金融論:日銀による突然の利上げの裏にあった超円安
Written by admin on 2022年12月25日 – 10:00
日銀は、12月19日(月曜)に、突然、10年債の上限を0.5%とする利 上げを発表しました。6年間も0.25%でした。0.25ポイントの利上げ に相当します。 (注)若干、金融マニアックな論になることを意識しながら、基本的 なことを示しながら書きます。物価・為替・GDPと金利は強く関係 しますが、その関係を論じることは、実は、難しい。 金融市場は、瞬間に反応し、 1)株価は急落(約3%)して、 2)国債が主である債券は、長期債が約2%下がり、 3)「ドル/円」は、137円から132円へと5円(2.6%)円高に振れたの です。 0.25ポイントの小さい利上げで、金融市場が大きく動くのは、 1)世界の負債が300兆ドル(4京500兆円)とGDPの3倍に膨らんで いること、 2)0.25%から0.5%への利上げは、借り手にとっては、長期負債の利 払いを2倍にする「大幅な利上げ」になるからです。 例えば現在、住宅ローンの変動金利は、日本では0.38%くらいと低い。 仮に0.3%上がると、ローンの利払い金額が1.8倍になります。(注) 不動産バブルの中心である米国では、2022年のFRB利上げで、3% が6%台に上がって、ローンの利払いは倍増しています。 〔補足情報〕負債が大きいとわずかな金利の上昇で、負債の利払いが 増えます。世界の負債300兆ドルは、インフレで世界の金利が上がっ ている現在、維持可能(サステナブル)なものではなくなってきてい ます。しかし、それを論じる人は、ごくわずかです。店員は、金融問 題に対して金融関係者の間での議論しかないからです。 ◎金利が上がると、現在の大きな負債はサステナブルではないという ことが、コロナ後、ウクライナ戦争後の、金融の本質です。 1)金利以外に、金融の本質にあることのひとつは、国民からの預金 はいつでも100%引き出せるという信用で成り立つ銀行は、大きな損 失ほど隠す本性をもっていることです。 2)実は、全国の地銀(90行)の50%が赤字経営です。これも一般に 知られていません。10年後でも、60%の銀行は赤字であると日銀が試 算しています。これは普通の意味では、銀行崩壊です。何人がこの記 事を読んだでしょう(2019年4月:日経新聞)(補足情報はここで終わ り) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43852690X10C19A4EE9000/ 外貨の売買を行う金融筋(ヘッジファンド)には、1ドル=125円が 「ドル売り/円買い」の、当面(3か月か?)の均衡点であるという見 方が浮上しています。 外貨の売買は、一般に、3か月先を予測して行います。このため、金 融市場の予想(集合知)が実現するのです。円は、2022年には15%上 がったスイスフランを追うでしょう。ドルは下落基調です。 ドルの世界の通貨に対する実効レートは、今後の円高の分下がり、金 は上がると見ています(2023年3月から5月)。2023年の5月以降は、 円/ドルは、2023年、24年の、円とドル国債の同時下落による金融危 機含みのなかで、新たな、ドル下落の均衡点を探すでしょう。その水 準は、まだ不明です。 【通念とは違い、米ドルは本質的には弱い通貨】 常に、輸出より大きな商品輸入が必要であり、経常収支が構造的な赤 字のドルは、本質的には弱い。現在、経常収支が1兆ドル(130兆円: GDPの3.9%)の赤字の米ドルの、金利という要素を抜いた均衡点 は、1ドル70円という非現実的な線でしょう。金利が高く、海外から のドル買いがドル売りより多いため、1ドル130円台なのです(今日は 132.77円)。 ・ドルは、一般の考えとは違い、円やユーロとの金利差(イールドが 2%から3%)でしか、高さを維持できない通貨です。 ・対外負債が24兆ドル(GDPの1倍:3240兆円)と飛び抜けて大き な通貨が、米ドルです。(米国の対外債務の増加) https://www.ceicdata.com/ja/indicator/united-states/external-debt 金利が同じなら、経常収支(貿易収支+海外投資の所得収支)が通貨 のレートを決めます。ドルの、金からの離脱のあとの1973年からの変 動相場制は、「各国の経常収支の赤字と黒字がゼロになるように通貨 は変動する」という基本の原理をもとにして、始まったものです。経 常収支は、世界全体ではゼロです。