ビジネス知識源:特別号:「マネジメント」の実際の展開(2):ビジョンと価値
This is my site Written by admin on 2010年10月9日 – 17:00

こんにちは、吉田繁治です。今、NYのホテルからです。一昨日、
ブロードウェイ・ミュージカル、『メンフィス』を見ました。実を
言うと、2時間半の居眠りタイムと思い出かけたのです。

当方、英語の聞き取り能力にも、難があります。ほぼ毎回、居眠り
は同じでした。家人と長女が「見たほうが、きっといい。」と誘う
ので仕方なく行った。見せるのに何がいいか選んだらしい。FT紙
を眺めていても、ミュージカルの聴力や、とっさの会話力はつかな
い。情けない事実です。

直前まで、「ホテルで原稿を書くから・・・」と愚図っていたので
す。ミュージカルの英語がわかればすぐ行く。どうせ分からないと
思っていたからです。

2010年度のトニー賞の作品賞を得ていると言いますが、当方、演劇
のアカデミー賞や、学問のノーベル賞くらいだろうかとしか知らず、
その位置に不案内です。およそ、観劇の経験は少ない。

いつも、それらより、想像とイメージを喚起する本のほうがいいと
思っていました。考える癖から、人が演じる演劇とは何かなどと見
ている間中、妙なことを想念してしまうのです。

ところが・・・字幕のない異国語の、予備知識もゼロのミュージカ
ルで、切情、感動する経験は初めてでした。何がこうしたのか、考
えました。

本稿は、無料版としても送ります。マネジメントの実践の(2)で
す。

「ビジョンの機能と、企業が商品を通じ顧客に提供すべき(わかり
にくい)価値」について書きます。

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マネジメントの実際の展開(2):ビジョンと価値
     2010年10月9日:増刊

【目次】

1.メンフィスと、市立柏高校吹奏部の通底
2.組織の勘所
3.ビジョンの機能
4.関連して、芸術の価値をめぐって
5.マネジメントは、『もしドラ』も共通
6.技術イノベーション
7.3つの作品の通底

【後記】

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■1.メンフィスと、市立柏高校吹奏部の通底

【概要】
時代は1950年代のテネシー州メンフィス。アル中に見える白人のDJ
兼歌手が、公民権がなく差別されていた黒人の、当時はタブーだっ
たリズム&ブルースを流し、熱狂の人気を博して、後ではメジャー
なTV出演もし、白人の音楽だったロックンロールと融合させる物
語です。

(注)公民権:国家を構成する市民としての権利;権利は行為をな
す資格です。米国の黒人に公民権が与えられたのは1964年です。そ
れ以前は奴隷制を引きずっていました。まだ46年しか経っていませ
ん。

黒人女性歌手フェリシアへの、主人公(白人)の求婚も混じってい
ます。当時の南部(州法)は、人種を超えた結婚は、違法でした。

最初、フェリシアの歌唱力と、劇場を突き抜け透き通るような声に
魅了されました。後で知ったことですが、代役という。(注)上手
すぎて、黒人の黒いソウルを感じないという皮肉な批評もあるよう
です。当方は、違う角度から聴きました。

主人公はヒューイ。50年代はラジオの時代でした。実在のDJがモデ
ルという。会話もほぼ40%は断片的な理解で、聞き逃します。歌詞
の意味も、当方の聴力では聞き取れない。しかし、全員の歌唱力と
ダンス技能に圧倒され、鳥肌が立つ。

【二重写し】
このとき、数日前偶然、TVで見た市立柏高校 吹奏楽部(50人く
らいか)の、思い思いの所作を入れたブラスバンドを思い出しまし
た。島田伸介の司会で、『世界1のショータイム』でした

黒い縦襟のマオ・カラー服を着た顧問教師は、「希望を失った人に
感動を与え、再び、生きようと思わせるような演奏をやろう」と部
員に呼びかける。吹奏部の実現すべきビジョンです。「聴衆に希望
与えること」をビジョンにした。

