経済論シリーズ:ピケティの『21世紀の資本』が示すこと(2)
Written by admin on 2015年3月8日 – 13:00
こんにちは、吉田繁治です。トマ・ピケティの『21世紀の資本』、 二回目です。大部の書を要約しながら解釈して考えることが目的で す。解釈とは、英語ではunderstandingにあたります。 それ自体では意味が明確ではないものを、理解が可能な形で、表現 し直すということでしょう。『21世紀の資本』の意味が明確ではな いということではない。あまりに大部であるため、意味を見逃すの です。 この意味で、なぜ世界のベストセラーになったのか不思議です。 ほぼ初めて、太古から、中世、近代、現代のデータ(推計を含む) を取り上げたからでしょう。それに、データ主義であることです。 データから論理を組み上げて行く方法のテキストです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.324:経済論シリーズ: ピケティの『21世紀の資本』が示すこと(2)> 2015年3月8日 【目次】 1.経済成長 2.GDPの3面等価 3.ピケティの『21世紀の資本』 4.産業革命の後、世界のGDPは成長した 5.日本政府の、長期GDPに関する試算の、いい加減な内容 【後記】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.経済成長 第2章でピケティは経済成長について書いています。ユニークな点 は、太古の紀元0年(キリストの生誕の年)から現代の2012年まで の、2000年間を対象にしている点です。 まず経済成長です。これは、何を言うのか。 マクロ経済学でいうと「GDPの成長」です。新聞にはほぼ毎日、 GDP(Gross Domestic Production:国内総生産)という言葉が出 ます。これが何であるか、明快に説明できる人は意外に少ない。解 説を加えます。 トマ・ピケティの本だけではありませんが、「経済成長」が何かを 理解するには、以下を知っておくことが必要です。 『マクロ経済学』の教科書に最初に書いてあることです。しかし、 GDPの三面等価までと言えば、理解に挫折している人が80%でしょ うか。マクロ経済論の入り口が以下です ▼GDPとは何か GDPは、需要面(同じことですが支出面)では、[民間需要+政府 需要+輸出-輸入]です。 需要面というのは、商品とサービスの生産面のGDP、及び所得面の GDPと一致するからです(GDPの三面等価:後述)。 サービスは、店頭で売られるモノのような形が、ない商品です。例 えば医療、運輸、通信(携帯電話やインターネット)などは、経済 学ではサービスに分類します。先進国では、有形の商品より無形の サービスのほうが大きくなっています。サービスと言っても値段を 引くことではないので、念のために・・・ 経済は家計、企業、政府という3つの主体の、商品とサービスの生 産と売買の行動を、金額で見たものです。 名目金額は、所得や企業の売上と同じように、消費者物価の上昇分 を入れたものです(2.4%:消費税増税込み:2014年12月)。物価 の上昇率(デフレーターという)を引けば、実質の金額になります。 実質金額の増減は、単価で割ると商品数量の増減を表します。 わが国の最も新しい名目の数値を( )の中に入れています。内閣 府からとってきた2014年10月~12月の年率換算の実績です。 :±は、前年比の増減です。在庫増減は小さいので省略しています。 【1.民間需要】 世帯と法人からなる民間の需要は、 (1)5300万の家計の最終消費支出(295兆円:-2兆円)、 (2)住宅投資(14兆円:-2兆円)、 (3)民間企業の設備投資(69兆円:+1兆円)です。 この民間需要合計は、2014年12月で378兆円です。消費税を上げる 前の前年に比べ、4兆円(1%)減っています。 【2.政府部門】 政府部門の需要は、 (4)政府の最終消費支出(101兆円:+3兆円)、 (5)公共投資(25兆円:+1兆円)です。 民間の需要の、前年比減少(4兆円)が、政府需要の増加(4兆円) で補われていることがわかります。 政府(中央+地方)の最終消費支出(101兆円)とは、公務員の人 件費、社会保障、防衛費、教育費、そして公共の構築物の減価償却 費など、国民に対する公共サービスに要した費用です。 公共投資(25兆円:公的資本経形成とも言う)は、政府が行う公共 の道路、河川、上下水、港湾、空港、学校、病院、住宅などへの支 出です。商品は一年で使ってしまいますが、道路や学校の建物は何 十年も使います。これが「資本」という概念のものです。 政府最終消費と公共投資の合計は126兆円であり、前年比で4兆円増 えています。 【3.輸出と輸入】 最後が輸出と輸入です。 (6)輸出(91兆円:+13兆円)、 (7)輸入(104兆円:+7兆円)です。輸入は海外の生産なので、 GDP(国内の総生産)では、マイナスの要素です。 