特別号:2015年、中国経済のルイスの転換点(3)
This is my site Written by admin on 2015年8月22日 – 12:00

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こんにちは、吉田繁治です。8月末に向かって、熱暑の終わりが見
られます。長期予報では、お盆過ぎからは気温が下がるということ
でした。その通りです。スーパー・コンピュータでのシミュレーシ
ョンで、長期予報が当たる確率は、87%に上がっているという。

しかし株価は、気象のようには予測がでません。理由は、経済では、
人間の認識が株の売買の行動を変化させるため、「原因→結果」の
関係が、変わるからです。自然現象には、人間の認識や意志は、関
係しません。

自然現象は数値で、暑さ、寒さを計ることができます。気温では
30度以上になる日は誰にとっても暑い。しかし株価では、日経平均
の2万円が高いのか、安いのか、価格の判定はつきません。

今日の株価は、前日の株価が高すぎると思う人が売り、安いという
認識をもつ人が買った結果の一致点で決まったものです。売られる
株数と、買われる株数は一致します。売買量が一致したところが、
今日の終値です。つまり市場では、常に、株価が上がると考える人
の買いと、下がると認識する人の買いは同量です。そして明日は、
別の情報で一致点(需給の均衡点)が動く。それが株価です。

中国株(上海総合)は、2015年6月12日に5133ポイントという高値
をつけた直後から暴落し、売買の停止、空売りの禁止、資金投入を
含む、なりふりを構わない政府の株価対策にもかかわらず、3600~
4000ポイントの範囲を波動していました。天津の工場爆発が影響し
たのか、昨日の8月22日(金曜日)は、4.3%も下げて現在の価格は
3507ポインです。

(注)米国、欧州、日本の株価も、同時下落です。中央銀行のマ
ネー増刷で支えてきた世界景気の低下が、その背景にあることです。

中国の株価下落の背景には、中国経済の急減速(実質GDPの増加率
で4%台)があると見ています。GDPは、企業と世帯の所得の合計で
でもあるからです。7%の企業所得の増加を前提としていた株価が、
4%やそれ以下のものに変わったということでしょう。

本稿は、2015年7月末の有料版に、若干の変更を加えたものです。
<Vol.337::2015年、中国経済のルイスの転換点(3)>としてお
届けします。

生産年齢人口が減少するようになると、経済の成長率が一段低下し
ます。日本のルイスの転換点は、17年前の1998年でした。この
1998年は、日本の金融危機でもありました。

それ以降、わが国の実質GDPの成長率の増加は0%に近い。物価上昇
を含んだ名目GDPはマイナスです。中国は、日本の人口の年齢構成
の15年遅れです。

(注)米国の人口構造は、日本のほぼ10年遅れです。このためもあ
って、1998年から10年目の2008年には、住宅需要の減少がもたらし
たローンの不良化が、起点になった金融危機(リーマン危機)が起
こっています。なお米国では、日本や中国が向かう生産年齢人口の
減少ではなく、生じるのは、増加率の低下です。

中国の、生産年齢人口(15歳~64歳)の頂点は2011年です。2012年
から、日本より穏やかですが、働く世代の人口が減っています。働
く世代が、増加から減少にはいると、GDPの増加率は一段低下しま
す。中国政府の発表では、実質GDPの成長率は7%ですが、実際は4
%かそれ以下でしょう。なぜそれが言えるのか、本文で示します。
中国経済を知るときの、必須事項でしょう。

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<Vol337:2015年、中国経済のルイスの転換点(3)>
       2015年8月23日 無料版 
【目次】
1.総固定資本形成が47%と、極めて多い中国のGDP
2.総固定資本形成の集計と、合計に潜む問題
3.生産年齢人口の転換点:日本のケース
4.生産年齢人口の減少が始まった年からのGDPはどうなったか
5.2008年からの中国のGDPと住宅価格、そして株価
6.中国の生産年齢人口の転換点は、2012年から2015年
7.2015年以降の中国の実質GDP成長は4%

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■1.総固定資本形成が47%と、極めて多い中国のGDP

▼中国のGDPに占める総固定資本形成の大きさ

中国のGDPの第一の特徴は、「総固定資本形成」の構成比が47%と、
世界1高いことです。

総固定資本形成は、「政府の公共投資+民間企業の設備投資+住宅
投資」であり、その内容は不動産投資と設備投資です。不動産への
投資は、中国ではGDPの25%付近であり、極度に大きい。

