特別号:現代ファイナンス論の株価理論と株価
This is my site Written by admin on 2015年8月29日 – 10:00

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おはようございます。前号に続く、増刊をお届けします。今日の上
海総合は、始値の2978ポイントから158(5.4%)戻し、3085ポイン
トに上げています。8月28日の前場でも、3143と前日比で59ポイン
ト(1.9%)の上昇です。
http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=000001.SS

1日で5.4%の変動は、年間ボラティリティに換算すれば、16倍の
86.4%です。「乱高下」に当たります。乱高下が起こるのは、投資
家の心理(市場の集合的な心理)に混乱があるときです。「先がど
うなるか、わからない」という思いです。

$1万8000から急落していたNYダウも、安値の$1万5676から、$1
万6285へと$619(4%)戻しました。

理由は、中国株の下落から、FRBが予定していた9月の利上げを否定
する示唆をしたからという。しかし相変わらず、2014年10月の安値
$1万6000のレベルです。

8月28日は、米国株の反発を受けて、ヘッジファンドからの買いが
戻った日経平均も1万9083円と、前日比509円(2.7%)も上がりま
した。ただし年初来の高値の2万952円(15年6月24日)からは、
1867円(9%)も低い水準です。中国経済の混乱を主因に下げた幅
が1867円です。

日本の株価の上昇と下落は、今回も円安・円高と、同時で一対です。

円が売られ円安になると、株が買われて株価が上がる。円が買われ
て円高になると、株は売られて下がる。1分ごとの日経平均と、
「円・ドル」の相場を対照して見れば、はっきりとわかります。
http://nikkei225jp.com/chart/

売買額で70%を占めているヘッジファンドが「円売り・日経平均買
い」を行い、別のファンドは「円買い・日経平均売り」を行ってい
るからです。「円売りと日経平均買い」の金額が勝つと、円安と日
経平均の上昇になります。これを、新聞では曖昧(あいまい)に
「投機筋の買いや売り」と言っています。

15年6月以降、「中国株→米国株→欧州・日本・アジア株」と動い
ています。本増刊は無料版としても送ります。前号の続編ですが、
独立しても読めるように意識して書いています。

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<Vol338:修正号:現代ファイナンス論の理論株価と株価>
 2015年8月29日:有料版・無料版共通

【目次】

1.債券の理論価格をめぐって、原理的なこと
2.予想キャッシュフローを現在価値に割り引いて、理論株価とする
モデル(注)配当割引モデル(DDM)ともいう。
3.基本は、割引配当モデルでの理論株価
4.割引配当モデルから、利益と機会投資のモデルへ

【後記:中国政府への提言】

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■1.債券の理論価格をめぐって、原理的なこと

前号で、国債や社債等の、債券価格の理論計算を示しました。
いつも使っている、国債価格と金利の関係です。

ここでは、なぜ、〔額面価格×(1+表面金利×残存年数)÷(1+
期待金利×残存年数)=国債価格〕という算式になるのか、その原
理から説明します。未来のキャッシュフローを割り引いて現在価値
にする点で、理論株価とも関係しているからです。

・表面金利は発行時の約定金利であり、
・期待金利とは、既発国債の売買によって作られる、新たな金利の
ことです。

国債などの債券場合、将来の金利と返済が、確定しています。デフ
ォルトしない限り、利払いと返済は確実です。このため金利の変化
によってのみ、流通価格が変動します。

債券の場合のキャッシュフローとは、満期の受取額のことです。市
場の金利が上昇すると、発行時に約束された既発国債の表面金利は
同じでも、国債を新たに買う人が期待する金利(期待金利)は、変
化します。

このため、
・1%の金利のとき買われていた10年債は、
・1年後に市場の金利が2%に上がった時は、
その既発国債が、2%の利回りを生むように流通価格が下がります。

これは、金融市場における金利の1物1価の原理から来ています。過
去に発行された国債の利回りが1%の場合、市場の金利が2%に上が
ると、売買される流通価格が2%の利回りに一致するように下がる
のです。金利が2%のとき、利回りが1%の国債を買う人はいないか
らです。

