現代貨幣論の批判的な検討(2:後編)
This is my site Written by admin on 2019年12月27日 – 12:00

今年も、残すところ4日。普通の月と変わることはないのに、12月末
になると押し迫った感じがあります。食品の買い物が、抱えきれない
くらいあるというので、荷物持ち人として、ついていきました。午後
3時のスーパーは客が多くかった。日常の買いものでも、1年に1度の
正月という未来を想定したものでしょう。

【2019年に驚愕したこと】
今年、びっくりしたのは、9月18日の、米国のレポ金利10%への瞬間
高騰とFRBの対応でした。銀行間の短期資金の融通であるレポ金融は、
短期国債を「買い戻し条件つき」で相手銀行に売り、ドルの現金を、
1週間くらい借りる短期金融です。

(注)その前の19年8月初旬には、長期国債の金利が、短期国債の金
利より低くなるという異常事態(逆イールド)起こっていました。
2019年に米国金融が、「異常な状態」だったことを示していします。

<短期金利が長期金利を上回り、イールドカーブ(利回り曲線)が右
下がりの曲線となっている状態のこと。市場関係者が、将来的に金利
が下がるとみている場合に起こる現象で、景気後退の兆候として捉え
られることが多い。> 金融用語の解説がこれです。史上最高の米国
株高は、景気の先行きが不況に向かっていると見られる中で生じてい
る、逆の現象です。

逆イールドとともに、一般には知られていない「レポ金融」なので、
銀行間金融(短期資金の貸し借り)の技術的な面を、説明する必要が
あります。可能な限り、一般的知識で理解できように書いていきます。

米国のレポ金利が、一瞬とはいえ10%に高騰したことは(9月18日)、
借りる銀行が多く、米銀システムにドル不足が起こっていることを示
します。

銀行システムの現金不足が1週間、2週間と続くと、現金化のために売
られる米国債が多くなって暴落し(金利は高騰し)、銀行の保有株も
売られて、米国株の暴落から、金融危機になっていきます。

リーマン危機のとき起こった、銀行間の信用縮小と同じです。当時の
レポ金融の残高は5兆ドルであり、1日の取引は3兆ドルでした。2018
年の残高は4兆ドル(440兆円)。1日の取引は、2.5兆ドル(275兆
円)でしょう。日本では少ないレポ金融は、米銀では、主流になって
いる、短期マネー融通の手段です。

【自己資本が少ない米銀】
米銀は預金が少ない。預金に代わるものは、MMF(マネー・マーケッ
ト・ファンド:投資信託の一種:3.2兆ドル:352兆円)です。預金が
少ない米銀システムには、日本の銀行より現金が少ない。

●加えて欧州の銀行と同じように、資金量に対する中核的資本の自己
資本比率は5%以下と低い(レバレッジ金融が20倍以上と危険性が大
きい)。中核的自己資本比率の低さは、リーマン危機のあと3倍上が
った株の含み益で補っています。

比較すれば、1997年から98年の金融危機で、自己資本をなくしたwわ
が国のメガバンク3行(三菱UFJ、みずほ、三井住友)は、その後20年
で、金融の安定のため、自己資本比率を10%以上に増やしています。
BIS規制では、国際業務を行うときは自己資本8%以上とされています。
B/Sの資産レバレッジ率(信用拡大率)では、12.5倍が上限という意
味です。

「現代貨幣論」は、中央銀行がどこまでも財政赤字の国債を買って、
銀行に現金を供給すれば、GDPは成長し経済はよくなるとする理論で
す。

【FRBが、レポ金融に介入した】
米銀システムの、突然のドル不足に対して、FRB(米国の中央銀行)
は、当日の9月18日に、「国債(および他の債券)を銀行から買い上
げて現金を供給する緊急の金融緩和」を、1000億ドル行い、その後も、
FRBが行うレポ金融の方法で、現金の供給を続けています。

FRBが行わないと、銀行の国債と株の売り(現金化)が加速し、米国
債価格が下がって、金利が上がっていくからです。

銀行システムは、貸し借り(レポ金融)で連鎖している銀行の全体で
す。銀行間の短期マネーの取引は、1日に2.5兆ドル(275兆円)と大
きい。リーマン危機のような金融危機のときは、まず、レポ金融が減
って、即日に決済不能(支払いのデフォルト)になる銀行が出ます。
それがリーマン・ブラザーズであり、AIGだったのです。

