こんにちは、吉田繁治です。明日から大型連休ですね。どんな計画
をおもちでしょうか。私は、相当に苦手な部屋の整理、いたるとこ
ろ小山になって溜まった本、雑誌、資料の整理です。作業量が、憂
鬱です。本を縛っていて、飽きたのでやめました。全部がデジタル
化される時代を待望しています。
膨大な紙は資源の無駄です。液晶技術よどんどん進め、です。産業
には、常に抵抗勢力がありますが・・・例えば石油産業は、石油の
大量消費を続けるイデオロギーを振りまきます。紙の消費量の多さ
が文化の高さとしていたのは、中学の社会科の教科書でした。
驚くべきことですね。最近、タバコには大きな文字で害が書かれて
います。紙にも、害を書いたらどうでしょう。新聞も、です。中国
・インドが消費に参加した地球は、米国風の生活を続けることを許
しません。しかし人間の優しい知恵は、デジタル化という方法を作
っています。もうすぐです。メールマガジンって、進んだ方法じゃ
ないでしょうか?
連休の特別号として、最近有料版として書いたものを、補って送り
ます。
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<Vol.232 連休特別号:出張記:驚異の会社(1)>
戦略と価値提供のリファレンスモデル
【目次】
1.カーディナル・ヘルス社
2.粗利益率2.95%の事業で、1.7%の営業利益
3.4兆円の入出荷量の物流センターがある!
4.やはり「標準化」が鍵だった
5.戦略は3行で記述できる
(以下、次号に続く)
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■1.カーディナル・ヘルス社:Cardinal Health
最近の米国は、イラク戦争や、予想されるイラン戦争を含め変ですが、
すばらしい会社もあります。その一つが、カーディナルです。
▼コロンバス
4月の初めに、米国の北東部(五大湖の南)にあるオハイオの州都コ
ロンバスといいう地方都市に、3日間滞在しました。
数時間歩けば全体が分かる小さな街です。寒かった。都心部と言っ
ても、高いビルが建つ広い街路に、人気(ひとけ)はありません。
統計的人口の70万人が信じられない思いです。
都市に特有の猥雑なものがない、架空の街のようです。ゴルフの帝
王、ジャック・ニクラウスが生まれ、育ったのはこの街でした。
NYやロスのような国際都市ではない。「アメリカ」です。アメリ
カではこうした都市のほうが多い。NYやロスのほうが特殊です。
夕食でレストランにはいると、どこから多くの人が集まったのかと
思うくらい、混んでいます。この街では、いつもレストランにいる
のかとか思ったり。
正装しディナーをとるといった風情。何か聞き取れない英語で話し
、微笑んでいます。長い金髪が似合う。有色系は少ない。この街で
生まれ、泣いて笑って食べて散歩し一生を過ごす人も多いでしょう
。
日本では、高級レストランが似合う人は少ないように思えます。ま
ず会社で着ていたビジネススーツで来るためでしょう。加えて姿勢
が悪いためでしょうか。背筋を伸ばしましょう。昔の武士のように
背筋を伸ばし、相手を正面から見つめると、いい感じになりますね
。
背筋を曲げた武士は想像ができません。話題の「品格」はそこから
出る。重要なのは形(フォルム)です。商品が多く、忙しくなった
社会では、人は形で内容を判定します。ブランド時代の特質でもあ
ります。ファッションも大切です。整形美人もいい。他の人に快適
な感じを与えようとする、他人志向の努力だからです。表現しなけ
