おはようございます。ヘッジ・ファンドのポールソン&カンパニー
を率いる、ジョン・ポールソンをご存知の方も多いでしょう。
住宅価格の下落から来るデフォルトを予想し、住宅ローン関連では
見向きもされていなかったCDSの購入を戦略として、2007年には投
資史上で最大の$150億(1兆2300億円)の利益を出しています。住
宅価格の下落を想定したのは、ごく少数、だったことを付記せねば
なりますまい。(注)CDS:デフォルト時に、債務の回収を保証す
る保険。
わが国では1980年代の土地、米国では2007年以降の住宅価格。い
ずれも、上昇の渦中で下がるのが必然と考えた人は、ごく少数でし
た。その少数の中でも、市場が逆に動けば全財産を失うスペキュレ
ート(リスクある投機)をした人は、ほとんどいなかった。
当初、住宅ローンにかかったCDSにスペキュレートしたのは、片手
で数えるほどでした。周囲は逆に動き、ポールソンを血迷っている
と見て、馬鹿なことはやめろと忠告していました。
あらゆる相場では、(今もどこかで)「多数派(多分99%の人)が
将来を見誤ること」が大きく生じる時期があります。住宅価格が上
がっているただ中で、下がると予想することは、実に、難しい。加
えて、世間の方向と逆に、投機することは更に難しいのです。(注
)中国の住宅価格が、今、これです。確定的と感じる予想をすれば
、このバブルも、近々、崩壊します。
当方、5年以上前から、いずれ国債の金利が上昇し、国債価格(特
に長期債)は下落すると、世界の資金循環を分析して警告し、何回
も書いて送っています。しかし大きな金利上昇はまだです。予測は
、こうしたものです。起こってない間は、オオカミ少年と言われる
。当人は、本当にオオカミ少年になる怖さとも戦います。
ポールソンの決断と投機は、何を根拠にしたものだったか。根拠、
理由、原因が重要です。
【ポールソンはCDSを買った】
CDSは、デフォルト時の、債務の回収を保証する保険です。
ローン、国債、債券、社債がデフォルトしたときの回収を、CDSを
売ってプレミアム(保険料)を得た金融機関が払う義務があります
。
CDSの特徴は、その債権・債務には無関係な第3者が、組成、販売、
購入ができることです。CDSは、金融機関間の市場で売買されます
。
デフォルト確率が上がったと市場が認識すると、CDSの価格が上が
って、保有者は利益を得ます。逆に、デフォルト確率が下がったと
市場が認識すれば、価格は下がり、保有者は損をします。(注)デ
フォルトは債務の支払不能の意味。
CDSは、原資産(ローンの償還)のデフォルト確率が上昇すると、
マーケット価格(プレミアム)が上がって、買い手には利益が出て
、売り手は損をするデリバティブです。
デリバティブは、原資産(金融資産)を担保にし、それから派生し
た金融商品という意味です。21世紀金融は、デリバティブの売買で
す。
世界の国債を含む、あらゆる種類の債務の回収を保証しているCDS
の原資産(元本債務)総額は、米欧を中心に6000兆円(BIS:09年6
月)とされています。
(注)日本の長期国債(10年債)の、CDSでの1年間の保証料は、財
政リスクを反映して0.8%に上がっています。
ポールソンが、住宅ローン関連のCDSを買った当時の保険料(プレ
ミアム)は、ローン残額の1%でした。$10億の住宅ローンについ
たCDSを買うと、1年の1%($1000万)の支払いが、ポールソンに
生じます。
その代わりに、住宅ローンの破産が増え、仮に、ローン金額の1%
だったプレミアム(1年で更新される保険料)が3%に上がると、
過去のCDSの価格は3倍になって、ポールソンが巨額利益を得ます。
(注)CDSの価格は、当方、株価より予測しやすいと思っています
。皆に馴染みがないだけです。しかしCDSの売買に参加するには、
巨額の資金をもち、相手から信用されねばならない。
ポールソンと関係者へのインタビュー取材を元にした『(邦訳)史
上最大のボロ儲け(2010.12)』という評伝を読みました。著者は
、ウォールストリート・ジャーナルのシニア・ライター;グレゴリ
ー・ザッカーマン。これは良書に思えます。
*
今は年金基金や機関投資家からの、巨額預かり金を運用するように
なったポールソン&カンパニーは、金ETF(金への投資信託証券)
への投資基金も作っていて、ソロス・ファンドとともに、金相場も
動かす主要プレーヤーにもなっています。
今、$35億を、金ETFを発行する再大手SPDR(スパーダー)ゴール
ド社に投資しているとされます(ロイター)。ポールソン個人は、
$2.5億を金に投資しています。
(注)米ドルの、世界の通貨の加重平均に対する「実効レート」の
下落に呼応し、2010年の12月にはピークをつけた金価格(1グラム3
957円)は、11年の1月は3745円付近に5.4%下落しています。ヘッ
ジ・ファンドの売りが主因です。(注)2月14日の税込み小売価格
は3847円です。
*
本稿では、
(1)ヘッジ・ファンド(世界の元本総額が$2兆:164兆円とされ
る)が、どんなことを行っているのか、
(2)ポールソンの、マーケットの主流に対し逆張りした投機手法
がどんなものだったかを知る目的で、これをテーマにします。
(3)そこから「原則」を導き出したいとも考えています。
ヘッジ・ファンドの預かり基金は$2兆でも、ゼロ金利資金のキャ
