日曜増刊:物価と金利の原理(前編)
Written by admin on 2023年1月15日 – 12:00
政府から「金融リテラシー(金融への知識)」が言われています。 金融でもっとも大切なものは、金利です。しかし、政府がいう金融リ テラシーは「預金マネーを、株や債券の買いに振り向けるための知識 (証券会社のセールスにあたる)」であり、金融の原理への知識では なく、ごく、表面的なものです。 正当な知識とは、自分で経験しなくても、対象となる事象の原理を知 り、方法を知る、体系的で論理です。 例えば、医学の知識は、自分が経験していない病気を治す、確率的な 方法を、医師に教えます。医師の治療を確率というのは、同じ病気と 現れた症状でも、その原因は個人によって多様だからです。人体は多 くの要素が共通なので、科学的な医療が成立します。しかしこの科学 的な治療の結果も確率なのです。医薬の効能も確率です。 経済学の知識は、本来、「うまく働くこと、およびそれを知らない人 よりお金儲けができる(確率が高い)こと」でなければならないと思 っています。 しかし、現実の経済学は、そのニーズを全く満たさない抽象的なもの になっています。社会学風な「行動経済学」が例外=人間の非合理な 判断を追求しています。本来は、おばちゃんから「あの人は経済学を 勉強したのでお金儲けがうまい」と言われるものでなければならない と、当方は考えています。 文学を勉強すれば「自分の考えを文章で巧みに書くことでき、自分の 考えや思いを他人に伝えることができる」ことでなければならない。 この観点からみて、大学まで制度化された「学校学問」は一体どうな ってしまったのか。現在は、学校崩壊の時代でもあります。 このメールマガジンは、「良質な知識の源」になることを目標に、書 いています。金融では、もっとも基本的な原理である金利について書 かねばならない。 本稿は、前半部を日曜増刊(有料版・無料版共通)とし、後半部を水 曜日の有料版正刊とします。 普段は、言われることがなく、多くの人は知らない金利の原理です。 テーマは、金利とは一体なにか?ということの答えを探るものです。 突然、具体的なことを言うと、 1)株式投資で、年20%の運用益を目指すことは、 2)長期では、20%の損の確率もあることと、同じです。 原理的には、株式投資の利回りも、金利より高くならない。 ただし、米国株の100年の長期の投資では、1年平均上昇は8%でした。 これは何を意味するか。 信用通貨の1ドルの通貨価値が、株価に対しては年8%平均で下がって きたことです。一方、 金の価格も、1971年の35ドルから現在は1800ドル付近です。50年で 51倍、年平均の上昇は8%です。長期の株価と全く同じ利回りです。 原油価格(≒資源価格)も金価格と似ています。1971年は1バーレル 1.5ドルでした。今日は80ドルです(米国WTI)。50年で53倍ですから、 年間平均の価格上昇は8%です。 以上は何を意味するか? 1973年以降、価格リンクが金と切断され、信用通貨になったドルは、 1年平均で8%、株と資源価格に対して、その価値を減らし続けたとい うことです。世界のGDPの「約1.3倍=1.5京円」預金されている信用 通貨は、長期では、価値を減らし続ける金融資産です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.1301号:増刊:物価と金利の原理(前編)> 2023年1月15日:有料版・無料版共通 【前編:目次】 ■1.金融は、元の英語ではファイナンス(資金の調達)です ■2.インフレによる金利の上昇 ■3.4種ある、インフレ率 ■4.金融危機と物価 ■5.インフレでも賃金が上がっていない唯一の国が日本 ■6.世帯の金融資産の、価値の低下 ■7.日米の金利差からの、円の海外流出 2023年1月18日:後編:有料版 【後編の目次予定】 ■8.銀行が抱く期待インフレ率と、既発国債の価格および金利の関係 ■9.(銀行が抱く)期待物価上昇率が、国債の利回りになる ■10.既発国債の金利(利回り)は、誰が決めるか ■11.コア物価と、金利の関係 ■12.陰謀論とされることの系譜 ■13.市場の売買で決まる既発国債の金利が、期待インフレ率に一致 する原理 ■14.期待金利と、既発国債の価格の関係 ■15.後記;リフレ派の沈黙 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.金融は、元の英語ではファイナンス(資金の調達)です 資金の調達には、 1)株式の発行によるもの(エクイティ・ファイナンス)、 2)借入金によるもの(デット・ファイナンス)があります。 