものです。合成の仕方は、住宅
ローンと同じです。
【ポートフォリオ機能】
CDOではいろんな種類の債権を合成するので、中味の判定はその分
、難しくなります。CDOは債権へのポートフォリオ(分散投資)の
機能を果たします。
例えば住宅価格が下がっても、ローン対策のために政府が金利を下
げ、金利低下によって国債価格が上がると、国債での利益と住宅ロ
ーンでの損が相殺されるので、MBSよりは「安全」な証券とされて
います。これが、ポートフォリオ機能です。
▼CDOの特徴:優先債/劣後債への切り分け
CDOの特徴は、「優先/劣後」の構造をもつことです。
優先とは、債務が弁済されるとき、優先的に充てられるという意味
です。劣後は、債務弁済の充当の順位が低いという意味です。株は
元本の償還がない劣後債です。
優先債は金利が低く(リスクは低く)、劣後債はデフォルト・リス
クが高いので、金利が高くなります。
●証券の金利は、原理的には、リスク率と正比例します。金利が高
く安全な証券は、原理的に存在し得ません。ところが、ローンのCD
Oではこれを作ってしまった。
CDOでは一般に、
(1)優先債で金利が低いシニア債、
(2)中程度の金利のメザニン債、
(3)劣後債でリスクが高く金利が高いエクイティ債の三層にトラ
ンシェ(切り分け)し、ローン債権を買って集めたSPVが販売しま
す。
CDOの商品での特徴は、例えば7%という高い金利を要求する金融機
関に対し、その商品を、劣後債(エクイティ債)としてトランシェ
(切り分け)し、販売できることです。高金利トランシェという。
▼高金利トランシェのCDO証券の合成
金利が高い証券も、自在に作ることができます。買い手はリスク率
を見なければならない。ところが、2007年までは高い格付けから、
リスクが無視された売買が行われていました。不動産価格が上がっ
ていたからです。
2006年には、サブプライム・ローンをたっぷり含み、10%近い利回
りを約束していた危険なエクイティ債もAAA(ノン・リスク)の格
付けで売られていました。住宅価格が上がる限り、ローンの債務者
がデフォルトしても、担保となった住宅を、ローンを返済できる高
値で再販できていたからです。
2006年のCDOの売上は、$5600億(46兆円)で、2004年の2倍に増え
ていました。46兆円の資金が注ぎ込まれたのと同じです。
不思議ですが、CDOの利回りが高いから危険だという認識は、当時
は薄かった。BBB格のトランシェ(切り分け)の、高い利回りの証
券(エクイティ債)ほど、よく売れていたのです。
金融の「サラ金化(=返済できない人から高い金利を取ること)」
と同じです。これが、サブプライム・ローンや、当初の金利がゼロ
のオルトAローン、またはジャンボローンでした。
合成証券のCDOを作って販売する手数料として、例えばメリル・リ
ンチは、取引額面の1~1.5%の利益を得ていました。CDOの販売は
、金融機関の利益です。
自分では中味が分からないのに米欧の信用ある金融機関が作った証
券だから信用できると考えていたとしか思えない。住宅ローン関連
証券のみならず、金利スワップや、外為関連のデリバティブを買っ
た日本の大学が、数百億円の巨額損を被っています。
「高い利回り=高いリスク」という原理を忘れたためです。どんな
に複雑な構造のデリバティブでも、この原理から逃れる証券はない
。あり得ないことの期待で、買ったのでしょう。
【CDSで保証保険をかける】
CDOの劣後債でリスクの高いエクイティ債も、CDS(債務回収保険)
をかければ、優先債と同じ破産リスクゼロの証券になり得ます。(
注)CDSの保険料支払いがコストになり、その分利回りは低下。
各国の政府策で、市場の金利が低い時期は、CDSの保険料率も低い
。
CDO(債務担保証券)を買ったヘッジ・ファンドや金融機関は、デ
リバティブ市場(相対:あいたい)で転売できます。