わが国は1980年代から30年間、大きな貿易黒字を続けてきましたが、 2011年の東日本大震災(3.11)の後の5年間は、貿易が赤字になっ ています。2012年11月からの円安(1ドル80円→120円)でも貿易は 赤字です。(注)特に08年のリーマン危機以後、海外生産が増えた ためです。 以上のように、 (1)(2)(3)の民間需要(378兆円)に、 (4)(5)の政府需要(126兆円)を加え、 (6)輸出(91兆円)を足して、 (7)輸入(104兆円)を引いたものが、名目GDPです。 378+126+91-101=494兆円です。 (注)在庫の減少が1.5兆円(四捨五入して2兆円)あったので、 492兆円です。四捨五入のための誤差です。 2014年12月時点の年率換算の名目GDPは、490兆円でした。 内閣府は、3か月ごとに、GDPを集計して、公表しています。企業の 4半期決算の、損益計算書のようなものです。 http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2014/qe144/pdf/jikei_1.pdf ■2.GDPの3面等価 需要面のGDP(名目490兆円)は、 ・世帯(個人)と法人(企業)の、所得面のGDP、 ・及び、商品とサービスの生産のGDPと一致します。 単純に言うと、国全体のマクロ経済では、 「GDPの需要額=企業所得+個人所得=商品とサービスの生産額」 です。生産された商品額は、国民と政府の需要に一致し、その需要 が企業の所得と個人の所得に一致するということです。ですから、 GDPが増えるということは、「企業所得+個人所得」が増えること でもあります。 少し煩雑になるかもしれませんが、われわれにとって大切な、国民 所得の内容を見て行きます。GDPは所得と一致するのです。(2014 年3月期の実績) 【所得面のGDP】 (1)個人所得(雇用者報酬という)=248兆円 働く人は6000万人くらいですから1人平均で413万円。個人所得には、 企業が負担している社会保険料が含まれます。個人所得が一番多か ったのは1997年の278兆円でした。最近18年間でgは10%減ってい ます。これが、GDPが増えなくなった主因です。 (2)2014年3月期の企業所得は91兆円です。 2008年のリーマン危機の時は78兆円でしたが、その後少しずつ回復 し、80兆円(09年度)、89兆円(10年度)、83兆円(11年度)、 85兆円(12年度)、91兆円(13年度)になっています。 (3)財産所得=23兆円 財産所得とは、金融資産の金利や配当と不動産の賃借料です。 2014年3月期で、世帯分(26兆円)、政府分(-3兆円)の合計が 23兆円です。世帯の財産所得は1995年には41兆円ありましたが、 1998年の金融危機以後、預金金利がほぼゼロになっているため、ほ ぼ半減しています。世帯は、雇用者報酬と財産所得の両方が減って きたのです。 雇用者報酬(248兆円)+企業所得(91兆円)+財産所得(23兆 円)の合計362兆円が、2014年12月時点での、年率換算の「国民所 得」です。 GDPの490兆円と国民所得の362兆円には128兆円の違いがあるではな いかという方がおられると思います。ここで、GDPには含まれてい るが、国民所得に入っていないものを、国民所得に足します。 GDP(490兆円) =国民所得(362兆円)+減価償却費相当107兆円+消費税などの間 接税39兆円-政府からの補助金等の調整項目18兆円=490兆円 減価償却費は、GDP計算では固定資本の減耗と言います。貨幣資本 が化体した生産設備、機械、建物、住宅は使うことによって減耗し ます。これが、減価(価値が減る)という概念です。その減価分を 補うものが、減価償却費です。減価償却費は需要面のGDPには含ま れていて、所得面のGDPには含まれていないので、107兆円を足しま す。 また、GDPには消費税や物品税(ともに間接税)が含まれています が、国民所得には間接税が含まれていないので、これも足します。 他方、政府からの補助金は、国民所得には所得として含まれますが、 需要面のGDPには含まれていないので、引きます。 以上の結果、需要面でのGDP(490兆円)は、所得面でのGDPと一致 します。同様に、商品の付加価値生産額(事業の粗利益額)とも一 致します。以上が、GDPの三面等価ということです。 GDPが増えること、つまり成長することは、 ・商品とサービスの付加価値生産額 (=粗利益額=売上-中間財の投入額)、 ・企業+世帯の所得額、 ・そして世帯、企業、政府の需要額が、同時に増えることです。 これが、ピケティに限らず、経済成長と好況や不況を理解する前提 です。景気は気と言いますが、数値的な根拠に基づく気でなければ ならない。 実際のGDPが潜在成長力より伸びるときが、好況です。潜在成長力 とは、雇用と設備の生産能力が100%発揮された状態です。経済と 所得の、伸びる能力が潜在成長力です。 