銀行からの借入金、国債や社債発行などがデット・ファイナンスです。 ファイナンスの全体にかかわるのが「金利」です。借りれば金利を払 わねばならない。「金利とは一体何か?」と考えたことはないでしょ うか。まず金融の元であるマネー(通貨)についてです。 【通貨の3大機能】 通貨の機能(働き)は3つです。 1)どんな商品も買うことができる(交換機能) 2)商品の価格を測る尺度になる(価格表示の機能) 3)価値を長期で保存できる(価値の貯蓄機能) 1番目と2番目は、説明の必要はないでしょう。仮想通貨は、現在、 「どんな商品も買うことができる」という条件は満たしていないので 証券と同じです。仮想通貨証券を売って通貨に換え、商品を買うとい う一段階が挟まります。価格変動が大きく価値保存もできない。 3番目の価値保存機能は、説明の必要があります。通貨の価値とは何 か。価値保存とはどういったことか。 【金利の意味】 価値保存にかかわって、価値の下落を補うものが、金利です。 通貨の価値とは、商品の購買力です。1万円でどの商品をいくつ変え るかが、今日の商品購買力です。 【ゼロ金利のとき】 1万円札を100万円、10年間、自宅の金庫にタンス預金をして引き出し た100万円は、その購買力が保存されているでしょうか。 物価の上昇が10年間ゼロなら、商品の購買力は10年前と同じであり、 10年前の100万円と同じ質と量の商品を買うことできます。物価の上 昇が0%付近なら、紙幣は価値保存機能を果たします。 日本では、約20年、1万円札がタンス預金でも価値保存機能を果たし ていました。保守的な態度なら、銀行預金に預けておけばよく、損を するリスクがある、マネー運用(株、債券、金や外貨の買い、または 投資信託)の必要は、なかったのです。 【物価上昇と通貨価値の下落】 しかし10年間の、物価一般の平均上昇が4%だったらどうなるか。 10年後の物価は、「100万円×1.04の10乗=100×1.48=148万円」に 上がっています。100万円で買える商品は、「100万円÷148万円≒0. 68=68%」に減ります。1万円の購買力(価値)が32%も減るのです。 ■2.インフレによる金利の上昇 通貨が、3つめの条件である「価値保存機能(購買力の保存機能)」 を果たすには、どうでなければならないか。 タンス預金や金利がほぼ0%の銀行預金ではダメです。10年後も100万 円だからです。100万円は価値(購買力)を32%も失っています。 (注)インフレは物価の上昇の形をとった通貨価値の下落です。 マネーが価値保存機能を果たすには、1年4%は増えなければならない。 100万円が1年目は104万円に、2年目は108.16万円・・・10年後は148 万円に増えていなければならない。 長期のインフレ率が4%なら、運用金利は4%以上でなければならない。 これがインフレのときの10年という時間での、マネーの運用のメルク マール(最低の基準)になるものです。 (注1)投資信託であるヘッジファンドの、年間の運用利回り(金利 に相当する)の目標は、インフレが0%のとき5%付近です。インフレ が4%なら9%くらいです。インフレより5%くらい高い理由は、運用 で損をするリスクがあるからです。ヘッジファンドは損失が出ても保 証しません。それに、一般には預託資金の2%くらいの運用手数料を とります。加えて成功報酬が上昇率の20%です。 (注2)元本(元金+金利)が保証されている銀行預金は、常に、イ ンフレ率より低い。仮に4%の物価上昇が10年続いても、日本の銀行 預金の金利は1.5%が最大値でしょう。 ■3.4種ある、インフレ率 インフレ率にも、ややこしいところがあります。東京都の2022年12月 の昨年対比の物価上昇(総合)は4%に上がりました。この物価には 4種類があります。 https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/kubu.pdf 1)消費財・サービス財の総合(総合という)。消費財は有形の商品 (店頭商品)、サービス財は無形の電気、ガス、エネルギー、通信、 教育、情報コンテンツ、交通、宿泊、医療、娯楽などです。 有形の商品がほぼ40%、無形のサービス財が60%くらいの消費割合で す。東京都の物価が4%上がったというときは、この総合を指してい ます。 2)生鮮・エネルギーを除くコア物価。生鮮商品は季節と収穫によっ て、エネルギーは石油の高騰や下落で短期的に大きく変わるので、そ れらの物価を除いたものを、「コア物価」としています。 東京都の2022年12月は、総合は4.0%上昇でしたが、生鮮・エネル ギーを除くコア物価は2.7%の上昇でした。