【米国債が下がった】
米国債が下落(金利の高騰)すると銀行間借り入れの担保としての価
値が下がり、決済資金の不足が起こって、金融危機になります。9月
18日には、一瞬ですが、ドル国債(2年もの)が15%、10年ものは40
%下がったのです。

FRBは、銀行が現金調達のため担保に差し出していた国債を買い上げ、
高騰した短期金利を1.5%台に下げて、国債価格をもとに戻しました。
国債価格下落が9月18日の一瞬で済んだのは、FRBの緊急の国債買い上
げがあったからです。

FRBは、2019年12月には、テクニカルな年末資金という偽装的な名目
で、単月で4900億ドル(53兆円)という大きな金額の、レポ金融を行
っています。この53兆円という金額の大きさにも、驚きました。
(注)FRBが短期国債を売り戻し条件付きで53兆円買って、銀行に53
兆円の現金を供給すること
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53384760V11C19A2FF8000/

53兆円という金額が示すのは、米銀システムのドル不足が深かったこ
とです。米銀間では、1日に275兆円の、現金の受け渡しが行われてい
ます。

9月18日に、レポ金利(銀行間短期金利)が、10%にまで瞬間高騰し
たとき、FRBと金融の専門家は、「なぜ、米銀に現金不足が生じたの
かわからない」としていました。

【史上最高の株価】
米国株が買い増されて、価格では史上最高(NYダウ:2万8515ドル:
19年12月27日)を続けているなかで(19年は25%上昇)、米国のミズ
リー河のようなマネーの底流(銀行間のマネーの流れ)では、FRBが
緊急に介入しないと金融危機になるドル不足(水量の不足)が起こっ
ていました。

●銀行システムの現金不足は、19年12月現在も続いています。9月18
日から12月までの、FRBの、銀行への現金供給は、8000億ドル(88兆
円)にはなっているでしょう。

究明しなければならないのは、米国経済と株価が好調と言われる中で、
なぜ、このドル不足が起こっているのかということです。米銀のドル
不足は、いかにも、変なことです。

●米国株が史上最高の高値(NYダウ:2万8000ドル台)を続けること
ができるか、あるいは、2020年の春ころに暴落するかは、
・米銀のドル不足が、今度、どれくらい続くのかということ、
・2020年は、これがどう向かうかにかかっているからです。

【株価は、ゼロ金利の負債相場】
米国を先頭にした世界の株価は、経済のファンダメンタルズ(基礎的
指標)と企業純益にかかわりがないくらい、高い水準です。

その性格は、企業の業績より、ゼロ金利と過剰な流動性(マネー量)
による株高でしょう。米国の短期金利は1.5~1.75%ですが、欧州と
日本がマイナス~ゼロ金利であり、イールド(金利差)のある米国に
流れています。米国は、ユーロのマインナス金利、日本のゼロ金利を
利用しています(ユーロと円からドルがあるため)。

もし米銀とヘッジファンドに不足しているドル現金を得るための、換
金売りが増えれば、株価は大きく下がります。

【株価の下落と金融危機】
●米国株の30%以上の下落(時価総額で990兆円下落)があると、保
有株の含み利益(株価上昇分)が資本になっている銀行の自己資本
(200兆円)を消すため、銀行の危機になります。

銀行危機とは、マネー量が縮小する金融危機です。

FRBは、米国株の下落が引き起こす金融危機が怖いため、銀行システ
ムのドル不足によって、銀行間短期融資のレポ金利が上がった9月18
日から、銀行がもつ国債を買って不足する現金を、3か月間続けて供
給してきたのです(8000億ドル:88兆円)。

【経験則】株価や資産バブルの崩壊は、「表面の経済が好調に見える
とき」、起こります。不況のときは、株価と資産は、少しは下げても、
バブルは崩壊しません。過去、大きなバブル崩壊は、毎回「晴天の霹
靂(へきれき)」でした。

気象とのアナロジーでは、盛夏の入道雲のように株と不動産が上がり
(上昇気流になって)、水蒸気を大量に含む空気の気圧が下がると、
数千メートルの上空では水分を含めなくなって豪雨になります。

【大切なこと】
今の株価は高すぎると思う投資家が、市場に30~40%くらいはいて、
株価や不動産が懐疑のなかで上げているときは、その後も上がること
が多い。疑いながら買われ上がっている相場は、なかなか崩れません。
バブル崩壊は「ほぼ全員が株価はまだ上がる」というユーフォリア〈
多幸感〉になった直後に、起こってきたのです。