日本の潜在成長力について内閣府は、 (1)1981年~1990年は、実質GDPで年率4.4%もあったが、 (2)1991年~2000年は、1.6%に下がり、 (3)2001年~2010年は、0.8%に下がっていると計算しています。 (注)潜在成長力以上にGDP(=需要)が増えたとき、物価の上昇 が起こります。 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0214/shiryou_02.pdf GDPが伸びる力は、 ・資本の投入(生産と販売設備の増加)、 ・技術進歩(全要素生産性の上昇:TFP)、 ・労働力の増加、という3つの要素から来ます。 この3つとも、日本の2000年代は、低下しています。 他国を言えば、日本の01年から07年(世界金融機前まで)の潜在成 長力が0.9%でしかないのに対して、米国が+2.3%、英国が+2.9%、 ドイツが+1.7%、フィンランドが+3.1%あると計算されています。 (注)に日本とドイツだけは、高齢化のため、01年から07年の労働 力の投入(増加)が、ともに-0.2%と減っています。(2014年2月 :内閣府:上記サイト) ■3.ピケティの『21世紀の資本』 歴史的な視野を2000年と超長期にとっているピケティは、18世紀か らの、英国産業革命以降の世界のGDP成長を、以下のように示して います。(P78) ▼200年間の世界経済の成長率 1人当たり 世界産出成長(%) 世界人口増加 産出の増加 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 0~1700年 0.1% 0.1% 0.0% 1700~1820 1.6% 0.8% 0.8% 1820~1913 1.5% 0.6% 0.9% 1913~2012 3.0% 1.4% 1.6% ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (注)世界産出は世界の実質GDP、1人当たり産出(production)は、 [実質GDP÷人口]である。 家畜力や水力に代わる蒸気機関の利用から始まった産業革命の前、 世界の人口の平均的な増加は、年率で0.1%(1000人あたり1人)で あり、1人当たりの商品産出量の増加はゼロだったということです。 日本で言うと縄文の太古から江戸時代(1603年~1868年)の初期で す。古代からイタリア・ルネサンス期(16世紀)のころまでは、世 界中を見ても、経済の成長率は人口の増加分だけでした。 (注)世界に波及した英国の第一次産業革命は、江戸時代後期の 1760年から、幕末の吉田松陰や大久保利通が生まれた1830年ころま でです。人力と家畜力だった生産と運送に、蒸気機関を使うように なり、急に生産力が高まったのです。日本では、江戸時代は鎖国を していたため、欧米に100年遅れて明治以降が産業革命の近代化の 時代でした。 GDPの成長とは、〔人口1人当たりに平均した商品産出量の増加×人 口の増加〕です。 ▼産業革命前の1700年まで 年率0.1%の成長で1700年なら、1.001の1700乗です。手元にあるカ シオの関数電卓で計算してみると、5.5倍です。 つまりローマ帝国の時代(紀元前27年~395年)から西暦1700年こ ろまでに、世界のGDPは、5.5倍に増えた。それは、世界の人口が5. 5倍に増えたためだったのです。 商品を買うことができる豊かさを示す1人当たりGDPの増加は、平均 年率でゼロだったので、1人が買うことができる商品量は、ローマ の古代から中世と、16世紀のルネサンスを経て1700年までは同じだ ったということです。 日本で言うと、奈良時代と江戸時代の初期では、1人が買うことが できる食料などの商品量では、同じだったことを意味します。 それも当然でしょうね。奈良時代の人の食べる商品量と江戸時代の 人が食べる量は、カロリー面では、ほぼ同じだったでしょう。 通貨量の増加によるインフレで価格は上がって、名目の金額は増え た。しかし、そのインフレ率を除く商品量では、同じでした。 1700年までは、商品と言えば、どのほとんどは食料でした。 ▼21世紀の日本は、労働人口が大きく減って行く 日本の21世紀は、 ・生産年齢人口の減少(年率-0.8%:-60~80万人/年)を主因に、 ・インフレを引いた実質GDPの平均成長が、高くても1%台でしかな い時代になります。 これでも、西暦0年~1700年までの1人当たりゼロ成長よりはるかに 高い。日本国の実質GDPが1%伸びて、労働人口が0.8%減ると、1人 当たりでは1.8%の、実質所得の成長です。 これが50年続くと(2065年)、1人当たりの実質所得は4倍になるか らです。実質の所得金額で言うと1600万円/1人です。 計算してみると、この達成は、生産年齢人口が減って行くため難し い感じです。人口が減る中で、国の経済が成長するには、1人当た りの所得の伸びが、人口の減少分、大きくならねばならないのです。 (注)GDP=1人当たりGDP×労働人口、です。 ■4.