4月からの異次元緩和は、脱デフレをもたらし、経済を成長させるか(1)
This is my site Written by admin on 2013年10月14日 – 09:00

おはようございます。金融と経済を知りたいと思う理由は、何でし
ょう。知的な好奇心や、音楽や絵を愛することとは違う面をもって
いるように感じます。

自分の会社の、行く末を知りたい。自分の所得(賃金)はどうなる
のか知りたい。土地と住宅価格は、どうなるのか。株価はどうか。
物価は上がるのか。

円相場は円安か。自分の金融資産は、増やせるか。これからの自分
は、賃金が上がり、金融資産は増えて豊かになり得るか、こういっ
た関心からでしょう。

ただし、経済論から、上記まで導くのは容易ではありません。例え
ば、これから3ヶ月や6ヶ月ではなく、数年の中長期で、株価は上が
るのか。下がる傾向だった地価は反転するのか。平均的な世帯の所
得は、増えるように変わるのか。物価はどうなるのか。これにも、
答えるのは難しいでしょう。

しかし答える手がかりは、経済にしかない。こういった期待から、
本稿のテーマは、<異次元緩和は、脱デフレをもたらし、経済を成
長させるか>とします。

政府・日銀による金融と経済の政策は、「リフレ派」と呼ばれる人
達の説に、依拠(らいきょ)したものです。学者であるため、経
済・金融政策を提案する本も書いています。

日銀の副総裁になった岩田規久男氏は、以前取りあげた『デフレの
経済学(01年12月)』、内閣官房参与の浜田宏一氏は『アメリカは
日本経済の復活を知っている(13年1月)』です。

それにリフレ派9名による編著、『リフレが日本経済を復活させる
(13年3月)』です。分担は、岩田規久男氏、浜田宏一氏、原田泰
氏、安達誠司氏、矢野浩一氏、平野智裕氏、青柳潤氏、飯田泰之氏、
若田部昌澄氏というメンバーです。

■リフレ派の主張

マネタリストの祖、ミルトン・フリードマンが、世界大恐慌(1929
-33)の研究から言った、「デフレは貨幣現象である」という説を
根拠にし、「貨幣数量的な対策、つまりマネーの増発」を展開した
ものです。マネー不足がデフレの原因と考えるからです。

・マネー不足がデフレの原因なら、
・マネー(マネー・サプライ)を増やせば、デフレは解消するはず
です。

日本の、1994年以来の20年デフレは、日銀が、十分なマネー増発を
行わなかったことが主因で起こった。日銀が、マネー増発をすれば、
デフレから脱却できる。

デフレからインフレになると、人々は買い物を急ぎ、企業は設備投
資を増やす。物価が上がるようになると、経済(GDP)は実質でも
成長する。中央銀行は、国債を買い、マネーを増発すべきであると
いう。

【貨幣数量説】
背景には、<M(マネー・サプライ量)×V(マネーの回転速度)=
P(物価)×T(実質GDP)=名目GDP>、という貨幣数量説とも言わ
れる計算式があります。

米国の経済学・統計学者、アービン・フィッシャー(1867-1947)
がつくった交換方程式です。

■日本での事例

リフレ派は以下のように主張します。

▼(1)左辺のマネーの回転速度は、ほぼ一定で、大きな変化はし
ない。マネー・サプライの量(M3:1160兆円:13年8月)が、日本
では年4%増のとき、物価が±ゼロ%だった。

▼(2)2012年までは、日本のM3は、平均すれば、せいぜい2%程度
の増加でしかなかった。4%増に達していないから、デフレになっ
ていた。

マネー・サプライとしてもいいM3は、「現金+預金(普通+定期)
+CD(譲渡性預金)」です。世帯・企業・自治体が所有している
「預金」と解釈していい。

【マネー・ストックの変化と現在量】
2013年8月で、1160兆円です。なお、金融機関、日銀、政府が自分
のものとして所有する預金は、マネー・ストックからは除きます。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1308.pdf

日銀は、近年は、あえてマネー・ストックと言い換えていますが、
マネー・サプライと同じです。日銀が用語を変えた理由は、マ
ネー・サプライ(通貨供給)と言えば、日銀がその量を増やしたり
減らしたりできるような印象を与えるからです。

本稿ではマネー・ストックとマネー・サプライは、同じものとして
使います。

▼ベース・マネーと、マネー・ストック
(旧用語:マネー・サプライ)

マネーの概念を整理します。
まず、ベース・マネーです。

ベース・マネーは、
・日銀による、紙幣の発行高(83兆円:83億枚)と、
・金融機関が日銀にもつ当座預金(97兆円に増加)の合計であり、
180兆円(13年9月末)です。

日銀がマネー供給を増やすときは、国債市場で国債を買います。そ
の代金を、上記の当座預金に振り込みます。こうやって、マネー供
給の額を増やす。これが、ベース・マネーです。

ベース・マネーが増えたということの意味は、金融機関の保有国債
を日銀が買い取って、代金を当座預金に振り込んだということです。

これは金融機関が国債を減らし、現金に換えたということです。こ
の預金が、銀行にとどまっている限り、まだ、国民経済へのマネー
供給になってはいません。(↓13年4月以降の6ヶ月で40兆円増えた
のは、この当座預金)
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2013/ac130930.htm/

▼マネー・ストック(=マネー・サプライ)

次に「マネー・ストック」です。これは世帯、企業、及び自治体が、
金融機関の口座にもつ預金の合計です。この預金が増えることが、
マネー・ストックの増加です。2013年9月末のマネー・ストックはM
3(エム・スリー)であり、1161兆円です。世帯、企業、自治体が
合計でもつ預金が、161兆円と解釈していい。