リー・トレード、証券・商品先物の差金決済、およびオプション取
引でレバレッジをかけるため、運用総額は基金の10倍~30倍、時に
は100倍にも膨らみます。2000年代に、ヘッジ・ファンドは最大の
投資・投機機関になったと言っていい。
レバレッジは、1%の利益や損が、元本に対し10%、30%、100%に
なるという意味でもあります。ロボット・トレーディングで1秒に
数千回の売買も加えるので、株の売買資金が10億円と少なくても、
その何百倍のマネーパワー(=金額×回転売買率)になり得ます。
投資・投機の額が大きいため株価、通貨、金を含む国際コモディテ
ィ、そして国債価格と金利を、先導し、大きく動かしています。
【先物売りと空売り】
もう一つの関心は、今後の国債価格と財政の破産(=金利の高騰)
に対しては、ヘッジ・ファンドによる「国債の先物売り」や「空売
り」が大きく関わることです。これも、市場の認識との戦いになる
。
政府が売る国債の価格と金利は、国家や中央銀行ではなく、金融市
場が決めます。過去と違い、政府や銀行が、市場の金利を決めるの
ではない。その国の国債の市場での取引価格によって、短期、長期
のベース金利が決まっているのです。
【空売り】
空売り(ショート・セリング)は、貸株料を払って債券市場から借
りた証券を売り、期限には、その時の市場価格で買い戻して、借り
た証券を返却する取引です。
また、売却時は借りた証券がなく、借りる義務の期間までの信用で
、売り注文をかけ、後で借りて充当する取引もあります。Naked(
裸の)空売りと言われます。これは大きな空売りをし、相場を下げ
ることもできるので、PIIGS国債に対するドイツ政府のように規制
することがあります。
高い利回りを求め、PIIGS国債を買っていたドイツの金融機関が巨
額損をするからです。国債の価格下落は、当然に、その持ち手の損
になります。
(注)国債を買うのも売るのも、CDSの組成や売買も、利益を求め
る同じ商行為です。妙なことを言いますが。ドイツのメルケル首相
のように、空売りが悪であるかのように言う人がいますので・・・
なお、本稿では「証券(security)」という言葉で、国債、株、社
債、債券、住宅証券等を代表させています。いずれも、だれかが借
り、返済、利払いまたは配当の義務をもつことを証する有価証券で
す。
政府が、証券の価格維持の目的で空売りを規制しても、後述する「
先物売り」が、空売りと同じ効果をもつので、無意味になります。
最初に、金融の大きな投機を、歴史的な順序で述べます。順を追っ
て述べれば、理解の手助けになると思うからです。
【銀行と金融の変質】
預金を集めて融資をする伝統的な銀行から、1980年代以降の米欧を
筆頭に、自らが投資・投機をする金融機関(投資銀行とも言う)に
変わる過程で、金融の変質が起こっています。
経済と金融の倫理に照らし、いいか悪いかの判断は別にして、21世
紀のわれわれは、渦中にいます。根柢の原因は、実体経済(GDP=
商取引額)の増加率をはるかに上回る金融資産(=別の人の金融負
債)と、金融派生商品(デリバティブ)の増加です。
本稿では、経済取引に関わるマネーについて重要なことを、基礎か
ら述べるつもりでもあります。しかし、現代金融は、必要な予備知
識が多いため、理解しにくいかも知れません。可能な限り基礎を説
明し、論理的に書きます。
金融派生商品(デリバティブ証券)の組成と売買に携わる人は、ご
く少数です。世界で、1万人もいないかもしれません。
しかし、売買金額が巨大なため、経済に対する影響は甚大です。20
08年の金融危機も、デリバティブの売買と、証券の価格保証をする
義務である債務から起こっています。
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<525号:1年で$150億の利益を上げた
ジョン・ポールソンの方法(1)>
2011年2月16日号
【目次】
1.1980年代のLBOとジャンク債
2.補注:投機による仮需と、実需:及びその意味
3.ジャンク債の帝王、マイケル・ミルケン
4.90年代後期から、ヘッジ・ファンドの時代
5.私的な投資組合
6.ヘッジの基本的な意味と方法
7.ヘッジ・ファンドの時代
8.ヘッジ・ファンドの利益の性格=投機的な利益の由来
9.価格の実現に先行することを利益化するのがヘッジ・ファンド
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■1.1980年代のLBOとジャンク債
▼市場の認識の誤りを突く、LBOから始まった
米国の1980年代は、企業買収が多かった時代でした。まず、株式市
場の評価が、会社の内容の割には、低い企業を探す。
そこを買収予定とし、同時に、その会社の資産とキャッシュフロー
を担保予定にして金融機関から資金を借り、評価の低い株を買い占
める。これがLBO(レバレッジド・バイ・アウト)でした。
LBOは、全く違法ではないのですが、わが国では、「倫理的に」嫌
う人が多い。理由は、米国のように会社の買収と売却を利益のタネ
にするのはどうしたものかと考える人が多いからです(こうした、
暗黙の規範を価値観と言います)。
PBR(株価時価総額÷純資産)が1倍以下に低い株価の企業は、純資
