6月の米朝首脳会談への提案(2)
This is my site Written by admin on 2018年5月7日 – 21:05
先ほどお送りした<Vol.379:6月の米朝首脳会談への提案(1)>
の続きです。米国が北朝鮮に要求する、CVID(完全で検証可能、し
かも不可逆的な核兵器の廃絶)での合意の可能性を検討します。

北朝鮮には、金正恩の命と独裁体制を守るための核兵器を、実際に、
完全廃棄する意思はないように思えます。リビアのカダフィが、米
国が要求したCVIDに応じたあと、米国がたきつけた内戦の中で、殺
されたことがあるからです。金正恩委員長は、イラクのフセインや
カダフィのように、米国から殺されないために、抑止力にたのんで、
核とミサイルを開発しているからです。


CVID方式の核廃絶ではなく、どういった方法で北朝鮮を封じ込める
か、ここが考えられ、提案されねばならない。会談の決裂は、北の
核施設に対する米国の限定的なミサイル攻撃を意味することになり
ます。
これは北からの、「全面的な反撃」になる可能性があり、短期間で
はあっても、韓国と日本は、核の脅威を含んだ重大な危機に直面す
るからです。

戦争を避けるためにはどんな提案がいいのか。これを考えます。事
実が起こってからは遅いからです。

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   <Vol.379:6月の米朝首脳会談への提案(2):続き>
         2018年5月8日:無料版

【目次】

6.CVIDをどう可能にするか
7.CVIDの妥協点も見えてきたが・・・
8.北朝鮮がCVIDを受け入れ、米軍が韓国から撤収することの可能性
9.米朝首脳会談で、核廃絶の方法が合意に達しなかった場合

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■6.CVIDをどう可能にするか

トランプが要求するのは、CVID(完全で検証可能、しかも不可逆的
な核兵器の廃絶)とミサイルの廃棄です。日本政府の要求も同じで
す。ミサイルについては、米国まで届くICBMは廃棄するが、日本に
向けられた短距離のスカッド(800基)と中距離のノドン(300基)
は残す可能性があります。(注)西日本はすっぽりと北のミサイル
射程に入っています。

【リビア方式】
かつて米国は、リビアに対してCVIDを要求し、カダフィ大佐は、核
を含む大量破壊兵器の完全放棄を声明しています(2003年)。

リビアでは、米国CIAと、英秘密情報部(MI6:007の映画風)が核
兵器の廃棄業務を行いました。リビアのスカッドミサイル(短距離
弾道ミサイル:化学兵器や核兵器を搭載できる:一基が3~6億円)
も、全部を、戦艦で米国に持ち帰って、解体したのです。

2011年には、核兵器を失ったカダフィ大佐は、米国が支援していた
内戦の中で銃殺されています。フセインやカダフィの帰結を迎えな
いために、金正恩は核兵器とミサイルを開発したてきたからです。

カダフィの暗殺のあと、隣国のチュニジアから「アラブの春」とさ
れた民主化の運動が起こり、エジプトの独裁政権だったムバラク大
統領も、軍の権限を委譲して、辞任しています(2011年2月)。

圧政の国家を転覆する市民革命のようなアラブの春は、もとは欧米
のメディアの扇動から起こったものですが、後期には、反欧米の民
族主義に転じました。

現在のエジプトは軍事政権です(軍人の、アブドルファッターフ・
シーシー大統領:2014年6月~)。

【米朝首脳会談】
(1)北へのCVID(完全で不可逆的な核の廃絶)、
(2)韓国からの米軍の撤収で合意される可能性があるのか、来月
の米朝首脳会談を、注目しておきましょう。

トランプは、合意ができなければ「席を立つ」と言っています。
席を立った結果は、先制攻撃か。

そうなれば、ロシアの関与があるシリアのような戦争の勃発でしょ
う。短時間で制圧されたとしても、北朝鮮が核兵器とミサイルを使
えば、米軍が駐留する敵国になる韓国と日本にとって大変なことに
なります。

トランプは本当に、そこまでの決意をしているのか。米国の軍事費
の増強はこのためだったのか。あるいは、どこかの線で妥協するの
か。

北朝鮮が、リビア方式での、米英軍やCIAが検証するCVIDを受け入
れる可能性は低いように思えるからです。

■7.CVIDの妥協点も見えてきたが・・・

CVIDでの妥協点は、「北朝鮮が核を廃絶する検証を、米国が中国に
委任する」ことです。

この場合、検証を北の同盟国である中国が行うので、北朝鮮に核と
ミサイルが残る可能性があります。リビアのような完全なCVIDには
ならない。

●北朝鮮に、中国軍が正式に駐留する形で、北の核廃絶を見守ると
いう方法が、トランプが描いた(描かされた)帰着点かもしれませ
ん。

▼外交評議会の提案

軍産複合体の広報機関とも言える米外交評議会(CFR:ロスチャイ
ルド家が資金を出す財団)の、名誉研究員のオルトン・フライ氏は
「中国軍駐留で北朝鮮の非核化を」と提案しています(ニューズ・
ウィーク誌に公表:17年12月7日)。


