有料版の増刊と共通:低迷している金価格への見方とその将来(2)
Written by admin on 2015年7月13日 – 09:00
おはようございます。有料版の発行号数が777の並びです。パチス ロでは、確か大当たりですよね。有料版776号に続き、ゴールドに ついてです。論拠を上げながら、丁寧に論じるつもりです。 本稿は、有料版、無料版共通とします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol 335:有料版の増刊と共通 :低迷している金価格への見方と将来(2)> 2015年7月13日 【目次】 1.2000年代後期の金価格を左右した、金ETFの動き 2.2013年と2014年に、誰が金ETFを1040トン売ったのか? 3.新興国(BRICs)を中心にした世界の中央銀行の、 金の買い増し(2011年~) 4.米国FRBの、金へのスタンスについての推測 5.「金ETF」を使うことの決定:ETF=Exchange Traded Funds 6.金ETFを利用する(決して語られない、論理的な推測) 7.FRBによる金の売り 8.経常収支が赤字のドルが、強い通貨でなければならないという矛 盾が、2013年の、FRBによる金売り崩しの原因 【後記:ギリシア危機と中国株の下落】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.2000年代後期の金価格を左右した、金ETFの動き ▼1800トン分の金ETFが作られた 2004年から、ペーパー・ゴールドとして導入された金ETFは1年に 200トンから300トン買われ、2013年の残高は2500トン(現在の時価 で12.5兆円)に達していました。 最も多かったのは、リーマン危機後の2009年の623トンの増加です。 米国の金融危機からの、米ドルの価値下落を恐れた買いでした。現 物の金では、流通在庫が少ないので、一度での大量買いは難しい。 このため、金価格と同じことを保証するETFが使われたのです。 (注)発行元はスパイダーゴールド社、NY、ロンドン、ヨハネスブ ルグ、iシェア、オーストラリア市場の合計。(Gold Survey 2015) https://forms.thomsonreuters.com/gfms/ 金ETFの発行が増えることは、発行元(スパイダー・ゴールド社が 筆頭)による、現物の買いと保管の増加も示します。 現物拠出型ETFでは、発行元は、発行額の金を保管する義務がある とされているからです。ただし金ETFの増加が、即座に発行会社に よる金現物の買いになるのではない。時間差があります。 金ETFが発行元に売られたときは、発行元は保管している現物を売 ることになります。金ETFには、現物拠出型が多いとされています ので、現物の売買と同じことが市場で起こります。 (注)リンク型ETFの場合、ETFが金価格と同じであることを、発行 元が保証しますが、金現物は持ちません。ETFの売買の市場への効 果は、株ETFと同じです。 金現物と同様、売りが増えれば下がり、買いが増えると上がります。 ETFと現物で生じる価格差は、高いものを売って、安いほうを買う 「裁定取引」によって、即座になくなります。(裁定取引) http://www.jsda.or.jp/manabu/qa/derivative06.html ▼金ETFの増加と、2013年からのマイナス 【2005年~2012年】 2005年 208トン 2006年 260トン 2007年 253トン 2008年 321トン(9月にリーマン危機) 2009年 623トン(最大の増加) 2010年 382トン 2011年 185トン 2012年 279トン http://www.gold.org/supply-and-demand/gold-demand-trends 【2013年の異変】 以上のように2012年まで金ETFは増加を続け、2600トンに達してい たのです。ところが2013年には突然にマイナス880トン、翌2014年 はマイナス160トンでした。 2013年に、金相場を崩落させる量の880トンが売られ、2014年も、 160トンの売り超が続いたのです。 ◎2015年の第一四半期(1-3月)は、25.7トンの買い増しで、よう やく金ETFの売りによる値崩しが終わった感じもします。スパイ ダーゴールド社が発行した金ETFの残高が、700トン台に減っている からです。 