〔GDP=個人消費+総固定資本形成+政府消費+輸出-輸入〕です
これを単純にまとめると〔GDP=消費+投資+純輸出〕です。

・「GDP=消費+投資+純輸出」は、企業の商品の付加価値額(=
粗利益額)と等しい。
・所得面では、
〔GDP=世帯所得+企業所得+減価償却費(日本は約100兆円)+政
府からの補助金-消費税等の間接〕、です。
・国民所得と言った時は、世帯所得+企業所得です。

中国のGDPで言う総固定資本形成は、
(1)民間の設備投資と、
(2)政府(中央+22省+特別区)の設備投資です。

政府統計の名目GDPは、2014年で63兆元(1260兆円:日本の2.5倍)
なので、〔1260兆円×47%=592兆円〕が、1年の総固定資本形成で
す。

数年ぶりに行くとビル、高層住宅、道路の建設で、風景がすっかり
変わっているのは、毎年、日本のGDP(名目で497兆円:15年3月)
以上の設備投資が続いているからです。中国の設備投資の特徴は、
不動産投資分が、その50%と高いことです。

イメージ的に言うと、政府、民間企業、世帯が、国を挙げて土地を
買い、ビル、住宅、道路、産業と生活のインフラを作っています。
日本の25倍の国土と10倍の人口の、大陸改造が進んできたのです。

▼不動産投資の多さ

◎中国では、株価より、高騰してきた不動産価格の下落が、はるか
にバブル崩壊の影響が大きい。株価の下落では、逆資産効果からの
消費不況はあっても、信用崩壊が連鎖する恐慌にまでには至りませ
ん。

不動産価格の大きな下落では、銀行融資や債券(理財商品など)と
の関係が大きいため、金融危機から恐慌にもなります。

共産主義なので、土地の所有は省です。売買されるのは、期間70年
の使用権です。地方政府である省や、特別行政区の財政収入のうち、
40%は、土地の使用権の売却から来ています。住宅や市街の開発を
増やし、地価が上がると、各省の財政収入が大きく増えます。

設備投資が多い新興国のインドでも、総固定資本形成はGDPの31%、
ブラジル21%、ロシア19%です。設備投資と公共投資の時期が終わ
った日本では20%、米国では17%です(いずれも2010年)。

▼個人消費は、GDPの35%と極めて少ない

【個人消費の比較】
米国、日本、欧州では、GDP(経済)の中の個人消費が、60~70%
と大きい。特に米国は70%であり、個人消費型のGDPです。店舗の
売上がGDPに直結しています。

中国では、総固定資本形成がGDPの中の47%と大きいため、個人消
費は35%の構成比であり、とても少ない。個人消費は、世帯の、食
品を含む商品と、サービス(交通、電力、教育等)の購入額です。
小売業の売上になるのが、個人消費です。総固定資本形成は、建
設・土木業の売上になります。

個人消費ではインドがGDPの57%、ブラジル61%、ロシア52%、日
本59%、ドイツ57%、米国71%ですから、中国の低さがわかるでし
ょう。

【世帯の貯蓄率の高さと総預金2320兆円】
世帯は可処分所得のうち、70%を消費に使い。30%を貯蓄し、企業
も利益を貯めます。その貯蓄が、銀行を介して貸し付けになり、不
動産と設備投資が行われています。2005年には、国民所得に対し、
貯蓄が50%に達しているくらい大きかった。

世帯、企業、政府を含む総預金(シャドーバンクの理財商品を含
む)の残高は、116兆元(2320兆円:2014年末)と、日本の総預金
の2倍に増えています。

概略でイメージすれば、中国は日本のGDPの2.5倍であり、2倍の金
融資産、2倍の国民所得です。ただし人口が10倍のため、1人当たり
では日本の1/5の所得です。

貯蓄は、金融機関を介して貸付金になり、このマネーで総固定資本
形成が行われています。

■2.総固定資本形成の集計と、合計に潜む問題

▼地方が国に報告した合計が、国のGDP

GDPの47%を占める大きな総資本形成は、市町村の集計を省が合計
し、省の合計を中国政府が集計しています。この中に、GDPの水増
し分が紛れ込んでいるということは中国の学者自身も認めています。

