こんにちは、吉田繁治です。本シリーズはドラッカーの『経営者の
条件』を素材に、(普通は問われない)仕事をすることとは何かを
考えています。前3号は、時間を有効に使う方法について述べまし
た。
組織で、あるいは組織で上に立つ者にとって仕事を行うとはどうい
うことか。何が目的になり、何が成果か、われわれはこうした問い
に対し、明確な答えを持たず仕事をしていること多い。
靴を作る現場の仕事なら、目的、成果、方法は明確です。いかに能
率的に、品質のいい靴を作るかが課題です。外科医、歯医者、税理
士、会計士、プログラマーも、仕事の内容とその目的が明確です。
現場職や、個人で完結して行う仕事でははっきりしていた仕事が、
現場を離れるとともに、不明確になります
マネジャー(部長・課長・係長)の仕事は何か? 経営者は? エ
グゼクティブは? スタッフは? スペシャリストは?となるとど
うでしょうか。現場職のときは明確だった生産性という概念はない
のです。
生産性の高いピッカー(受注商品を集荷する人)はいます。しかし
生産性の高い倉庫マネジャーとは何か? 仕事ができるスタッフと
は何か? 組織の成果をあげるエグゼティブや経営者とは何か?
本稿の前半部は「貢献に焦点を当てること」、
後半部は「強みを活かすこと」についてです。
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<221号:仕事ができる人の習慣(4)>
【目次】
1.貢献
2.貢献とは具体的には?
3.成果への貢献
4.事例の検討
5.成果へのコミットメントが必要
6.重要:責任について
7.成果の3つの領域
8.個々人の強みを活かして生産的な組織を作る
9.強みと弱みは同居する
10.しかし品性と誠実さは例外
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■1.貢献
エグゼクティブ、マネジャー、スタッフ、スペシャリストが仕事を
十分に行うとは、どういったことか? 答えにくい問いです。ほと
んどの人が、答えることができないのではないか。
自分は(自分なりに)十分な仕事をやっているはずだ、役に立って
いるはずだという「判断の停止」を行っていることが多い。
自分が十分に仕事を行っていて、組織の成果(直接的な成果は利益
、間接的な成果は状態改善)が十分でないとすれば、部署か部署以
外の他の人が、十分な仕事をしていないということになる。
そうしたところに、安心を見出しているのが、われわれでしょう。
貢献が「倫理的に美しく響く」言葉であるため、それは当然だろう
と思ってしまいます。当たり前のことだとすれば、考えはそこから
進みません。
エグゼクティブ、マネジャー、スタッフ、スペシャリストが行うべ
き「組織の成果への貢献」とは何か、前半ではまずこれを考えます。
【中間生産物】
判断と意思決定をするエグゼクティブや、知識作業の結果(設計書、
商品企画書、計画書、提案書、作業手順変更書、仕組みの改善等)
を成果物とする専門的な知識作業者の労働の成果は、工場のよう
に生産した商品の質と量では計ることはできません。
こうした知識作業者の成果物は「中間生産物(=素材)」というべ
きものでしょう。それ自体はコストであり、成果はない。
例えば企画書は、現場で、十分に実行され、売上か、利益の増加、
またはコストダウンとなってはじめて利益という成果を生みます。
実行されなければ、費用であるに過ぎません。
時間をかければいい仕事になるのでもない。意思決定のために大き
なコストを使えば、成果物の品質がよくなると言えるものでもない。
▼組織の成果への貢献
<成果を上げるエグゼクティブは「貢献(contribution)」に焦点
を当てる。自分の仕事から目を上げ「目標(goals)」を見上げる>
ドラッカーの書で唐突に出てきたように思える「貢献」は、理解し
にくいものでもあります。少なくとも私にとっては、数年前まで、
理解が難しかった。(「業績への貢献」と補えばすこし分かりやす
くなるでしょうか。)
その理由は、自分が成果と思っているものを作ること(例えば経営
計画書、システムの設計図、手順変更書を美しく作ること)を仕事
の中心に据え、それをゴールにしていたためです。いわば、組織の
中の個人主義でした。
ドラッカーが言う「仕事は、外部の顧客、そして組織の中の他者や
組織への貢献」ということの意味を、理解していたとは言えません。
貢献(contribution)とは、自分以外の何かや誰かが成功するよう
に、あるいは成果をあげるように、自分の仕事を行うことです。
自分の仕事を、組織またはチームあるいは部署の成果に対し、従属
させることです。