http://www.gold.org/supply-and-demand/gold-demand-trends 金市場では、年間400トンくらいの買い超、あるいは売り超以上か ら、価格変動が大きくなる傾向があります。金市場で、供給量の 10%の不足や過剰が生じるからです。 ◎2011~2012年には、(1)金ETFの発行増加と、(3)新興国の中 央銀行の金購入により、1オンス$1800から$1900のピーク価格を つけていました。 ところが2013年の金ETFの880トン(年間の金供給量の20%)の売り 超を主因に、$1300付近にまで急落しています。続く2014年も、金 EFFは160トンの売り超でした。 2014年の金価格が、$1150や$1200と低迷した最も大きな原因は、 2012年から2014年の、金ETFの売り超(1040トン)です。 【円安・ドル高で、日本では、国際市場の金価格下落がマスクされ る】 2015年7月11日店頭小売価格は、円では1グラム5025円(税込み)で すが、ドルでは1オンス$1159(1g=$37)と安い価格です。 円安のため、円では下げていませんが、国際価格のドルではピーク から38%下げた水準です。金を買うことは、円を売りドルを買うこ とでもあります。ドル高(円安)のとき円で見た金価格は上がり、 ドル安(円高)になると、円での金価格も下げるからです。 ■2.2013年と2014年に、誰が金ETFを1040トン売ったのか? 【金ETFを買っていた人々】 2004年から2012年に、1年200~300トン分の金ETFを買っていた主体 は、(1)米国の年金基金などの機関投資家と、(2)ポールソンや ジョージ・ソロスなどの、大手ヘッジファンドでした。 機関投資家の資金は、米国人の年金積立です。これらが、移動・保 管・セキュリティが難しい現物ではなく金ETFを買うことは、理解 できます。元々、金ETFの導入は、機関投資家や銀行などの大口の 買いと保有を行いやすくすることが目的とされていたからです。 しかし年金基金は長期投資であり、金ETFの1000トンの、一斉売り のようなことは行いません。 ヘッジファンドに資金運用を預託するのは、JPモルガンチェースや ゴールドマン・サックス、シティバンクなど、レポ金融で元資金を 集める、米国の投資銀行部門です。 ▼ヘッジファンドと、その運用預託資金 2013年にはETFの売り、先物売り、空売り使い、売り崩した主体が、 ヘッジファンドであることは、間違いない(先鞭をつけた代表がジ ョン・ポールソンとジョージ・ソロス)。 米国の大手投資銀行は、08年の金融危機(流動性不足)以降、流動 性を供給した米国FRBからの意向で、動きます。 ヘッジファンドに金ETFを売らせた首謀は、幾重かのヴェールを通 した米国の財務省とFRBでしょう。売り崩しは、政治的であり意図 的です。 ◎理由は、リーマン危機のあと、米ドルの実効レート(ドルの価 値)が20%も下がっていたからです。そして、新興国の中央銀行が、 米ドルに変えて、金を年間に400から500トン買って、下がる米ドル に代わる準備資産にしてきたからです。 決して言われないことですが、中央銀行にとっては、準備資産が真 のマネーです。金は、1971年に金ドル交換が停止されたあとも、中 央銀行にとって準備資産であり続けています。 世界の中央銀行の金保有は、3万トンを超え、地上の宝飾を含む金 (17万トン)の18%です。 中央銀行のバランスシートは、単純化すると以下になります。通貨 の発行は、中央銀行にとっては負債です。その負債の信用を担保す るのが準備資産です。 資産 負債 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 準備資産 **** 通貨発行 **** ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 基軸通貨であるドルは、金ドル交換停止の1971年以前は、FRBがド ルとの交換を保証し、金と同等のものだったので、金と同じように 世界の中央銀行の準備資産になっていました。 1971年以後は、金と交換できないペーパー・マネーになりましたが、 「慣習」で、準備資産であり続けています。世界の政府・中央銀行 が持つ、$12兆(1440兆円)に増えた外貨準備でも、かつては80% が、現在も60%が米ドルです。 ▼金融危機後の、ドル増刷で、80に下がっていたドルの実効レート 米ドルの実効レート(世界の通貨に対する貿易加重平均でのレー ト)は、2009年には97ポイントでした。