価値ある商品作りへのリーダシップ(1)
Written by admin on 2014年10月10日 – 10:00
おはようございます。しばらくご無沙汰していました。今回は、価 値ある商品作りへのリーダシップとして、小さな食品スーパーの物 語を送ります。 社長の佐藤さんは、リーダシップ型経営を典型的に、実行されてい ます。リーダシップ型経営の方法を知った上で、そうしたのではな い。コンビニの2倍にしか見えない、地方の本当に小さな食品スー パーの経営の活路を模索することが、結果的に、リーダシップ型経 営だったということです。 ▼リーダシップ型経営のビジョン、戦略、管理 講演のテーマは、『リーダシップ型経営:ビジョン、戦略、管理』 でした。あるところの主催で、1年に1回、定期的に行っている、講 演では、休憩をはさんで、約3時間話します。 経営書のような理論ではなく、実践的なものとして理解していただ くため、冒頭の約1時間くらい、リーダシップ型経営と思える実例 を、その都度、紹介しています。 今年は、宮城県の秋保(あきう)温泉にある、小さな食品スーパー、 『佐市(さいち)』を事例にしました。本稿はその文字版、いわば メルマガ・セミナーです。 【リーダシップ】 リーダシップは「先行して引っぱること」です。他方、上位者の権 限で下を管理するのが、統制・管理型の組織です。これが一般的で す。 リーダシップ型の経営が、わが国では意識されてこなかったのか、 リーダシップには、適訳の国語がない。あえて言えば、人を引きつ け、一定の方向に向かわせる「求心力」がそれに近い。 【心】 リーダーは先行する人です。シップは、周囲にリーダーと認められ る人がもつ心(こころ)です。心は、精神あるいは意識とも言いま す。 心は、非言語の「気(き)」として人に伝わります。われわれが人 を見るときは、その人の気も、見ています。オーラや華とも言う。 これが「気」の現れです。愛が、言葉以外の「気」で伝わるのと同 じです。 ▼未来の商品とサービスへのビジョン→戦略→実行の管理 リーダシップ型の経営は、部課長制の組織での、上からの統制・管 理ではなく、「(1)ビジョンの決定→(2)戦略作り→(3)戦略 の実行の管理」を、仕事の方法とします。ビジョン、戦略、実行管 理です。 ・ビジョンは、会社が達成したいと決めた目標(Objectives)です。 ビジョンでは、顧客にとっての商品価値(効用)が重要です。 ・戦略は、ビジョンとして決めた目標を達成するための、仕事の方 法です。 ・戦略の実行過程の管理は、PDCA(計画→実行→評価→対策)のマ ネジメントです。組織のマネジメントとは、このPDCAのサイクルで す。 統制・管理型では、トップや上司が、部下が実行すべきことを命じ るのに対し、リーダシップ型では、ビジョン(当年度では達成目 標)が、全員に仕事を命じる機能を果たします。 会社の縦の階級と、横の機能(職能)を示す組織図では、統制型か リーダシップ型かの、判定はつかない。 リーダシップ型では、仕事の目標(1年度で言うと短期目標にな る)と、目標を達成するための仕事の仕方が、一般的な組織である 統制・管理型とは、違います。 わが国には、260万社の会社がありますが、おそらく90%以上(240 万社)は、上司が命じる統制・管理型か、それに近いと感じます。 この統制・管理型ではダメだというのではない。 340万人の官僚組織(国家公務員(64万人)、地方公務員(277万 人)、独立行政法人)は、統制・管理型の、典型です。大企業にも、 部課長制で統制・管理型の組織が多い。 http://www.jinji.go.jp/booklet/booklet_Part5.pdf どんな商品を作るべきか、あるいは売るべきか、つまり、何を行う べきかが決まっているとき、あるいは変化がないときは、経営効率 を求める統制・管理型でいい。(日本の1980年代までは、これでし た) しかし、何を行うべきか、あるいは、どんな商品やサービスを作る べきかはっきりしていないときは、統制・管理型は有効でないこと が多く、本稿で、具体的に述べるリーダシップ型でなければならな い。 新しい商品は、3年や5年も前に明確にイメージされ、開発されねば ならない。こうした商品の開発(創造)は、管理・統制型の組織で は難しい。