自分の仕事を果たせばいいという姿勢と方法は、組織の仕事として
「必要な条件」ではあっても「十分な条件」ではない。
それだけでは、組織の中では不十分な仕事にしかならない、そして
自分の仕事も、実は果たせていないとドラッカーは言います。
<「組織の業績にいい影響を与える、自分ができる有効な貢献は何
か?」を問わねばならない。>
自分がどう仕事を行えば、何を行えば「組織の業績に貢献できるか」
ということを中心に据えねば、仕事は十分なものにならない。
自分の仕事が、何に貢献できるかを考えるようになってから、確か
に仕事がうまく行くようになってきたという記憶があります。
果たすべき個人の義務に閉じこもっていたときは、自己満足はあっ
ても、本当の成果である「組織の成果」は十分ではなかった。
関連して言えば、リーダーとは「チームを成功に導き、人の成功を
喜ぶことができる」人です。これが、リーダーの第一条件の要約で
す。
このリーダーの条件に似た仕事の方法が、エグゼクティブと知識労
働者には必要だとドラッカーは言っていると理解しています。
■2.貢献とは具体的には?
具体的にはどういうことか?
経理部長、営業部長、商品部長、人事部長、物流部長をしていると
いうのが答えではない。どう考えなければならないか?
自分の職責を果たすことだけではなく、それを超えた他者または上
司、そして組織への貢献です。
一例をあげれば、現場職なら、自分のマネジャーが正しい決定がで
きるために、情報を提供するのも仕事です。
販売部長なら、今日の職務を果たすとともに、明日の顧客が明日必
要とする商品を考えることを自分の責任でしょう。
経理部長なら<社長が将来、直面する意志決定について考え、意思
決定に役立つための備えをしておかねばならない。>
上司や組織への「忠誠」ということか? そうではない。「組織が
成果を達成をするための貢献を、自分の仕事の中で行なうこと」で
す。
■3.成果への貢献
▼努力や権限での仕事
<いかに肩書きや地位が高くても、自分が注いだ努力や、部下に向
かっての(指示・命令・決定の)権限に焦点を合わせる人は、他の
人の下に立つ者にすぎない>
まず、これを考えます。
【自分が注いだ努力】
私は自分の仕事を、純粋に、一生懸命に行なった。そのことだけで
は十分ではない。課題にすべきことは、努力した結果としての、組
織の成果だからです。
同様に、部下に対し、指示や教育を行なったということでもない。
課題にすべきは、指示や教育の結果としての業績の向上だからです。
【上司への忠誠】
会社では社長以外には、上司がいます。上司への忠誠は、上司の指
示や命令を守ることです。そこでは命令の実行のために払った努力
が評価されます。
ここで消えているのは、努力の結果としての組織の成果の達成への
視点です。
努力することは手段であり、成果をあげること等しくはない。努力
して成果が得られるなら、普通は、会社に利益や生産性に問題は生
じません。だれでも皆、努力くらいはしているからです。
ここで役職にともなう権限について考えます。社長、役員、部長、
課長とは職位(job position)、言い換えれば、「決定の権限の体
系」です。
権限に焦点を合わせる仕事とは、決定権によって仕事をすることで
す。
▼権限の前提は、成果責任(=結果責任)
権限:結果への責任をもつことができるということを裏付けに与え
られる決定・命令する権力
権限が生じる前提にして結果への責任があります。
決定する権限をもつということは、その決定を、自分や現場が実行
した結果の責任を負うこと、つまりその決定によって成果を上げる
という裏づけがなければならない。
これが近代組織の第一原理です。
組織は、権限の体系である前に、果たすべき責任の体系です。
【ワーカー】
労働時間に対し賃金が支払われるのは、ワーカー的な仕事です。ワ
ーカーは、作業を行ったことの対価として賃金をもらう。作業実行
がワーカーの義務であり、仕事の成果は作業実行です。
【マネジャー】
しかし、ワーカーとは違う知識作業者、またはスペシャリストであ
るホワイトカラーは、組織の成果を目的に、組織の成果を上げるた
めの仕事をしなければならない。
結果責任を取れない人に、権限はあり得ない。
立場に結果責任のない権限がともなう組織なら、それは身分制度で
あり、封建制の組織です。
組織の職位で基本になるものは、以下の3階層です。
職位とは、責任をもち方の範囲での、縦の階層です。
【3つの職位】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
トップマネジメント・・・全体組織が実行した結果への責任をもつ
→従って、組織全体への命令権をもつ
マネジャー・・・・・・・部署が実行した結果への責任