この後、金融危機対策とし てのFRBによる量的緩和(ドルの増刷)を原因に下がり、2012年初 頭には80になったのです。 http://economic.investwalker.jp/e-statistics/sources-statis/frb-static-list/frb-fx-report/frb-real-broad-usd/ 一方、下がった米ドルとは逆に、2009年以降の金は1オンス$1000 (1g=$32)から2012年の$1900(1g=$61)と、1.9倍の高騰 をしていました。 ドルの反通貨である金から見れば、ドル価値が42%に下がったこと を意味します。(ドルが20%下落、金は190%→0.8÷1.9=0.42) これは、各国の中央銀行にとって、米ドルで貯めていた準備資産が、 金に対しては半減以下(42%)に減ったことを示します。 【新興国の中央銀行の準備資産はドル】 新興国の中央銀行では、中国(人民銀行)を含み、準備資産と政府 の外貨準備は米ドルであることが多い。 (注)日本では、日銀の準備資産は日本国債です。円国債が、円と いう通貨の信用を裏付けています。765トンの金をもつとされてい る日銀は、米国によって、「ドルへの信認を崩す」として、金の増 加保有は禁じられているはずです。このため、日銀の金保有高は、 つねに一定です。現物は、ほぼ全量が米国FRBに預託されています。 【ドル】 中国、産油国、新興国(BRICs)では、自国の国債の信用度は低い。 このため貿易で稼いだ米ドルを、準備資産にしています。自国の通 貨も信用が低いため、中国のように、事実上、米ドルにリンクする ことが多いのです。 ドルリンクとは、米ドルと自国通貨を、狭い一定幅(5%以内等) でしか変動しないように、政府と中央銀行が為替に介入することで す。 自国通貨が上がった時は、準備預金を売ってドル買い介入をし、 下がるときは、自国通貨買い・ドル売りの介入をします。 ただし、国の経常収支(対外収支)が、中国や日本にように黒字を 続けていれば、自国通貨高の傾向があるので、普通は、ドル売り加 入の一辺倒です。日本も、円高を是正するための、円売り・ドル買 い介入しかしたことがない。 ■3.新興国(BRICs)を中心にした世界の中央銀行の、 金の買い増し(2011年~) 世界の中央銀行は、2000年から2009年まで、毎年450トンの枠で、 金を放出し続けてきました(ワシントン条約)。ところが、リーマ ン危機以降、2010年から、突然、ゴールドを買い越しはじめたので す。 金融危機直後の2010年は、まだ77トンの買い越しに過ぎなかった。 ◎ところが2011年からは、金相場を動かす規模の457トンの買い増 しに転じ、2012年は更に多く544トンもの買いをしています。 2011年からの2年で、1000トンもの金を、新興国の中央銀行が買い 増したのです。その後も、中央銀行は400~500トン/年で、買い増 しを続けています(2015年)。(下のサイトの公的部門が、世界の 中央銀行による金の買い増しの合計量(トン)) http://gold.mmc.co.jp/market/s_a_d/ 【40年間、売り手だった】 中央銀行は、金ドル交換停止の1971年から40年間、一貫して金の売 り手でした。1999年からは1年の売り越し量を450トンに制限すると いう「売る量の制限」をしているくらいです(ワシントン協定:3 回更新)。 1990年代の米ドル一極支配(金融ローマ帝国)の中で、世界の中央 銀行が、ドルを売って金を買い、通貨価値の裏付けになる準備資産 にすることは考えられなかったからです。1999年には、「金は終わ った」とされていました。 1971年以降は、金の裏付けがない基軸通貨を発行している米国の財 務省とFRBは、金が通貨として認識されることを、否定し続けてき ました。 【米ドル一極体制が1990年代だった】 1989年にソ連が崩壊し、東西冷戦が終結した後、米国一極の「金融 ローマ帝国」とも言われたのが、1990年代でした。 米国が、経常赤字の累積($20兆:24000兆円)で、米ドルを散布 しても、日本、中国、欧州、産油国などの海外からは、ドル国債や 米国株の買いがあったからです。(注)ドルの帝国循環という。 海外がドル国債や米国株を買うことは、米国の貿易代金の支払いで 海外に出たドルを、米国に還流させることです。 一方で1980年代と90年代に、1オンス$250(1g=$8≒800円~ 1000円)にまで下がった金は、見向きもされなくなっていました (1999年)。 