利回り1%の国債をもつ人は、
・金利で損をする表面金利1%の国債を売って、
・2%の利回りの新規債に買い換えるでしょう。

この行動によって、市場の金利が2%に上がった瞬間に、全部の国
債の利回りが、2%になるように流通価格が下がって調整されます。
国債の価格は、日々動き、金利は国債価格に一致するように、変化
しています。

(A)金利1%での約定キャッシュフロー
=額面×(1+表面金利1%×残存年数)=満期の受け取り金額
(B)金利2%での期待キャッシュフロー
  =額面×(1+期待金利2%×残存年数)=満期での期待金額

具体的に言えば、
(A)金利1%での約定キャッシュフロー=額面100万円×(1+表面
   金利1%×残存年数9年)=100×(1+0.09)=109万円
(B)金利2%での期待キャッシュフロー=額面100万円×(1+期待
   金利2%×残存年数9年)=100×(1+0.18)=118万円

このままでは、満期のキャッシュフローに違いが出ます。このため、
発行時の表面金利1%の国債の価格が、期待利回り2%になるように
下落します。その価格は、〔額面100万円×(109万円÷118万円)
≒92.37万円〕です。

新たに92.37万円で買った国債は、9年後の満期に、〔金利1万円×
9年分+元本償還100万円=109万円〕になります。

残存期間9年の利回り額は、〔109万円-買った金額92.37万円=16.
63万円〕です。利回りの16.63万円は、買った金額92.37万円に対し
ては18%であり、年間金利は確かに、2%になっています。

●つまり、市場の金利が2%に上がったときは、1%の表面金利の既
発国債は、(100万円×(109÷118)≒92.37万円)に下がって、実
質的に、2%の金利になる。

以上が、〔額面金額×(1+発行時の表面金利×残存年数)
÷(1+期待金利×残存年数)=国債の流通価格〕の意味です。

発行時より市場の金利(期待金利)が下がると、分母が大きくなっ
て、債券価格は上がります。逆に、市場の期待金利が上がると、分
母が小さくなって、債券の価格は下がります。満期時の利回りを期
待金利に一致させるのが、債券の価格理論です。

期待金利とは、そのときの金利をベースに、1年先くらいまでの予
想される金利です。

(注)実際は、複利であり、(1+表面金利)の残存年数乗としま
す。しかし金利が5%以下で低いときは、残存期間が10年程度では、
単利法との差は無視できる程度です。

中央銀行は、償還期が短い満期1年以内の短期金利はコントロール
ができます。しかし満期1年以上の長期金利は、国債の売買によっ
て、金融市場で決まります。中央銀行も、市場の長期金利には追随
せざるを得ない。

債券の理論価格は、デフォルトの可能性を無視できる時期には、常
に流通価格と一致します。ただし、ギリシア国債のようにデフォル
トのリスクが高くなると、買い手が消えて売買が成立しないため、
利回りという概念はなくなり、無価値になるまで下落します。

【株券は劣後債】
債券とは違い、株券は、会社の清算のときしか元本(出資金)の償
還がないので、負債の中で返済順位が最後尾になる劣後債です。優
先債とは、国債のように、約定の元本償還がある債券を言います。
社債や国債は、優先債です。

劣後債では、市場の流通価格で売却することが、元本の回収の方法
です。

【株価の裏付けは、1株当たりの資本額】
株券の価値の裏付けになるのは、会社の自己資本です。最初に出資
した時点では、額面の価値しかない。出資金=資本金、だからです。

(注)国債の価値の裏付けになっているのは、利払いができ、返済
ができるという財政の信用です。

会社は、事業活動によって、利益あるいは損失を出します。
利益によって資本が増え、損失が生じると減ります。

当初の資本が1億円であり、1年後に、税引き後の純益で3000万円を
上げたとします。利益は、会計上では利益準備金といいますが、そ
れは資本であり、資本は利益準備金で増加します。投資準備金とし
てもいいのです。

【利益によって増える資本】
3000万円の税引き後純益なら、資本は1億円から1億3000万円に増え
ます。このため、1株の価値も、留保利益分の30%上がります。こ
の未確定な、将来の税引き後の純益が、株券の金利に当たるもので
す。

留保利益は、会社の現金や預金の増加になっていると考える人がい
ますが、それは誤りです。

資産(流動資産+固定資産)を左に、資本を含む負債(短期負債+
長期負債)を右に対照して示すバランスシートでは、留保利益の
3000万円(増加した資本)は、現金を含む資産の増加になっていま
す。つまり留保利益は、資産になって投資されています。