→従って、部署への命令権をもつ
現場ワーカー・・・・・・作業を、能率的に行なう義務をもつ
→従って、労働時間に対応する給与がもらえる
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
チームの成果への責任を前提にしたとき初めて、チームに対する指
示命令をする権限が生じます。
成果責任のない権限は、あり得ないのです。
マネジャーとはチームの成果をあげることを目的にする職位です。
(補注)官僚組織は、予算と作業実行の結果への責任が曖昧な、権
限の階層による体系です。これが、あらゆる官僚組織がもつ問題の
根源であり、わが国の政府負債の問題の根です。誰も、成果責任を
取らない。そもそも、業績と成果とは何かの定義がないのです。最
近では「建築確認申請に対する許可」の責任が問題になっています
が。これはほんの一例です。
官僚組織ではないはずの民間の会社でも、権限の体系はもちながら、
成果責任がどこにあるのか不明瞭な会社が、実に多いのです。
▼達成することへの貢献
<いかに若い新入りであっても、(達成することへの)貢献に焦点
を合わせ、結果に対し責任をもつことのできる人は、真の意味で、
トップマネジメントである。理由は、組織の成果に責任をもってい
るからである>
成果への貢献は、上司への忠誠や、自分の仕事での努力とは異なり
ます。成果への貢献に焦点を合わせれば、上司への忠誠とは異なる
仕事の方法への視野も開けます。
■4.事例の検討
大部分の人は、「上司への忠誠」を機軸に、「権限」で仕事をして
います。ある会議でのことでした。
▼社長に決めてもらえば
ある政策が提案され、新しい現場作業として実行するかどうかを決
めるとき、販売部長は、顔を赤らめ興奮気味に一気に以下のように
言いました。
「この問題については、社長に決めてもらえば、その通りに担当に
実行させます。」
販売部長は、店舗や営業部の現場に行って、部下に対し「会社とし
て社長が決めたことだから、この作業を実行せよ」と迫るはずです。
これが「権限」を軸にした仕事の方法です。
以下のような構造を持ちます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
[社長権限で命令があった]
↓
[自分は命令を伝える](命令の仲介)
↓
[部下は命令を実行せよ]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こうした企業風土と行動様式の組織では、新しい政策の実行結果に
対し責任をもつのは、社長だけになります。
販売部長は、(無意識かも知れませんが)「社長に決めてもえらば」
という言葉によって、「自分には結果責任はありません」と言っ
たことにもなります。
命令の仲介は、自分の成果責任を放棄することの宣言に聞こえます。
▼彼の仕事の方法
彼は、社長の権限を借り、部下に対しては自分の権限で仕事をして
いることになります。
コストをかけ実行した結果に対し、誰が責任をもつのか?
会社のあらゆる仕事は、費用を使うコストです。
コストには、成果が伴わねばならない。
その仕事にに500人時(例えば50人×10時間)の作業時間を
使えば、1時間の労働単価(ULC:ユニット・レイバー・コスト)
が2000円なら、100万円を使うことです。
また、現場の総人時を増やさず、新しい作業を実行するということ
は、従来の作業をやめることでもあります。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
自分は、社長の決定を忠実に伝えたにすぎない。
↓
現場が実行した結果としての成果への責任は、社長にある。
↓
または、その命令を十分に実行できなかった部下にある。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
彼は、社長の命令には忠実かもしれない。
社長の命令に服し、その通りに伝えたのですから。
▼権限による仕事で欠けていること
しかし彼は、あげるべき成果について責任をもっていない。
社長の命令を現場に伝え、実行させただけですから。
例示すれば、こうした方法で仕事をするのが「権限による仕事」で
す。この販売部長のような行動様式(ワーク・スタイル)は、皆さ
んの会社の中でも多いはずです。
あるいは、あなた自身も知らず知らず、こうした権限による封建的
な仕事の方法をとっているかもしれません。封建的とは、成果責任
のない役職(立場)で仕事をすることです。
権限による仕事は、
・作業命令の伝達と、
・成果とむすびつけない実行です。
一見では、社長に対し忠誠なように見える販売部長に欠けている決
定的なものは何か?