産、言い換えれば会社を解散したとき残る価値より、株価の時価総
額が低いため、このLBOの対象になりやすい。(注)現在、日本で
はPBRが1倍以下の会社が、506社もあります。建設会社が多く混じ
っています。
http://searchina.stockdatabank.jp/flash/s.cgi?sel=904&page=1
発行済み株の1/2か2/3を買収することによって、人事権と経営権を
握り、事業の改善をして再び上場し、高くなった株を売却して大き
な利益を得ます。
LBOとともにM&A(合併・併合)という言葉も生まれています。当時
の日本人は、会社を売買するということに、唖然としていたのです
。
「会社の資産価値」という概念がないとLBOは生まれません。市場
が、会社の「経営資源+資産価値」を評価したものが株価時価総額
です。
この株価に大きなゆがみがあるとき(低すぎるとき)、LBOの機会
が生じます。LBOの資金は、銀行が融資しています。経営者が自分
でLBOを行って、上場を廃止するMBO(Management Buy-Out)もあ
ります。このマネジメントは経営者(及びそのグループ)のことで
す。
LBOを仕掛ける前に、その株を空売りしておいて価格を下げ、その
上で買収することも多かった。もちろん、高く買いすぎて買収後の
株価上昇に失敗することもあります。
▼次はジャンク債へ
ジャンク債は、LBOとは多少違います。
格付けが投機的(BBB)、あるいはランク外と低く、市場の株価と
社債評価も低い会社の社債(ジャンク債=ボロ社債)を見つけて買
い集め、ポートフォリオ(分散投資)としてパッケージ化し、売る
。
多くの住宅ローンを集めたMBS(住宅ローン担保証券)に似た方法
ですから、「合成社債」と類似します。
【発見】
個々の会社のデフォルト率を元にした社債や株の利回りより、複数
の社債・株を組み合わせれば、「大数の法則」で、全体のデフォル
ト確率が低くなり、合計した社債・株の価値が上がる場合もあるこ
とを、発見したのは、1980年代にジャンク・ボンドの帝王と言われ
たマイケル・ミルケンでした。
また、例えば石油採掘会社がもつ、採掘権の対象となる原油埋蔵の
価格を計算し、その会社の株価の時価総額より相当高いときも、株
の買収を仕掛けます。
【投資銀行】
こうした投機を行うのを「投資銀行」とした。投機は一時的な所有
をしても、後で高値を狙い売却することです。本来は「投機銀行」
というべきです。ヘッジ・ファンドが一般預金も預かるなら、投資
銀行になる。
証券投機とデリバティブの売買が主になった投資銀行やヘッジ・フ
ァンドを、「シャドー・バンキング(影の銀行システム)」とも言
います。
21世紀金融では、シャドー・バンクによる信用創造(いわば、債権
・債務を担保にしたマネーの発行)が、伝統的な銀行システムの信
用創造(M2とも言う:預金総額です)より大きくなっています。
米欧の21世紀の金融(ファイナンス)は、デリバティブによって、
全く変質したのです。金融関係者でも、多くはこうした情報を知ら
ない人が多い。(注)日本では、米欧よりシャドー・バンク業務は
小さい。
商業銀行は、伝統的な預金・貸し金を行う一般銀行です。2000年代
の米欧では、シャドー・バンキングが、商業銀行より大きなマネー
を預かり、信用創造して、投資・投機をしています。
(注)マネーとは、中央銀行が刷る紙幣だけではない。預金、債券
(債権)、証券、株、国債、社債、ローン、CDS・MBS・ABS・CDO等
のデリバティブもマネーです。「準マネー」と言ったらいいか。先
物証券も準マネーです。
クレジットカードや電子マネーももちろんマネーです。マネーに関
する金融の常識は、変える必要があります。
[原因]金融資産(原資産)を「証券化」し、売買する方法で、マネ
ーの範囲が広がり、同時にレバレッジで金額も巨大化したのです。
■2.補注:投機による仮需と、実需:およびその意味
例えば、原油や穀物を自分では使わないヘッジ・ファンドが、コモ
ディティ市場で、「原油・穀物の先物」を買い、期限までに反対売
買(現物売り)をして清算するのは、投機でしょう。
その目的は、現在と将来の価格差から生まれる利益であり、原油の
確保ではないからです。他方、投資は、先物買いであれ何であれ、
自分が後で使うものを、先に買うことでしょう。
1990年代以降の、世界の金融資産の増加と低金利が、価格差で利益
を得ることが目的の投機(スペキュレーション)に使うマネーを増
やしました。
このため証券、不動産、国債、株、国際コモディティは、利回りが
高いと注目されたものから順に、バブル価格を50%、100%、時に
は300%も含むようになる。
そのバブル価格は、使うことや長期保有をすることが目的の「実需
」ではなく、「仮需の投機」が生んだものですから、短期保有しか
されず、利回りが低下すれば、ヘッジ・ファンド等に保有されてい
た仮需分が売られ、バブル価格が崩落する。
これを繰り返しているのが、90年代~現在です。
原因は、金融機関が預かって運用せねばならなないマネーの過剰で
す。
この20年、仮需で投機される金融商品に対し、製品の価格上昇がな
く、むしろ下がっているのは、製品に対する投機買いはないからで
す。それは消費者が買って、使うことによる実需だからです。デジ
カメ、ポロシャツ、家具が価格が上がると買い貯める人はいない。