【資本の増加は、資産への投資の増加】
純益が増加しても、それが債権、在庫、固定資産など、現金以外の
資産の増加になっている場合、現金は増えません。

昨年度と今年度のバランスシートを科目ごとに比較した「資金運用
表(比較貸借対照表)」を作ると、留保利益によって、どんな資産
がいくら増えているかわかります。現金も資産のひとつです。

以上のような、動的な資本である株券は、どういった要素で、理論
価格が上がるのか。債券価格のように、単純な数式化ができるのか。

ここを追求するのが、以降です。ノーベル賞経済学者で、世界の証
券会社が、使っているオプション理論を作った1人であるロバー
ト・マートンが書いた『現代ファイナンス論』を参考にしています。

■2.予想キャッシュフローを現在価値に割り引いて、理論株価とす
るモデル(注)配当割引モデル(DDM)ともいう。

事業での予想キャッシュフローは、事業活動で得られる税引き後利
益のことです。

・将来の税引き後利益を予想し、
・それを期待収益率で割って、
・現在価値にしたものを理論株価とするのが、配当割引モデルです。

(注)期待収益率は、投資家が資本(株)に期待する利回りです。
これは、株式益回りとも言われ、PERの逆数である〔1÷PER〕です。
PERが15倍のときは、〔1÷15=6.7%〕です。資本の期待収益率は、
将来の利益が不確定なため、金利が確定した国債より、高くなりま
す。

ここで言う配当(原語はdividend)とは、実際の配当ではなく、税
引き後の純利益のことです。本当は、訳すとき、「予想純益割引モ
デル」としたほうが、日本ではわかりやすいかも知れません。

dividendの原義は、報酬として払われる利益だからです。なお、会
社の利益は、配当として株主に支払われず留保されても、その所有
権は株主にあります。

株価は、企業の将来利益を現在化します。この意味は、実際に10年
後や20年後まで経営しなくても、経営で生まれる予想利益が、現在
の株価に含まれるということです。株価は、ものすごい意味をもっ
ていますね。

▼理論価格の意味

理論株価とは、市場がつける今日の株価ではなく、株券を、不確定
な予想純益(キャッシュフロー)を生む債券と見たときの、理論上
の価値という意味のものです。

(注)返済順位がもっとも低い劣後債である株券は、債券であると
同時に、会社の資産の所有権を表象すると決められています。表象
とはシンボル、つまり代わりに表すことです。株主は、会社のオー
ナーです。

【実際の株価と理論株価には差がある】
実際の株価は、理論価格を中心にしながらも、市場での買いの人気
度で決まります。「買い>売り」なら上がり、「買い<売り」なら
理論価格より低い価格になります。計算された理論価格との差を
「市場の歪み」とも言います。

ヘッジファンドは、現実の株価に常に生じている、理論価格との歪
みを計算し、市場はいずれ公正な価格(fair price)をつけるはず
だとして、評価が低い株を買い、高い株を売ることを行っています。

これを、効率的市場仮説ともいいます。仮説は、考えという意味の
ものです。

このとき、情報の優位を利用するのが、ヘッジファンドです。市場
の参加者には、情報の格差があります。経済学ではこれを、情報の
非対称(asymmetric information)と言っています。企業の将来利
益に関係する情報の質と量が、人によって差があるということです。

【投資家の、情報の非対称ということ】
情報の非対称から、効率的ではない実際の株式市場で、安く歪んだ
株や債券を買い、同時に、高く歪んだものを売る裁定(アービト
ラージュ)を、投資で利益を出す原則とするのがヘッジファンドで
す。

価格の歪みが生じる原因は、集団的な市場心理です。

経済学でいう効率的な市場は、あらゆる情報を投資家の全員が知っ
ていて、その情報で瞬時に価格が調整されるという、理念的な、言
い換えれば、架空の市場です。

実際には、事実上のインサイダー情報や、すれすれのものを含み、
情報の量と質に格差があります。価格が相当に動いたとき、誰が最
初に大きく売ったか、あるいは買ったか、瞬時に公開されるなら、
インサイダーや、すれすれ情報が明らかになります。

