コロナショックのあとのチャンスはあるのか(前編)
This is my site Written by admin on 2020年4月2日 – 17:00
桜の4月ですが、外出控えが続いています。閉じ籠もりから「コロナ
鬱」も広がっているので、不遜に見えるかもしれませんが、底値買い
による資産作りの好機になるのはいつかと、明るく考えることを書き
ます。有料版として送ってものを、若干の変更を施して、前編、後編
にわけて送ります。

ギリシア語の危機、Krisis(複数形)を思い起こします。分岐点での
「選択と決定」という意味。危機は一面、好機でもあります。言語は
その民族の思想を表します。

人は社会を作り、言語によるコミュニケ─ションと他人への共感や反
発で生きています。資本主義経済の、B/S(貸借対照表)による事業
利益の表象が株価です。株価は、将来純益の表現です。

【コップの水のアナロジー】
70%に減って、今も減っているコップの水を見て、二つの態度をとる
ことができます。

人間は、対象をまずカメラのように認識しますが、その認識に頭脳で
の評価が入ります。評価とは(1)もっと減っていく。(2)更に減れ
ば、再び満たす余地が大きくなるという、物理的には見えない考えで
す。

多数派は、近い記憶バイアス(履歴効果)から、(1)の態度でしょ
う。少数の人が(2)のように未来を想定し、買いの好機を待ってい
ます。事実、一部の投資家は、大底を、伏せたライオンのように狙っ
ています。

【美人をあてるゲーム:集合知】
「株式投資は美人投票だ」と断じたのは、自身が投資家であったケイ
ンズです(『一般理論』)。自分の考えではなく、多くの人が美人と
思う人に投票しなければ勝てない。

投資家の集合知が、日々の価格を決めている株での、真理です。自分
の分析より、投資家集合である市場の心理を、読まなければならない。

◎投資で成功するには、自分の考えや独自の予想ではなく、他の投資
家の心理を推察しなければならない。定価がない株は、多数派の投資
家の売買に沿った価格をつけるからです。

【米国では待機マネーが400兆円】
米国では、「底値を狙う投資・投機マネー」が、巨額な流動性をもっ
て控えているという報告があります。

〔400兆円のMRF〕 下げる株を売って入った現金がMRF(マネー・リ
ザーブ・ファンド:国債や債券の安全資産で運用される投資信託)と
して、400兆円に膨らんでいます。

MMF(投資信託であるマネー・マーケット・ファンド)と同じように、
日本の預金のようなものです。底値の好機に、株買いのマネーになる
という。

1バ-レル60ドルから、1/3の20ドル台に下がっている原油でも、年末
には70ドルに高騰するという、逆の見方もあります。

現在107円の「ドル/円」は、100円以下に下がるとしている人も多い
(円高)。

一躍、株を売った投資家から注目されている金価格については、換金
売りによる短期下落はあっても、2020年は上げるという見方でほぼ一
致しています。実は金現物は、買いが増えて、世界中の貴金属商の在
庫が枯渇しています。地金の受け渡しが不能になっている金販売店も
多い。なお、大口の売買が多い金ETF(金と同じ価格であることが保証
された上場証券)や先物はいくらでも売ってくれます。

価格変動が本質である相場商品についての、投資家の見解の一致は、
上げるときも下げるときも、行き過ぎを生み、長期的には好ましいこ
とではないのですが・・・出張と外出がないので、早く送ることがで
きます。
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<428号:コロナショックのあとのチャンスはあるのか(前編)>
          2020年4月2日:無料版

【目次:前編】
1.米国株のバブルの原因
2.収束に1年以上と見ている人が75%:日本
3.今回の要素(1):4週で30%という下落速度の速さ
4.リーマン危機のときの株価を振り返ると
5.今回は、直前のGDPの減少が大きかった(日本)
6.今回の要素(2):政府の財政支出の大きさと、中央銀行のマ
  ネー供給の増加の大きさ
7.ただし回復期の反騰のレベルへの異論はある(スタグフレー
  ション論)
【後記】

【目次:後編予告】
8.株価が下がりきった「大底」とは何か
9.日米の株価の大底は、いつの時期か
10.コロナショックの長期化を見込んだ大底と株価
11.日銀の株ETFの買い:1回2000億円の意味
12.2020年末の、NYダウと日経平均
11.後記:新刊が出ました

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■1.米国株のバブル(←自社株買い5.5兆ドル+トランプ減税)