商品作りでの自発性と創造を尊重する、リーダシップ型 でなければならない。 (注)日本が、米国産業のキャッチ・アップ(追いかけ)をしてい ればいい時代は、作るべき商品は具体物としてありました。日本の 製造業では、決まっていた商品を統制・管理型の企業が「効率的に、 安く」作って輸出し、経済成長を果たしています。現在の中国のよ うな感じです。 キャッチアップが終わったのが、ほぼ1990年です。それ以降は、世 界にまだない商品を「創造」しなければならなかった。それが、う まく行っていないのです。 このため、90年代以降の経済が、低成長になっています。2000年代 は、それどころか韓国や中国から、低い価格でキャッチアップを受 け、経済成長がなくなってしまっています。 AV(音響と映像)と新商品の領域では、1980年代まで、新しい商品 は、ソニーが作っていました。ソニーは創業者の井深氏が、「技術 者の理想工場を作る」という表現で示した、リーダシップ型企業で した。技術者(社員)が、商品作りで、存分に創意を発揮できる工 場を目指したのです。 1990年代からは、インターネットとともに、基本ソフトと事務ソフ ト(WindowsとOffice)の、マイクロソフトになって、2000年代は 通信、ソフト、ハードが融合したアップル(iPod、iPad 、Phone) になったのです。マイクロソフトとアップルは、商品開発での、 リーダシップ型経営の企業です。 ▼カントリーの、小さな食品スーパー:『さいち』 『さいち』を調べると、商品ビジョン、言い換えれば「目標となる 惣菜のイメージ」が、社長以下の全員に仕事を命じているリーダシ ップ型の経営でした。 目標となる商品が、上司のように、仕事を命じるとは、変な言い方 です。実際は、以下です。まず、「ビジョン」というものが何か、 理解せねばならない。 【ビジョン=到達すべき目標】 「自社で作るおはぎや惣菜での、完全な商品イメージ」がビジョン でした。本物の、完全な商品を作って売ること、これが、『さい ち』が実現したいことです。 そのビジョンの達成、そして実現に向かい、社長を含む全員の仕事 は、「完全な商品」としてイメージされたものを作ること、そして それを陳列して売ることだったのです。 その商品が、人口4700人の町の平均的な顧客ニーズからは、信じら れない売上を生んでいます。『さいち』の方法は、高齢化し、人口 が少ない全国の町での、これからの事業に、大きな、希望の明かり を灯(とも)すものでもあります。 【ビジョンに近づく】 『さいち』では、調理部長でもある専務(澄子夫人)が、 ・完全と考える「おはぎと惣菜の味のイメージ」に近づくよう、 ・調理でいくつもの工夫をして作り、 ・それを顧客に提供することが仕事という仕組みになっています。 かつてのソニーの、井深さんが決めた理想工場は「技術者が作りた いものを作る」ということでした。そのソニーを企業モデルとして 見習ったのがスティ-ブ・ジョブスのアップルです。ジョブスは、 自分が使いたいAV機器を、通信とコンピュータに融合させ、iPodや iPadとしてデザインしています。 ソニーの井深さんが生きておられれば、さいちに行き、奥さんの手 をとって、ともに感激したに違いない。その映像が、浮かびます。 商品の創造が何かを知っているホンダの本田宗一郎氏も、同じはず です。小売業では、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊氏も、さいちを訪ね たという。 本稿では、具体的に見て行きます。書く目的は、商品開発のリーダ シップ型経営への理解です。リーダシップ型経営で、肝心な、「商 品価値の差異化」が何か、わかるでしょう。 ▼商品価値とは、買って使う、または食べる顧客にとっての効用 商品価値とは、売る側からではなく、買って使う、または食べる顧 客にとっての、商品がもたらす効用です。と言っても、分かりにく いかも知れません。会社が提供する商品を、顧客にとっての効用と いう、逆の観点から考えることが少ないからです。 事業(ビジネス)を理解する鍵である商品価値は、「商品がお客に もたらす効用」だと考えてください。 【21世紀の事業】 21世紀に成長する企業は、自社の商品とサービスの効用(商品価 値)ついてのあるべき姿、つまりビジョンを作り、それを達成目標 として全員が一列になって仕事をする、リーダシップ型であること も、わかるはずです。 (注)組織が、達成目標とするビジョンは、A4の紙1枚以内に、文 字と数字で書きます。ビジョンとなる商品やサービスは、「概念」 であって、まだないものです。 まだないものは、文字と数字(または絵)で、概念として描くしか ない。設計図もビジョンです。本稿では、とても身近な食品スー パー『さいち』で、惣菜のビジョンを、具体的に見ます。 アップルも、iPodやiPadとして、スティーブ・ジョブスがイメージ をスケッチした「完全な商品(ビジョン)」を作るリーダシップ型 の経営です。 形をもつ商品ではない「サービス」の領域では、例えば物流なら、 「完全物流のイメージ」です。ホテルなら、「完全なサービス」、 理容では「完全な理容」でしょうか。 (注)消費需要(237兆円:14年6月期)では、 ・店舗の商品需要が約50%、 ・無形のサービス需要が50%です。 医療・介護、教育、通信、物流、電気、旅行、理容・美容、エステ はサービス需要です。 ただし、その完全ということの内容(顧客にとっての効用の要素) において、会社によって重点の違いがあります。どんな効用があれ ば、完全かということへの考えは、企業文化のように、会社によっ て異なります。(注)企業文化とは、その組織の考え方の傾向と、 何に大切なものとして価値を置くかです。価値観と言ってもいい。 本稿で取りあげる、完全なあるいは本物の商品やサービスというイ メージは、あらゆる業種で応用ができます。 21世紀の商品は、「本物であり完全なもの」に向かわねばならない。 爆発的に売れ続けている『さいち』の「おはぎ」と惣菜を知ると、 これがわかる。 マーケティング(=顧客のニーズ)での業界の常識を、現実の売上 で、20倍も超えたのが『さいち』の惣菜です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <729号:事業作り:価値ある商品作りへのリーダシップ> 2014年10月10日 【目次(1):本号】 1. 驚異的な売上の、小さな食品スーパー 2.「おはぎ」の商品価値へのビジョン 3.いつまでも到達できない、高い目標(商品作りのビジョン) 4.商品価値の差異化 (注)価値は、顧客にとっての商品の効用 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1. 驚異的な売上の、小さな食品スーパー 仙台市から西に、車で30分、名取川の流域に、東西に細長い盆地が あり、そこが、古墳時代(1500年前)からの記録も残る秋保(あき う)温泉です。 ある業界の講演で、確か、2回行ったことがあります。主な旅館は1 6館(客室1200)です。「本当に田舎の町です」と、『さいち』の 社長の佐藤さんは言う。当方には、旅館しかなかったという記憶で す。 町の人口は4700人。地方に共通の、65歳以上が多い高齢化とともに、 人口は減り続けています。この小さな町に、コンビニの2倍くらい にしか見えない、古ぼけた食品スーパー、『さいち』があります。 失礼な表現と承知しつつ言えば、店舗としての外観は、褒められた ものではない。商品の陳列は、店の外にもはみ出し、段ボールが重 なっています。 「ようこそ、おはぎの里」へという、色があせた表示が、目につき ます。店舗の規模に比べれば、正面の駐車場は40台分くらいと多い。 客数が多いからです。第4駐車場まであるようです。 Google Earthで「秋保温泉 さいち」と入れると、一瞬でたどりつ きます。人の視点から見えるストリート・ビューで見ると、周辺と 店舗の雰囲気がわかるでしょう。インターネットにも、店舗画像が 出ています。 この立地と商圏で、店舗年商が6億円、惣菜の売上は3億円と聞くと、 類似の商圏でのたくさんの事業に、大きな希望が出てくる感じがし ますね。 【売上】 商圏人口4700人と言えば、食品・飲料の需要は、1人25万円くらい ですから、全部で10億円です。 『さいち』は、面積が260平米(80坪)です。この規模のスーパー で、カントリー立地なら、優秀な店舗で2億円、普通は1.5億円、売 れないスーパーなら1億円/年かそれ以下でしょう。普通、地域の一 番店でも、シェアは25%くらいです。 