こんにちは、吉田繁治です。前号<竜ちゃんと直ちゃんの披露宴>
には、多くの感想をいただきありがとうございました。感想のすべ
てをプリントし、先週末に竜ちゃん・直ちゃんに渡しておきました。
改めて、御礼を申し上げます。
メールに、以下のような内容のものが、ありました。
【不信】
<もっと素直に、人間にならないといけない….と思いました。人
なんて、所詮信じられない…、と思ってますから。>
「人は信じられない」という結論の裏に、重い経験があるはずです。
人は信用に値するかどうか? 根底的な問いです。動物には嘘はな
い。しかし人は、意識的に言葉を使います。いろんな面をもってい
ます。多面的で複雑です。人は本能ではなく後天的な習慣が作りま
す。
善の部分もあれば悪の部分もある。人の幸せを妬(ねた)むことも
あれば、一緒になって喜ぶこともある。裏切ることもあり、嘘もつ
く。信用を裏切りこともあれば、卑劣で、卑怯でもある。しかし、
真実の瞬間もある。
マネジメント論でも、X理論(人間不信をマネジメントの根底に置
く)、Y理論(信用することをマネジメントの根底に置く)に分か
れます。
【多面的であることの救い】
人が多面的であるというところに、救いがあります。
全面的な善も、悪もない。
とすれば、人のいい面を引き出すには、どうしたらいいか。そのた
め、まず自分から、相手を信じることにしようと考えることに努め
ています。そして、人に依存することのないようにしようと努める
ことに決めています。
人は認められることによって、いい面を出します。
経営者が人を雇用するのは、全部ではなくてもおそらくどこかで、
人を信じるからでしょう。 善の部分を信じないなら雇用しないは
ずです。X理論は破綻するマネジメントです。
信じるとは、本当は分からないことを認識する方法でしょう。人間
は分からない。しかし人には、分からない人間を信じる能力もある
と思えます。
能力は、本能と違い、意識的な習慣によって作ることができるもの
を言います。才能も本能ではない。習慣が作るものです。
【テーマ】
さてテーマです。本シリーズは、『経営者の条件』に示されている
知識労働者および管理者としてのドラッカーが実践した自己管理
の方法を、解釈・整理しながら伝えています。その第3部です。
組織における仕事は、大きく分ければ3種です。
・定まった時間に、定型的な作業を行う労働(ワーカー)、
・専門的な知識・技術を使う仕事(スペシャリスト)
・判断と指示を行なう管理の仕事(マネジャー)です。
米国ではワーカーと言われる人が従事する定型的な仕事は、例えば
「靴の生産」のように、生産物を数値で計ることができ、成果がは
っきりしています。(注)わが国では、ワーカーという用語を用い
ず社員であるため、上に示す3つの仕事の境界が曖昧です。
成果が明確であり、数量と品質で計ることができるため、作業手順
を定型化できるとも言えます。IE(Industrial Engineering)が適
用できる領域です。
生産性を高めるためのIE、一言で言えば、これが近代組織でした。
しかし、スペシャリストやマネジャーでは、何が仕事の成果か、あ
やふやです。
上級のマネジャーであるエグゼクティブやトップマネジメントでは、
仕事の成果が、一層わかりにくくなって行きます。客観的な評価
が難しい仕事が増え、仕事の方法も個人に委せられる。未来の利益
のための、今日の仕事の評価は難しいのです。
例えば、企業の未来を決める経営企画、経営戦略、将来構想、技術
開発に類する仕事は、その作成方法も、成果評価も困難です。時間、
コスト、文字や数字の分量で価値を計ることはできない。
ワーカーと異なって非定型の、マニュアル化ができにくい仕事に従
事するオフィスワーカー、スペシャリスト、マネジャー、そして経
営者の仕事の成果を計る方法は、まだ見つかっていません。
ところが今、先進国では、これらの人々が過半数以上です。ますま
す多くの人が、スペシャリスト的な、あるいはマネジャー的な仕事
に就くようになっています。
こうしたスペシャリストとマネジャーが成果に向かうに必要なこと
は、自己管理です。自己管理は、自分の時間をマネジメントするこ
とです。実際に行えば容易ではない。
【必要な5つの習慣】