▼米国株の価格の30%部分は、
       5.5兆ドルの自社株買いから来ていた

【FRBの超金融緩和の中での、自社株買い】
FRBが、リーマン危機のあと、量的緩和の第二弾(QE2:6000億ドル:
66兆円:2010年11月~11年6月)を行っていた2011年から、米国企業
の「自社株買い」が始まっています。

〔自社株買いの原資〕留保利益から、または多くは、ゼロ%に近い低
金利の社債を発行し、調達した現金で自社株を買って、流通株を減ら
し、評価指標であるEPS(税引き後の純益÷流通株数)を上げ、投資
家に買いを促して、株価を上げることが目的です。

米国の経営者は、株価が上がると報酬が巨大になるオプション株を受
けとっています。カルロス・ゴーン氏も、金額が小さかった一例です。
世界の経営者報酬では、10億円は小さい部類です。

(1)5.5兆ドルの自社株買い
2011年から2019年の9年間で、S&P500社は、5.5兆ドル(600兆円)と
いう巨大な自社株買いを行っています。これが、米国の株価を30%は
上げ、経営者報酬を数十億円~100億円台にしたものでした。

米国の経営層が陥った「強欲の資本主義」。不動産バブルも、株高か
ら起こったものです。

(2)法人税の減税が40%(2017年~)
加えてトランプ大統領は、就任後の2017年から、法人税を35%から
21%へと、40%減税しました。同じ利益でも、税後純益は増えて、企
業のEPSを上げる要素になったのです。

この2つの要素から、
・米国株の総時価は3800兆円という空前の規模に膨らみ(NYSE+ナス
ダック:世界の時価総額の50%)、
・NYダウは2万9550ドルをピークとしていました(20年2月初旬)。

▼自社株買いと減税での株価バブル

米国株の価格の40%部分は、自社株買い(5.5兆ドル)と法人税額で
40%の減税バブルによるものだったでしょう。

上場企業の純益が同じであっても、二つの要素で、EPS(1株当たりの
税後利益)は上昇していたのです。一般に、1株当たり純益が10%上
がると、株の買いが増えて10%は上がります(PERは同じです)。

実際の純益の増加より、自社株買いと減税で大きく上がったEPSの上
昇を示し、証券アナリストは、「米国は好況であり、企業利益は好
調」としていました。犬(実体経済)が、尻尾(株価)を大きく振っ
ているから、犬は元気だと見立てるようなことでした。

【20年3月の株価下落】
3週間でマイナス30%という、短い時間での急落は、NYダウ2万9000ド
ルが、「自社株買い+特例のトランプ減税」が生んだバブル株価だっ
たからです。

日経平均、欧州株、新興国株は、米国株の上昇と下落に比例します
(資本の自由化をしていない中国株が例外)。日本では、東証の売買
の70%を「米国+欧州系のヘッジファンド+GPIFのような年金ファン
ド」、つまり外人売買が占めるからです。新聞では投機筋とされるこ
ともあります(ただし投機の定義はアイマイです)。

リーマン危機のあと12年、政府・中央銀行が人為的に作ってきた株価
バブル(40%の過剰価格)が、3週間という史上最短で30%下げた原
因を作ったものです(3月16日まで)。

◎新型コロナの長期化から、30%下落では止まらないでしょう。
2番底、3番底まであると思っています。
(1)大底は、いつ、いくらか。
(2)回復は、短期か、長期か。
(3)価格はどこまで回復するかを検討するのが、本稿の目的です。

【2020年の自社株買いは、難しくなった】
4月からの2020年会計年度では、株価が下がるときの自社株買いは、
実行が困難になります。わが国の2019年の自社株買いは7.5兆円に増
えて、日経平均でいえば15%は上げていたでしょう。

株価が下がると、既発社債も下がって金利が上がり、新規発行は難し
くなります。留保利益で自社株買いをしても、その後株価が下がると
会社のB/Sは、悪化するからです。

【SBSの奇策】
株価が50%下がって危機的になったSBG(ソフトバンクグループ:持ち
株会社)が、最後の策として、4.5兆円分の持ち株の資産を売って、2
兆円の自社株買いを行うという「タコは自分の足を食べても太れると
いう幻覚」を投資家に振りまいています。SBGのB/Sを悪化させる行為
です。