【1980年代と90年代の、FRBによる金放出】 米国FRBは、1980年代と90年代、一貫して、市場への金放出を続け ています。20年間、金価格を下げるために、1年平均で400トンの放 出を続けたとすれば、合計で8000トンです。米国のFRBは8133トン (公称保有量)を持ってはいません。ゼロであるはずです。 【2000年代の金放出は、FRB以外の、先進国中央銀行】 2000年代、ワシントン協定に参加した先進国の中央銀行は、金価格 が1オンス$1000に向かって上がる中、合計で1年に400~500トンの 売却を続けていました 2005年の、世界の中央銀行の合計での売り超は663トン、2006年は 365トン、2007年484トン、2008年235トンの売り超だったのです。 先進国の中央銀行が売った400トンの金が投資家に渡る過程で、金 価格は2000年に対し、3倍への高騰をしたのです。 【2008年の金融危機からの異変】 この売り越しが34トンに急減するのは、リーマン危機直後の2009年 です。翌2010年には戦後初めて、77トンの買い買い越しに転じ、 2011年には、その買い越しが457トンに増えたのです。 (注)2010年には米国FRBと同じ行動をとるIMF(中央銀行のひと つ)が放出した400トンの金を、インドや中国が買っています。 IMFを除く中央銀行の金の買い増しは、実際は、2010年から始まっ たと見ていい。その後、2012年には544トン、2013年は409トン、 2014年は466トンの買い越しを続け、2015年現在も、買い越しが続 いています。 世界の中央銀行、特に新興国は、なぜ、2010年から準備資産として 金を、大きく買い増しているのか?理由は明らかです。 ◎リーマン危機以降、ドルの価値(実効レート)が下がって、金が 上がっているからです。ドルの価値が下がり続ければ、準備資産の 不足が生じるからです。 ■4.米国FRBの、金へのスタンスについての推測 【2000年から】 2000年以降、金の価格が上昇を続ける中、米国FRBは、向こう10年 以内に、金価格を下げる必要があることを考えていたのではないか (論理的な推理)。 2000年以降も、金価格を下げるための、主に欧州の中央銀行の金放 出は1年に450トンレベルで続いていたにもかかわらず、2009年には 金は3倍の価格に高騰していたのです。 この金の高騰は、米ドル信用の低下と見なされます。 http://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/ 多くの人々は、そう考えていないかも知れません。しかし、不換紙 幣(信用通貨)のドルを発行し、ドルを世界の基軸通貨にもしてい る当時者である米国財務省とFRBは、金の高騰は、ドル信用の低下 と考えています。 民主革命を恐れるのが王であるように、頂点に立つ者は、権威の根 拠を意識しています。そして根拠の崩壊を、誰よりも強く不安に思 っています。王や独裁者は不安です。このため北朝鮮や中国のよう に、過剰な粛清をします。 【金は大切な通貨だから、金・ドルの交換を停止する】 1971年に、ニクソン大統領が、同盟国に事前通告なしで金ドルの交 換停止を発令したとき、米国FRBは、「金がもっとも肝心なものだ から、米国からの流出を阻止するためだ」と言っていました。 一方で、世界と国民に対して、FRBは「金はバカげた金属だ」と言 い続けていたのです。 金ドル交換停止の後、FRBは金に対し、矛盾した姿勢を示すように なっています。事実は、本当は、FRBが大事なものと考えるから、 金と紙幣であるドルの交換を停止したのです。 大切でない金属なら、1オンスが38ドルと交換され、全部が、国外 に流出しても構わないはずだからです。 【金戦争の20年:フェルナンド・リップス】 金ドル交換停止の1971年以降、米国FRBは、市場の実勢では上がり 続ける金に対し、金価格を撲滅するための「金戦争」を仕掛け続け ています(フェルナンド・リップス:『今なぜ金は復活か(2002 年)』)。 方法は、「売り崩し(空売り)」でした。 金は、ドルの反通貨としての性格を帯びます。 1999年の金価格は、1オンス$250(1g=$8≒900円)に下がって います。1980年1月にピークで$850だった金は60%も下がり、金と の戦争は、FRBの勝利に終わったように見えていました。 1999年のワシントン協定の締結は、FRBの売り崩しによって金価格 高騰との戦争は終わったと考えていた証拠でしょう。 ■5.「金ETF」を使うことの決定:ETF=Exchange Traded Funds 市場の金の価格の高騰を抑えて、コントロールするには、FRBが金 を保有していなければならない。IMFの発表では、どの統計でも FRBは8133トンの金を保有し続けています。数十年間、一桁目の数 字の変化もない。実に変なことです。 【金価格を下げる目的で、金を放出していたFRB】 1980年代、90年代の金戦争で、FRBが、高騰する金価格を下げるた め、ブリオン・バンク(JPモルガンやゴールドマン等)にリースし、 ブリオン・バンクがその金を、売却していたことは、歴史的な事実 です。ブリオン・バンクとは、金の仕入れ・販売を許可された銀行 を言います。 ブリオン・バンクが売った金を、買い戻してFRBに返却したのなら、 限月での先物の買い戻しと同じです。買い戻す時点で、価格が上が ったはずです。80年代から90年代の20年間、この気配はないのです。 リースされたブリオン・バンクは、金現物ではなく、現金でFRBに 返済したのでしょう。このためFRBには8133トンの所有はなく、お そらくゼロや数百トンです。 【FRBが保管する金】 ケンタッキー州の、核兵器で守られたフォートノックスに積まれた ゴールドバーは、ドイツ(3395トンの保有)、中国(公式発表では 人民銀行が1054トン)、日本(日銀の765トン)などが、FRBに預託 した金です。 中国政府・人民銀行の、現在の金保有量は、謎のひとつです。香港 経由の金輸入と、世界1になっている国内生産(428トン:2013年) から、4000トン以上の金保有は確実と思われます。 金保有高は、軍事力のように国家機密に属するとされています。ド ルの受け取りつまり経常収支の黒字が世界1大きい中国政府・人民 銀行は、世界で一番金を集めています。 フォートノックスやFRBに現物はあっても、米国FRBのものではない。 中国に渡って、問題になったことがある比重が同じタングステンの 金メッキかもしれません。 なおFRBは、海外の政府(中国、日本、産油国)と、中央銀行を含 む政府系の金融機関に売った米国債も、ほぼ全部を、保護預かり勘 定にして渡さず、保管しています。 下の1A Memorandumを見てください。custody(保護預かり勘定)の$ 3兆3674億(404兆円)です。目的は、海外の政府機関に渡った国債 売買の監視です。監視とは管理です。 http://www.federalreserve.gov/releases/h41/Current/ ■6.金ETFを利用する(決して語られない、論理的な推測) 2000年代のFRBは、放出して金市場をコントロールする金を持って いません。そこで考えたものが、ペーパー・ゴールドの金ETFでし ょう。 ETFには、 ・現物を買って保管する現拠出型のETFと、 ・ETFの発行会社が、現物と同じ価格を保証しますが、現物はない リンク型があります。 最大手のスパイダーゴールド社(SPDR)の金ETFは、現物拠出型と されています。 ・金ETFを投資家に売った時、SPDRが同じ量の金を買って保管し、 ・ETFが売られたときは、該当する現物を売るのが現物拠出型です。 リンク型も、現物との価格差をなくすための裁定取引で、若干の時 間差は生じますが、ETFの価格は現物と一致します。 http://www.spdrgoldshares.com/japan/japanese/ 現物の売買は、市場では大量には行いにくい。ブリオン・バンクの 現物在庫は多くなく、1000億円でも、20トンの受け渡しは大変な作 業になり、市場ではすぐに枯渇するからです。 現物が枯渇すれば、買いを入れても買いが成立しません。 このとき、証券である先物や金ETFを買う。 金ETFは、証券です。数字を書いて発行する。後で・・・(確認の 方法がなく、いつかは分かりませんが)現物拠出型なら、金の調達 が「されるはず」です。SPDR社は、どこかは明らかにしない金庫に ゴールドバーが山と積まれた写真を見せています。 【ETFを買い集める】 FRBは2004年の金ETFの上場の時期から、10年先に金価格のコント ロール権を奪回するため、年間200から300トン分くらいずつ、金 ETFを買い集めたと推察します。 一度に多く買えば、価格が高騰します。買い占めるときでも、1年 に200トンレベルしか買えません。もちろん、FRBが直接に買うので はない。金の売買では、FRBは表に出ません。 