CDOの市場価格は、国債と同じく、金利の上昇で下がり、金利の下
落で上がります。(注)CDOの最大のリスクは、08年9月以降のデリ
バティブ市場のように、価格を下げても売れず、買い手が消えるこ
とです。
▼安全の神話
CDOを買う内外の投資家や金融機関は、「AAA格の高い格付けのCDO
は、国債並みの安全資産」と見ていたのです。当時、格付け機関は
信用されていました。
AAAの格付けを得た証券は、デフォルト確率がゼロとされていまし
た。2000年から2007年までの金融は大いなるフィクションで、利益
を得ていたのです。
「金利が高い証券は、その分、デフォルト・リスクと下落リスクが
高い」という原理は、「CDOのデリバティブは高度な金融である」
という理由で、不思議に忘れられていました。
「証券の金利の高さはリスクの高さであるというのは、古今東西、
そして今後も永遠に、普遍的な原理」なのですが・・・
ベアスターンが破産する2007年3月まで、誰も、そのリスクを見て
いなかったと言っていい。不思議なことですが、事実がそれだった
のです。金融の専門家ほど「分からないものを信用した」と言えま
す。
その証拠に既述したように、CDOでは金利の低い優先債(AAAトラン
シェ)は人気がなく、高リスク・高金利のエクイティ債(BBBトラ
ンシェ)のほうが売れていました。
このため、CDOを作ったメリル・リンチ、シティ・グループ、モル
ガン・スタンレー、スイスのUBSは、いずれも売れない優先債(AAA
格付け)を自分で持つことになったのです(同書)。
これが、住宅価格が下落したとき、60%の価格へと40%も下落し、
大手金融機関が債務超過になって破産するような巨額損にもなった
。
AAAの格付けの証券が40%も下がることは、普通はあり得ません。
過去、そういったことはなかった。しかし実際には起こったのです
。
CDOの組成とリスク評価に問題があったからです。
一方で、ポールソンのように、デフォルト確率の上昇に賭けたCDS
を買っていたヘッジ・ファンドは、相手(AIG等のカウンター・パ
ーティ)の損に見合う巨大利益を出していました。
「(流動性=マネーの増加という)音楽が鳴っている限り、踊らね
ばならない。2006年の私たちは、まだ踊っている最中だった(同書
)」
ポールソンは、年率10%で上がっていた住宅価格が、部分的に下落
を見せ始めた2006年から、CDSは上がると見て、大量に買っていま
した。住宅ローンのデフォルト率が高まれば、回収を保証するCDS
の価格が2倍、3倍に上がるからです。
ポールソンの計算では、2006年の米国の住宅価格は、40%のバブル
を含むということでした。これは、ポールソンだけができたのでは
ない。
【共同幻想の誤り】
住宅価格の下落予測は容易でした。しかし、実際に下落に賭けた人
は少なかった。金融の共同幻想が、渦中ではいかに強いかを立証す
るものです。(注)今は、低金利の国債価格にバブルがあると思え
ます。1%や3%の利回りの国債が高く売れるのは、変です。
3000万円が歴史的に見て妥当な住宅が、5000万円の価格で売買され
ていたということです。2000万円は下落し、3000万円に戻る。その
ため5000万円の住宅ローンの支払い不能が増え、ローンの回収を保
証しているCDSの価格(保証料)は上がるという予測でした。至極
当然に思えます。
サブプライム・ローンのように、10%という高い金利で借りる人も
貸す金融機関も、支払いのことを考えていない。だから破産する。
●ところが回収を保証するCDSの料率(保険料)はローン額面の1%
と低い。これは変だ。金融には認識のバイアス(偏向)がある。ポ
ールソンはそう考えた。
しかし金融市場のたぶん99%の人は、1980年代後期の日本のように
、「住宅価格は、金利率以上に上がるから、住宅ローンの破産はな