■2.収束に1年以上と見ている人が75%:日本

【世論】
世論調査では、1年くらい長期化するというひとが54%、2年以上と見
ている人が21%でした(日経新聞3月30日)。半年くらいと答えたの
は、20%と少ない。つまり6か月の短期収束と見るのは、5人に1人と
いう少数派です。

欧州と米国の爆発的感染を見ているからでしょう。安倍首相も「長期
的な戦い」と言っています。一般には長期は1年以上です。1年以内が、
金融と会計の規定での短期です。金融・会計の言葉は数値的でなけれ
ばならない。

【中国での新規感染の減少】
爆発的な感染なら、集団免疫効果が生じ、収束は中国のように、約4
か月と短期化するでしょう。これは、中国が本当の情報を出している
と仮定でのものです。(注)トランプ大統領に「中国は感染数・死者
数を隠蔽」という米国調査機関の報告書が届いたようですが、その内
容は不明です(4月2日:ブルムバーグ)。感染数は、公式発表の10倍
の80万人かもしれません。

死者数も隠している可能性は、高い。しかし、各都市で感染爆発して
いる時に、終息とは、情報も封鎖している独裁政府でも言えません。
周囲でバタバタ倒れている都市で、猛烈な反発が起こるからです。

中国については、わからないことが多い。しかし、終息はしていなく
ても、4億人の封鎖をしたことが、新規確認感染数の減少になってい
ることは確かでしょう。ウイルスでは人間の移動が、感染の媒介にな
るからです。

【集団免疫の効果】
WHO(世界保健機構)によれば、50%~70%の人が、無症状を含んで
抗体ができ、ワクチンを接種したあとのように感染の「基礎再生産
数」が1人を割って、爆発的な感染から5週くらいで収束していくこと
が集団免疫です(1人が何人にうつすかという平均)。

〔基礎再生産数0.7〕 1人がうつす平均が1週間で0.7人に下がると、
5週後の新規感染は「0.7の5乗=0.168倍=16.8%」に減っていきます。
5週前に1万人だった新規感染が、1680人に減ります。こうして、社会
的なコロナショックは、逆指数関数で収束に向かっていきます。

〔基礎再生産数2.0の時期〕 基礎再生産数が1人以上のとき、例えば
2人の期間と地域では、逆に、5週後の新規感染が「2の5乗=32倍」に
増えます。指数関数的な爆発です。1日1000人だった新規感染が、5週
後には3.2万人に増えていき、急峻なピークに向かいます。

〔人間の、ウイルスとの戦いとは〕 
・人の移動、密集、接触を制限(または禁止)することと、
・かかる前に人体に抗体を作るワクチンの開発をして、
 基礎再生産数を、減らすことがウイルスとの戦いです。

有効なワクチンの接種は、医薬で人為的に集団免疫をつくることです。

ワクチンが利用可能になる時期については、諸説があります。治験が
あるので、早くて1年後から、妥当な時期は1.5年後からとされていま
す。新型コロナは、1年後または1.5年後には終息することも示してい
ます。(注)ただし、ワクチンの利用可能な人数が問題になります。

認定されたアビガン等の治療薬は、感染者の約20%とされる重症化、
5%付近(地域でバラツキあり)とされる重篤化の防止をするもので
す。インフルエンザの治療薬だったアビガンも、全部に対してではな
くても一定の効果はあるとされ、新薬では遅れる日本政府も使用を許
可しました。

▼大底はいつか?

株価指数が下がりきった、大底の価格と時期は、市場操作の陰謀でも
ない限り、世界の誰にとっても反騰と反落プロセスではわからない。
過去の歴史から類比をみつけるしか、方法はないのです。

【3番底と6番底】
大底は、(1)1番底、(2)反騰のあとの2番底、(3)再反騰のあと
の3番底になることが、歴史では多かった。

株価が20%台にまで下がった、1929年から33年の米国発の世界恐慌で
は、4年間で6番底までありました。その後は、ルーズベルトの公共事
業による財政支出と、経済の面ではGDPの1年分以上を使う財政支出で
ある第二次世界大戦(1939-45)でした。