ただし代理人(エージェント)が売買している場合、たどる必要が
あります。世界の銀行資産の50%があるとされるタックスヘイブン
(租税回避地:世界で50ヶ所)からの売買の場合、その誰かが、不
明です。

ヘッジファンドや投資銀行の本拠は、ほとんどが、租税回避地です。
グローバル企業のアップルやグーグルも、租税回避地を本拠にして
います。

▼参考:赤い中国発の世界リスク(リーマン危機の再来)の可能性

中国の株式市場は、携帯電話でやりとりされる「噂の市場」です。

共産党一党独裁のなかで、GDPなどの基本情報も含み、正確な情報
は、提供されていません。人民日報は政府の広報紙です。民主主義
に不可欠なのは、言論の自由をもつジャーナリズムでしょう。

株価は結果ですから、偽装はできません。瞬時に世界に伝わります。
しかし株価の原因になる国営企業の次期予想純益は、GDPのように
偽装ができます。不動産価格も同じです。政府機関が集計するとき、
高めにすることができます。

現在、株価の不良化(400兆円の下落)よりはるかに大きな、シャ
ドーバンクの理財商品を含む不動産ローンの不良(推計1000兆円)
が隠れているでしょう。

国民は、独裁の中国政府なら株価が下がっても株価を上げる「秘
策」をもっているという信頼を寄せていたふしが見えます。

6月13日からの株価暴落のとき、「政府が下落をとめる」と考えて
いた人が多かったからです。このときは、ほぼ30%安の3500ポイン
トで落ち着いていました(上海総合の株価指数)。

しかし、8月の3週の再びの暴落(3000ポイント割れ)により、「元
の切り下げや、利下げをしても、株価対策は効果がない」と考えを
変える人が増えているようです。

リーマン危機の後、問題になっている中国の不動産価格でも、政府
対策は効果がないと見る人が増えているかもしれません。

これは、今回の株価下落から、不動産価格の下落も明らかになって、
全面的な信用崩壊が起こり、中国発のリーマン危機(レッド・リス
ク:赤い中国からの危機)になる可能性も、示しています。

中国のGDP(商品生産の金額)は日本の2倍、米国の1/2に膨らんで
います。ユーロを揺るがせているギリシアのGDP(30兆円:2013
年)は、ユーロ18か国のGDP(1600兆円)のたった2%です。

世界化した商品市場の中で、中国は大きい。GDPで世界の15%を占
めています。日本は8%です。

信用崩壊は、人々の心理によって、「株価と不動産は下がる」とい
う予想が増えたとき、起こります。これが心理の臨界点です。株価
や不動産価格への信用も、その信用の崩壊(価格の下落)も、心理
的なものです。

■3.基本は、割引配当モデルでの理論株価

中国から話を戻します。将来の税引き後純益を予想し、それを、資
本が生む金利に相当する期待収益率で割り引いて、現在価値にした
ものが理論株価です。

数式で言うと、以下です。税引き後の純益であるキャッシュフロー
をCFとします。

(注)金利では、国債の金利がもっとも低い。事業の金利(資本の
金利)は、リスクがあるので、期待金利が高くなります。資本の金
利が、期待収益率です。資本×期待収益率=予想純益です。

以下の等比数列の合計が、割引配当モデルでの、理論株価です。

理論株価=(1年目の予想CF額)÷(1+期待収益率(%))
    +(2年目の予想CF額)÷(1+期待収益率(%))の2乗
    +(3年目の予想CF額)÷(1+期待収益率(%))の3乗
    +(4年目の予想CF額)÷(1+期待収益率(%))の4乗
    +(5年目)+(6年目)・・・・、です。

将来の税引き後純益(CF)を予想し、それを資本の金利である「期
待収益率」で割ります。期待収益率は、前述のようにPER(パー:
株価/次期予想純益)の逆数である「株式益回り」です。(注)逆
数は、1をPERで割ったものを言います。

市場の集団心理で見込むPERが15倍のとき、期待収益率は、1÷15で
6.7%です。これを丸めて7%とします。PERでは14.3倍です。
(注)個別の銘柄ではPERは相当にバラついています。ここで言う
のは、市場の平均株価と、合計された予想純益による、市場平均の
PERです。