産業革命の後、世界のGDPは成長した ▼1700~1820年:初期産業革命 第一次産業革命の1700年から1820年まで(日本では江戸時代末期の 時期)は、人口の増加率が、年率平均で0.4%に上がり、1人当たり の産出量の増加は0.1%/年に上がり、実質経済成長は0.5%/年でし た。世界経済は、0年から1700年間の停滞を、脱したのです。 0.5%の実質成長で120年間なら、[1.005の120乗=1.8倍]です。 日本では江戸時代中期から末期です。実質GDPが120年間で1.8倍に なる成長をするのが世界平均でした。 ▼1820~1913年:第二次産業革命 次の1820年から1913年までは、日本で言うと幕末から第一次世界大 戦(1914~1918年)前の、大正時代の初期です。世界は、第二次産 業革命と言える、高い経済成長をしています。 明治維新以降は、まず世界の人口増加率は0.6%/年と高くなりまし た。1人当たりの産出量の増加は0.9%/年になっています。このた め実質GDPの成長は、年率で1.5%という高いものなった。 1.5%の経済成長で93年間経つと[1.015の93乗=4倍]です。GDPは 4倍に増え、1人当たりの所得と商品の購買量は2.3倍に増えます。 (注)需要面のGDP=所得面のGDP=生産面のGDPです。 日本人の女性の長寿がほぼ93歳です。夏目漱石と同じ時期の、江戸 時代末期に生まれ、大正時代(1912~1926)に亡くなった夫人は、 生涯で、1人当たりの商品購買量が2.3倍になる時代を生きています。 夏目漱石は、明治維新の1年前の1867年に生まれましたが、1916年 に胃潰瘍で亡くなっています。明治の平均寿命だった49歳が享年 (きょうねん)です。 『吾輩は猫である』を最初として未完の名作『明暗』までを書いた のは、40歳から49歳まで10年です。彼我を比較すれば、恥じ入るし かない。 漱石が生きた49年間で、明治時代のGDPはほぼ2倍になっていたでし ょう。 朝日新聞は、没後100年を記念して、『こころ』に続き『三四郎』 を連載しています。漱石は東大をやめたあと朝日新聞社の社員とし て、『虞美人草』をはじめに新聞小説を書き続けたたからです。 余計なことですが、当方の愛好する小説は、玉名(熊本)の幽玄な 温泉宿での、画家と女将の数日を書いた『草枕』です。 ▼1913年~2012年:第一次世界大戦から現代まで 第一次世界大戦は、人類史上はじめて、二つに分かれた国家連合の 総力戦でした。ピケティが1913年で分けたのは、フランスとドイツ が、お互いを破壊した資本(生産設備)が大きかったからです。 (注)日本にとっては、第二次世界大戦でしょう。 1913年から2012年は、世界の人口増加率は1.4%/年と高く、1人当 たり産出量も1.6%/年と高いものでした。年率3%のGDPの成長です。 1.03の100乗は19.2倍ですから、世界のGDPはこの100年で20倍にな り。1人当たりの商品量は、5倍に増えています。 実質で3%の実質経済成長は、ピケティの言葉を借りれば「とんで もなく高い成長率」です。 関数電卓で計算すると ・1%の実質成長は100年で2.7倍ですが、 ・2%になると、一挙に7.2倍になり、 ・3%なら、19.2倍です。 ・4%成長は、51倍、 ・5%成長は、132倍です。 (注)金利5%で複利運用をすると、元金100万円は100年で132倍の 1億3200万円に増えます。資本の成長と見れば、資本の成長は、指 数関数の増加です。 ピケティは、第二章の「経済成長」で、退屈になるくらい繰り返し て、GDPの指数関数での成長の大きさを述べています。 ■5.日本政府の、長期GDPに関する試算の、いい加減な内容 ピケティのGDPの長期データに因(ちな)んで、2015年2月に、わが 国の財務省が出している『中長期の経済財政に関する試算』を検討 してみましょう。 『中長期の経済財政に関する試算』は、今後、日本の政府財政が破 産しないためには、どれくらいのGDPの成長が必要かを、計算した ものと言っていいでしょう。 (注)財政の破産や、破産しないことも、数値で定量的に言わねば ならないものです。破産とは、支払うべきものが支払えないことで す。 財政赤字の悪化と国債残の増加から、国債の償還との利払いができ るという信用が低下して、リスク要因での金利が高騰すると、新た な国債の発行が更に金利を上げるため、国債発行ができなくなりま す。 国債を含む債券の長期金利は、「期待物価上昇率+実質GDP期待成 長率+リスクプレミム」に収束して行きます。 赤字財政でありながら国債の発行ができないと、支払うべきもの (公務員の人件費、年金、医療保険料、国防費、教育費など公共事 業の経費)が支払えない。これが、政府の財政破産です。 ▼経済再生のケース 内閣府は、「経済再生のケース」としては、実質GDPで2%、物価上 昇を含む名目GDPで3%~4%という高い成長率を出しています。 (2015年2月) http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h27chuuchouki2.pdf 上記を、単純化した表にします。 