ここから、とんでもない領域にまで行く。
いや、メンフィスのように行(おこな)ったのではない。
ブラスバンドを超え、彼方に行こうとする意志が見えた。

リーダー兼コーチが、部員に、到達不能に思えるビジョンを示す。
ありふれた、ごく普通に見える高校生たちは、ビジョンに共感する。

あとは、猛練習です。しかし激しい練習ならだれでもする。重要な
のは、部員が達成を信じることができる到達目標と指導があること
です。

これを、顧問教師が示す。
「こうやって、この方法で、この域まで、行こう。」

(注)これがリーダーの機能です。教育の本義は、
(1)到達目標を示し、
(2)目標に接近する、成功のための方法を指導し、
(3)目標に達する個々人の努力を、喚起することでしょう。

モティベーションは、目標から得られる。そのため、ドラッカーは
チームの目標設定(目標作り)を、マネジャー(管理職)の義務と
したのでしょう。

企業で上級マネジャーが行うべき人材育成もこれです。知識作業で
は、人が「人財」になる。知識と技能は、組織ではなく、個人がも
つからです。

「要は人財」とはどこでも言う。しかし、本来の意味を知らねばな
らない。目標を決め、目標を達成する方法を教育・訓練し、個々人
が努力することから人財が生まれます。

柏高校では、優れたリーダーを得て、示された到達目標に応えるべ
く、自分たちの工夫で、思い思いの振る舞い(動作)を、演奏に加
える。座って演奏ではない。リズムとメロディに調和するよう踊る。

リズム、メロディ、所作の調和とは、個々の価値を際立たせる総合
です。

(注:調和)たとえば4畳半に活けた、茶室の一輪の野の花は、野
に置いたままでは見えない花の価値が、限界まで簡素な背景で、鮮
やかに際立ちます。こうしたことが、日本芸術の特徴の「間
(ま)」を活かした調和(総合)でしょう。

普通のブラスバンド演奏では、伝達可能に思える高い基準のビジョ
ンに向かい、放課後には猛練習をし、厳しく、部員同士で相互チェ
ックをする。

「こうやったほうがもっといい」という工夫を、細部まで凝らす。
これが自己管理です。知識作業は、こうした自己管理の方法でなけ
ればならない。柏高校吹奏部は、自己管理にも至っていました。

吹奏楽部の「聴衆に希望を与える」という組織目標を分有し、そこ
から自己目標を導いて、その個人目標によって自己管理をする。
オーボエ、トロンボーン、トランペット、ドラム。

自己管理は、動機付けを強くします。統制的な上からの管理をうけ
るとは、誰でも、やる気は減じます。上司に「じゃ、自分でやって
みろ」と言いたくなる。しかし部下は決してこれを言いません。

【個人の資質や能力ではない】
柏高校の吹奏楽部の高校生が、企業に就職したとき、こうした力を
発揮するかどうか? これは疑問です。

入社した組織が、吹奏楽部のような形態をとっているかどうか、こ
こに問題があるからです。

言えるのは、以降で述べる組織の形態で、同じ個人が活きるかどう
か、高いやる気をもって仕事をするかどうか決まることです。やる
気を削(そい)で、莫大に実損をしている企業が多いでしょう。
(注)経営学は、要は、やる気の研究でもあります。

【責任から】
目標の分有意識は、自分の役割が果たすべきことに責任もつことか
ら生まれます。そのため、役割と役割を果たす責任を与える。

人間は、チームへの責任が、人を、自分だけのとき以上に喚起(動
機づけ)します。心理学者マズローが、実験で発見したことでもあ
る。

ゴルフは普通、個人戦です。しかし、国別対抗のチーム戦のほうが、
アマはもちろん、プロ選手でも役割を果たす責任から、はるかに盛
り上がる。

人間は、どの国の文化でも共通に、自分のアイデンティティを共有
する集団への帰属の意識が強いからです。賞金(報酬)は少ないの
です。その報酬は無形です。マネーよりはるかに強いアイデンティ
ティでしょう。オリンピッや世界サッカーが盛り上がるのは、国へ
の帰属意識からです。

