MMT論についての検討(前編)
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一挙に寒さが増しています。当地でも珍しく二日雪が降って、風が今
日も冷たい。室内の床暖房は、穏やかに温かい。普通はそれで十分な
のですが、エアコンの暖房もいれています。

【YCCという「利上げ」】
22年12月に、日銀が金融市場の予想外だった0.25%の利上げをし、マ
レな方法であるYCC(イールド・カーブ・コントロール)として、10
年債を利回りが0.5%になる指し値で、買い取っています。(注)海
外市場では、円国債の10年債の利回りは、発行時の0.5%以上に上が
っていく(=円国債の価格は下がる)と見ている人が、ほとんどで
す。。

債券市場は、日本のインフレ率(東京都4.3%:12月)の上昇から、
国債金利の上昇を予想しています(国債価格は下落)。

長期債の中心である10年満期の10年債の利回りは、0.35%~0.5%の
間を波動しています。22年12月までの0.25%から、0.1~0.25ポイン
ト上がった水準です。

ただし米国債とは3.5%くらいの大きな金利差(イールドギャップ)
があります。普通の時期なら、日米のイールドギャップは2%以下で、
ドル/円の為替は、均衡します。インフレになった現在、ドル金利、
円金利、円の価値、ドルの価値ともに、普通の時期ではない。
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/jp10yt.html

【わかりにくいことですが・・・日銀の裏腹の金融政策】
売りに出た10年債は、利回りが0.5%になる指し値で、日銀がほぼ全
部を買い取っています。このため、債券市場には、銀行が買う10年債
がない。ところが国債の全体では量的緩和ではありません。(注)財
務省の新規国債発行分も、0.25%から0.5%に上がっています。

◎日銀は、ここ7か月、満期が来た国債の、借り換え債を買っていな
いのです。

借り換え債を買わず、満期の返済を受けとるだけなら、日銀の国債の
保有(578兆円:23年1月)は1年に72兆円のペースで減って行きます。
これを続けると長短の日本国債の平均満期は約8年ですから、8年でゼ
ロになります。

国債は満期日に、政府が額面の100%返済をする債券です。
10年債は、発行日から10年間で返済満期が来る国債です。

日銀の国債の保有高を示すマネタリーベース(日銀当座預金+紙幣発
行高)は、22年6月の680兆円(ピーク)から、617兆円(22年12月)
まで63兆円減っています。6か月で63兆円の量的緊縮(金融の引き締
め)をしたことと、同じです。

◎日銀は、2013年4月からの「異次元緩和(国債の買い取り→通貨の
増刷」から、明白な緊縮に転換しているのです。(注)ステルス緊縮
です。

黒田総裁は「金融緩和を続ける」と毎月の記者会見で言っています。
実際は、激しい「量的引き締め(6か月で63兆円)」に転換していま
す。こうした裏腹な発言が許されるのはなぜか? 

10年の金融政策にとって重大なことであるのに、「マネーの緊縮」と
いうメディアの報道もない。

日銀がもつ国債(578兆円)のうち、返済満期が来る国債は1年に72兆
円分あります。日銀が、75兆円分の新規債(借り換え分)を国債市場
で買わないと、日銀の保有国債は75兆円減って、日銀のマネタリー
ベース(紙幣+当座預金)も75兆円減ります。

米国FRBが言うテーパリング(中央銀行による国債の買いの順次減
少)のうち、もっとも強烈な引き締めに相当します。

なぜ日銀は、2022年6月から過激なマネー緊縮策をとっているのか?

7月8日には、異次元緩和を推進してきた安倍元首相が、銃弾に倒れま
した。その前後から、日銀は政治家と国民には言わず、「量的引き締
め(6か月で63兆円)」に転換していたのでしょうか。
(マネタリーベース:2020年から2022年12月まで)
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/base2212.pdf

半年で63兆円のマネタリーベースの緊縮は、1年では126兆円のペース
です。「月10兆円という激しい緊縮」です。

その上で、市場の10年債の金利を0.5%に抑えるため、10年債だけを
買い尽くしている状況が、現在です。

◎まず、マネーの量を減らし、6か月後の22年12月からは、0.25%の
利上げをしています。日銀は、米国風に言えば、テーパリング(国債
買いの順次縮小)に転じたのです。

