緊急:金融の大異変は、真夏に起こる
This is my site Written by admin on 2011年8月10日 – 09:00
おはようございます。暑い日が続き、金融は、11年8月になって、
液体窒素のように温度が下がるマイナスの沸騰をしています。

当地(関電の管内)では、電力使用が供給力の90%を超える日があ
ります。95%に上がると危険になるでしょう。顧客志向なら、TVの
隅に、電力会社が費用を払い、その時刻の電力使用率を示せばいい
と思いますが、実現していません。日本人は協力する文化(行動様
式)をもっています。9月も電力需要は多い。実行を希望します。

冷房をかけ、暑い昼、原稿を書いています。ふと設定温度をどうし
ようかと思う。電力使用率が分かれば、温度も調整します。情報提
供をしないところを見ると、本当は、十分とは言えずとも危険にな
らない供給余力があるのかどうか・・・

◎先週号をお送りした直後から、PIIGSの欧州発で世界の金融とマ
ネーに、異変が起こっています。毎年、真夏の8月から9月には、そ
れまでのパラダイム(枠組)を変えるような、変化が起こることが
多いと書いて送ったことは、ご記憶でしょうか。

大きな自然災害や事件の連続は、しばしば、時代を転換させていま
す。今、誰の目にも歴史的な変化は加速しているように見えるでし
ょう。世界中で、大事件がめまぐるしく連続して、起こっています
。

大震災のように、巨大な物損があり、住み慣れた街が灰燼に帰した
のでもなく、家族から愛された多くの人が突如、一瞬で津波にのみ
込まれ、さらわれた、蹲(うずくま)る悲嘆ではない。

たかが、マネーです。しかしその金額は、2日間の株価の下落で、
$8兆(640兆円:世界の株価総時価 $56兆5900億の13%)という
巨(おお)きなものでした。

平均株価は、上がる時はなだらかで、徐々なカーブです。下げると
きは、人々が損を抱えるため、瞬間でパニック的な売りになって、
大きく下げます。それまでの利益を、一瞬で失ってしまいます。こ
れが株価変動の性格です。急騰と暴落ではなく、上げはゆっくりで
、暴落は速い。多くの人が、売りに遅れ、最終的に損をする原因が
これです。

世界では、金融機関やヘッジ・ファンドの持ち分が50%、世帯が50
%でしょう。320兆円ずつの損害です。早期に回復できないと、抱
えた損から売りを呼んで、下げを加速する恐れがあります。

今CNNとBBCをつけていますが、米国ダウは、今日も下げています。
ユーロでは、PIIGS債で損を抱える銀行株の、大きな、下落です。

キャスターが、市場の下落を言ったあと、ほぼ必ず[Don't Panic 
!(落ち着いて)・・・]と、付け加えています。

ミリ秒(1/1000秒)単位で高速売買する、先物、つまりデリバィ
ブのロボット・トレーディングが、50%~70%を占めているはずで
すが、これは、下げが下げを呼ぶのです。今年の8月の、金融のパ
ラダイム変化はこれだったのか。

日本株は、若干強いようです。下落幅は、今はまだ小さい。(1)P
IIGSの南欧が最大、(2)次が金融機関がPIIGS債をもつドイツ、フ
ランス、(3)そして米国、日本、インド、中国の順です。世界中
で画面に釘付けで、眠れない夜を過ごした人も多いに違いない。

株価の暴落は、瞬間に巨大損を生むので、一瞬で信用恐慌を生み、
経済恐慌にも展開することがあります。

ほぼ毎年、変わっていない。1年分や、時には数年分の、それも、
悪い方向への変化が、数日あるいは1ヶ月内に、起こってしまいま
す。

大事件と大きな自然災害が、1990年代の2倍の頻度(統計的事実)
で続くのは、時代が、いよいよ煮詰まっているのか。あるいは、ま
だ定義は判然としませんが、「20世紀的なもの」が崩れ、「21世紀
的なもの」に変わることなのか。

▼21世紀的なもの

21世紀的なものは、おそらくアジア、南米、中東の新興国が、先進
国並みの水準に近づいて行く世界の多極化でしょう。経済の成長は
7%が続くと、10年で2倍のGDPです。20年で4倍です。この多極化を
「世界のフラット化」と言っても同じです。

(1)1989年まで、世界は3つでした。西側世界の先進国10億人、東
側世界の共産国約20億人、そして後発国だった第3世界30億人です
。
1989年にソ連が財政赤字から崩壊し、戦後40年の冷戦が終結しまし
た。

(2)その後の1990年代は、米国一極だったパックス・アメリカー
ナの10年を迎えています。2000年から2010年は、20世紀的なものが
、まさにワールド・トレードセンターのように音を立てて、あるい
は金融で静かに壊れ、21世紀的なものはまだ揺籃期で、そのため、
混迷の時代に見えました。そして、2011年の、転換期の現在です。


2010年代、2020年代の日欧の先進国は、高齢化によって1年に3%を
超える大きな成長はしません。高くとも実質GDPでは2%です。米国
は、平均年齢が日欧より若く移民もあるので、これからの、再びの
信用の収縮による大きな不況期のあと、3%以上の成長が可能でし
ょう。

GDPの実質成長率が7%付近と高いと、その国の通貨は、低い先進国
に対し、必ず上がります。例えばアジアが10年で2倍のGDPになると
、アジアの通貨もほぼ2倍に向かい高騰します。

