長い強権で腐敗した、カルロス・ゴーンの経営
This is my site Written by admin on 2018年11月26日 – 17:00
日産の救世主だったカルロス・ゴーン氏が、金融商品取引法違反の
疑いで逮捕・拘留され、日産の取締役会では代表取締役も解任され
ました。わが国では異例なことなので、連日大量の報道があります。
11月14日の有料版では、逮捕直後に、会社員に関係がある会社組織
の問題として、背景となるものを考察しています。冒頭の6ページ
くらいを送ります。

             *

日産のV字回復を主導したカルロス・ゴーン氏が、5年間で50億円と
見られる報酬隠しと、会社経費の20億円超の私的な流用のため、成
田に到着直後に逮捕されました。

発覚は、社内告発からです。関与していた関係者が、捜査に協力す
ることにより刑が減免される「司法取引」が使われています。適用
は二例目という。米国では過去から司法取引は多かったのですが、
日本で施行されたのは2018年の6月と新しい。

【偽装された有価証券報告書】
有価証券報告書は、会社の取締役が、会社のオーナー(株の所有権
者)である株主に対して行う、資産/負債の変化の内容、利益と投
資状況、利益金処分案の説明です。

この中に、まず代表取締役会長であるゴーン氏の役員報酬が、過小
に書かれていたこと。ゴーン氏のストックオプションの利益も、意
図的にゼロとされていました。これが、年間10億円、5年で約50億
円です。

さらに、ベンチャー企業への投資のためとして、日産が全額出資し
たオランダの子会社(資本金60億円)を通じて、別荘の建築が行わ
れ、維持や税の経費は会社が払って、ゴーン氏は賃貸料を払わずに
利用していたことです(20億円相当の利益供与)。会社の業務に忠
実でなければならない役員の任務にそむく背任に当たります。

【リーダシップ型経営法】
ゴーン氏については、1年でV字回復を果たした2001年に、本メー
ル・マガジンで「リーダシップ型経営」の事例としてとりあげまし
た。<鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン>という標
題でした。使わなくなった別のPCファイルに残っていると思います。

【ビジョン達成の度合いを年度化し、社員の自己目標に分解する】
複雑な要素をもつ経営を単純化し、「車づくりのビジョン」にまと
めて引っ張るリーダシップ経営の、典型に見えたからです。

リーダシップ型経営は、「ビジョンの実現のために実行すべきこ
と」を明確に示し、社員の仕事の、努力の方向を、成功する一本に
まとめるものです。

上からの強制権力による統制や命令ではない。示されたビジョンへ
の社員の共感が、MBO(成果目標による経営)の形になって、その
目標が社員の自己目標にもなり、自発的に展開されていくものです。

成果目標の達成にコミットするということも、当時は新しかった。
日本型経営にはなかった成果責任を負うものでした。この場合、組
織は命令・統制する権限の体系ではなく、目標とする成果の達成責
任を負う責任の体系になって行きます。コミットメントとは、成果
の達成を、会社と株主に対して約束することです。

日産の縦割り組織を横断する、クロス・ファンクションチームも新
鮮でした。

【対極が、権力型経営】
このリーダシップ型経営の対極が、権力型の経営です。CEO(経営
の責任者の意味)は、経営の実行において、権力を持ちます。権力
とは、当人の意に染まないことでも強制し、上位者の命令を下位者
に実行させる力です。組織は権限の大きさと深さにより、階級的な
ものになります。

権力は、CEOに帰属している以下の職能から生まれます。
主なものを示します。

【CEOの主な職能】
・人事権(雇用と解雇の決定)
・仕事の評価権(昇進、昇給、降格、降給、配転の決定)
・経費の配分権(増額経費とカット経費の決定)
・会社が目指すビジョンの決定権
・仕事の標準的な方法の決定権
・組織の決定権。

社員(雇用される人)の仕事、そして仕事の条件や環境となるもも
ののすべては、CEOが決定できます。CEOが命じる通りのことを実行
し、仕事で求められた成果を上げないと、評価権または人事権が発
動されて不利益を受けるか、最悪の場合は解雇されても対抗できな
いのが社員です。英米型の経営では、社員は、上長の「ファイア」
の一言で解雇されます。

上記の権力は、権限の委譲という形で、取締役と執行役員、または
部長に分有されますが、その移譲の、程度を決めるのもCEOです。

【会社の所有者は株主だが・・・】
CEOは、過半数の株をもつオーナー型でない限りは、会社の所有者
である株主の持ち株数の過半数で選任されたマネジャー(経営を実
行する者の意味)です。

マネジャーは、マネジメントする責任を負う経営者です。マネジメ
ントの成果が利益です。株主に対して、会社の利益を上げ、株価を
あげることが経営者(マネジャー)の責任です。

外資から派遣されるCEOは、特に利益責任を強く負っていて、株主
が要求する利益を上げないことが2年も続くと、簡単に解任されま
す。日本の、社内から上がった社長には、考えられないことです。
あるファンドから派遣されたCEOは、「今年。**の利益を上げな
いとクビになります」と筆者に述べたことがあります。

【希薄化した株主】
現代の経営では、株主は、個々にはわずか株しか持たない数万人、
数十万人から成ります。ほとんどの株主は、株を長期保有しません。
「買った価格より高くなったとき売って利益を得る」という投機の
目的で買っています。

