こんにちは、吉田繁治です。<経営者が行うべき3つの仕事の内容を
解く>の完結編をお届けします。経営者及び経営幹部の仕事では、
1.何を、
2.どう行うべきか、
3.どんな成果(result)を上げるべきかが、問われることが少ないよ
うに思います。
原因は、全体の管理(management)が経営層の仕事とされ、経営層自
体の仕事と成果が問われるのは、株式市場からでしかないからでし
ょう。ところが株主は多くが短期所有です。長期所有でも経営への
関与は薄い。事業が危機のとき総会で発言があるくらいです。
それに、株の差益が目的の株主が、経営者より見識があり、より方
法を知っているとは言いにくい。非公開企業では、経営者や家族が
株主です。自己チェックにしかならない。
経営(management)がどうあるべきか生涯研究したドラッカーは、
1.今日の事業の成果を上げること、
2.潜在的な機会を開発すること、
3.明日のための新しい事業を開発することを、
経営層の仕事とすべきであると論じています。
本シリーズの全3号はこれに協賛し、それらの内容がどんなものであ
るべきか、方法は何か、事例や体験を引き、述べています。
(注)幹部層は、事業の意志決定においてトップをサポートすべき
立場の人です。優秀な人でも1人の考えでは、どこかに重大な漏れが
あることが多い。会議は、衆知を集めることに意味があります。
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<Vol.244:経営者が行うべき3つの仕事の内容を解く(完結編)>
2010年2月22日
【目次】
1.事業の成果を上げる
2.価値開発のための、普遍的な方法:4つの問い
3.新しい事業を開発する:ビジネス・モデルの開発
4.ビジネス・モデルの発想:事業開発とは?
5.理想企業アプローチという方法
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■1.事業の成果を上げる
「1.事業の成果を上げる」とは、現在の事業で、利益を上げるよう
にマネジメントすることです。成果は利益です。
そのためには税のために行う「財務会計(=税務計算会計)」では
なく、「管理会計(management accounting)」の仕組みをつくっ
ておかねばならない。
スタッフが方法を起案し、情報システム化が必要です。管理会計は、
ABC(Activity Based Costing:活動ベース原価計算)と言われる
ものに類似します。製造業、卸売業、小売業、サービス業で単純化
して言えば、以下の方法です。これが、マネジメントの道具です。
製造業=商品カテゴリー別売上高-仕入原価-管理費-生産費-
販売費-物流費=営業利益
卸売業=商品カテゴリー別売上高-仕入原価-管理費(経営・管
理・IT費)-営業費-物流費=営業利益、
小売業=店舗の部門別売上高-仕入原価-部門の直接費-部門の間
接費=営業利益
[補注]製造業、卸売業では、商品カテゴリー別の管理会計と、部
門(支社、支店、課等の事業所)別の管理会計も必要になるでしょ
う。その場合、上記、小売業の管理会計と同じ構造になります。サ
ービス業は、小売業と同じ構造でしょう。
要は、組織に合わせ分類した商品と、その生産及び販売と管理に要
したコストを、対照します。そのために、人件費(財務会計)とし
て一括計上されたものは、担当する商品に分割して関係づけます。
設備費も、商品に合わせて分割し配賦します。
京セラで実行されている「アメーバー経営」では、小さな商品分類
(カテゴリー)に分けた管理会計で、担当までの営業利益を計算し
た管理会計が経営のもっとも重要な道具になっています。
管理会計は、社員の仕事と利益のつながりが見えるようにしたもの
です。仕事の成果は、利益です。自分が行った仕事と利益の関係が
見えなければ、マネジメントもできない。一生懸命にやるというこ
としかなくなる。これでは闇雲です。
社員が仕事にかけた時間は、事業にとってはコストです。コストは、
上げる売上との関係(利益を上げるための人時当り売上の大きさ)
で正当化されます。売上は、企業の外部である顧客からしか来ない。
管理会計はこれを見せます。
制度になっている財務会計とは違い、管理会計の形式(科目の設定
と経費分割の方法)に、決まったものがあるわけではない。京セラ
に見るような、活動ベース原価計算の方法がいいと考えています。