投資家が、現在の株価によせる期待収益率の6.7%は、〔国債金利
+利益の実現リスク率〕と見ることができるものです(日経平均の
ケース)。

国債の金利は、政府がデフォルトしない場合、受け取りリスクのな
い「リスクフリー」な金利です。日本では、現在、PERの水準が15
倍付近ですから、「株の期待収益率=リスクフリー金利(0.4%)
+利益の実現リスク率5.7%=6.7%」でしょう。

株価は、過去の税引き後純益ではなく、企業の将来の未確定な税引
き後の純益を期待した価格です。将来利益を、〔期待収益率=リス
クフリー金利+リスク率〕で割り引いたものが、理論株価です。

【具体例】
1年目の予想税引き後純益を3000万円とし、2年目、3年目・・・も
一定の3000万円とします。

事業の予想利益には、それが実現しないというリスクがあります。
利益が年率で20%増えると予想されていても、将来利益は不確定で
す。20%増えないかも知れない。あるいは、競合と需要という環境
が好転し、予想より20%多いかも知れない。

このため、利益の将来予想の場合、リスクの控除後では、現在の利
益が続くとするのも、成長企業以外では現実的でしょう。

予想PERを14.3倍、期待収益率を7%とし、毎年の予想キャッシュフ
ローが3000万円のときの理論株価は、以下のようになります。

・1年後の予想純益3000万円を(1+期待収益率7%)で、
・2年目の3000万円は(1+期待収益率7%)の2乗である1.14で割っ
  て、割り引きます。
・3年目は、1.07の3乗で割って、現在価値(Net Present Value)
  にします。

このように、将来の予想純益を、資本に対して期待される期待収益
率で割り引いて合計したものが、理論株価です。

債券との違いは、将来の純益が未確定なため、その不確実性をカ
バーするため、リスクのない国債の金利(0.4%)より、期待収益
率がはるかに高い7%になっていることです。期待収益率は、株と
いう資本に対し、投資家が期待する利回りです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(3000÷1.07)+(3000÷1.14)+(3000÷1.23)
+(3000÷1.31)+(3000÷1.40)+(3000÷1.50)+・・・
=2803+2632+2290+2142+2000+・・・
=3000÷(1.07-1)=3000÷0.07≒4億2857万円=理論株価
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

数列の「無限等比級数の和」です。最初の期待純益3000万円を、上
式のように(期待収益の等比率1.07-1=0.07)で割ることによっ
て計算できます。数学ってすごい。(無限等比級数の和の公式:高
校の数2Bでした。記憶していますか?)

計算された理論株価4億2857万円は、株式益回り7%のときの〔PER
=1÷0.07≒14.3倍〕を、次期予想純益の3000万円に掛けたときと
同じです。

(注)PERの逆数の株式益回りは、株価に期待された「期待収益
率」です。

▼配当割引モデルは、実はPER理論だった

(A)次期予想純益3000万円×予想PER14.3倍≒理論株価4億2857万
  円
(B)次期予想純益3000万円÷期待収益率7%≒理論株価4億2857万
  円

PERで計算した(A)と、期待収益率で割ったときの理論株価は同じ
です。つまり、株価の高さ・安さの判断のとき使われる予想PERは、
「企業の将来利益の割引配当モデル」という理論的な背景をもって
いたのです。

PER(英語圏ではP/Eレシオ)は、割引配当モデルでの理論株価です。
この割引配当モデルが、理論株価の基本です。

【PERは既存事業の理論株価になる】
割引配当モデルでの理論株価は、既存事業の株価、つまり企業価値
と見ることができます。企業価値÷株数=1株の株価です。

単純に言えば、
既存事業の理論株価=次期予想純益÷期待収益率、です。

これは、
既存事業の理論株価
=期待予想純益×予想PER(現在は15倍付近)、としても同じです。

既存事業とした点に注意してください。予想PERは、既存事業の期
待利益を、リスクフリー金利+リスク率(=PERの逆数である株式
益回り)で割り引いて、現在価値化(NPV)するときの指数です。

▼シラーP/Eレシオ:過去10年の純益の結果で計算するPER
ノーベル賞学者のロバート・シラーは、1年の期待収益を将来に延
長した場合、変動が大きすぎ、利益情報が不足するとして、過去
10年間の税引き後純益を使った「シラーP/Eレシオ」を公表してい
ます。(米国S&P500社での株価指数)
http://www.multpl.com/shiller-pe/