普通は、「総合物価上昇 率>コア物価上昇率」です。 3)投資家が抱く「期待物価上昇率」。これは、1か月ではなく、長期 (その期間は曖昧です)に、予想される物価上昇率です。 これは、インフレの初期には低くなり、月々のコア物価のインフレ率 がピークアウトした後期にはほぼ一致していきます。心理的な物価な ので、期待物価上昇率といっています。 4)この期待物価上昇率は、物価連動国債のBEI(ブレーク・イーブ ン・インフレ率)で計ります。ただし日本では、物価連動国債の発行 が少ないので、あまり参考にはならない。 (注)物価連動債は、期待物価上昇率によって、利回りが変化する国 債です。期待物価上昇率が高いときは、利回りが高くなります。低い ときは低くなります・ 【物価連動債の金利:BEI】 2022年12月で0.86%(10年債)です。2020年10月までは0%でしたが、 2021年と22年で、BEIは0.86%まで上がっています。 2014年は、消費税の増税3%により(消費税は物価に含みます)、 BEIは1.4%まで上がっていましたが、その後、2020年には0%に下が っていたのです・ https://www.mof.go.jp/jgbs/topics/bond/10year_inflation-indexed/bei.pdf 米国では、物価連動債の発行が多いので、ある程度、投資家(=銀 行)の長期の期待インフレ率を知ることができます。 米国のBEIは、2022年3月が3.59%と高かった(5年債)。国債を買う 銀行が、米国の5年間の期待物価上昇を3.59%と見ていたということ です。23年1月は2.2%に下がっています。 https://www.oanda.jp/lab-education/oanda_lab/oanda_rab/breakeven_inflation_rate/ 米国のCPI(消費者物価の上昇率)は、2022年11月が7.1%でした。し かし、5年間平均での期待物価上昇率は、エネルギー価格の下落を予 想し(現在、原油は1バーレル78ドルとまだ高い)、5年間のコアCPI/ 年は、2.2%に下がっています。 この、銀行の「期待=予想」が正解かどうか世界のだれにもわからな い。FRBや日銀は、CPIの短期予想をしばしば外しています。 要因が多数で複雑系の、物価の長期予想は不可能なのです。 長期予想ができなくても、FRBや日銀は、インフレを予想して金利目 標を設定し、BEIとコア物価を参照しながら、金融の緩和(利下げま たは通貨増発)や引き締め(利上げまたは国債の売り=通貨の減少) の政策を実行しなければならない。 以上のように、経済のインフレ率には、 1)全商品の総合、 2)コア物価、 3)心理的な期待インフレ率、 4)期待インフレ率が国債の利回りになるBEI、の4種類があります。 一般には1、2、3、4の順に、インフレ率は低くなります。 逆転して高くなるのは、金融危機(=マネー量の減少)が原因になっ て、物価下がるデフレになったときです。 ■4.金融危機と物価 金融危機のあと物価上昇にマイナスになりますが、金利には0%とい う下限の限界があるからです。(注)マイナス金利であっても-0.2% くらいが下限です。 物価のマイナスが1年続くと、タンス預金にも、実質的には金利がつ いたことになります。「1年後の100万円」で買える商品の質は上がり、 量も増えるからです。デフレの時期は、現金があって使われず滞留し て、(普通は)所得より需要が減って経済は不活発(不況)になりま す。普通は、と書いたのは、デフレのときでも、設備・機械投資が多 く、経済成長がある時期もあるからです。 (補足情報)現在のインフレの基調は、「商品の生産を増やさない脱 炭素投資」から来ています。たとえばEVは、ガソリン車の400万と同 等のものが600万円と高い。太陽光発電、風力発電は、火力発電より 高いコストがかかります。SDGs投資は、商品の生産力を増やさない。 米国で原油や天然ガスの生産を減らすと、中東の原油が高騰します。 米国で、結果はインフレとして、脱炭素が明らかになったのは、 2020年ころからです。 気候変動対策にも、(利益を得るグループによる)陰の陰謀があるで しょう。脱炭素は、エネルギーの総量の消費を減らすということでは ない。化石燃料よりコストが高い、代替エネルギーへの転換だからで す。環境負荷税なのです。 デフレは、 1)米国発の世界大恐慌(1929~33年)、2008年のリーマン危機の直 後にありました。 2)日本の1995年から2020年までのゼロ~マイナス成長の25年で起こ ったことでもあります。 【消費税は、物価の一部】 2014年の物価上昇の2.76%は、消費税の3%上げによるものです。 