このため、米ドルや円で見たアジアの通貨は、2倍になる。GDPが2
倍になり、通貨が2倍に上がれば、円やドルから見て、その国の経
済規模、及び個人所得は4倍になるのです。これが21世紀の、世界
の多極化でしょう。

こうした成長があると、今ドル基軸の通貨の体制も変わらざるを得
なくなります。ドル基軸とは、米ドルによって他の通貨を計るとい
う意味です。

歴史と、金融・経済的なことは、分離されて見られることが多いの
ですが、実際に歴史を見れば、時代は、経済、特に新しい通貨とも
に決まっています。明治も両から円への転換でした。

ドル基軸は、1944年の、米ドルを国際基軸通貨に決めたブレトン・
ウッズ体制以来、57年続いています。

(注)実際には、米ドルがそれまでの基軸通貨だった英国ポンドに
替わって行ったのは、米国が自動車工業で規格品量産を始めた1910
年頃から第二次世界大戦前の1940年までの30年をかけた徐々なもの
でした。戦争中のブレトン・ウッズ協定は、公式に、ドル基軸を認
めたものです。

◎米ドルは、恐らく数年内に、中国のドル債売り(=元高)を起点
に、基軸通貨の位置を滑り落ち、その後世界から合意される貿易通
貨は、「通貨バスケット」でしょう。通貨バスケット制とは、貿易
額の加重平均で、通貨の実効レートを決める方法です。

単純化して言えば、A国の貿易シェアが70%、B国の貿易シェアが30
%なら、(A国の通貨価値×70%+B国の通貨価値×30%)/2=国
際通貨・・・仮に名称は「ワールド・ダラー:1WD」とする。

次に、A国の通貨とその1WDの交換レートを決める。同様に、B国の
通貨とその1WDの交換レートを決めます。国内ではドルを使い貿易
を決済するときは、ドルの代わりに、WDを使います。通貨の呼称は
、何であってもいい。

国内で使うドルが、そのまま国際通貨として認められ、米国が経常
収支と貿易の赤字をいくら増やしても、ドルで払えばいいから決済
が可能であって、時折、ドルが大きく切り下がって行く今の基軸通
貨体制は、維持可能とは思えません。代わり得る他の通貨がない。
ユーロでも元で円でもダメである。だからドルを使うというが大勢
でしょうが、ここに示す通貨バスケットは、国際的な合意があれば
明日にでも作ることができます。

[通貨バスケットの具体事例]
IMF(国際通貨基金)が作っている特別引き出し権(SDR)も、主要
国の通貨バスケットです。各国通貨と、架空の指標である1 SDRと
の交換レートを決めています。シンガポールドルも、その構成割合
は公表していませんが、複数の通貨の指標に連動する通貨バスケッ
トです。世界はフラット化し、多極化に向かう。世界政府は、ユー
ロの統一通貨の実験のように、世界の税制、法、財政が異なるので
無理です。通貨バスケットが必要です。

1 SDRは、今、円では126円、ドルでは$1.59、ユーロでは1.12ユー
ロです。(注)円・ドルの関係では$1=79円で、ほぼ、現在の交
換レートに近い。なお、日本円のシェアは、9%程度です。この各
国通貨のシェアは、貿易額で変化します。
http://www.imf.org/external/np/fin/data/sdr_ir.aspx

[テーマ]
本稿は、通貨の面で、大きな歴史的転換期に向かうと直感した2011
年8月~9月、<金融の異変は、いつも真夏に起こる>とします。今
回は、実際には、数年をかけるかも知れませんが、いよいよ、ドル
基軸通貨の終わりが来る端緒に思えるのです。

金融資産の現物を、今、ほぼ4重に覆っているデリバティブを使う
シャドー・バンキングは、米ドル基軸通貨の、掉尾を飾るものだっ
たとされるでしょう。

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  <550号:緊急:金融の大異変は、真夏に起こる>
             2011年8月10日:増刊+正刊

1.回想(1):1990年からの歴史
2.対外債務が多い点で、米国の政府債務は日本より脆弱
3.回想(2):2006年以降
4.資産査定(ストレス・テスト)でも分かっていない、
                 (主に)米欧の主要金融機関の含み損失の推理
5.米欧の金融機関の、未精算の損失が問題になる
6.2011年秋、及び秋以降の経済を読むために、肝心なこと
7.デリバティブの価値合計の減少は、
          金融機関とヘッジ・ファンドの未精算の損を示す。
8.結論
   後記

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■1.回想(1):1990年からの歴史

20世紀の、時代的な終末は1990年代でした。1990年代は、40年間の
戦後冷戦が、ソ連の内部崩壊から終結し、マネーも商品も、米国を
目指して集まる10年の「パックス・アメリカーナ」でした。日本は
1990年に始まった不動産と株価のバブル崩壊以後、20年のゼロ成長
です。

▼(1)1990年代の米国

90年代の、特に後期の米国は、金融の面で現代のローマ帝国と言え
るものでした。その中味は、「米ドル債が、日本、アジア、ユーロ
から買われる」というものだったのです。20世末を彩ったのが、イ
ンターネット・バブルだったIT株の高騰と2000年春からの崩落でし
た。

米国は国内産業は空洞化しましたが、米国に還流した資金で、中国
を・アジア含む新興国の、株の買収を行い、インターネットで火が
ついたグローバル社会での株主になろうとしたと言えます。その機
関が、投資銀行でした。株主は、会社が上げた利益の所有権をもつ
からです。これが金融支配です。