れば内容は見えません。
▼願えば叶う通りの、ミーティング
有料版メールマガジンで、以前取りあげた戦略的な企業、医薬品卸
のカーディナル・ヘルス(カ社)の視察とトップミーティングでし
た。まさか、こんな機会があるとは思えなかったですが・・・
郊外の田園地帯の真ん中に、広壮な新しいオフィスがあります。
会議室の窓から見れば、どこまでも続く平原、畑、そして樹木です
。
玄関の前の小高い芝生に、米国旗と並び、歓迎の意を示す、大きな
日の丸が掲げてありました。
オハイオ州の田園で、日の丸を見ると、琴線に触れます。古いかな
ぁ・・・涙ぐんだり・・・見えないガラスの天井のような差別のあ
る米国に長年住んで苦労している人は、分かるでしょう? あのイ
チローですら、WBCで興奮した理由でしょう。
医薬品や医療材の卸を、ビジネス・ドメイン(事業の主領域)とし
ます。年商は8兆円超、社員数が5万5千人の大企業です。食品卸から、
医薬品卸に転じたのですから、これを聞くだけでも、並ではない。
いろんな企業を見ましたが、世界の小売・製造・卸・情報のすべて
の業種で、知る限り、戦略性で最高ランクの会社です。その企業に
ついて書きます。戦略とは何かのリファレンスモデルなる会社です。
リファレンスモデルとは、応用し、まねることができると言う意味。
スライウォッキーの『伸びない市場で稼ぐ(原題:How to Grow Wh
en Markets Don’t )』で知り、2004年12月のシリーズとした<コモ
ディティと付加価値工程(全5回>で取りあげました。
もう1年半も前のことになりますね。
その間、私的にも、いろんな変化がありました。
米国の医薬品卸のマージンは極度に低く、売上対比で3%〜5%です。
市場規模は$2598億(約30兆円:05年)と大きい。医師の処方箋が
いる医療用の医薬と、風邪薬などの一般薬(OTC)が含まれてい
ます。
(注)日本の医薬品市場は5分の1の6兆円です。90年代の、政府保
険の、公定薬価の切り下げのため、卸のマージンは、過去の12%か
ら、現在は7%〜9%レベルに低下しています。
超競争の、普通は利益が出ない市場で、どんな戦略(=方法)で、
高い利益の事業を作るかということについて、モデルになる会社が
カーディナル・ヘルスです。調べるほどに、感嘆します。
要約すれば、『価値戦略』での卓越があります。
他の業種にとっても、方法は、参考になります。
病院や調剤薬局の、
・経営的なニーズがどこにあるかを直感し、
・調査して確かめ、
・院内や薬局における医薬品管理のためのソリューションを組み上
げ事業にしています。
ここで言う「価値」は、自社にとっての付加価値ではない。カ社の
顧客(取引相手)である病院・調剤薬局にとって、経営上の問題に
なっていることの解決(ソリューション)です。
(1)医薬品の注文を受けて卸す(普通の事業がこれです)という
ことだけでなく、
(2)病院や調剤薬局における、手間のかかっている医薬品の在庫
管理と使用管理に対し、ソリューションとなる方法(システムと仕
組み)を提供します。
それによって、
・顧客の内部における医薬品管理の総コストを、
・それまでの50%以下に削減し、
・管理を完全化し、
・その結果を利益(=価値)として、相手に提供する。
これが『価値提供』です。
(注)価値と問題解決は、現代のそして未来の産業のキーワードで
しょう。
医薬の卸の前は、苛烈な食品の卸売であったという点も、面白い。
日本の食品卸で、医薬品卸に進出しようとするところがあるでしょ
うか?