岸田首相は、日銀の6か月間のテーパリング(63兆円)を知っている
のか。あるいは、日銀に対して密かに指示したのか、不明です。指示
したとは思えない。首相が知らなかったとすれば、「日銀の政府への
ステルス反逆」です。

異次元緩和の旗手だった黒田総裁は、事実上、22年7月に安倍元首相
とともに、終わっていたのでしょう。(注)任期は23年3月までです。
(日銀 営業毎旬報告:23年1月24日:当座預金510兆円+紙幣発行
122兆円=マネタリーベース632兆円)
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2023/ac230120.htm
             *

読者の方から質問もあったのですが「MMT(現代貨幣論)を、その根
本からどう考えるか」というのが今回のテーマです。

以前、MMTの誤りを書きました。ところが、MMTを信奉している西田昌
司議員は、財政金融調査会で、「日銀が国債を買って通貨を発行する
量的緩和」に関する質問に立っています(2022年3月15日)。
https://www.youtube.com/watch?v=N4hcBCOrE8Q

以下、西田氏の質問と、政府答弁の主旨を、箇条書きにまとめていき
ます。

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 <Vol.1305号:増刊:MMTの有効性についての検討(前編)>
       2023年1月30日:有料版・無料版共通

【前編;目次】
■1.西田氏の質問と、政府答弁の骨子
■2.銀行の信用創造は、無から行われているのではない
■3.日銀の信用創造も「何もないところから行っているものではな
い」
■4.日銀と銀行は、無から信用創造ができる。したがって、国債は、
いくらでも買うことができる(西田議員)
■5.知られていない。世界の国債の信用格付け
【後記】

後編は、2月1日に有料版として送ります。

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■1.西田氏の質問と、政府答弁の骨子

【質問の主旨】
(1)西田氏;政府が国債を発行して、財政支出をし、日銀が通貨を
発行してその国債を買う。
 財政支出は、民間企業が受託し、民間企業の預金増加になる。
 このプロセスの全体を通していえば、
「1.政府の財政支出用の国債発行=日銀による買い取り→2.銀行の日
銀当座預金(預金マネー)の増加→3.民間企業の預金になっていく」

(2)西田氏: 日銀と銀行の信用創造は、無からマネーを作ること
ができる。日銀の国債買い取りは、日銀当座預金というマネーを増や
す。銀行の信用創造(貸し付け)は、企業と世帯の預金(マネースト
ックという)を増やす。
(注)日銀が言うマネーストックは、マネー・サプライと同じもので
す。

(3)西田氏:日銀は、当座預金(=預金通貨)を発行して国債を買
う。まさに、無からマネーをつくることである。

(4)西田氏: 矢野財務省事務次官は、(文藝春秋で)「このまま
では財政破産になっていく」と書いていますが、財政破産の意味が分
からない。一体、財政破産は、起こるのですか?

(5)財務省主計局長の答弁
財政赤字が増えて、(政府が)市場の信認を失う事態になり、金利が
上昇することになれば、政府が、市場からのマネー調達(国債の売
り)ができなくなることも、考えることができます。このため、政府
が財政健全化に取り組むことが必要です。

(6)西田氏:市場の信認とは、どう一体意味か?

(7)財務省主計局長の答弁;新規国債が市場で消化されない事態で
す。国債の発行と、銀行による買い取りは、金利が上がる局面では、
困難になっていく。国債は、無条件に発行できるものではない。

(8)西田氏 日銀は、大量の日銀当座預金マネーを発行している。
原則的に、日銀当座預金の金利は0%である。

だから、金利がつく国債が発行されれば、銀行は、その当座預金で必
ず国債を買う。銀行が新規国債を買わないということはありえない。

(9)日銀企画局長の答弁 
日銀当座預金の金利は、-0.1%、0%、+0.1%の三層になっています。

(10)西田氏;そうでしょう。銀行が、平均金利ゼロの日銀当座預金
で、金利のつく新規国債を買わないという事態はありえない。つまり
国債のデフォルトはあり得ない。

財務省のホームページにも、自国通貨建て国債のデフォルトはあり得
ない、財政破産はないと書いてある。それでいいんでしょう?

