英国の通貨ポンドで始まった、通貨への不信任
This is my site Written by admin on 2022年10月23日 – 12:00
リズ・トラス英国首相が、就任後45日で辞任を表明しました。
内閣の支持率は7%、不支持が11倍の77%でした。歴史上、最短の内
閣という。

岸田首相支持率も、危険水域の20%台に急落しています。英国の内閣
支持率7%は壊滅的でした。内閣支持率ではほぼ30%台から、政策の
立案と実行の困難をかかえます。

有効な政策が実行できない内閣は、無能であり無効です。これが、西
側世界に共通しています。TV中継で予算委員会の論戦の低いレベル
を見ると暗澹とします。株主総会がまだマシでしょう。米国の議会も
同じです

【テーマ】
本稿は<通貨への信認の低下とは、中央銀行の信用低下を市場が認識
することである>というテーマです。2022年9月、10月に現れた英国
ポンドと英国債の暴落の、原理的なところを追求して、明らかにして
いきます。

1)インフレのときは、不況にする金融引き締めをしなれればならな
い。インフレのなかでは需要を抑制しないと、物価は下がらない。

2)インフレのなかで、需要を減らさないため低金利と金融緩和を続
けると、代わりに国債と通貨が暴落します。

根底で「価値(=商品購買力)が下がる通貨への信認の低下」が起こ
るからです。

【英国債とポンドの下落】
米国との金利差から、英国債の価格低下、金利上昇、ポンド安が置起
こっています。今回のポンド安は、英国の金利が米国に近づいて上が
ると、解消するものではない。(注)円安は、日銀が利上げすれば解
消に向かうでしょう・・・

◎根底で「英国の通貨ポンドへの信認の低下」が起こっているからで
す。通貨への信認の低下とは、金融機関が、自国通貨の先行きに暴落
の不安をかかえているということです。国民は、まだ理解していない。
金融機関から起こるのが、通貨への信用の変化です。

日本円も英国と同じ要因で、円安になっています。しかしまだ「円へ
の信認の低下には至っていない」。理由は、40年間の累積で411兆円
の対外純資産(=対外資産1249兆円-対外負債838兆円)あるからです。

日本は1980年代ら40年、毎年30兆円平均でドル買い(円売り)をして
きたからです。いざとなれば、ドルを売るストックになる純資産はあ
ります。

一方で英国は、日本とは逆の、80兆円の対外純債務国です。
売ることのできる純資産はない。
このため、英ポンドへの不信任が高まってきたのでしょう。
(注)対外純資産が大きい国は、1)米国、2)英国です。

両国は、海外が自国通貨(または国債)を買ってくれるという前提で、
低い金利の金融と経済を、成り立たせてきました。ドルとポンドを買
ってきたのは1990年代までは、経常収支が黒字の日本とドイツと産油
国、2000年代は日本、中国、ドイツ、産油国です。40年の累積では、
日本のドル買いは1249兆円もあり世界1です。

本文の20ページを、15ページに圧縮しました。
増刊として有料版・無料版に共通とします。

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 <Vol.1277号増刊:英ポンドから始まった
                  通貨への信認の低下>
    2022年10月23日:有料版・無料版共通 

【目次】
■1.補足情報:政策の基本的な性格=政府政策で隠れたこと
■2.英国年金基金が破産寸前になったのは、
      通貨(ポンド)への信認の低下が、原因である
■3.円への信認が世界1厚い日本人だが・・・
■4.政府債務を証券化したものが、金融資産とされる国債である。
■5.2022年9月と10月の、英国の事例
■6.まず英国ポンドへの信認が失われた(2022年9月~)
■7.そのときの、英国の金融
■8.2023年1月の英国インフレ予想は18.6%
■9.経常収支の赤字国と黒字国の違い
■10.後記・・・BOEの国債買い

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■1.補足情報:政策の基本的な性格=政府政策で隠れたこと

国民の支持が低いと政策は実行できない。政治的な経済政策の裏にあ
るのは、「多数派から少数派への所得の移転」だからです。

政権与党が、少数派のエスタブリッシュメント(約20%)から多数派
(約80%)の国民への逆所得移転の政策を実行することはマレです。
金融課税の20%、高額所得税の減税、消費税、マネー供給を見れば明
からでしょう。

