紀行的随想:『近代絵画』を解釈しつつ(2)
Written by admin on 2014年2月24日 – 09:00
おはようございます。1月末のパリは寒く、厚い灰色の雲が低く垂 れこめます。昨日は、米ぬかのような雨でした。 ホテルは、セーヌ河畔に沿ったチェルリー公園の前にあるブライト ンにしました。リボリ通りを隔てて、ルーブル美術館に歩いて行く ことができるからです。 冬のパリの朝は遅く、午前8時はまだしっぽりと暗い。開いている カフェも少ない。黄金色のジャンヌ・ダルク像があるピラミッド広 場の脇の、早朝から開いているカフェを思い出して、そこを目指し たのです。 チャコールグレーの、裾が長く重い、ゴーゴリの『外套』のような コートをまとい、時折傘をさしながら歩いて、まずは、そのカフェ でクロワッサンとカプチーノをオーダーします。 数人の、出勤が早いビジネス・マンが、カンターにとまって新聞を 読んでいました。ギャルソン(と言っても中年です)が持ってくる クロワッサンは、バターがたっぷり含まれ、柔らかく美味しい。 前稿で申し上げたように、フランスは、日本よりはるかに不況です。 昔から、現在まで時間が固定し、繰り返しているように思えるのが、 今回のパリでした。 ルーブルに行くと、ガラス板で四角錐に編み上げたピラミッド型の 玄関に、午前9時の開館10分前には、200人くらいが並んでいました。 中国からの観光客は多く、お互いをデジカメやスマート・フォンで 盛んに撮り合う。カジュアルウエアの服装がクラシックなので日本 人と区分できます。開館時刻には人が急に増え、5倍にはなった感 じでした。 http://www.louvre.fr/jp 行かれた方も多いでしょう。ルーブルは巨大で、開館1時間後の10 時には、全室が満員になる混雑です。内部での写真は自由で、おお らかです。皆、カシャカシャ撮っています。当方も、備忘のために 撮る。文を書くときの、確認のためです。 古代エジプトからギリシア、中世、ルネサンス、近世、近代、20世 紀まで、30万点の所蔵という。開館はフランス革命後の1793年。革 命後に、王侯貴族の所有物だったものが市民に開放されたものです。 半日で500点観ることも、実際は不可能で、歩くだけになります。5 00ページの画集を、1枚ずつ眺めることを想像してください。1枚1 分でも、500分(8時間)です。1枚を1分で見ることは、つらいで しょう。意味もない。仮にそれを重ねても、600日分です。 傑作ばかりで、全部が自己を主張します。展示はあまりに多く、神 経を凝らして観ようとする人の精神にとっては、暴力と言えないこ ともない。ゲージュツから、ボカスカに殴られる感じです。解釈に 疲れる。一回行って鑑賞したと言えるのは、数枚でしょう。 探したのは、ドラクロアの部屋でした。館内の地図を見ても、方角 には迷います。警備も兼ねている数人の係員に、ドラクロアはどこ かと尋ね、やっとたどり着きました。 途中で200人くらいの集団があったので、なんだ?と見ると、モナ リザです。ご覧になった方は多いでしょう。高い天井の下で、意外 に思えるくらい小さい(77×53cm)。他の展示物に、壁画のように 巨大なものが多いからでもあります。 漱石は、ロンドン留学のとき、ルーブルで見たモナリザの微笑に、 女性が考えることの、うかがい知れぬ永遠の謎を感じ、『永日小 品』に気味の悪い絵として書いています。傑作『行人』の主人公二 郎の、謎見た嫂(あによめ)、お直のイメージにも通じます。 http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/758_14936.html モナリザの隣の部屋に、ドラクロア(1784-1863)がありました。 民衆を導く自由の女神、サルダナパールの死、キオス島の虐殺、ア ルジェの女たちなど、だれもが画集で見たことのあるものが、見上 げるように高い壁に、掲げてあります。 http://orieoriginal.com/item/005_dk10/ (↑複製画販売サイトの写真が、きれいにとれていました。) 小林秀雄が要約した、ボードレールの、以下の言葉を反芻(はんす う)し、しばらく眺めました。 <ドラクロアの絵を、遠くから見てみるといい。何を描いているの かわからぬくらい離れて、絵を見てみ給え。たちまち、ドラクロア の色彩の魔術というものが、諸君の目に明らかになるだろう。 (『近代絵画』)> <この場合、諸君の眼に映じた純粋な色彩の魅力は、絵の主題の面 白さとは全くその源泉を異にしたものであって、絵に近寄って見て、 絵の主題が了解できても、主題はこの色彩の魅力に何物も加えず、 また、この魅力から何ものも奪うことができぬ、と諸君は感じるで あろう。(同)> 確かに、描かれた主題とは無関係な色彩の魅力は、見てとれます。 この色は絵の主題の伝達に重きをおくためではない。 伝説的、歴史的な画題を手段にして、本当は画布上に「色彩の美」 を表現するのがドラクロアの目的だったと見てとったのは、『悪の 華』の詩人、ボードレール(1821-1867)でした。 年表でボードレールが、明治元年(1868)の前の年に亡くなったと 知ると妙な感じです。もっと、はるかに新しく思えます。 ボードレールは、同時代だったドラクロア(1798-1863)に、 ・18世紀までの「主題を表現する絵」から、 ・「色彩を描く絵」への進化を見ます。 そして「色彩を描く絵」を、それ以前の、主題を描いた絵画と区分 し、近代絵画と言った。 本稿は、ドラクロアから、印象派のモネまでです。