(補足)いい例ではありませんが、人はマネーの報酬で自爆テロを
することはできない。わが国の特攻も同じでした。こうしたことま
で促すのは、自己が属する集団への帰属意識です。

■2.組織の勘所

権限ではなく、チームへの責任です。成果責任を問わない権限は、
「長」を堕落させます。

官僚的な組織が、堕落に向かう本性をもつのは、成果責任をあいま
いにし、階級(**長)に権限を与えるからです。権限は下の統制
に向かいます。

成功する組織の原理では、マネジャーが、チームの成果責任を負う
から、チーム成果を達成する目的で、個々人への決定と、部下の仕
事の評価の権限を使うことができるということでなければならない。

コミットした成果目標の達成意識が強いマネジャー(責任意識が強
いマネジャー)には、人はついて行きます。階級的な権限を振り回
された途端、誰でもやる気はなくなるでしょう? これが証左です。

成功する組織は、達成責任の体系としてつくるべきであり、職務分
掌と階級に基づく権限の体系ではない。多くの組織が、間違えてい
ます。

社員のやる気をうんぬんする前に、組織が、成果の達成責任の体系
であるかどうか、点検する必要があります。

優秀な人を集れば、優秀な組織ができるのでは決してない。優秀な
人なら、集めることは可能です。そうなると組織は優れるか。全く
違います。人を活かし(責任を分有させ)、成長させる体制がなけ
ればならない。優秀な人を採用すれば、企業の業績が上がるのなら、
こんなに簡単なことはない。

●権限の体系の組織は、階級に基づく軍隊や官僚風組織であって、
これは、知識作業には有効な機能を発揮しません。こうした組織論
に誤りがある企業は、成長しません。

会社が成長を止めたときは、ほぼ必ず、いつの間にか(数年間放置
すれば)、上からの縦の権限でしか動かない組織になっています。
そのほうが、マネジャーも部下も楽だからです。

多くの人が、若い世代は指示待ち世代という。真っ赤な嘘です。本
当は部下を指示待ちに、組織の責任体制がしているのです。

今、上層部が重く、細かい権限の管理職が多くなった組織(ヘッド
ヘビー)になっているからです。部下が、何かを発意してやろうと
すると、権限が縦に分有されたあちこちに、具申または稟議せねば
ならない。そして、それは君や君の部の権限ではないと、横からも
上からもつぶされる。そうしたことを、入社した社員は一瞬で感じ
ています。

この20年で、実に、権限が細かいヘッドヘビーになった組織が多い。
企業の売上成長率が20年も低いと、社員の年齢は1年ごとに増えま
すから、必ず、ヘッドヘビーになる。そのため、内部向けの調整会
議が増える。経営者が意図してそうした組織を作らなくても、自然
にそうなってしまいます。

大企業病と言っていますが、それでは曖昧です。中小企業にも多い
からです。無駄に上司が多く、成果責任があいまいな細かい権限の
体系になっているのです。マネジャーは、自然なままなら、部分を
守る本能を持つからです。このヘッドヘビーな組織体制は、約5年
~10年ごとに、意識して壊さねばならない。(注)打破するには、
成果目標をもったプロジェクト型組織に転じることを端緒にします。

市立柏高校吹奏部でも、上からの権限で命令する組織だったら、10
0%の確率で、あの演奏の域には達しなかったと断言できます。

個人プレーヤーに優れた人を集めても、あの域には達しません。

逆に、ビジョンと役割責任で引っ張れば、普通の人が集まる組織が、
とんでもないところまで行きます。

どの組織も、普通の人です。差をつければ、5%が優秀、15%が
良、60%が普通、20%が不可にしかならない。東大は、高校のテス
トではトップクラスが集まっていたはずですが、クラス(仏文科組
織)になると、全く、上記の順になっていました。