2000年代の所得格差は、年々ひどくなってきました。『20世紀の資
本』でトマ・ピケティが、「資本の利益>所得=格差の拡大」として
示したことがこれです。

GDP(=企業所得+世帯所得+減価償却費)の伸び率が低下し、
「高所得者保護、低所得者からの隠然とした搾取」が現れるようにな
ってきました。

とりわけ2000年代に、国民の政治への期待が低下したのは、このため
です(世界的な投票率の低下)。世界の関心をよぶ米国大統領選挙は
60%台です。(注)2020年の66%は、民主党の不正が混じる郵便投票
によるものです(推計+5%)。2000年台は50%台でした。

生活の基礎物資のインフレは、70%の平均所得とそれ以下の階層には、
一層きつい。(注)米国株では100年の平均増加が8%/年だった株価
の上昇(≒資本の利益:2200倍)も80%の国民に無関係です。

資本とは株のことです。2000年代に米国で主張された「会社のガバナ
ンス」は株主主権の強化です。内容は、株式の配当を増やすためROE
(自己資本利益率)を高める経営を行って株価を上げることです。

明治の商法以来1994年まで95年間禁止されていた「自社株買い(米国
44兆円:日本8兆円:2022年)」は、流通株を会社が買って減らし、
1株あたりの利益率を高めるための配当増加の政策です。

米国株は、多額の自社株買いにより、25%下がった現在でも30%は高
い水準でしょう。日本では日銀が2021年まで株ETFの買いをしていま
した(累計残高37兆円)。米国では自社株買いです。

2018年からの累計で、4半期平均2000億ドル×4×5年=4兆ドル(580
兆円)という巨額です。自社株買いで買ったものを売ることはないの
で、現在の時価総額40兆ドル(5800兆円:日本の約8.5倍)に組み込
まれています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN160XI0W2A810C2000000/

日本の上場株の、35%の株主である米国資本は、日本企業に自社株買
いの増加を要請します。金融庁もこれを支援。「利益は、社員への還
元と投資より自社買い」に使えという。目的は、株価(株主の金融資
産)を上げることです。

■2.英国年金基金が破産寸前になったのは、
      通貨(ポンド)への信認の低下が、原因である

トラス新首相の政策は、
1)高額所得者(2350万円以上)の減税、
2)財政支出の増加でした。

金融市場は、これに対して、
1)ポンドの売り、
2)英国債の売りで、応えたのです。

減税と赤字財政の拡張は、1)政府の国債の増発と、2)大英銀行
(BOE)が国債を買うことによる、通貨増発になるからです。

日本では、「防衛費を5年で2倍(11兆円)にする。財源は国債発行で
いい」とする論が見られます。

〔日本のリフレ派では〕財政赤字の財源は、国債発行と日銀の通貨増
発をすれば作れるとされています(MMT論)。2013年から500兆円行われ
たのが、この通貨増発でした。

ところが、コロナのパンデミックと重なったウクライナ戦争後の、
11%というインフレ率の英国(22年9月)には、「国債の増発と大英
銀行によるポンドの増発は、財源として有効ではない」という金融市
場の認識があります。これが、「ポンドという通貨への信認の低下」
を示すものです。

「通貨への信認の低下」といっても、意味と内容は、一般にはわかり
にくい。

国債・通貨・銀行預金を信用しなくなった経験は、10歳代にハイ
パー・インフレを経験した90歳以下の世代には、ないからです。

戦後75年、国債、通貨、銀行預金は信用され続けてきました。
通貨への信用とは、政府への信用と、同じ意味です。

(注)敗戦後は、100倍から200倍のハイパー・インフレでした。この
とき戦時国債(GDPの200%)、銀行預金、そして円への国民と世
界からの信用はなかったのです。1週間に7%、円が下がると1年後に
は円の価値は、2.3%になります。物価は43倍です。

こうしたハイパー・インフレは、信用通貨の表示金額が意味を失って、
原材料の紙切れに戻ることです。ドイツは第一次世界大戦後に1兆倍
のインフレを経験しています。

現在もドイツが世界1財政赤字を嫌うのは、この記憶が残っているか
らです。日本は、敗戦後のハイパー・インフレを忘れたように見えま
す。敗戦とも、言わない。公式には、終戦。ドイツは記憶に残しまし
た。蓋をしたのは日本です。