・公共投資の計画段階なのに、完成と報告されるものが混じってい
る。
・行政区をまたぐ公共投資が両方で集計され、二重に計上されてい
る。

各省の集計は、常に、実際の総固定資本形成額(実行ベース)を上
回っていると言う。国家統計局は、この二重計上と計画分の調整は
しています。しかし、この調整こそが、数値が恣意的なものなる元
です。GDPの計画が、結果になるということです。

・統計局で集計したGDPの成長率が高すぎるときは、低く調整する。
・実質GDPの数値が、政府の目標(現在は7%台)より低すぎるとき
は、高く調整する。

◎成長率が下がった2011年以降、各年、実質GDPで約4ポイント
(%)、高く調整されたと見ています。実態のGDPでは、実質で4%、
名目で6.6%くらいの成長になっているでしょう。下の数表では
()内が、当方が推計した実態GDPです。

【推計:4ポイント(%)の水増し】
総固定資本投資に4ポイント(%)くらいの水増しがあることは確
かでしょう。中央政府が意図的に水増しを行っているのかどうか、
わからない。政府の意志を受ける統計局が、自主的に調整している
のかも知れません。

中国に投資する米国の金融機関は、中国の実際のGDPを知っている
ようです。推計であっても、実際のGDPを知らなければ投資や融資
はできないからです。

中国に投資しているわが国の企業や金融機関は多い(約2万社)。
もっとも肝心な、経済の基礎数値である実質GDPを、どう見ている
のでしょうか。

(注)日本でも、内閣府が、報道されるGDP(予想)を出すとき、
政府の思惑に添うよう、0.*%の上方修正をすることは、たびたび
あります。1%という大きさではありませんが、6か月後に出る確報
(報道がない)で、目立たないように修正されています。

▼公表GDPと、推計GDPの対照:カッコ内は、当方の推計値

  実質GDP増加率   物価上昇率  名目GDP増加率
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2011年 9.3%(5%) 5.4%(5.4%) 14.7%(10.4%)
2012年 7.8%(4%) 2.7%(2.7%) 10.5%( 6.7%)
2013年 7.8%(4%) 2.6%(2.6%) 10.4%( 6.6%)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2011年は実質で5%成長、12年は4%、13年も4%付近でしょう。
2014年の実質GDPの7%成長(公表分)でも、上方修正が続いている
と見ます。今年の2015年1-3期も、実質7%成長とされていますが、
本当は、4%程度の成長率でしょう。

実質GDPが7%増加、名目成長で9%付近なら、企業利益も年率30%
は増えるので、株価の暴落は起こらないからです。

「GDP=企業の付加価値額」です。物価を含む名目GDPが9%増えれ
ば、企業の合計付加価値(粗利益)も9%増え、粗利益から経費を
引いた企業利益は、少なくとも30%増や40%増にはなります。

上場企業の合計利益が前年比で30%や40%増えているときに、株価
の暴落は起こりません。投資家は無意味に売るわけではない。企業
利益が少なく、株価が下がると思うから売るのです。暴落が起こっ
たということは、企業利益の増加がないということであり、GDP成
長の減速を示しています。

■3.生産年齢人口の転換点:日本のケース

▼労働から見たGDP

GDPは、労働面から見ると、以下の式になります。
GDP=1人当たり付加価値額×生産年齢人口数×就業率

これは、会社と同じです。GDPは付加価値額ですから、企業会計で
は、粗利益額です。会社の粗利益額(GDPに相当する)
=社員1人当たり粗利益額×社員数
=社員1人当たり生産性×社員数

【労働と設備の生産性】
1人当たりの粗利益額は、雇用の面では、人的な生産性です。設備
の生産性が、小売業では売り場1坪(3.3平米)あたりの粗利益額で
あり、製造業では、生産設備当たりの商品の付加価値額です。

【会社のGDP】
会社の粗利益額が増えるためには、
(1)社員1人当たりの生産性が上昇し、
(2)社員数が増えなければならない。

店舗で言うと、(1)の1人当たり生産性が増えるには、
・コンピュータ処理や作業改善で、社員が仕事を遂行する技術が進
歩して(技術進歩)、
・社員1人当たりが管理できる売り場面積が増えること(資本装備
率の増加)、が必要です。

つまり、店舗のGDP(=粗利益額)の増加とは、
(1)社員の、仕事の技術が進歩すること、(=技術進歩)
(2)社員1人当たりの売り場面積が増えること、(=資本装備率の
増加)
(3)社員数が増えること(=労働者数の増加)、です。