<強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟
し、幸福感の中で消えていく>:米国の著名投資家・ジョン・テンプ
ルトン・・・長年の投資実行での経験則を述べたものです。

株価には、科学的・理論的な根拠がなく、経験則しかない。

【可能性】
米国株の強気相場は、
(1)(08年のリーマン危機のあとの)悲観の中の、FRBのマネー増発
(QE1~3:440兆円)から生まれ、
(2)(2011年~2016年の自社株買いで、ここまで上がっていいのか
という)懐疑の中に育ち、
(3)(2017年のトランプ減税から、2019年の投資家の)楽観の中で
成熟し、
(4)2019年9月からの銀行システムのドル不足は見えず、
(5)(2020年には株高の)幸福感の中で、消えていくかもしれませ
ん。

「幸福感の中で消えていく」というテンプルトンの経験則の通りにな
るのかどうか。事は重大です。

米国株が暴落すれば、日本、欧州、中国、アジア、つまり全世界のバ
ブル株価は、同時に崩落します。米国株の時価総額が3300兆円
(NYSE+ナスダック)と大きくなっているからです。

米国株が崩壊すると、ドル危機だった2008年のリーマン危機と同じよ
うに、基軸通貨のドルの縮小になり、世界が使う基軸通貨の縮小は、
世界のマネー量の縮小になっていくからです。

【時価総額3300兆円】
米国株の3300兆円という時価は、現在は、株主である「金融機関+ヘ
ッジファンド」、個人投資家、CEOの金融資産であり、株主には幸福
感を与えているものです。

世界中でハイエンドの商品が売れ、リゾートの高級ホテルほど空室が
なく、世界の不動産も上がっています。

金融資産の多さは、人を自由にします。自由を得るためにマネーが必
要なのでしょう。(注)1989年12月までの、日本の資産バブル(日経
平均3万8000円、商業地の地価は5倍)が、これでした。米国の現在は、
日本の1989年のバブル最盛期に似ています。

【世界のGDPに対して3倍の総負債】
金融資産が増える裏では、世界の総負債(政府+民間部門)が、250
兆ドル(2.7京円:2019年)に増えています。負債の金額は、世界の
GDP(商品生産量)の3倍に達しました(IMF)。

世界の株は、借入金の増加によって買われて上がってきたのです。
(注)これがゼロ金利の負債相場でしょう。

株には返済がなくても(配当の義務はある)、借入金と社債の有利子
負債は、利払いがあり、返済する時期が来ます。低金利のなかで、世
界のGDPの3倍に膨らんだ有利子負債(政府+企業+世帯部門)は、償
還期になると返済ができず、不良債権が増える水準を、すでに超えて
います。(注)GDPの2.0倍が、返済ができるギリギリの限界でしょう。

返済リミットを超えた負債のデフォルトを避けるには、銀行が、返済
分を貸し続けるしかない(追い貸し)。

銀行の資産は、貸付金と債券です。貸し過ぎた貸付金が不良化し、債
券と株の価格が下がれば、銀行側が債務超過になって破産します。

一体いつまで、世界の銀行は、正常なものとしての貸付金を増やし、
負債証券である社債を買い増し続けることできるのか。世界1の資金
量の米銀システムが、19年9月からドル不足になっている中で、です。
(注)現代貨幣論は、インフレになるまでは、可能な通貨発行は無限
量としていますが・・・
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-12-02/Q1UXGHDWX2PV01

(↑)ブルムバーグは、「大きすぎる負債からの脱却は、更なる負債
の積み増しか?」と書いています。負債の積み増しで、一時的に助か
るだけで脱却はできない。負債が大きくなり、不良債権が一層増える
だけです。不良債権化の恐れから、銀行が貸付を増やせなくなると、
破産です。

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  <412号:現代貨幣論の批判的な検討(2:後編)>
      2019年12月27日:無料版

【目次】
1.米銀システムでの、ドル現金不足の原因
2.2020年の、更に増える新規国債発行が、どう買われるか。
3.MMT論:中央銀行(日銀、米国のFRB、ユーロのECB等)が赤字国債を
直接買うことは、市中消化つまり民間銀行の国債買いと、本質は同じ
である。
4.MMTに対する批判的な検討
5.実際のこと
6.増えたジャパンマネーは円国債ではなく、ドル買いになった
7.(海外の経済論に乗りやすい)日本の国会ではMMTの勉強会
【後記】
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■1.米銀システムでの、ドル現金不足の原因