この立地と店舗規模で、年商6億円と聞き、まず驚く。同じ面積の、 地域スーパーの約4倍です。4倍の客が来る。単位面積(3.3平米:1 坪)当たりの売上も750万円と、約4倍多い。 【常識外の売上の、惣菜部門】 特に、惣菜(そうざい)部門の売上です。年商3億円と店舗売上の5 0%を占めます。普通、売上構成比では、8~10%です。 1坪あたりの売上で、類似のスーパーの4倍。惣菜部門の売上は、20 倍です。20倍は、比較を絶するということです。文字通り比類がな い。 『さいち』が作ったおはぎと惣菜を買う客数が、単位面積あたりで、 他店の20倍も来るということです。なぜ『さいち』で、多くの客が 求める驚異の商品が生まれたのか。どんな考え(これが商品ビジョ ン)から、おはぎや惣菜が作られたのか、ここを追求します。 (注)『売れ続ける理由』(佐藤啓二著)の数字と内容を、参考に しています。著者の佐藤啓二さんは、80坪の食品スーパーとして創 業した現社長で、77歳です。夫人の専務が76歳です。『さいち』は 1店舗です。 ■2.「おはぎ」の商品価値へのビジョン 創業は140年も前、温泉旅館に食品や土産を卸す商売でした。業績 はどん底で、卸の掛け売りのため、資金繰りに苦労していたという。 佐藤さんは、顧客相手の現金商売がしたいと思い、商業界が箱根で 主催していたゼミに行った。当時の『さいち』にとって、清水の舞 台から跳ぶような出費だった(・・・10万円くらいでしょうか)。 『さいち』さんとは時代が20年違う2000年代の初期ですが、商業界 のゼミで講演していたことがあります。佐藤さんと、同じような思 いの人たちも、おられたかも知れない。その必死の思いに応える内 容だったかと、恥ずかしくなります。 「スーパーをやりたい」と思い、親戚からの資金援助で開業します (1978年)。36年前ですから、社長の佐藤さんが41歳、夫人の澄子 さんが40歳のときです。 開店から5、6年、事務所にベニヤ板を敷き、寝泊まりする生活だっ たという。ふとんでは寝たことがなかった。今も、5時間以上寝る はないとも言う。 夜9時まで営業する。朝5時には、市場に魚や野菜の仕入に行かねば ならない。苦労だったか。もちろん苦労でしょう。しかしその苦労 は、「おはぎ」によって、成功への物語になったのです。 ▼完全な「おはぎ」を作る(商品開発) 開店から3年目、惣菜部門の商品として、夫人が「おはぎ」を作り はじめます。 「東京に嫁に行った娘が、帰省してくる。昔食べていた「おはぎ」 を、孫たち食べさせてやりたい。」と相談を受けたことがきっかけ でした。専務である夫人は、売り場に出て、お客さんと対話してい たのです。 昔のことを思い出しながら作ってみたけれど、小豆(あづき)が焦 げてしまい、うまく作れない。「お宅で作ってくれないません か。」 開業のときから、「こんなおかずが食べたい」というお客様からの リクエストがあると、専務(夫人)と主婦スタッフ1名の手作りで、 応えてきたという。 全員が店舗に出て、お客様から意見を聞き、販売する方法をとって いた。多店舗展開のスーパーでは、消えたことです。 夫人(専務)は、調理場の部長でもあります。『さいち』は「本物 を作って売る」ことを姿勢にしてきた。これが「ビジョン」です。 社長の佐藤さんは、ビジョンとは言っていない。しかしこれこそが、 リーダシップ型経営での、ビジョン(到達目標)です。 【ビジョン】 ビジョンと言っても難しいものではない。「本物を作って売る」、 これでいい。経営に必要なのは、言葉の華麗さではない。言葉に込 めた、言葉では表現されていない内容です。この本物が、商品作り (『さいち』では惣菜作り)の到達目標でした。 ビジョンの言葉は、短い。「本物を作って売る」。この本物に深い 意味があった。 ■3.いつまでも到達できない、高い目標 のちに専務は、おはぎと惣菜を作る社員に、言っています。 「どこまでも行っても、100点という点数にはならない。私も100点 はとれない。でもそこに向かって、伸びていくことが、大切なの よ。」 まさに、ここです。 ビジョンつまり到達目標とすることは、「本物で完全な、家庭の味 の惣菜作り」です。100点には到達しない。何年も改善を加え続け、 イメージした完全に近づく。こうした「動的な達成目標がビジョ ン」です。 