命を維持するための食品ですら、数か月以上の買いだめはない。
以上から、現在の経済は、金融商品化されたもののバブルとそのバ
ブル価格の崩壊、そして、実需商品のディスインフレの混合です。
今流行のデフレ論、インフレ論では、「投機化した金融の変質」を
見ておかねばならない。
経済学で「インフレ」というのは、実需商品である消費者物価の上
昇だけです。消費者物価の指数には、冷蔵庫や車は入れても、(実
に不思議ですが)住宅価格すら入っていないのです。
このため米国は、「金融商品化していた住宅」の、激しいインフレ
的な上昇(10年で2倍)に対し金融対策を打たなかった。これが、2
008年の金融危機(金融機関の不良債権)と、ジョン・ポールソン
の巨大利益を生んだ原因です。(注)今、中国の住宅価格が崩壊寸
前です。
■3.ジャンク債の帝王、マイケル・ミルケン
2000年代に、ヘッジ・ファンドは最大の投資・投機機関になったと
言っていい。
90~00年代に巨大になる「ゴードルマン・サックス」や「モルガン
・スタンレー」より、当時は、はるかに大きな利益を上げていたの
が、ミルケンがジャンク債の売買を行った「ドレクセル」でした。
ミルケンは1年に$6000万の、当時としては破格な個人所得で有名
になるとともに、1989年にインサーダー取引疑惑と、投資家の脱税
を助けた罪で起訴され、それとともに、ジャンク債ブームは終わっ
ています。
実はこれは「グレーゾーン」で、違法と言えば違法になるスレスレ
の内容も含んでいました。わが国で「村上ファンド」を摘発したこ
とに類似するのです(2006年)。インサイダー取引は、立証が難し
いからです。
ミルケンは、2年の刑期で出所後、企業のM&A(合併・併合)のアド
バイザーになって復活し、07年の個人資産は、$21億と言われます
。(以上、Wikipedia情報より解釈)
以上は、株式市場が、集合的につけている会社価値の評価の低さ(
株価時総額の低さ)を狙った買収です。
金融商品への投機は、市場の認識・評価との戦いです。市場は、高
くも低くも、大きくゆがんだ価格をつけることがある。そこを狙っ
て、売買する。
財務諸表を分析し実地調査も行って、会社価値を精査し、市場の評
価のゆがみを発見して買収をかけ、それを利益の機会にする。
いつの時代の、どの時期も、市場の評価(株価、国債価格、証券価
格、商品相場)には、ゆがんだ部分があります。
■4.90年代後期から、ヘッジ・ファンドの時代
ジョン・ポールソンはハーバード・ビジネス・スクールを卒業後、
投資銀行への勤務で、投資・投機の基礎手法を学び、1994年にヘッ
ジ・ファンドを立ち上げています。元ゴールドマンのCEO兼会長で
、前財務長官も務めたヘンリー・ポールソンとは別人物です。
1995年から2000年の5年は、米国ダウ工業株(30種)が、$4000付
近から$12000付近へと3倍に上がった「株式ブームの時代(特にIT
株ブーム)」でした。
グリーンスパン前FRB議長は、米国産業は、ITによって「未踏の領
域」にはいったと称揚していました。
ITを使うサプライ・チェーン(最適在庫管理とロジスティクス)が
、好況・不況を定期に繰り返す「景気循環」を消したとも言ってい
ました。(注)景気循環が、経済の最大問題だったのです。
90年代後期は、日本はバブル崩壊後の金融危機の時期でした。成熟
した欧州は、経済成長が低かった。このため、米国が世界を支配す
るパックス・アメリカーナ、あるいは金融のローマ帝国とも言われ
ていたのです。(注)ユーロに資金が集まったのは、統一通貨後の
2000年代以降です。
株価、証券、コモディティ(国際商品)上昇する相場では、100%
、その価格上昇を正当化する論が現れます。
その論に乗って、株価高騰を促した資金は、年金の自主運用である
401Kと投資信託、および海外からの投資です。
先鞭をつけたのが、世界の富裕者、機関投資家、あるいは企業が資
金を出す私的投資組合であるヘッジ・ファンドです。投資手法は、
コンピュータ・モデルによるロボット・トレーディングです。(注
)ソフトがCTA:Commodity Trading Advisor
当時、ヘッジ・ファンドの投資マネジャーは、株式が上げ相場なの
で、リスクの高い投資・投機も行って、巨額利益を上げている者も
多かった。
ヘッジ・ファンドを主宰しても、堅実な運用者と見られていたポー
ルソンも、$20億を預かり、$1億の自己資金を運用していたとい
う。(同書)
■5.私的な投資組合
ヘッジ・ファンドは、米国では出資者を100人未満に抑えておけば
、政府への届け出の必要がない私募の投資組合です。
一般の人の、少額の資金は預からないため、法的な規制がなく投資
の内容、利益、損失を公開する義務もない。この点が、証券取引法
の規制を受ける、投資信託と異なります。(注)届出の義務がない
のは米国は100人未満、日本は50人未満の投資家のときです。
一般に、ヘッジ・ファンドは、
・預かり資産の2%の手数料を投資家から取り、
・資金運用で上げた利益の20%をヘッジ・ファンドが得る契約が多
い。
基金の所在地はほぼ100%、租税回避地(タックス・ヘイブン)で
す。と言っても、バージン諸島にいるわけではなく、そこには私書
箱だけがあり、オフィスはNYウォール街、ロンドンのシティ、チュ