各マネジャー(部門の長)のマネジメントでは、まず担当する部門
の営業利益目標を設定します。この成果目標にコミットし、目標営
業利益を上げるよう、商品と在庫、仕入原価、商品原価、及び仕事
を管理(経営)する。これが、事業の成果を上げるということです。
管理は、数表を評論するだけではない。目標成果を目指して、目標
との差異が生じた原因を確定し、原因対策を立案して実行すること
です。これは、大企業・中小企業・個人企業に共通します。
利益は、他社との比較での商品価値(またはサービス価値)の、顧
客にとってのプラスの差異から出ます。
■2.価値開発のための、普遍的な方法:4つの問い
潜在的な機会開発は、商品の価値開発でもあります。
商品または事業の、価値開発を行うための方法を示します。
単純な、4つの問いです。
商品の価値や事業の価値は、顧客にとってのものです。[商品価値
=商品の便益・効用÷価格]です。商品価値が高いとは、顧客にと
って、同じ商品(または類似商品)の価格が、他より低いことです。
価格は顧客が、財布の中から負担する費用(コスト)だからです。
無形のサービス価値も同じです。
同様に、[事業価値=事業の顧客にとっての貢献度÷コスト]です。
コストは、事業の顧客が、商品代金として負担する費用だからです。
事業価値が高いとは、その事業の顧客にとっての費用が、他より低
いことです。
以上も「当然のこと」ですが、多く人が従事するための経営の複雑
さ、そしてどの組織にも放置すればコケのように巣食うセクショナ
リズムの中で、忘れられているように感じます。
セクショナリズムは自分の部署の、正当性の主張です。お互いに、
ダメなのは他部署とする傾向であり、部分最適です。例えば、商品
部はいい仕事をしているが、店舗が悪いというような判断と態度。
こうしたセクショナリズムで忘れられているのは、会社の外部にい
る顧客の立場からの、商品価値とサービス価値です。以下を心に照
らして考え、焦燥の心理にならないとすれば、事業が衰退に向かっ
ています。他社を非難する自己満足は、衰退への傾向を生みます。
ある卸売業では、「流通価値の創造」を企業理念の第1項にしていま
す。この流通価値も、4つの問いに答え得るものでなければならない。
【価値開発のための4つの問い】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1.業界や競争相手と比べ、思い切り減らせる、顧客満足にとって、
不要な要素とコストはなにか?
わが社では(あるいは部門では)、これを発見し、コストダウンの
方法をとって、実行しているか?
2.業界や競争相手と比べ、大胆に取り入れるべき、必要な価値はな
にか?
わが社では(あるいは部門では)、これを発見し、その必要な価値
を開発し、提供することを行っているか?
3.業界の常識として、商品やサービスに含む暗黙の要素のうち、
取り除ける要素とコストは何か?
わが社では(あるいは部門では)、これを発見し、顧客にとって不
要な要素とコストは取り除いているか?
4.業界や競争相手では、商品もサービスも提供されていないが、
付け加えるべき価値要素は何か?
わが社では(あるいは部門では)、これを発見し、付加すべきサー
ビスや商品の価値要素を、今、どう作ろうとしているか?
4つの問いを、判断にあたって問い、解答を作って実行するのが、
商品価値の差異化、言い換えれば価値創造の経営です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上4つの問いに対し、経営者と幹部のチームで解答を作り、検討し
てください。1週間くらいかかるでしょうか。
誰が言ったから正しいという階級的な決定は、1990年代にプリウス
を開発したG21プロジェクトのように排除すべきです。知識と技術に
階級はない。上司が常に正しいとは言えない。知識と技術では、経
営者も社員と同列です。
4つの問いへの解答が、経営戦略の基幹コンセプト(概念)になりま
す。基幹とは、それを元にして、諸戦略が論理的に派生するという
ことです。これを、商品の価値戦略と言っています。
経営戦略では、顧客にとっての、商品価値または事業価値を高める
ものではない限り、業績を上げるのに有効でない。機会の発見の発
想に詰まったら、以上4つの問いから、再考してください。
[補注]企業の戦略を考えるときは、