起案しても、突拍子もないとして退けられるのが落ちでしょうね。
事業規定が、狭すぎるのです。
1年半前に書いたとき、訪問し、トップとのミーティングに参加する
ことができるとは思いませんでした。
縁は奇なもの。近さを思います。世界は実は狭いのではないでしょ
うか。最近、とみにそう感じます。年をとったせいかな・・・
http://www.cardinal.com/
ウォルマートで使われる言葉の、明晰と論理にも驚きましたが、カ
ーディナル・ヘルスは、それ以上に論理的です。
インターネットで公開されている10年分のアニュアルリポートの、
難しい英語を苦労し読んで、表現の的確さに驚き、戦略性に驚嘆し
ました。
医薬や医療の専門用語があって、難しい内容も含みますが、アニュ
アルリポートは出色です。
こんなに戦略的で論理的なものは見たことがないという印象をもっ
たのです。これが、取りあげる理由です。
■2.粗利益率2.95%の事業で、1.7%の営業利益
手許に、4月7日のトップミーティングで提出された『Cardinal Hea
lth Overview(カーディナル・ヘルス社概要』(41ページ)があり
ます。
まず事業の全体概要を示します。4つの事業があります。
売上 営業利益
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
医薬品卸売業 $610億 $10.3億
医薬品製造&技術サービス $ 30億 $ 3.4億
外科用具・手術用品 $100億 $ 6.7億
管理機器・コンサルティング$ 20億 $ 2.7億
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
合計 $760億(8.7兆円)$18億(2000億円)
全体従業員 5.5万人
メインの事業は、$610億の医薬品の卸です。コポーレートカラーは
赤。レジュメも真っ赤。赤の背景に白抜きの文字。年次報告書の表
紙も真っ赤です。びっくりします。きっと創業者の趣味でしょうね。
他に外科用品、医薬管理機器、製薬事業があります。
医薬品卸の事業だけの粗利益率(マージン率)は、公開できないと
の説明がCOO(社長)からありましたが、いろんな数字から計算
すると、以下のようにまとめることができます。
【カ社の医薬品卸事業の売上、粗利益、経費、営業利益】
(邦貨) (構成比)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
医薬品卸の売上 $610億 (7兆 150億円)(100.0%)
粗利益(マージン) $ 18.0億( 2070億円)( 2.95%)
経費 $ 7.7億 ( 886億円)( 1.25%)
営業利益 $ 10.3億( 1185億円)( 1.70%)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
医薬品卸事業は、売上(05年度)が7兆150億円で、粗利益は2070億
であり、粗利益率は2.95%です。医薬品卸事業の社員数は、推計で
8800名でしょう。
粗利益が2.95%の事業はどうでしょうか? 普通なら撤退するか、
倒産か、あるいは苦しくて合併でしょう。業界1位のマッケソンの卸
マージンは4%以上です。
事実、米国の医薬品卸は、統合・合併が極度に進み、今は約30兆円
兆円の巨大市場にわずか3社です。あとは、群小です。
医薬品の売上規模で、最大手がマッケソン(9兆円:05年は赤字)、
2位がカーディナル・ヘルス(高収益)、3位がアメリソース・バー
ゲン(いずれ埋没か?)です。
驚くべきことに、カーディナル・ヘルスの医薬品卸事業における経
費率は、売上対比でわずか1.25%です。
経費率1.25%の事業は、他に知りません。
更に驚くべきことは、営業利益率が、売上対比で1.7%です。
経費(886億円)より、営業利益(1185億円)のほうが多い。
強烈な営業利益分配率(=営業利益÷粗利益)であり、57%にもな
ります。
こんな会社も、見たことがありません。
「医薬品の価格が下がり、マージン率が下がることは、わが社にと
って、新たな機会をもたらす」と読みとれる説明が、『Cardinal H
ealth Overview(カーディナル・ヘルス社概要』には含まれていま
した。
もちろん露骨にこれを書くのは、上品ではない。
ほのめかしのコトバですが、そう読めるのです。
カ社は、業界にとっての環境変化や競争激化は、チャンスであると
考えています。
競争他社より、コストダウンすればいいだけのことだからです。
環境変化は、平等に、業界の企業を襲います。
コストダウンの方法を持っていれば、他がぽろぽろと脱落する水準
まで環境が悪化すると、そのシェアは自分のものになると言えます。
そう考えているのが、カーディナル・ヘルスでしょう。
▼変化を喜ぶ
子供のころ「変化」は楽しかった。
台風が来ることにも「うきうき」した記憶があります。
業界にとって台風が来る。
これにうきうきすることができるかどうか?
変化や困難に、心を、躍らせましょう。
方法(戦略)を持てばいいのです。
(注1)戦略の概要の内容だけでも、その全部を、解説を加えて取
りあげれば、数百ページの新刊書になります。その中のエッセンス
を示します。
(注2)更に、組織運営では、エンパワーメントを行うリーダシッ
プ経営の教科書にもなるような内容をもっているのがカーディナル
・ヘルスです。
■3.4兆円の入出荷量の物流センターがある!