▼(2)2000年:ユーロの成立

同時に2000年は、統一通貨の「ユーロ」が成立し、ユーロ諸国は、
それまで行っていた米ドル債へ投資を、ユーロに引き揚げるように
なっています。ユーロは、ヨーロッパ内での米ドルの終焉を狙った
ものでした。

PIIGSの不動産の、バブル的な高騰は、2000年ころから始まってい
ます。ユーロへの高い評価は、ほぼ10年続きました。

2005年頃までは、経常収支赤字のため、価値を下げ続けるはずのド
ルに代わって、ユーロはユーラシア大陸(西欧、ロシア、中東、ア
ジア、中国)までを覆うに至るかとも、見られていたのです。

このため、燦々と太陽が輝く地中海の不動産は、日照が少ない北欧
、ドイツ、フランス、英国からのリゾート投資を集め、天井知らず
に上がっていました。

2009年冬に、世界では小さいギリシア政府の財政赤字の偽装から、
税制と法が異なる国々で通貨を統一するというユーロの、根本の矛
盾が知られ、10年5月からは、PIIGS国債の同時危機に至り、それは
、ユーロの全体危機に向かおうとしています。

▼(3)9.11以後

2001年の9.11以降、米国のブッシュ政権は、原油の制覇に向かい
ました。ネオコン主義(新保守主義)と言われた、ソ連なきあとの
世界に突出した軍事力での、資源の流通支配です。

米国が、「自国の貿易通貨を、ユーロに換える。サウジアラビアに
も、ドルからユーロへの転換を呼びかける」としていたイラクのサ
ダム・フセイン政権を、「砂漠の嵐」の戦略で滅ぼしたのは象徴的
です。

産油国を含むユーラシア大陸は、ユーロにむかいつつあった。

それをアフガン侵攻とイラク戦争(2003年3月)で、米ドルに引き
戻したのが、ブッシュ政権のネオコン(新保守主義)でした。軍事
力によって、原油の流通を支配し、米ドル基軸通貨体制を維持しよ
うとしたと言うことができます。

イラクとアフガンでの戦費30兆円は、何ら成果がなかった「構造改
革」への呼びかけで、国民の人気を博した小泉内閣が、巨大なドル
債買い(2003年)で提供しています。

米国が世界に勝つのは、いずれもコンピュータ化した軍事力と金融
力でした。

▼(4)2000年代の国内経済では、住宅政策だった

ブッシュ政権は、3000万人の移民に、住宅ローンを与え、1000万戸
の新しい住宅需要を生んで、米国の不動産価格を上げようとします
。

【資金のファイナンスは、デリバティブを使うシャドー・バンキン
グ】
その方法が、金融工学を使ったMBS(不動産ローンの回収権を担保
とする証券)、及びRMBS(住宅ローンの回収権を担保とする証券)
、そしてABS(資産から生まれるキャシュフローを担保にした証券
)でした。

いずれも、多くのローンを合成してかき混ぜ、優先、劣後の順位を
つけて、3階層に切り分け、三種の証券[AAA格のシニア債(優先債
):A格のメザニン債:BBB格のエクイティ債(劣後債]を作った。


それに、回収を保証するCDSをつけた。この優先・劣後、及び回収
保証で、実際は矛盾のローリスク・ハイリターンの、利回りの高い
証券として、国内の年金基金や、海外の金融機関・基金に売り、米
国のローンに必要な資金を集めたのです。

(注)証券では重要なことですが、優先は債務の返済があったとき
、返済金を優先的に割り当てて配当として支払う証券という意味で
す。回収のリスクは低くなり、金利も低くなります。劣後債は、返
済があったとき、割り当て順位が低い証券です。

例えば、この切り分けで優先債が80億円、劣後債が20億円できたと
します。ローンが90億円回収されたとき優先債は80億円(100%)
の配当があります。劣後債は残り10億円(50%)しか配当がなく、
額面金額の50%(10億円)が貸し倒れ(デフォルト)になります。
このため、劣後債の金利は高く設定します。

【シャドー・バンキング】
以上は、取引の形態では、伝統的な融資は行わず、金融工学で作っ
たデリバティブ証券の、組成と売買を行う投資銀行と、ヘッジ・フ
ァンドによるシャドー・バンキングでした。2000年以降、伝統的な
金融取引は、どんどんシェアを減らし、デリバティブ取引になって
様変わりしています。

大局的に見ると、いずれも[どう資金を集めるか]に腐心し、集め
た国が繁栄したことが分かります。確かに、国家の及び民間経済の
隆盛は、資金を集めることからです。技術とマネーです。

【2008年9月のFRB】
民間で組成された、これらのMBS、RMBSのデリバティブ証券も、そ
れがデフォルトすると、買っていた金融機関が巨額損を被るか、破
産します。このため08年9月、10月に、FRBが下がった流通価格では
なく、額面で買って現金を与え、金融のシステミックなリスク(=
大恐慌)を防いだのです。この金額が$1兆です。

以上から、MBS、RMBSのデリバティブ証券(推計残高$5兆)も、事
実上、大きな値下がりがあると米国政府が保証せねばならない。国
債とは言えませんが、国債に近いものです。

▼米国政府の本当の債務は$24.3兆で、GDPの1.7倍

以上を加えると、米国政府の負債は、実際は保証すべき債務を含ん
で、[国債($14.3兆)+住宅証券($5兆)+MBS・RMBS($5兆
)=$24.3兆(1944兆円)]に増えます。