【国のGDPも同じ】
国のGDPも同じです。(1)の技術進歩を経済学では「全要素生産性
(TFP :Total Factor Productivity)の上昇」と難しく言っていま
す。

◎GDPの増加
=1人当たり生産性の増加×労働者数の増加
1人当たり生産性の増加は、(技術進歩×資本投入の増加)ですか
ら、この式を詳しくすると、以下になります。
◎GDPの増加=(技術進歩×資本投入の増加)×労働者数の増加

つまり、実質GDP(生産される商品+サービスの数量)が増えるに
は、
・技術進歩、
・資本投入の増加、
・労働者数の増加、がなければならない。

▼日本の生産年齢人口は、1998年が頂点だった

日本では、17年前の1998年に生産年齢人口(15歳~64歳)がピーク
を迎えました。

【頼りは、1人当たり生産性の上昇しかない】
働く世代の人口が減少に向かうと、GDPの増加では、1人当たり生産
性の上昇によるものしかなくなります。前述のように、〔GDPの増
加=1人当たり生産性の上昇×労働者数の増加〕、だからです。

日本の、全要素生産性の上昇は、1995年から2005年までの10年間の
平均1%未満で、資本投入の増加が1%弱、合計での1人当たり生産
性の上昇は、年率平均で1.5%程度でした。(46ページ:内閣府)
http://www.jpc-net.jp/annual_trend/annual_trend2013_4.pdf

その後の2006年から2011年の平均では、1人当たり生産性上昇(=
全要素生産性×資本投入増加)も1.5%程度でしかない。

【ゼロ成長の中身】
1人当たり生産性の上昇が1.5%しかないと、1年で労働者数が0.6%
(1000人に6人)減る場合、実質GDPの増加は、0.9%になります。

日本では1998年から、供給力に対する商品需要の弱さのため、物価
の下落も始まっています。このため、物価の下落分実質GDPは増え
ても、物価上昇を含む名目GDPの上昇では、17年間もほとんどゼロ
でした。

■4.生産年齢人口の減少が始まった年からのGDPはどうなったか

     1998年    2015年
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名目GDP 512兆円 → 500兆円(-2.3%:年率-0.02%)
実質GDP  465兆円 → 532兆円(+14.4%:年率+0.8%)
           (注)物価下落分が79兆円です
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~   
 
http://ecodb.net/country/JP/imf_gdp.html

【965万人の減少】
わが国の生産年齢人口は、1995年には8659万人でした。2015年には
7694万人です。ここ20年で965万人(11%)も働く世代が減ってい
ます。よく名目GDPを維持したといえる、大きな減り方です。所得
不足(=需要不足)からデフレになるのも、当然でしょうね。

年率平均では、マイナス0.6%です。労働者1人当たりの生産性が0.
6%増え、労働者数が0.6%減るとGDPの増加はゼロです。事実、お
よそこの通りになったのが、1998年以から2015年までの17年間でし
た。

(注)実際の就業者は、〔生産年齢人口(7694万人;2015年)×就
業率(73.5%)=5652万人〕です。女性と65歳以上の就業率が増え
れば、一時期は労働者の減少が緩和されます。しかし就業率には天
井があります。

▼2015年からは、年率1%で、生産年齢人口が減って行く

2015年から2040年は、生産年齢人口の減少が、2000年代より大きく
なります。2015年(7694万人)から、2040年は6103万人です。
1591万人(年間64万人:平均年率1.0%)も減ります。

1人当たり生産性が、過去の平均より相当に高くなり、年率2%の上
昇を続けたと仮定しても、実質GDPでは年率1%の増加です。
普通に見れば、今後、わが国のGDPの増加はない。

ただし労働者数が減り続けるため、働く人1人当たりのGDPと、平均
賃金は、名目値では年率2%は上昇します(インフレ率1.5%/年を
想定)。1人当たりの賃金は増加しますが、労働者合計での賃金の
増加は見込みにくい。

国立競技場の費用問題が起こっている、5年後の東京オリンピック
(2020年)までは、まだいい。その後人口減が比較的に少ない東
京・神奈川・愛知・滋賀・沖縄以外の県では、生産年齢人口の影響
が、大きくなって行きます。

この件ではたくさんのことを述べたいのですが、テーマが中国なの
で、別の機会にします。さて問題の中国です。

■5.2008年からの中国のGDPと住宅価格、そして株価

2007年からの、(1)中国の実質GDPの成長率(政府公表数値)、
(2)70都市の住宅価格指数(2008年=100)、(3)株価では上海
総合の指数を、並べて示します。