い」としていたのです。こうした共同幻想は、強く個人を動かしま
す。
例えば1980年後期の、わが国の住宅価格に対し、10年後から人口減
に向かうに日本にとって、狂気的な価格であると認識し、発言して
いたのは、当方が知る限り立花証券の独眼竜(石井久会長)のみで
した。独眼流の見解は誤っているとした人が多かった。
【恥】
当方も自慢できません。恥を言います。1.5億円や2億円の中古マン
ションを、すんでの所で、買っていたかもしれなかった。高いとは
思っていました。しかしそれ以上に上がるので、何とかなるとも思
っていた。
知り合いの人に紹介を頼み、ローンもおりる感じでした。しかし、
今の住宅価格は、どう考えても異常に高いと感じる「感情」は残っ
ていました。このため、ローンに負われて生活困窮しなくて、その
後の人生があります。
石井久会長の発言を小さな新聞記事で読み、共感していたからです
。今、それらの住宅は5000万円以下でしょう。近くを通る度に、あ
のとき、1億円以上の損をしなくて幸運だったと安堵します。
それ以降、「金融市場の共同幻想による価格」に疑問を抱くように
なった。以来、ずっと借家住まいです。
下がるので、買う機会がない。日本の長期金利は0.8%から上がっ
たとは言え、日銀がゼロ金利を続けるので、1.2%~1.3%です。こ
の10年、異常な低金利です。これが3%になると住宅価格はどうな
るか?
今もまだ、30%くらいの低金利バブルを含んでいるように思えます
。
数年前、スペインに行ったときも、東京をはるかに超えるマドリッ
ドの住宅価格は異常だと感じました。80平米の小さな共同住宅が1
億円でした。
スペインでは、そう考えていなかった。2008年以降、結局下がった
。それが、PIIGS危機にもなった。アイルランドと南欧全体の住宅
価格は、下落の最中です。
今、上海、シンセン、北京、中国内陸部の住宅価格も、下落前のス
ペインと同じです。普通の人が、ほぼ3年分の年収で買えない価格
は、低金利金融が生むバブル価格でしょう。(注)都心部でも、80
平米の平均面積の住宅で、世帯年収の5倍が上限でしょう。
あらゆる商品の市場価格の原理を言えば、上昇期には妥当な価格を
はるかに上回り、下落期では妥当な価格をはるかに下回ります。
「共同幻想」が価格を作るからです。理論価格(妥当な価格)は、
「その資産から得られる便益と期待利益÷(長期期待金利+リスク
率)」ということでしかない。
■4.サブプライム・ローンを含むCDOが売れ、資金供給されていた
ポールソンがCDSを仕入れ、期待していた2006年の半ばになっても
、住宅価格の目立った下落はなかった。
【ヘッジ・ファンドの、見込み違い】
理由は、サブプライム・ローンを多く含んだ合成証券のCDOが売れ
、資金が供給され続けていたからです。
ポールソンも2006年には、「CDS買いでの先行」から巨額損のリス
クに晒されていた。しかし、未来は見えない。自分の投資が誤りで
はないかという疑念が襲います。
住宅市場の専門家とヘッジ・ファンドへの投資家も「馬鹿げている
」と言う。こうした時、経験ある専門家や金融機関は、ほとんどの
場合、市場を見誤ります。ローン証券を売る仕事を行っているから
です。
「売る証券の価格が上がる理由付け」を考えるからです。個人とし
ては変だと思いながら、組織としては異常な「値踏み=価格判定」
をする。株を売って、手数料を稼ぐ証券会社も同じです。
2006年には、市場は、住宅価格はもっと上がると見て、危険なサブ
プライム・ローン、オルトAローン、インタレスト・オンリー・ロ
ーンを住宅金融の主流にしていました。伝統的なローンより増えて
いた。
サブプライムの意味は、プライム・ローン(35年の固定金利5%~7
%:普通のローン)に対し、最初の2年くらいは低く、後で金利が1
0%かそれ以上と高くなる住宅ローンです。
サブプライム・ローンは、無審査でした。失業中で所得がなくても