米外交問題評議会は、国際金融資本(金融マフィア)の世界戦略を
研究し、論文として発表する場です(Foreign Affairsを発刊)。
出された論文の内容が、米国の外交・軍事戦略になることも多い。

当方は、00年代初期まで購読していましたが、今はやめています。
料金が要りますが、インターネットで購読できます(親切に翻訳さ
れています)。政治家なら必読です。政治評論家や学者が、これを
読んで、原典を言わず得々として発言していることに気がつくこと
が多かったのです。

今も隠然と石油資本のロックフェラーを後ろ盾に米国の世界戦略を
描いている、ニクソン、フォード大統領の時期の外交を支配してい
たキッシンジャー(現在94歳)も、外交評議会の有力メンバーです。
17年6月にはプーチンと会談し、トランプとの米ロ首脳会談(7月)
を準備しています。キッシンジャー・アソシエイツは、石油の世界
1の生産国のロシアと、トランプ政権とのつながりをもっているの
です。

以下の要旨です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)北朝鮮の核開発を阻止する各国の試みは(目的は北の非核
化)、ことごとく失敗に終わってきた。(2003年からの六者協議
(中国、米国、ロシア、日本、韓国、北朝鮮が参加)

(2)北朝鮮が核開発にこだわるのは、アメリカと韓国が金正恩政
権の転覆をもくろみ、侵略してくると恐れているからだ。

(3)北の核武装を廃棄させるのに、有効な方法がある。かつて核
兵器開発能力を持つ国に(それも今の北朝鮮よりずっと高度な技術
を持つドイツや日本、そして韓国に)、核開発を断念させる上で有
効だった方法である。

それは、アメリカとの強固な軍事同盟の存在と、それを担保する米
軍の現地駐留という方法だった。

(4)(朝鮮戦争のとき)中国は、文字どおり命懸けで北朝鮮を守
ってきた。この歴史的事実に加えて、現段階で、北朝鮮に自国の軍
隊を駐留させれば、北朝鮮防衛の姿勢は一段と鮮明になる。

こうした「再保証」には、在韓米軍(約3万人)と同規模の中国軍
を、北朝鮮に常駐させる程度でいい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

中国軍を北朝鮮に常駐させ、「金体制の防衛」を保証すれば、金正
恩は、核兵器の廃絶を行う可能性が高いというものです。

これが、金正恩があらかじめ習近平国家主席と会談をした目的かも
しれません。中国人が大切にする「面子(めんつ)」が立つからで
もあります。トランプ大統領が依頼した「経済制裁への協力と仲
介」を、習近平は果たしていなかったからです。中国は面子で動き
ます。

このときは、
・北朝鮮には中国軍が、
・同じ数の米軍が韓国に駐留を続けることになります。
中国と米国の関与で、均衡を図る方法です。

■8.北朝鮮がCVIDを受け入れ、米軍が韓国から撤収することの可能
性

金正恩が、米国CIAの派遣によるCVIDを受け入れることはないと思
っています。核兵器、ミサイル、兵器が全部、丸裸にされ、いずれ
カダフィのようになるからです。

この過程で、核関連の国防予算を削減される国内の軍隊(140万
人)から、亡国的な約束をした金正恩に対するテロや叛乱が起こる
可能性も、高いからです。軍隊には、意外に、叛乱が多いのです。

北朝鮮がCVIDを受け入れるときは、中国によるCVIDという条件にお
いてでしょう。この場合北朝鮮には隠した核兵器が残る可能性が高
くなります。20発の核爆弾のうち、10発を差し出すというようなこ
とです。

北朝鮮が核武装を残したままトランプが就任後に言っていたように、
米軍が韓国から撤収すれば、核武装では裸になる韓国と日本は、と
もに北から重大な脅威に晒されます。これは、北朝鮮の完全勝利で
す。

そうすると、日本や韓国の独自核武装も持ち上がります。日本は、
原発の使用済み核燃料から、プルトニウムを取り出し、資源として
再利用する「核燃料サイクル」を、核兵器保有国以外で唯一、推進
しているからです。

保有量は現在47トンあり、原爆に換算すれば、約6000発分に相当す
るとは言われます。このプルトニウムを使うと、すぐにミサイルに
搭載できる小型核爆弾ができるという報道もありますが、それは違
います。

原発に使ったあとのプルトニウムは、爆弾としては不純物が多く混
じり、高性能が要求される小型の核爆弾はできない。作れるのは、
点火後にじくじくと早期爆発を起こす「火薬が湿ったような核爆
弾」と言われます(原子科学者)。

とは言っても、政府が本格的に取り組めば、核爆弾の開発はできる
でしょう。問題は、米国と世界が、そして国民がこれを許すかどう
かです。国際的・国内的な承認を得る見込みは小さいでしょう。