■5.成果へのコミットメントが必要
この販売部長の問題は、社長命令に対し「コミットメント」してい
ないことです。
コミットメントとは、成果を上げることへの契約です。上司から出
された成果目標への合意と言っても同じことです。契約は合意です。
【作業命令を受諾することの意味】
上司からの作業命令を受諾するということは、命令に合意(契約)
するということです。合意とは、その作業が実行された結果として
生まれる成果を約束することです。
これをコミットメントと言います。日本語では適当な言葉がないの
で説明的に言えば「成果を契約すること」です。
▼成果へのコミットメントが基軸になる
【成果へのコミットメント】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
[社長は、成果をあげることを目的に、ある作業を指示をした。]
↓
[部長は、担当部署での成果目標と作業実行について合意し、成果
についてコミットメントした]
↓
[成果を出せるように作業を組み立て、現場に実行を指示する]
↓
[現場の実行の進行状態と、途中での成果を管理する]
↓
[実行の途中で発生する障害を解決し、成果を出す]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
命令を受けた部長が責任をもつべきは、その作業を実行した結果と
しての成果です。
作業の実行は、時間というコストを使う手段です。目的は成果です。
販売部長は、社長からの命令を受け合意することによって、作業実
行だけではなく成果を約束したことになります。
仕事では、コミットメント(成果への契約)がなければならないの
です。
▼指示や命令に合意できないときは、対案を出す
もしあなたへの、社長(あるいは上司)の指示や命令が、成果を生
まないだろうと思えるときは、どうするか。
「対案」を出さねばなりません。
目的とする成果を生まないだろうと考えるということは、実行前に、
その作業の結果を予想し、あらかじめ評価していることです。
想定成果の判断ができるということは、その作業の効果を判定でき
るということです。
社長の指示が、目的である成果を生まないと販売部長が考えること
ができるなら、対案、つまり別の案が出せるはずです。
(補注)IBMでは、上司からの命令に対し部下は「ノー」という
ことができるとしています。ノン・コミットメントです。しかし、
「ノー」を言ったときは、対案を出さねばならないのがルールです。
ダメなことは、自分の上司の命令に忠実でなければならないという
形式論から、実行を約束し、作業実行はしても成果を生まないこと
です。(成果がなければ、給与の源泉が生まれません。)
上司の命令を実行した。その結果、状態の改善がなく成果もなく、
生まれたのは損失である。自分はその損失に責任はない。作業実行
の義務があるだけだとしてもいいのは、マネジャーの指示で定型作
業を実行する「ワーカー」だけです。
ワーカーは実行の努力、つまり能率的な作業実行が義務です。
<エグゼクティブの大部分が、下に対し焦点を合わせている。仕事
の結果ではなく、実行の努力に焦点を合わせている。組織や上司が
自分に対してしてくれるべきことや、自分のもつべき権限に焦点を
合わせている。その結果、自分の働きを有効にできていない>
あらゆる仕事(work)は、コストを使った手段です。
仕事で目的とすべきは、成果(performance)です。
実行の努力は手段に過ぎないのです。
■6.重要:責任について
ここで、責任ということについて注釈を加えねばなりません。
(読者の方々からの質問もありました)
広辞苑では「人が引き受けてなすべき任務」とだけ書いてあります。
引き受けてなすべき任務では、有効な意味が伝わりません。
明解国語辞典は、(1)自分の分担としてそれだけはしなければな
らない任務・負担 (2)不結果・失敗に基づく損失や制裁を受け
ること、と記します。
広辞苑よりは踏み込んではいますが、これも有効な解釈ではない。
▼責任のプロセス
賃金をもらう仕事においての責任は、
[コミットメント]→[レスポンシビリティ]→[アカウンタビリ
ティ]のプロセス(過程)として捉えねばなりません。
あらゆる仕事は、コミットメントから始まります。
【責任をとるプロセス】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コミットメント:成果目標に対し、実行を契約すること
↓
レスポンシビリティ
:実行計画を立て仕事の手順を決め、実行すること
3つの職種のレスポンシビリティ
・ワーカー =定型作業の実行義務をもつ
・スペシャリスト=自分で手順を作り実行する
・マネジャー =チームの成果をあげること
(=チームを成功に導くこと)
↓
アカウンタビリティ:実行した結果の報告と反省の義務
・報告=計画と実行結果の差異と、差異が生じた原因
を言葉と数字で説明することを言う
・反省=原因対策を立案することを言う
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
条件(1)成果目標に合意できないときは、対案を出す義務がある。
条件(2)原因対策の立案と実行こそが「責任をとる」ことの意味
である。責任をとるとは、辞めることではない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
仕事の中で、こうした責任の原理を徹底し、習慣的な企業文化と行
動規範にすれば、組織の障害の多くは消えるでしょう。
(注)組織は、後で述べるように、個人事業の足し算では成しえな
い大きな成果を上げることができます。ところが、個人事業の成果
の足し算より劣る組織も実に多い。大組織であればいいということ
では決してないのです。
■7.成果の3つの領域
マネジャーの上位のエグゼクティブにとって、成果とは何か?