以上のことは、まだ、世界の金融市場では認識されていないことで
しょう。この認識が、「$10兆の住宅ローン証券も米国政府の負債
」と変わる時点が近いように思えます。これが、米ドルが機軸通貨
を滑り落ちるきっかけになるでしょう。

■2.対外債務が多い点で、米国の政府債務は日本より脆弱

米国は、世帯の貯蓄率が低く、国内に預金の増加がなかったため、
国債と住宅ローン証券の売却でも、海外からの買いにほぼ40%を頼
っていました。今は、新発債の50%を海外からの購入に依存してい
ます。経済規模・成長力・国力は異なりますが、資金を海外からの
借りに依存したPIIGSに似ているのです。

米国の対外債務は、$21兆(1680兆円:2009年:米国経済白書)で
す。1年に$1兆は増えるので、今は$23兆(1840兆円:2011年)と
推計します。08年の世界金融危機から、海外からのドル債の購入が
減り、いかにも、増やせなくなって来たのです。このため、ドルは
、為替市場で売り超になり、なだらかに、時には急峻に下落してい
ます。

(注)米国の対外債権は、$18兆(1440兆円:2009年)です。これ
は、そんなに増えていないので、今も1440兆円でしょう。対外純負
債は$5兆(400兆円)です。対外債権が増えると、円や元のように
その国の、通貨が上がります。

米国の債券買いに忠実だった日本は、次第に貿易黒字が減り、経常
収支が減っているため、米国の債券をかつてのようには買えません
。

大きく買えるのは,経常収支の黒字において、1位のドイツを抜い
て世界最大になった中国($2987億:23兆円)です。

▼中国の態度

中国政府は、外貨準備($3兆2000億:11年7月)の中の、ドル建て
証券の多さから、ドル安損のリスクを感じ、「外貨準備をドル以外
にも分散運用する」と、世界に向かい表明しています。

90年代には、米国債の最大の買い手だった日本政府が、今の中国と
同じことを言えば、政治的な恫喝を受けたでしょう。しかし、米国
も核兵器をもつ中国政府を脅すことはできません。

【QE2の本当の理由】
2010年のドル安からの、海外からの米国債買いのパイプの細りが、
FRBが$6000億(48兆円)のQE2〔量的緩和第二弾〕を行わざるを得
なかった理由です。米国債への入札が、不足したのです。

通貨の価値の面では、その国の債券の海外からの購入が減ることと
、その通貨が安くなることは同義です。念のために言えば、通貨交
換(円でドルを買うこと、あるいはその逆)は、どこにいても行え
ます。敢えて日本から行う必要はない。NYやスイス、シンガポール
、香港、ソウルで行っても同じです。

以上が、2011年8月第2集の、米国株のパニック的な下落の背景にあ
ることです。

◎原因が、米国債買いのパイプの細りであるため、
・ドル安、
・株価の暴落が、同時に起こったのです。

■3.回想(2):2006年以降

▼(5)2006年の転換点

10年で、地方で2倍に、州の大都市部や郊外で3倍に上がった住宅価
格は、2006年に今後10年は超えることがないだろう頂点をつけてい
ます。

(注)10年後が米国の、1974年以降に生まれた団塊ジュニアが、ほ
ぼ二軒目の住宅の買いに入る時期です。10年後から米国は第二の準
黄金時代でしょう。

▼(6)住宅関連証券の価格崩落的な下落
                  :2011年秋からの危機に至る重要事項:

2008年8月は、
・MBSやRMBSの、AAA格の証券が60%の価格に、
・BBB格は30%以下に下がったこと、からの金融危機でした。

それ以来、住宅ローンや、今問題の商業用不動産ローンに関係した
証券($14兆:1120兆円と米国債並み額面金額)の、流通市場は、
事実上、消滅しているのです。

米国の住宅ローンは、1年に約$1兆ずつ増え、$12兆と巨額です。

$14.3兆の米国債とほぼ同じです。住宅ローンの証券は、08年8月
から国有になった住宅金融会社、ファニー・メイ、フレディ・マッ
クの保証がついて売却されています。

【政府系住宅金融の、住宅ローン担保証券=デリバティブ】
ファニー・メイ、フレディ・マックは、零細な住宅ローン金融から
ローンの回収権を、$5兆(400兆円)買い取ってそれを証券化し、
保証をつけて、内外の金融機関や年金基金に売却しています。

住宅や不動産ローンを担保にした証券は、買い手に対し、毎年の配
当が必要です。ところが、ファニー・メイ、フレディ・マックは、
07年からの住宅価格の大きな崩落のあと、住宅ローンの貸し倒れ(
デフォルト)が多いため、それを払えない。これを政府が、公的資
金を注入して払っているのです。

【米国の$11兆の住宅ローンは政府負債である】
その構造は、政府が保証する国債と同じです。つまり、ファニー・
メイ、フレディ・マックが発行して売った住宅ローン担保証券は、
事実上、政府の負債である国債と同じです。

このため住宅ローン担保証券$5兆は、政府の国債$14.3兆に加算
し、$19.3兆と見なければならない。これで、米国政府の国債は
$19.3兆(1544兆円)に増えます。ここで、名目GDPの$14.7兆(
1176兆円:日本のGDPの2.4倍)を超えるのです。