・短いときは、リバウンドした後の1週から2週あとに、
・長いときは、数週から6週あとに「あのときが大底だった」とわか
るものでしょう。

今回ケースでは、過去と違う二つの要素があります。
これが、大底の時期と価格を読むことに、関係します。

■3.今回の要素(1):4週で30%という下落速度の速さ

株価が下がる間は、投資のマネー量の減少から、経済活動は活発にな
らない。需要と供給力にギャップが広がるからです(需給ギャップ)。

【需要の回復】
需要を回復させるには、人の移動と経済活動(生産、流通、小売り)
が回復しなければならない。需要を生むマネー量は、世帯と企業がも
つ「現金+預金+株価時価+証券の時価の合計」です。

〔量的緩和は、銀行へのマネー供給だけのもの〕 中央銀行が量的緩
和として、銀行に供給する現金は、銀行の自己資本の、評価の減少か
ら起こる金融危機の対策になっても、銀行からの貸付金の増加になら
ない限り、世帯と企業のマネー量(マネーサプライ:M3:1375兆円:
20年2月)を増やしません。

〔日銀に預金口座をもつのは金融機関のみ〕 日銀には、非金融の企
業と世帯は、預金口座をもつことができない。量的緩和での日銀、
FRB、ECBのマネー供給は、銀行に対してのものです。国民ではなく、
銀行にとっての銀行が、マネーを増発する日銀であり、国民に対して
は間接的です。

▼FRBの金融緩和は、株価に効かなかった。財政支出は需要に効く。

〔FRBの巨額の金融緩和で株価が下げ止まらなかった理由〕 新型コ
ロナの拡散拡大による、経済活動を停止させる都市封鎖から下落する
株価が、FRBの1.5ポイントの利下げと、19年9月18日以来、FRBが行っ
てきた銀行への現金供給では、上昇しなかった理由がこれです。

〔財政支出〕 商品への需要は、企業と世帯の所得になる財政支出
(一般会計(日本102兆円)+補正予算)でしか増えません。日本と
米国の補正予算はGDPの10%になるでしょう(日本50兆円、米国220兆
円)。

〔4週で1万ドル下げた〕 時価総額が2700兆円だったNYダウの下げは、
2月24日(月曜日:2万9000ドル)から3月23日(1万9000ドル)までの
4週で1万ドル(34%)と、短期間では史上最大に大きなものでした。

▼米国と欧州が、感染の中心になった

〔NYの封鎖〕 世界のマネーが集まる金融センター、ウォール街のあ
るNY市で、確認感染数5万9000人になったことが背景条件です(3月
30日)。

NY州内の全部の労働者は、食品スーパーやドラッグストア等を除き、
4月15にまでは自宅待機です。米国の感染数は、14万2000人を超えて
います。イタリアの9万7000人、中国の8万1400人を上回っています。

日本の国内では、外出の制限から、都市部の小売業、サービス業、交
通に開店休業の状態が多くても、工場の操業停止は、まだ少ない。

〔工場の停止〕 感染数の爆発期にある、米国と欧州の生産工場は、
50%が操業を停止しています。他方、中国では政府から80%が正常に
戻ったとされています。実際の稼働率は、現在50%ともいう。

■4.リーマン危機のときの株価を振り返ると

▼12年前のNYダウと日経平均

2008年のリーマン危機のときは、
・住宅サブプライムローンでの不良債権(デフォルト)の増加を初期
の要因に、NYダウの下げは、07年の10月から始まり、
・6か月目と10か月目には、月足(1か月のローソク足)で2回小反発
したものの、
・09年2月の大底まで16か月(1年4か月)を要しています。

〔16か月で50%の下げ〕 NYダウは、16か月間で、1万4000ドルから
7000ドルまで、7000ドル(50%)下げました。半値が底でした。

(注)日経平均では、1万8000円から8000円まで、下落幅は1万円
(56%)。NYダウより少し大きなものでした。

〔下げ止まりと反騰に1年〕 NYダウが、50%の底値から反騰を始め
たのは、07年10月から18か月後の、09年3月からです。1年半かかって
います。

【ドル/円は、38%下がった】
〔リーマン危機はドルの危機であり、ドルは下げた〕 ドル/円は、
2007年7月の120円から、11年12月の75円(史上最安値)にまで、45円
(38%)下げています。

このときは、円が38%上昇したのです。リーマン危機は、世界が、
1971年の金・ドル交換停止のあとも基軸通貨と認めている米ドルが引
き起こした金融危機であり、ドルの交換価値の危機でもあったからで
す。