高校の歴史教科書でも、現代史の部分は、3学期の受験前の時期です。
試験には出ないので、教えない。古代から中世にあたる、奈良、平安、
鎌倉、安土桃山、江戸時代と近世の明治維新までは、熱心に教えます。
高校のとき、現代史がないと思っていました。

明治15年(1882年)だった日銀の設立の経緯と目的を知っている人も
いない。政治家が度々(たびたび)言う「歴史が決める」は、記録を
伝えず、今は詮索せず、分析しないという意味です。歴史を残さない
ことです。

■3.円への信認が世界1厚い日本人だが・・・

日本人は、戦後70年、円を外貨より信用しています。その証拠が、国
民の預金はほぼ100%が円建てであることです。海外は物理的・心理
的に遠かった。銀行、海外に工場をもつ企業、政府がドル買って保有
しているに過ぎない。国際化は、憧れの領域でした。ソニーの5番街
のビル(1962年)は、寂れて怪しいビルになっています。

1ドル80円台の円高のとき、円預金を外貨預金または米国債に換え、
円で外貨に買うこと(円売り/外貨買い)は、金融機関や機関投資家
しか、実行しなかった。国民(企業と世帯)は円預金だけあり、その
金額は1697兆円です。(資金循環表:日銀:22年8月末)
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

国民が「円売り/外貨買い」を行わなかったことは、2021年までの円
高の主因です。「円への通貨信認の高さ」を示すことです。この点で
は世界1の国です。外貨を買うことは通貨投機とされてきたのです。
中国では外貨の買いに、政府に許可された貿易額という制限がありま
す。中国人の富裕者は、ホンネでは人民元を信用していないので、規
制をはずすと、元からの逃避が起こるからです。このため、海外送金
が容易な暗号通貨の買いが多い。

【財務省の詭弁と理屈】
現在でも、財務省・日銀は、今回の円安を「円売り/ドル買い」の通
貨投機が原因といっています。ここにも、外貨に対する日本人の基本
的な態度が見えるのです。円への信認は低下していない。投機的な円
売り円安にしたという立論です。

鈴木俊一財務大臣と黒田総裁は昭和文化の日本人です。1990年(平成
の時代)から増えたデリバティブの金融知識が、すり込まれていない。

【600兆ドルのデリバティブ契約】
契約総額が600兆ドル(8京7000兆円:BISの統計)のデリバティブを
抜いた、現代金融論はない。先物、オプション、金利と通貨スワップ、
つまりデリバティブは、投機(スペキュレーション)でしょうか? 
むしろ、変動する金融のリスク回避の動きです。

ただしカウンターパーティ(契約の相手方)には、価格変動のリスク
が溜まります。満期の清算日までは、損失が確定していない簿外負債
であり、表面化していません。飛ばしも多いでしょう。

9月末には、金利が上がり国債価格が下がった英国年金基金で、多額
の追い証が発生しました。

原因は、1980年代中期から38年のゼロから低金利の時代が、高金利に
転換したことです。世界の金融市場は、簿外に、自爆の核爆弾をかか
えています。レバレッジが高い運用をしている英国年金基金が、イン
フレによる予想外の金利上昇から、追い証を払えない危機として表面
化しています(22年9月末)。

【認識】
個人の認識は、社会の「空気(集合知)」に影響を受けます。
主流メディアと大新聞は、世間の空気を誘導する国家的な役割を、担
っています。その証拠に、TVの放送免許については、政府(総務
省)が認許可権をもっています。

財務省は、「今回は投機的円安」として、1ドルが150円になっても
「円への信認が失われたものではない」と訴えています。

投機的な円売りは許さない。このため財務省・日銀が「外為相場介入
する」という論理になっているのです。

輸出入の実需のための、ドル/円の売買の100倍もあるのが外為市場で
す。恒常的に100倍もある外為の売買を「投機的」と片付ける財務省
は、現実を見ていません。

2013年以来の、日銀の500兆円の国債買いを、「(赤字の)財政ファ
イナンスではない」としている日銀と、同じです。ファイナンスとは、
日銀による政府への、円の貸し付けのことです。

■4.政府債務を証券化したものが、金融資産とされる国債である。

日銀による国債買いは、日銀が円を発行し。国債を買う形をとって、
政府に貸すことです。あなたが円国債を100万円買っても、政府に
100万円貸したことになります。国債は政府の負債を示す証券です。