(11)財務省主計局長の答弁:ご指摘の財務省のホームページ意見書
は、2002年の意見書として、日本国債の格下げを行った海外格付け会
社に対して、その(格下げの)判断の説明を求めたものです。

(当時の)日本経済の構造改革と、強固なファンダメンタルズからは、
日本国債の格下げは、根拠を欠くとしたものです。
 この意見書は、(日本の)財政構造改革への信認が失われ、金利の
上昇な様々な事態が起こることまでを想定したものではありません。

(12)西田氏: 国債を発行して、日銀が信用創造して買い取れば、
民間預金が増えるだけの話であり、国債は、銀行がもともとの預金を
調達して買うものではない。ここが、(財務省の)根本的な間違いで
す。民間の預金で国債を買っている。このため、金利が上がる限界が
あると財務省は考えていて、プライマリー・バランス論を出す。
(注)プライマリー・バランス:国債の利払いを除く財政支出を政府
の収入(税収+資産処分)とバランスさせること。
これが、20年、日本経済を成長させなかった根源です。
財務省は間違った論法を使っている。
財務大臣、それでも、日本は財政破産すると思いますか?
             *

この質問は、矢野財務省次官が、文藝春秋に、「このままでは、日本
の財政は、タイタニック号が(濃霧の中で見えなかった)氷山にぶつ
かったように財政破産するかもしれない」というエセーが出たあとに
行われたものです。
(注)財政破産の根拠は書いてないので、論文とは言えないエセー
(作文)です。

西田氏の(間違った)論拠と立論に対して、財務省・日銀双方が、十
分には答えていません。

鈴木財務大臣は、「7年前に西田議員からもらった(たぶんMMTの信用
創造論)本を、十分に読みます」という、阿諛追従(あゆついしょ
う)で、その日の金融調査会は、終わっています。

西田議員は「矢野事務次官が言った財政破産の可能性を根拠がないも
のとして論破した」と考えたことでしょう。

当方は、財務省や日銀の立場に立つものではありませんが、答弁の不
十分なところを、補うことにします。

政府委員の答弁が、十分なものでなかったからです。

財務省と日銀の官僚の、信用通貨創造への金融知識(=金融リテラ
シー)は、この程度か、というものでした。

◎西田氏が、根拠とした「日銀(中央銀行)は何もないところから信
用創造(通貨の増発)ができる」としたことに、最初の前提の誤りが
あります。

■2.銀行の信用創造は、無から行われているのではない

日銀の前に、銀行の信用創造(その結果は預金マネーの創造)から言
います。

信用創造のもとの言葉は、Credit Creationです。Creditの原義は、
クレッジット・カードでも使う負債であり、信用と翻訳されています。
クレジットカードを使うと、45日ころあとに預金から自動返済されて
います。45日間の負債(=信用)です。

銀行の信用創造とは、預金という銀行にとっては負債の鳴るものの創
造のことです。銀行は、どうやって負債(=預金)を創造しているの。

銀行のバランスシートでは、以下になります。

[借り方(資産)]      [貸し方(負債]
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
貸付金  1億円    借り手の預金口座への振り込み1億円

銀行の資産になる貸付金の、資産としての価値は、借り手が金利を払
い続け、約定の返済を100%行うという借り手信用から来ています。

無から貸付金を創造した銀行(誰にでもいくらでも貸す銀行)は、貸
付金の回収ができず、すぐに破産します。

Aさんが銀行に行って、1億円に借り入れを申し込むと、銀行は以下の
ような問いを含む質問を行います。(あるいは、調査します)

1)1億円は、何を買うため、あるいは支払いのために借りるのか。
(マネーの使途)
2)どこに勤務し(あるは何の事業を行っていて)、1年間の所得はい
くらであり、その勤務の継続はいつまでできるのか。
 所得を示す納税証明書は提示できるか。
3)預金と負債は、いくらあるか(バランスシートの提出)。
4)1億円の負債を引き当てる、第一順位の担保(不動産)は、いくら
あるか。

銀行は1)から4)の質問(または調査)で、何を行っているのでしょ
うか。貸付金1億円が、利払いされ約定日に返済されるかという借り
手信用を確認しているのです。

借り手信用がないと、銀行は貸し付けをしません。銀行は、借り手の
利払いと返済の信用を担保にして貸付金(リスク資産)を創造してい
ます。

これは、無形の借り入れ契約の、未来の履行という信用なので、物的
なものは見えません。信用は物的ではないため西田議員のように、銀
行のバランス・シート(B/S)の結果だけを見て、「無から信用創
造」が行われているという明白な誤りを主張する人が出るのです。