中国、日本、ドイツ、スイスが黒 字国、米国と英国が二大赤字国です。 (米国の経常収支の赤字) https://ecodb.net/country/US/imf_bca.html しかしこれも、3か月以内の通貨投機が増えた現在の金融市場の認 識では、「忘却の彼方」でしょうか。世界の外為市場の、1日での通 貨売買額は、約8兆ドル(1080兆円)です。 1980年代末から、まず西欧と米国の外貨交換が自由になって、現在は、 世界のGDP(生産=所得=需要)の30倍、貿易額の120倍の金額が、 通貨の売買(交換)です。多くはレバレッジがかかる金融的投資です。 (注)本稿は、増刊として有料版・無料版に共通とします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.1294号:日曜増刊: 日銀による突然の利上げの裏にあった超円安> 2022年12月25日:有料版・無料版共通 【目次】 ■1.9年8か月ぶりの利上げ ■2.日銀の決断の、裏にある超円安 ■3.金利の上昇で倍増する銀行の不良債権 ■4.日本の物価上昇の、米国との違い ■5.異次元の円安へ ■6.円安を恐怖した政府 ■7.日銀の12.19利上げ 【圧縮した後記】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.9年8か月ぶりの利上げ 日本の利上げは、9年8か月ぶりです。日銀は2013年4月から、マイナ ス~0%付近だった物価を、2年で2%に上げるという「異次元緩和」 を発動しました(当初60兆円/年の国債買い、後に80兆円/年・・・こ れは失敗しました)。 2016年からはYCC(イールド・カーブ・コントロール)として、10年 満期の国債(10年債)の利回りを、上限で0.25%として無制限の国債 買いをしてきたのです(短期金利は0%からマイナス)。短期0%、 10年債0.25%という金利は「異常に低い金利」です。 ◎この日曜増刊(有料版・無料版共通)では、多少、「金融マニアッ ク」になりますが、サプライズになった日銀の突然の利上げの背景事 情を探ります。金融は、企業と生活に必須なものですが、意外に、そ の内容、機能、原理が知られていません。 黒田総裁は会見で「金融緩和は続けるので、利上げではない。イール ドカーブの歪みを正すテクニカルなものだ」というごまかしを述べて います。1)どこがごまかしか、1)なぜ、このごまかしを言うのかが、 まず問題でしょう。 【イールドカーブの歪み】 イールドカーブは、短期国債(満期3か月)から超長期国債(満期25 年)の金利の、満期別のグラフです。 普通の時期は、短期金利は低く、長期金利が高くなる「右肩上がりの カーブ」です。ところが日銀が10年債の上限の利回りを0.25%に固定 するため10年債の「無限買い」を宣言していたので、0.7%くらいに なるべき10年債の金利が、0.25%で凹んだ、奇妙なカーブになってい ました。 ・黒田総裁は、これを是正するため、日銀が10年債を買うとき、利回 りの上限を0.5%に上げる(国債価格では約2%低く買う)と会見で述 べたのです。 ・しかし結果は、5年債から10年債を含んで20年債と他の長期債の金 利が、軒並み約0.25ポイントは上がる「利上げでした」。 円国債の、「満期年限別の金利=イールドカーブ」では、1か月前(赤 線)は、確かに、10年債の利回りが0.25%付近に凹んでいました。と ころが、黒田総裁の発表後も、10年債の利回りは0.5%に凹んで15年 債、20債との利回りの歪みは、逆に、大きくなっています。黒田総裁 が言ったイードカーブの歪みは、修正されていません。10年債以上の 長期金利も上がったからです。 日銀が言及していない15年債、20年債、30年債の利回りも上がったか らです。これは、10年債の金利は0.5%では不適当であり、0.75%や 1%が必要であることを示します。 「今回の利上げでは、全体の金利が上がり、10年債の利回りの歪みは 改善しなかった」という事実は、「イールドカーブの正常化のための、 日銀の10年債の利回り0.5%上限の発表は、長期金利全体を上げる利 上げであった」ことを示します。 https://jp.investing.com/rates-bonds/japan-government-bonds 全部の新聞は「事実上の利上げ」と書いています。この「事実上」 in fact)」という概念は、ここでは意味不明です。事実上ではなく、 あからさまな「5年以上の長期債の0.25%利上げ」だからです。 