(1)商品やサービスの価値戦略(上記の4つの問い)
(2)商品やサービスのコストダウン戦略(後述する理想企業モデル)
(3)業務の効率化、コストダウン戦略(後述する理想企業モデル)
の3分野から、考えといいでしょう。
■3.新しい事業を開発する:ビジネス・モデルの開発
商品の価値戦略は、機会開発になり、ビジネス・モデル開発になっ
て行くべきものです。
経営者及び経営幹部の3番目の条件が、新しい事業の開発です。
これは、経営者の条件の2番目である機会開発と、ほぼ同じ内容をも
ちます。機会開発のあとの、機会の事業化です。
(1)機会開発が、「プリウス」や「小売の専用ロジスティクスセン
ター」のような、ハードとソフトが入り交じった商品開発であるの
に対し、
(2)事業開発は、商品開発と仕入れ、流通、販売方法を、従来と変
えて、経済的により有効化する「ビジネス・モデル」の開発です。
▼SPA群も事業開発
ユニクロ、ニトリ、MUJIの商品開発~直売は、一般にSPAモデルと言
われるものです。SPAでは、商品デザインや機能は、画期的なもので
はない。(注)SPA:Specialty Store Retailer of Private
Label Apparel:製造開発型の専門小売業
コストダウンした商品の開発、流通、販売に変えることで、商品価
値と価格の差異化を図っています。これが、機会開発を端緒にした、
事業開発です。
【事業開発の原理】事業開発は、既存業界のコストを上げているボ
トルネックの発見と、解消策から生じます。
【家具のボトルネック】
SPAでもっとも早かったのは、スウェーデンの家具のIKEAでした。
イングバル・カンプラードが1950年代末(戦後)に先駆者として開
発しています。
家具は、運ぶとき空間の嵩が大きい。これが物流のボトルネックに
なっていた。この嵩を、段ボールのフラットバック(部品化して輸
送容積を極小にする)ことで解決した。物流コストが低くなれば、
世界の生産コスト最適地から、輸送ができます。部品で売るため、
IKEAの家具は、顧客が組み立てます。
【衣料のボトルネック】
米国で大挙してSPAが登場したのは、1980年代でした。GAPが先駆け
た。H&Mや、ZARAも同じです。世界を見れば、常に、すでに実物とし
て、機会開発を行ったあとのビジネス・モデルは存在します。日本
では1980年代末からです。
衣料は、コンテナ輸送が容易で、1品当りの輸送費は極めて低い。そ
のため、他の商品に先駈け、適地生産のグローバル調達モデルにな
った。
コスト適地での、全量買い取りで生産費は、信じられないくらい安
い。ユニクロでは200円~300円でしょうか。しかし売れ残りの在庫
が多い。SKU(品目)単位で見れば、50%かそれ以上が売れ残り、商
品価値を失うことはザラです。
シーズンの期首には、中間物流を加えた店舗の仕入れ原価の3倍の価
格で売らねばならない。アパレルの期首の値入率は、問屋からの仕
入価格に対し、70%以上が多い。
売れ残って廃棄され、あるいは70%引きで売られるものが多かった。
これが衣料ビジネスのボトルネックだった。
これを
(1)店舗数の多さからくる売上予測の正確さ、
(2)販売情報を期中にフィードバックする短い生産サイクル、
(3)短い期間(例えば1週間)でのデザイン開発によって、解消した。
店舗数を増やし、生産を短いサイクルにして、各SKU(品目)の売上
予測数と生産数の差を少なくすれば、コスト率が下がります。
百貨店や、量販のGMSモデルでの衣料販売が、SPA群に追いやられた
のは、店舗数が少ないため、在庫の廃棄と割引が多いからです。
今年は、百貨店の閉店が多い。ビジネス・モデルの敗北です。
百貨店やGMSでは、1SKU(品目)当りの販売量が、少なすぎた。どん
な方法をとっても、SKU単位で行わねばならない売上数量予測は、販
売量が少なければ大きく狂います。誤差は標準偏差です。
SPAは、商品の便益・効用÷価格(三分の1)=商品価値は約2倍~3
倍を目指しました。既存業界の商品価値の、2倍~3倍です。
昨年の12月15日に、銀座に進出したファッションのアバークロンビ
ー&フィッチも、同じSPAビジネス・モデルです。GAP、ZARA、H&M
そしてアバクロが、日本では、高級な価格として売っているのが残
念ですが・・・日本の小売業が、馬鹿にされているとしか思えない
価格です。1.5倍~時に2倍。日本は未だに、世界の流通の辺境でし