1:常に、自分が何に多くの時間をとられているかを知ること。
2:常に、自分以外の外部に役に立つことに焦点を当てること。
3:常に、自分ができること、すなわち強みの上に、仕事を組み上
げること。
4:常に、自分の能力のうち、すぐれたものが何かを知り、その領
域で成果を上げることに集中すること。
5:常に、成果に焦点を当てて意思決定をすること。
本シリーズでは、項目1から、順に考えます。
(前稿で述べた)何に時間を使ったかを実際に記録し、本当の内容
を知ったあとは、時間を集めることです。
そのためには、以下の2つの問いを自分に向かって発することが必
要だとドラッカーは言います。
1.する必要のない仕事を排除する。
2.他の人でも十分にやれることは何かを考える。
本稿では、この2項の習慣を考えます。
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<Vol.220:追悼:ドラッカー:仕事ができる人の習慣(3)>
【目次】
1.何も行わねば何が生じるかを考える習慣
2.本来行うべきことを考える習慣
3.非生産的な仕事と、生産的な仕事を分かつ分岐点
4.時間をとられる会議はなぜ必要になるか
5.情報の不全
6.本来の組織
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■1.何も行わねば何が生じるかを考える習慣
以下は、時間を集めるための方法です。決定が仕事である経営者に
とっては、切実に必要なことになるでしょう。
(注1)組織のトップである経営者が認める仕事をすればいいと考
えている人にとっては、無用なことかも知れません。経営者の指示
に従えばいいからです。
(注2)しかし経営者の指示による仕事だけをしていれば、その経
営者は、指示に従うだけの人を認めないのです。指示できる部分は、
1年の2000時間の仕事のうち、わずかだからです。
▼する必要のない仕事を排除する習慣
する必要のない仕事や活動は、どうやって見つけるか。自分が行っ
ている「すべての活動」に対し、以下の問いかけをする。
<それをしなかったら、何が起こるかを想定する。(短期および長
期で)何も起こらなければ、結論は、直ちにやめることである>
(注)ドラッカーの著作の随所にある、このような問いかけと判断
の方法は、見事です。多くの人に読まれる理由が、こうした表現方
法にあるように感じます。表現は、問題の突き詰めから生まれます。
立場が上になってくるにつれ、なりゆきや過去の習慣に任せれば、
自分の時間がどんどん侵食されます。忙しいことが、日常になりま
す。
Busyな状態は、必要なことを行う時間がないということでもありま
す。忙しさは、誇るべきことではない。コンピュータもBusyになれ
ば、必要な仕事(Job)を受けつけなくなります。
<忙しい人たちは、やめても問題がないようなことを、実に多く行
っている>
手帳の空白をスケジュールを埋め、自分は、人に必要とされれる人
間だと考えるのは、悲しいことです。
無駄なことをたくさんやっているから、忙しくなると考えねばなら
ない。同じ時間を使って事を成し遂げる人と、忙しくしていても成
果を生めない人の差が、ここにあるようです。
個人ワークをしている私のことを反省すれば、およそ5割の時間は、
「それを行わなくても、何も起こらない」ことに使っています。
だから時間は十分にあると思っています。
<無駄なことを行う時間があるくらいだから、本当は時間は十分に
ある(本シリーズの第一部)>
会社勤務の人は、「決められた就業時間に怠けず働いている。言わ
れたこともこなしてる。従って、有効な仕事をしている」と考える
傾向に陥っています。
マネジャーや上級管理職になっても、成果と作業がはっきりしてい
たワーカーのときの、日給または時間給的な働き方を続ける人が多
い。
■2.本来行うべきことを考える習慣
▼他の人でも十分にやれることは何かを考える
「仕事を下に任せる(delegate)」と言われることがこれです。デレ
ゲイトは、権限と責任を、自分より下位の地位にいる人に委ねるこ
とです。権限と責任は一対(いっつい)のものです。原理的に言え
ば、責任があるからその責任の範囲で、自己決定ができる権限があ
る。