[銀行B/S] 
貸付金1億円  借り手の口座に振り込む預金マネー 1億円
(注)銀行は、この貸付金の回収リスクを、極小にしなければならな
い(普通は1%以下)。

貸付金の利払いと返済が100%確実であると、融資担当が判断しない
と、貸付金の創造は、行われません。銀行は、借り手が、現在持って
いる「利払いと返済の信用力」を、1億円払って買っているのです。
貸付金に対して、収入が少ない人、あるいは他の負債が大きな人には
銀行は貸しません。

自分には、10年後に、遺産相続で、利払いと返済の信用力がつくとい
う不確定なことをいっても、銀行は貸しません。

遺産相続には、親の死期の不確定、親が遺産をいくら分割するかとい
う、子供には決められない不確定なことが関係しているからです。マ
ネーを貸す銀行は不確定なことを嫌います。株が上がるという不確実
な未来を担保にして貸し付けすることもない。不動産の担保も、普通
は、欠け目が20%~30%はあります。時価より20%から30%少なくし
か貸さない。

西田氏のいう、「銀行は無から信用創造(預金マネーの増加)でき
る」という議会質問の前提は100%誤りです。

前提が誤っていますから、その後の質問も、全部、間違いです。
政府委員(超エリートの財務省主計局長、日銀企画局長、財務大臣)
が、「銀行の信用創造は、無から行われるものではない」と指摘しな
かったのは不思議です。

銀行融資の現実を、知らないからでしょうか。あるいは、MMT(現代
貨幣論)や経済学の教科書を読んでいても、自分で考える能力がない
からでしょう。

「債務の利払いと返済契約の履行の信用」という概念が、はっきりし
た形では、主流派経済学にはないからです。

なおBOE(英国国立銀行)は、現代経済のマネー創造(Money 
Creatin in the Modern economy)として、銀行の信用創造について
書き、信用創造論が欠落している主流派経済学を補っています。

不十分ではあっても、Google翻訳で意味はとれるでしょう。
https://www.bankofengland.co.uk/quarterly-bulletin/2014/q1/money-creation-in-the-modern-economy

■3.日銀の信用創造も「何もないところから行っているものではな
い」

日銀の信用創造、言い換えれば、銀行へのマネーの発行は、以下のよ
うなB/Sとして、行われています。B/Sは、経済的取引の、金額による
記録です(決算期には残高)。

 借り方(日銀の資産)     貸し方(日銀の負債)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
国債の累積購入 578兆円   日銀当座預金 510兆円
他の債券     54兆円       紙幣の発行  122兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
資産合計    632兆円    負債合計   632兆円

(注)他の債券としては、貸付金89兆円がもっとも大きい。貸付金も、
貸付証書で見れば債券の一種です。

国債を買って、その代金として銀行に払ったマネーが、日銀当座預金
510兆円+紙幣122兆円です。

日銀当座預金の所有者は、日銀に口座をもつ銀行です。
(正確には生損保、証券会社、政府系銀行、外銀を含む金融機関)。

日銀は、銀行に対してマネーの供給をするのであり、企業や世帯への
マネー供給(貸し付け)は銀行が行います。日銀に個人口座をもつ人
はいません。口座を持つことが許可されれば日銀から借りることもで
きるでしょう。これが、ヘリコプターマネーです。