普通は、中央銀行は「短期金利の目標操作(米国で短期財務省証券の 金利目標の操作)」しかしません。通常は、長期金利の操作は行わな い。金利ゼロは、短期債の金利の0%を言います。中央銀行がコント ロールしない長期金利は0%ではない。長期の借入金利も0%ではない。 長期金利は、長期国債の。債券市場での売買で決まります。 日銀は、0.25%の利回り上限(目標)として、6年間10年債を無制限 に買ってきました。10年債の売りが増えて、金利が上がると、日銀が 全量を買い取って金利を0.25%に抑えてきました。6年間で300兆円以 上あったでしょう。 ウクライナ戦争後の円安に向かった2022年6月は、1か月で16兆円(年 間に延長すれば190兆円と最高額)の国債買いを、しています。異次 元緩和の後期の国債買い(年80兆円)の、2倍以上です。 日本政府と日銀の、ファンダメンタルズ(経済・金融の多くの指標) と政策で偽装が多くなったのは、第二次安倍政権からです。 10年が経過しています。 政府と官僚は、自分たちの発言を偽装やウソと認識していないかもし れません。政策を実行する方便(理由)になっているからです。日本 語には、「嘘も方便(理由があれば正当化される)」という文化があ ります。方便は、仏教でいう「人を真の考えに導く仮の手段」です。 ◎しかし、黒田総裁の会見では、ホンネではウソと認識している感じ、 つまり自己欺瞞の印象が、矛盾のある定義を使った12.19の会見に見 えました。記者は、誤魔化されています。翌日の新聞記事で、これが 分かりました。 ◎黒田総裁が示唆したのは、約10年行っても、経済成長(=実質所得 の増加が1%未満)の効果がなかった異次元緩和の停止でしょう。 深読みかもしれませんが、これが、黒田総裁が米国政府、財務省、国 民に対して「ほのめかしたこと」に思えたのです。リーンマン危機の とき、「(言葉でなく)この唇の歪みを読め」と言った元FRB議長 バーナンキに似ています。 「日銀は、異次元緩和は終わった」と宣言したのです。問題は、約 10年来の変化の、理由です。 ■2.日銀の決断の、裏にある超円安 何が日銀に「6か月後の異次元緩和の停止」を決断させたのか。 ◎「10月末に1ドル151円の円安」にまでいった「円弱の為替レート」 でしょう(12.19会見後の今日は、132.65円付近に上昇)。日銀は、 国際的な慣行では為替介入ができないので、150円台の円安という異 次元緩和の副作用が出てきたとは、言えない。 以下の、日足(ひあし)と、週足のレートを見てください。2022根年 の年初は、1ドル115円付近でした。10月には151円へと、円は24%下 がりました。3%台のインフレになってもゼロ金利を続ける円は、イ ンフレで金利が上がった米国・欧州、そして日本からも売られたので す。 【財務省の為替介入(初めての、円高を目指す介入)】 輸入物価を45%上げた円の独歩安に困窮した政府の要請で11月9日か らは、まず財務省が、先進国には禁じられている為替介入(9兆円) を行っています。 https://www.gaitame.com/markets/chart/usdjpy.html?interval=1440 【米国のインフレの原因は、日本とは違う】 米国の7%~8%のインフレと、日本の3%~4%のインフレは、原因が 異なります。ここが重要な点です。 米国は、2020年からインフレでした。 コロナ対策のマネー増刷と、低金利のため、 1)住宅価格が前年比で20%上がり、持ち家の帰属家賃も7.1%上がっ て、賃金は5%上がって、 2)出荷価格と店頭売価に転嫁され、 3)電気代と2倍になったガソリン価格で、物流費、加工費も上がって、 4)食品と、商品の60%を占めるサービス価格が7.2%上がったからで す。 ウクライナ戦争による、エネルギー・資源・穀物価格高騰の物価への 寄与度は、欧州と日本より、はるかに小さい。 (注)米国はエネルギー・資源・穀物を自給できる経済です。 ドル高は、習近平がとったゼロコロナ休業で、サプライチェーンの供 給が不足した中国からの輸入物価を下げることに、寄与しています。 米国のエネルギー価格(WTI)も国際相場に連動して上がりました。 しかし、欧州と日本にはある、エネルギー輸入金額の増加による物価 上昇は、米国にはない。経常収支が赤字の米国のドル高は、米国にと っては、好都合でした。このため、金利が上がったドルは、為替レー トが上がった(=買われた)のです。 (注)2024年には想定できる米国の金融危機は、ドル安にします。 ◎金利4%によるドル国債の25%下落(時価のマイナス750兆円)は、 まだFRBと金融機関の含み損であり、簿外債務です。 