長年の定評がある新宿中村屋の肉まん、あんまんも、3ヶ月間、同 じところには、とどまってはない。「毎年、毎月、新しい工夫を加 えています」と経営者は言う。一見変わっていないように見える。 しかし長年売れ続けるものは、変化しています。 日清のカップラーメン、焼きそば、太麺職人も、中村屋と同じよう に、毎月作り方を変え、微妙ですが新しい味にし続けています。同 じ味では、超ロングセラーには、ならない。 この意味で、ビジョン(到達目標)は、動的です。 言葉は同じでも、内容が、動的です。 【リーダシップ型経営の構造】 ・ビジョン=こうありたいと決めた会社の姿および商品:目標 ・戦略=ビジョンである目標に、到達するための方法 ・管理= (1)Plan:実行計画、 (2)Do:実行、 (3)Check:進捗の評価(目標-実績=差異)、 (4)Action:評価と、原因対策の立案→(1)へ 専務は、お客様のリクエストを、「本物のおはぎを作る」ことと考 えます。それはおばあちゃんが作り、子供の頃の自分たちが昔食べ ていたものと、夫人にはイメージされました。しかし実際は、それ 以上の、「おはぎ」でしょう。 夫人が子供の頃(60年以上前)、砂糖がとても高かった、戦中や戦 後のとても貧困だった時代です。その中で美味しかったという記憶 は、残る。しかし本当に同じものだったら、今は、「あれっ」と思 う味かもしれない。 ▼「おはぎ」のビジョン ビジョンは、実現していないものを心(精神、観念)の目で見ると いう意味をもっています。(注)幻を観(み)る幻視が、ビジョン 夫人には、「これが完全」という理想化された「おはぎ」のビジョ ン(映像的なイメージ)が、母が作ってくれた「おはぎ」の記憶と して美化され、心の中に存在していたのです。 母の面影のようなものだったのかも知れない。親しい人が亡くなっ た後、その人が、心に常駐する経験をした人も多いでしょう。 それがさいちの商品作りの目標、言い換えれば到達点になった。業 績、つまり売上、生産性、営業利益は、売れた結果です。結果は、 目標にはできない。仕事の目標は、顧客にとって、価値のある商品 作りでした。これが「おはぎのビジョン」だったのです。 「作るべきおはぎの目標(理想化されたおばあちゃん味)」が決ま り、澄子さん(専務)をリーダーに、試作が始まります。閉店後、 深夜の1時半から作り始める習慣だったという。 【作りあげることへの情熱】 小豆(あずき)を買っては、煮て、捨てる。綿々と繰り返す。「味 に納得がいかない。どうやっても、昔食べていた味にならない。」 と澄子夫人は言っていた。 1ヶ月間、大量の小豆を捨てたという。売上はゼロです。「おは ぎ」作りは赤字続きで、夫である社長は、乏しい財政の中、「もう、 やめてくれ」と言ったことがあった。 おはぎや惣菜が売れても、大きな売上にはならないというのが、今 も、スーパー業界の常識です。このため、やめる会社が、大多数で しょう。だから並みの物、つまり並みにしか売れない凡庸なものに なる。 【ビジョンは信念】 こうしたなかで夫は、「家内は、きっと作りあげる」と信じていた という。信じるとは、まだ存在しないものを、作ることができると 感じる心の目です。 人は、実現していない未来や人を、信じることができる。ビジョン という、経営のツールが生まれたのは、こうした信念からです。 神の存在を信じるとは、世界の70億人の誰もが見たことがない神が、 この世界に存在することを、観念のなかで信じることです。 私は、神の、物理的な存在は信じていません。しかし人の観念の中 には、神は存在しうると思っています。亡くなった父や母が、記憶 の中に存在するように。 ▼ビジョンによる事業の創造の場面 ここが、われわれが出会うことが稀(まれ)な、事業の創造の場面 です。爆発的に売れる食品スーパーさいちは、「おはぎ」の開発と ともに、誕生しました。 奥さんが決めていたのは、 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (1)ひとつ食べたらもうたくさんではなく、なんとしても、二つ 食べていただけるようなもの、 (2)お腹がすいているときは、何個でも食べられるものを作る、 ということでした。