[重要]
米国政府は、国債と事実上同じ保証が必要な住宅ローン担保証券(
MSB、RMSB)の相場下落が、米国債の危機(ソブリン・リスク)と
同じと認識しているはずです。まだ、米国債は下落していません。


直近は、米国債が、逆に株を売った資金で買われて価格が上がって
います。しかし、政府は住宅ローン担保証券という、次の地雷をか
かえています。繰り返しますが、住宅ローン担保証券($5兆)は
住宅価格が底打ちして上がらない限り、デフォルトは減らず不良債
権化が続きます。

【民間のRMBSやMBS:$5兆も・・・政府負債に近い】
次は、民間の投資銀行やヘッジ・ファンドが組成し、内外に売った

住宅ローンと、商業用不動産ローンの回収権を担保とするデリバテ
ィブ証券の、MBSやRMSBです。

この合計額も、$5兆(400兆円)でしょう。MBSとRMBSは、AAA格の
ものでも、60%の流通価格に下がっています。住宅価格、不動産価
格が上昇に転じないと、デフォルトが増えるためです。

流通市場で安く売れば巨大損が出る、それらの証券を、$1兆も、
緊急に買い、国内の主要な金融機関に公的マネーを与えたのが、米
国の中央銀行FRBでした。不動産ローンの評価損〔隠れ損失〕とそ
の予備群は、不動産の価格下落から見て、おそらく、全米で$5兆
はあるでしょう。

【補注:ユーロも米国と同じ】
同時に、統一通貨ユーロが、産油国やアジアから買われた資金を源
泉に上がっていた南欧不動産、及び英国を含む欧州の不動産も、米
国と同じ率で価格崩落します。

ヨーロッパや英国に行くと、アラブマネーの存在を肌で感じます。
特にスイスでは、課税を逃れるためもあって、アラブの王家のマネ
ーを運用しているプライベートバンクが多い。

結果は、米国とほぼ同じ金額の不良債権です。不動産関連ローンの
損は、米国と同じ$5兆でしょう。

米欧の金融機関がもつ不良債権を、IMFは(政治的に配慮し)約半
分の$5兆と見積もりました。

このため、欧州と米国の政府・中央銀行は三年で$5兆(400兆円)
のマネーを金融機関に注いでいます。この$5兆の対策が、緊急か
つ早期だったため、世界は1929年の大恐慌を、かろうじて、避ける
ことができたのです。

■4.資産査定(ストレス・テスト)でも分かっていない、
                 (主に)米欧の主要金融機関の含み損失の推理

BIS(国際決済銀行)のデリバティブ統計から、まだ世界で公表さ
れてはいない米欧の金融機関の含み損を推理し、定量的に示します
。

目的は、今後の、緊急性が高くなった金融と、経済を予測するため
です。信用恐慌が、再び2011年に起こるのかどうかを見極めるため
でもあります。

【気が付いたこと】
(1)デリバティブがかかった全体の金融資産の金額と、
(2)そのデリバティブの現在価値を、2008年、2009年、2010年とB
IS(国際決済銀行)のデータで調べ解釈しながら読んでいて、米欧
の金融機関の、発表されていない巨額の含み損($14兆)に気が付
きました。

●結論を言えば、米欧の金融機関とヘッジ・ファンドは、合計で、
今、$14兆(1120兆円)もの、デリバティブでの含み損を抱えてい
ます。

▼利益と損はゼロサムだが・・・

デリバティブの取引での利益と損は、合計では、ゼロサムです。A
銀行がデリバティブで1000億円の損をしたときは、その相手になっ
たB銀行(または金融機関やファンド)が1000億円の利益を得ます
。

例えば、ゴールドマンサックスがCDS(債権回収保険)の価格高騰
で1000億円の利益を計上したときは、保険料をもらってその債権を
保証した(例えば)AIG等が、CDSの価格高騰で1000億円の損をしま
す。従って、Aの利益はその相方のBの損であり、金融の全体では、
損と利益は相殺されます。

問題は、ここからです。

【(1)金融機関は、利益は早期計上する】
金融機関やヘッジ・ファンドは、「利益は早期計上する」性格をも
ちます。資金を預け、運用を委託する預金者、及び出資者は、自分
が預けた先の投資銀行やヘッジ・ファンドが損をすれば、自分のマ
ネーも減るので資金の預託を引き揚げるからです。

預金者や投資家がリスクを感じて、預かった資金が大きく引き揚げ
られれば、金融機関もヘッジ・ファンドも、資金決済ができなくな
って破産します。銀行での、預金取り付けのようになります。

このため、自行は財務内容がいいということを市場に示す必要があ
って、金融取引で上がった利益は、どこも早期に計上しています。
ヘッジ・ファンドも、高い運用利回りを示さないと、投資家がすぐ
資金を引き揚げ、解散を余儀なくされます。

【(2)一方で損失は、ギリギリまで飛ばす】
他方、金融取引で損をしたところは、その損を3ヶ月決算で計上す
ると、預金の引き出しや、投資の引き揚げが起こることを懸念しま
す。このため、損の表面化を恐れ、可能な限り、時には違法を承知
しながら、あらゆる手段を使い、損を飛ばそうとします。

これはトレーダーの基本性格でもある。自分が運用で出した大きな
損は、大きければ大きいほど会社に知られないように、隠そうとし
ます。

そのため、特に他人には、清算してしまうまで分からないデリバテ
ィブの売買での損の露呈を、時にはごまかしても、避けようとする
のです。次の取引で回復しようしてハイリスク・ハイリターンの利
益を求め、一層損を広げることも多い。その点、素人と何ら変わり
ません。