2017年から2019年の物価上昇(0.49%、0.99%、0.47%)は、消費税 の2%上げ(2018年10月)の前後で起こったものです。2020年のマイ ナス0.03%と21年のマイナス0.24%は、コロナによるものです。 https://ecodb.net/country/JP/imf_inflation.html 過去約25年、物価上昇がマイナスから0%だったなかで、2022年から の物価上昇(2022年12月4%、東京都総合)は消費者心理では衝撃で しょう。 ■5.インフレでも賃金が上がっていない唯一の国が日本 とりわけ米国(5%)のように賃金が上がっていない日本では、4%の 物価上昇は、世帯所得が650万円以下と低い約70%の世帯の生活にと って過酷です。所得と預金の価値が4%下がったからです。 通貨は、インフレの分価値を減らします。1万円という名目数字が同 じなので、減らないように見えているだけです。 ケインズは、これを貨幣錯覚といって、インフレ率より常に金利が低 い銀行預金を、馬鹿にしていました。銀行預金の実質金利(預金金利 -期待インフレ率)が、常にマイナスなのは、マイナスの実質金利で 借りて、企業が投資するためです。 銀行預金の実質金利のマイナスは、シャドーバンク(ヘッジファンド、 インデックスファンド、中国の理財良品、年金基金)も生んだもので す。米国が中心の、世界のシャドーバンクの、資金量は、すでに、銀 行預金の世界の総量(推計1.5京円)より、大きい。 今回の金融危機は、 1)シャドーバンクの含み損の損失の表面化と、 2)金利上昇による運用損失の合計から、起こるでしょう。 その兆しは、2022年に急増した米国大手金融機関の、リストラとして 表面化しています。2021年までは世界の株価バブを引っ張ってきた米 国のメガテックGAGAMの株価は、約半分に下がったらからです。 1)ピークでは1200兆円だったメガテック5社の株価時価総額に加えて、 2)住宅ローン7%で、米国住宅価格も下落が始まる時期(現在はまだ 10%上昇)が、リーマン危機と同じ構造の、金融危機でしょう。 2021年までは3%だった住宅ローン金利、22年、23年と7%に上がると、 住宅価格は30%は下がって等価(パリティ)です。 ■6.世帯の金融資産の、価値の低下 世帯は、2005兆円の金融資産をもっています。1)銀行預金が1100兆 円、2)証券(主に株)が337兆円、3)保険・年金の基金が539兆円、 4)その他59兆円、合計が2005兆円です。1世帯平均では4000万円と大 きい。内心、「そんなにはないよ」と思う方も多いでしょう。 平均では2000万円になる預金は、高齢者と所得が上位の世帯に偏りが 大きい。株も同じです。保険は保険会社に、年金は政府に預けている からです。 https://ecodb.net/country/JP/imf_inflation.html (注)60歳以上の世帯の平均預金は2300万円台、50歳台が1699万円、 40歳台が1123万円、40歳未満は602万円です(厚労省)。日銀の資金 循環表の、世帯の預金には、医師、弁護士、農業、個人事業主など、 法人化していない個人事業収入の分が入っています。なお、約400万 社の法人の預金は、世帯の2005兆円とは別に330兆円です。1社平均で は8250万円と意外に少ない。97%が中小企業だからです。 世帯がもつ2005兆円の金融資産は、東京都の物価上昇率4%では、 「2005×4%=80兆円」も価値が減っています。政府が100%補助をす るなら、80兆円(1世帯平均160万円)でないと間尺に合わない。 【通貨を発行する、政府が行うべきこと】 実質的なMMTとして、国債を日銀に買わせて振り込めばいいのですが、 MMTを500兆円行ってきた政府は、絶対にこれは行いません。日本で、 この世帯補助の必要がある理由は、物価は上がっても(=通貨の価値 は下がっても)賃金は上がらず、実質的に切り下がっているからです。 【アダム・スミスの国富論とケインズ経済学は、 国家のための経済学だった】 「国民のための経済学」なら、「物価上昇率=賃金上昇理率」でなけ ればならない。国家富裕論(=アダム・スミスの国富論=経済学の発 祥)ではなく、国民富裕論がこれです。国家は、経済的には、国民が 文化と価値観を共有する集合体であるべきものです。 (注)ケインズの経済学は、国民ではなく、政府のためのマクロ経済 学です。 実際は、政府にとっての世帯は、1)所得税、消費税と、2)税と同額 に増えてきた社会保険料の、搾取の対象になっています。(注)自民 党はともかく、野党は何をやっているのか? 