【国債は金融資産】
国債(=政府債務)は市場で売買できるので、国債を買っても金融資
産を買った感覚になり「政府に貸し付けた」という意識はない。

◎負債が証券化され、金融資産として機関投資家の売買が増えたのは、
1994年のビッグバン以降の、世界金融です。負債を金融商品にするこ
とが「証券化」です。米国の住宅ローン負債(1500兆円)も、証券の
MBSとして金融資産になっています。国債は、政府の負債を証券化
したものです。

【資産=負債】
銀行預金を増やすことが、銀行への貸付金の増額であるという認識も
国民にはない。預金は、預ける側にとって、金融資産だからです。

資本主義の簿記の原理では、資産=負債です。B/Sにこれが示され
ています。

複式簿記はユダヤ人(シェークスピアが描いたベニスの商人の時代:
16世紀)が発明した、株主からの出資である株を、資産である資本に
する方法です。これは、借入金を資本にした、資本主義の発祥と関係
しています。

【ベニスの商人】
株を発行して貴族に買ってもらい、そのお金で資産である船を造る。
その帆船で、肉を美味しくたべるための香辛料を、インドと中東で、
買ってくる。西欧ではとれない香辛料は、宝石のように高価でした。
ベネチアに戻り、インドの香辛料を買った価格の数百倍で売って膨大
な利益を出し、利益の一部を、株の配当にする。出資のリスクは、嵐
での難破と海賊でした。

資本もたなかったベニス商人は、嵐と海賊に遭わず船が無事戻って来
ると、莫大な利益を得たのです。

このあとベニスの商人たちは、貴族の金の宝飾品を預かって、出資証
券の紙の預かり証を発行する、もっとも初期の銀行を、作ります。

発行した金の預かり証が、現代の金ETFのような、金担保の為替マ
ネーになっていったのです。重く嵩(かさ)張る金地金の移動は不便
で危険です。マネーは、この「銀行信用」から始まりました。金は通
貨への信認の根源になったものです。現代の中央銀行の、ひな形でし
た。

以上が、幕末の坂本龍馬が幕府を倒す大砲と戦艦を英国から購入のす
るために学んだ、株式会社の発祥です。

薩長が、亀山社中の株主であり、ロスチャイド家の執事のグラバー
(武器商社のジャーディン・マセソン)から、兵器を買う金を出資し
ました。

明治35年からの日英同盟(1902-21)の中身は、ロスチャイルド家が
日本政府にマネー(金本位の英国ポンド)を貸し、英国が兵器を売る
同盟でした。

日露戦争(1904年)はこの日英同盟があったため、日本がロマノフ王
朝のロシアに勝ったのです。ロスチャイド家は、英国政府を通じ、第
二次世界大戦にも関与しています。

日本で最初の株式会社は、坂本龍馬が、妾のお龍さんがいた長崎の遊
郭につくった、亀山社中でした。江戸時代の幕藩体制には、株式会社
はありませんでした。亀山社中が、武器を買うマネーは、薩長からの
出資金(金地金)でした。港を見おろす花壇の丘に、瀟洒な邸が残る
グラバーは、ロスチャイルド家の武器商人でした。

【国債=政府の負債、預金=銀行の負債】
通貨への信認が高いときは、国民には、1)国債を買うこと、2)銀行
預金をすることが、「政府、銀行への貸し付けだ」とする認識はない。
買った国債は今日、市場で売れる。預金は、いつでも100%引き出せ
るからです。

【インフレになったとき、債務の証券化商品は、価格が下がる】
しかし、10年満期の、10年後に返済される国債の金利が2%に上がっ
て、今日売ると額面の100万円が、83万に下がるとしたらどうでしょ
うか? 