FRBは9月から10月には、「米銀のドル不足の原因は、まだわからな
い」としていました。原因がわからないなかで、銀行システムへのド
ルの供給を、FRBのレポ金融(国債の買い上げと現金供給)として続
けました。そのプロセスで、原因も見えてきています。

▼米銀のドル不足の原因

(1)2017年から発効したトランプ減税(法人税35%→21%:40%の
減税)から、政府の財政収入が減り、他方では、軍事費と社会保障費
は増えて、財政赤字が1兆ドルを超えたこと。

2017年の国債発行は5500億ドルでしたが、2018年は1兆3400億ドル、
2019年は1兆4000億ドル(154兆円)に膨らんでいます。2019年の国債
発行は、2017年の2.5倍です。日本政府の新規国債発行(35兆円)の
4.4倍です。

米国の銀行は、17年比で2.5倍に増えた国債を、買い受けなければな
らない。新規発行国債を、米国の銀行が買わないと、国債価格は、売
れる価格にまで下がって金利は高騰し、銀行信用が縮小して、金融危
機になるからです。米国の国債残は、22兆ドル(2420兆円)であり、
日本の2倍と大きい。

(2)米国は、貿易+所得収支の経常収支が、赤字を続ける国です。
このマネーの面での意味は、増加発行する国債のすくなくとも40%
(5600億ドル:61兆円)は、一旦は買った米銀から、海外(中国、日
本、産油国)に売られなければならないということです。

赤字(=海外へドル流出)がある米国の銀行は、自国の国債の、全部
を買うことができないのです。

海外からドル国債を買ってきた3大国は、多い順にいえば、(1)中国、
(2)日本、(3)中東の産油国です。

トランプ大統領は、中国の輸出に打撃を与えるため、2018年8月から、
中国からの輸入に特例の関税を課し、中国から世界への輸出を減らし
てきました。(注)日本の中国からの輸入も16%減っています。

中国は、過去の貿易黒字の累積として、3.1兆ドルの外貨準備(ドル
債58%、ドル以外42%)を持っています(人民銀行:2019年)。

トランプ関税への中国側の報復としても、中国政府は「ドル債を売っ
てユーロ債に振り替える」方法をとっています。2018年8月から、中
国はドル債の買い手から、売り手に転換したのです。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/08/5803483f272125f4.html

加えて、トランプ関税15%により、中国の輸出が減って(日本に対し
て16%減:19年11月)、ドル債を買ってきた外貨準備は増えなくなっ
ています。

日本の外債(中心は米国債)の買い増しは、1年に最大で20兆円/年で
す。日本の貿易黒字も減っていて、輸出入は均衡し、外貨準備は増え
ず、米国債を大きく買い増す力を失っています。原油価格が下がった
産油国も、過去のようにはドル債を買うことができない。

「中国がドル国債の買い手から売り手になると」、米銀が買い受けな
ければならない米国債が増えます。

米銀が買わないと、債券市場で売りが超過した米国債(産高22兆円)
の流通価格が下がり、金利は一瞬で高騰し、1週間で金融危機になり
ます。国債は、金融機関の資産になっているからです。

【まとめ】
まとめれば、
(1)米国債発行の、2.5倍への増加(1.4兆ドル)、
(2)中国の、米国債の売りと、貿易黒字の減少、
(3)日本の、米国債買いの増加の限度、
(4)原油価格下落(100ドル台→60ドル台)による、中東の貿易黒字
が減って、ドル国債買いが減少したこと。

以上の、4つの要因の複合によって、米銀が買い受けなければならな
い米国債の金額が、増加しました。銀行の国債の買いとは、「銀行の
現金が国債に変わること」です。

以上が、2019年9月18日以降3か月の、米銀システムのドル不足(推計
88兆円相当)の原因でしょう。このため、FRBが国債を買って8000億
ドル(88兆円)のドル現金を、銀行に供給したのです。これによって、
米銀システムの現金不足の危機が、一時の均衡を得て、収まっていま
す(2019年12月時点)。