経営の上層部しか、組織の責任と権限の体系に関する決定は、でき
ない。自社が、「チームマネジャーが成果責任をもち、成果を達成
する目的で、部下に強制する権限がある組織」かどうか、点検して
ください。

多くの会社は、責任の体系ではなく、(意識して変えないと)自然
に、本部長以下、マネジャーに成果責任を問わない権限の体系にな
っているはずです。「**と指示しました。厳しく言いました
が・・・」と答える組織がこれです。

■3.ビジョンの機能

社員と顧客に、共感を与える事業の定義を、顧問教師は行った。

吹奏部のビジョン:「顧客に、普通の吹奏楽への期待を超える(差
異的な価値をもつ)感動と、生きる希望を与える商品(演奏)を届
ける」

顧問教師が決めたこのビジョン(到達目標)で、高校生の蒼い活動
のエネルギーが、熱く集結(集中)される。企業も同じです。

組織マネジメントは、共感されるビジョンが活動の方向になります。
活動の方向が、磁石で砂鉄が並ぶように、同じ向きに揃ったとき、
仕事で必要な集中が生まれます。それを与えるのが事業目的です。
事業目標です。ビジョンです。(注)この3者は同じもの。

他方、カオス(混沌)の組織では、空気のように個々(分子)のエ
ネルギーはあるが、方向が揃わず散乱し、+と-の方向の違うエネ
ルギーが打消しあってしまいます。

強いエネルギーをもつレーザー光線は、光の波長と方向を揃えたも
のです。方向を揃えるのは、ビジョンの実現を到達目標とするマネ
ジメントです。これによって、組織は、個人では及びもつかない巨
大なエネルギーを出す。

こうした、「希望を伝えるというビジョン(達成目標)」に向かい、
演奏が下手かうまいか、リズムに乱れがあるか、もう、そんな静観
的なクリティック(批評)の域を超えた演奏とパフォーマンスを、
高校生がしていました。

顧問教師は、吹奏部員に対し厳しかった。しかしこの厳しさは、
個々人の成長のためであって、教師の手柄のために権限を振り回し
たのではないいうことを、高校生は、心の底から知っていたのです。
これが、ドラッカーが言った、マネジャーの目標達成への「厳格と
真摯」です。

【価値】
この演奏を、多くの人が1分も聞けば、心を動かされるに違いない。
何が表現されて伝わるのか。

自分達に可能な、最良のものを提供しようとする意志でした。
演奏、所作、表情にそれを感じる。感じれば、心が動く。

【二重写し】
「メンフィスも、希望を伝えるためのミュージカル作り」と、最初
のシーンの歌で感得した瞬間、涙があふれました。市立柏高校の吹
奏楽の「希望」を思い出したのです。

こうしたものが「顧客に与える価値」でしょう。吹奏楽とミュージ
カルでは、形式(フォルム)は異なります。しかし、与えるべきと
目標化した価値は、同じでした。(注)希望という価値=演奏その
ものではなく演奏から生じるもの。顧客が受け取るもの。

これは芸術全般に共通し、仕事にも共通します。感動を与える物流
センター、店舗、売り場、商品、生命保険の営業、経営企画、人事
制度、営業戦略、商品戦略、価格戦略もある。

顧問教師が言う、「希望を失った人に、再び、生きる希望を与え
る」という実現目標もこれでしょう。経営者は、これを作らねばな
らない。

「われわれは、販売する商品を通じ、顧客満足(という価値)を売
る」と決めたのが、1960年代のサム・ウォルトンでした。

■4.関連して、芸術の価値をめぐって

顧客に与える価値をめぐって、意味が分からない「芸術」について、
注記したくなりました。

工人が作った茶碗が、歌われる歌が、描かれる絵が、演奏される楽
器の音、演じられる劇が、芸術に達する境界(域)はどこか? 