(注)額面100万円×(1+0%×10年)÷(1+金利2%×10年)=
100万円×(1÷1.2)=83万円・・・売買市場の国債価格。金利が4%
に上がると、71万円に下がります。

加えて、預金金利がほぼ0%のなかで、英国のように物価が11%上が
ったらどうでしょう。1年後の物価が11%上っても、引き出せる100万
円の預金は100万円の価値でしかない。11万円の損をします。

◎国債、預金への信認が失われるのは、このときです。

■5.2022年9月と10月の、英国の事例

英国では、
1)国債の金利の上昇(=国債の価格下落)と、
2)11%のインフレのなかで、ポンドの下落が起こったのです。

英国のGDP比の国債残は、100%と少ない。
日本はGDP比230%、イタリアは160%です。

この英国で、西側世界で最初に通貨危機(=国債危機)が起こった理
由は、
1)英国金融では、多重レバレッジにより、金利変動に弱いデリバテ
ィブ金融が世界1多いこと、
2)経常収支の赤字(=ポンドの国外流出)がGDP比4.8%と大きく、
常に海外からのポンド買いの超過が必要なためです(1539億ドル:
22兆円相当)。

〔アラート〕たった今、22年9月の日本の物価は、生鮮を除くコア物
価が3.0%上昇したという緊急ニュースが入りました。

22年の1月の物価上昇率は、ほぼ0%でした。ウクライナ戦争後の4月
に2.3%に上がり、今回は3%です。必需の食品は4.3%、電力・ガス
は約20%上がっています。急速なインフレです。

【恐るべき電気代の欧州】
欧州は、この程度ではない。ドイツでは電気・ガス代が年初の5倍、
英国でも5倍です(22年10月)。標準世帯で1か月100ポンド(1万
6660円)が、500ポンド(8.3万円)。日本ではイメージできないくら
い寒い冬の生活では、食品も10.1%上がっているので、命の危機のレ
ベルという。1973年、80年の2度の石油危機を超えています。

世帯の損の分が、エネルギー産業と卸のメジャーの、利益です。世帯
から、エネギー産業に所得が移転するものが、資源インフレです。中
東は、原油40ドル台の時代(2015-2020)より2倍以上豊かになってい
ます。

ロシア産エネルギーの禁輸措置で自滅したのは、西側です。ルーブル
は戦争前の1.6倍に上がっています(1ルーブル2.4円)。米国を離れ、
ロシア側に就いたサウジの通貨レアルは、年初の20円から、10月は
28.6円、43%も上がっています。原油の輸出額が2倍になったからで
す。

サウジは米国の原油増産要求を拒否し、ロシア側になったOPECプラス
も、減産を維持しています。ウクライナ戦争の結果、バイデンの米国
は、世界の石油生産を支配できなくなっています。このため西側のイ
ンフレの原因は強化され、長期化したのです。産油国を敵にしたのは
バイデン失政です。ここを日銀は見ていませんでした。

原油価格2022年6月の120ドルでピークアウトして、下がっていくとし
ていたのです。水素の成分が多く、原油より二酸化炭素の排出量が少
ないので発電に多く使われる天然ガスの価格を決めるのは、原油です。
パイプラインで仕入れていて、液化備蓄にコストがかかって難しい欧
州の天然ガスは、2020年の10倍に高騰しています。
https://pps-net.org/statistics/gas

クリミアとサポロジエ原発、デンマークの北の海底パイプラインのノ
ルドストリーム(水深70m)を爆破したのは、米国側と英国(MI-6)
です。ウクライナの優勢を印象づけ、ロシアを悪者にするための、偽
旗作戦の一環です。ドイツとNATO諸国を困らせ、犯人をロシアとして
世論の反感を抱かせ、ウクライナ戦争への武器供与を強化する糊塗が
目的です。岸田政権と外務省は、これを知っているのか。

バイデンが行うのは、その人格からも来る姑息な戦争です。世界の物
価上昇の原因をロシアに転化したいのです。エネルギーを自給できる
米国資源メジャー(ロックフェラー系資本)にとって、戦争はいつも
利益です。日本の大商社にとっても、卸価格が上がる資源と食品イン
フレは利益です。

戦後の70年、中東において、資源メジャーと軍産共同体が戦争の原因
を作って来ました。「陰謀論」とされることの一環です。資源メジ
ャーとウォール街の金融資本(銀行)を背景にして、米国が過去200
年、2.5年一回起こしてきた大小の戦争は、毎回が、原因を他に転嫁
する陰謀です。

国際金融資本の利益である「ドル基軸体制」の維持のため、FRBの
ドル増刷に比例して価格が上がるのが自然な「金価格のコントロー
ル」を金ETFを使って行っているのも彼らです。信用通貨の増発は、
モルトを水で割って薄めていくことです。年間5%の増刷により、明
治維新以来の150年で1/1500に薄まっています。150年前は1グラム1ド
ルだった金価格は現在、1グラムでは53ドルです(22年10月)。1株1
ドル付近だった米国株価は100年で2199倍です(1年に8%の指数関数
=1.08の100乗=2199倍)。