その意味でいえば、権限の委譲ではなく、責任の委譲です。責任を
果たせるような方法と手順を与え、その後に自己決定ができる権限
を委譲する。これが委譲の、正当な順序です。
最初に考えるべきことは「もともと下に委譲せねばならなかった仕
事を、上位の人たちや自分が、今も行っていること」が問題である
ということです。
自分の賃金が上がって、自分とともに仕事が持ち上がれば、生産性
は上がらない。逆に、下がります。
10年生社員が今日行っていることを、明日は2年生社員でもでき
るようにして行かないと、会社の生産性は上がらない。
「生産性=成果÷賃金」だからです。過去と同じことを続ければ、
賃金に上昇に逆比例し、生産性が下がって行きます。
20万円の賃金のとき行うべきことと、50万円、100万円の賃
金で行うべきことは明らかに違います。
より大きく成果を上げる仕事をする責任が生じるからです。官僚が
非難されている根底の理由は、生産性と成果の定義がなく、従って、
世論が漠然と想定する国民への貢献に比べ、生涯報酬が高すぎる
と思われているからです。平均人件費は、福利厚生を含めた総額で
1人当たり1000万円/年です。
人は、20万円/月の賃金ならおよそ有能です。60万円か70万
円を超えるころから、必要な成果に照らしたとき無能になる人が増
えます。
人が入社歴とともに無能になるのではない。経験で知識は増え、有
能になるでしょう。しかし、賃金に照らしたとき問題が生じます。
露骨に明白なことを言えば、赤字や利益が低い体質の会社は、あげ
るべき成果に対し賃金が高すぎることを示しています。
原因は、経営者、マネジャー、スペシャリストが、生産性の高い仕
事をする仕組みを作っていない、あるいは見つけていないからです。
経営者が明日の仕事を作らねばならないというのはそうした意味か
らです。
賃金の上昇は、個人にとっても怖いことです。賃金は、個人にとっ
ての成果ではない。それは、期待される成果をあげるべき責任の大
きさです。
利益が上がらなくなって行く会社は、賃金が上昇した人が、上がる
前は賃金に照らして有効な仕事をしていても、上がった後、必要な
成果に向かって有効な仕事ができないからです。
ここが、組織問題に横たわる本質です。
問題にすべきは、委譲できていないことではなく、「本来、自分が
行うべきことを見つけて仕事にしていないから、過去からの自分の
仕事を、今も慣習的に行い続ける」ことです。
マネジャーになって、
(1)自分の仕事の方法、
(2)自分の仕事の領域、
(3)自分の仕事の成果がわからなくなってしまう人を実に多く見
かけます。
マネジャーの仕事の成果は、チームの成果を向上させることです。
チームの成果を上げるため、部下を成功に導くために方法を与える
ことです。3番目に、発生した問題の解決です。
ワーカーのときと、マネジャーの成果は違うことを知らねばならな
いのです。
ワーカーは、自分だけの生産性を上げればいい。しかしマネジャー
は、チーム10名の、または責任をもつ部署の、全体生産性を上げ
ることが成果です。
仕事への専門的な知識や技術がなくても、チームのやる気を喚起で
きるなら、経営者としての仕事はできます。
行うべきことが何であるか分かり、それに時間を割くようになれば、
他の人でも十分に(あるいは自分よりうまく)できることを自分
が習慣的に行ってきた仕事の中から見つけ、委譲せざるを得なくな
る。
マネジャーとスペシャリストは自分の仕事の成果が何か、まずこの
定義を行うべきです。
▼自己評点を行う
人は自分を過大評価します。とても自然なことです。過大評価によ
って自尊と折り合う。認められることがなければ、人は生きて行け
ない。
誰からも必要とされることがない悲惨(自己否定)に落ち込めば、
酷薄なことになることが分かっているから、誰も評価しなくても、
認めない他人がおかしいと考え、やっと折り合いをつける。皆、そ
うやって生きています。
そうした傾向が、ほぼすべての人にあるために、「この仕事も、自
分でなければ十分にできない」と考えます。そのため自分を多忙に
し、本来行うべきことをお留守にします。
しかしBusyは、他のことを受け付けない否定的なことであることを
認識しましょう。
【自己評点という方法】