、雇用されたときのその人の職種で、業界の最高賃金が得られると
いう仮想で申請されていました。書類審査もなかった。(注)今、
米国の住宅ローンは、優良な個人にも、おりにくくなっています。
▼住宅証券の買い手があった
ローン会社が無謀なローンを貸した原因は、投資銀行やヘッジ・フ
ァンド、および日本・中国・アラブを含む海外の投資家が、合成証
券で金利が高いCDOを、買っていたからです。
このため2006年には住宅価格がピークに達したと見られても、住宅
ローン資金は、ふんだんに供給されていました。サブプライム・ロ
ーンの返済・利払いでは、支払い金利が急に増えるほぼ2年後から
、払えない人が続出します。
【買い手があった理由】
ローン会社は、債務者が3ヶ月延滞したときは抵当権を行使し、内
装を整えて転売ができる。そのとき価格が上がっていれば、ローン
の元金の回収には問題が起こらないとしていたのです。
米国の住宅ローンは、債務者がローンで買った住宅を手放せば、ロ
ーン返済から免れるノン・リコース・ローン(債務者には遡及しな
いローン)です。
このため住宅を買う人にとっても、買った住宅を失うというリスク
しかない。日本(遡及型ローン)のように、ローンは追いかけてこ
ない。
しかも住宅ローンの金利は、2軒目までは個人所得から引く損金に
なる税制です。節税目的で人々は2軒目、3件目の住宅でも、「高い
住宅と、高い金利のローンが支払えないリスク」を怖れず、ローン
がおりる限り、買っていたのです。
それが当たり前だったので、だれも変だとは思っていなかった。ク
レジットカードの勧誘も激しかった。郵便で、申込書がどんどん送
ってきていました。根底の原因は日本、中国、アラブ、新興国が、
米ドル債を買い、米国に資金供給しているからです。(注)これを
国際不均衡という。ここが問題の根底。
ポールソンは、住宅価格を上げたサブライム・ローンは、いずれ大
量にデフォルトするだろう、その時、住宅市場は崩壊し、ローンを
原資産としたデリバティブ金融も崩壊すると見て、2006年中は密か
にCDSを買い集めていました。CDSでの損は、ジャンク債の合成売り
で埋めていたのです。
しかし2006年は、ポールソンにとっても、利益と損が相半ばする時
期でした。この時期の判断が、投機では最も難しい。住宅価格の下
落は予想しても、CDSでの損から、脱落する人が多い。問題は、い
つ潮目が変わるか、人々の共同幻想が変わるかです。
■5.CDS(債務保証保険)の市場価格
【CDSの価格】
密かに買った理由は、他に知られないためです。CDSの買い手が増
えると、CDSの市場価格は高騰します。CDSの価格も市場がつけます
。
皆が買うようになると、価格が上がって、保証料として債権額面の
1%ではなく、1.2%、1.5%を払う必要が出ます。そうするとCDSを
高く買ったポールソンに、損失と破産の可能性が高くなるからです
。
2006年の、合成証券のCDOでの住宅ローン資金の増加供給は、ポー
ルソンの予想外でした。
「2006年当時、ウォール街には、住宅市場と住宅価格を悲観してい
る者など、ほとんどいなかった(同書)」 住宅市場の現場を知ら
ないローン資金が、供給され続けていた。
CDOやCDS等のデリバティブ市場では、売買の公開市場はなく、取引
は相対(Over The Counter)ですから、同じ金融商品の価格が異
なることも多い。
全米20都市のケース・シラー指数で2000年を100としたとき、ロス
の住宅は275、ワシントンは250,シアトルは200に上げていました
(2006年)。10%の価格上昇は、10年で2.59倍です。
【妥当な価格から、どんどん乖離】
米国の住宅は、所得増とGDP増加と見合う1年3%、10年で1.34倍が
妥当な価格上昇と見られます。2006年の価格は、傾向のほぼ2倍だ
ったと見ることができるでしょう。ポールソンは、米国の住宅価格