カーディナル・ヘルスは、コストを極限的に低く抑えた物流センタ
ーを、全米に23ヶ所かかえています。一ヶ所の平均社員数は200名で
す。
内部に、作業者の数は少ない。フォークリフトを操作する人以外に
会うことが少ない。200名はいるはずなのですが・・・
人的作業が多い日本の物流センターと異質です。
これで、年間4兆円の出荷額とは恐れ入ります。
(注)物流センターのコストの低さは、それ自体のコストの低さよ
り、上流と下流の取引の合理化によって果たされます。ここが要所
です。
▼4兆円の入出荷額のNLC
そのうちのひとつをナショナル・ロジスティクス・センター(NL
C)と言っています。メーカーから集荷し、全米22箇所の物流セン
ターに補給する機能です。
・平面積が、4万平米(1万2000坪)、
・天井の高さが、10メートルの1階建てです。
コロンバスから車で30分、隣のダブリン市の物流団地にあります。
向こう隣は、ファッションのギャップの物流センターでした。
どこまでも続く広大な大陸の平原に、低層階の、殺風景な外見の倉
庫が建っています。米国の大きな物流センターは、どこでも相当な
田舎にあります。畑の真ん中の、どこにも人が見えない、つぶれた
流通団地といった風情です。まさにアメリカ。この国には10億人だ
って十分に住めるでしょうね。
容積は、普通のところの2階分でしょう。
8万平米の倉庫と見ることができます。
【NLCの機能】
カーディナル・ヘルスの、この物流センター(NLC)は、
・製薬メーカー(主要なものは最大手10社)からまとめて集荷し、
・全米22箇所の物流センターに供給する上流物流の機能です。
▼驚くべき規模の入出荷額
入出荷の額は、1年間で$350億(4兆250億円)です。ひとつの物流
センターで、年間4兆円の入出荷があるところを見たのは、初めてで
す。おそらく、世界中で、ここだけでしょうね。
1ケースの平均単価が20万円と高いためですが、それにしてもこの入
出荷の金額と量は、強烈です。
日本の全医薬の67%です。
たった一ヶ所の、米国では普通の大きさの物流センターで、です。
物流の量では、
・1日6万ケース、
・年間2000万ケースです。
以前、ニュジャージー州のセコーカスにある、フェデレイティド・
グループ(ブルーミングデールやメーシーズ等のデパートの親会社)
の物流センターを、訪ねたことがあります。(注)流動物流の自
動化クロス・ドック・センター機能でした。
その入出荷の金額は6000億円/年でした。出荷額6000億円に対する
経費率は0.5%(30億円)でした。この0.5%というコストも驚異的
でした。(おそらくはベトナム戦争で)脚を失い、車イスに乗って
出てきた所長は、ここが世界最大の物流センターだと言っていまし
た。ここは、その金額の6.7倍です。
ナショナル・ロジスティクスセンター(NLC)の設備や、マテハ
ンの機器では、取り立てて言う内容のものはない。情報システムも、
他の、普通の物流センターと同じです。
医薬ですから、温度管理と安全管理で他の商品と違いがあるだけで
す。隅っこには、鍵をかけた貯蔵庫、冷蔵庫、ケージがありました。
例え医薬品であれ、入出荷量が1ヶ所で4兆円/年の物流センターを
作ることができる米国は、とんでもない国です。発想の根底に彼我
の違いを感じます。どこまでも、やる。
■4.やはり「標準化」が鍵だった
こうした規模の物流センターができる理由は『標準化』です。
それも、強烈な標準化です。標準化すれば機械化ができます。
標準化は、カーディナル・ヘルスの社是であり、方法でもあります。
「予測不可能なことを排する」、これが方法です。
物流センターは、上流からの出荷と、下流への納品の矛盾が集まっ
て、集約される場所です。
・上流との取引と下流との取引が複雑で、
・手間のかかるものであれば、
・その中継点である物流センター内の作業も、複雑になります。
複雑さの度合いに正比例し、指数曲線でコストが上昇して行きます。
物流センターの合理化とは、上流と下流の、取引(厳密にはtransa
ction)の合理化のことです。
わが国の物流センターに見える作業の複雑さは、無駄なコストを増
やします。そのコストは、最終的には、国民が医療費として負担し
ます。他の商品なら、売価となった負担です。
1万2000坪の物流センターの中を、とぼとぼと歩き、担当から説明を
受け、再度、あらゆる面にわたっての『標準化』が強烈にコストを
下げる効果をもつことを考えていました。
他の人の話を聞いて、あるフレーズをきっかけに、頭の中で、概念
がぐるぐる回るのが、私の性癖です。
そして、「標準化の鬼」になろうと決めたのです。
行うのは、標準化の障害を取り除くことです。