ーリッヒ、シンガポール、香港、東京等です。ファンド・マネジャ
ーは、どの都市でも、家賃100万円や200万円の借り家に住む。
取引はコンピュータ画面です。複雑なデリバティブ(金融派生商品
)を作って商品化する人たちは、特別に「クオンツ(多くが統計学
に秀でる)」と言っています。現金の受け渡しはない。
巧みな資金運用で利益を出すヘッジ・ファンドのマネジャーやクオ
ンツには、他では決して得られない、大きな個人所得が生じます。
運用で上げた利益のほぼ20%が、ヘッジ・ファンドの収益になるか
らです。
ポールソン&カンパニーが収益として稼いだのは、1年に、金融史
上最大の$150億ですから、恐れ入ります。一般の投資信託は、法
的な規制があるため、利益の20%をファンドを運用する側の所得に
することはできません。
■6.ヘッジの基本的な意味と方法
ヘッジは、リスクを防ぐという意味です。
基本方法を言えば、
・ある株・証券の上昇で利益を出す投資の裏で、
・別の株・証券の下落時に利益を出す投資(空売りや先物売り)を
することです。
この組み合わせ(ポートフォリオと言う)で、損失のリスクを回避
できる運用をする。相場の下落時も上昇時も、安定した利益を出す
ためです。
(注)ポートフォリオは、たくさんの契約書を入れる書類カバンが
原義です。反対の値動きをするものを同時に持つことです。
ある人が、東証一部の株を多くもっていれば、上昇期には利益が生
じても、下落期には損をします。今売りたくはないとします。損失
回避(=リスクヘッジ)のためどうするか?
以下の先物売り、先物買い、裁定取引の3種を理解してください。
▼相場が下落したとき利益を出す「先物売り」
個々の株価と、相似形の動きをする「日経平均(今日現在1万725円
)の先物」を売っておけば、相場が下落した時も、損失を減らすこ
とができます。そのメカニズムは、以下です。
ある人が「日経225種平均の先物売り」を行うと、清算期限(限月
と言う:3月、6月、9月、12月の期限)が来る前に、行った先物売
りに対する「反対売買(このケースでは買い)」をして、清算する
義務があります。
こうした契約の売りが「先物売り」です。
限月までには、必ず反対売買を行って、清算せねばならない。
売っていた日経平均先物の価格が1万900円で、限月前の反対売買の
時点で、日経平均が予想通り9000円に下がっていれば、それを9000
円で買って清算するので、[売り1万900円-買い9000円=清算後残
金1900円]の利益が出ます。
これで、保有している個別銘柄の株の下落による損を補います。(
注)多く先物を売っていれば、利益が出ます。
相場が上昇したときは、この先物売りは損を出します。その時は、
手持ちしている個別銘柄の株は、ほぼ日経平均に正比例して上昇し
ていることが多いので、その株の保有利益で相殺されます。
[先物取引では自動レバレッジがかかる]
先物取引は、反対売買の時点での損失や利益の「差金決済」です。
そのため、自動的にレバレッジがかかっています。つまり少額の元
金で、その10倍、30倍の取引ができます。
証券会社から貸株を借りて「空売り」をしなくても、日経平均の先
物売りで、空売りと同じことができます。このため、政府が相場の
下落を止めるために行う「空売りの規制」は、ほぼ無意味になるの
です。
逆に、下がる傾向の相場を政府の「空売り規制」で、政策的に禁止
すると、下げのエネルギーを利用した先物売りに利益の機会を与え
ることも多い。(注)国債では、株式市場よりはるかに大きな「国
債先物市場(債券市場)」があります。
世界の株、証券、国債、コモディティ、ゴールドの主要市場は、共
通に、こうした先物取引の仕組みをもっています。特に世界のヘッ
ジ・ファンドは、先物市場での売買を多用しています。
▼相場が上昇したとき利益を出す「先物買い」
先物買いは、先物売りの逆です。相場が上がると見たときは、先物
を買っておく。その先物価格が、1万900円だったとします。
限月前に1万900円以上に上がったときは、上がった価格(例えば1
万2000円)で売って、決済します。利益は、1万2000円-1万900円
=1100円です。
▼裁定取引(アルビトラージュ)
裁定取引の多くは、先物と現物を使います。
(注)裁定とは、市場で異なる価格の間を狙う取引の意味です
例えば、あなたが日本の株が上がると判断したとき、個別銘柄では
上がるか下がるか分からない場合、日経225種平均の先物を買って
おきます。先物買いが増えると、日経225種平均の価格は上がりま
す。
確認しますが、日経225種という株はない。それは、わが国を代表
する225の大会社株の、加重平均で計算した指数です。
(注)大口投資家は、個別銘柄ではなく、マクロ経済、期待金利の
変化の判断によって、上昇や下落が予想できやすい日経平均や、ダ
ウ平均、ナスダック、S&P500等の「株価指数」を売買することが多
い。株価指数は、そのバスケットに含まれる株価を、加重平均した
価格です。
日経225種平均が、売りより多く買われて上がっても日経平均とい
う株はない。指数があるだけです。そのため、225種に含まれる各
社の個別銘柄の株は、まだ上がっていないことも多い。
そうすると日経平均の先物(高い)と、現物の個別銘柄の株価(低
い)に、価格差が生じます。ここで日経平均の先物を売って、現物