は40%~50%のバブルを含むと見ていた。単純な計算ですが、MBS
を買い、CDSを売っていた人には、それが見えていなかった。
見えない原因は、$12兆(980兆円)が住宅ローン資金になったか
らです。そのため、住宅相場が上げから下げに大きく転じるには2
年間の猶予期間があったのです。
▼市場の認識は2年遅れた
2006年末から全地域の住宅価格がピークアウトしますが、人々の住
宅価格への認識は、ほぼ2年遅れるというバイアスがあるようです
。この点が、株価と異なる。
住宅価格には過去を引きずる「粘着性」があるからです。
不動産は、売買の取引に時間がかかるからです。
しかし住宅価格は、10年かけて上がったものが、2年、3年かけて元
の価格に下がる変化をします。下落傾向に入ったときの速度は、上
げの速度より、数倍は速い。
このため下がる時の、下げを見た先行の利益が大きくなる。これが
、ポールソンのCDSによる利益でした。しかし2006年には、これが
なかった。住宅価格は、横ばいになっていただけだったからです。
【CDSを早めに買って、損をしたファンドも多かった】
ポールソンと同じように、住宅ローンのデフォルト率が上がると価
格が上がるCDSに賭けていたグレッグ・リップマンは、サブプライ
ム・ローン$350億(2.9兆円)に対するCDS(回収保険)を買って
いました(同書)。
1年に1%としても$3.5億(290億円)の保険料を払わねばならない
。1日に1億円が保険料で消えます。
リップマン・ファンドへの投資家は、2006年末までのCDSの値下が
りで、巨額損を被っていました。1.2%の料率のCDSが0.8%に下が
っても、33%の損をします。
サブプライム・ローンのデフォルト率は、期間6ヶ月のABX(ローン
のリスク指数)で計りますが、これが2006年はなかなか下がらなか
ったのです。米国の住宅市場には、その後も、低金利資金が投入さ
れると見られていたのです。
▼金融資産の極度の格差が、ヘッジ・ファンド資金を生む
米国では、1.3億世帯のうち、上位10%が全金融資産(約5000兆円
)の80%(4000兆円:2008年)を持ちます。極度な資産格差があり
ます。90%の人は、金融資産(投資信託や株)と預金がない。
このうち、最上位1%(130万世帯)の金融資産(2500兆円:世帯平
均19億円)のうち、更に上位0.1%(1000世帯のうち1世帯)の分が
、ヘッジ・ファンドへの預託マネーになっています。
1人で数百億円の金融資産です。これらは、リスク選好が強いマネ
ーです。金融資産の偏在は、国のスクク投資を増やします。
個人投機家への説明において、難しいデリバティブを分かりやすく
、単純化し、講演できるのがポールソンでした。ヘッジ・ファンド
は、機関投資家や個人から預託マネーを集める必要があります。他
人のお金を、運用するからです。
既述したように手数料が預託金の2%で、元本に対し運用利益の20
%がヘッジ・ファンドの利益で、80%を投資家に還元します。
半年も利益が出ないと、投資家は騒いで解約し、引き揚げます。ヘ
ッジ・ファンドは運用損で破産するより、投資家の資金引き揚げで
破産します。
■6.2006年には、シンセティックCDOが主流になった
低金利の市場は、貪欲に、高い利回りの証券を求めます。金利1%
で短期資金を借り、7%や10%の利回りがあれば、額面の6%や9%
の利益が得られるからです。
デリバティブが組みこむ30倍のレバレッジなら、6%の利益が180%
に、9%の利益は270%になります。その大きな利益はCDSにあると
見た人のひとりがポールソンです。
▼シンセティックCDOという複合保険
当時、工夫されていたのが「シンセティックCDO」でした。
シンセティック(synthetic)は、総合や合成という意味です。
A社のローンに対しCDS(債務回収保証保険)を組めば、シングル・