株主の権利である、(1)株主の代理人としての取締役の決定、
(2)経営への関与、(1)利益目標の提示を目的して株を保有する
のは、会社のM&Aを目的としたとき多数株を買ったときだけです。

M&A以外での株所有は「株の値上益と配当が目的」であり、取締役
の人事と経営への関与は目的とはしていません。

このようにして、株主の経営へ関与は、株主数が広がって増え、短
期所有が増えるに比例して、「希薄化」してきました。株主の、経
営への関与の形態を、ガバナンス(統治)とも言います。

メディアは、ゴーン氏による日産の経営に関し、「ガバナンスが働
いていなかった」とコメントしていますが、多数の少数株主になっ
ていることが多い他の上場大手でも、株主の、経営に対するガバナ
ンスは働いてはいないのです。メディアのコメントは、当をえてい
ません。

むしろ、日本の大手企業の経営では、「株式の持ち合い」などの方
法で、株主からのガバナンスを受けないような経営を推進してきま
した。経営者(CEO)は、株主総会を短時間に終わらせ、質問のな
いように運営することに努めてきたのです。株主総会を、上場他社
と同じ日の同じ時間に開くのは、株主を多くは出席させないためで
す。

【株式市場と投資信託】
マネーの出し手には、どの株をもつのか分からない「投資信託の増
加」も、株主の経営関与の希薄化を促進しています。投資組合のヘ
ッジファンドによる短期所有の増加も同じです。

マネーの出し手(これが株主)は、どの株を持つかということに関
与していません。(注)ヘッジファンドも投資信託の一種であり、
特に、リスクヘッジをするファンドを言います。

【株主によるガバナンスは希薄化している】
メディアはこれを「ガバナンス(会社の統治)」の問題としていま
すが、超多数株主になると、株主が本来持っているガバナンスの権
利は蒸発し真空化してしまいます。

民主主義の、選挙における1票の権利行使が、ごく小さなものにな
って、事実上は、票を多く集めた政治家と与党に従う官僚の強い権
力になっていることと同じです。実際、株の選挙の場とも言える、
東証やNYSEの「株式市場」こそが、株主の経営関与を、希薄化させ
てきたのです。

【絶対権力者になったCEO】
このため、株主総会で、株主から選任されたという形式をとって、
CEOになった経営者が、人事権と経営権を、個人で独占する傾向に
なっています

【CEOの発祥は、執事と番頭から】
西欧の中世では、経営者は、貴族の館の執事(召使いの長)であり、
わが国では、オーナー家族が雇用する番頭でした。その執事や番頭
が、株式市場の発達よる「株主の希薄化」から、経営の全権をもつ
CEOになったのです。

【長期の絶対権力者】
日産のCEOの「腐敗という犯罪」は、
・V回復を果たした「カリスマ経営者」という声望から、
・社内の誰も意見、進言ができない絶対権力者になったゴーン氏の、
自分の権力への驕り(おごり)がもたらしたものです。

株主から見れば執事に当たるCEOの、約20年という「絶対権力」は
長すぎます。長すぎる権力所有は、倫理的な自己抑制ができる、少
数の例外者を除き、「チェックを受けない行動の中に腐敗」をはら
みます。政治家も同じです。

絶対とは、誰からも意見をされずチェックを受けない独裁者の意味
です。中世の王権(=領主権)と同じです。

本稿では、ゴーン氏の堕落を機会に、資本主義の会社組織の問題を
検討し、考えて行きます。

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 <975号:長い強権で腐敗した、カルロス・ゴーンの経営>
        2018年11月21日:有料版

【目次】

1.会社の幹部の、役職の問題
2.階級を否定した民主主義の中での階級制が、会社制度
3.資本主義の中の、会社(=法人)の組織
4.リーダシップ型経営の組織

【後記】

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■1.会社の幹部の、役職の問題

われわれの多数派が承認している資本主義の中での「法人」が、会
社組織です。その組織内で、最上位の権限をもつのがCEOです。

CEO、会長、社長、副社長、専務、常務、相談役という役職名は、
部長や課長のように社内だけの呼称であり法的なものではありませ
ん。

会社法では、株主総会が選任(または承認)した取締役が取締役会
の多数派で選任したあと、株主総会でも過半数の承認を受けた人が、
経営の全権をもつ代表取締役(複数も可能)です。

上場会社で使われるようになったCEOは、米国から来たもので、取
締役会の指名を受け、実際の経営を執行する役員の代表という意味
のものです(社長の意味)。代表取締役兼CEOは、文字通り、経営
の全権をもつことになります。

【執行役員制の導入:1997年のソニーから】
執行役員の制度は、わが国の会社法の規定にはないものでした。
1997年に、取締役が多すぎたソニーが導入し、多くの上場会社に採
用されています。なぜ、他社から真似されたのか。格好がよく見え
た米国風の役職をつけたかったからという理由しか思い当たりませ
ん・・・会社の役職名は任意のものです。極端に言えば、「何であ
ってもいい」。責任と権限の内容は、CEOが決めるからです。

・・・無料版は、ここまでにさせていただきます。続きの有料版の
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