3つの領域での成果があるとドラッカーは言います。この3つの領
域への貢献を、エグゼクティブの仕事、つまり責任の中に組み込ま
ねばならない。
(1)経済的な直接的成果
(2)商品価値作りとその価値の強化
(3)明日のための人材の育成
▼経済的な直接的成果
経済的な直接的成果は、売上、利益、コストダウン、効率化、品質
の向上などの金額や効率の数字で計ることができるものです。直接
的な成果を上げねば、企業は存続することができず職場は失われま
す。
あげるべき経済的な成果については、明瞭に定義し、達成の順位を
つけなければなりません。今期、または四半期に重点を置くことが
何かをエグゼクティブは決めなければならないということです。
留意すべきことは、経済的な成果においても、同時に多種の成果目
標持ちすぎれば、達成で混乱が起こることです。
▼商品価値作りとその価値の強化
第二の領域の商品価値作りは、商品またはサービス戦略です。
企業の大きな活動は、この商品戦略です。他と差異化を図ることが
できる商品の価値の提供とは何かを追求し、確認し、強化し続けな
ければならない。(本稿では、商品価値作りについては多くを述べ
ません。)
商品価値を公式的に言えば以下です。
商品価値=顧客にとっての商品の便益・効用÷価格
↓ ↓
使用価値 ÷顧客にとってのコスト
↓ ↓
高める 下げる
————————
↓
「商品価値の差異化」と言う
商品価値作りで大切なことは、商品価値は顧客にとっての使用価値
(便益・効用)であることです。
商品価値=使用価値÷価格。つまり、他社と同じ使用価値なら、コ
ストダウンが継続されなけばならない。同じ価格なら使用価値が高
くなければならない。
エグゼクティブは、商品価値作り、または価値の強化にどう貢献す
るかを、自分の仕事の責任として、組みこまねばならない。
(注)営業方法、販売方法も商品価値作りの一環です。
▼明日のための人材の育成
第三の領域は、人(後継者)の育成です。
<ビジョン、競争優位、業績において、達成した今日の水準を繰り
返すだけの組織は、(次の変化への)適応の能力を失っていると見
なければならない>
今日の達成水準を基礎に、それを当然のものとして、次世代の経営
では、それを越えねばならない。
そのためには、「明日の人材」を育成しなければならない。育成の
方法は、現在より高い成果目標への挑戦の機会を提供し、その達成
を助力することです。
人は、成果を上げることによって成長します。成果目標の大きさと
その達成の経験が、次世代の人材を作る。目標達成の方法にあわせ
て、人は自分を成長させる。従って大きな成果への達成責任が人を
成長させます。
スポーツ選手も勝利をおさめることによって、それ以前より大きく
成長します。自信とは、自分への確信です。確信は成功によってし
か得られません。
この観点から言えば、人の育成とは、(1)より大きな課題に挑戦
の機会を与え、(2)方法を示し、(3)達成を助力して、成功に
導くことです。
以上をまとめれば、利益、商品、人の育成という3つの領域で成果
を上げるための貢献することがエグゼクティブの仕事であるとドラ
ッカーは言います。
もちろん、人によって、3つの領域での貢献の重点は異なります。
大切なことは、エグゼクティブ自身も、自分の強みとすることで貢
献することです。
次は強み(strength)です。強みとは何か?