自分の仕事の中で、個々の仕事の、成果に照らした重要性を10点
法で評点し、その評点で下位50%に属する仕事は、やめるか、会
社にとって必要なことなら、他の人に移転させることが方法でしょ
う。
賃金が上昇すれば、今まで行ってきた仕事を、部下に降ろすのは義
務です。理由は、上昇した賃金で過去の習慣を続けるなら、生産性
(=同じ成果÷上がった賃金)が低下するからです。
本来必要なことを十分に行っていないことが、最も大きな問題だと
考えれば、以上のことは実行できるでしょう。
自分のことを言います。達成すべき目標(ゴールまたビジョン)を、
今より大きくすれば、必然的に、省く仕事も見つかります。
過去の仕事を同じ方法で、同じ時間をかけ慣習的に行うのは、私が、
目標の水準を上げることができていないからです。
成果目標を高くしたとたん、過去の習慣を続ければ時間がない、余
計なことが時間を食っているということに気が付きます。
▼自分の仕事のビジョンを作る
会社ではなく、自身の仕事において、ビジョン(または目標)を作
るべきです。
ビジョン作りの方法は、「5年後にはどんな仕事をしていたいか?、
どんな状態でありたいか?」という自分への問いかけです。
ここから、今日から本来行うべきことが見えてきます。夢や願望を
定義したものがビジョンがです。
[仕事の将来ビジョン]−[現状の仕事」=[実行すべきこと]
仕事のビジョンを描き、今日の仕事と比較すれば、差があるはずで
す。その差を満たすためのことが、今日から自分が行うべきことに
なる。
自分の仕事について、どんなビジョンを作りますか? 部署の生産
性を今の1.5倍に上げ、賃金を1.4倍に上げることもビジョン
です。
私の昨年からの課題は、「流通業の人的な作業生産性を、今の2倍
にする方法を開発する」ことです。
そのために「小さな会社でも実行が可能で、即効性がある新しいカ
テゴリー・マネジメントの手法開発」に取り組んでいます。
5年後に、自分がどんな仕事をしていたいかを問うべきです。
これが、自分のビジョン作りです。
■3.非生産的な仕事と、生産的な仕事を分かつ分岐点
管理的な立場にある人は、現場で起こった問題や危機への対処に忙
殺されることが多いでしょう。
組織の内外での人的トラブル、顧客からのクレーム、無駄な在庫の
過剰、利益の低下、品質問題、納期遅れ、事故、コンプライアンス
(法令遵守)への違反・・・
▼対応の方法
ここで考えるべきことは、
(1)その問題や障害は、幾度も繰り返して、または周期的に起こ
っていることか、
(2)一回限りの特殊な環境と条件の中で起こったことかというこ
とです。
繰り返し起こる問題、または周期的に起こる障害や危機は、現れ方
は異なっていても、共通の原因をもっています。
繰り替えし起こる問題への対処には、2つの方法があります。
(1)その都度の特殊な問題として、熟練者、経験豊かな人、問題
対処に巧みな人が、その都度の対処をする。
(2)問題の現れ方は違っても、共通の原因があることとして、原
因対策を考える。
問題解決の腕を示したいと思っている人にとっては、問題やトラブ
ルは機会に見えるかも知れません。
そうした意識がなくても、忙しさが仕事だと思っている人にとって
は、その都度の問題解決を、別々に、自分の腕で行うことが仕事に
なっているでしょう。
(注)管理者だけに予算や人事の権限があるために、問題が解決で
きることも多い。立場が与える権限を、部下と比較したときの自分
の能力の高さと勘違いしている人も実に多いのです。
繰り返し起こる問題に対し、その都度の対処をするのは、生産性と
利益の低い会社の習慣です。この方法で仕事をしていれば、いつま
でたっても会社の成果は上がらなくなります。
原因対策は、システム的または体系的な問題へのアプローチです。
繰り返し起こる問題に対しては、システム的な解決が、生産性を高
くする方法です。周期的に多発し予測される問題は、起こる前に解
決されねばならないからです。
(注)システム的と言っても、情報システムにするということでは
ありません。情報システムは、問題を見せるだけのものです。解決
(ソリューション)ではない。システム化とは問題が起こらないよ
うに、作業手順と他の部署との作業のつながりを変えるということ