【反騰は、弱かった】
NYダウの反騰は、09年3月からの12か月で、7000ドルから1万ドル、上
昇は3000ドル(43%:月間平均が複利で3%)というゆっくりしたも
のでした。(注)日経平均の下落と回復も、NYダウと同じ期間を要し
ています。
https://www.fujitomi.co.jp/staffblog/リーマンショック時の下落率とコロナショック/

▼リーマン危機のとき株価の回復の動きまで、18か月を要した理由

〔銀行の自己資本の回復が必要だった〕 株価の回復に時間がかかっ
た理由は、09年9月からの、政府とFRBのマネー投入をきっかけにした
金融機関(特に銀行)の自己資本の回復に、時間を要したからです。

中核的自己資本は、留保利益か増資でしか増えません。自己資金であ
れ、信用借りであれ、投資家が株を買い越す(買い-売り)のマネー
が増えないと、株価は上がりません。

〔銀行の信用創造は、自己資本の12.5倍のレバレッジである〕 銀行
は、「留保利益+劣後債」である自己資本を梃子(てこ:レバレッ
ジ)にして、信用の創造による供与(貸付金の増加=マネーサプライ
の増加、負債証券の購入)をするからです。

〔必要な自己資本比率は8%〕 国際的な取引ができる自己資本の下
限条件(BIS規制)は、当時は、リスク資産(貸付金+リスク証券)
の8%でした。

国債並みの金利での貸し/借りと、貿易と、証券の売買で必要な外貨
の送受金ができないと、銀行はファイナンス機能(=マネーの供給)
を果たしません

〔米国のマネーサプライの増加は、年率8%とGDP増加率より高かった
〕中央銀行の信用創造は、銀行に対してのものです。当座預金が増え
た銀行が、企業と国民に対して信用創造(マネーの貸付)をします。
銀行が信用創造できない間は、株価は回復に向かわず、マネー量の減
少から経済は下落します。

ところが、FRBの合計4兆ドル(440兆円)の量的緩和からリーマン危
機の後の、米国のマネーサプライの増加は、年率8%くらいと、GDPの
増加率より5ポイントは高くなったのです。5ポイントはインフレの要
素になります。

〔日本のマネーサプライの増加率は低かった〕GDPの期待成長率が米
国より低い日本では、企業と世帯の借り入れの純増(=マネーサプラ
イの増加になる)は、2~3%台/年でした。

GDPの期待成長率が1%や2%だと、将来の利益からの返済が必要な借
り入れは、増やせない。借入金の返済は、資産処分か、経費を引いた
後の利益からしかできません。

【日本で、リーマン危機後、企業借入金が増えなかった理由】
借り入れのときは、利益計画(個人は定常的な所得実績)を作って、
利益償還が可能という書類を、銀行の審査部に提出します。

日銀が、ゼロ金利の上に量的緩和をしたから、借り入れが増え、需要
と投資が増えるという単純な連関ではないのです。住宅ローンも、将
来の所得から返済しなければならない。

GDPが増えないときは、企業利益の、マクロの合計と、個人所得の総
合計も増えません。GDPの上昇=需要の増加=所得の上昇だからです。

■5.今回は、直前のGDPの減少が大きかった(日本)

19年10月からの消費税増税のため、「19年10-12月期のGDP」が年率
換算で7.1%減っています。このGDP(=需要)の低下にコロナショッ
クからの、事業の停止による企業利益と所得減が加わったのです。

【2020年の1月~6月】
20年1-3期と4-6期の企業利益と個人所得は、大きく減ります。
(注)7-9期、10-12月期のGDPは、新型コロナ次第ですが、GDPの
10%(55兆円)の財政支出なら、効果が出てくる時期になります。

30%の株価下落(時価総額では150兆円)の、資産の減少があります。
2020年末には、不動産の時価も、20%(6000万円の住宅なら評価が-
1200万円)は下がるでしょう。

▼ヘリコプターマネーがベストの政策(ただし短期的な効果)

今回の財政対策は、企業と世帯に無差別にばらまく、返済の要らない
ヘリコプターマネーでないと効果は小さい。借り入れを増やすのは、
資金繰りに窮した企業が多い。これは、あとの不良債権の、保証協会
(=政府)の負担になっていきます。いったん大きく減った消費の戻
りには、時間がかかるからです。

〔所得税で、政府には戻って来る〕 困窮した企業と、所得が低い世
帯という条件をつけず無差別として、与える補助金を利益にすれば、
利益の多い企業、所得の大きな世帯からは、所得税として30%から
40%くらいが政府に戻ってきます(このヘリコプターマネーは、政府、
政治家への提言です)。