を買う「裁定取引」に、利益の機会が生じます。
【先物主導】
「株式市場が先物主導で上げた」と経済新聞が言うときは、次に、
個別銘柄の現物買いが、裁定取引で入るだろうというサインです。
逆に、先物指導で下げたというときは、この逆で、現物売りが出る
だろうということです。
裁定取引も、相場の上げや下げに関わりなく、先物と現物の価格差
で利益を出す方法です。(注)精算日には、先物と現物価格は一致
します。
先物売買にはレバレッジがかかりますから、わずか1%の利益(あ
るいは損)も、元金に対しては10%や30%の利益(あるいは損)に
なります。
(注1)株式市場、証券市場、商品市場、FX(外為取引)等で、上
げ相場では利益を出しても、下げ相場では一時的に儲けた金額以上
の損をする人や投資家が多いのは、市場を動かす巨額資金を、レバ
レッジで使うヘッジ・ファンドの先行投機を見逃すことが多いため
です。
(注2)上げ相場では、金融商品を持つ多くの人や投信信託にも利
益が出ます。しかし下げ相場では、利益を出すのは、ほぼ、ヘッジ
・ファンドのうちの、少数です。そしてジョン・ポールソンのよう
に、下げ相場での利益は、大きく逆張りしたごく少数のファンドに
集中します。
証券会社や投資信託は、個人や投資家マネーを集める必要があるた
め、以上のことは言いません。「上がる」とだけ言う。
■7.ヘッジ・ファンドの時代
【誕生】
1990年代は、こうした「買いと同時に売りを出すヘッジ取引を行う
ヘッジ・ファンド」が多く誕生した時期でした。
90年代末の、ヘッジ・ファンドの数は515社で、運用元本は$5000
億(41兆円)でした。現在の五分の1です。
【2001年】
伝統的な投資信託のほぼ全部は、株価がピークをつけていた1990年
代末から2000年のIT株崩壊で、巨額損を被ります。
特に、2000年3月から、9.11(世界貿易センターやペンタゴンが崩
壊した同時多発テロ)の後の2002年には、IT株を買っていた投資信
託の損失は大きかった。
伝統的な会社が多いS&P500種が38%、新興企業のIT関連が多いナス
ダックは75%も暴落しています。ナスダックはその後2000年のピー
ク価格を回復してはいません。
【ヘッジ・ファンド】
この時、約500社のヘッジ・ファンドは、合計で1%の損失しか出さ
なかったと言う(同書)。
先物を含む、ポートフォリオの分散投資を、世界に張りめぐらせて
いたからです。同時に、米国の、株式相場の下げの時、先物売りの
方法でリスクをヘッジしていたからです。
このため、下げ相場でも利益を出すヘッジ・ファンドへの投資が人
気を博します。だだし、ヘッジ・ファンドに投資できるのは、ごく
少数の人です。
手法は、売りと買い、先物と現物、株、債券、社債を組み合わせた
複雑なものでしたが、コンピュータを使う統計学に優れた人の多く
が、金融の巨大所得を求め「ヘッジ・ファンド」を設立しています
。
30代で、1年に10億円の個人所得はザラです。
【2005年】
9.11以降の、FRBの低金利(短期金利1%)、サブプライムを含む新
しい住宅ローンの開発があった後のヘッジ・ファンドは、2200社を
超え、投資家から預かった運用元本は、$1兆5000億(123兆円)と
、90年代末の3倍に膨らんでいました。
2005年ですでに、ヘッジ・ファンドは、
・米国の、株式市場の売買の20%、
・国債・社債・住宅証券を含む債券とデリバティブ市場の売買では
80%を占めるくらい巨大になっていました(同書)。
【日本の株式市場】
わが国の、2000年代株式市場の、50~60%、時に70%はガイジンの
売買です。ガイジンファンドが買い超の月は、日経平均が上がり、
売り超になると下がる。
実に単純な値動きの相場になっています。ガイジン・ファンド(ほ
ぼ全部がヘッジ・ファンド)は、オフショア(租税回避地)からの
売買です。もちろんそのヘッジ・ファンドへの運用預託には。国内
の機関投資家分が混じっています。
【2011年1月を事例にすれば】
日経平均は1万228円(10.12.30)から1万605円(11.02.10)に若干
(3.7%)上がっています。東証一部の、2011年1月の株の売買(売
り買いの合計)は、56兆円でした。売りと買いの金額は一致します
から、買いが26兆円、売りが26兆円です。
このうちガイジン(ヘッジ・ファンド)の買いは13.2兆円(買いシ
ェアが51%)で、売りが12.5兆円(売りシェアで48%)です。約70
00億円の買いの超過があった。
この買い超によって、わが国の1月株価は、わずかですが上昇に動
いたのです。
国内投資家は、ほぼ全部が売り超なので、7000億円のガイジンの買
い超がなければ、11年1月も、相当に下げていたはずです。
個人投資家、生損保、銀行・信託は、ガイジンが買った分(7000億
円)を、売り越しています。株では売買シェアが低い事業法人のみ
が、わずか280億円を買い越しただけです。
http://www.tse.or.jp/market/data/sector/index.html
株価は、景気(経済取引の活発度)を計る代表的な指標です。それ
を、元本に10倍~30倍のレバレッジをかけ、運用総額で2000~6000
兆円のヘッジ・ファンドが支配していると言えます。国債市場も、
商品相場も、です。