しかしこの750兆円の含み損は、国債の満期前に表面化していき、 「2024年の年初からの、米国発の金融危機」になっていくでしょう。 住宅証券のMBSの下落だったリーマン危機より、3000兆円のドル国債 の下落は、その規模が、数倍も大きいことに注意が必要です。 ◎メディアは「インフレによるFRBの利上げ」は言っても、利上げ で下がるドル既発国債(3000兆円と巨大)のことは、なぜか言いませ ん。不動産と国債の下落こそが、金融危機に直結するのです。 しかもドル国債の下落よる750兆円の金融機関と機関投資家の損を埋 める方法(利下げ)は、インフレの中では、ないのです。 ◎米国の2024年の金融危機は必然だと観測しています。 4%より利下げすれば、既発国債価格は、利下げの分上がりますが、 7%台のインフレ率が2023年に5%台に下がっても、FRBは利下げし ないと宣言しています。 FRBの目標は、インフレ率2%台までの金融引き締めです。 これは、国民へのパウエル議長の公約です。 【金利と国債価格の関係】 発行時の固定金利である、残存期間が10年の国債は、 ・発行のときより1%金利が上がると、約8%価格が下がり、 ・1%金利が下がると、価格は8%上がります。 金利の、本当のところを言えば、 ・金融市場で売買される価格が上がると金利が下がり、 ・価格が下がることが、金利の上昇です。 金利は、金融市場が、国債の売買を通じて決めています。 1)中央銀行が利上げをすることは、買い入れる国債で、額面より安 い価格を、金融機関にオファーすることです。 2)逆の利上げは、中央銀行が、高い価格で国債を買って、金融機関 に利益が出ることです。 ■3.金利の上昇で倍増する銀行の不良債権 日本では、米国に2年遅れて、2022年からインフレになりました。 日銀が国債を買って金融緩和を続けても、コロナ後の賃金と住宅価格 の上昇は、米国よりはるかに小さかったからです。 【日本のゼロゼロ融資】 コロナ後に、政府が準備した「金利がゼロ&無担保」のゼロゼロ借り 入れは増えました。ゼロゼロ借り入れの総額は、56兆円と大きい。も しこれがなかったら、中小・零細の外食・サービス産業の約50% (100万社)が、潰れたでしょう。 「ゼロゼロ融資」は、中小企業の延命させることに貢献したのです。 (注)それでも、当方の近辺では「いつの間にか消えたレストラン、 料理店」は多く、あいているところも、昼間は客数が回復しましたが、 メインの夜は客が少ない(1/2くらいか)。 30兆円は、最終的には保証した政府の不良債権になっていくでしょう。 2023年、2024年、2025年の、国債の増加発行になっていくということ です。 ◎銀行には、これとは別に、60兆円の、利払いがされていない不良債 権予備軍があるという(監督官庁の金融庁)。銀行融資は514兆円 (2022年9月)ですから、総融資のうち不良債権予備軍は11.7%と多 く、地銀の自己資本の2倍です。(注)政府は、返済期限の延長を行 いますが・・・。 今回、金利が2倍には上がるので、60兆円が120兆円に膨らむ可能性が あります。4月に新総裁が就任する2023年5月からは、更に0.25%上っ て、長期金利は3倍になる可能性があります。 リーマン危機のときの最初の不良債権は、米国で100兆円とされまし た(FRBによる集計)。最終的には、400兆円に膨らみましたが、 日米の金融規模の違い(3倍)を入れれば、リーマン危機のときの最 初の不債権より大きい。 これら債権は、「ゼロ金利」により、不良化が延期されてきたもので す。金利が0.5%と低くても、利払いができない債権は不良債権にな っていきます。 「金利ゼロ、保証なしのゼロゼロ借り入れ」は、コロナ休業と時短に よる営業損失の補填用であり、設備投資と、雇用者賃金の上昇にまわ るものではない。日本の消費者物価は、2022年の1月も前年比0.5%の 上昇と、21年並みに低かったのです。 ところが、2022年11月は、前年比3.8%に上がりました。生鮮とエネ ルギーを除く、金融の指標になるコアコア物価も、2.8%上昇です。 店頭物価が3.8%上がり、家計の支出は10兆円くらい増えています (1世帯では20万円/年;同じものを同じ量、買っても、月間1.7万円 金額は増加)。 https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf ■4.