ネームCDSになります。
シンセティックCDOでは、多数の会社のローンを集めて合成した上
で、リスクを判定し、債務回収保険(CDS)を組みます。
リスク判定は、多種が合成される分、難しくなりますが、ポートフ
ォリオ効果(Aがデフォルトしたとき、Bはデフォルトしない)があ
ると見なされていました。
【個別リスク】
住宅価格が個別リスクである限りは、言い換えれば、A地点の住宅
が下落しても、B地点の住宅は下落しない、C地点は上がるというと
きは、ポートフォリオは有効です。数学的な「大数の法則」が働く
からです。
(注)生命保険では、多くの人が同時に死ぬことはなく、平均余命
が安定しているために、保険が成立します。このように、個々人が
、年齢別の統計的な確率で亡くなることを、個別リスクと言います
。
【システミックなリスク】
住宅市場全体が下落するのが、「システミックなリスク(全体リス
ク)」です。その時は、個別リスクを消すポートフォリオ効果は、
消滅します。
このとき、シンセティックCDOを作って売った側(大手金融機関)
は、債務保証の義務から、巨額損を被ります。これが起こったのが
2007年、2008年でした。そして、2008年9月の世界金融危機に至る
。
(注)欧州の銀行の中味が取り上げられることは少ないのですが、
米国の銀行より、欧州の大手銀行がはるかに危険な内容だと、元米
国財務長官のヘンリー・ポールソンは言っています(『ポールソン
回顧録』)
生命保険で言えば、多くの兵士、住民が死ぬ戦争です。このとき保
険支払いはできなくなる。そのため、普通の生命保険では戦乱によ
る死亡を保証しない契約です。戦争が、システミックなリスクに相
当します。普通の火災保険での、地震の除外も、システミック・リ
スクを避けるためのものです。地震保険の保険料は高くなります。
逆に、シンセティックCDOを、ローン総額の1%で買った側(例えば
ポールソン&カンパニー)は、巨大利益を得ます。
住宅価格が全体に下がって、ローンのデフォルトが全国で増えると
(ABX指数が下がると)、シンセティックCDOの価格は2%、3%、4
%と上がるからです。(注)ABX指数は、サブプライム・ローンの
回収率(その逆がデフォルト率)を示す統計指標
1%で買っていたシンセィックCDOが1000億円分あれば、その市場価
格が2000億円(2%)、3000億円(3%)、4000億円(4%)と高騰
するからです。死亡率が高まったときの保険料の高騰と同じです。
2006年当時はすでに、参照企業が1つで単純なCDS(シングルネーム
CDS)は、多数の企業の分を合成したシンセティックCDOに変わって
いたのです。
2006年のポールソンが買い集めていたのは、シンセティックCDOで
した。(注)シンセティックCDOも、CDS(ローンの回収を保証する
保険)なので、以降ではCDSと呼ぶことにします。複合型CDSと言っ
てもいい。
■7.住宅市場の混乱(2007年)
2007年になると、住宅市場は混乱を極めます。2006年のピーク価格
が波動を始め、全面下落のサインが見え始めたからです。
住宅ローンのデフォルトが増え、住宅を失う人が増加すれば、政府
が政治的に困るので、ローン支払いの猶予策を含む対策が出る。(
注)今の日本の、「返済猶予策(亀井策)」に似ています。
市場は一挙に、一つの方向を示すことはない。政府の対策が打たれ
るからです。上昇から下落に転じる時期には、価格が方向を失った
混乱が起こります。
ローン債務の回収を保証するCDS市場では、リスクの高いローンを
組みこんだCDSの価格は上がったものの、全体のCDSの価格が上がる
ことはなかったのです。
「住宅価格は、下がるはずなんだ。どうして、それが君に分からな
い・・・なぜだ。なぜなんだ」(同書:P305) 日々、こうした怒
号が飛び交うディーリング・ルームを想像して下さい。