日銀が、マネー発行のとき、銀行経由で国債を買うのは、国債がその
国では、利払いと返済信用の高い債券とされているからです。

満期には、政府は確実に返済する。決してデフォルトはしないと考え
られているからです。

一般に、政府信用は「無限大」に大きいとされています。(注)本当
は違います。ここでは「されている」という偽装を言っています。

日銀は、政府の国債の返済信用を国債(借り入れの証書)として買っ
て、当座預金マネーと紙幣を発行しています。

西田議員が、議会質問で言ったように「日銀は無から信用創造してい
る」のではない。この前提も、誤っています。

上記B/Sを見れば、明らかなように、
・国債という、持ち手にとっての金融資産を日銀が買って、
・その代金を、当座預金マネーと紙幣として払っているのです。

日銀は、銀行への貸付金のときも、国債の担保をとります。

(注)日銀特融という無担保貸しつけは、普通は行いません。山一証
券の破産の前、日本経済の危機とする田中角栄の要請で、日銀は無担
保の特融を実行しました。

国債は普通、「その国で、返済信用がもっとも高い債券」です。国債
の信用を企業の社債の信用が上回ることはない。借り入れの金利は、
国債の利回りより常に高いのです。

【国債の返済信用はどうなっているのか?】
ところが・・・借り手の政府は、実質的には、1円の純返済もしてい
ません。財政が赤字(=財政支出>税収)では、純返済のマネーはな
いのです。どうやっているのか。

2022会計年度(21年4月から22年3月)の、新規国債の発行計画は、以
下です(財務省:2021年補正予算後)。
https://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/fy2022/issuanceplan211224.pdf

1)新規国債発行   66兆円(当年度の財政赤字分)
2)財投債発行    15兆円(郵貯の買い受け分)
3)借り換え債発行  144兆円(返済満期が来た国債の借り換え)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
国債の新規発行合計 225兆円(2022年度)

1200兆円の長短国債で、1年に返済満期が来る分は144兆円です。
2022年現在、長短の国債の平均満期は8.3年です。

8.3年で、1200兆円の長短国債を返済するという約束を、政府は銀行
に行い、1200兆円の国債を売ってきたのです。

ところが当年度だけで、一般会計+補正予選で、国債の新規発行分
66兆円のマネーが不足している政府は、逆立ちして政府の資産を処分
しても、144兆円の返済原資はない。どうしているのか?

返済期限の、実質的な延期(飛ばし)です。

144兆円の借り換え債という新規債を、国債をもつ銀行に買ってもら
い、そのとき代金としてはいる政府当座預金から、満期が来た国債の
持ち手に返済する。

銀行が、縁故や政治力のある債務者に対して、マレに行うことがある
「利払いと返済分の追い貸し」と同じ仕組みでの、返済期限の延期で
す。

もともと100年債を発行すれば、借り換え債の発行は、なくなります。
しかし100年債では、その国債を銀行が買うときの金利では、期限の
不確実さが増すので、4%以上になるでしょう(2022年度)。米国、
英国では10%以上になるでしょう。イタリアでは、ECBが買わないの
で、100年債の発行ができません。

1200兆円の4%は、1年で48兆円です。政府は、4%の金利は払えない。
このため現在の平均金利が0.5%の10年債の発行にしているのです。

その10年債を、返済満期が来たときは、100%、借り換え債を発行し
て銀行に売る。この借り換え債が、2022年度は1年に144兆円はあった
ということです。

政府の財政が、黒字に転化しない限り、借り換え債の発行必要額は、
年々、上がっていきます。2022年度には、66兆円の赤字だった政府財
政が黒字になるときは来るのでしょうか?(注)永久に来ないと見て
います。

新規国債の返済期限を15年、20年、25年、30年、35年・・・と伸ばし
ていかないと、借り換え債の発行は、減りません。

最終的には、金利だけを払う永久債です(戦後初期の英国のコンソル
債の事例あり)。満期返済が長くなると国債の金利は上がっていきま
す。

■4.日銀と銀行は、無から信用創造ができる。したがって国債は、い
くらでも買うことができる(西田議員)

本当でしょうか? 結論からいえば、ウソです・

日銀と銀行は「もっとも信用が高い債券としての国債」を買って預金
マネーを発行しています。もっとも信用が高い債券とは、「利払いと
返済が、他の債券(例えばトヨタの社債)より確実な債券、つまり、
リスクが0%の債券」です。

国債の信用を、日銀と銀行は、何によって判断しているのか。
米国の、格付け会社の格付けです。

財務省が、財政金融委員会で言った、「通貨と財政への信認が失われ
る」というのは、国債の格付けの、低下のことです。

国債の信用は、借りる政府が決めることができるのではありません。
国債を買う側の、銀行のグループが決めます。その銀行グループが作
っているのが、S%Pやムーディーズなどの格付け機関です。

【信用の決まり方】
銀行でお金を借りるとき、借り手は自分の返済信用を決めることはで
きない。貸し手である銀行が、処分ができる資産と所得の現在と将来
を判定して決めるものです。