■8.個々人の強みを活かして生産的な組織を作る
▼強みによって生産的に
<成果をあげるエグゼクティブは、人の強みを活かし、生産的なも
のにする。彼は、人の弱みに焦点を当て、弱みによって組織を組み
上げてはならないことを知っている。成果を生むには、同僚の強み、
上司の強み、そして自分自身の強みを使わねばならない>
組織での仕事は、個人事業とは異なります。
▼個人営業
例えば人への接し方に致命的な難点を抱えるシステムエンジニアは、
技量が優秀でも、個人で独立して仕事を獲得することはできない。
脳外科で優秀な医者でも、患者への応対が陰険で、看護婦のやる気
をそぐような稚拙さがあれば、患者も看護婦も逃げます。
個人事業では、オールラウンドに水準以上であることが要求されま
す。
▼組織
<組織は、人間が、その強みよりずっと多く持ってる弱みを消すこ
とはできない。しかし組織は、人の弱みを意味のないものにするこ
とができる。組織の働きは、個々人の強みをレンガにして、協働の
事業として組み上げることである>
人は強みより多くの弱みをもちます。これを聞けば、安心します。
そうだからこそ個々人の強みを組み合わせ、人員配置をし、組織を
作る。
人事の評価において着目すべきは、まず、その人の強みがどこかと
いうことです。強みを見て配置し、強みを見て昇進させる。
強みとは、その人が普通の人より「できる」ことです。または、そ
の人の能力の中で、他のことよりより多くの成果を上げることがで
きることです。
▼コンサルティングでも同じ
このことは、コンサルティングの際のコツでもあります。完全な会
社は、世界中のどこにもない。強みと弱みをもつのは、大企業も中
小企業も同じです。弱みだらけであることも多い。
会社単位で言っても、それぞれに強みと弱みがあります。意思決定
をするトップマネジメントやエグゼクティブにも、独特の好みの傾
向があります。
好みとは、どんな成果をあげたとき喜びを感じるかということです。
または何を実現したいかです。
その会社の弱みに目をつけ、それを直そうとすると、コンサルティ
ングの成果は上がらないことが多い。成果とは業績の向上、または
新たな機会の開発です。
逆に、その会社の強みや好みに添った提案、技術提供、事業開発、
幹部教育は成果が出ることが多いと言えます。例えば、コストダウ
ンが得意な会社は、その筋に添ったことが成果を上げます。逆に、
不得意なことでは成果を上げにくい。
弱みを克服しようとして矯正をすることを行なえば、成果が上がっ
たとしても凡庸なものになります。
■9.強みと弱みは同居する
<大きな強みをもつ人間は、ほとんど常に大きな弱みをもつ。山が
高ければ、谷も深い。あらゆる領域で強みをもつ人はいない。>
過去の仕事で成功し、今は権限をもつ立場にある人が、しばしば陥
る誤りは、部下よりあらゆる面で、自分が優れていると思ってしま
うことです。
▼権限を能力と誤解する傾向
部下は、限られた権限の範囲で仕事をしています。自分で踏み込ん
だ決定はできない。裁量の範囲が限定されるからです。部下は予算
と使える手段を含め、制約条件の中で仕事をしています。
他方、権限を与えられた立場にある人は、より大きな裁量権をもち
ます。それだけ成果への責任も大きくなります。ここで、権限が与
える選択の範囲の広さと手段の多さと使える予算を、自分の問題解
決の能力と勘違いしてしまいます。
経営者やエグゼクティブの立場にあって、うちの会社は中小企業だ
から人材がいないと嘆く人は多いのです。
こうした見方をする人は、仮に大企業になっても、人材がいないと
嘆くことで終生変わらない。
▼原因
原因はどこにあるか? 部下の強みを発見し、引き出す能力がない
ことです。自分自身については、強みは弱みと裏腹だと認識してい
ながら、他人については弱みから見てしまい、せっかくの強みを消
します。
<人を評価するとき、できないことに焦点を当て、できることを見
ないエグゼクティブは、人の弱みに着目し、(強みと活かすのでは
なく)弱みを避けるための人員配置をする。こうした傾向をもつエ
グゼクティブは、彼自身が弱い人間である。そのため、強みを持つ
人間に(内心では)自分の地位をおびやかす脅威を感じているのか
もしれない。>
こうした上司の共通の傾向は、部下は自分に忠誠を誓い、自分を喜
ばせるために仕事をするべきだと暗黙に考えています。
もちろんそうしたことを、言葉で表明はしない。しかし人事の権限
をもつときは、自分に忠実な人を登用します。
<成果を上げるエグゼクティブは、部下が自分を喜ばせるためでは
なく、(仕事を通じて)成果を上げることによって給料が支払われ
ていることを認識している>
▼気に入るということ
多くの観客を呼ぶことができる、優れた技術をもつプレーヤーがい
たとします。監督は、彼(または彼女)と感情での反(そ)りが合
わない。チームメイトとの仲も悪いように見える。こうしたとき、
監督はどうすべきか?