防衛費増税や消費税20%(自民党税調の検討)はとんでもない。財務 省と自民党は、こうした計算をしているとは思えないのです。 2023年に4%付近の物価上昇が続くと、2024年に物価がマイナスにな らない限り、永遠に、この80兆円の、世帯の金融資産の価値は消えま す。これが物価上昇です。 ◎日銀の異次元緩和(累積で500兆円の円の増加発行)が目標とした 物価上昇2%は、毎年、世帯の金融資産の価値を40兆円、1200兆円の 国債(政府の負債)の価値を24兆円減らしますという宣言だったので す。 幸い、異次元緩和では、世帯の金融資産の価値を減らすインフレにな らなかった。毎年、20兆円から30兆円は、マイナス~ゼロ金利の円よ り、平均で2%は金利の高い米ドル買いに走った(円が国外に逃げ た)からです。 ■7.日米の金利差からの、円の海外流出 イールド=日米の金利差。FRBが2022年に4%金利を上げた現在は、3. 5%と大きい。円安の原因は、3.5%の金利差です。 日銀の当座預金と銀行預金の金利ゼロの円が、金利4%のドルに流れ るのは、冷たいところから、温度の高い方向に空気が流れるように自 然なことです。個人のFX、金融機関、大手企業で「円売り=ドル買 い」が多くなれば、売りと買いの金額の均衡点まで、円が下がってド ルは上がります。 円が売られることは、国内の円が減ることですから、日銀が国債を売 って、銀行の円(当座預金)を吸収するときと同じように、円の金利 は上がります。 これが、日銀が10年債の誘導目標(YCC)を0.25%から0.5%に上げざ るを得なかった理由です。(注)国債市場では、内外の銀行がもつ低 金利の円国債の売りが16兆円も増えて(12月)、10年債の金利は0. 53%まで上がっています。 ■8.銀行が抱く期待インフレ率と、既発国債の価格および金利の関係 【満期前に売買されている長期国債】 円国債を、債券市場で売買しているのは、国内の銀行、海外の銀行、 機関投資家(生損保、年金基金)です。日銀は、この、国債の売買に 介入しています。 ◎円国債の売買の総額は、1か月で106兆円もあります(2018年4月)。 円国債の発行残は約1200兆円なので、1年に1回転です。 ◎金融機関は、満期1年以上の国債も含んで、1年に1回は売っていま す。 【売買の中心は、満期が1年以上の長期債】 月間の売買の内訳は、20年以上の超長期債が231兆円、10年が中心の 長期債が237兆円、2年から5年が中心の中期債が248兆円です。国庫短 期証券は、36兆円/月と少ない。 以上から見えるのは、満期1年以上の長期債であっても金融機関での 国債の平均保有期間は、1年という事実です。 【嘘の銀行会計報告】 日銀を含む全部の金融機関は、国債の時価評価を逃れるため、買った 長期債は、満期まで保有すると報告しています。ところが実態では、 平均保有期間は1年で売買しています。売って買うことの繰り返しを しているのです。この売買は、発行額面ではなく、そのときの(銀行 が抱く)期待物価上昇率を加味した、時価で行われます。 満期が1年以上の国債でも、期待インフレ率が上がり、金利が上がっ たときの保有損は、ほぼ100%が実現しています。政府は含み損とし ていますが、実際は、含み損ではない。メディアは、これを一切、報 じません。 日本証券業協会は、2018年5月以降は、国債の売買情報の公開を停止 しています。公社債(国債を含む)の売買情報の掲載だけになってい ます。 (日本証券業協会:国債の主体別売買額:最終更新2018年5月) https://market.jsda.or.jp/shijyo/saiken/index.html?_ga=2.72438224.2139350575.1673640434-2095362063.1673640434 有料版・無料版共通の日曜増刊は、ここまでとします。 【後編の目次予定:有料版正刊、水曜日】 ■8.銀行が抱く期待インフレ率と、既発国債の価格および金利の関係 ■9.(銀行が抱く)期待物価上昇率が、国債の利回りになる ■10.既発国債の金利(利回り)は、誰が決めるか ■11.コア物価と、金利の関係 ■12.陰謀論とされることの系譜 ■13.市場の売買で決まる既発国債の金利が、期待インフレ率に一致 する原理 ■14.期待金利と、既発国債の価格の関係 ■15.後記;リフレ派の沈黙 この目次が、有料版として書いて送るものの予定です。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【読者アンケート&感想の、項目のメド】 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