【中国の実質GDP、住宅価格、株価:2007年~2014年】
     実質GDP 住宅価格 上海総合 政府の対策
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2007年  14.2%   100    5100
2008年   9.6%   100    2000 ・経済対策が
2009年   9.2%   107    3000    4兆元(80兆円)
2010年  10.4%   115    3000  
2011年   9.3%   115    3000
2012年   7.8%   115    2200
2013年   7.8%   128    2000 ・住宅対策
2014年   7.4%   130    3000 ・株価対策
2015年6月  6.8%   123    5000
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
http://ecodb.net/country/CN/imf_growth.html(実質GDP)
http://www.smtb.jp/others/report/economy/25_2.pdf (住宅価
格)
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/ssce.html(株価)

リーマン危機の直前2007年まで、中国は、実質GDPで12%から14%
(07年14.2%)の高い成長を続けていました。

輸出額は2001年の$2660億(32兆円)から、2008年には日本の2倍
の$1.4兆(168兆円)増えていたのです。7年で5.3倍への増加です。
年率平均で27%という高い増加率を続けていました。

【輸出の急減:2009年】
金融危機になった欧米の輸入減により、この輸出が、2009年には、
$1.2兆(144兆円)に急落します。GDPの二桁成長を牽引していた
のは、輸出の平均27%/年の増加でしたが、これがマイナスに転落
したのです。この輸出の増加は、沿岸部の工場が、平均27%/年で、
生産と売上を増やしていたことを示します。

【株価の崩落:60%】
中国も、リーマン危機からの輸出減で、GDPの成長が急落する事態
を迎えました。このため2008年末は、輸出企業の利益を反映する株
価(上海総合の指数)は、5100ポイントから2000ポイントへと、
60%も下げています。半値・8掛けの水準(40%)に下がったので
す。
(2008年の急落↓)
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/ssce.html

【4兆元(80兆円)の経済対策】
中国政府は、このGDP成長の危機に対し、2008年11月に、総額で4兆
元(80兆円)の総合経済対策を発表しました。

4兆元は、中国のGDPの10%分に相当する巨額です。この対策によっ
て、リーマン危機から4%台に下がっていたGDPの成長は、2008年が
9.6%、2009年は9.2%に底上げされたのです。

◎4兆元(80兆円)の財政支出による公共投資を引くと、実態の実
質GDPの成長は、2008年が4%、2009年は4%だったでしょう。

▼不動産価格の上昇:2010年、2011年

2008年には上がらなくなっていた住宅価格(70都市)は、2009年に
は107へと7%上がり、2010年の115(7%上昇)になって行きます。
政府の不動産対策、住宅対策、公共インフラの投資が行われたから
です。このため、経済対策が切れ始めた2010年から2012年は横ばい
です。

中国の住宅の在庫期間は約10か月なので、政府対策の開始から価格
が上がるまでには、約1年を要します。留意しておくべきは、2009
年と2010年の不動産価格(年率で7%上昇)は、政府の緊急公共投
資で、人為的に上げたものだったことです。

【不動産価格と株価の停滞:2012年、2013年】
危機後の経済対策が切れはじめた2011年、2012年は、不動産価格は
上がらず、70都市のうち、30から40都市では下落しています。

企業の利益を反映する株価は、上海総合の指数で2000(2008年)か
ら、この経済対策により3000(2009年~2011年)に戻したものの、
2012には再び2200に下落し、2013年にはリーマン危機直後の2000に
まで下がったのです。

政府の対策が切れたあとは、リーマン危機での暴落の水準に戻って
いました(指数は2000~2500)。

【公表GDPの矛盾:上表を参照のこと】
政府が公表した実質GDPは、経済対策が切れた後の2011年も9.3%、
2012年は7.8%でした。二桁とは言わずとも、高い成長率です。7%
の成長は10年で2倍になる速度です。

実質成長が本当に7%から9%なら、個人の所得の増加も実質8%で
あり、企業の利益では、前年より30%~40%は増えます。

GDPの7%~9%の成長が本当なら、不動産価格の低迷と下落は起こ
りません。企業利益が本当に30%や40%も増えているなら。株価指
数がリーマン危機の安値(2000ポイント)に下がることもない。