これが、銀行の審査です。
審査に合格しないと、貸し出しは実行されません。

国債の信用の判定をするのは、格付け機関しかない。
米国の格付け機関は、世界の通貨の国債を格付けしています。

国内では、無限信用とされる国債も、国際的な売買では無限信用では
ないのです。

財務省主計局長の答弁(5)
財政赤字が増えて、(政府が)市場の信認を失う事態になり、金利が
上昇することになれば、政府が市場からのマネー調達(国債の売り)
ができなくなることも、考えることができます。このため、政府が、
財政健全化に取り組むことが必要である・・・・とは、国債の格付け
のことを言っていたのです。

一方で、西田議員は、国債の格付けの、国際的な取引で適用される実
際の意味を無視しています。(注)国債の海外取引では、常に、格付
けが参照されている現実を、しらなかったのかもしれません。

(S&P;世界の国債の格付けランキング:2021年1月)
https://finance-gfp.com/?p=5538

■5.知られていない。世界の国債の信用格付け

日本国債の信用格付けは1990年代のAAA級(最上級)から、A+級に下
がっています。

約20年間に、世界では23位まで下がって、1昨年がA+級でした。Bがつ
くまで、あと一歩の低いランクです。財政赤字が63兆円に増える
2022年度には、もう一段下のA-かも知れません。

GDPの数値や金融の数値に不明なところが大きく、国債信用が判定し
にくい中国の元建て国債と、同じ信用ランクです。

経済数値、コロナ、不動産に不良債権も不明な、中国国債を買って喜
んでいる金融機関が、世界にいくつあるでしょうか。

GDPの100%の国債のスペイン、タイ、メキシコ、フィリピン、インド
ネシア、160%の国債のイタリアは、国債がリスク債券になるBBB級以
下です。(注)日本は、GDPの260%の政府負債があっても、格付けは
まだA+です。「高い評価」を得ているのです。日本の対外債権が
1200兆円はあるからでしょう。

この格付けがBBB級に下がると、国際的な大手銀行は、売らなければ
ならない。BBBがつくと、国債も、貸し付けや他の債券のように資産
評価(査定)とき、欠け目が必要な「リスク債券」とされるからです。

銀行の資産の内容は、他の銀行と預金者から、評価を受けます。
自分で、自行を信用の高い銀行と評価しても、無効です。
BBB級以下の国債をもっていると、銀行の信用と株価が下がるからで
す。今後、日本の国債の格付けが上がる可能性は、ないでしょう。

BBBがついた格付けの国債は、銀行間融資のレポ金融の担保として受
け入れられない。保有しているときは、損をしても売ります。

国債の格付けは、通貨の価値信用とも同じです。

2022年10月に、1ドル=151円に下がった円国債のドル価格は2021年比
では、「115円÷151円=76%」へと、24%も下がっていたので、海外
金融機関から、円国債が投げ売られたのです。

24%も、円国債のドル価値が下がれば、自行の資産信用のため、保有
を続けることはできない。
           *

有料版、無料版共通の前編は、ここまでとします。後編は、毎週水曜
発行(次回は2月1日)の有料版として送ります。

【後記】
円国債の信用については、短期債を中心に16%を保有する海外銀行の
動向をあげる人は少ない。

16%と考えているからでしょう。しかし、海外銀行がもつ円国債は短
期債が中心なので、日本の都銀並みの売買額があります。自国通貨建
ての国債には、デフォルトはないという通説も、ウソです。

先物売り、売りオプションでは、円国債をもっていなくても、レバレ
ッジをかけていくらでも売買に参加できるのです。米国金融の、円国
債の売買への参加では、国債先物、オプションの売買を主とします。
その点、国債先物、オプションの売買が少ない国内金融機関とは違う
のです。

個人では、株は700万人が売買していても国債を売買する人はゼロに
近い。このため西田議員のように、国債を買っている銀行は、何もな
いところから信用創造していると誤解する人も、出るのでしょう。国
民の金融リテラシーは低い。金融の約60%は、国債の売買です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~
【無料版:読者アンケート&感想の、項目のメド】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は、進みましたか?
3.疑問な点は、ありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲で、横顔情報があると、テーマ設定と記述の際的
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