これによって、4兆円の入出荷量の物流センターすらができる。
規模によるコスト削減効果は、絶大です。
規模を作るには、標準化が必須です。
標準化のない規模はコストを上げ、最終的には倒産をもたらします。
今、世界中でのあらゆる業種で大型合併が流行っています。規模の
経済性を求めたものですが、より大きく標準化を図らないと、結果
は、大きな規模であるために複雑になってコストが上がりダメにな
るはずです。
カーディナル・ヘルスが、医薬品卸の経費で、売上対比でわずか1.
25%しか使っていない理由も、この物流センター(NLC)の入出
荷金額を聞くだけで、理解ができました。
(注)1.25%は、物流部分だけではなく、卸の全経費です。23ヶ所
の物流センターだけの経費合計は分かりませんが、おそらく総売上
の1%未満、推計で0.8%です。
1ヶ所の物流センターでの4兆円という入出荷規模は、上流と下流取
引に、強烈な標準化がないと不可能です。
20万円×2000万個の箱の量を想像してください。
イメージで映像化すれば、量に驚きます。
聞く材料は、ケース単価(20万円)と年間物流量(2000万個)だけ
でいい。
カーディナル・ヘルスの、超がつく低いコストのオペレーションの
秘密が、ここにあったのです。鍵は、標準化の徹底でした。
・1ヶ所で4兆円(20万円×2000万個)の物流規模と、
・卸事業全体の総コストが、1.25%であるという2つの事実は、
鮮烈でした。
イマジネーションと、事業への構想力が、いたく刺激されたのです。
(注)わが国では、ケース単価が高い医薬品であっても4兆円もの入
出荷量をもつ物流センターは、地形と道路網の関係で、ムリです。
上流集荷のNLC風の機能で、最大でも、その規模の4分の1〜6分の
1でしょうか。
想定を超える規模のものを見て、新たな、仕事のエネルギーを得る
ことができました。
見聞は、予想外のところで、発見をもたらします。
犬も歩けば棒にあたるというのがこれだったのでしょうか。
日米欧の物流倉庫はずいぶん見ました。
設備・作業・情報システムではなく、出荷額の規模に驚き、未だに、
信じられない思いではあります。数字の桁に間違いはないか確かめ
ました。
■5.戦略は3行で記述できる
カーディナル・ヘルス側から提出された企業概要を読んで、また驚
きました。
8兆円、5万5000人の規模をもつ企業の、基幹の戦略が、3行に圧縮さ
れています。あえて原文のママを示します。
<Overall corporate strategy: Build a diverse portfolio of
market leading business integrated around healthcare providers
and pharmaceutical manufacturers.>
内容を解釈するには、カーディナル・ヘルスの10年間の戦略(方法)
を知っていることが必要です。圧縮されすぎていて、意味が取れ
ないでしょうね。
普通の和訳をすれば、通りいっぺんの、興奮をもたらさない内容し
か伝えないものになります。以下は、訳ではなく解釈です。
<会社の全体戦略(strategy):健康産業と製薬メーカーを取り巻
くニーズを総合(integrate)し、市場をリードし利益化できる事業
(business)を作って、多様なポートフォリオ(portfo1io)を樹立
すること。>
これを正当に解釈するには、ビジネス書1冊分の文字量が必要です。
ビジネスのキーワードが、5つ含まれます。
これを順に、解釈します。
▼経営目的のあとに来るのが、戦略
まず「戦略(strategy)」です。何回も解説していますが、あらた
めて確認します。無意味に使う人が、多すぎるからです。
戦略は方法(method)のことです。企業戦略といったときは、経営
目的を実現するための、競争優位を作る手段、方法を示します。
経営目的は、あとでも述べますが、その企業は、何を果たすために
存在するのかという目的(object)のことです。
戦略が適切であるかどうかは、経営目的から来ます。
どこにでも有効に通用する戦略は、ないのです。
例えばファッション店、家具店、食品スーパー、デパート、ホーム
センター、薬局、情報機器販売、ソフトウェア製造、自動車製造が
ある。
それらの企業は、何を果たすために存在しているのか。
これが経営目的です。仕事の目的でもあります。
分かりきっていると言わず、言葉で記述してみてください。
(注)決して、分かっていないはずです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1.あなたの会社は、何を果たすために存在しているのか?