以上が前提です。まとめれば、金融機関やヘッジ・ファンドは、利
益は早期計上し、損失は飛ばす傾向を、抜きがたくもつということ
です。

日本の銀行の不良債権も、1997年の金融危機から、2000年代初期の
、100兆円という確定(当方200兆円とみています)までに、数年を
要しています。

貸した相手が倒産せず、貸し付けが継続中で、事業が続いていると
き(破産前)は、資産の査定と融資の損失の確定は難しいという事
情も、重なっています。今は返せなくても、2年後には返せるかも
知れないとも思えるからです。ただし、2年後に本当に返せなくな
ったときは、追い貸しと増えた金利で、回収できない損は大きくな
ります。

こうした金融機関の不良債権の性格もあって、金融危機からの、経
済の回復は長期がかかり、遅れます。日本は20年かかっても、バブ
ル崩壊後の経済は、回復したとは言えません。担保となった不動産
が、底打ちして再び上がらないと、担保割れが増え続けるからです
。

■5.米欧の金融機関の、未精算の損失が問題になる

08年9月の世界金融危機は、損失額が$5兆(400兆円:IMFの10年5
月推計)で、米欧の政府・中央銀行が、その損をカバーするために
注いだマネーが、約$5兆(400兆円)とされています。

金融危機後の三年で、$5兆の公的資金を注いで、米欧の金融機関
は、回復したのかどうか。今、まさに、ここが問題です。

米欧の金融機関の損失は、2011年8月以降の、経済と株価、及び日
米欧で、とりわけ重大な懸案として浮上しつつある「ソブリン・リ
スク(国債価格の下落リスク)」の勃発があるかどうか・・・これ
を見極めるために、必要です。

公表される、金融機関のバランス・シートでは利益を出し、皆、「
危機から回復した」となっています。まるで信用できません。

一般には知られていませんが、健全というプラスの色眼鏡で見られ
やすいドイツの大手銀行の自己資本比率は、3%くらいと、わが国
の8%よりはるかに低いのです。これが、PIIGS国債の下落(フラン
ス、ドイツ、英国の銀行がそれを持つ)が、騒がれる理由です。余
裕がないのです。

▼金融機関のバランス・シートが信用できない理由

世界金融危機以来、3年ですが、
(1)金融機関の資産の時価評価は、緊急停止されたままで、
(2)損失を飛ばしているであろう子会社(SIV)との連結決算はな
く、
(3)子会社は非公開なので、その資産内容は分からない。

その上で、公的マネーの$5兆〔400兆円〕の貸し付けを受け、それ
を、新興国、商品相場、株式で運用し、上がった利益だけが、計上
されています。

■6.2011年秋、及び秋以降の経済を読むために、肝心なこと

ここで、米欧の金融機関に、等しく、大きな未精算の損失が残って
いるとすればどうなるか?

・その未精算の損(推計$14兆:1120兆円)に、
・2011年8月15日、16日の、世界の株価危機(時価総額での下落が
$8兆:640兆円)も加わります。

2011年6月の、特に米欧の株価での、パニック的な下落前の、世界
の総時価は、$56兆5900億(4767兆円≒世界のGDPの1年分に相当)
でした。8月の第二週のほぼ2日間で、これが、13%も下げています
。暴落と言えます。時価評価の減少が、$8兆(640兆円)です。

10倍のレバレッジで買っていれば、元金(証拠金)の1.3倍の損で
、わずか2日で破産です。追い証(おいしょう)に追われます。

追い証が出せないときは、全取引が、証券会社から強制的に清算さ
れます。買った値段より、低い価格でも売らねばならず、より大き
な損が確定します。これは、個人・企業に拘わらず、同じです。

●合計は、推計で$22兆(1760兆円)の損ですが、政府・中央銀行
が、この3年間で公的資金を入れて支えた金額は、$5兆(400兆円
)です。

1360兆円も不足します。米欧の、全部の、金融機関の自己資本(推
計200兆円)の消滅どころではない。この損のため世界経済は、200
8年9月15日のリーマン・ショックとその波及より、大きな信用危機
(恐慌に近い)を迎える可能性も、高くなります。その意味で、11
年8月から9月は、近い将来に向かい、重大な時期です。

今、株価は、暴落と言えるくらい下がっています(昨日は、日経平
均は若干反発しています)。今後、下がった世界の株価が、誰かか
らのの大きな買いで、反発できるのか。あるいは抱えた損から追い
証や資金決済が必要になって、一層市場での売りを増やし、下げる
のか、この推移が肝心です。

一般に、株価が大きく下げた後は、高い信用倍率で積極的だったと
ころほど、証拠金等の元金に対して、大きな損失を抱えるため、損
失を清算する売りが増えて下がります。

こうした時大きく買いに向かえるのは、個人や金融機関、ヘッジ・
ファンドではなく、公的資金か、ロスチャイルド家のような、巨大
資産家でしかないのです。

▼上げは、米国債と日本国債と金

他方、米国と日本の国債は、相対比較で「安全資産」とされて買わ
れています。その根底の理由は対外負債がなく、逆に、対外純資産
が大きいからです。スイスと中国も同じです。