です。問題が起こる原因は、現状の作業手順かまたは判断の方法で
す。
(注)情報システムをソリューションと呼ぶのは、ソフト会社の営
業です。
管理者の仕事は、
(1)起こった問題の消火は行ないつつも、
(2)繰り替えし起こる問題に対して、共通の原因を見つけ、原因
対策をシステム化しなければならない。
問題が起こらないようにシステム化するために自分の時間、経験、
知識を使わねばならない
起こった問題に対しては、一生懸命に対応することは必要です。
しかしそれだけでは十分ではない。
問題が起こる原因への対処を、ルーティーン(定まった処理方法)
にしなければならない。
知識労働者(スペシャリスト)、管理職、エグゼクティブの仕事は、
問題の原因を除去する療法を作ることと、明日への取り組みでな
ければならない。まとまった時間が必要です。
<よくマネジメントされた組織は、外見は退屈な組織である。その
ような組織では、昨日の問題を解決するためにヒーローが活躍する
のではない。真に劇的なことは、明日を作るための基本的な決定が
行なわれることだ>
「明日を作るための決定」がこれです。
スペシャリスト、マネジャー、そして経営者は、勤務時間を怠けず
働いているから有効な仕事をしていると考えるワーカーの意識から、
脱却しなければならない。
次は「会議」です。会議の成果を、本質的なところから考え直す必
要があります。
■4.時間をとられる会議はなぜ必要になるか
会社では、多くの会議があります。生産的な会議と非生産的な会議
があります。知らなければならないのは、会議の本質です。
ドラッカーは以下のように言います。
<会議は元来、組織の欠陥を補うためのものである。・・・理想的
に設計された(仮想の)組織を想定すれば、会議は必要がなくなる
だろう。誰もが、自分の仕事に必要なことを知っている。誰もが、
自分の仕事に必要な(情報や)知識や技術を持っている。>
組織の欠陥を持つ会社では、ある仕事を行うために、頻繁に、部署
間調整のための会議が必要になります。
<会議が開かれるのは、ある仕事をするとき、異なった職能の人が
協力する必要があるからである。ある特定の状況において必要とさ
れる知識と経験(または情報)が、一人の頭脳では足りず、何人か
の知識と経験(または情報)を集めなければならないからである。>
以上のように、「会議の本質」を知っていれば、事あるごとに過剰
に会議を開く組織は、人員配置と組織上での意思決定に欠陥がある
ということになります。
<会議の過多は、職務の組み立て方と、職務の単位に欠陥があるこ
とを示している。一つの職務や組織単位(部署)に属するべき仕事
が、いくつかの余分な職務や部署に分割されていることを示す。責
任と権限が分散され、情報が、必要な人や部署に与えられていない
ことを示す>
現実の組織は、多くが理想的なものとは、ほど遠い。したがって、
異なる知識、経験、そして権限を集めるための会議が必要になりま
す。
(注)社長出席の会議が多いとすれば、(例えば)部長が、社長の
権限を借りることで、責任を回避することも理由を構成しています。
報告・連絡・相談と言われることの内容がこれです。
知識と経験を補うことを、普通の言葉では何と言うか? 教育です。
つまり会議の多くは、旧来の業務の徹底、あるいは新しい実務に
ついての相互教育です。もうひとつは、部署間の作業範囲の調整で
す。
(1)会議に当たって実行しなければならないのは、目的の明示で
す。
(2)次は、決定事項の記録です。
(3)そして決定事項の確認と、決定に関連する実行手順の決定、
および実行責任者と担当の決定です。
会議が、部署の内部では解決できないことについての決定なら意味
があります。しかし部署内で解決できないことが多すぎる組織は、
組織設計、人員配置、部署間の分業、または情報伝達に欠陥がある
ことになります。
時間記録で、エグゼクティブの仕事時間の25%以上が会議に費や
されているなら、必ず組織上の欠陥があるとドラッカーは言います。
週間で2日以上の、エグゼクティブの会議がある会社です。
どんな欠陥があるのか。部署の権限と人員配置の欠陥です。
(注)取締役会のように、会議で決定すべきことが法制化されてい
るものは、ここで言っている会議とは別のものです。
■5.情報の不全