2.その中で、あなたはどんな役割を、になっているのか?
3.経営目的と、あなたの、今日の仕事のつながりは、何か?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3つに、短く答えてください。
何を目指しているのかと言ってもいい。
社長、役員、上司、同僚に尋ねてもいいでしょう。「わが社は、何
を果たすために存在しているのですか? 他社との違いは何ですか
?」ということです。違いがなければ、いずれ規模が勝ちます。
これをクリアに、言い換えれば単純にしたあと、その目的を果たす
ための戦略(方法)が来ます。
例えばウォルマートでは「$2万の年収の家庭に、$4万の生活水準
を提供する」ということでした。
その経営目的のために、どこよりも安く売るというディスカウント
戦略をとります。そのために、店舗の運営費を、どこよりも安く抑
えます。経費目標は、売上対比で15%でした。(注)最近は18%に
上がっています。これがウォルマートの成長力が90年代に比べ、落
ちた理由です。
最近、株式市場でも注目されるようになった家具のニトリは「普通
の人に住生活のコーディネートを提供する」ということです。
わが国の住まいは、世界の他の国に比べ、普通の人の住まいの、コ
ーディネートが遅れているからです。
つまり解決すべき問題点をみつけ、ニトリは、中国で作った安価な
家具とホーム・ファニシングでカラー・コーディネートを提供しま
す。これが戦略です。
経営目的のあとに、それを実現する戦略が来るということを認識し
ておいてください。
経営目的にブレがあると、仮に、ディスカウントや安売りの戦略を
一時的に、販促策としてとっても、儲からないとしてやめてしまう
でしょうね。
ダイエーがそうでした。「いいものをどんどん安く」が初期の社是
でした。それを、競争他社に比べたとき、顧客にとって内容のある
戦略として実行している間は、伸びていたのです。
70年代後期からは、店舗の運営コストが上がったから、高粗利益の
ものを売ると変わり、全く、伸びなくなります。90年代も、売上対
比でどんどんコストを上げてゆきます。
ここで、企業生命は終わっていたのです。
普通、倒産にいたる10年か20年以上も前に、企業理念や経営目的の
喪失があります。言うことと実行することに矛盾をきたします。
これが社員の意欲を削ぎ、給料をもらうことが仕事の目的になって
しまうのです。今の、多くの金融機関や官僚に、これを感じます。
そして今、また別の、地方の新興企業が、店舗の運営コストを売上
対比で15%から20%に抑えるという戦略で、伸びています。
大手小売業が、コストが高く、新興のディスカウントストアに成長
のチャンスを提供しているからです。
例えば、付近にイオンやIY堂があれば、チャンスです。店舗の運
営コストが高く、28%を超える高い値入率(値入額÷売価)でなけ
えればならないからです。
こうした基底のところの戦略(方法)を見なければならない。
▼つぎは「ニーズ」です。
顧客のニーズを満たすとは、いったいどういうことでしょう?