(注)コントロールが外れれば、金価格はドルに対してあと30倍高騰
する余地があるでしょう。
ただし資源価格と同じように、貴金属の価格もコントロールされてい
ます。コントロールは続くので、長期的に今価格の7倍か?(イラン
革命の1980年の金価格高騰の事例:1オンス120ドル(1976年平均価
格)→850ドル(1980年最高値):7倍)
(田中貴金属:1オンス(31.1g)のドル建て価格:1976-2021)
https://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/y-gold.php

原理的には、金と資源の価値は、変わっていない。輸入国の通貨が増
刷されて下落したのです。今回は、西側の通貨1単位の価値下落が招
いた、資源インフレです。

【日本の利上げ臨界点は、コア物価+3%】
コア物価のインフレ率が3%になると、日銀は利上げを迫られます
(利上げは0.25%が可能な上限でしょう)。少しでも利上げをしない
と、通貨価値が下がる円への信認が失われ、1日60兆円の東京外為市
場では円売りが増え、150円以上の円安に向かいます。
(注)世界では、東京市場(外為銀行の店頭)の3倍の180兆円/日の、
円と外貨の売買があります。

2022年9月のコア物価が3%の上昇なら、円安効果が加わって、輸入物
価の高騰(50%)が、店頭物価に徐々に反映していく2023年の3月の
コア物価は、4%から5%でしょう。日本の来年は、明確なインフレで
す。

米国のインフレに近づきます。インフレの中では、金利0%の通貨は、
信認が失われて下がって行きます。

「円安→3か月後の物価上昇→円安→3か月後の物価上昇・・・」のサ
イクルにはいっていくからです。

■6.まず英国ポンドへの信認が、失われた(2022年9月~)

金融政策と財政政策を決めるのは、中央銀行に命令ができる首相、ま
たは、大統領です。株式会社であっても中央銀行は、政府が総裁と理
事を決めるので、政府から独立していません。幹部人事では、子会社
です。このため、首相、大統領の人材価値も、国債と通貨の信用に関
係します。

新任のトラス首相が掲げた、「10%を超えるインフレの中の減税と財
政支出の拡大」に対して、金融市場は「財源がない」として英国債を
売り(金利を上げ)、英国ポンドを売りました(ポンド安)。

◎金融市場は、大英銀行による国債の買いは、政府の財源にならない
としていたのです。(注)日本円はまだここまでは行っていません。

1)英国は、国の利益に相当する経常収支が、38年間も続けて赤字で
あり(GDP比-4.8%:1539億ドル:2022年)、
2)同期間の黒字の日本とは逆に、対外純負債しかなく、
 常に海外からのポンド買いの超過が必要だからです。
 ポンド買いが減ると、ポンドは暴落します。

経常収支の赤字の2大国が、1)米国、2)英国です。両国は、借金国
家です。
https://ecodb.net/country/GB/imf_bca.html

トラス首相は、市場の逆風に対して、減税と財政支出の公約を撤回し
て、財務大臣を罷免し、内務大臣も解職しました。

しかし英国民と金融市場は納得せず、内閣の支持率は7%に下がり、
不支持が77%に急増しました(22年10月初旬)。さすがに77%という
不支持では、内閣を持ちこたえることはできない。

【世界的な、政治家の人材難】
新首相は、就任後45日で、辞任を表明したのです(10月21日)。次の
候補には、45日前にスキャンダルで辞任したジョンソン氏があがるく
らいの喜劇的ドタバタ劇。

英国にも「政治家」がいない。日本にも、人材はいない。弁舌が商社
の課長クラスの岸田首相は、器ではなかった。時折、認知症が現れる
オバマの子分だったバイデンは、人材か? プーチンとは1:1では全
く対抗できない。今はまだ、ウクライナ戦争の最中です。

西側は、二世、三世の政治家(相続政治家)だらけです。歴代がため
た政治資金の相続は、無税なのはご存知ですか? 政治家に必要な地
盤(支持組織)・看板(血筋)・カバン(お金)は、無税で相続され
ますが見識は相続できない。名が知られたタレントまたは高級官僚し
か、横からは参入ができないのが政治です。