50年代のテネシー州メンフィス市でのように、黒人差別を受ける実
際は「生々しい苦しみ」です。恋愛の実際も、焦がれるように自分
を動かす心の情動です。

これらは、芸術ではない。皆が経験する「現実:リアルな世界」で
あるに過ぎない。「現実」は芸術ではない。自然の昆虫や木の葉や、
富士山や花が芸術ではないように。

【現実とフォルム】
こうした「生々しいもの、あるいは直面した現実」を、
・形式(たとえばミュージカル、吹奏楽、演劇、小説、絵画、歌、
詩、散文、陶芸、舞踏等)がもつ、
・それぞれの様式(フォルム)で、表現する。
音、所作、絵の具、土、声、文章です。

表現には、自分以外の人に伝達できるよう、フォルム(形式)が必
要です。たとえばこの文章は、日本人に伝わる「日本語というフォ
ルム」を使っています。

・人が、共通のツールで、表現しなければ、伝わらない。
・伝えようと試みても、表現の技術がなく、伝わらねば価値はない。
「価値」は、人に伝わったものです。
(注)以上は、小林秀雄の、美についてのエセーから知ったことで
す。

全部が個別的な、たとえば差別を受ける苦しみや、恋愛の苦しみと
喜び、自然の花の美は、それを味わった当人にしか了解できません。
恋愛でも、われわれが経験する世界の現実は、二度と繰り返さない
個別です。

それを、ほぼ10年以上または20年のたゆまぬ修練を積んだ技術(工
芸)で表現する。ミュージカルでは、楽器演奏、歌、歌詞、科白
(せりふ)、舞踏、表情の「総合」です。これで「美」に至る。

自然は美しい、太陽や雲は、実に美しい。しかしそれは英術ではな
い。それを、形式をもって人間が表現し、美という価値が人に伝わ
ったとき芸術になる。表現はex-press、圧縮したものを、外に出す
こと。

総合とは、表現すべきと決めたものを伝えるべく揃えた上記の要素
の調和です。総合=要素の調和(=店舗の品揃え)でもあります。

NYの店舗の商品構成は、狙う顧客ターゲットを絞り、その中で調和
的です。

レブロンは事業の草創期に「普通の人の美への希望」を安価に実現
できる化粧品を作り、たとえば口紅とマニュキュア(要素)を調和
(Co:一緒に:-0rdinate;働かせる=調和)ことを、事業目的
(ビジョン)にしていました。家電のデザインでも必要でしょう。

今、この方法は、NYの店舗に、たとえば低価格のZARAやH&M
にも、高価格のルイ・ヴィトンやシャネルのようにも一般化してい
ます。これらを、隣接して見ることができるのがNYの魅力でもある。

しかしわが国の店舗の商品構成は、この域に及んでいません。MU
JIが住関連、衣料、生活用具でコーディネート(要素調和)を試
みています。ユニクロやニトリは、まだ、劣っています。コーディ
ネートの美が弱い。

(注)MUJIは、NY Times社の隣、40丁目に店舗を持ちます。ユニク
ロもSOHOに旗艦店(フラグシップ・ストア)があります。ブランド
価値は、異なる商品(品種)の調和の美から生まれます。

【表現と伝達】
そしてこうした表現された美のように、「メンフィス」で伝えよう
と意図した「差別の苦しみを、音楽で超えたときの希望、喜び」が、
観客に伝わる。

差別の苦しみの現実は、苦しいものだった。恋愛も、心を突き動か
す情動だった。この苦しみを超える希望が、様式をもって人に伝わ
るとき、観客(顧客)が受け取るのは、苦しみではない。「美」で
す。