過去125年で、このシラーP/Eレシオで25倍を超えたときは、過去2
回しかない。
(1)1929年からの、世界恐慌に発展したNY市場の暴落前、
(2)2000年4月の、IT株バブルの崩壊の直前の、高かった株価です。

2000ポイント近くだったナスダックも、現在、ITバブルの時の
5000ポイントに近い4812に上がっています(15年8月27日)。

【シラーの警告】
米国のS&P500社のシラーP/Eレシオは、25.2倍です。このため、シ
ラーは「暴落の恐れがあるバブル圏」とたびたび警告しています。
(注)ダウは、大手30社の株価指数です。500社を集計するS&
P500の方が、実態に近い。

【FRBによる、利上げ予定の発表の意味】
FRBが利上げを予定する主因も、3度の量的緩和のため株価と不動産
が、再び、バブル圏に達していると考えているからです。バブルが
大きくなって崩壊した場合、リーマン危機が再来するからです。

次回、大きな金融危機になったときは、米ドルが暴落し、FRBの通
貨増発が無効なる恐れも強い。FRBの通貨増発は、6年間で$4兆
(480兆円)行われ、これ以上のFRB信用の拡大、つまり通貨発行と
いうFRBの負債の拡大は、FRBの信用の臨界点に達するのではないか
という懸念をFRBが抱いているからです。

以上が、FRBが利上げを目論む真の理由でしょう。実際の利上げが
先に延びても、金利を上げるという予定を示すことで、金利の下落
と資産バブルの進行をとめることもできるからです。その理由は、
投資家が、将来の利上げを折り込んだ売買をするからです。

更に言うと米国株、日本株、欧州株が、中国の株価によって、同時
に動揺する理由は、「この6年、日米欧の通貨の増発で上がってき
た株価は、バブル圏ではないか」と感じている人が多いからです。
高所恐怖症があると、小さな情報にも、人々は大きく反応します。

【予想PERの水準:株価の期待収益率】
シラーP/Eレシオのように、株価を決めている予想PERの水準は、固
定的なものではなく、数億人の投資家の市場で決まっています。

量的緩和とゼロ金利の現在、予想PERで15倍という高い水準が、売
買の基準になっていると見ています。これは、当方の判断です。

日経平均が1万8574円のときは、東証一部企業の平均予想PERは、
14.75倍です(2015年8月27日)。

NYダウ(工業株30種)では、株価指数が$1万6654のとき、15.12倍
です(同日)。(キャピタル・パートナーズ証券:世界の予想PER
の現在値)
http://www.capital.co.jp/world_index.pdf

懸案の中国株では、上海総合指数が3083ポイントのとき予想PERは
12.81倍です(同日)。

株価がピークから40%安でも、上海総合指数のPERが12.81倍なのは、
中国人投資家が、企業が発表している次期予想利益は、まだ30%や
40%は高すぎると見ているからでしょう。

GDPや失業率と同じように、企業会計(国営企業が多い)にも、割
り引いて見るべき疑念があります。

■4.割引配当モデルから、利益と機会投資のモデルへ

企業は、既存の事業を維持しながら、新しい事業への投資をします。
この投資分は、税後純利益から配当を引いた、留保利益で計ること
ができます。資本の増加分が留保利益だからです。

●成長モデルでの企業価値(=株価の時価総額)では、既存の事業
価値に、新たな投資によって生まれる予想純益の現在価値を加える
必要があります。

一例を挙げると、成長企業と見られているユニクロの株価は、5万
290円と高い(15年8月27日)。

ユニクロの時価総額は5兆3345億円です。アップルの1/10、ウォル
マートの1/4。予想PERでは47.7倍という高さになっています。

(注)余談ですが、ユニクロ株のPER47.7倍は高すぎると判断して
います。本当はPER30倍付近でしょう。理由の一つは、日経平均が
225社の株価の単純平均で計算されていることです。
225社の株価の単純平均で、1株が5万290円と高いユニクロの構成比
は10.3%になります。このためヘッジファンドが、ユニクロ株を買
って上げることで、日経平均も大きく上げることができます。上位
5社(トヨタ、三菱UFJ、ホンダ、JT、NTTドコモ)の合計構成比は
5.2%であり、ユニクロ1社の半分です。なお、TOPIX(東証株価指
数)では、各社の時価総額が加重平均されているので、構成シェア
の欠陥はありません。