JPモルガンチェースやゴールドマン・サックスなどの投資銀行を通 じ、ヘッジファンドが買うという「エージェント法」を使います。 現物金を集めないリンク債なら、「いくらでも」買うことができる でしょう。 【400トン/年で市場の価格が動く】 年間の新しい供給が、宝飾品や電子製品からのリサイクルを含んで も4000トン台の金市場では、年間400トン(10%)の買い超または 売り超で、市場を動かすことができます。(注)2014年の供給は、 鉱山から3133トン、リサイクル1125トン、金鉱山のヘッジ売り130 トンで、合計4362トンです。4300~4500トン台の供給が続いていま す。 この中で、400トンの買い超とは、年間2000トンを買って1600トン 分を売るようなことだからです。市場の価格を動かすことがわかる でしょう。 ▼FRBが、価格を下げるため、手持ちの金を放出しなければならな いくらい、金の自然な需給での価格上昇圧力は強い FRBが、価格の高騰を抑える動きに出る理由は、市場の実勢に任せ れば、高騰するからです。金市場は、 (1)長期的に見たときのドル安を予想し、 (2)他方では、「ドルの反通貨である金の高騰」を見越している ことが理由でしょう。 ■7.FRBによる金の売り リーマン危機直後の2009年、金融危機への短期反応で売られた金は、 1オンス$1000(1g=32)に下がっていました。金融危機とは、金 融機関の流動性の不足であり、高値ですぐに換金できる金は、不足 する現金を得るために、最初に売られるからです。金融危機の初期 の3~6か月間は、金価格は下落します。 金融危機を防ぐQE1は08年11月~10年6月までで、$1.75兆(210兆 円)という大きな規模でした。 ・その後、QE2(10年11月~11年6月)が$6000億(72兆円)、 ・最後のQE3(12年9月~14年10月)が$1.7兆(204兆円)でした。合 計で$4.05兆(486兆円)の、ドルの増刷です。 【2010年4月からの金価格高騰】 09年8月から8か月間の下落と停滞を経て、ドル安・ユーロ安と反対 に、大きなうねりのように金価格が上昇し始めたのは、米国の第一 次の量的緩和マネー(QE 1)が、金融機関の当座預金に、$1兆 (120兆円)増えた2010年5月からでした。 (1)準備通貨にしてきたドルの下落を恐れた、 新興国の中央銀行の買い増し(400トン台)、 (2)世界の投資家の、ゴールドバーの買い増し(200~400トン)、 (3)ヘッジファンドによる、金ETFの買い増し(200~300トン) を原因に、2011年、2012年の高値($1700~$1900)に上がります。 他方、既述のように、FRBによって300兆円という規模で増刷された ドルの実効レートは2009年の98から、2012年には80に下がっていま した。 ●経常収支の赤字を続ける米国にとって、米国債が海外に売れ、保 有され続けなければならない。 08年のリーマン危機の時の財務長官ヘンリー・ポールソンは、「中 国がもつ外貨準備のうちの$1兆(120兆円)の米国債を、大量に売 却するのではないか」と恐怖を覚えたと回想しています。数千億ド ル規模であっても、米国債が中国から売られれば、価格は暴落し、 金利は高騰して、米ドルも暴落するからです。 このため、人民銀行の周小川総裁に電話をかけて、ドル債を売らな いように求めています。米国の財務長官(日本で言えば財務大臣) が言う、米国に不利な材料ですから、これは本当のことでしょう。 (近著:『Dealing With China』邦訳はまだない:著者ヘンリー・ ポールソン、ヘッジファンドのジョン・ポールソンとは別人です) ここが、国際金融の資金還流で、もっとも肝心なところです。 ↓ ◎「米国は、海外に、1年に$5000億は、米国債を売り続けなけれ ばならない」 国際金融の、基本線を決めていることがこれです。 ■8.経常収支が赤字のドルが、強い通貨でなければならないという 矛盾が、2013年の、FRBによる金売り崩しの原因 【米ドルと金】 海外が米国債を買って保有し続けるには、米ドルは、強くなければ ならない。ドルの実効レートが20%下がることは、米国債をもつ海 外(中国、日本、欧州、産油国)にとって、米国債の保有において、 20%の為替差損が生じることです。弱い通貨の国債は、売られます。 一方で、金はリーマン危機以降、1.9倍に上がっていました。これ も、米ドルの評価の低下を意味します。ドルの下落と金の高騰は、 中央銀行が、準備資産としてのドル債を減らして、金に切り替える 動きを生みます。 