情報の不全とは、判断と決定のための情報が不足すること、または
組織内の情報(外部情報、内部情報、経理情報、会計・財務情報)
が、利用に不適切な形でしか提供されていないことです。
▼繰り返し開かれる数値情報の交換会
会議の時間の多くが、各部署に分散しているために、不足する数値
情報を得るために費やされています。
ひどい例を言います。ストアマネジャー(店長)は、店舗の売上と
利益に責任をもつべきだとしていながら、店舗の利益計算の情報が、
定期的に、店長に提供されていない組織が多いことです。
「マネジャーはチームの利益に責任をもつべきだとしつつも、チー
ムの利益計算の情報が提供されない」ことと等しい。分からないこ
とに責任を持てと言っていることになります。
こうしたことが生じる原因は、ワーカーとマネジャーの、責任の違
いを決めていないことです。
大企業・中小企業に係わらず根底では年功型のわが国の組織に、多
く見られます。
マネジャーは作業の熟練者ではあっても、マネジャーのチームの成
果(または利益や目標生産性)についての責任を、会社として明ら
にしていないからです。
■6.本来の組織
ワーカー:定型化された作業または指示された作業を実行する義務
マネジャー:チームの成果への責任(利益と生産性への責任)
上級マネジャー:複数の部署の成果への責任(利益と生産性への責
任)
(注1)成果には、数値だけではなく「言葉であらわす状態の改善
や作業方法の改善」を含みます。
(注2)現在から変化した後の姿を、数字と言葉で描くことを、目
標の設定と言います。
「長」がつくマネジャーは、部下である数名または数十名のチーム
のマネジメント(経営)を行うべき職位です。
マネジメントの目的は、
・目標に向かう成果を生むこと、
・生産性を上げること、
・利益を上げることです。
したがって、マネジャーが計画作りで行なうべきは、成果の定義と
期限の設定です。
昨日の仕事を、引き続き実行するということではなく、4半期、そ
して年間の成果の定義から始めなければならない。
成果の定義とは、現状から変化した後の姿(つまりゴール)を、言
葉と数字で描くことです。
数値化できないことが多い知識労働に従事するスタッフも例外では
ありません。
四半期と年間の成果、または生産物の定義から出発し、今日の仕事
の組み立てを行う。(注)業務の改善も成果です
▼スペシャリスト
定型作業に従事するワーカーは、作業の義務をもちます。ワーカー
を管理するマネジャーは、チームの成果を上げることに責任を持ち
ます。
組織にはワーカーとマネジャーとは異なる、スペシャリスト(スタ
ッフ)もいます。スペシャリストはマネジャーの指示で動くのでは
ない。マネジャーもスペシャリストの仕事の内容が分からないから
です。
知識労働者としてのスペシャリスト(スタッフ)は、商品生産・販
売・物流という金額や数値に関わる直接部門、つまりラインのワー
カーやマネジャーと異なる、3つの責任をもつべきです。
(1)まず、四半期の目標となる成果を、定義する責任です。
(2)次は、成果を上げるための自分の作業の組み立てと実行です。
(3)最後は、その成果によって組織に貢献することです。
時間を有効に使うということをその内容から検討してゆくと、「5
つの習慣」に関わるほぼ全部について述べることになります。
【必要な5つの習慣(再掲)】
1:常に自分が何に多くの時間をとられているかを知っているか。
2:常に自分以外の外部に役に立つことに焦点を当ているか。
3:常に自分ができること、すわなち強みの上に、仕事を組み上げ
ているか。
4:常に自分の能力のうち、すぐれたものが何かを知り、その領域
で成果を上げることに集中しているか。
5:常に成果に焦点を当てて意思決定をしているか。
以上は5つの問いでもあります。自分に向かって問うことです。
次号では「組織への貢献(contribution)」と「活用できる自分の強
み(available strengths)」です。
エグゼクティブやスタッフの仕事で鍵になることは、自分の今日の
仕事から顔を上げ、会社の短期・長期のゴール(目標)を見定める
ことです。
あるいは、ゴールに到るための戦略(方法)の策定に焦点を当てる
ことです。