【日本経済再生ケース】 2014年度 2015~2023年 2023年 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 名目GDP 491兆円 3.5%増/年 668兆円 実質GDP 526兆円 2.0%増/年 628兆円 物価上昇率 100 2%上昇 120 1人当たりGNI 416万円 年率3.4%増 560万円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 財政赤字 33兆円 23~32兆円 34兆円 国債残高 960兆円 +259兆円 1219兆円 名目長期金利 0.4% 1.2%~4.5% 4.6% ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (注)GNIは、国民総所得です。GNP(国民総生産)に近い。国内総生 産(GDP)+海外からの純所得=GNI(国民総所得)です。GNIでは、 1人当たりGDPが、海外からの純所得の分、大きくなります。 まず政府が想定している、物価上昇(想定が+2%)を引いた後の実 質GDPの2%成長が含む問題です。 政府の人口問題研究所が予測している生産年齢人口(15歳~64歳) は、今後9年間、年率で毎年約1%は減って行きます。 15歳~64歳のすべてが働く人ではありませんが、生産年齢人口の増 加・減少は、働く人の増減に比例します。 働く人が年率ほぼ1%(60万人)減少すると見ていいのです。総人 口の減少より働く人の減少が大きい。9年間で生産年齢人口は588万 人も減ります。経済的には、総人口1000万人の都市が、一個、日本 からなくなる勘定です(!)。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 2014年 7780万人 ↓ 2023年 7192万人(588万人減少) ~~~~~~~~~~~~~~~~~ http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/gh2401.asp 年率1%の生産年齢人口の減少に対し、政府は、実質GDPで年平均2 %の成長を想定しています。1人当たりのGDPでは、毎年3%の増加 という高い成長が想定されています。 (注)ピケティが集計した1913年から2012年の、高い経済成長の時 期であっても1人当たりの実質産出量(=1人当たり実質GDP)の増 加は、年1.6%でした。 わが国の1人当たり実質GDPの増加率の実績は、 ・1980年代 年率3.5% ・1990年代 年率0.6% ・2000年代 年率0.2%です。 一体、どういった根拠で、働く人の1人当たり実質GDPが、今後10年 にわたって、平均年率3%で増加し続けと言えるのか? 当方には、まるで、理解できません。 物価上昇も年率で2%とされています。 どんな根拠でこうなるのか? 名目GDPの増加率は年率で3.5%、向こう9年で1.36倍になって2013 年には668兆円になるとされています。実質で2%成長、9年間で1. 2倍です。 1980年代の高度成長の時期が、1人当たりの実質GDPの増加が年3.5 %でした。年間で3%の実質GDPの増加は、この高かった成長率の時 に近い。その後の90年代のGDP成長は年率0.6%、00年代は0.2%に すぎませんでした。 2015年以降の10年、なぜ経済成長を高く想定できるのか。 内閣府が言う「経済再生ケース」とは、何が、どう再生することな のか。明らかではありません。 通貨(マネタリーベース)を増やす異次元緩和によって、急に、 1人当たり実質経済の成長率が3%上がるのか? 政府(内閣府)は、無理な将来GDPの想定をしています。目的は、 「政府の財政は破産しない」と示すためですしょう。 政府財政が破産しないためには、名目GDPで3.5%の成長、実質では 年率2%の成長が必要だと試算したのが、『中長期の経済財政に関 する試算』に思えるのです。 この試算をベースに金融・経済対策が行われ、財政対策も行われま す。内閣府の試算は、単に「経済再生の願望を示した」と言って切 り捨てて、ゆるがせにすることはできない問題です。 ピケティの世界経済の成長率から、日本政府の『中長期の経済財政 に関する試算』の根拠のいい加減さに思い至りました。 次稿は、第三章 資本の変化からです。 【後記】 政府の『中長期の経済財政に関する試算』が示すGDPの成長率は、 実質(年率2%)も、名目(年率3.5%)も、願望に過ぎません。 企業が実態とかけ離れた売上や利益を、経営計画とするようなもの です。これが単に、願望だけであれば罪はない。 しかし実現しない願望の数値をベースに、政府の金融、経済、財政 計画が作られるとき、禍根(かこん)を残すものになります。 一体何を根拠に、こんなにいい加減な数字を作ったのか? 