ドイツ、フランスが売られるのは、対外資産はあってもPIIGS国債
と住宅価格の下落による損が大きく、通貨は弱くなったユーロだか
からす。

このユーロは最終的に、PIIGSを切り離すか、あるいは解体しかな
いように思えます。解体とはユーロが消えるのではなく、ユーロ前
のEMSの通貨制度に戻ることです。そして新EMS〔または新ユーロ〕
の、マルク、フラン、ドラクマ、リラ等の交換比率を決めることで
す。

▼ゴールドは、天井知らずで高騰しているが・・・

金も、1トロイオンスで$1700を超え、円高の日本円でも、1グラム
で4563円(消費税込み)に上がっています。

2008年9月の金融危機のあと、1グラム3000円の頃、近くの人には、
国際通貨である米ドルの信用低下のため(原因は、米国の経常収支
の赤字が解消しないこと)、まず4000円に向かい、上がるでしょう
と言ったことを覚えていますが、4000円の大台を、あれよあれよと
超えてしまいました。今、金は米ドルの反通貨という性格が、世界
で認識されている感じです。

6000円になるのか? 短期では、自信がありません。ヘッジ・ファ
ンド等による、3ヶ月決算での利益確定売りがあるからです。上が
ったもの売ってしか決算の利益は出せないからです。長期では、(
多分、あくまで多分です)、上がる感じがします。

◎根拠は、ほぼ2011年から、米ドルの基軸通貨としての信用が、米
国の財政赤字の増加によって、毀損されているという認識が、世界
の人々に増えているからです。ユーロとドルは下がる。その下落リ
スクをヘッジできるのは、2011年はゴールドしかないという考えの
人も増えています。あらゆるものは、買う人が増えれば上がります
。

ただし、金を売買する世界市場は、金ETF(金投資信託)を含んで
も、プールのように大きな株式市場に比べれば、バケツです。売り
の不足から買えないことが多い。

今の金相場の上げは、かつての原油(今回は下落)のように急峻な
、仮需(一時保有)の増加が生むカーブであり、その点で、金ETF
の短期での売りが出やすく、リスク率も高い。(注)仮需は、短期
で買って、売ることです。

■7.デリティブの価値合計の減少は、
          金融機関とヘッジ・ファンドの未精算の損を示す。

BIS統計によれば、世界金融危機の3ヶ月後の08年12月で、デリバテ
ィブの合計市場価値は、$35兆(2800兆円:$1=80円換算)でし
た。

これが、09年12月は$21兆(1680兆円)に減り、10年12月では同じ
く$21兆(1680兆)です。08年12月に比べて、$14兆(1120兆円)
も減っています。(前稿の確認)
http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf

▼デリバティブの価値=流通価格

デリバティブの合計価値と言っても分かりにくいかも知れません。
株価のようなものだと思ってOKです。例えば、CDS(債権の回収を
保証する保険)の市場価格です。

1000億円のローンにかかったCDSの保険料率が3%なら、そのCDSの
市場価格は、30億円で売買されます。そのローンを借りている人の
信用不安から、同じCDSの料率が6%に上がったときは、3%のCDSを
買って持っていた人(投資の元金で30億円を支出)は、60億円で売
れるため30億円(元金に対し100%)の利益になります。

この逆に、そのCDSを60億円で買った人は、政府資金投入等で信用
不安が落ち着いて、その債券にかかるCDSが3%の料率に下がったと
きは、30億円の価値に下がるため、30億円の損します。CDSはこの
ように、ローンには関係のない第3者間を、金融機関の相対(あい
たい)で流通する証券です。

債権の回収は、PIIGS国債のように、払うべき金利が上がると、難
しくなります。銀行が、信用の低い人に高い金利で貸し付けた融資
の回収は、金利が高い分、難しいのと同じです。このため、融資の
債権の回収を保証するCDSの保険料は上がり、そのCDSを、どこかに
転売する価格(これがCDSの市場価格、言い換えればCDSの価値)が
、上がるのです。

【独立した金融商品として売買ができる】
CDSの売買は、金融機関やヘッジ・ファンド間で、相対(あいたい
)で行われます。CDSは、その保険の対象となった債権・債務(原
資産)の保有とは無関係に、第三者がかけることができます。第三
者間で、別の金融商品として売買ができるものです。

PIIGSの国債にも、日本から回収保険をかけたCDSを、いくらでも作
って売ることができます。買うこともできます。ただし、大きな損
をしても、その清算ができると認められた仲間内での売買です。誰
かが損の決済ができないと、相手(カウンター・パーティーと言う
)が損をするからです。公開市場はなく、金融機関やヘッジファン
ド間の売買です。

デリバティブ(CDSはその構造からデリバティブの代表ともされま
す)は、市場価格がついて、売買ができるという基本性格をもちま
す。

▼推理

このCDSを含む、デリバティブの市場価値が、$14兆(1120兆円)
も減ったままであるということの理由は、二つしか考えられません
。

(1)デリバティブのかかった、言い換えれば対象となった金融商
品・証券・債券が60%の量に減ったため、同じ料率(プレミアム)
でデリバティブをかけても、デリバティブの合計市場価値は60%に
減少した。
(2)デリバティブの対象となった金融資産・証券は、同じ金額だ
っが、デリバティブの市場価値(価格)が60%に減った。つまり、
デリバティブで大きく損をした人が出た。