ょうか。
(注)米国でのアバクロ人気は高かったのですが、08年9月以降の金
融危機から、既存店売上が低下し、2010年1月からは、初めて割引特
売をしています。
日本におけるこれらの店頭価格は、わが国に、米国の「SPA型スペシ
ャルティ・ディスカウント企業群」を真似たビジネス・モデルの開
発の余地が、大きく残っていることを示しています。
ビジネス・モデルと言っても、分かりにくいかも知れません。
発想と事業化の過程を具体的に言います。
▼ビジネス・モデルの他の事例
例えば、野菜(6兆円の最終需要)と果物(1.5兆円の最終需要)は、
現在、合計で7.5兆円の世帯需要です。1世帯で1年に12.5万円の野
菜・果物が買われています。
世帯消費額でもっとも大きいのは、食品の約30兆円(1世帯年間で
60万円)です。そのうち20%くらいを、青果(野菜と果物)が占め
ています。過去は食品の需要額は増えていました。今は、高齢化と
人口増がないため、減少傾向です。
トマトは、農家から出荷されるとき約30円です。青果の既存流通は
ほぼ、[農家(1個30円)→農協・市場・仲卸(+35円の付加価値)
→食品スーパー(+35円の付加価値)]となっていて、消費者が買
う価格は、1個で約100円です。
35円の、中間の商取引と流通コストがかかる農協・市場・仲卸を経
由したからといって、トマトやニンジンが美味しくなり、消費者に
とって商品価値が上がったわけではない。逆に、最終消費までの流
通時間の長さがある。従って、この35円分は付加価値ではなく、消
費者にとってのコストでしかない。
野菜や果物の種類で、若干の違いはありますが、生産者(ほとんど
が家業的で零細)の出荷価格3倍付近の、店頭価格です。
■4.ビジネス・モデルの発想:事業開発とは?
5年くらい前だったか、農協が親会社になっていた食品スーパーから
呼ばれ、訪ねました。優秀なスーパーで、本店の3.3平米当りの売上
は500万円/年くらいと、業界水準の2倍くらい高かった。
入り口には、商品がなく青いケースだけが残ったごく狭い売場があ
りました。ここは何ですか?と訊ねると、「毎朝、農家の人が、採
れたての野菜を、開店前にもってくるんです。お客様は、商品価値
をよく知っていて、開店と当時に、全部が売り切れます。」 農協
だから、これができていた。
聞いて、パリで見た週末の「朝市(マルシェ)」の映像が浮かびま
した。
畜産、漁業、野菜、果物農家の人達が、公園に張った屋台風のテン
トに、見るからに新鮮で美味しそうな肉類・鮮魚、何十種類ものチ
ーズ、あらゆる野菜、果物を見事なカラーコーディネート(色彩対
比による調和)で陳列し、売っています。
公園の屋台は100メートル以上も、連なっています。寒い中、顧客が
溢れていました。固定的な店舗コストがかからないので、価格も安
く、商品は豊富です。
マロニエが乾いた音をたてる冬の街路を、コートの襟を立て、散歩
しているとき遭遇しました。見飽きず面白いので、その後に何回も
行き、写真をとった。写真は、映像の歴史化です。
連なる屋台は、生鮮食品が売れる条件である、
(1)商品種類の、こぼれるような豊富さ、
(2)価格の安さ、
(3)新鮮さを、高い水準で、守っていました。
農と食への要求レベルが世界1高い、フランス人の文化だと思えまし
た。文化は、集団の共有価値観です。顧客の要求レベルが高いと、
ビジネスも高度化します。
そうだ、店舗の目立つ一角に、地域の多くの農家が直接もってくる
「場」を作ればいい。農家からの直送売場です。トマト等を1個50
円から70円で、他のスーパーの30%近く安く売っても、農家の手取
り収入は増えます。うまく行き、大きくなるビジネスは、製造者の
利益、販売者の利益、顧客の利益が一致します。
店舗も売場提供とレジだけで、商品作業が少ないから必要コストは
低い。実験してみると、青果の直結流通の効果は高かった。(注)
約3年後の今、いろんなところが真似て、小規模に始めています。
当時、地域の農家にとって、初めてのことでした。
業界慣習に慣れきっていて、最初は抵抗が強かった。
農家に行ったことがないバイヤーが、一軒一軒を回り、方法とビジ
ョンを、「こんなことを目的にしている、方法はこうです。」と述
べ、説得した。実績がないので、青果の種類と量を集めるのに苦労
したと言えます。
あらゆる事業は、開発するときは困難です。他のところが、やって