日本の物価上昇の、米国との違い 日本の物価は、米国とは違ってウクライナ戦争(22年2月末~)の後 に「3月1.2%→5月2.5%→7月2.6%→9月3.0%→11月3.8%」と上が ってきました。食品スーパーの店頭価格は、8%から10%くらい上が っています。 石油危機(1973年、1980年)並みの上昇です。日本は、2021年までの デフレ基調から、インフレに転じました。 ・米国では2%物価上昇が8%台に上がりました。しかし賃金の上昇も 5%です。家計の、実質的な負担増は3%くらいです。 ・日本では0%付近の物価が、11月は3.8%まで上がった。しかし賃金 の上昇は1%くらいでしかない。家計の実質負担の増加は2.8%です。 【日本の物価上昇は、輸入物価が昨年比で48%も上がったことが原因 である:2022年9月:輸入物価統計】 わが国の物価上昇は、米国のようなコロナ対策のあとの2021年(住宅 価格の20%上昇と株価の高騰2倍)の助走はなく、2022年2月の末のウ クライナ戦争のあと始まっています。 【日本の物価上昇の様態】 1)ウクライナ戦争からは、エネルギー・資源・穀物価格の約20%の、 ドル価格(国際卸価格)での上昇があった。 2)エネルギー・資源・穀物を輸入に頼る日本では、115円から130円、 140円、最後は151円(10月)に向かった。 平均で20%(25円)の円安のため、輸入物価は45%上がった(22年 6月)。 3)輸入資源を使って加工する企業物価(卸売物価)は、9%から10% 上昇した。 4)小売価格が3.8%の上昇にとどまっているのは、企業が、約40%上 がった、輸入原材料とエネルギーの価格への転嫁を抑えたからです。 わが国の世帯所得(買い物の源となるマネー)は米国のようには増え ていない。価格を上げれば売上数量が減り、企業の売上(=平均単価 ×販売数量)下がることを恐れ、価格転嫁は、引き延ばした。 西欧・米国とは、経営風土が違う日本の産業の特徴が、ここにありま す。 (注)雇用がもっとも肝心なテーマである経済学と、価格政策がもっ とも肝心な経営学も、日米に共通ではない。 【経常収支も赤字になる】 日本の貿易は、輸入物価の高騰により、12兆円の赤字になり、40年間 黒字だった経常収支(平均は+17兆円)は、赤字に転落する恐れも出 ていました。20%の円安で、輸出物価は20%上がりました。しかし輸 入物価は20%の円安に資源価格高騰が重なって、48%も上がったから です(2022年9月)。 貿易収支と、所得収支の合計である経常収支の黒字(約20兆円)は、 日本経済の強さを示すものです。1980年代から「円高の傾向」だった ので、政府・日銀は円安介入(ドル買い/円売り)しかしたことがな かった。 ■5.異次元の円安へ 2022年10月には、1ドルは151円という、「異次元」のドル高/円安に なりました。日米の金利差(日本0%、米国3.5%)が拡大し、日本を 含む世界から、巨大な「円売り/ドル買い」があったからです。 この円安に、海外の機関投資家は、 ・インフレになっても金利を上げることができず、 ・ゼロ金利を続けることを迫られていた「日本経済に衰退」を見たの でしょう。 金利を、1%に上げることのできない原因は、GDPの230%(1200兆円) と、極端に大きくなった国債(政府の負債)です。2023年は、この国 債が。更に70兆円以上増えます。借り換え債を含む国債発行は、補正 予算28兆円のため膨らんで250兆円になるでしょう。2022年度は215兆 円でした。 ■6.円安を恐怖した政府 この円安に対して、岸田首相は緊急に財務省、日銀を招集し、「円安 対策の会合」をもっています(秘密会議)。 ◎財務省は、外貨準備のドルを売って「円高」に誘う為替加入を決め ました(11月初旬)。財務省がドルを売ったのは、9兆円といわれま す(介入の金額と方法は非公開です。もっと多いかもしれません)。 1200兆円の既発国債があるため、金利を上げることができないので、 ドル売りで介入したのです。 この緊急介入により、11月10日にはドル/円は、148円から138円まで、 1日で10円(6.7%)という急騰を示しました。外為相場での1日6.7% の変化はマレなものです。 【異次元の円安で、追い込まれた岸田首相】 自国の通貨を上げる為替介入は、輸出力が弱い後発国が行うものです。 先進国は、自国通貨を上げる介入は行わないのが、G7の国際的なルー ルです。 財務省は、アメリカには言わず、このタブーを犯しました。G7の国 際協約を破るくらい、日本政府は「追い込まれていた」のです。 