【前兆】
2007年2月、住宅ローン会社の大手『ニュー・センチュリー』が巨
額損を計上というニュースが、住宅市場を震撼とさせます。いや震
撼したのは一部の人だけでした。この後6か月も、多くの人はよく
ある経営の誤りと見ていたのです。
住宅ローンには、米国債より大きな$12兆(980兆円)が投じられ
、全金融機関が「住宅価格は上がる」というローンのデリバティブ
で、つながっていました。
(注)日本の住宅ローンは200兆円程度と、米国よりはるかに少な
い。日本の金融資産での問題は残高1000兆円で、1年に40兆円は増
える政府債務です。
ポールソン等のヘッジ・ファンドのトレーダーは、住宅ローンのCD
S(債務回保証保険)を、更に買い集めます。まだ、CDSの全体的な
価格高騰はなかった。
市場では、一時的住宅価格は下がっても、またすぐ回復すると見る
人が多かった。住宅ローンのデフォルトに賭けるCDSの買いは、多
数派の見解に反した売買をしなければならない。
【恐怖と戦う】
信念からの、勇気が必要です。生やさしいものではない。失敗すれ
ば、30倍から100倍のレバレッジがかかっているので、1ヶ月で全資
産を失い、回復できない巨大負債を抱えます。
1000平米やそれ以上の、海を眼下にした豪壮な邸宅で、時めく女優
や有名人を招いたパーティの中心にいたトレーダーが、一夜で、ホ
ーレスに墜ちる。だれにも、自分の戦略に、そして自分自身の考え
に疑念が生じる瞬間が襲います。
▼ポールソンは・・・
LBOやM&Aの専門家ではあっても、住宅市場への素人だからこそ、余
計な要素を捨て、単純に見ることができる愚直さがあったと言って
いいかもしれない。ポールソンは住宅市場の専門家ではない。単純
さに真実があります。
2007年になっても、10%~20%価格が下がった高価な邸宅を買う人
が多かった。CDSを買った当人にも、住宅を買う人が多かった。
【価格は波動する】
価格は反発もします。下げ相場でも、上げ下げを繰り返す波動をし
ます。下がると買い手が現れる。ローンのデフォルト率を示すABX
指数が80%と低いとき買ったCDSは、指数の上昇(デフォルト率の
低下)で値下がりをし、それまでの利益を吹き飛ばすこともある。
こうしたとき、CDSを売って清算し残った利益を確定しようとする
衝動に駆られる。果たして今後、住宅価格は反発して上がるのか、
下げるのか。未来は見ない。確率でしかない。
事実、CDSを売った人も多かった。
結果は小さな利益にすぎなかった。
■8.2007年8月:トレンドが見えた・・・
しかし2007年の夏にはサブプライム・ローンのうち、最低の格付け
ローンのABX指数は37にまで下がった(同書)。63%がデフォルト
という意味です。信用度が最低のローンでのデフォルト、これが先
行指標でした。
ポールソンと同じCDSの売買をしていた、グレッグ・リップマンの
ファンドは、1日で$1億(82億円)もの利益を上げたという。
【主流の判断は、誤る】
FRBを含め、金融と財界大手の見解は「サブプライム・ローンのデ
フォルトが、金融市場に及ぼす影響は、微々たるもの」ということ
だった。
FRB議長のバーナンキも、2007年8月からの住宅市場の全面崩壊は見
ていなかった。いずれ反発すると考えていたのです。FRBの認識は
、これ以降も遅れ続けます。原因は、複合証券(デリバティブ)が
見えていなかったからです。
「専門家+多数派の論は、その分野の見通しで、常に遅れる」
これが真実でしょう。先入観が専門知識だからです。ここ10年、株
・商品・住宅・証券・国債を含む市場の動きを論評するとき、いつ
もこれを感じるのです。
実際に大手金融機関が破産し、世界金融のシステミックなリスクに
なるのは、1年後だったのです。
【レバレッジの時間短縮効果】
30倍や100倍のレバレッジをかけた取引での1年は、実に長い。30倍