いないことだからです。他方、他の農家の成功を見ると、農家のほ
うから申し込みが増えます。
高齢者が多い農家は生産が仕事だとしか、考えていなかった。しか
し・・・実際に売ることと直結すれば、眠っていた仕事への興味と
やる気が倍増します。大勢の顧客が喜んで買う姿を見ると、人は感
激します。この感激がないなら、ビジネスをする資格がないと言え
ます。
仕事は「コトに仕えること」です。封建時代は、コトが主君でした。
現代のビジネスでは、顧客でしょう。それ以外にない。
顧客に、他より仕えるから(同じことですが、他社の商品より高い
価値を提供するから)、顧客はわが社の商品を選んで、お金を払っ
てくれます。これも、当然のことです。
ある人からアドバイスを受け、情報システムも連結しました。難し
いものではない。携帯電話はモバイル・コンピュータです。メール
とWEBが使えます。売れる数字が、現在進行形ですぐ見えると、人は
やる気を出します。
大仰に言えば、青果流通の新ビジネスモデル(事業開発)です。商
品は新商品ではない。タマネギはタマネギです。直結の方法で、流
通方法をコストダウンし、顧客にとって、商品の使用価値が高まる
ように変えたのです。
農家直送の特売場は、各地に登場していました。店舗を新たに作る
方法では、余計なコストが、かかります。既存店の店舗内を空け、
売場を作った。従来の陳列作業(作業コストがかかる、スーパーの
個品前出し陳列)も、否定し、農家からの出荷=陳列となるよう変
えました。
タマネギの価値1.4倍=タマネギの効用(同じ)÷価格(70%)
つまり、40%の、顧客にとっての商品価値の創造です。
2年で売上規模が大きくなってきたので、生鮮の新しい仕組みの、半
分くらいにコスト合理化を図った集荷・配送センターを作る時期も
迎えます。店舗数がもっと必要です。ドミナント化(商勢圏化)し
なければならない。こうした例が、事業開発でしょう。
しかしうまくゆくと、真似されるのも早い。これがこの国の産業の
特徴であり、ダイナミズムでしょう。全ての細部にわたり、量を増
やしながら、より洗練を加え続けねばならない。顧客に直接向かう
商品販売は、細部が命という面があるからです。ディズニーが言っ
た「神は細部に宿る」です。
事業では、顧客にとっての商品価値の創造(向上)によって、
・顧客数と売上が増え、
・売上が増えたためにコスト率が低くなって、
・目に見えて利益が出るように変わると、
現場の社員が、自発的にびっくりするような「やる気」を出します。
人は成功に向かっていると感じることができると、一層精励します。
M・チクセントミハイの「フロー理論」が実証したことです。(注)
『フロー体験 喜びの現象学』
世界を見れば、世の中には、びっくりするくらい売れている方法が
あります。その方法をビジネスモデル(流通から販売の作業手順等)
として整備し、システム化する。
肉(6兆円)、鮮魚(6兆円)も、野菜と類似の方法で、新しいビジ
ネス・モデルにできるはずです。
その方法は、まだ、明瞭には思いついていません。難しい面があり
ます。売上可能量に対し、過不足なく作る、コスト合理化を図った
「加工センター(プロセス・センター)」が必要です。この事業開
発は巨大です。
本稿は、事例を引きながら、経営者と幹部の仕事の3条件;
1.今日の事業の成果を上げる
2.潜在的な機会を開発する
3.明日のために新しい事業を開発する、
を、映像が浮かぶよう具体的に述べました。
好不況には、関係がない。産業の歴史を見れば、不況期こそが、潜
在的な機会の開発や、新しい事業の開発が行われています。今のま
までは、十分に売れないと思うからです。
好況期と違い、不況期は、金利・土地・設備費は安い。つまり、投
資資本の回転率(ROI)を高くできます。金利は資本のコストです。
いつの時代も、もうこれ以上はないという極点ではない。
次の時代が、次の方法と新しい商品価値とともにあります。
■5.理想企業アプローチという方法
事業開発の方法として、理想企業アプローチがあります。到達目標
になる企業を、世界から探し、方法を真似て超える方法です。自己
満足と他社非難を避ければ、方法としては、見本の具体物があるか
ら容易です。
1960年代、70年代、80年代のウォルマートが行ってきたことです。
90年中期以後は、売上規模で世界1になったので超えるべきものなく
なって、自分自身の昨年を超えるという方法になっています。