対象となった金融資産・証券は、
・2008年12月$598兆(4京7840兆円)、
・2009年12月$603兆(4京8240兆円)、
・2010年12月$601兆(4京8080兆円)と、ほぼ同じです。(BISの
デリバティブ統計)

そうすると・・・上記の(1)はない。結果は、(2)のデリバティ
ブの価値減少で、金融機関に$14兆(1120兆円)の損失が生じ、飛
ばされて、含み損として残っていると推理できます。

同じ額の利益分は、2008年12月以降、2010年12月までの、2年間で8
回の決算で、
・その都度収益として計上され08年9月以降の巨大損を埋めたか、
・余剰分は利益の回復、同じ意味だが自己資本の急回復として計上
された。

こうして今、未精算の損失分だけが残っている・・・・

この$14兆(1120兆円)の損失は、2010年5月のIMF見積もり($5
兆:400兆円)の2.8倍です。2010年の5月以降、新たに加わった不
良債権はPIIGS債です。ここでほぼ、肯(うなづ)けます。

■8.結論

米欧の金融機関とヘッジ・ファンド、及び投資子会社を中心に、そ
れらが保有するデリバティブの中に、未精算の含み損が$14兆(11
20兆円)は含まれたままである。これが、相対(あいたい)でデリ
バティブを売買する、シャドー・バンキングの終着点だったと言え
る。

このうち、$5兆(400兆円)は公的資金の投入があった。ところが
公的資金は、あくまで貸付金である。資金繰りや迫った決済は助け
るが、利益ではない。いずれ返すべき負債である。$14兆(1120兆
円)の損失は、現在も残っているだろう。

●これに8月第二週の株価下落によって、金融機関の持ち株による
損$4.25兆(340兆円)が加わった。合計の損は、$18兆(1440兆
円)付近であろう。これは巨大であり、放置すれば、世界に信用恐
慌が起こる規模である・・・

欧州の銀行のストレス・テスト(資産査定:11年7月)の後、米国
のピーターセン国際経済研究所は、「欧州の資産査定の対象になっ
た90行は、今後2年のうちに$5兆4000億(432兆円)の、短期資金
を調達しなければならない。これは欧州のGDP合計の45%似相当す
る」と述べています(FT紙:11.08.09)。

この意味は、欧州の90行で$5兆4000億の損失があり、その決済は
、資金を入れねば破産するということです。これは、欧州90行だけ
で、です。ほぼ同じ規模をもつ米国の銀行も、欧州と同じ含み損(
$5兆規模)でしょう。

●以上からも、米欧の銀行、ヘッジ・ファンドの、デリバティブに
よる合計含み損は、$14兆(1120兆円)というのが状況証拠で裏付
けられます。つまり、株価下落を含む合計の損は、$18兆(1440兆
円)です。

問題は、この$18兆(1440兆円)を、米欧の政府・中央銀行が、20
11年秋~2012年と、埋めるため公的資金の提供ができるかどうかで
す。

$9兆、つまり金融機関の含み損の半分でも埋めれば、1年間の、米
欧の金融機関の資金繰りは、可能になります。3ヶ月当たりでも、9
÷4=$2.25兆(180兆円)の巨大額ですが・・・しかし公的資金
の追加投入は、半分の$9兆でも無理でしょう。

すでに、08年からの3年間の公的資金投入で、ECBとFRBの信用は拡
張しきっています、ECBやFRBが巨額の追加資金を出すなら、ユーロ
債とドル債は、海外から更に売られるでしょう。国内のヘッジ・フ
ァンドや投資銀行も同じ行動をとるでしょう。

皆、下がる通貨の債券を持ち続け、2%台と極めて低い利回りより
、10%、20%という、はるかに大きな為替差損をするのは、できな
いからです。今後の、ECBとFRBの信用拡張は、債券市場で、ユーロ
やドルの売りと認識されているからです。

米欧の政府は、この3年で、財政赤字が大きくなり、追加の国債が
発が難しくなっています。国債が売れ残って、金利が高騰し、ユー
ロ、ドルが更に下がる恐れが高いからです。米国で、国債の発行上
限($14.3兆)を上げることが、11年7月に、大きな政治問題にな
ったのはこのためです。

政府・中央銀行が、金融機関の決済に必要な資金を十分に入れるこ
とができなければ、金融のシステミックな連鎖危機が起こります。
A銀行が決済詰まれば、B行の損になり、それがC、D・・・と連鎖す
るからです。システミックな連鎖危機は絶対に避けねばならない。


●じゃどうなるか? 最後は、中央銀行(FRBとECB)がコンピュー
タを叩き、現金マネーを振り込むことです。

これによって、ユーロとドルは価値を失って崩落する可能性が高い
。円、スイスフラン、元が高騰するのか? 

2012年は、ほぼ明確に、根拠のない通貨増からのインフレでしょう
。政府・中央銀行は、金融のシステミックな連鎖危機を回避する、
マネー印刷を行うからです。

【後記】
当方、実際に金融機関のストレテストは、言うまでもなく、行える
わけもない。武器は、情報と論理と推理です。金融機関のバランス
・シートについては、08年9月以降、「こんな短期での急回復は、
日本の、1990年から2005年までの15年の経験に照らして、変だ」と
思い続けていたのです。

住宅価格(不動産)が下がっているのに、回復があるわけがない・
・・今回、デリバティブを調べ、分かりました。

欧州銀行の、ストレステストにあたった欧州の高官は、「資産査定
の結果は、あからさまには言えない。」と漏らしています。

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