【実態は、GDPの実質成長4%~5%:2010年~】
◎推計ですが、中国のGDPは、経済対策分(4兆元80兆円:GDPの10
%)を除くと、2010年から実質成長で4%~5%に低下していたので
はないか。(中国のGDPの4%成長が、株価と住宅価格から、導いた、
本稿の仮説です)

政府対策による上昇(2009年70都市の価格指数107、2011年の115)
を除くと、2008年から2012年は、住宅価格の上昇はないからです。
実質GDPが7%~9%も増えている中で、不動産価格が上がらず、下
がる都市が増えることは、ありえない。

▼減額調整の時期と、減額調整を減らす時期

中国のGDPは、地方政府である省の統計を合計すると、常に、余分
な分が出ていました(統計局自身が認めることです)。(注)中国
は1つの地方政府を1国と言っていいくらいの、人口の多さと国土の
広さです。

本当のGDPが二桁で成長していた2007年までは、中央政府は、省の
GDPを、妥当と思える値に合わせるように減額調整していました
(これは事実です)。

「省の統計を合計すれば、実質で16%や17%の成長になって高すぎ
る。これには、いくらかは不明だが、市町村をまたぐ二重計算と、
計画が完工とされている分が含まれるから、11%や12%付近に減額
調整しよう」、という判断です。

リーマン危機前の、公表された実質成長率は、2003年10.0%、
2004年10.1%、2005年11.3%、2006年12.7%、2007年14.2%でした。
http://ecodb.net/country/CN/imf_growth.html

経済対策が切れた2011年(政府のGDPでは+9.3%)から、「減額調
整が減額された」と推計できます。

証拠は、政府対策がない時期は上がらなくなった住宅価格であり、
2013年まで2000ポイント付近に下がったままだった株価です。実質
GDPが7%~9%増える中で、住宅価格が下がり、株価が低迷するこ
とは、ありえないことだからです。個人投資家と言っても、企業利
益が減っている中で、株を買い上げることはできません。

▼2014年の不動産価格の上昇は、政府対策による

2014年には、70都市の住宅価格が、115から128へと11%上がってい
ます。この上昇も、不動産業への融資になっているシャドーバンク
(20兆元:400兆円)の理財商品の不良化を防ぐための、政府の住
宅対策によるものです(2013年、2014年)。

中国では、土地価格が上がると、使用権を売る地方政府(省)の財
政収入が増えます。このため、政府政策として、不動産価格を上げ
るインセンティブが働くのです。

年5%~10%という、銀行預金より高い金利で、庶民のマネーを集
めている理財商品(投資信託風の金融商品)は、融資した住宅が5
%~10%上がり続けないと、米国のサブプライムローンのように不
良化します。

中国の世帯の、貯蓄率は、可処分所得の30%と高い。大きな増加貯
蓄が向かった先が、物価の上昇率以上の金利の、理財商品です。
(注)一般に、物価の上昇率より高い金利は、借り手が払えない金
利になって行きます。

現在の中国の住宅価格の上昇のなさは、政府の対策分を除去すると、
実態のGDP成長の減速を反映しています。増刊号(780号)で述べた
ように、住宅価格は、個人所得の将来期待によって決まるからです。

所得の将来期待は、毎月の手取り収入の増加によって決まります。
それは、政府統計ではなく、実態の名目GDPの増加率を反映するの
です。

▼2014年8月からの、政府の株価対策

2014年の11月からは国民の株式投資を増やすため、信用取引の規制
が緩和されています。株式市場に、8900万人の個人投資家が参入し、
レバレッジのかかる信用売買で、株価は2.6倍に上がった。信用取
引高は急増したのです。

これは、企業利益の増加が伴わない、官製相場での高騰でした。こ
のため、予想PERで21倍の水準を頂点に、2015年6月13日から、下落
します。6月12日には、政府が、過度の信用取引倍率を規制する動
きが報じられたからです。

実際は、不動産価格の下落、輸出の減少、国内売上の不振から、上
場企業に赤字が増えていたのかも知れません。株式市場に提出され
るのは、企業自身が作った次期の利益予想です。

このため、どの国でも、実態よりは大きな予想純益が出される傾向
はあります。中国では、高いGDPの公表値を反映して、その割合が
大きいでしょう。暴落を蒙った個人投資家は、「本当は、企業は真
っ赤っか」とも述べています。