理想企業のモデルは、先行していたディスカウントストアのKマート
でした。1960~70年代は、Kマートが、技術的にも企業規模でも、先
を行っていた。サム・ウォルトンは言っています。「Kマートが、わ
れわれの教科書だった」
1980年代に、売上高で接近し1985年には、商品の上流作業を集約す
るDC(ディストリビューションセンター:物流センター)を、店舗
と連結することで、本部・物流コストを売上の2%に下げ、店舗コス
トを15%基準にまで下げて、Kマートを超えています。
ウォルマートが、売上対比17%の総コスト基準に下がったのに対し
、Kマートは、それが22%付近でした。5%のコスト差がつき、それ
が商品価格の差になって、Kマートは追いやられます。
最終的には、1985年から17年後の2002年に経営破綻しています。
価格を、コスト率が低いウォルマートに近づけるため、店舗で売れ
る以上のPB商品の仕入れ契約をするようになった。そのため倉庫と
店舗に、売れ残ったPB在庫が溢れた。
1万個は店舗で売れる。しかし3万個の仕入れ契約をすれば、仕入れ
価格が下がるとします。1990年代以降のKマートのバイヤーは、見か
け上の粗利益(商品価格-仕入れ価格)を上げるため、こうした、
無理な購買(バイイング)を行ったのです。
原因は、売上対比の店舗・物流コストが、ウォルマートより5ポイン
トも高かったからです。同じ仕入れ価格なら、全商品平均で5%も高
く売らねばならなかった。
売価は高くはできない。そのため、売れる以上の無理な量のPB仕入
れ契約で、仕入れ原価を下げる方法をとったのです。Kマートは原因
と対策の関係を間違えていました。
1960年代から発展していたKマートの本部には、エリート社員が多か
った。新興のウォルマートより上だと考えていた。これが原因でし
ょう。SPAに対する百貨店やGMSも、同じかも知れません。
現在、わが国の大手企業の店舗間競争でも、流行のPB仕入れで、Kマ
ートと似たことが起っています。
ウォルマートでは、サム・ウォルトン(創業者)が以下のように決
めていました。「競争店、競争会社を見て、自分より優れた点、い
い点を知って、見習い、取り入れる。競争相手の悪い点を探して、
私に報告するのは、意味のないことだ。」 店舗だけではない。物
流、管理方法、ITでも、理想企業アプローチを採り続けたのです。
これが理想企業アプローチです。ウォルマートの今日があるのは、
理想企業アプローチを、進歩のための方法としたからです。比較す
れば、自社の何を改善・改革すべきか分かります。
普通は、競争企業と比較したとき、自分たちが優れている点を探し、
自己肯定しやすい。それでは、自社の進歩にならない。自己肯定は、
今のままでいいということだからです。Under-Stand(理解)は
下に立つことです。下に立ってみれば、よく分かる。
理想企業アプローチは、あらゆる企業に、向上の方法を与えます。
業界あるいは、他業界、または世界の企業の中で、わが社が、理想
企業とすべきモデルを探す。その企業の方法の差を、要素比較する。
相手が、仕事として実現していることですから、マネするのは、創
造とは違い、比較的に容易です。比較した差異を埋める対策を、採
り続ける。食品スーパーでもドラッグストアでも、あるいはアパレ
ルでも、製造業、卸売業、サービス業でも、大企業も中小も個人も、
理想企業アプローチをとることができます。
業界の伸びより低い伸びの企業には、どこかの点で、最高の伸びを
している企業に比べ、劣った方法で行っています。それを探す。商
品価値の高さか、あるいは同種商品なら価格の安さに結実した方法
の差があるはずです。
業界全体の伸びが低くなった、あるいは前年比が低下している業界
でも、最高の売上の増加や利益の増加を示す会社は、必ずあります。
日本になければ、世界で探せばいい。自己肯定せず、素直に学ぶ。
素直とは、事実を偏向の目ではなく、虚心坦懐に見ることです。
個人の仕事の技術でも、同じです。自分が最高ではないでしょう。
モデルになる人を、会社の中、あるいは会社の外にも探す。自分と
比較で何が違うのか、やり方や手順にどんな違いがあるのかを見つ
ける。そして、その最高に見える人の仕事のやり方を、真似る。
今、バンクーバーで冬期五輪が行われています。毎日、わくわくす
る気持ちで、見ています。技術的な解説が面白い。勝つのはこの選
手と決めて見ると、面白さが倍増します。間違うことが多いのです