なお憲法の9条の改正(防衛の軍隊をもつことの明記)と、核開発
は無関係です。今の憲法のままでも、防衛のためとして核兵器の開
発は可能です。

米国は日本や韓国を核開発に向かわせるきっかけになる、米軍の撤
収は、行わないと見ています。

そうすると外交評議会が提案する、以下の妥協案がいよいよ浮かび
上がるのです。北朝鮮には、リビア方式で核を廃棄する意思はない
と思われるからです。

(1)北朝鮮は、核武装した中国軍の駐留を受け入れて、自国の核
とミサイルを、「表面上は」、廃棄する。
(2)韓国と日本には、核兵器をもつ米軍が駐留を続ける。

■9.米朝首脳会談で、核廃絶の方法が合意に達しなかった場合

▼米国本土に届くICBMだけの廃棄で合意したとき

まずトランプ大統領が、米国の西海岸に届く、北のICBM(大陸間弾
道ミサイル)の開発と、北が差し出す核爆弾の廃棄だけを、下限の
交渉材料にした場合です。

このときは、米朝は比較的容易に合意に達するでしょう。しかし、
米軍の韓国からの撤収はない。トランプがこの時期に首脳会談を行
うのは、18年9月に迫った中間選挙の勝利のためです。

6月の首脳会談では、ICBMの開発の停止(実験停止)と、完成して
いれば、双方が廃棄には合意し、核兵器と中距離ミサイルは継続的
な協議事項として残す案です。

この合意は米国中間選挙に有利に働くでしょうか。自国優先の国民
は、支持を増やすかもしれない。韓国と日本は、米国の核の、戦争
抑止力で守っているという思いがあるからです。

この時は、日本に核開発の機運が高まるかもしれません。日本の政
治家には独自に交渉して、北の核開発をやめさせ、廃棄させる政治
力はないからです。核を開発した金正恩は、政治的には日本を格下
に見ています。

▼米国がCIAや国連によるCVIDを主張したとき

トランプが外交評議会の提案を無視し、米国CIAによるCVIDの検証
を主張した場合、金正恩は受け入れず、決裂する可能性が残ってい
ます。直観的な確率では30%でしょうか。

その後、米国はどうするか? 米国では戦争を仕掛けた政府の支持
率が高まります。銃規制ができない国であることも、西部のフロン
ティア開発(征服)を行い、日本には大砲を装備した黒船の派遣行
ってきた米国の、攻撃的な文化を物語っているからです。

経済制裁の強化(米銀の北朝鮮マネーの凍結と没収)にとどまらず、
軍事的なオプションにも傾斜するでしょう。

北朝鮮は、政府高官の生活と140万人余の軍の維持に必要な、外貨
を稼ぐために、
(1)イランへの中距離ミサイル(ノドン:1300km:200基を保有と
される:自衛隊情報)、
(2)核開発技術の輸出、
(3)イスラム系のテロ組織とされているハマスやヒズボラへの、
短距離ミサイル(スカッドミサイル:射程は300~500km)の輸出も
考えられるからです。

米国にとって許容できないのが、大量破壊兵器の世界への拡散です。

具体的には、北の核関連施設とされる1か所から2か所への、限定的
なミサイル攻撃を目論むでしょう。敵の眉間をねらい気絶させるの
で、すでに「鼻血作戦」という名前がついています。

目的は核開発をやめさせることです。米国も、大規模な戦闘は望ん
でいないからです。しかし北朝鮮の反撃が大規模になる可能性は高
い。

しかしこれは、中国が金正恩の決定にイエスを出さないと、実行で
きない。中国は至近にあり、背後から北朝鮮を壊滅できるからです。
カギは今回も中国です。

北朝鮮が米軍と韓国を全面攻撃するとなれば、米軍の拠点や後方基
地となる日本への攻撃もあることになるかもしれません。可能性は、
小さくてもゼロとは言えない。

これからの約5週、韓国と日本は、すれすれの北の脅威の橋を渡り
ます。考えなければ起こらないという観念論ではダメです。平和を
願えば、平和になるのではない。人間の認識と行動が作る軍事的な
未来は、不確定です。

トランプが、金融資本である米外交評議会の提案を受け入れ、中国
によるCVIDの検証を提案することを、切に希望します。

トランプと意思を通じることができる安倍首相は、決裂する可能性
が高い(推計95%)米国によるCVIDではなく、北が受け入れる中国
によるCVIDで合意するようトランプに進言すべきです。

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<932号:「株式相場急変」への認識が分かれる理由(1)>
     2018年3月21日:有料版

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2.わが国の正規雇用と非正規雇用:個人事業は除く
3.鉄鉱石の岩盤の上の、赤茶けたセドナ
4.「全人代」が大きすぎる企業負債として問題にした、中国の住
宅価格
5.パワースポットの観光
<934号:「株式相場急変」への認識が分かれる理由(3)>
      2018年3月28日:有料版

【目次】

1.雇用統計で「右往左往」している市場との論
2.ブラック・マンデーとの共通点を指摘する論
3.米国の長短金利が逆転するまでは、株価調整はないという論

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【後記】

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