■6.今回の要素(2):
政府の財政支出の大きさと、中央銀行の、マネー供給の増加の大きさ

【リーマン危機では、危機発現のあとの対策だった】
リーマン危機のときの、FRBのマネー供給と米国政府の財政支出は、
08年9月15日にリーマン・ブラザースが破産したあとでした。

〔金融面の対策〕 FRBは、2008年9月から2013年12月までの5年3か月
に、3度のQEを行い、合計で4兆ドル(440兆円)のマネーの供給(信
用創造)をしています。

(注)QE=国債と、60%に低下していた住宅ローン証券のMBSを額面で
買い上げる利益供与+量的緩和。

【今回は、金融危機の前に、政府・中央銀行の対策】
今回のコロナショックに対しては、米国はいち早く、2.2兆ドル
(242兆円)の財政支出を決定し、加えてFRBは、
・金利を1.5ポイント下げ、
・無期限・無制限のマネー供給を決定しています(20年3月下旬)。

〔日本〕 日本も、50兆円から60兆円(GDPの約10%)の経済対策を
検討中であり、利下げが限界の日銀は量的緩和を再開し、株ETFの1回
2000億円の買い(年間12兆円)と、不動産REITの買いを行っています。

【米国では、19年9月からシャドーバンクの危機があった】
今回のFRBの短期資金供給は、19年9月18日に銀行間のレポ金利が10%
に上がり、銀行とシャドーバンク部門が、大きなドル不足を示したと
きから始まっています。シャドーバンクの危機は、銀行の危機に連結
します。

〔ドル不足の意味〕 ドル不足とは、銀行とシャドーバンクがもつ現
金が、次週の決済額を満たさないくらい少ない状態です。放置すれば、
どこかでデフォルトが起こり、リーマン危機と同じ銀行システムの連
鎖的な金融危機になっていきます(システミックな危機)。

レポ金融とは、銀行が、買い戻し条件付きで、国債やAAA格の社債を
他の銀行売って、翌日から2週間くらいの短期マネーを借りることで
す。

この金利が、一瞬とはいえ10%に急騰したことは、「米銀+シャドー
バンクシステム」で、19年9月からの現金不足が深刻だったことを示
します。金利の高騰が収まったのは、FRBが、その9月以来毎月不足資
金を供給しているからです(累計1兆ドル:110兆円)。

▼FRBの金融緩和のパッケージは、史上最大

〔19年9月からステルスの量的緩和をしていたFRB〕
FRBは19年9月以来、2月まですでに1兆ドル(110兆円)以上のマネー
を「銀行+シャドーバンクシステム」に供給していました。
方法は、債券の買い上げと短期貸付です。

〔今回はあらゆる債券を買うFRB〕
新型コロナショックからの、3月2週の株価急落を見て、
・1.5%の利下げをして、短期金利を0~0.25%に下げた上に(これは
13兆ドル(1430兆円)の社債の下落をとめることが主目的)、
・(1)銀行がもつ国債、(2)不動産ローン証券のMBS、(3)低格付
け・高金利のCLO(400兆円)を含む社債、(4)投資信託風の預金で
あるMMF、(5)企業の支払手形に相当するCP(コマーシャルペー
パー)を買い上げ、時期と金額を制限しないで、マネーを銀行と企業
に供給する決定をしたのです。

このマネー供給は、銀行、企業、世帯のデフォルトを防ぐことであり、
量的緩和としての民間マネーの増加策です。

全部の債券をFRBが買う、または、無差別に現金を貸し付けるのは
リーマン危機でも行わなかった、初めてのことです。

FRBは、今回、
・銀行とシャドーバンクだけではなく、
・資金繰り難に陥った企業にも、直接、資金供給を行います。
ここもリーマン危機と違う点です。

ドルを発行する中央銀行である、FRBの設立後106年の歴史で、はじめ
てのことです。

【対応が速く、金額が大きい】
リーマン危機のときとの違いの2点目は、日本の一般会計(102兆円)
の2.4倍の財政支出(2.2兆ドル)の決定と、FRBによる無制限のマ
ネー供給の決定(4兆ドル)が、金融危機が顕在化する前であり、速
かったことです。(注)米国では、2019年9月から、放置すれば金融
危機になる潜在的な危機が、進行していました。