が、なぜ自分の予想が間違えたかを、考えます。
スピードスケートでのことでした。世界記録の保持者と日本人選手
のコーナーを回るフォームを、スロー再生で比較していました。頭、
胴、足を線画にして、対照していた。
100分の数秒の差を生む「原因」として、コーチと選手が発見したの
は、コーナーを回るときの胴と腿の角度でした。
世界記録の選手は、角度が相当深い。コーナーで体が立っていない。
比較すれば、日本人選手は、角度が浅い。重心が高くなって、ス
ピードのロスをしていました。(TVの解説で知りました)
筋力が必要です(対策)。腰を深く曲げてコーナー回ることができ
る筋力をつけるトレーニングを行った。
今回の結果は、負けました。角度は、前より深くなっていた。その
間、相手もトレーングをし、進歩しています。勝つには、それを上
回ることが必要です。仕事での方法も同じです。
漠然と見ても、理想企業モデルとの技術差を発見できません。スピ
ードスケートのように専門的に、しかし素直に、理想モデルの肯定
(=自己否定)の態度で、見ることが必要です。ベンチマーキング
という方法をとればいい。スピードスケートのように、パフォーマ
ンスを左右する要素を決め、自社の現状と比較して差異を探す。
http://www.shokoren-nara.or.jp/benchmark/001-1.htm
1.今日の事業の成果を上げる
2.潜在的な機会を開発する
3.明日のための新しい事業を開発することについて述べました。
決して難しいことではない。経済と企業が、おそらくは、1930年以
後80年来の転換期にある今、数多くある潜在的な機会を発見し、明
日の、新しい事業を開発し、ビジネス・モデル化していただきたい
のです。
今、そして今後2年のうちに、潰れて行く企業や、消滅する会社が多
いでしょう。変化したニーズに適合できなかったことを意味します。
その会社が行ってきたことの反対の方向に、ニーズがあるということ
が言えるのです。
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読者の方からの意見や感想を、書く内容に反映させることを目的と
するアンケートです。いただく感想は参考になります。
1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。
コピーしてメールにはりつけ、記入の上、気軽に送信してください。
質問のひとつひとつに返信することはできないかも知れませんが、
共通すると思われるテーマはメールマガジンでとりあげます。いた
だいたメールは、全部を読んでいます。
↓あて先
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情報価値をe-Mailでお届けする」ことを趣旨に、ビジネスの成功原則、
経済、金融等のテーマを原理からまとめ、明快に解き、週1回お届けし
ています。最近号の、一部の、目次は以下です。
<469号:政府赤字の限界は2012年>
2010年1月27日号
<472号:可能を信じ、実現した物語り(1)>
2010年2月17日号
【目次】
1.誠心の技術者
2.農家経営、出会い、実験
3.苦難へ
4.収入の激減
5.赤貧
6.出稼ぎとアルバイト
7.りんごの木に話しかける
8.応援
9.35歳の夜の啓示
<470号:危機への意識と、ビジョン&リーダシップ>
2010年2月3日分
【目次】
1.経営における危機への意識
2.経営の条件
3.生産性の上昇基準
4.「意識」というやっかいなもの
5.シンプルなビジョン
【特記:強調した再論】
<471号:経営者の、3つの仕事の内容>
2010年2月10日分
1.「プリウス」の開発
2.課題解決の思考手順
3.リーダシップによる協働
4.シミュレーション
5.現代の開発とリスク
6. 13年後に壊れたブランド価値
7.経営者の仕事
8.潜在的な機会を開発する
9.新しい事業を開発する
10.ビジネス・モデルの発想
<472号:可能を信じ、実現した物語り(1)>
2010年2月17日号
【目次】
1.誠心の技術者
2.農家経営、出会い、実験
3.苦難へ
4.収入の激減
5.赤貧
6.出稼ぎとアルバイト
7.りんごの木に話しかける
8.応援
9.35歳の夜の啓示
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