例えばカーディナル・ヘルスは、以下のような思考に基づく顧客調
査によって、顧客(病院・調剤薬局)のニーズを発見します。
(注)顧客調査は、仮説を検証するためのものでないと、意味があ
りません。総覧的な調査は、調査会社をもうけさせるだけです。
(1)病院や調剤にとって、事業の目的は「患者の医療」である。
(2)病院や調剤にとって、医薬品の在庫管理や発注は、手間のか
かる付帯業務に過ぎない。
薬剤師が、本来の業務、つまり患者医療のための調剤に費やしてい
る時間は、びっくりするくらい少なかったと、調査で発見します。
何に手間と時間がかかっているかと調べると、(1)医薬品の在庫
管理、(2)院内配布、(3)保険の請求を含む管理の事務作業、
(4)発注作業、(5)入荷した医薬の仕分け、(6)棚への補充
等の、いわゆる「雑務」です。
▼雑務問題
雑務という作業は、実は、ないのです。
作業が雑務とくくられるとき、無駄なコストのカタマリがあります。
あなたの仕事の中で、目的も方法もはっきりしていない雑務は何%
の時間を占めていますか? 普通、50%以上あるはずです。70%か
もしれません。
医療の分野では、これらの雑務は、カーディナル・ヘルスが注文を
受けた医薬を玄関口まで届けたあとに発生している院内作業、また
は薬局内の作業です。
ここでカーディナル・ヘルスは「フォロー・ザ・ピル(錠剤を追跡
せよ)」という戦略を考えます。
▼理由
そこにフォーカスができたのは、事業の定義が「ソリューション(
顧客の問題解決)を提供すること、顧客の経営をサポートすること」
だったからです。
医薬の在庫管理作業が、顧客の、コストを食う雑務として問題なら、
その解決策を作って提供するとなります。
そのために1996年に、投薬管理を自動化する装置(Pyxis:ピクシス)
を作っていた小さな工場ピクシス社を買収します。
▼イノベーション
戦略的な買収です。この自動調剤装置を、カーディナルの物流セン
ターとネットワークと連結すれば、すごいことができると考えます。
それまでの自動調剤装置は、病院に置く、単独の(スタンドアロー
ン)の装置でした。そのため、マーケットも大きくはなかった。病
院での効果も限られていたからです。
ピクシス社は、細々と販売をしていました。
カーディナルの発展が始まるのは、この年からです。
(Pyxis MedStation:自動調剤装置)
http://www.pyxis.com/prodDetails.aspx?pid=111
自動調剤装置は、患者の処方箋コードを入力すると、その患者に投
薬する医薬を、引き出しから自動的に出してくれます。
医薬の自動管理装置と言ってもいいのものです。
ピクシスには、自動発注機能(ソフト)を連結することができ、そ
のデータは、カーディナル・ヘルスの物流センターに、リアルタイ
ムのネットワークで配信されます。
カ社の、全米22の物流センターでは、ピクシスの引き出しにそのま
ま入れることができる形状にして、自動注文があった医薬を配送し
ます。
病院は、ピクシスを病棟の必要なところに置けばいい。医師が使う
薬は、特殊なものを除けば、90%をこのピクシスで処理ができます。
これによって、人件費の高い薬剤師は、煩雑だった医薬品管理の作
業と事務作業の「雑務」から開放されます。本来の調剤に、専念が
できます。
切断のないシーレスなデマンドチェーンを作ることができます。
これが、カ社のコストが低い理由です。
ピクシスは、カ社が提供する管理機器のひとつです。
その他にも、個々の患者の治療過程での投薬管理をする装置、ソフ
トウェア等、あらゆるものが「病院と調剤の医薬品管理の問題解決」
のために準備されています。
きっかけは1996年の「フォロー・ザ・ピル(錠剤を追跡せよ)」の
戦略(方法)でした。
カーディナル・ヘルスは、この問題解決の戦略で、競争他社に対し
戦略優位を作り、現在に到っています。
8兆円の売上が、これを契機に生まれたといっていい。
病院と調剤薬局には、医薬品のニーズがあります。
これは当然のことです。
普通の卸は、ここでニーズ内容の追及をやめるでしょう。
医薬品を(1)他より安く、(2)少量ジャストインタイムで頻繁
に卸すことが競争優位と考えるだけかもしれません。いずれもコス
トアップになります。
カーディナル・ヘルスが考えたのは、病院と調剤薬局にとっての付
帯業務、つまり厳密な管理を必要とする「医薬品の院内管理」の問
題解決が、大きなニーズであるということです。
以上のことを念頭に置き、以下を読めば、ニーズの総合(integrate)
という活字も、立って見えるはずです。
<会社の全体戦略(strategy):健康産業(病院・調剤薬局)と製
薬メーカーを取り巻くニーズを総合(integrate)し、市場をリード
し利益化できる事業(business)を作って、多様なポートフォリオ
(portfo1io)を樹立すること。>
つぎは、分かりにくい「総合(integrate)」の意味です。
そしてビジネスの意味。ポートフォオも・・・さらに価値観の意味。
see you next week!