なら。時間は1/30に、100倍なら1/100に時間短縮されるからです
。実体経済の大手企業が30年かけて上げる利益や損失が、1年で実
現します。1週間が、1年にも相当します。
錬金術という生やさしい金額ではない。個人が率いる、部屋がひと
つの小さなヘッジ・ファンドが上げた1年に$150億(1兆2300億円
)というキャッシュ利益を想像できますか。それは2007年8月から
だった。
(注1)2006年夏に指摘したように、米国の住宅価格下落の起点に
なったのは、2006年4月からの日銀の量的緩和の停止、つまりマネ
ー絞り(約25兆円)からでした。
円のゼロ金利を借りてキャリー・トレードし、レバレッジをかけて
いたヘッジ・ファンドは、円建て負債の解消を、迫られたのです。
これが米国住宅市場への資金投入(MBSやCDOの購入)を減らす起点
になった。1年4か月の期間があった。マクロの資金循環で見ると、
以上を、早めに予測できます。
(注2)国債では、買うための原資になる「マネーストック(M3)
の増加(世帯、企業預金の増加)」。日本のM3は、2011年1月で108
5兆円です。世帯預金の増加率の低下から今は1年に1.8~2.2%(平
均2.0%)しか増えていません。金額では1085×2.0%≒22兆円の増
加に過ぎない。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1101.pdf
1年44兆円の新規国債の購入には、大きく不足します。このため国
債金利が上がる。銀行融資の減少で、新規の国債購入をまかなうか
らです。財務省は不安でしょう。下落リスクが高くなっている国債
を、だれにどう売るか?
起こった時は、皆が認識する。起こる前は、何事も異論がある。先
行するのは、ヘッジ・ファンドによる30倍~100倍のレバレッジの
かかった国債先物売りでしょう。
PIIGS国債のCDSの購入で先行したポールソンや、運用資産で90兆円
をもつPIMCO(ビル・グロス)かも知れません。(注)PIMCO:元本
20兆円、運用資金90兆円の巨大ヘッジ・ファンド。
CDSの売買も、異なる見解があるとき起こります。価格を保証する
側は、下がらないと思う。CDSを買う側は下がる(金利が上がる)
と思う。金融取引は、異なる見解で、売買が起こります。
■9.2007年8月初旬:明白な下落
本稿も、配信容量に達しました。ポールソンとともに、2000年代金
融取引の主流になったデリバティブを見ています。
目的は、住宅金融崩壊のプロセスを見ることで、次の、巨大金融商
品である「国債」の行く末を想定するためです。日本国債だけでは
ない。50%を海外が買わねば大きく下がる米国債、ユーロ国債も、
です。
一旦は、ここで送ります。
【後記】
チュニジアからエジプトへ、リビア、バーレーン、サウジへと、応
仁の乱のような「下克上」の動きが広がっています。原油と金は上
がった。中国はどうなるか・・・これも、見極めねばなりますまい
。
TV中継の国会審議では、呆れるくらいのんびりした質問と答弁が続
いています。応仁の乱のときの、京都の隔離された貴族や、紫禁城
の宦官のように。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ビジネス知識源プレミアム・アンケート:感想は自由な内容で。
以下は、項目の目処です。】
1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ
と記述の際、より的確に書くための参考になります。
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感想やご意見は、励みと参考になり、うれしく読んでいます。時間
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