【150円の円安と、日本の物価】 介入の原因は、1ドル150円の円安は、前年比40%台の輸入物価を60% に上げ、消費者物価を米国に近い6%や7%上げることになるからです。 世帯所得が増えていない日本で、物価が6%も上がると、生活は悲惨 になり、政府への非難が高まります。 日本では40年も物価が上がらなかった、むしろ下がってきたので、イ ンフレによる国民の生活水準の低下と、そこから自然に生まれる「打 倒インフレ=打倒政府」になる動きの怖さを忘れています。 岸田首相と官僚は、30%台から20%台に下がり続ける支持率からのそ れを感じたのでしょう。不支持層は、固定的な支持層の2倍になって います。普通の神経では首相を続けられない。酒豪でも名高い岸田首 相の肩には、不眠または度重なる深夜の飲酒のためか、TVでも分かる フケが落ちていました。 首相は、孤独な立場という。野田元首相が、国葬の場で述べていたこ とです。企業の経営者を含み、トップは孤独な職業です。自分の決定 が、組織の決定になるからです。 ◎このとき、日銀の黒田総裁は、約10年の、経済成長(世帯の実質所 得の成長)に寄与しなかった異次元緩和をやめ、利上げに向かうとい う決定を迫られたと見ています。 円安は、年間100兆円の輸入物価を更に上げ、店頭物価に波及するか らです。円安で輸入の肉と魚介、穀物と納豆、うどん、ソバ、油脂、 調味料が更に上がるといった、米国にはない現象です。 異次元緩和のマネーは、世帯と企業が利用すれば。ゼロ金利の借り入 れになる負債です。ところが、世帯と企業の、GDP(=生産される 商品の付加価値=所得)の期待成長率は、1%程度と低い。借り入れ を増やし、設備投資と住宅購入をする、あるいは株を買うというイン センティブが働かなかった。消費者ローンもさほど増えなかったので す。 【ドル買いマネーになっていた円】 逆に、ゼロ金利の円を嫌って、海外に1年20兆円、3%の金利がつくド ル国債買い、上がっていたドル株買いとして、逃げるだけでした(キ ャピタルフライトの一種)。日本政府がもっとも恐れているのは「円 のキャピタルフライト」であり、国民が円預金で外貨を買うことです。 マネー・エクソダス(通貨の国外逃亡)とも言う。 海外の投資家は、ゼロからマイナス金利の円を借りて、金利がつくド ル債に投資する「キャリートレード」で、濡れ手に粟の安易な利益を 得ていました。円は、約10年、世界の低金利をひっぱる資金源になっ ていたのです。 2013年からの銀行、生損保、政府系金融、年金基金での、ドル債の増 加は、ドル価格を上げるドル買いです。ドル債に対しては、日本のゼ ロ金利マネーによるドル買いが、米国の国債の金利が実勢より低くな るアンカー(船のイカリ)になっていたのです。 ■7.日銀の12.19利上げ ◎黒田総裁は、1ドル150円の円安を恐怖した岸田首相によって、威厳 緩和の停止と利上げを決めたのでしょう。これは、間接的ですが禁じ 手の為替介入になるので、米国には言えない。 米国は、輸入物価を高騰させないドル高を期待し、ドル買いが増える、 円金利0%の継続を望んでいるからです。 ◎「円高にもっていく目的で、利上げをする」と、黒田総裁は、国際 的には言えない。このため、10年債の金利上限0.5%と言い、論理的 ではないウソをついたのでしょう。人には、「人のため」という名目 が立つと、ウソを言っても自責の念はない。 12.19会見の直後には、 ・ドル/円は137円から131円まで6円(4.4%)、急騰しました。 ・円の長期金利が2022年に0.5%、2023年5月から0.75%と上がってい くと、1ドルは、115円に回帰していくでしょう。 1%に金利を上げることは日本にはできない。1200兆円の国債が5.6% 下がって、金融機関に67兆円の損が出て、日銀は完全に債務超過にな り、70%くらいの銀行は赤字がなるからです。 ↓ そうなると、含み損出た国債はもっと売られ、金利は2%、3%と上が って行き、引き受け手がなくなった国債を、1%の低い金利で発行で きなくなる政府財政は、破産するからです。既発国債がGDPの230 %ある日本経済にとって、0.75%の金利が最上限でしょう。 【物価への影響】 輸入物価の上昇も30%台に下がり、円安で上がっていた消費者物価で は1ポイントくらい下がっていくでしょう(2023年の5月)。 【世界の金利への影響】 世界の金利は、円という10年間のゼロ金利アンカーを、失いました。 米国の長期国債の価格は下がり、現在3.6%の米国長期金利(10年債 の金利)は、4.6%に向かって上がっていくと見ています(2023年)。 