言い換えれば「あらゆる芸術の、表現の目的である美」に、変わっ
ています。それが「感動」でしょう。感動(これが受けとる価値)
が伝わったとき、「芸術」になる。

ありふれた茶碗を見て、感動することはない。しかし、これが弥生
時代の物だとわかると、急に芸術めいてきます。これは、真贋を見
る目がなかったということではない。

本物という情報で「弥生時代の生活」がわれわれに伝わるように変
わるからです。つまり、ありふれた茶碗がイマジネーションを喚起
し、前古代の生活の表現になる。

信長や秀吉が使っていたという情報でも、同じ効果です。茶椀が、
織田信長の思いと生活を伝えるものに変わるからです。われわれが
博物館や劇場に行くのは、こうした「伝達」を求めているからです。

「感動、希望、恋愛、生活」、このときの生々しい感情や考えが、
フォルムをもって人に伝わるものに様式化されたとき伝わるものが、
芸術の価値でしょう。

企業が行うのは芸術ではありませんが、商品やサービスを通じ、こ
うした「価値」を伝えることにおいて、共通です。羊羹、衣料、ク
リーニング、化粧品、家具、洗剤、缶詰の製造、野菜や肉の品揃え
でも同じでしょう。

(注)このように、商品を媒介にした顧客に与える「目的。価値」
から考えると、事業のビジョンも作ることができます。ドラッカー
が言った事業の定義、目的がこれです。

高校野球をやる、吹奏楽をやる、ミュージカルをやる、あるいは作
る。このとき、顧客に向かって伝えよう、与えようとすること、言
い換えれば、目的(Object=目標)とすること、さらに言い換えれ
ば、与える価値は何かということです。事業も、市立柏高校の吹奏
楽と同じ構造です。

話題を戻します。もちろん、メンフィスの歌と踊りは、柏高校の高
校生とは違う「プロ・フェッショナル」です。

プロ・フェッショナルは、実行して顧客に提供するものを、あらか
じめ約束するのが原義(pro=前もって:fession =告白する)。つ
まり高度技術。ブロードウェイに出るには、たぶん1000分の1くら
いの頂点です。

プロ・フェッショナルは、作る、提供する品質への期待を満たすこ
とで報酬がもらえる。「メンフィス」も、失意の人に与える希望
(価値)がビジョンに思えました。

そして・・・たとえばサンヨー(現在はパナソニックグループ)は、
「何を、製造する家電の、顧客にとっての価値として与えようとし
ているのか?」 

イオンはどうか? 東芝は? 日立は? トヨタは? ソニーは?
 医療用医薬品卸のアルフレッサは? 資生堂は? ライオンは?
 日経新聞は? フジテレビは?・・・となるのです。

グーグルやアップルは、この点についてクリアです。情報商品を、
従来よいはるかに安価に、誰でも、どこでも、(説明書を読まずと
も)容易に使うことができる価値を与えるよう商品設計し、価格設
定しています。しかもその商品デザインには美がある。企業の価値
提供は、このように、突き抜けねばならない。

■5.マネジメントは、『もしドラ』も共通

『もし高校野球部の女子マネジャーが ドラッカーのマネジメント
を読んだら』を、関空の書店で買い読みました。

文字による劇画です。
正確に『マネジメント』を解釈し、物語化し書かれています。

【到達目標から】
ドラッカーが説く「事業の定義、顧客はだれか、そして顧客に提供
すべきものは何か」、これを高校野球で発見することが、物語の最
初のモチーフになっています。

最初のマネジャーの問いかけは、高校野球の顧客とはだれか? 顧
客に影響すべき、(他と差異化された)価値は何か? 事業の創造
と同じです。

ドラッカーは、事業の定義は「顧客が受け取る商品価値の側から行
うべきだ」と言っています。仕事は、事に仕える。事は上司ではな
い。顧客です。商品は顧客のためのものだからです。

商品と価値の違いは、
・柏高校の吹奏楽の演奏(商品)と聴衆に与える希望(価値)や、
・ミュージカルのメンフィスの演技と歌(商品)と観客に与える希
望(価値)で了解されたでしょう。