■2.2020年の、更に増える新規国債発行が、どう買われるか。

2019年度には、米政府は1兆4000億ドル(154兆円)という、大きな新
規国債を発行します。トランプ減税(政府収入の低下)と、財政支出
の増加が、重なるからです。

米国の社会保障費は、戦後ベビーブーマー8000万人(1946年から64年
生まれ:日本の団塊の世代は米国の1/10の800万人)が次々に65歳を
超え、増える医療費と公的年金により、今度もずっと拡大を続けます。

2020年代の財政赤字は、1兆ドルを超えます。トランプ大統領が緊縮
財政にして増税に転換して、赤字が減る見込みはないからです。貿易
赤字も8000億ドル(2018年)から、拡大基調です。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51453710W9A021C1EA2000/

2020年の国債の新規発行は1兆4000億ドルを超えて1兆5000億ドルに増
えるでしょう。国債発行は、「財政赤字(1兆ドル超え)+公共投資
の増加分(5000億ドル)」になります。

国内の銀行システムが買い受けることのできる国債は、5000億ドル程
度でしょう。貿易黒字の急減から、中国が買う米国債は減っています。
日本のメガバンクが買えるのは1000億ドル(11兆円)程度でしょう。

●残り9000億ドルの国債は、誰が買うのか。米銀システムが買えば
「ドル現金の不足」になって、国債価格が下がり金利が高騰します。
米国もいよいよ日本のように、FRBが1年に9000億ドル(99兆円)の国
債を、ドル増発によって買い受けなければならない時期に突入して行
きます。

【現代貨幣論(MMT)の説くところ】
現代貨幣論は、対外負債のない国は、赤字国債でも中央銀行が買う受
けるマネタイゼーションによって、経済を成長させることができると
説いています。しかし米国は、日本とは逆に、対外負債が36兆ドル、
対外資産26兆ドルであり、10兆ドルの対外純債務国です。

米国のような純債務国で、赤字国債を中央銀行が買い受ける「マネタ
イゼーション(国債の現金化)」を行うと、海外からのドル買いが減
ってドル安になるでしょう。米国では輸出より多い輸入が多く、輸入
物価の上昇から、米国内の物価は上がっても、経済は成長しない「ス
タグフレーション(インフレ経済成長のなさ)」になっていくでしょ
う。2020年はその初年度でしょう。

経済成長が低いなかで、物価が上がると、市場の期待金利は上昇しま
す。この期待金利の上昇から、既発国債(22兆ドル:2420兆円)の価
格が下がって、銀行が債務超過に陥っていくとともに、史上最高の高
値の米国株も下がります。

●2020年の早ければ3月、4月に、史上最高の米国株の、大きな下落の
可能性が出てきたのです。米国の低金利バブルは、海外からのマネー
の流入(ドル国債買い40兆円:中国+日本+産油国)を前提に、成立
してきたからです。

ここで、「(日本のような)対外債務のない国では、中央銀行による
政府の、赤字国債買いが経済成長に有効である」という現代貨幣論
(MMT論)を、批判的に検討します。適用事例は、対外純資産が341兆
円の日本とします(2018年末:財務省)。
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/2018_g.htm

■3.MMT論:中央銀行(日銀、米国のFRB、ユーロのECB等)が赤字国債
を直接買うことは、市中消化つまり民間銀行の国債買いと、本質は同
じである。

いくらおこなっても、ハイパーインフレを引き起こすことには至らな
い。(注)財政法は、直接引き受けを禁じているが、これは無意
味である。

【MMTが示す、その内容】
(1)政府は、公共事業を請け負った企業に、代金1兆円を政府小切手
で支払う(1兆円は、メカニズムの理解のための例えです)。
 ↓
(2)企業は、取引銀行に、その政府小切手1兆円を持ちこみ、1兆円
の円預金に変える。
 ↓
(3)銀行は、取引企業の口座に1兆円分の預金を書き込む。これと同
時に、銀行では1兆円の預金が増加する。企業の預金の増加は、銀行
の負債である預金の増加と同じである。
 ↓
(4)政府は、1兆円の小切手の決済を行うために、翌日、保有してい
る政府の日銀当座預金1兆円を、民間銀行の日銀当座預金に振り込む。
というよりほんとうは、銀行間の手形交換(差金決済)により、政府
の預金が、民間銀行の預金に振り替えられる。