以上からも、ユニクロは、現在の東証1部の想定平均のPER15倍より
32.7倍分も高い。PERが高いため、株式益回りは〔(1÷PER47.7
倍)≒2.1%〕と低い。市場には、成長株に、ユニクロのような高
いPERの企業が登場します。
(注)米国のアップル(株価$112)の予想PERは13倍です。利益が
大きいため、PERはあまり高くない。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/quote?T=jp09/quote.wm&ticker=AAPL:US

▼成長企業の理論株価

こうした成長企業の理論株価は、どう考えたらいいか?これが、将
来利益が大きく増加すると予想されるときの株価モデルです。

PER47.7倍のユニクロのような企業では、留保利益、つまり資本の
増加の投資によって、大きな将来価値が加わっているとすることが
できます。以下が、利益と将来に向かった機会投資のモデルの株価
です。

成長企業の理論株価
=(既存事業の期待純益×PER 15倍)
+(投資による将来利益の現在価値:PER*倍分)

同じ結果になりますが、
成長企業の理論株価
=(既存事業の期待純益÷期待収益率6.7%)
+(投資による将来の利益増加÷期待収益率)

▼利益と機会投資のモデルまでを、一般化する

既存事業の株価は、PERが15倍水準のときは、(予想純益÷期待収
益率6.7%)です。

留保利益による投資によって増えると見込まれる利益は、どう計算
するか? (注)留保利益は、資本の増加です。資本の増加は、B/
Sの資産増加であり、資産の増加は投資です。

従って、投資の増加による利益の増加は、〔留保利益額×投資の収
益率〕と見ることができます(邦訳P305)。(注)ロバート・マー
トンのこういったところが、さすが頭がいいと感じます。『現代フ
ァイナンス論』です。

【事例】
・税引き後純益の内部留保率が60%(=配当率が40%)であり、
・投資事業の収益率(予想純益÷投資額)が8%だった場合、
・留保利益による投資の収益率は、60%×8%=4.2%になります。

これが、留保利益で増加した資本の分の、税引き後の純益率です。
この投資の収益率を加えた理論株価は、以下のように高くなります。

理論株価=(次期予想純利益×内部留保率60%)
÷(PER15倍基準の時の期待収益率6.7%
-留保利益での増加投資の期待収益率4.2%)

既存事業に投資家が寄せる期待収益率が6.7%のとき(=予想PERが
15倍のとき)、成長モデルでは、留保利益の投資による収益率(事
例では4.2%)を引きます。

結果は、留保利益の投資による収益率の分、理論株価が上がります。
留保利益による増加投資で、既存事業分よりは、予想純益が増加す
るからです。

次期予想純益が500億円だった場合、以下のように計算されます。
数式は単純です。

●成長モデルの理論株価=
(次期予想純益500億円×内部留保率60%)
÷(既存事業の期待収益率6.7%-新規投資の期待収益率4.2%) 
=300億円÷期待収益率2.5%=1兆2000億円

文章で言うと、(若干ややこしいですが・・・)
・次期予想純益が300億円、内部留保率(=1-配当率)が60%の成
長企業で、
・留保利益による増加投資の期待収益率が4.2%と想定される場合、
・市場の平均的なPERが15倍(期待収益率では6.7%)と想定される
ときは、その会社の理論株価は、1兆2000億円になる。

これは次期予想PERでは、〔理論株価1兆2000億円÷次期予想純益
300億円=40倍〕という高さです。

資本の増加による投資が利益を増やしていると予想されている成長
企業の場合の、市場の平均的な予想PER(現在、世界的に15倍付
近)を大きく上回る40倍という株価も、このようにして、理論化で
きます。

(注)ユニクロの現在のPERは47.7倍ですから、利益の成長部分を
大きく見ても、高すぎます。

繰り返しますが一般式で言うと、
理論株価=(次期予想純益×内部留保率)
     ÷(期待収益率-留保利益での増加投資の収益率)です。

これらの要素データは、どこからとるのか。

(1)次期予想純益は、企業が経営計画書で出しています。
(2)税引き後の純益の内部留保率も、経営計画書からとれますが、
  これがないときは、過去の配当率をもってきます。
(3)期待収益率は、市場の平均的なPERの逆数(株式益回り)です。
(4)自己資本での増加投資の収益率は、その企業の当年度の留保
利益で自己資本が増えた場合、その増加資本がもたらす増加利益率
です。