【価値の発見】
それが(とても困難な)甲子園に行くという事業目標になる。次に、
野球部が、部員と顧客に与えるべきものは感動だと、ドラッカーを
手掛かりに読み解く。

この感動は、高校の野球部なら共通にもつ、甲子園を目指すという
目標への情熱から生まれるだろうとドラッカーを読んだ女子マネジ
ャー考えます。

チームメンバーの入れ替えや優秀な選手のスカウトはない。元は、
最弱のチームです。もちろんフィクションです。しかし、高校野球
という訓練期間が短いものなので、フィクションには思えない。

目標達成への練習を支えるのも「感動(これが価値)」です。高校
生の女子マネジャーが、ドラッカーの『マネジメント』を読んで考
え、友人に話して、「高校野球を動かすものは感動だ」と発見する
ように、作者が描いています。

【責任の分有】
次に部員を動かすコミュニケーション。コミュニケーションによる
マネジメン、つまり目標達成の成果を生む仕事をするよう引っ張る
こと(=マネジメント)、そしてチームへの責任、組織員への適切
な役割が描かれます。

チーム内で、責任(組織での役割と言っても同じ)を与えることで、
部員が、自分の達成目標を作って練習する姿も描く。これが、既述
した自己管理です。

【構造】
(1)ビジョン(到達目標=勝って甲子園に行く:感動を与える)
→(2)組織で分有する役割(走る、打つ、守る、投げるなどの部
分責任)
→(3)自分の達成目標→長所を更に伸ばすための個々人の練習・
訓練のメニュー作り。

■6.技術イノベーション

次は、高校野球の定説(通説・常識)を壊す技術イノベーションで
す。

【業界常識を超えるイノベーションを目標化】
業界常識の打破が、イノベーションです。

・マーケティング(顧客に提供すべき価値づくり)と、
・技術イノベーション(業界の常識を超えて、顧客への価値を先鋭
化するための改革)が、企業の2大活動でしょう(ドラッカー)。

このイノベーションは、以下の5項と監督が決めます。
いずれも高校野球の通説を壊す技術革新です。

(1)絶対に、高校野球の常識になっているバントをしない。
(2)ピッチャーは、ボール球を投げるひっかけをしない。全部ス
トライクを投げ、投球数を減らして、連投の疲労を軽減する。

(3)打者は、ボール球に対し、バットを振らない練習に集中する。
そして、連投する相手投手に、多く投げさせて疲労させる。
ひっかけのボール球を投げる癖があるので、投球数が増える。

(4)エラーをして、おどおどしないように、エラーが出ても自分
の責任になりにくい前進守備の体制を監督が命じる。高校野球はエ
ラーでチームが崩れる。エラーで崩れるのは、自分の責任と思い、
普段の力が出せないように委縮するからである。高校野球の勝負は
一回限りでしかない。エラーを恐れ、プレーが委縮すれば、練習の
成果が出ず、負ける。

こうして、「マーケティング(価値づくり)」と「技術イノベーシ
ョン」の両方を行った。これは、企業の経営にとって必要な2大事項です。

■7.3つの作品の通底

『メンフィス』、『市立柏高校の吹奏楽』、そして『もしドラ』に
共通項を感じます。私が、そうした当為の視点で見ているのか。

そうではない。伝わって来ます。ドラッカーの、到達目標(成果)
による管理が、組織マネジメントの普遍に達しているからでしょう。
吹奏楽、メンフィス、野球部も組織です。

(注)『マネジメント』はダイジェスト版でなく、完訳を読んでい
ただきたい。長いですが、あなたの一生の知識資産になるはずです。

組織は、共感できる到達目標(ビジョン)を作れたとき、集中が図
られて動く。古代から、変わらなかったのではないか。最初は、実
現が不可能にも思える高い目標。それが情熱を喚起します。