小泉内閣の時期から財政危機が懸念されていたため、『中長期の経 済財政に関する試算』は、2002年、03年、05年、06年、07年、08年、 09年、10年、11年、12年と毎年作られています。 毎年の試算で、「願望の経済成長率」が、果されたことがない。 税金で俸給を得ている内閣府の担当が、責任をもって作った数値と はとても思えません。 金融市場に向かって、今後10年の売上は、毎年大きく成長する、利 益も増えると言い続けている、信用されない上場企業と同じです。 時間がある方は、過去のものを見てください↓。 政府は、毎回、実現しない願望の数字を出しています。 http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/shisan.html ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述のとき、より的確に書く参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは記事に反映させるよう努めま す。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ■1.有料版では、新規登録の場合、『無料で読めるお試しセット』 が1ヶ月分送信されます。以下は、最近のものの、テーマと目次の 項目です。興味のある方は、ぜひ登録して購読してください。 ▼有料版の目次:2号分を掲載しました。 毎週、質の高い、本格的な論を展開する有料版は、いかがでしょう。 <749号:新年3号:超低金利の濃霧の中を暴走する日銀号> 2015年1月21日 【目次】 1.スイスフランの急騰:15年1月16日 2.スイスフラン誘導の、上限撤廃 3.スイスの目的もデフレ脱却だが、実際はデフレが続いている 4.日銀と日本 5.スイスの銀行間金利 6.スイスフランの基本的な部分での強さと、スイスの銀行 7.異次元緩和後が目的とした消費者物価の上昇は、2%だった :これが、どうなったか? 8.「真の物価上昇率」の計算と傾向 9.超低金利の濃霧の中を、暴走している日銀 10.そしてどうなるのか・・・ 11.日銀が国債の無制限買いを行うと、どうなるのか? 12.金融機関が、日銀の当座預金から現金を引き出すとどうなるか 13.最後は、日銀は資産の裏付けのない、円の発行に向かう ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <750号:アラブと原油価格の問題> 2015年1月28日 【目次】 1.前提となる認識 2.アラブでは、原油が富であるため、 帝国主義は領土主義として続いている 3.2億ドルの身代金要求 4.原油価格の下落は、日本経済・企業・世帯にとって、所得のプラ ス要因 5.2000年代の需要増加と原油価格の高騰 6.2014年6月以降の、原油価格の下落とその原因 7.米国のシェール・オイルの生産 8.2014年11月末の、OPEC総会以降の原油価格 9.シェール・オイル生産が増えるには・・・ 【後記】 【後記】 【↓まぐまぐ会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (まぐまぐ有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (まぐまぐ無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■2.「まぐまぐの有料版を解約していないのに、月初から届かな くなった。」との問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんど の原因は、クレジットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報は、まぐまぐの『マイページ ログイン』の画面を 開き、登録していた旧アドレスとパスワードでログインして出てき たマイページで、メールアドレス、パスワード、クレジットカード を新しいものに変更できる仕組みです。クレジットカードの変更、 送信メールアドレスの変更、パスワードの変更などに使ってくださ い (マイページ・ログイン↓) https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカードと有効期限を登録すると、その月の届かなかった分を 含んで、再送されます。 【お知らせ】 新しいメルマガ配信サイトの『フーミー:Foomi』からなら、 (1)銀行振り込み、(2)ケータイキャリア決済、(3)コンビニ 決済で、有料版の購読ができます。 クレジットカードの登録がイ ヤな方はご利用ください(↓) http://foomii.com/00023 ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 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