合計では6.2兆ドル、米国のGDP22兆ドルの28%です。GDPが530兆円の
日本でいえば、米国の28%は、150兆円の経済と株価対策に相当しま
す。

〔大底からの回復は早いだろう〕 大底のときは、すでにマネーは出
されているので、株価の回復ではリーマン危機のあとより早くなるこ
とを示します。

米政府とFRBは「何が何でもGDPの急落(予想:-20%)を止め、株価
の回復を促す目的のマネー増発政策」をとっているからです。

■7.ただし、回復期の反騰のレベルへの異論はある
                (スタグフレーション論)

他方、株価が大底を打ったあとの回復は、はかばかしくはないという
見方もあります。

〔2020年5月からのドル安〕未曽有の財政支出(=国債の発行増加:
1兆ドル+2兆ドル=3兆ドル)と、FRBのマネー増発(概算4兆ドル)
から、米ドルの為替価値が下がるという想定できるからです。ドル安
になると、輸入商品が多い米国の物価が上がります。

需要の回復は弱くなり、その中でのドル安から、コロナショックのあ
との米国は「インフレと不況の低成長が同居するスタグフレーション
になる」という予想です(バンク・オブ・アメリカのマイケル・ハー
トネット氏)。

一般には、インフレのときは、供給より需要が多いので好景気です。
しかし、新型コロナからの企業売上と働けない期間の個人所得の減少
は消えてしまったものであり、取り戻すことはできない。

3.6%の失業率は、1929年の大恐慌の時より多い30%に達すると予想
されています。トランプ大統領がもっとも恐れていることがこれです。
11月3日の再選が危うくなるからです。

【ヘリコプターマネーは、一時的効果】
米国では決定した1人13万円の小切手の給付は、一時的なものです。
失業での減収と祖将来への期待所得を補って余りあるものではない。
売上が消えた企業の資金繰り用の、無利子の借入金は、一時的には助
かりますが、使ったあとは利益から返済しなければならない。これは
企業の資金の減少になることです。

需要回復の遅れから「スタグフレーション」になると、封鎖解除のあ
とも、企業の純益の回復は小さくなり、終息後の株価の反騰も、小さ
くなります。

リーマン危機のあとのように1年、2年かかって上げていくことになる
でしょう。リーマン危機のあとは、株価では月平均4%の、低い回復
でした。

・経済の急回復による株価急騰か、
・所得低下のため株価はゆるい反騰になるか、
未来の経済指標なので、あと1、2か月くらい経たないと判断ができま
せん。

本稿では、あえて次号で無謀に予想します。前編はここまでとします。

■8.後記:新刊が出ました

タイミングはよくない時期ですが、拙著、『新しいチェーンストア理
論』が出ました(4月1日~)。当面、アマゾンでしか売れないでしょ
う。

4万か所あるショッピングセンターの閉店で先行する米国を追って、
(1)2020年から大閉店時代に向かう100万店(雇用700万人)の小売
業だけではなく、
(2)卸売業(雇用400万人)、製造業(雇用1100万人)、飲食業
(220万人)、サービス業(570万人)、IT関連(100万人)で、
(3)そして経営指導している経営コンサルタントには読んでいただ
きたいという願いから書いたものです。

低すぎるわが国小売業の人的な生産性を、2倍、3倍に上げる方法を詳
細に書いています。小売業は、2020年から施行される働き方改革の
「同一労働・同一賃金」はとれない。

平均の生産性(粗利益÷総労働人時)が、米国の小売業の38.4%
(2010~12年)と低いからです。米国の、ほぼ1/3の、人的生産性と
平均賃金でしかないのは驚くべきことでしょう。
https://www.jpc-net.jp/research/rd/report/pdf/sd2.pdf

情報化、IT化、AI化と、流通のDC化(集配センター化)、そして、使
う顧客、着る顧客、食べる顧客にとっての商品価値(機能・品質÷価
格)の高い商品の、開発方法を示しています。

商品価値の高いものを売る製造小売業では、行列が観察できます。
消費者の、商品に求める価値が1990年代とは変容したからです。

チェーンストアのあるべき商品戦略は、商品開発が主眼の製造、卸、
飲食、サービス業、IT関連にも共通します。商品開発の章は、チャ
ン・キムの『ブルーオーシャン戦略』の実践編でもあります。(アマ
ゾン↓)

新しいチェーンストア理論-吉田-繁治

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