この情熱が、事業と仕事に必要な集中を生む。情緒的でしょう。
人は情緒、感情で動きます。ビジョンは情緒的な文章です。

【仕事とは? 他人に与える価値作り】
ドラッカーは、人間の二大活動である「仕事」と、仕事以外の時間
を占める「遊び(買い物も遊びの一種)」の違いを以下のように書
いています。重要なくだりです。

<仕事の成果は、仕事をした人の(自分の)心のうちではなく、外
にある。遊びの目的(と成果)は、遊ぶ当人の心のうちにあるが、
仕事の目的(と成果)は、(仕事で)出来上がった商品(または
サービス)の利用者が決める。成果を味わうのは、行為者本人では
なく、他の人であるとき、それは遊びではなく仕事である>

【商品とは?】
つまり、仕事は「顧客志向、顧客の期待を満たすこと」であるべき
です。そして顧客が味わう商品はモノとして、サービスは顧客への
貢献として「対象化」できます。

商品は、それを仕事で作る本人とは切り離せるということが、対象
化(objectにする)ということです。

他方「遊び」は、遊びから得られる自己満足が目的になる。観光も
遊びですが、その目的は、他人を満足させることではない。自分の
満足でしょう。

ここに、
・他人に与える満足を目的とする仕事と、
・自分の満足が目的である遊びの、根本的な違いがある。

(注)これに類する論理展開の大切なことが、『マネジメント・ダ
イジェスト版』では抜けています。良書で長い本には、文章数が必
要だった必然があります。

こうしたことから、仕事を管理するマネジャーは、
・対象化された商品(たとえば演奏、ミュージカル、野球)と、
・その商品を作る仕事をする働き手(人間)の両方を、マネジメン
トせねばならない。

・商品が、顧客の期待を満たすものになるように、
・そして、それを作る人間が仕事の達成感を得るようにマネジメン
トしなければならない。

端的には、
・生まれる商品と、
・それを生む人間の労働のマネジメントが必要ということです。
以下の図式になります。

[マネジメントの2領域]
(1)商品・・・指標:顧客の期待の満足→商品の成果目標
(2)労働・・・指標:仕事の達成感  →仕事の成果目標

【後記】
NYを頻繁に訪れる理由は、以上のようなマネジメントの構造が、明
確さをもって感じとれるからだと、改めて、今回自覚しました。

米国の優れた経営は、全部、単純化されているからでしょうか。
単純に至ることは、事業の成功のコツでもある。

日本では、慣習的な部分に、目が慣れすぎています。そのため、構
造の領域が見えにくくなる。

管理ということの曖昧さ(=複雑さ)に、目が曇ると言っていい。
日本の企業は、複雑すぎる感じです。組織も、論理で考え、作った
ものでないからでしょうか。

今回は、マネジメントを解こうとする当方の意志があって、その当
為の視点で、NYの街、店舗、レストラン、事物、金融を見ているせ
いかもしれません。NYやパリは、街そのものも、価値を伝える商品
です。その上にのる企業も、商品と顧客に当たる価値を、意識せざ
るを得ないのかもしれません。

NYの街に、イオンやIY堂をもってくれば、どう映るか?

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「迷惑メールのフォルダ」に入っていないかを調べてください。
メーラーソフトの自動更新で、突然、迷惑メールに入ってしまうこ
とがあります。(これが多いようです)

入っていたら右クリックし「送信者を、差し出し人セーフリストに
追加
する」としてください。次回から、受信フォルダに入ります。

もし迷惑メールにも入っていなかったら、まぐプレからの送信か
(または誤って消したか)の問題です。上記のまぐまぐプレミアム
事務局にメールで問い合わせてください。クレジットカードの処理
で、期限切れになっていることもあります。

なおメーラーソフトやメールサーバーでの「メールの自動振り分
け」については、7月1日以降、メールの送信元が変更されていま
すので不調が起ることもあります。修正は、以下のサイトを参照し
てください。
http://www.mag2.com/info/renew/webmail.html
問い合わせは、ここにメール: reader_yuryo@mag2.com
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