信用借りでの売買は、2兆元(40兆円)に達していました。利益も
損も、レバレッジの倍数になります。証拠金の10倍のレバレッジ
(信用)で買っていた株が、2日間で10%下がると、証拠金(仮に
500万円)に対する損失は〔10%×10倍=100%〕になり、500万円
が一瞬で消えます。

損失は、10%の10倍の100%です。2日間で、株価が上がる過程で儲
けた500万円を失ったのです。3日目に更に5%下げると、追加の証
拠金が必要になります。損を承知で、成り行き価格で、売らねばな
らない。損は更に拡大する・・・

以上のようにして、6月13日からの1か月で、上海の株価指数は、
32%下げたのでした。

■6.中国の生産年齢人口の転換点は、2012年から2015年

中国の生産年齢人口を、国連のデータで調べると以下でした。
2010年以前は10年毎に、それ以降は5年毎に示します。この生産年
齢人口のデータには水増しはありません。

     生産年齢人口    増減    増減%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1970年  4億5442万人
1980年  5億8572万人 1億3150万人 +29%
1990年  7億5664万人 1億7092万人 +29%
2000年  8億6473万人 1億0809万人 +14%
2010年  9億9956万人 1億3483万人 +16%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2015年 10億0145万人    189万人  0%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2020年 10億0039万人   -106万人  0%
2025年 10億0021万人   -18万人  0%
2030年  9億8757万人  -1264万人 -1%
2035年  9億5140万人  -3617万人 -4%
2040年  9億0944万人   -4196万人 -4%
2045年  8億8483万人   -2461万人 -3%
2050年  8億4947万人   -3536万人 -4%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
http://esa.un.org/unpd/wpp/Excel-Data/population.htm

【生産年齢人口の急増の時代から、ピークアウトへ】
毛沢東の時代の生産年齢人口は、今の半分以下でした。1970年から
2015年までに、中国の生産年齢人口は4億5442万人から10億0145万
人にまで、2.2倍になっています。この40年、中国は人口爆発の時
代でした。

中国は、1980年代から、一国二制度で、資本主義をまず5つの経済
特区に取り入れ、次は沿岸部、そして内陸の大都市部へと工業地帯
を拡大して行きます。この過程で、農村部の人口が、「農民工」と
して、毎年、1000万人から1600万人も、都市部の工場に移転します。
2010年には、工場や店舗で働く移動人口の累計は、2億6000万人に
達しています。

農村部の生産年齢人口の増加分は、そっくり都市部に流れています。
このため工業化していた都市部の、働く世代の増加は、年5%~8%
という高いものでした。

(1)まず、〔都市部のGDP=1人当たり生産性の上昇×労働人口
(5~6%増)〕です。

農業労働者が、労働許可をもらって都市部に移動し、工場で働くよ
うになると、その人の生産性は、5倍以上になります。しかも、1人
当たりの生産性は、工業化のため年率で6~7%は増えていました。

(2)〔都市部のGDP=1人当たり生産性の上昇(6~7%)×労働人
口(5~6%増)=1.11~1.13〕です。

経済成長は、年率で11%~13%(実質)という高いものになってい
たのです。10年で区切った平均の経済成長は、以下です。

【中国の実質GDP:1980年から2015年の35年間】

1980年代    GDPの実質成長10.0%/年
1990年代    GDPの実質成長10.0%/年
2000年代    GDPの実質成長 9.3%/年
2010~2015年  GDPの実質成長 9.3%/年(政府公表分:IMF)
http://ecodb.net/country/CN/imf_growth.html

しかし、生産年齢人口は、2012年から増えなくなり、2015年からは、
減り始めます。

農村部からの、平均1300万人/年の、農民工の流入も加わって、工
業化した都市部では、年率で6%くらいは生産年齢人口が増えてい
ました。1人当たりの生産性上昇が7%付近なら、都市部の実質経済
成長は、実質で13%という高さになります。

例えば香港の北のシンセンは、毎年100万人の労働力が流入し、人
口は1500万人に達しています(2011年)。年率で10%以上の、労働
力の増加があったのです。シンセンのGDPは年率20%で増え、10年
で6倍にはなっているはずです。

ところが上表に見るように、生産年齢人口は、2012年に頂点を迎え
ています。2025年までは微減し、2025年以降、5年で1%減少する時
期に入ります。

■7.2015年以降の中国の実質GDP成長は4%

都市部の労働人口の増加は、農村部からの移動を含んでも以下にな
るでしょう。

13億5700万人の現在の人口は(2013年)は、すでに、都市部が51%
(6億9200万人)に増えて、農村部の49%(6億6500万人)を超えて
います。GDP(生産商品の付加価値)では、都市部が85%、生産性
と所得が都市部の1/5と低い農村部は15%でしょう。