結果では、政府の日銀当座預金の1兆円が、民間銀行の当座預金に移
動するだけなので、日銀当座預金(銀行が日銀に預けた現金)の総量
は変わらない。内容では、銀行の当座預金は1兆円増えて、政府の日
銀当座預金が1兆円減っている。

(5)銀行は、1兆円増えた当座預金で、国債を買う。日銀は、国債価
格を下げないために(低い金利を維持するために)、買っていた国債
を、1兆円分銀行に売る。(注)以上が、一般には知られていない、
日銀と銀行間の資金オペレーション。

一時的に1兆円が増えていたに日銀当座預金は、日銀が回収して、元
に戻る。(注)日銀が、銀行に国債を売ることは、1兆円の日銀当座
預金を減らして、銀行に1兆円の国債を渡すことである。

以上のマネーの流れから、
・日銀が国債を直接引き受けることは、市中消化と同じことになり、
ハイパーインフレは起こさず、
・市場の金利も上げることはないというのが、マネタイゼーション
(財政ファイナンス)の効果を主張するのがMMT論です。

■4.MMTに対する批判的な検討

上記の(1)から(5)は、正しい論でしょうか。問題は、上記の
(5)のプロセス(増えた当座預金で銀行が国債を買うこと)を仮定
しているモデルです。

つまり・・・(5)銀行は、1兆円増えた企業預金を背景に、日銀から
国債を買う。銀行の日銀当座預金は1兆円減少して、政府小切手で預
金が1兆円増える前に戻る・・・

銀行の国債買い戻しがあるため、日銀が国債を売っても国債価格は上
がらず金利も上がらない。ハイパーインフレにもならないという主張
をするのがMMT論です。

【現実に適合していない点】
(1)から(4)までの、政府小切手での支払いと、小切手の現金決済
のプロセスまでは、その通りです。

問題は、「政府赤字の公共事業で増えた銀行預金1兆円で、銀行が再
び、国債を買って日銀当座預金を減らす」という仮定にあります。

こんなことは、期待GDP成長率が1%程度と世界1低かった日本でも、
起こっていないからです。

■5.実際のこと

銀行は、日銀に国債を売って、日銀当座預金を増やし(超過準備の発
生)、もっていた国債を減らしたのが、異次元緩和が始まった2013年
4月のあとの銀行(及び生保、GPIF、郵貯、かんぽ生命)です。

●銀行は、国債を売って増えた当座預金で、再び国債を買い増すとい
う動きはしていません。

代表して、銀行としますが、日本の銀行は、日銀に国債を売り越して、
国債の保有残を合計で350兆円減らしています。銀行は、増えた当座
預金で、日銀から国債を買ってはいないのです。

●ドルとドル債の増加購入がある日本では、日銀が国債を売ったとき
は、民間銀行の当座預金での買い戻しは少なくなって、金利が上がり、
国債価格は下がって、財政危機に向かうことになります。

銀行は、国債を約350兆円日銀に売り越したままです。異次元緩和の
開始前は、日銀当座預金(銀行が日銀に預ける無視利子の預金)は、
58兆円でしかなかった(2012年3月末)。

国債を日銀に売った銀行が国債を買い戻していないため、日銀当座預
金は397兆円に増え続け(今日も増えています)、マネタリーベース
(当座預金という現金の発行=預金通貨)の増加になっています
(19年9月12日)。
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2019/ac190910.htm/

MMT論は、このように、他のところでも「実際にはないマネー移
動」をモデルにしています。

【消費財のインフレはわずかだった】
6年目になった異次元緩和(日銀の国債の増加購入約350兆円)でも、
確かに、消費財の物価上昇は、年0.5%から1%しかなかった。

▼日本の株価と地価は、米国を追って上がった

ただし消費財に対して、金融商品の売買が増えています。経済モデル
が古いままであるため、物価統計には入っていない株価は、3倍に上
がり(円は1ドル80円台→120円、110円台の円安:今日は107.97円)、
全国ベースの不動産も上がっています。

人口が減少している2018年の大阪府の基準地価は、都心部商業地で心
斎橋が45.2%、新大阪が42.3%、江坂が35.1%、前年比で上がってい
ます。ゼロ金利のマネーによって、外需からの「インバウンドバブ
ル」での地価に上がっています。

つまり量的緩和で起こったのは資産(株・不動産)の価格インフレで
す。

■6.増えたジャパンマネーは円国債ではなく、ドル買いになった

同時に、日銀に国債を売って増えた、銀行のゼロ金利とマイナス金金
利の当座預金を背景に、3大メガバンクは、金利のつくドル買い(ド
ル預金)、ドル国債買い、ドル株の買いをしています。