会社の業績(performance)を上げるために、自分が何をしなければ
ならないか、何によって貢献しなければならないかということです。
そこを出発点にして、自分の仕事を組み立てることです。
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【後記】
「貢献」の記述に到るまでに、第1項の「時間」で予定外の時間を
とりました。
理由は、組織の成果(つまり目的)を定義して初めて、そのために
費やす時間が有効かそうでないかが決まるからです。
記述のプロセスで、わかってきたことは、うかつにも、「会社の仕
事の全時間は、費用(コスト)である。」ということです。
多くの作業時間を費やせば、費用が増える。したがって成果や利益
は減る。損益計算書を見れば、当たり前のことです。
しかし、[仕事の時間×時間単価=報酬]であるという計算方式で
は、働いた時間が社員にとって報酬の多さになります。
そのために、多くの人が、会社内で使う時間に無頓着になってしま
う傾向が生じます。(残業代も25%増しの単価になります。)
人時(労働時間)を多く使うことが、一所懸命に、純粋な気持ちで
仕事を行うことだという逆転した評価も生じてしまいます。これだ
けの時間をかけ、労働を費やしたから、生まれた成果物は価値の高
いものだとなります。これは生産性の低い方法です。
現代的な生産物であるコンピュータのプログラムのコストでも、か
けた人時と、ステップ数の多さで計られる。
複雑な分岐(サブ・ルーティーン)をもつ、重たいプログラムがい
いものであるはずもないのに。)
会社って、実に不思議なところですね。
以上のような混乱を整理する鍵が、貢献(または成果)です。
近代組織は、工場の肉体作業を定型化し、機械化することによって
生産性を上げてきました。
50人が働く零細な工場より、500人が働く工場のほうが規模化
し、作業を機械に置き換えることができて、10倍以上、生産物は
多かった。
しかし、知識労働者である500人のマーケティングチームが、
50人のマーケティングチームより優秀な成果を上げるとは言えま
せん。
同様に、500人のプログラマーのチームが、30人のチームに劣
ることも実に多い。多くの場合、プログラマーは少ないほうが、1
人当たりの成果が高い。
先進国のGDPの伸び率は、生産性の上昇がはっきりした工業化や
規模化の過程では高く、工業化のあとの「知識産業化」へのプロセ
スでは等しく低くなっています。
中国は今工業化のプロセスです。そのためGDPが9%伸びる。過
去の日本もそうでした。今、日本のほぼすべての産業は知識産業で
す。戦略の策定、技術開発、商品開発は、知識の産業への応用です。
どこに問題があるのか。解く鍵は「知的生産物の価値は、人を多く
使い労働時間を大量に費やしても高まらない」ことにあるでしょう。
100人の小説家を集めれば、ドストエフスキーよりすぐれた長編
小説を、短時間で書けるというのは、全くの嘘です。
工業の生産物と、知識労働の生産物では、明白にその価値の中身が
違います。
従って知的生産物では、成果物の定義が必要になります。
【後記】
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http://premium.mag2.com/begin.html
▼ 有料版の最近号の、テーマと目次です。
<245号:株価上昇の可能性を検討する(5)>
【目次】
1.要約しつつ、振り返れば
2.マネタリーインフレ(=金融商品インフレ)が起こっている
3.通貨価値下落のシンボルが、ゴールド価格の高騰
4.まとめれば、マネタリーインフレによるバブル
5.日本の株価上昇の上限
6.MVAとEVAという方法
7.まず、MVAから
8.MVA(Market Value Added)の意味
9.EVA(Economic Value added)の意味と計算方法
10.具体的なMVAとEVA
【最初の1ヶ月目は無料試読の特典があります】
新規の申し込み月の1ヶ月分は、無料で試読ができます。
無料期間の1ヶ月後の解除も、なんら拘束はなく自由です。
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