これが西側諸国の劣化の、大きな原因です。政府の財政は、GDPの
50%から60%を占めるからです。

政治には、「売り家と唐様で書く三代目」のように、留学(内容は遊
学)したと称して、劣化していく構造が組み込まれています。
教育を事業(売上)とする米国の多くの大学は、お金で入学ができま
す。

授業料は私立大学なら1年に500万円、生活費が500万円、1人に1000万
円/年の送金が必要です。普通の家庭では、子弟を留学させることは
できない。高級官僚は、米国に公費留学をします。

政治家族の二世、三世は多くが留学しています。見識の無い政治家が
誕生する根がこれです。選挙ポスターの経歴を読んでみてください。
小池東京都知事も、カイロ大学を首席で卒業したという怪しい経歴で
す(ウソが暴かれています。『女帝小池百合子』)。

■7.そのときの、英国の金融

英国でこの2か月、経済・金融で起こったことを、整理します。いず
れも、英国ポンドへの、信認の低下の結果です。

1)10年債の金利が4.5%に上がった。1か月前の8月には2%だった。
英国債之市場価格は、(1+2%×10年)÷(1+4.5%×10年)=1.
20÷1.45≒83%・・・・1か月で17%も暴落した。英国債の売り(=
国債の不信任)が増えたからです。

2)2022年1月には、1ポンドが1.35ドルだったが、10月には1.12ポン
ドへと、17%下がった。

(注)円も、ポンドと同じように下がったので、ポンド/円では、ポ
ンドの下落が見えません。日本からは、2022年、1ポンド160円台を続
けているようにしか見えないのです。

これは預金通貨のポンドで、ドルが買われたこと、つまりポンドのブ
レグジットが起こったことを示しています。

以上の2点は、「11%のインフレの中で、国民が、大英銀行(BOE)が発
行するポンドへ信認を低下させた」糊塗を示すでしょう。

◎通常期の金利上昇と通貨下落とは、速度と規模が違います。

このため、英国政界に、敗戦後のような「ドタバタ劇」が起こってい
るのです。国庫の破産が、懸念されるからです。

敗戦後の政府は、戦争で拡張した財政が維持できないため、短期で後
退を繰り返します。今回は、コロナ戦争とウクライナ戦争が重なった
あとの2桁インフレです。金融とエネルギー資源では、敗戦後と同じ
状況です。

■8.2023年1月の英国インフレ予想は18.6%

◎英国の2023年1月のインフレ予想は、18.6%と極めて高い。
大英銀行と米国金融筋(シティバンクなど)の、一致した予想がこれ
です(22年9月は11%)。

18.6%のインフレに対しては、国債金利は10%を目指して、上がらね
ばならない。価格は、1.2÷2.0=60%・・・40%下落します。
↓
これが2023年の英国金融の予想含み損ですが、これは金融危機以上で
す。英国発の、2倍、3倍のリーマン危機になります。

価値を下げるポンドは、ますます売られて、暴落するでしょう。

通貨の信認が失われるということは、以上のように、
・金利の高騰、
・通貨の暴落が起こることです。
英国債とポンド預金をもつことが、危険になったからです。

幸い、インフレが3%の円は、まだここまでは行っていません。貿易
赤字は18兆円になっても対外資産からの対外所得が20兆円と多く、経
常収支は、まだ赤字になっていないからです。

国債と英国金融が回復するのは、二桁のインフレ率が低下し、金利が
下がったときでしか、ありえないのです。いつになるでしょう。
2024年か。

■9.経常収支の赤字国と黒字国の違い

経常収支=貿易収支+所得収支・・・英国と米国のような経常収支の
赤字は、海外からのポンド買い、ドル買いが必要なことを示します。

円安が160円、170円に進み、輸入物価が昨年比でd1.7倍に上がって輸
入代金の支払いが増えると、日本も、経常収支が赤字になります。

英国のポンドのように、円への信認が低下するのは、経常収支が赤字
になったときです。

インフレ率でいえば4.5%以上(現在3%)、金利では1.5%以上(現
在は0.25%)になる予想のときが、日本が英国になる臨界点でしょう。

■10.後記:BOEの国債買い

米国ドルへの信認がまだ低下していないのは、経常収支の赤字が1兆
ドルでも金利の高い基軸通貨として海外からのドル買いとドル国債の
買いがあるからです。輸入には、基軸通貨であるドルの支払いが必要
だからです。