このうち(4)の、留保利益による増加資本がもたらす増加利益率
は、企業の長期経営計画書にある将来純益の増加(または減少)か
ら、計算できます。

なお、留保利益があっても、新規の投資が利益を生まない企業は、
成長モデルには属しません。こうした企業の理論株価は、新規投資
の予想損失率の分、下がります。

また、かつてのアマゾンのように、大きな赤字でも、高い株価がつ
いていたのは、数年先の利益が期待されていたからです。

会計の年度とされる1年は、事業にとっては便宜的な区切りです。
投資の時期は赤字でも、3年~5年後の大きな利益が予想できる場合、
未来の利益を期待する投資家は、高い株価をつけます。10年後の予
想利益では、不確実性が大きすぎますが・・・

エクセルの計算表を作って入れておけば、各企業の、次期予想純益
と、自己資本での増加投資の収益率を変数として、多くの企業の理
論株価を、一瞬で計算することができます。

【実際の株価は、動的不均衡】
実際の株価は、動的不均衡です。均衡したときが、理論株価です。
不均衡が日々の株価です。

理論株価を中心にしつつも、実際の株価は、日々の売買によって決
まるということです。イメージとしては「蚊やりの理論」です。

誘蛾灯がある田園を思い浮かべてください。蚊(個人投資家)や、
蛾(ヘッジファンド)は、誘蛾灯の周囲に集まり飛び回っています。

誘蛾灯の位置が理論株価です。飛び回る蚊や蛾の動きが刻々と動く
株価です。(日経平均リアルタイムチャート)
http://nikkei225jp.com/chart/

数式で言えば、実際の株価=理論株価±動的不均衡の部分

理論株価は、ここで示した算式で予測できます。しかし、市場の人
気でランダムウォ-クをする動的不均衡の部分を予測する方法は、
原理的に言って、ありません。現在もなく、将来もない。標準偏差
の確率論しかない。

現在の日経平均のような政府のPKO(Price Keeping Operation:
価格上昇作戦)は、株価に対する期待収益率を低下(=PERは上
昇)させます。期待収益率は、理論株価の分母です。これが小さく
なると理論株価も上がります。

【後記】
今回の株価の下落問題から、政府の対策は万能であると思う投資家
が減って、(実態では下げている)不動産の下落の露呈にも至れば、
中国発のリーマン危機になります。

資産バブルが全面崩壊した場合、株価も地価も〔半値・8掛け・2割
引=32%〕の水準にまで下がって、底値になることが多いからです。

中国の株価の40%の下落は、理論株価で言うとGDP(所得や需要)
の増加率が大きく低下して、自己資本での増加投資の収益率がマイ
ナスになった状態を示しています。

中国政府は、GDPの成長率の2%や3%への低下を認めて、大規模な、
4兆元(76兆円:GDPの約7%)の緊急補正予算を組んで財政支出を
し、GDPを2年で7%は引き上げるべきです。

これ以外の対策では、株価の下落は防げません。ところが、GDPは
実質で7%成長、マイルドな成長になっただけだと言い続けている
と、財政支出の拡大はできない。ディレンマ(矛盾に陥っているこ
と)から、脱出できません。

中国には、面子(めんつ)をもっとも重んじる文化がありますから、
「誤りだった」とは言えないのでしょうか。そうならば、言わなく
てもいい。黙って、財政出動することです。

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最近、送信したものの、目次です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<778号:完結編:低迷している金価格への見方と将来(3)>
        2015年7月15日号
【目次】

1.金の生産と産金コスト
2.世界1になっている中国の金需要
3.金ETFの残高の減少とか、SPDR社の下限700トン
4.米国の、膨らみすぎた金融資産が、金融危機を生む

【後記】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<779号:2015年、中国経済のルイスの転換点(1)>
       2015年7月22日号

【目次】

1.2007年からの中国企業の利益と株価
2.中国の8年間の株価とPER;その理由
3.不動産価格の停滞と、シャドーバンクの理財商品の問題

【後記】

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