【後記】
ホリエモンが全面否認のまま、昨日保釈されました。私は、メール
と金額はニセモノでも、武部幹事長あるいは森派に、何らかの形で
お金が渡ったのは、本当だと思っています。堀江氏は「首相になる
にはおいくらお金が必要ですか」と訊ねた男です。
彼が、平気な顔をして「渡しましたよ」と言えば、政治は、自民党
・民主党を含めひっくり返るでしょう。武部氏の動静と表情に注目
しておきましょう。最初、献金問題が出たときのTV映像の表情で
は「落ち着きがなく慌てて」いました。表情は正直です。
推理小説風に、渡していると仮定すれば、堀江氏の強気の理由が分
かります。最近の検察の摘発は、きわめて政治的で変なのです。そ
れと民主党の、今度の小沢党首、前原前党首の交代の意味もわかり
ます。そして次の首相も分かる。
いずれ明らかになります。闇に葬られたとしても。堀江氏の裁判が
始まる前に、自民党は首相を変える必要があります。または、堀江
氏と何らかの妥協をする必要があります。
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<263号:事業改革の方法とプロセス(2)
リーダシップの展開>
【06年4月5日号目次】
1.失敗の原因その5:
「ビジョンの実現をはばむ障害を、放置してしまう」
2.失敗の原因その6:
「短期的な成果を上げることを怠る」
3.失敗の原因その7:
「早々と勝利宣言をし、改革の集結宣言をする」
4.失敗の原因その8:
「改革を企業文化に定着させることを怠る」
5.リーダシップとマネジメント
6.ステップ1:「危機意識を生み出す」
7.改革のステップ1:「危機意識を生み出す」
8.現状満足が生じる9つの原因
9.危機意識を高めるための9つの方法
<264号:特別号:出張記:リーダシップの展開>
【4月12日号目次】
1.粗利益率2.95%の事業で、1.7%の営業利益
2.4兆円の入出荷量の物流センターがある!
3.「標準化」が鍵
4.戦略は3行で記述できる
5.カーディナル・ヘルスにとっての総合(integrate)の意味
6.そしてリードという概念
7.ビジネスとポートフォリオ
8.社長は、会社の価値観だけを説明した
<263号:事業改革の方法とプロセス(3)
リーダシップの展開>
【4月19日号目次】
1.成長への危機意識を高める9つの方法
2.リーダーの役割
3.責任、権限、義務の原理
4.改革チームを作る方法
5.ゴールを設定しビジョンを作る
6.ビジョンや事業定義の効果
7.ビジョンがそなえるべき6つの要素と4つの特徴
8.すぐれたビジョンを作る7つのプロセス
<263号:事業改革の方法とプロセス(3)
リーダシップの展開>
【4月26日号目次】
1.ビジョンと戦略の関係
2.顧客に向かった全体経営目的(全体ビジョン)への問い
3.事業拡大が失敗する根本原因
4.改革のためのビジョン・コミュニケーション
5.必要なこと:社員にエンパワーメントをする
6.エンパワーメントの行動基準
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