各国中央銀行の短期ゼロ金利策や量的緩和のマネーは、実体経済の
企業への融資や設備投資にはならず、もっばら、
(1)金融機関の損失を埋めるためと、
(2)国債を含む証券の売買、
(3)および株や商品先物の売買資金になっています。マネーを刷
っても、デフレ脱却ができない理由がこれです。
そのため、消費者物価が上がらない中で、今は、
・低金利の国債価格と、
・国際コモディティのバブルが起こっているのです。
伝統的な金融では、中央銀行がマネーを刷り、それを金融機関が借
りて企業や個人に低い金利で融資すれば、実体経済での商取引が浮
上していました。
今は、増えたマネーは企業と個人の実体経済を迂回しているため、
投機的な商品と証券のバブルを生むだけです。
(注)日本の金融機関での増加マネーは、増発国債の購入にしかな
っていません。金融機関の株式の保有は、減っているのです。
■8.ヘッジ・ファンドの利益の性格=投機的な利益の由来
ヘッジ・ファンドが増え始めた1994年に設立したにせよ、ほぼ2005
年まで、ポールソン&カンパニーが注目されることはなかった。
しかし着実な運用で、預かり資産は$20億、個人資産は$1億はも
っていたのです。個人金融資産82億円ですから、普通に見れば、と
ても大きい。しかしヘッジ・ファンドの世界では少ないくらいです
。
2000年代半ばにはヘッジ・ファンドを含む金融業の利益は、米国の
、全企業の利益の25%~30%を占めるくらい大きくなっていました
。
英国も同じです。製造業が空洞化した後のIT産業全体より大きくな
った。2000年代の米国と英国のGDPの増加は、金融業によってもた
らされたものです。
ハーバードの卒業生の20%が、金融業を目指したという。90年代後
期のビジネスの英雄は、ビル・ゲーツでした。2000年代は、ヘッジ
・ファンドの設立でした。
「ヘッジ・ファンド投資家のエドワード・ランバートは、Kマート
に続き、さらに大手のシアーズ・ローバックまでも掌中に収め、20
04年には$10億(820億円)を稼ぎ上げた。同じ年に、ゴールドマ
ン・サックス、マイクロソフト、ゼネラルエレクトリックのCEOが
手にした報酬は、三社合わせても$4300万(35億円)に過ぎない」
(同書:P25)
事業家ではなく、ヘッジ・ファンドがアメリカン・ドリームになっ
たのです。
▼金融業の利益の性格が、変わった
【(1)伝統的な金融】
伝統的な銀行の利益は、[貸し出し金利-預金金利-業務経費-デ
フォルト率=業務純益]得られます。
日本の銀行で、不良債権が少なく融資先のデフォルト率が低いとき
、業務純益は、ほぼ融資額の1%でした。1兆円を貸したとき、100
億円の業務純益があった。
こうした時の銀行の利益は、より多くの預金を集め、企業や個人へ
の貸し出しを増やすことによって得られます。
企業への貸し出しは設備投資を増やし、個人への貸し出しは、主に
住宅の購入になって、いずれもGDPを増やし、実体経済の所得を増
やす要素になっていました。
【(2)2000年代は証券の売買差益】
しかし今、とりわけ米欧の金融業の、利益の過半やそれ以上、もっ
と強く言えば「ほとんどが」伝統的な融資業務からではなく、投資
銀行としての、国債を含む証券の売買の差益です。
投資と言っても、設備投資ではない。差益を求めた株、社債、国債
の売買であり、商品先物の証券の売買です。
これは、国民の実体経済(GDP)と所得にとって、どんな意味をも
つか?
【(3)所得移転に過ぎない:重要】
(下げ相場での利益)
例えば株です。市場が、株価指数(日経225種平均)を1万円と評価
している。この株価に、価格のゆがみがあり、いずれ8000円に下が
るのが妥当と判断したとします。
あるヘッジ・ファンドは、株価先物の指数を1万円で売る。限月に
は9000円に下がったとします。反対売買をして、1000円の利益を得
ます。空売りも同じ構造です。この利益は、どこから来たか?
1万円で株価先物指数を買っていて、限月(清算期限)に9000円で
反対売買しなければならない人の損と見合います。
つまり、先物を買っていたAさんの損が、先物を売ったBさんの利益
になる。合計はゼロサムです。収奪ではありませんが、収奪に似て
います。(注)国債や社債でも同じです。
以上は「下げ相場」の時です。下げ相場でのヘッジ・ファンドの利
益は、他の人の損から来ています。
価格を妥当なものに下げたという面での、経済への貢献があるに過
ぎない。GDPは増えず、資産価格の下落がある。
●下げ相場では、金融商品は、短期で大きく下げる性格をもってい
ます。価格変動が少ない住宅でも、上げ相場は10年、そして下げる
時は1年、2年で10年分の上げ以上の下げをします。
これは、あらゆる金融商品の価格変動に共通しています。このため
、買いが主な個人や投資家は、最終的には損で終わることが多いの
です。
(上げ相場での利益)
上げ相場の時はどうか? 先高期待をし、ヘッジ・ファンドが株価
指数の先物1万円で買ったとします。多くのファンドが買えば先物
価格は上がるでしょう。(注)投資銀行も、ヘッジ・ファンドと同
じです。
期限の限月には、1万1000円に上がったと仮定します。反対売買は1
万1000円での売りです。1万円で先物を買っていた人は1000円の利
益が出ます。
この利益はどこから来たか?