いよいよ、絵画 が、主題ではなく、色彩の、そしてついには、色彩の元である光を 描くようになってゆきます。色は、物理的には、反射されて壊れた 光です。 ボードレールは、対象ではなく、色彩を描く近代絵画のパイオニア がドラクロアだったと見抜いた。それが、果たして私にも見えるか どうかを確認するため、ドラクロアの部屋を目指したのです。 19世紀以降、絵が主題(画題)としたことから、絵をわかることは できなくなった。近代絵画は、画題からは、わからない絵だらけに なっています。 本稿は、有料版の増刊として送ったものの、プロローグ部です。本 文の目次は以下です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <694号:随想:『近代絵画』を解釈しつつ(2)> 【増刊:目次】 1.近代についての整理 2.前号を、短く振り返りながら印象派へ 3.光を描いたモネ 4.光学理論とモネ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1。内容は、興味がもてますか? 2。理解は進みましたか? 3。疑問点、ご意見はありますか? 4。その他、感想、希望テーマ等 5。差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述の際、より的確に書くための参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは、記事に反映させるよう努め ています。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com 【後記】 <688号:ファイン・ラインから売れ数比例在庫法へ(3)> 2013年12月25日号 1. 近所の食品スーパー:マックス・バリュの商品構成の変化 2.売れ数比例陳列在庫の方法 3.エクセルにした表で言えば 4.陳列在庫数の適正化に使う 5.売れ数比例定数在庫法での、発注に使う <689号:2014年、年明けの断章:ダブルテーマ> 2014年1月1日号 【目次】 1.2013年の株価の上昇 2.米ドルベースで見るべき日本の株価 3.原因 4.株価上昇の経済効果 5.懸念 【ビット・コインとは何か】 6.高騰して、暴落している電子マネー:ビット・コイン 7.ビット・コインの高騰が始まった 8.ビット・コインの価値と、シーニョレッジの帰属先 9.政府は、警戒して制限するか 10.ビット・コインはデジタルの暗号 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ■1。有料版は、新規に登録すると『無料で読めるお試しセット』 が1ヶ月分送信されます。以下は、最近のものの、テーマと目次の 項目です。興味のある方は、登録し、購読してください。 まぐまぐの有料版では、新規に月中のいつ申し込んでも、その月の 既発行分は全部を読むことができます。最初の1ヶ月間分は、無料 お試しセットです。その後の解除は自由です。継続した場合に、2 ヶ月目の分から、課金されます。 (1)『会員登録』で支払い方法とパスワードをきめた後、 (2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、 (3)その後、『購読マガジンの登録』という3段階の手順です。 【↓まぐまぐ会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (まぐまぐ有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (まぐまぐ無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■2.「まぐまぐの有料版を解約していないのに月初から届かなく なった。」との問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんどの 原因は、クレジットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報の変更は、まぐまぐの『マイページ ログイン』の 画面を開き、登録していた旧アドレスとパスワードでログインして 出てきたマイページで、メールアドレス、パスワード、クレジット カードを新しいものに変更できる仕組みです。クレジットカードの 変更、送信メールアドレスの変更、パスワードの変更などに使って ください (マイページ・ログイン↓) https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカードと有効期限を登録すると、その月の届かなかった分を 含んで、再送されます。 なお、有料版と無料版メルマガの、購読方法の電話での問い合わせ は、以下です。075-253-1244 (まぐまぐ:平日午前10時~午後5 時まで) 【お知らせ】 『フーミー:Foomi』からなら、まぐまぐのようにクレジットカー ドではなくても、振り込み(自動)で、有料版の購読ができます (↓) クレジットカード登録がイヤな方は、ご利用ください。 http://foomii.com/00023 ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 のバックナンバー・配信停止はこちら ⇒ http://archive.mag2.com/0000048497/index.html |