日銀の12.19利上げは、わずか0.25ポイント(10年債0.25%→0.5%) ですが、10年ゼロ金利の体制だったので、 1)次期総裁による、異次元緩和の停止(2023年5月)と、 2)0.75%への利上げの道筋がついたことにより、大きな事件になるの です。 金融機関は、円国債を、23年5月までに、利上げの損を引きうける日 銀に売っておかねばならない。自行が国債の下落による損をしないた めです。 【金利0.75%のときの、円国債の保有損】 10年債の金利が0.75%に上がると、1200兆円の国債(平均残存期間8 年)は、「1200×(1+0.25%×8年)÷(1+0.75%×8年)=1200×1. 02÷1.06=1155兆円」・・・45兆円という巨大損が国債をもつ金融機 関に出るからです。 国債の50%をもつ日銀は、22.5兆円の損をします。 このようにゼロ金利の異次元緩和から、扉を1/3くらい開けた利上げ (出口政策)であっても、10年間のゼロ金利の変化は、日本の全分野 と世界に大きな影響を及ぼします。 【圧縮した後記】 「日銀の小さな利上げが、影響は世界に、広範囲に及ぶ大きな利上 げ」になっていきます。金融マニアックにも見えるかもしれない本稿 を書いた理由がこれです。 2023年の日本と世界経済は、とても残念ですが、ゼロ金利によるレバ レッジ金融バブルの崩壊の影響が、あちこちに及んで、不況に向かう でしょう。負債が300兆ドルとイメージができないくらい大きくなっ てしまった世界経済にとって。日銀のわずかな利上げは、大きな波及 効果をもたらすからです。 米国と西欧では、 1)レバレッジ投資に組み込んでいたゼロ金利の円(世界の金利のア ンカー)がなくなった、 2)今後、日本がゼロ金利に戻ることはないといって、国債と債券価 格の変動を示す「地震計(チャート)」を見ているかのようです。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【読者アンケート&感想の、項目のメド】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は、進みましたか? 3.疑問な点は、ありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲で、横顔情報があると、テーマ設定と記述の際的 確に書くための、参考になります。 気軽に送信してください。感想は、励みと参考になり、うれしく読ん でいます。質問やご要望には、可能なかぎり回答をするか、あとの記 事・論考に反映させるよう努めます。返事や回答ができないときも全 部を読み、頭にいれています。読者の率直な感想・意見・疑問・質問 は、考えを広げるのに役立ちます。 著者のメールアドレス:yoshida@cool-knowledge.com 購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール(↓)。 配送の管理は、著者ではなく配信サイトの「まぐまぐ」が行っていま す。著者は、どこに配信されたか、分からない仕組みです。 reader_yuryo@mag2.com ■1. 新規登録は、最初、無料お試しです(1か月分)。その後の解除 は自由です。2か月目から、消費税込みで660円が課金されます。 (1)『会員登録』で支払い方法とパスワードを決めたあと、 (2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、 (3)その後、『購読マガジンの登録』という、安全のための2段階の 手順です。 【↓まぐまぐへの会員登録と解除の、方法の説明】 http://www.mag2.com/howtouse.html#RSegist 登録または解除は、ご自分でお願いします。 著者は、登録、解除を行うことができません。 (有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html ■2.購読に関する問い合わせ窓口 (まぐまぐの事務局がメールで対応します)。 http://help.mag2.com/contact.html ・・・以上 ~~~ ◎このメルマガに返信すると発行者さんにメッセージを届けられます ※発行者さんに届く内容は、メッセージ、メールアドレスです ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 の配信停止はこちら ⇒ https://www.mag2.com/m/0000048497.html?l=hpt0a0092e |