【都市部の生産年齢人口の増加率予測:
全国の生産年齢人口は減少】
・2010年~2015年 年率増加 3%程度
・2015年~2020年 年率増加 2%程度
・2020年~2025年 年率増加 1%程度
・2025年~2030年 年率増加 1%程度

【全国のGDPの増加への要素別の寄与度(公表)】
2011年から2013年の、平均の実質GDPの増加は、年率でほぼ9%でし
た(公表分)。この時期の、要素別の寄与度は、資本増加(設備増
加)が4%、1人当たり生産性の増加が4%です。労働の増加は、全
国で1%程度に減っていました。
http://www.nli-research.co.jp/report/report/2014/02/repo1502-1.pdf

【推計】
この2011年から13年の、政府対策分を除くGDPの増加を、本稿の推
計である4%程度とした場合、
・資本の増加(設備の増加)2%、
・1人当たりの生産性の増加1%、
・労働人口の増加が1%程度になります。

GDP成長の内容は、おそらくこの程度でしょう。経済規模が大きく
なると、どの国も、成長率は低下します。

2015年以降は、都市部の生産年齢人口は、上表のように、農村から
の流入分を入れても、2%程度しか増えない。そして、1人当たりの
生産性の増加は、1%程度でしょう。以上から推計される、実質
GDPの増加は都市部でほぼ4%、農村部は0%です。

【ニュー・ノーマル】
中国は2012年から2015年でルイスの転換点を迎え、今後は、政府も
言っている「New Normal(新しい常態)」の成長率になります。そ
のニュー・ノーマルは、政府公表のGDP7.0%(2015年:4-6期)で
はなく、4%台でしょう。

二桁台の成長から4%の下落では、ショックが大きい。このため、
今後は、年率で1%くらいずつ、GDPの実質成長は減額されるでしょ
う。しかし、GDPが日本の2倍以上の$10兆(1200兆円)の国の、4
%成長は、十分に大きいのです。

【後記】
3回にわたって、中国経済の減速の内容を、可能な限り実態と判断
できる数値に基づき、推計しました。

今回の株の下落が、住宅の10%以上の下落になって波及し、金融危
機にならない限り、海外への影響は、ほとんどありません。海外か
らの中国株への投資は、時価総額の2%(20兆円)とほとんど無視
できるくらい小さいからです。中国の個人投資家の損で終わり、そ
れは、逆資産効果から、国内経済の不況要因になります。日本の
「インバウンド消費」も3か月後からは減ります。

中国に進出している日本企業は、売上額の伸びの低下や減少から、
GDPの大きな減速を感じているはずです。

2015年秋になりますが、中国の住宅価格の前年比に注目しておきま
しょう。71都市で10%以上の下落が公表されれば、金融危機の危険
が生じます。

住宅は、個人が買うので、株価と同じように、政府が粉飾はできま
せん。日本の株価バブル崩壊のとき(1990年:3万9000円→2万円
台)、不動産が下落したのは2年後の1992年からでした。

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最近、送信したものの、目次です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<776号:低迷している金価格への見方と将来(1)>
        2015年7月8日
    
【目次】

1.2015年の金価格
2.1971年から2008年までの金価格
3.2008年の$850からの金価格
4.2011年からの、各国中央銀行の買い400~500トン/年が金価格を
上げた
5.奇妙な売買の動きをしている、金ETF


<777号:増刊:低迷している金価格への見方と将来(2)>
         2015年7月13日

【目次】
1.2000年代後期の金価格を左右した、金ETFの動き
2.2013年と2014年に、誰が金ETFを1040トン売ったのか?
3.新興国(BRICs)を中心にした世界の中央銀行の、
金の買い増し(2011年~)
4.米国FRBの、金へのスタンスについての推測
5.「金ETF」を使うことの決定:ETF=Exchange Traded Funds
6.金ETFを利用する(決して語られない、論理的な推測)
7.FRBによる金の売り
8.経常収支が赤字のドルが、強い通貨でなければならないという矛
盾が、2013年の、FRBによる金売り崩しの原因

【後記:ギリシア危機と中国株の下落】

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