【中央銀行にとって、通貨論争はない】 世界の中央銀行は、エコノミスト達が延々と続けている「金は通貨 か?」という論争には、参加しません。もともと、本源的な通貨は 金だという認識だからです。紙幣は、本当の通貨に交換することを 禁じられているからこそ、不換紙幣や、法律貨幣と言われます。 ▼2012年からの金ETFの売り ◎金の1.9倍への高騰を見た米国FRBは、金価格の値崩しに出動した。 これが2012年から始まり、2013年に880トンにもなった金ETFでの売 り越しであり、2014年の160トンの売り越しでしょう。 推測ですが、断言してもいいことです。米国FRBは、投資銀行とヘ ッジファンドに依頼して、1990年代のように「金崩し」に出動した のです。(注)FRBは決してこうしたことは言いません。論理的な 推測に拠らざるを得ないのです。 売りとは言っても今度は、FRBは1980年代や90年代のような8000ト ンの金をもっていません。最大でも1500トンの金ETFだけです。こ れを2013年と2014年に、1040トン売り越したのです。 【ETFの売りで、1オンス$1896から$1266に下がった金価格】 このETFの売りを主因に、 ・1オンス$1896(1g=$61:2011年9月)だった金価格は、 ・2012年には、$1668(年間平均価格)に下がり、 ・2013年は、$1411(1g=$45)と更に下がり、 ・2014年は、$1266(1g=$41)でした。(33%下落) そして、2015年7月11日現在、$1163(1g=$37)です。 http://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/ http://www.dai-ichi.co.jp/gold/story/01.asp 円の小売価格では1gで5025円(税込)で、高い価格を維持してい るように見えますが(2015年7月)、それは、円安/ドル高のためで す。 ▼参考情報:基軸通貨 本来は、米国のように、経常収支の赤字が続く国の通貨は下がって、 輸入が減り、輸出が増えることに向かわねばならない。これが、変 動相場がもつ、自動調整機能です。 ところが一方で、米国は、財政赤字のために発行する新規国債の 50%を、海外からの買いに依存しています。海外に国債が売れるに は、ドルが、対外的に強い通貨でなければならない。 この矛盾が、ドル基軸通貨体制にはあるのです。 根底的なことを言えば、経常収支が赤字の国の通貨は、基軸通貨を 果たし得ない。これが、米ドルが基軸通貨であることから生じ、い つまでも続く矛盾です。この矛盾のために、FRBは、真の国際通貨 である金の価格上昇を、敵視し続けなければならないのです。 基軸通貨は、ケインズが唱えた「バンコール」や、IMFの通貨バス ケットである「SDR(特別引き出し権)」でなければならない。バ ンコールやSDRは、どこの国の通貨でもない「国際通貨」です。 IMFは、ギリシアにSDRを貸しています。 こうした体制が見えるのは、米国主導のIMFに似たAIIB(アジアイ ンフラ投資銀行)を拠点に、東南アジアで通貨圏を築こうとしてい る中国のGDPが、米国に近づいたときでしょう。 2013年のGDPは、中国$9.24兆(1100兆円:日本の2.2倍)、米国$ 16.77兆(2000兆円:日本の4倍)です。中国は、赤字通貨のドルに よる支配に帰属することに、抵抗しています(人民銀行:周小川総 裁)。 経済力であるGDPは、海外との関係では国力です。テロ戦争を除け ば、軍事力も、兵器を作る経済力がベースです。経済力と軍事力を 背景にして、その上に、政治である外交があります。 本稿では、決して書かれることのない、金と基軸通貨ドルの抗争を 書きました。これを見ないと、金価格の、1980年から2014年の、 34年間の変動の意味がまるで分からないのです。本稿はここまでに し、次号へ続けます。 * 2012年、13年にFRBが主導した金ETFの売りで、値崩しされた金が、 今後どう向かうか? 通貨体制の長期的な方向を含んで、論じます。 長期的な金価格のカギを握っているのは、中国です。 【後記:ギリシア危機と中国株の下落】 ギリシアの国会は、年金と公務員給料の削減と、VAT(付加価値 税)の増税を含む財政緊縮策可決しました(15年7月12日)。国民 投票で、緊縮策にNOが出たにもかかわらず、議会は緊縮策を承認し たのです。 1週間で正反対へもぶれますが、債権国とIMFが資金支援する名目は 立ちました。