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (注)これが商品価値(=商品が顧客に与える効用)の、ビジョン (目標)です。 誰もが、即座に美味しいという味ではないかもしれません。すぐわ かる美味しい味は、えてして、1個食べるとお腹がいっぱいになり ます。 目標は「何個でも食べることができる味」と決めた。単に美味しい ものよりも、この条件のものを作ることが難しい。添加物と調味料 での修飾や化粧は、当然に、効かない。 「おはぎ」は、普通、一度には一個しか食べないでしょう。『さい ち』のおはぎは、他の1.5倍から2倍は大きいのです。困難があった。 困難だから、他では作っていなかった。 夫人は、調理を先生に就いて習ったことはない。求めるのは「家庭 の味」だから、料理店や料亭の、職人的な調理法ではない。 ■4.商品価値の差異化 (注)価値は、顧客にとっての商品の効用 リーダシップ型経営では、こうしたものを、意味が伝わりにくい言 葉ですが、「商品価値の差異化」と言っています。 商品という言葉は、わかる。じゃ商品価値とは何か? 差異化とは 何か。それをパートの人たちにもわかるように説明できるか。経営 は、ここです。 ▼価値ということの意味と、価値の差異化 【価値は効用】 価値とは、それを買って食べる、あるいは使う顧客の側から見た商 品の効用、つまり、買った人に対して商品が果たす効用です。 (注)経済学では、これを「使用価値」と言ってきました。「交換 価値」が価格です。使用価値は、買った人にとっての効用、便益、 つまり、使うことによって受ける便益です。 『さいち』のおはぎの使用価値として重要だと澄子夫人が考えたの は、前項の(1)、(2)の条件を満たす味でした。 この商品価値のビジョンに、卓越があったように思えます。 (1)一度に2つ食べることができる、(2)お腹がすいていればも っといっぱい食べられるとして、専務が言葉にしたから、会社で作 ることができるようになった。一緒に作るパートの人が、その味を 理解したのです。 実際に食べると、口に入れた瞬間、確かに甘みの印象が少ない。あ れっと思うと、中の餅米のご飯に、微妙に、塩の味が染み込んでい ます。そして、その後、粒あんのとても上品な甘みが、じんわり、 ゆっくり、広がって行く。これも、おいしい。お腹いっぱいになっ たあとでも、1つは十分に食べることができます。 ▼驚異の売上を、34年間も続ける。顧客の期待を超えたから。 商品価値が卓越していると、マーティング(市場のニーズ)から来 る需要を、はるかに超えて売れる、驚異の商品が生まれることが、 このおはぎの事例でわかります。 『さいち』(80坪)では、平日に5000個の「おはぎ」が売れるとい う。1個が100円(税抜き)ですから50万円です。商圏は、わずか43 00人です。 観光客が、平日の5000個のうちの50%を買っている感じなので、地 元消費は2500個でしょう。おじいちゃんから赤ちゃんまで、地元の 全員が、2日に1個「おはぎ」を食べていることなります。この消費 頻度の高さは驚異的です。あなたは、いつ、おはぎを食べたか覚え ていますか? 観光客が多い土曜日・日曜日には、1万個(100万円)も売れるとい う。お彼岸には2万個(200万円)。地元客が40%、秋保の観光客や、 遠くからおはぎと惣菜を目的に来た人が60%という。 マーケットの平均ニーズをはるかに超え、20倍も売れています。 自社の商品で、どんなことが、顧客にとっての価値(効用)の卓越 のための条件になるか、考えてください。『さいち』の方法で、業 界の常識を超えて、爆発的に売れるものを、作ることができるかも しれない。 続く次号は、すぐ送ります。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1。内容は、興味がもてますか? 2。理解は進みましたか? 3。疑問点、ご意見はありますか? 4。その他、感想、希望テーマ等 5。差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述の際、より的確に書くための参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 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