強みに人並みはずれた自信をもつプレーヤーは、しばしば、社内の
人間関係に弱点を抱えます。まさしく。山が高ければ谷も深い。い
や、長所で優れていれば、普通のことも短所に見えるのです。
数学で95点以上を取る人が、国語で40点しか取れなければ、そ
れが弱点に見えます。技術で95点、人間関係で40点なら、人間
関係が弱みに見えます。
数学で60点、国語で60点を取る人は、まとまっていてオールラ
ウンドに見えてしまうのです。こうした人を組み合わせた組織は、
せいぜい、人の弱みをカバーするように組み上げた凡庸な成果の組
織にしかならない。
こういったとき、監督(またはマネジャー)は、チームがあげるべ
き成果は何か?から判断しなければならない。
今日、観客を呼ぶことを成果と見るなら、欠点が目に付く気に入ら
ないプレーヤーを正ポジションで使う。
<学部長は、一流の教授や学者が仕事の成果を上げる環境を整える
ために給料を支払われている。大学運営において(その学者の発言
で)不愉快さがともなっても、犠牲としては安いものである>
人を活かすには、何ができないかから考えるのではなく、何がよく
できるかから考えねばならないとドラッカーは言います。
<人の弱みを基盤にして組織を組み上げることは、組織の目的に背
くことになる。組織とは人の弱みを中和して(成果にとって)無害
なものにし、人の強みを組み合わせて成果に結びつけるための特別
な装置である・・・われわれの大部分は、独力で成果をあげられる
ほどの強みをもってはない。>
組織における人員配置は、エグゼクティブやトップマネジメントに
とって難しい課題です。しかし成果の多くは最適人員配置によって
決まります。
人員配置においても、組織や部署があげるべき「成果は何か?」と
言う定義から出発すべきです。減点法だけでの人事は、誤りです。
■10.しかし品性と誠実さは例外
人間性や品性(character)と、誠実や首尾一貫(integrity)につ
いて、ドラッカーは興味深いことを言っています。
<品性と誠実さだけでは、何の成果を上げることもできない。しか
し、(能力があっても)品性と誠実さが欠けていれば、他の能力の
すべてが台無しになる。従って、人間性と誠実さに係わる欠陥は、
仕事上の能力や強みの制約条件であるだけではない。それらの欠落
は、弱みということではなく、人を(職業から)失格させる>
人間性、品性、誠実、首尾一貫は、成果を上げるための能力の、欠
かせない必要条件であるということです。それらに大きな弱みをも
つ人は、いかに能力が優れていていても登用はできない。
【後記】
本稿の後半部に示した組織の人員配置の方法は、私にとって未体験
の領域です。ドラッカーを引用し解釈する方法をとりました。
わかりにくい組織というものの基本的な性質が、了解されたでしょ
うか。組織については、われわれは無知なことが本当に多いのです。
次の考察では、1.自分が成果を上げること、2.最も重要なこと
から始めること、3.意思決定の条件を取り上げます。
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【目次】
1.割引現在価値(NPV)をめぐって
2.現在の日経平均の、期待金利とリスクプレミアムの試算
3.均等化に向かっている主要国のPER水準
4.上昇予測と下落予測の根拠の対照
5.ゼロ金利は維持されるか
6.政府財政の破綻説について
7.06年の米国の金利はどうなるか
8.日本の06年の株価についての結論
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