国内での貸し出しが増えず、国債はマイナス金利であり、買えば損な
ので、1.5%から2%の金利がつくドルを買って、海外に円を逃がして
います(経常収支の黒字20兆円では、円高になるはずなのに。円安に
なる理由がこれ)。

●米国に行ったジャパンマネーは、
・米国の株価を上げ、
・国債価格をも上げて、
・米国の金利を下げ、
・(日本に対する中国マネーと同じように)対米直接投資は、不動産
価格も上げる機能を果たしています。

円を売ってドルを買うことが円を米国に逃がすことです。ドルは米銀
の預金になるからです。ドルは、円に戻さないと日本では使えません。

MMT論は、以上の国際的な金融(国境を越えるマネーの流れ)を見ず、
「国債を日銀に売って増えた当座預金で、銀行は、また国債を買う」
と仮定して、「中央銀行が国債を買うことと、市中消化(銀行の国債
買い)は同じことになる」としています。

MMT論の経済モデルは粗雑です。現実をモデル化できなかった理論の
誤りです。

■7.(海外の経済論に乗りやすい)日本の国会ではMMTの勉強会

MMT理論に賛同するエコノミストは、MMT論が述べることを鸚鵡(おう
む)返しに主張し、自民党の勉強会では「日本は、財政赤字をもっと
増やすべきだとしています。

日銀が国債を買う限り金利は上がらず、財政が破産することは決して
ない」と、議員に教唆しているのですから、重大です。議員の多くが、
「わが意をえたり」と拍手しています。

(注)ここから、他の予算を転用しない真水10兆円の「公共事業26兆
円の政府案(赤字財政の拡大)」が出て来ました。期間は2020年の4
月か15か月です。オリンピック後の、投資減少による不況を回避する
目的のものです。赤字国債の発行は35兆円から45兆円に増えて、日銀
が買い上げることになるでしょう。

1980年代に突如現れた「ラッファー曲線」と同じように、政府を誤ら
せるのがMMTです。

だからこそ、主流派のエコノミストが本格的には行っていない、批判
的な検討が必要です。当方、全く微力ですが、一人で試みているのが
本論です。

日銀と主流派は「MMTは極端な論」というだけで、何がどう極端なの
か、まだ明らかにはしていません。メディア(ジャーナリズム)は、
MMT理論を理解してはいず、批判する論拠は、もちません。

(注)『MMT理論』は入門書でも、〔B/Sの資産=負債、および、金融
における国民の預金=銀行の負債〕についての会計学と、中央銀行の、
国債売買のオペレーションについての実務知識がないと、わからない
と思います。

30歳代の10年間、B/Sの簿記・会計を、必要に迫られてやったので、
マネーのマクロ経済の理解には助かっています。MMT理論を解説する
リフレ派のエコノミストの論も、多くが間違えています。下品になる
のでその具体名は挙げません。

もともと、2013年4月からの量的緩和とアベノミクスは、クルーグマ
ンの、『流動性の罠論(2001年)』を下敷きにして始まったものです。

しかし彼は『日本の問題を再考する』として「白旗」をあげるかのよ
うに、言葉をずらして、その論を修正しています(2016年11月) 以
下は、林勝俊氏の翻訳です。2016年末に、本メールマガジンでも書い
ています。
https://economicpolicy.jp/wp-content/uploads/2016/11/translation-003.pdf

情けないことですが、日本政府の大きな経済・金融政策は、「海外
(といっても欧州ではなく米国だけ)」から来ている点では、今もお
なじです。

【後記】
2020年は、米銀の国債買いよって生じる米銀システムのドル不足にか
ら、FRBの「米国債買い」が増えるでしょう。問題は、FRBの国債買い
の増加(年額1兆ドル:110兆円)によって、史上最高価格に上がって
いる米国株価が、上がることなくても維持できるかどうかです。

可能性としては、米国株の下落が、20年3月前後に始まる確率が60%
になったように感じています。

世界の負債は、増加し続けているので、3月でなければ、レバレッジ
10倍で3000兆円の運用をしているヘッジファンドの決算サイクルに合
わせた6月、次は、2020年9月でしょう。2020年は、波乱の年になりそ
うです。

どうか、いい年をお迎えください。

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