ドルの周辺通貨であるポンドと円には「基軸通貨」という条件がない。
海外は、いくらでもポンド売り、円売りができます。

大英銀行(BOE)が行った、年金基金救済のための緊急の国債買いは、
10月14日に停止しました。2桁のインフレのなかでは、金融緩和(利
下げと通貨増発)ができないからです。

BOEは、9月の英国年金基金に続く、もっと大きな金融危機を避けるた
め、今後、追加の買いを100億ポンド/日(1.6兆円/日:1か月続けば
32兆円)としてはいますが、これが実行できるでしょうか。

短期での、介入ショックの上昇はあっても、トレンドになったポンド
安が更に進み、BOEの通貨増発の効果はないからです。

11%インフレの英国には、「通貨増発=金融緩和」は自滅の行為です。

インフレの中では、逆の、金利が上がって金融危機も引き起こし、需
要を減らし、失業を増やす「金融引き締め」をしなればならない。

中央銀行が国債を買って、通貨を増発し続けるMMTが有効なのは、物
価上昇が0%台のときです。インフレのとき行うと、通貨を大きく下
げる副作用が出ます(英国と日本)。
(BOEの国債買い↓)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/10/6d4f6d45bc201d19.html

ポンドの上昇と利下げ効果のない通貨増発は、ますますポンドを下げ、
英国のインフレ率を上げます。1997年の、アジア通貨危機のように、
ポンドへの信認が失われるからです。

通貨の信認低下に対しては、金融引き締めのデフレ策をとらねばなら
ない。

ところがインフレの中で、政府が財政支出を拡大し、BOEが金融緩和
策(=国債の買い=ポンドの増発)をとる英国は、外為部分で間違っ
た理論のMMTに幻惑された国家のように見えるのです。

不況対策に対するケインズ(元財務官僚:1933年『一般理論』)も、
要は、国債の増発でしたから、MMTの素地があったのか。インフレ型
の不況には、国債と通貨の増発は、逆効果でしょう。

ただしケインズの国債発行は、国内経済の貯蓄が超過し、それを借り
て行う投資が十分ではなく、需要(消費+投資)が不足する不況のと
きでした。政府が国債を発行した貯蓄を吸収して、拡張財政で需要を
作ることによって、不況と失業は低下するというマクロ経済の理論を
作ったのです。

しかしインフレは、貯蓄の多さによる需要不足の不況ではなく、逆に
需要の多さ、つまり価格が上がっても需要が減らない好況から生じま
す。

インフレのとき、財政を拡張し国債を発行して、中央銀行が国債を買
って金融緩和することは、間違いです。ところが英国は、これを行っ
て来ました。このため、結局、英ポンドと国債への信認が低下したの
です。

【日本】
日銀も、インフレに対して金融引き締めはしていません。逆に、長期
金利を0.25%以下に抑える、国債買い(金融緩和)をしています。
(注)イールドカーブ・コントロールという。

利上げのできない円への信認が失われ、外為市場では円が売られ、
151円に達する円安になっています。日本でも、2023年にインフレ率
が4%以上に上がると、英国と同じことが起こるでしょう。(注)日
銀の2023年のコア物価予想1.2%~1.5%、2024年1.1%~1.5%は明確
な誤りです。2022年の、2.3%すら1ポイントは低い。職員、一体何の
分析をしているのか。
(日銀の金融政策の基礎になる展望リポート:内容はひどい)
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2207b.pdf

現在コア物価が3%です。国債の危機になるコア物価4%まで、あと1
%しかない。

(注)10月22日(土)は、日銀の介入により売買が少ない深夜のわず
か1時間で、5円急騰し146円。ただし、この円高は、一時的なもので
しょう。現在は147.68円です(10月22日午前9時)。

リズ・トラス首相の超短期の異例な辞任と支持率7%を、岸田政権は
「他山の石」とすべきです。英国のつまらない言行、誤りや失敗など
も、自分を磨く助けとなるといった意味です。

これから国債の危機が起こるイタリアでは、メローニ首相が誕生しま
したが、トラスに似て短命でしょう。

◎レーニンが120年前に言ったように、国民の生活苦を生むインフレ
は、財政赤字の現代国家(=国債依存の財政)を破壊します。その前
段階が首長の短命と交替です。

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