ユーロ離脱は避けられるでしょう。もともとユーロか らの離脱はなく、条件つきで支援での合意という感が強かったので す。 ユーロでは、ドイツによる独走を防ぐため、加盟国の1国でも反対 すれば意思決定ができない制度を敷いています。このため、あらゆ る決定で、無意味にも見える遅延と紆余曲折があります。ユーロ民 主主義のコストでしょう。 中国株は、政府による、1600社(約50%)もの売買停止処理がされ て、株の売買は、信用を含んで、急減しています。政府からの資金 投入もあり、7月6日に3400の底値をつけたあと、7月13日には3970 ポイントにまで回復しました。6月12日の5100ポイントからすれば、 22%安の水準です。 https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/ssce.html 異常な対策での回復です。売買が再開されるときには、どうなる か?市場の死を意味しますが、値幅制限という、社会主義的な究極 策がとられるかも知れません。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述のとき、より的確に書く参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、多くの希望がある共通のものは記事に反映 させるよう努めます。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ■1.有料版では、新規登録の場合、『無料で読めるお試しセット』 が1ヶ月分送信されます。以下は、最近のもののテーマと目次です。 ▼最近の、有料版の目次を掲載しました。 毎週、質の高い論を展開する有料版は、いかがでしょうか。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <774号:ギリシアのデフォルト危機の深層> 2015年6月24日 【目次】 1.まず、「ドイツが輸出で利益を得るEU」 の確認 2.ギリシアがユーロに加盟する2000年から、始まっていた偽装 3.税府財政の赤字を、GDP比3%に偽装した 4.CDSの仕組みと、金融機関の利益と危機 5.世界のCDS 1920兆円 6.世界金融危機の再来は、3年以内なら確実 7.ユーロであることの利益 【後記】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【↓まぐまぐ会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (まぐまぐ有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (まぐまぐ無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■2.「まぐまぐの有料版を解約していないのに、月初から届かな くなった。」との問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんど の原因は、クレジットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報は、まぐまぐの『マイページ ログイン』の画面を 開き、登録していた旧アドレスとパスワードでログインして出てき たマイページで、メールアドレス、パスワード、クレジットカード を新しいものに変更できる仕組みです。クレジットカードの変更、 送信メールアドレスの変更、パスワードの変更などに使ってくださ い (マイページ・ログイン↓) https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカードと有効期限を登録すると、その月の届かなかった分を 含んで、再送されます。 【お知らせ】 新しいメルマガ配信サイトの『フーミー:Foomi』からなら、 (1)銀行振り込み、(2)ケータイキャリア決済、(3)コンビニ 決済で、有料版の購読ができます。 クレジットカードの登録がイ ヤな方はご利用ください(↓) http://foomii.com/00023 ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 のバックナンバー・配信停止はこちら ⇒ http://archive.mag2.com/0000048497/index.html |