1万円で先物を売り、限月に1万1000円で反対売買(この場合は買い
)をしなければならない人が、1000円の損をかぶります。つまり、
先物買いでも、Aさんの利益はBさんの損です。
合計はゼロサムです。
低く評価されていた株を、上げた効果はあったかも知れません。
(注)上げ相場では、売買をせず長期保有している人にも利益がま
す。
*
以上が、ヘッジ・ファンドの、投機の効果です。投資銀行をヘッジ
・ファンドの利益が、全企業の利益の25%~30%と巨大になったこ
との意味は、損をした人も、同額の巨大な損になったという意味で
す。
前記のように、米英では、全企業利益の25%~30%を、以上のよう
な金融収益が占めるようになっていた。その裏には、その分の損を
した企業、金融業、投資家があったということです。
一体これは、社会的に、どんな意味を持つかと思うのです。
企業の使命は、金融業に限らず、人々の実質所得を増やすことでし
ょう。ところが、ヘッジ・ファンドの手法では、AからBへの所得収
奪があるだけです。
国際コモディティへの投機も、同じです。原油の先物や、穀物の先
物を買い価格を上げる。それが、ファンドの利益になる。これは、
最終的には、消費者が負担する商品価格になります。
逆に原油の先物を売って、価格を下げる。この利益は、原油先物を
買った人の損と見合います。このときは、最終的には商品価格が下
がって消費者負担は減ります。
以上のように、ヘッジ・ファンドの機能は「価格の早期実現」です
。
【重要】このため、ヘッジ・ファンドと投資銀行(シャドー・バン
キング)の利益分、同時に、どこかの国の誰か、あるいは海外のど
こかの金融機関・投資家が、損をしているという構造があります。
■9.価格の実現に先行することを利益化するのがヘッジ・ファン
ド
しかし、ヘッジ・ファンドが行うのは買いでの価格上げ、売りでの
価格下げでの先行です。先行するファンドの働きがなくても、実物
の需給から、いずれは実現する価格を、先取りしたものに過ぎない
。この社会的な意味は何か?
ヘッジ・ファンドに従事する人の、所得を上げるだけでしょう。
その所得は、今まで述べたように、他の人の所得が移転したもので
す。
利益を上げる金融業のファンド・マネジャーの個人所得は、実業の
企業では絶対に得ることができないくらい巨額で、唖然とするくら
いのものです。
以上と同じく、国対国で行われる時の、金融所得は、A国の所得(
または資産価値)の、B国(米英)への移転です。所得のフランケ
ンシュタインとも言えます。
新興国の、小さな株式市場に対し、ヘッジ・ファンドが仕掛ける売
買は、その国の資産価値や所得を、買いでバブル的に上げながら、
売りで下げて利益を出し、移転させることです。
キャリー・トレードがこれです。
(注)1990年以降の、日本の株価バブル崩壊のとき、怒濤のような
空売り(レバレッジ取引)で巨大利益を上げたのは、英米系のヘッ
ジ・ファンドでした。
この先行売りがなくても、PERが60倍と異常だった日本の株価は、
いずれ下げたでしょうが、その下げ相場での利益の過半が、わが国
国内ではなく、英米に流失したことが問題でしょう。
今FRBは、ゼロ金利の資金を印刷し、投資銀行やファンドに貸すこ
とで、多国の所得(または資産価値)を、自国に移転させる役割を
果たしていることになります。
企業人が持つべき「経済倫理」から言えば、どうしたものかと思う
のです。経済倫理は、法の規制はなくても、経済活動においてとる
べき人の道を言います。企業のビジョンや価値観と言っていい。
2000年代は、金融業が肥大した時代です。
米国は、世界の資金を集める金融の帝国主義だったとも言っていい
。
米ドルを刷ることが米国の利益になる$基軸通貨体制は、ヘッジ・
ファンドの利益によって補強されています。貿易赤字で流出したド
ルが、ヘッジ・ファンドや投資銀行の金融利益で回収される仕組み
です。
今、国債、通貨、金利、社債、国際商品相場、デリバティブは、前
記のように、ヘッジ・ファンドが最も大きな売買をしています。
こうした意味で、われわれの経済の将来を、憂います。
ほぼ無規制のヘッジ・ファンドは、金融マフィアが仕掛けた利益収
奪かとも思えるのです。
ジョン・ポールソンの着目は、次稿で述べます。
増刊を書く予定ですが・・・
【後記】
今、沖縄のホテルです。厳冬の内地と違い、昼の気温は20度もあり
ます。春の気候です。明日帰ります。
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【ビジネス知識源プレミアム・アンケート:感想は自由な内容で。
以下は、項目の目処です。】
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3.疑問点はありますか?
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