マネー・ストックは、日銀が国債を買って、ベース・マネーを増や
すだけでは増えません。

国債を売った金融機関や銀行が、入手した現金を、260万社の企業
や5200万軒の世帯に貸しつけ、その企業と世帯が、借りたマネーを
設備投資、住宅投資、商品の買い物に使ったとき、総預金であるマ
ネー・ストックが増えます。以上のメカニズムが知られていないの
で敢えて書きました。9月ではM3は1161兆円になっています。前年
比で+3.1%です。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1309.pdf

日銀は、「ベース・マネー」は増やせる、しかしマネー・サプライ
は増やせないと言う。(引き締めで減らすことはできます)

2012年までの日銀は、「日銀は、マネー・サプライは増やせない」
としていたので、マネー・ストックと言い換えたのです。

▼リフレ派の主張

(3)日本がデフレから脱するには、日銀が、金融機関がもつ国債
を1年に70兆円、2年で140兆円くらい買い増して、日銀のベース・
マネーを、<現金供給額(83兆円)+日銀当座預金(200兆円くら
い)=280兆円>に増やせばいい。

この、ベース・マネーを280兆円に倍増させる「異次元緩和」の実
行によって、2012年までは2%しか増えないため、デフレの原因に
なっていたマネー・サプライを、1年に7%(70兆円)くらい増やす
ようにもって行く。

国債を売って、余剰な現金(金利ゼロ)をもった銀行が、その現金
を企業に貸しつけること(金利はプラス)によって、マネー・サプ
ライが増える。

▼7%増が必要

マネー・サプライ(預金)が1年に7%(70兆円)も増えれば、買い
物や投資に使うものが増える。これで、物価も上がるようになる。
設備投資も増える。

企業は、借りたお金で設備投資をするはずだ。そうすると、経済は
成長する。世帯も物価が上がると、買い物を急ぐ。

M(マネー・サプライ:7%増)×V(貨幣の回転速度はほぼ一定)
=P(物価)×T(実質GDP)=7%増

日本では、毎年4%ずつ貨幣の流通速度が低下しているため、この
式は以下になる。

●M(マネー・サプライ:7%増)
×V(貨幣の回転速度はほぼ一定:-4%)
=P(物価)×T(実質GDP)=3%増

●1年では、このMV=PTは、成立しない。数年(3年から5年)経つ
と、名目GDP(物価上昇率×実質GDP)の増加率は、3%以上を示す
ように向かう。

物価が2%上がるなら、名目GDPは4%増、実質GDPは2%増になるだ
ろう。

「貨幣数量説」とも言います。リフレ派は、この「貨幣数量説」に
依存しています。以上の政策が、現在、採用されています。

                           *

GDPは、世帯では年間所得、企業では年間利益です。
GDPの成長は、
・5200万世帯の合計所得の増加と、
・260万社の合計企業利益の増加でもあります。

本稿で検討するのは、
(1)    果たして、リフレ派の言う「貨幣数量説」のようになるのか、
(2)インフレの実現は、何をもたらすか、
(3)GDPの2.4倍の政府負債(1126兆円:2013年6月)を抱える日本
で、インフレを起こして金利が上がって、大丈夫なのか、です。

http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

以上で、プロローグを終わります。以下は、最新の有料版の目次で
す。ここで、本論を展開しています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<678号:4月からの異次元緩和は、
脱デフレをもたらし、経済を成長させるか(1)>

有料版 2013年10月9日号

【目次】

1. ベース・マネーの増加は、6ヶ月で40兆円
2. ベース・マネーは、通貨供給(マネー・サプライ)ではない
3. 円安と消費税増税という物価を上げる要因
4. 2014年3月以降の、消費税を含む物価は+4.5%
5. 株価では、6ヶ月先を折り込む
6. 異次元緩和6ヶ月後の、ベース・マネー
7. 日銀当座預金の増加だけなら「ぶた積み」
8. なぜ、「ぶた積み」になるのか?
10. わが国のマネー・ストック(M3)の増加
11. 2%のインフレには、7%(77兆円/年)のM3の増加が必要
11.「自宅に帰り着くまでが、旅行である」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【後記1】
日銀が、インフレ目標2%とともにとった異次元緩和(ベース・マ
ネーを2倍に増やすこと)の、経済への効果は、実験的なものです。

このインフレ目標が、マネーの増発による需要主導型で達成できる
かどうか、学説的にはまだ不明です。医学的に、結果が不明な治療
を行うようなことです。

インフレターゲット2%の実現に効果があるかも、知れない。いや
流動性の罠(わな)とも言われる「ゼロ金利という条件」から、国
債の現金化が進むだけのことかも知れません。ここを、考え尽くさ
ねばならない。

本シリーズでは、ここを追求して、「一体どうなるのか?」を明ら
かにすることを目的としています。これから2年の経済を、大きく
左右する問題がこれです。
【後記2】
11月7日の、講演会のお申し込み、ありがとうございます。

〔案内サイト〕
http://www.business-sha.co.jp/2013/11/%e3%80%90%e3%83%9e%e3%83%8d%e3%83%bc%e3%81%a8%e7%b5%8c%e6%b8%88%e3%80%80%e3%81%93%e3%82%8c%e3%81%8b%e3%82%89%e3%81%ae5%e5%b9%b4%e3%80%91%e5%be%a1%e7%a4%bc%ef%bc%81%e5%88%8a%e8%a1%8c%e8%a8%98%e5%bf%b5/

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『マネーと経済:これからの5年』

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